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H.A.L.担当 川又利明




2006年12月9日
No.456 「小編随筆『音の細道』特別寄稿 *第57弾*」
         ■ The D.Dipole Code ■

          -◆- 作者前書き -◆-

2006年の話題の映画「ダ・ヴィンチ・コード」の原作を読み進むうちにスピーカー
と音波の不思議を紐解くストーリーを実際の試聴をフィナーレとして綴る小編随筆
にて解説しようと思い立った。ところが…

「感動の大きさは文章量に比例する」という私の悪い癖で、小編などと言えない
状況になってしまいました。冒頭の構成を同作品と同じ形式にて語り始める小編?
とは言えないボリュームのエッセイをどうぞお楽しみ下さい。





『The D.Dipole Code』     

                                 川又利明

【事実】

「音波とは空気の疎密波であって決して振動ではない」

空気にプラスとマイナスの圧力を与えることによって空気の分子の密度に変化が
生じ、それが毎秒数十から数万回の反復を繰り返すこと、言い換えれば空気中に
複雑な波形として観測される気圧変化の繰り返しが音波と言うものだ。

この音響工学の基礎と原理を親しみやすい解説で述べたものがある。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto06.html

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto07.html

それをスピーカーのデザインとして応用する原理としてまとめたものがある。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto08.html

具体的な製品として音波の原理から発祥したスピーカーデザインの具体例がある。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto55.html

そして、これらの音源とされるドライバーユニットが振動板(ダイヤフラム)と
磁気回路、ボイスコイルとダンパーという構成部品によるダイナミック型ユニット
で近代のスピーカーのほぼすべてが作られている。

この随筆で述べられる音響工学の基礎知識と、その解釈における作者の比喩、また
工業製品として作られるスピーカーの物理的な特徴はすべて事実である。


《主な登場人物》

ピーター・ディック …… 技術者であり数学者でもあり情報技術の専門家

ホルガー・ミューラー …… Manhattan Acustik社/現GERMAN PHYSIKS社の社長

私 …… ハイエンド・オーディオ・ラボラトリー主宰者

PQS402 …… GERMAN PHYSIKS社の新製品

【プロローグ】

German Physiks社の方針綱領(A STATEMENT OF POLICY)とは。

オーディオ業界に従事するほとんどの人や企業は、「可能な限り最も正確な音の
再現」という共通の目標を、少なくとも一定の価格制約の範囲内で追求している
ことを明言している。

誰もが業界最高峰を目指すことを主張し、多くはそれに成功したとも主張している。
このような表明に含まれる、各メーカーからの高忠実度技術を進歩させる真実の
コミットメントについて、そしてそのメーカーの製品を引き立てることの望まし
さについて、公正な判断を下すにはどうしたらよいのだろうか?

私達は、音楽を愛し、最高の音響再生を求める者には使命供述や技術的主張をも越
えたその先までを思い描き、一つの企業がどのようにして自社製品と顧客との関係
の中で自身を定義付けてきたかという事に注目を促すことが必要だと考えている。

弊社の企業として存在したその歴史の前半、ほとんどの期間を変換機設計の基礎
研究のみに費やしたという事実が、弊社の企業姿勢を多く語っている。それは市場
調査でもなく、ベンチャー資本をいかに集めるかでもなく、宣伝メッセージをいか
に作り上げるかでもなく、ただいかにして究極的により聴きがいのある鑑賞体験が
得られる優れたラウドスピーカーを作ることができるかに特化した研究だった。

さらに私達は、弊社が文字通り何十年にもわたって素晴らしい性能を維持し続ける
製品を設計・製作することにより、数千におよぶ顧客の皆様一人ひとりとの継続的
関係を構築するための企業努力を重視してきたことにも、極めて大きな意義がある
と考えている。

German Physiks社のラウドスピーカーは、従来のオーディオ製品のように、消費
されるべく設計されたものではなく、ましてや使い捨てられるべきものでもなく、
むしろ顧客の寿命が続く限り優れた品質を提供し続けることを目的としたものだ。

事実、German Physik社のラウドスピーカーの所有者が変わることは稀であり、
変わる場合には業界でも最も高い再販価格帯にて販売される。

一言で言えば、それは「恒久性を追求して製作された製品」なのである。

以下の章では、弊社がいかにして主要な技術革新を開発したか、そしてそれが皆様
のご家庭において、音楽を再生することにどのような意味を持つかを日本における
ハイエンドオーディオのトップディーラーであり多数の実績と経験を有する担当者
が実際の試聴と評価を最終章として語りながら説明していくものである。



【1】CORE TECHNOLOGY: THE DICK DIPOLE DRIVER

1985年当時、技術者であり数学者でもあり情報技術の専門家でもあるピーター・
ディックは悩める日々を送っていた。当時、音響工学に職業的には携わっていな
かったものの、ディックはスピーカーの駆動方式に見られる特定の根本的な問題に
魅了されていたのである。

その問題はやがて、数年にわたる数理的モデル化と物理的実験を経て、当時の最先
端を越えたと彼が決定付けたデザインを設計するに至ることになる。

1985年までに、ディックはその革新的な設計コンセプトに基づいて、非常に優れた
実用レベルの試作機とその装置の運用についての完全な理論モデルの開発に成功し、
少なくともラウドスピーカー製造業界では多少の関心を引き出すことが出来ると考え
ていた。

しかし、彼が北欧で連絡を取った多くのドライバーのメーカーのほとんどが、見下
した態度や無関心な態度を見せ、強い関心を示すところはなかった。

メーカーのリストも残りわずかとなり、ディックはManhattan Acustik社という
ドイツの中規模企業に電話をかけた。当初彼は、このドイツの企業が他社よりまし
な反応を示すとは期待していなかったのだが、意外にもManhattan Acustik社の
所有者であるホルガー・ミューラーは強い関心を示した。

ピーター・ディックが開発した試作品が、ミューラーが既に高く評価していた型破
りのトランスフォーマー技術者であるアメリカ人、リンカーン・ウォルシュによっ
て発明された、あの有名なウォルシュ・ドライバーから派生したものであることは
一目瞭然と言える。

ミューラー自身もウォルシュ・ドライバーの初期版を用いたオーム社のスピーカー
を所有しており、このデザインには未だ開発されていない膨大な可能性が秘められ
ていると感じていた。

そしてディックが持ち込んだ荒っぽい作りの試作品を調べ、詳細な設計メモを熟読
するうちに、ミューラーはその可能性の大半が既に達成されていたことに気がつい
たのである。

やがてミューラーはその設計の使用許諾に合意し、ここにディックの試作品を市販
製品とすることを唯一の目的としたGerman Physiks社が誕生したのである。

その後七年にわたり、この会社はその使命を追求し続け、全く収益をあげること
なく、かわりに親会社であるManhattan Acoustics社の運転資金から全ての費用を
得て、そのデザインにおける動作の増強可能な要素を忍耐強く抽出し続けた。

その七年の間にディック=ダイポール・ドライバーと名づけられた新しいデザイン
は洗練にまた洗練を重ね続けた。素晴らしい実験室測定結果に満足することなく、
そしてそこに留まることなく試聴テストを重ね、ミューラーは最も過酷な使用条件
のもとでも、ドライバーの絶対的な信頼性を確実にするために徹底的な寿命試験
プログラムを開始した。

同時に、ドライバーの工業デザインも外観の全体的な優雅さのみならず、工学技術
を通じて企業の革新へのコミットメントを強く表すものでなければならないとの
ミューラーの信念に基づき外観とデザインも美しさを追求された。

そして1992年、遂に最初の生産工程が完了され、第一号の完成スピーカーが
メディアと小売店に公開された。

新しいデザインの利点は即座に受け入れられ、一般購買層と批評家双方から絶大な
支持を得ることとなり、このドライバーを組み込んだDDDやラウドスピーカーは
間もなく世界最先端のスピーカーとして評価を得るようになった。

これが、ディック=ダイポール・ドライバー(THE DICK DIPOLE DRIVER)の出生に
まつわる背景だ。



【2】WHY THE DDD IS TRULY REVOLUTIONARY ?

なぜDDDが真に革命的なのか?

German Physiks社のキャビネットやクロスオーバーについて、そのスピーカーに
無比の高忠実度を実現させているのは弊社のドライバーだと言える。なぜ弊社の
ドライバーが類い稀な、比類の無い精度を持つのか。

DDDを含み、全てのラウドスピーカーのドライバーは、全体的な設計特性を反映し
たいくつかの基本的なカテゴリーに分類することができる。

そして、それらのカテゴリーはさらに基礎的な二つのグループに振り分けられる。
しかし、これは相互排他的なものではない。

第一の主要グループは「電気機械変換」、つまりオーディオ信号を表す電気的エネ
ルギーがどのようにして機械的エネルギーに変換されるかという手法に基づくもの、
第二のグループはラウドスピーカーの種類をその機械的エネルギーが、後にどのよ
うにして音響エネルギーに変換されるかに基づいて整理するものだ。

第一のカテゴリーは三つの基本設計に分けられる。

単純なピストン運動による振動板または発音要素を駆動する電磁力もしくは電気力、
二つの電極の間に設置された振動板に蓄積される電荷を変化させることによって大
気運動が生み出される静電気力、そして電位が当てられた時に一次元的に屈曲する
特定の材料を用いる圧電気力がある。

磁気の歪やコロナ放電調節など、他の変換の原理は折に触れ設計者達に用いられて
きたが、それらの変異的アプローチが市場的重要性を生み出した事はなく、よって
これらの三つの下位範疇は現時点で存在するラウドスピーカーのほぼ全てを網羅し
ていると言える。

現在販売されているスピーカーの95%が第一の区分である電磁力、つまり本質的に
ピストン運動駆動ということになる。

DDDも同様にピストン運動駆動されており、そこが従来設計と唯一共通している
部分がある。

これらの下位範疇のうち電磁力と静電気力はいずれも高いレベルでの線形性を達成
したが、圧電気力の使用は一般的には高品質の忠実度が要件ではないアプリケーシ
ョンに限定されてきた。

高忠実度を持つ二つのタイプのうち、電磁力こそが私たちの選んだ変換機なのだ。

静電気力は確かに多くのオーディオファンの間で珍重されており、それは中程度の
出力レベルにおける音質に基づいて評価されているのだが、その可動域と出力性能
においては固有の限界があり、やや低い電気効率による信頼性という問題もある。

さらに、このタイプは従来のアンプに合わせ難いという難点も抱えている。
研究者が皆そうであるように、私たちもこの問題については徹底的に調査を行った。

残念ながら、私たちは静電気力については本質的に非実用的であり、現状よりも
さらに大きく発展することは見込めないと結論付けざるを得なかった。

第二の基礎的グループは、振動板そのものの機械設計に関連するもので、通常の
コーン型およびドーム型ドライバーに代表されるピストン運動タイプ、リボン
タイプのダイナミックラウドスピーカーに加え全ての静電気力を含むフィルム型
及びリーフトランスジューサ、NXTやBESTといったフラットパネル型スピーカー、
ハイルドライバー、そしてジョーダン・モジュールやマンガー、ウォルシュ・ドラ
イバー、そして弊社のDDDに代表されるトランスミッション型ドライバーなどを
含んでいる。

過去、そして現在製造されている従来型のコーン型やドーム型ほぼ全てがピストン
運動型に含まれる。

この項目そのものはドライバーからの音響出力にかかる質量の優性効果、および
そのドライバーが大なり小なり準拠するピストン運動の理論モデルに帰するもの
になる。純粋なピストン運動であるこのモデルによると、ドライバーはちょうど
内燃ピストンエンジンのピストンのように、単一次元の範囲内で一単位として振動
すべきものとなる。

理想的には、ドライバーの振動板以外は完全に固定され、一切内部振動は起こる
べきではないが、実際にはこの条件が最低周波数以外で満たされることはない。

このような設計では、ドライバーの再生周波数帯域のほとんどを通じて、質量リア
クタンスが振動板の複雑な音響インピーダンスにおける主要構成要素となり、よっ
て質量負荷という言葉が使われる。

そして質量は追従性、またはドライバーのサスペンションの弾力性による負荷を
受け、質量と追従性の二つを合わせることにより、バネから吊るされた重りのよう
な共振システムを構成する。

このようなシステムは刺激を受けると一つの周波数を中心に振動する傾向があり、
予測的には、従来型ラウドスピーカー設計の大半がこのような振動を減衰させる
ことに注力することになった。

不幸にして、共振システムは、減衰されたものであっても音響再生にはあまり
適切ではない。

可聴音は12オクターブの範囲に及ぶが、強度な共振システムでもその共振周波数の
圏内でのみ機械的に有効なのだ。

そのようなシステムは、その周波数特性依存の有効性がゆえに必然的に帯域幅の
制限を受けるが、一方で過渡応答は、質量によって課せられる惰性と追従性に保存
された後、返されるエネルギーが原因で不可避的に劣化する。

こういったドライバーは、ホーンまたは音響レンズに装填されない限り、周波数が
上がるにつれ指向性が狭くなり高域再生が難しくなる。

この特徴は、アコースティック楽器はこのような形で音を発生することがほとんど
ありえないため、おそらく他の何よりも、ラウドスピーカーからの音が音楽的に
不自然に聴こえてしまう原因となってしまう。

質量負荷ピストンの限界に対応する通常の戦略としては、一つのスピーカーシス
テムにスピーカーユニットを二、三個を使用し、それぞれの共振周波数に合わせて
狭い周波数帯域に割り当てるというものがある。

多くの優れたスピーカーシステムが実際にこのパターンに沿って設計されているが、
このアプローチは根本的に欠陥があり、ほとんどの場合に妥協された過渡応答、
不規則な指向性パターン、そしてそれぞれのスピーカーユニット同士が完全に融和
することのない感覚に終始してしまうと私たちは考えている。

機械設計と動作という意味でのラウドスピーカーの第二の主要グループは、鼓膜ま
たは薄膜タイプで、ここには静電気力だけでなくリボン型やリーフ型も含まれる。

これらの特徴は皆、低質量で表面積の大きい振動板が、枠組みの上に広げられた形
で用いられるということだ。言い換えれば、ドライバーとサスペンションが同一で
あるということ。このような設計の場合、空気抵抗が最低周波数を除いて振動板の
音響インピーダンスよりも優位にあり、結果的に過渡応答と周波数帯域が優れたも
のになりうる。

しかしながら、これらの設計が通常高出力への対応能力に欠け、大幅な可動域を持
たないため、高域に留めるべきであり、低域のアプリケーションとしては全く非実
用的だ。さらに、この設計は概して屏風型の構造により、そのために一般家庭での
使用が困難となってしまう。

加えてこの設計は非常に異なる音響特性のためにコーン型スピーカーとの統一が
難しく、これを組み込んだハイブリッドシステムは通常残念な結果を生んでいる。

私たちのハイルドライバーはそれだけで論文が一本書けるほどであり、高出力、高
性能、広い再生帯域、良質なインパルス応答や低い歪みを持つ非常に精巧な設計だ。

唯一の欠点は1kHzという低周波数の限界と、従来型ウーハーとの組み合わせの必要
性になる。残念なことに、この組み合わせに関しては、ほとんどの試みが不適合に
終わっている。

そして最後にトランスミッション型ドライバーについて。これは最適化されると、
現在の音響再生技術では最高品質の総合的性能を誇る製品だ。

トランスミッション型は一般的に側面が直線で急角度になったコーン型を採用し、
比較的従来型のボイスコイルと磁石の組み合わせとなっている。

しかし、それが通常のコーン型スピーカーと異なるのは、振動板がその入り口で
しっかりと固定され、振動させられるというよりはボイスコイルの動きによって
屈曲されるという点だ。

音響伝播はコーン型スピーカーの場合にはギャップ中のボイスコイルの道筋に対し
て平行、というよりは振動板の斜面の法線に沿って伝わる。

振動板そのものは理想的には非常に高い対質量剛比を持つものだが、振動板は非常
に薄いものであり、その移動質量が異常に軽いものであるため、必然的に剛軟度が
生まれる。

よって、振動板は刺激を受けて容易に屈曲モードに入る。つまり、どのような周波
数においてもピストン運動としては作動しないということだ。

横断的波動の物理について詳細に説明することはさておき(それが本質的にはこの
設計における振動板の役割であるため)、プレートがアクチュエータによって屈曲
されると、アクチュエータ自身、この場合はボイスコイルへの振動板からの質量に
よる増加はごくわずかとなる。つまり質量負荷を受けるよりはむしろ、それは振動
板の大気負荷からの放射抵抗と振動板の剛性から来る負荷を受けることになる。

わかりやすく説明すると、ボイスコイルは振動板の表面上で衝撃波を発生させ、
その結果振動板が大気運動を発生させるというわけだ。

従来のコーン型のように克服されるべき質量による慣性モーメントはほぼ存在せず、
そのためリスニングポイントにおける電子運動から空気分子への極めて直接的な
変換が行われる。

実は、このシステムは、トランスミッション型ドライバーが似ていると誤解されや
すい外観を持つ、コーン型よりも、静電気力薄膜式スピーカーの方に近い。

弊社のDDDの移動質量は2グラム以下とほとんどのトウィーターよりも軽いながらも、
その排気能力は6 1/2"ウーハーにも匹敵する。よって、後者のコーン型振動板を
共有しつつも、その様式はこれ以上ないというほど異なっている。

高い排気能力、低質量、そして高加速度の組み合わせは、ドライバーがほぼすべて
の可聴帯域という極めて広い周波数帯で直線的に動作することを可能にし、おまけ
に優秀なインパルス応答とフラットな位相反応も可能にする。

これにより従来のコーン型に見られた限界を一挙に取り除くことが可能となった。

しかしながら信頼性の高いトランスミッション型ドライバーを大量生産することは
容易ではなく、このタイプのラウドスピーカーから最大限の能力を抽出するために
行われた設計プロセスもまた同様だ。

初めて市場に届いたトランスミッション型ドライバー、ジョーダン・モジュールと
ウォルシュ・ドライバーの二つはいずれも壊れやすく、電気的に非効率なだけで
なく、ある周波数で可聴ノイズを発生することで知られていた。1980年代後半に
設計を見直した際、私たちはもっと良い仕事をしようという決意を固めていた。



【3】OPTIMIZING THE TRANSMISSION LINE DRIVER

トランスミッション型ドライバーの感度を上げたことに伴い、磁力の増大と磁石
構造の改良が行われた。

幸いにも、私達にはトランスミッション型ドライバーの先駆的設計者達は使うこと
ができなかった設計ツールや磁性材料があったため、設計にあたって磁気的回路固
有の問題であった過去の制約を全て克服する適切な設計を、工学プロセスの比較的
早い段階で実現することができた。

現在のDDDは私達が独自に設計・製造した非常に強力な希土類磁石とアンダー
ハングボイスコイルを活用している。

感度そのものは、同様の外形寸法を持つ従来型のコーンスピーカーと同程度で、
磁気的回路の線形性(どのような力強いドライバーでもその総合的性能の中でひど
い不当評価を受ける要素)は業界内でも最高峰です。参考までに、ギャップ内の
磁束密度は約200万ガウスとなっている。

移動質量を制限するためにはギャップ内の伝導体量も最小限に抑えられなければな
らないため、電力操作は明らかにこの設計タイプでは問題となるもので、実際過去
の例では決定的な制約項目となっていた。

現在、私達は電力操作を従来型ウーファーと同様の方法、つまり熱を容易に消散さ
せる極めて大きいボイスコイルを用いており、それを完全にギャップの中に納める
ことで、ボイスコイルの熱を逃がす役割を担わせている。

他にトランスミッション型ドライバーに関連する設計問題はわずかながらも同様に
問題を含んでおり、その解決にはより徹底した研究を要した。

これは刺激された際の振動板の振動モードと関連するものになる。どのような種類
のドライバーでも、振動板からの出力は、電気信号の波形と全く同じに限定されな
ければならない。言い換えれば、振動板が「共鳴」と呼ばれるインパルス信号が
消えた後も動き続ける現象を起こさせたくはないのである。

本質的に完璧な振動板のコントロールと共鳴の防止は、振動板を伝播する周波数の
波長が、振動板そのものの外形寸法よりも大きければ簡単にできるが、波長が短い
場合は、全波が振動板の境界線からの反射の対象となり、波が複数の周波にわたっ
てゆっくりとエネルギーを失う過程で、その反射が返って再反射を発生させてしま
うために難しくなる。

プールの水面のさざ波が端までいって、反復するパターンで戻ってくるところを
想像して頂きたい。波打つ振動板の動きも全く同じで、その運動はかなりの期間持
続し、最終的には録音された情報を不明瞭にしてしまう。

リンカーン・ウォルシュやテッド・ジョーダンといった先駆的研究者達は当然この
問題を認識していたが、それを効果的に解決するための分析ツールや素材技術が
当時存在しなかった。その代わり、彼らは当時部分的にしか効果的ではなかった
ものの、試行錯誤の解決法で対応していた。

私達のアプローチはその二倍。

まず振動板が増加する周波数に伴って増加する伝播の速度を示すように設計しまし
た。そして最初の方法では除去できなかった振動板の中の残留共鳴をダンピングす
る効果的な方法を考案した。伝播の速度とは、音のスピードということ。

私達が振動板の素材として選んだチタニウムは全てのインスタンスにおいて極めて
高い伝播の速度を示すが、その傾向は本質的に、高い対質量剛比をさらに最大化す
る形状である斜面の、とても急な、薄いダイアフラムとなった場合特に強くなる。

そのような条件が満たされたとき、最高速度は大気中の音速の何倍にもなる時速
数千マイルにまで到達する。

興味深いことに、振動板の外形寸法がちょうど良く、チタンのダイアフラムが一定
の適用方法で取り扱われたとき、振動板を通る音のスピードは実際周波数に比例し
て増幅されるという、非常に望ましい状態になった。

この周波数依存の速度特性が持つ実務的帰結は、速度が増幅されると波動はひとつ
の周期でより遠くへ進み、周波数の増加に伴って必然的に減少する帯域を相殺する
ことができるため、波長が周波数に関係なく比較的安定する。しかし、なぜ周波数
に依存しない安定した波長がそれほど望ましいのだろうか?

理由は二つある。

第一に、波長は数オクターブにわたって振動板の高さよりも大きいままで推移する
傾向があるため、結果として発生する変則的な位相との反射を妨げ、波形全体を
ボイスコイルと直接、密接につなぐ波節として維持する。

DDDでは可聴周波数の半分近くが部分波長として再生され、波動説によれば、部分
的波長は反射されない。

第二の理由は一見目立たないものだが、重要性が低いということではない。DDDで
は波長が広い周波数帯にわたってほぼ同じ長さであるため、振動板の運動が従来型
ラウドスピーカーにとって致命傷であるドップラーによる歪みをほとんど発生させ
ることがないのです。

高周波数はもし波長が短かった場合に低周波数の上に乗ることはせず、低周波数は
高周波数の波長の最大でもごく少量に作用して活動でき、簡単に言えば、ドップ
ラーを発生させるメカニズムが存在しないのである。

この周波数依存音速の現象が現れる合計帯域幅はチタニウムフォイルの厚さに大き
く依存する。全ての条件が同一である場合、フォイルが薄ければ薄いほど、その条
件下で得られる帯域幅は広くなる。共鳴を非常に効果的に制御することが可能で、
DDDを人間の可聴限界である最高周波数とされている数値にあと半音に迫る19kHz
までの周波数で使用可能にした。

その設計の比類なき線形性に勝るとも劣らない付加価値がある。その付加価値とは、
ほぼ理想的な点音源全方向性放射パターンだ。

DDDは楽器のように、完全に均一な球形パターンで音を放射する。周波数応答と
フェーズ応答はどの聴取角度からも全く均一になり、これは二方向・三方向振動板
スピーカーやドーム型ラウドスピーカーだけでなく双極子静電気やリボンでもあり
えないことだ。

全方向性放射のメリットはいくつかある。まず、立体画像が認識されるような空間
再現が可能であり聴取制約がかなり緩和されます。さらに、ラウドスピーカーの
動きは、反射した音が直接出る音と音色的に合致するため、より予測可能となった。

そして、全方向性ラウドスピーカーの音は典型的な指向性の狭いスピーカーに比べ、
広い部屋の反射音により近似した減衰特性を持つ。要約すると、音響伝播は生の
楽器演奏を強く思い起こさせる自然さを備えている。

従来型のドライバーや特定の拡散器やホーンを複数用いてこのような放射パターン
に対するアプローチを行うことは可能だが、一切のデメリットなく全ての周波数に
おいて完璧な全方向性を実現したのはDDDとその創始者ウォルシュだけだ。これも
また、世界でもっとも完全に近いと言われる、ラウドスピーカーの特異な特性の
ひとつと言える。



【4】CROSSOVER AND CABINET DESIGN

従来型コーンスピーカーがそうであるように、DDDも背圧処理のエンクロージャー
を必要とする。

バックロードホーンのユニコーンを除き、DDDは全てのモデルで密封されたチェン
バーに搭載されている。これもユニコーンを除外するが、全てのシステムは一体型
ウーファーを搭載している。

試聴評価と楽器テストにより「キャビネット・トーク」、つまりキャビネットの
壁を通じた音の再放射が音響再生の現実感を損ない、スピーカーシステムの変換
された音の感覚を軽減させることに対して最も悪質な犯人であることが判明した。

キャビネット・トークを静めるため、弊社ではHawaphonという、無数の極細鋼鉄
ショットの小袋が詰まったポリエチレンの繊維でできた外延的ダンピング素材を
用いて非常に効果的にキャビネット・トークを減衰させています。

当初は軍および官庁での対偵察対策として開発されたHawaphonは50dB以上の構造
由来音波の広帯域減衰という実に卓越した数字を可能にした。Hawaphonを施した
ラウドスピーカーのエンクロージャーは不要出力をほとんど生成しない。

オプションとして弊社では樹脂含浸の双方向織炭素繊維をMDF核に接着した二重積
層に基づく究極のキャビネット構造を提供している。内部には炭素繊維の補強に加
えてHawaphonが施され、業界におけるキャビネット沈静化の新たな段階に到達した。

炭素繊維キャビネットは建造するにはかなりコストがかかるが、それによって得ら
れる性能の向上はわずかなものではない。

音響にほんのわずかでも妥協することを忌み嫌う方には、私たちは率直に炭素繊維
をお奨めする。German Physiks社のパッシブクロスオーバーは自社の設計ソフト
ウェアに基づいた広範囲に及ぶコンピューターモデリングの成果で、余談ながら、
業界では急速に参照資料として受け入れられつつあるようだ。

これは最高の部品のみを用い、部品によってはその原料費だけでも比較的廉価な
メーカー品のラウドスピーカーの小売価格を上回るものもある。さらに、弊社では
ウーファー部品にも専用のアクティブクロスオーバーを行っている。

その建造はデュアルモノで、チャンネルごとに個別の電源トランスも備えている。
細心の注意を持って設計され、非常に過剰に建造された弊社のアクティブクロス
オーバーは、大半のパワーアンプのサイズを超える大きさであり、その音はベール
を何枚も剥いだようにクリアだ。

全てのGerman Physiks社製ラウドスピーカーは同じDDD屈曲波ドライバーを用いて
おり、全てが従来型設計をはるかに上回るレベルでの変換能力を有している。

全てが群を抜いたダンピング特性を持ち、キャビネットは美しく仕上げられ、高品
質のパッシブネットワーク部品で構成されている。私達の数々の製品が他と異なる
のは、キャビネットごとに使用されるDDDの数、サブウーファードライバーの選定、
そしてクロスオーバーネットワークの複雑さだ。

より大きなシステムはより高い出力レベルを達成し、駆動表面積の広さと密封され
た空気の量の多さのため、より幅のある低音域レスポンスを実現する。

私達が用いるドライバーの固有製造コストが高額なため、設計の拡大も安価では
ないが、最高を求めるならば、これ以上ふさわしいものは無いと言える。

German Physiks社製のラウドスピーカーシステムで音楽を聴くという体験を我慢
する理由は何処にもない。

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

以上は主な登場人物であるピーター・ディックとホルガー・ミューラーとの出会い
から、DDDドライバー(THE DICK DIPOLE DRIVER)の完成までをたどったストーリー
であり、訳者は“私”ではないということでご理解頂きたい。

前述の説明で解ったような解らないような…、そんな謎解きというべき“私”なり
の解説で、次章からいよいよ私が語るGERMAN PHYSIKS PQS402のレポートが始まる。



【5】First impression

私が初めてGERMAN PHYSIKSのスピーカーを聴いたのは1999年のことだった。当時は
現在とは輸入元は違っていたが、当時の上位機種であったThe CARBONを当時のサウ
ンドパーク7Fに持ち込んで頂いた。

その以前よりNautilusによる球面波の再生音に馴染んでいた私は、DDDユニットの
もつ360度全方位への音波の放射に大変興味があった。しかし、当時の環境に
おいて大変残念ながら許容入力が他社スピーカーと比較してもいかにも物足りず、
大貫妙子のヴォーカルを普段と同じボリュームで聴きたかったにも関わらずDDD
ユニットがクリップしてしまい満足な音量として聴くことが出来ず、私としては
熱を上げて取り組むほどの感動をもたらしてはくれなかった。

そして、2001年現在のDyna5555がオープンして全く違う環境で再度The CARBONを
導入し、このフロアーのエアボリュームのルームアコースティックで大変馴染んで
くれたというのが下記のエピソードである。ちなみにこれは試聴室内ではなく、
私のデスクがあるオフィススペースでのことだった。
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/161.html

その翌年には同社のTHE UNICORNがお目見えし、DDDの浸透力を次第に私も評価する
ようになったものだった。
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/202.html

このように私にとってはGERMAN PHYSIKSは初体験ではなく、むしろDDDを鳴らすの
であれば一般的なダイナミック型スピーカーの音圧感を求める方向性ではなく、
GERMAN PHYSIKSにふさわしい環境と鳴らし方をしてやれば大きな魅力を
発揮するものという理解でいたのである。そして…

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

2006年11月13日、遂にPQS402がやってきた。W620xD750xH1560mmという大きさで
重量は172kg、しかし、このボディーは五つに分解して搬入セッティングするため
同価格帯の大型スピーカーに比べて運びやすいというのはありがたい。

この日を待ちわびて用意していたのが下記のシステムである。私が以前に聴いた
ことのあるGERMAN PHYSIKSの個性にマッチさせたいと思ったのが暖色系の音質が
素晴らしいVitusAudioだった。同時に、その配慮がフロントエンドにも共通して
Brumesterの選択となっている。詳しくはこちらで↓
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/322.html


      ◆ GERMAN PHYSIKS PQS402 inspection system Vol.1 ◆

Brumester 969 CD Transport (税別 \3,900,000.)
http://www.noahcorporation.com/burmester/cd969.html
     and
TRANSPARENT PLMM+PI8(税別\606,000.)
http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER
      ↓
Brumester 970SCR D/A Converter(税別 \4,400,000.)
http://www.noahcorporation.com/burmester/da970.html
     and
TRANSPARENT PLMM+PI8(税別\606,000.)
http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER
      ↓  
JORMA PRIME Interconnects XLR 1.0m(税別\930,000.)
http://www.cs-field.co.jp/jormadesign/primeprice.htm
      ↓   
VitusAudio SL-100(税別価格\2,800,000.)
     and
TRANSPARENT PLMM+PI8(税別\606,000.)
http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER
      ↓  
JORMA PRIME Interconnects XLR 7.0m(税別\3,450,000.)
http://www.cs-field.co.jp/jormadesign/primeprice.htm
      ↓  
VitusAudio SM-100(税別価格\4,980,000.)
     and
TRANSPARENT PIMM+PLMM(税別\606,000.)×2set
http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER
     ↓  
JORMA PRIME Loudspeaker cable 3-meter Biwire/pair (税別 \3,350,000.)
http://www.cs-field.co.jp/jormadesign/jormadesignmain.htm
     ↓  
GERMAN PHYSIKS PQS402
http://www.zephyrn.com/products/germanphysiks/pqs402.html

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

私は常々新製品の初日の音は検証に値しないと思っている。
過去の経験からも“burn in”の言葉通り、暖炉に火をくべて温めるように、また
エンジンもアイドリングによる暖機運転をしてから本領発揮という事例にもある
ように、オーディオシステムにおいても“burn in”は必要不可欠なものだ。

しかし、好奇心の誘惑には勝てず、ましてや分解して運べるのは良いのだが一旦
組み立ててしまうと簡単には移動できないのでスピーカーのポジションを決定する
ためにも一通りの音は出さなくてはならない。

いつもの標準的な配置はスピーカーの主軸の間隔が3メートル、スピーカーの高域
ユニットと私の耳との距離が4メートルという位置関係に先ずは置いてみた。
そして課題曲としているオーケストラとヴォーカルを先ずは聴いてみる。

「う〜む、Nautilusと似ているかも知れない。近すぎると中間定位が決まらず、
 話しすぎるとセンターのヴォーカルが希薄になる。そうだな〜」

と音質そのものよりもスピーカーのリプレースメントに集中して聞きながら輸入元
の担当者に指示して三人がかりで少しずつ動かしてもらう。いくらDDDが360度と
全方位指向性を有しているとはいえ、ボディーそのものの内角への振り向け角度に
よっても変化があり、最初が肝心とばかりにこだわっていた。そして…

http://dyna5555.cocolog-nifty.com/photos/secret/pqs402setup.html

結果的にはこのようにセッティングした。DDDの主軸は左右の間隔で2.8メートル、
ここでのNautilusのセッティングも左右トゥイーター間が2.8メートルであった
ことを思い出し、球面波を再生する同タイプの志向性を持つスピーカーにセッティ
ングの共通項が偶然にも選択されたことになる。

そして、ボディーの外形で左右両端の距離は3.7メートルとなった。最小でも3.7
メートルの横幅があればセットできるというもので、その代わり私の耳との距離は
DDD前面から3.7メートルとなった。奇しくもPQS402のボディーの両端と私の耳が
正三角形となる配置を聴きながら選択した。わずか20センチを当初の位置から縮め
て左右間としたが、これが本当にオーケストラの再生には好ましい結果をもたら
した。いや、むしろ…もう少し接近させても良いだろう。

全方位に放射するDDDは、それ自身の音源位置よりも相当に広範囲なステージ感を
発揮し、逆に離し過ぎない方が左右スピーカー間の中間定位に適切な音像の濃密さ
とフォーカスイメージをもたらすようである。

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

さあ、セッティングが出来たところで本格的な試聴は後日にじっくりと…、と思い
つつ納得したポジションでオーケストラを聴き始めると途中で止めるのが惜しくな
ってきた。しかし、この欲張りな性格がPQS402と付き合う上で重要な使いこなしを
私に教えてくれたのである。

「う〜ん、低域が細身で量感が足りないな〜」

輸入元の担当者曰く、自社の試聴室ではこのバランスで良かったと言うのだが…。
そのバランスとはDDDユニットとウーファーによる低域の調整というものだ。

これをご覧頂きたい。
http://dyna5555.cocolog-nifty.com/photos/secret/pqs402rearpanel.html

これはPQS402の後部にある入力ターミナルのパネルだが、つつがないところで
“High Frequency Level ”はフラットでよいのだが、“Reduce Low Frequency
  Level”と表示された赤黒のジャンパーにご注目頂きたい。

この赤黒のジャンパーケーブルをすべて取り外したとき、赤だけをショートした
とき、赤黒両方をショートしたとき、という三種類の特性変化を選択することが
出来るのである。下記をご覧頂きたい。

http://dyna5555.cocolog-nifty.com/photos/secret/pqs402woofer_jumper.html

輸入元が自社で鳴らしていたときは赤黒両方をショートしていたという。それが
このグラフの青い特性で示されたもので100Hz以下はほぼフラットとなっている。
この状態で聴き始めたときに私はオーケストラのバスが量感不足で弦楽器も荒れた
質感で聴こえてしまったのである。

そして、赤いジャンパーのみショートさせると60Hzから80Hzで約5dBのアップに
なり、グラフの赤い曲線がそれを示している。私はこれも試してみたが、多数の
スピーカーを扱ってきた私からするとオーケストラではまだ不足気味だ。

そこで、思い切って赤黒両方のジャンパーを外して60Hzから80Hzで約10dBのアップ
が得られるグラフの黒いカーブの特性を選択して聴き直した。

「お〜、これは素晴らしい!!」

オーケストラで聴きたい低域のホールエコーがゆったりと染み出してきて耳をくす
ぐるように弦楽器の質感に潤いを与えてくれる。このポジションで“burn in”を
していこう、と決定しエンハンサーCDをリピートさせる日々が始まったのである。



【6】Impression in orchestra

PQS402を導入してから三週間、どれほどのバーンインが必要なのかという最初の
ハードルは軽く通り越した感のある時間をかけて日々熟成していくPQS402を観察
しながら、今日はじっくりとオーケストラを聴きながら分析を試みた。選曲は…

定番であるマーラー交響曲第一番「巨人」小澤征爾/ボストン交響楽団第二楽章。
そして、セミヨン・ビシュコフ指揮/パリ管弦楽団 ビゼー「アルルの女」「カル
メン」の両組曲から1.前奏曲8.ファランドール10.アラゴネーズ15.ハバネラ

更に、指揮: ワレリー・ゲルギエフ/チャイコフスキー《くるみ割り人形》全曲
サンクトペテルブルク・キーロフ管弦楽団、合唱団
http://www.universal-music.co.jp/classics/gergiev/discography.htm

これらの選曲は過去の様々なシーンで多数のコンポーネントの評価に使ってきた
いわばテスト曲の定番のようなものなのだが、PQS402の有する独自の世界を聴いて
からというもの、とにかく音楽を聴いて楽しい!!

新しいディスク、未体験の曲を聴けば、そのまま楽しい…だけで終わってしまい
そうな魅惑的な音なので、ここは過去の多数の記憶との比較のためにということで
聴き慣れたディスクを選んでみた。

それは第一印象でも感じていたことなのだが、弦楽器の質感がこれまで体験して
きたスピーカーと根本的に違うのでは?ということだった。

弦楽器だけに関わることではないのだが、楽音の音階が大きく変化してもその質感
が一切変わらないのである。この当然のような見方が意外に見落とされているかも。

先ず、DDDの特徴として360°無指向性という外観からのイメージが誰にでもあると
思うが、最も大切なことはDDDとは限りなく低歪みのフルレンジドライバーである
ということだ。

PQS402と同様に片チャンネル二つのDDDを有するものとしてTrobadour80がある。
http://www.zephyrn.com/products/germanphysiks/trobadour_80.html

Trobadour80は円錐形となるDDDが漏斗状の広がっている底辺を対向させた構成と
なっており、DDDのダイヤフラムの内部が向き合う形で一定のキャビティーを共有
している。このTrobadour80のハイパスフィルターはジャンパーの差し替えによっ
て、-18dB/octのスロープ特性で160Hzから最低120Hzという選択が出来るようにな
っている。

そして、PQS402では二つのDDDのユニットは磁気回路を共有しているのか円錐の頂
点をつなぎ合わせる形で構成され、DDDのダイヤフラムの内部・後方のキャビティ
は外観から見られるようにTrobadour80よりも相当大きな容積を持っているので
ユニットのf0もその分低い周波数まで拡大されているのではと推測している。

確かにシステムのクロスオーバー周波数は220Hzとしているが、Trobadour80よりも
低域側に向けてのレスポンスはゆったりと延びているのではと推測している。

そして、Trobadour80の高域特性を20KHzとしているのに対してPQS402では21.5KHz
ということで、外観と原理は同じであっても設計の違うDDDが装備されているので
はないかと推測している。

いずれにしても200Hz前後から21.5KHzまでという超広帯域のフルレンジユニットと
して動作しているということになる。確か…、88鍵のピアノでは一番左の鍵盤では
27.5Hz、一番右の高音の鍵盤では4,186Hzというのが基音のレンジであり、同様な
基音として考えればヴァイオリンでは180〜2,000Hzくらい、コントラバスでは
40〜246Hz、木管楽器の最も小さなピッコロで590〜3,520Hzくらいとオーケストラ
を構成する楽器の音階の高低を基音で考えれば大体このようなレンジを持っている
ということになる。

そして、オーケストラに合唱が加わったとして、バスやテナーでの基音としては
80〜440Hzくらい、アルトからソプラノでは190〜1,050Hzくらいの周波数分布と
言われている。おおよそだが、前述のピアノの鍵盤で言えば両端のオクターブを
除く約5オクターブでオーケストラの楽音が構成されていると言うことになる。
もちろん、皆様もご存知のように基音だけではなく楽音には数次の倍音成分が多分
に含まれているということであり、また演目によってパイプオルガンや特殊な打楽
器を組み込んだ場合には違うが、ざっとの事例としてはご理解頂けるだろう。

◆“The D.Dipole Code”の謎解きの最初の一問が、200Hz以下から21.5KHzまでを
  DDDユニットでカバーしているという事実である。

皆様のスピーカーはこのレンジをいったいいくつのユニットで分割しているのだろ
うか。一般的なウーファーの上半分からトゥイーターの領域までクロスオーバーを
持たないドライバーが聴かせるオーケストラに私は心酔した。

「お〜、こんな美しいオーケストラは初めてだ!! そう、何かを付け足した感じ、
 ここがきれいだ、輝きがある、などの例えで人工的なプラスアルファがあるから
 ではなく、本当にすがすがしい自然な感じが癒し効果をもたらしてくれるようだ。
 私が知りえる歴代のハイエンドスピーカーたちとは全く違う世界があった!!」

特に録音年代の新しい《くるみ割り人形》では過去に体験した数々のスピーカー
とは全く違う質感であり、場合によっては過敏とも言えるテンションで弦楽器の
質感が刺激成分を多少なりとも含んでしまうゲルギエフの作品とは思えない展開
が随所に感じられた。これは素晴らしい!!

「ここにはPQS402とのマッチングにおいて私の直感が的中した組み合わせという
 自信が持てるぞ!!VitusAudioとJORMA PRIMEのコンビネーションは何と素晴ら
 しくPQS402を引き立てていることか!!」

JORMA DESIGNのケーブルを内部配線に使用しているVitusAudioが素性の素晴らしさ
を発揮している。DDDユニットの透明感ある再現性が両者の魅力を確実に引き出し
ているのが実感された。思わず笑みが浮かぶような演奏が続く。

冒頭の「序曲」から始まり第二場での「お茶(中国の踊り)」「トレパーク」
「花のワルツ」などなど、私の記憶にない弦楽器の滑らかな連続性と音階の高低に
一切無縁の共通した質感の維持、PQS402は明らかに長らくクラシック音楽を聴き
続けてきたユーザーに大きな感動をもたらすことは間違いないだろう。

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

さて、このようにオーケストラの各パートのあり方を考えると、PQS402の使いこな
しのポイントとも言えるウーファーのチューニングを思い出さずにはいられない。

聴きなれた各ディスクにおいて随所で演奏されるコントラバスのピッチカートの
響き、そして、ヴァイオリンの低い音階から立ち上がる倍音のボリューム感との
関連性。これらが下記のグラフと大きく関係してくるのである。

http://dyna5555.cocolog-nifty.com/photos/secret/pqs402woofer_jumper.html

周波数特性を変化させる道具、または手段が色々とあるものだが低域をブースト
するという概念は低音楽器の量感と共に質感をも変えてしまう場合が多い。つまり
昔ながらのトーンコントロールという手段では、150〜300Hzくらいの低音を増加
させることが最も標準的な演出方法として聞き手に変化の大きさを理解させるもの
だろう。ただし、同時に楽音の質感もブーミーな方向へと変質させてしまう。

上記のグラフを見てお解かりのように、PQS402では100Hz以下という限られた低域
にのみコントロールの手段を講じており、先ずは左右で4基の25センチ口径のウー
ファードライバーと20センチ口径の8基パッシブラジエターのチューニングで25Hz
でマイナス3dBという超低域まで、ほぼフラットな再生能力を持たせたということ。

そこに【4】で述べているようにGERMAN PHYSIKSが誇るネットワーク技術で並列に
接続された2個のキャパシターとインダクターとレジスターが各1個、そして直列の
インダクター2個というシンプルでありながら効果絶大の60Hz〜80Hzの極めて低い
共振点を作り出しているのである。

もちろん、これは電気的な操作だが、コンピューターによるモデリングからアクテ
ィブな25センチウーファーとパッシブラジエーターの裸特性にエンクロージャーの
容積などを含めて計算された高度なテクニックと言える。楽音の基音に直接作用し
倍音成分には極力影響を与えない低域の豊かさがオーケストラの演奏を一味も二味
もグレードの高いものへの誘導していく。

ただし、この調整法は聴き手の感性とルームアコースティックによって使いこなす
ものであり、すべて良しというものではない。後述するスタジオ録音では逆の意味
で演奏のジャンルと録音の特徴をバックアップするエピソードに遭遇したものだ。



【7】Impression in Vorcal

ヴォーカルはオーケストラと対象的なチェックポイントがある。オーケストラは
どちらかと言うとステージ感と広がりを求め、中間定位として“面”として展開す
る弦楽器群、“点”として音源位置を示す管楽器群と打楽器ということで、左右の
スピーカーが放つ音波を広い視野で捉え全体のバランスをチェックしていくものだ。

対象的にヴォーカルはセンターに定位し、その音像の輪郭表現や伴奏の多彩な楽音
とスタジオワークによって演出されたリヴァーヴ処理による独自の空間表現が相見
えるという、人工物でありながら自然な音場感を創造するというレコーディングの
テクニックが発揮されるジャンルである。

そして、そこに私が日頃から述べているエコー感の保存性という観点があり…

“音像は限りなく小さく絞り込まれ、輪郭を鮮明にしてフォーカスイメージを向上
 させることで周辺に無音部分とも言える、音像と明確に区切りが付けられるより
  多くの空間を確保する。その空間に録音に含まれるエコー感を発散させていく”

これはヴォーカルの録音だけではなく、すべてのジャンルに対して私が目指してい
るものだが、それを象徴的に聞き分けることができるのがヴォーカルなのである。

今度も私の定番とも言える曲から試聴を始めた。

大貫妙子の22枚目のアルバム"attraction"から5トラック目ご存知の「四季」
http://www.toshiba-emi.co.jp/onuki/disco/index_j.htm

noonのSmilin'
http://www.jvcmusic.co.jp/noon/

「えっ!! 予想よりもヴォーカルの口許がこんなに絞り込まれているとは!?」

先ず最初に驚くのはDDDは無指向性であるのに、なぜこんなにもヴォーカルの音像
がセンターにピンポイントで提示されるのか、という驚きである。そして、曲中に
ちりばめられるトライアングルやギターの高音階の再現性が何と見事なことか!!

そして、全方位に無指向性として音波を放射するDDDなのだから、一般的なスピー
カーのようにリスナーの方向だけに音波を放射するのではなく、周囲に均等に音波
を放射するのだから逆に音像はもっとふんわりと少しばかり大きく表現されるだろ
うと勝手に思い込んでいたのだが…

音源が点に近い2.5センチトゥイーターや10センチ程度のミッドレンジユニットが
作り出すヴォーカルの音像には、音源が小さければ小さいほど音像のフォーカスも
絞られてくるのではという既成概念があったようだ。

これほど精密な音像と定位感をこともなげにこなしてしまうPQS402、いや言い換え
ればDDDユニットの能力とはどこから来ているのだろうか。このくっきりした音像
と定位感の秘密はなんだろう!?

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

通常のスピーカーでは2ウェイであれ3ウェイあるいは4ウェイとしても、複数の
ユニットをクロスオーバーネットワークを使用して駆動する。そのためにクロス
オーバー周波数の前後で位相ズレが起こっている可能性があり、強いてはそれが
周波数レスポンスの微妙な変調へとつながっていく可能性がある。

DDDはわずか0.25ミリという極めて薄いチタン製ダイヤフラムを通常の磁気回路と
ボイスコイルによって駆動しているということは【2】でも述べているが、音声信
号の波形は極薄のダイヤフラムをベンディングウェーブとして伝播していく。

【2】ではベンディングウェーブという言葉を用いていないが、私は10年前に執筆
したこの随筆でその原理を述べているので参考にして頂きたい。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto40.html

一般的なピストン運動するダイヤフラムでは質量が存在するものを前後に運動させ
るので、慣性モーメントの働きから立ち上がりが遅れたりオーバーシュートして
完全に静止できなかったりと、ある質量を動かす際のエネルギーのあり方と実際の
挙動には電気信号との若干のズレが生じるものだ。

ところが、DDDの場合にはベンディングウェーブという動作原理からダイヤフラム
を位置的に移動し運動させるということがない。イメージとしては新体操のリボン
のように、薄い膜が波打つ運動を繰り返し空気の疎密波を直接発生させているとい
うことだ。この結果、200Hz以下から21.5KHzという超ワイドな周波数特性を持つ
フルレンジドライバーということになり、肝心なことは動作帯域中に一切のクロス
オーバーネットワークが存在していないということだ。

◆“The D.Dipole Code”第二の謎解き。DDDユニットはフルレンジ動作として
 クロスオーバーネットワークを持たないので位相ずれによる影響がない。

複数のユニットを駆動するスピーカーでは得られない鮮明で正確なフォーカスを
描くヴォーカルの描写力には、このように広帯域に渡り一切のネットワーク素子が
使われていないということが実際の演奏で私が体験したことのないヴォーカルに
おける理想的な質感を聴かせてくれた!!

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

それにしても、ヴォーカルの音像表現としてフォーカスイメージの鮮明さという
着目点にDDDの素晴らしさを感じた上で、口許の輪郭のあり方に驚嘆していると
別項目の発見が次々に私の記憶にチェックを入れていく。

「今までも数え切れないくらいのスピーカーで聴いてきた曲だが、こんなに歌声が
 透き通るように何のストレス、刺激成分、にじみというものがなく気持ちよく
 聴こえるのはどうしてだろうか!?」

輪郭表現というよりは、ヴォーカルの声質そのものが空気との浸透圧を等しくして
見えざるスクリーンに様々な映像を映写するように透明感が素晴らしいのだ!!

オーケストラの大編成かつ多様な楽器群でも薄々感じてはいたが、日本人の声質を
しっとりと聴くにつけて、その肌理細やかな声が音程の高低に関わらずPQS402の
センターに浮かび上がる情景に心揺さぶられる。いったいなんでこんなに耳に心地
よいヴォーカルなんだろうか!?

上記にベンディングウェーブという原理を述べているが、これをもっとビジュアル
なイメージで説明すると次のようになる。水面に一滴の水をたらすとその波紋が
同心円状に完全な円形を描いて伝播していく。この水滴の落下点をつまみ上げて
円錐状になったときに波紋の発生点が円錐の頂点になり、そこにボイスコイルが
あり円錐の表面をDDDのダイヤフラムとしてイメージして頂ければいいだろう。

つまり、DDDのダイヤフラムはピストンモーションによって、その位置に変化が
起きないということだ。そして、一般的なスピーカーはダイヤフラムのピストン
モーションによって前後に運動するのだが、そのダイヤフラムには実に広い範囲が
周波数送り込まれるという事実がある。

仮に100Hzと1000Hzの信号が同一ユニットに入力された場合には、ダイヤフラムは
一秒間に100回の往復運動をしながら、その一往復のプロセスの最中に1000Hzの
信号にも反応して更に細かく10回の前後運動を繰り返しているということになる。
言い換えれば毎秒1000回の往復運動をしているダイヤフラムは、その細かいサイク
ルを100Hzの振動の最中に同時に行なっているということになる。

さて、そうすると100Hzの100往復の半分はダイヤフラムが前方にせり出しながら
動いている最中に10倍の速度で反応している1000Hzの信号を同時に前方に送り出す
ことになり、ダイヤフラムが一方向に動いている最中に乗じた高い周波数の信号に
ドップラー効果をもたらし発生する音波の周波数を微妙に引き上げることになる。

逆にダイヤフラムが後方に引き戻される過程においても10倍高い周波数の信号を
出力するのだが、音源であるダイヤフラムが後退しながら前方に送り出す音波の
周波数を微妙に引き下げるという現象がドップラー効果として発生する。

この周波数の高低にわたる信号をピストンモーションで駆動されるユニットでは
必ず存在する現象であり、これを“変調歪み”と呼んでいる。DDDではこれがない。

◆“The D.Dipole Code”第三の謎解き。DDDユニットはダイヤフラムの前後運動が
  ないので“変調歪み”の元となるドップラー効果がない。

そうか〜、この透き通るような歌声はDDDの純粋さによるものなのか!!

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

しかし、聴けば聴くほど自然で淀みなく清々しいヴォーカルであることか。そして、
大貫妙子の「四季」でイントロでヴォーカルが入る直前に叩かれるトライアングル
の音に引き付けられる。こんな打音は聴いたことがない!!

トライアングルの金属の輝きが叩かれたあとに揺らいでいるように鮮明に響き、
それはひらひらと空中で揺らめいているように細かな表情の変化を見せる。
これほどまでに一個の打音の隅々まで見せてくれたスピーカーはなかった!!

この曲の後半で聴くことの出来るベルの音、クラベスの質感、どれをとってみても
私の記憶にないほどの鮮明さ。同じくギターやピアノの立ち上がりの何たるスピー
ド感か、そしてすべての楽音に見られる厚みというかエネルギー感の高まりという
か、言葉の表現が難しい質感の充実はなんなのだろうか。

それはヴォーカルや伴奏のすべてに言えることなのだが、楽音そのものの充実感と
共にエコー感の素晴らしさが聴き続けるたびに印象に残る。エコー感というとどう
してもトゥイーターの高域再生能力が何十キロHzまで伸びているとか、ダイヤモン
ド・トゥイーターだから、というようにユニットの高域再生限界が高いほどに優れ
たエコー感を有するものだろうと思っていたが、21.5KHzまで再生するDDDの音を
聴いてからはあっさりと過去の推測を裏切られる思いだった。

360度の無指向性だから余韻感が素晴らしいのだろう、というとそれだけではなさ
そうだ。DDDの隠された能力・魅力の要因はなんだろうか!?

下記の随筆でも述べているが、高域再生に関してトゥイーターのユニット数が多い、
搭載されているトゥイーターの個数が多いということは振動面積が大きいという
ことであり、一個の優れたトゥイーターが出しえない再現性が多数のユニットを
使用したスピーカーにあるという体験だった。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto20.html

一般的なトゥイーターの直径は2.5cmというものが多いが、ダイヤフラムそのもの
の面積としては個体差が多少あるだろうが、ちょうど500円玉と同じ面積となり、
2.5cm口径では約4.9平方cmとなる。ざっと2.2センチ四方の四角形と等しい。左右
チャンネル二個のトゥイーターでは約9.76平方cmだ。

この約9.76平方cmが一生懸命ピストンモーションを繰り返して、あの強力な高域を
再生しているのだから大変な仕事であり、目には見えないが高速かつ大きなスト
ロークで運動しているのがイメージできる。それだけ大きなストロークでは上記の
ドップラー効果もトゥイーター一個で盛大に発生しているだろう。

大体2〜4KHzから20KHz以上、ものによっては50KHzまで再生帯域を延ばしたという
トゥイーターが最近は多いのだから、前述のように高低両方の信号を一個で再生
するトゥイーターではドップラー効果による変調歪みが音圧の上昇とともに発生
しているということだろう。それがない、ということは既に述べたがDDDとはそも
そもどのくらいの振動面積があるのか? このカタログにも記載されていない数値を
私はメーカーに問い合わせた。

「えー!! 本当か!!」

21.5KHzまでを再生するDDD一台の振動面積はなんと!! 413平方cmですと!!

PQS402はDDDを4台搭載しているので、全体の振動面積は…二乗の変化になるので
おー!! 本当か!! 何と1651平方cmという巨大な振動面積を持つトゥイーターであり
ミッドレンジであり、そしてウーファーの仕事もこなしていることになる。

仮に2.5cmトゥイーターに10cm口径のミッドレンジユニットの振動面積を加算して
みても…、左右二台のスピーカーでこの合計4個のユニットの合計ではざっと166
平方cmしかない!! 正確にはピストンモーションしているということでの比較だが、
この対比では2.5cmトゥイーターと10cmミッドレンジユニットのユニットが共同で
ある一定の音圧を出力しようとしたときには、DDDの振動面積であれば必要な振幅
は何と10分の1で済んでしまう。ダイヤフラムの動作原理として、これほど歪み率
に貢献するリニアリティーの素晴らしさはないだろう!!

しかも、ベンディングウェーブという原理からも一般のスピーカーでは瞬間的な
入力信号の出力は時間軸に対して極めて短時間で音響出力が減衰してしまうが、
1台あたり413平方cmの振動面積をもつダイヤフラムの表面を音声波形が伝播して
いく過程では同様な音響出力を保っていくのだからエネルギー感が物凄いという
ことに実感として驚かされるのである。これは聴けばわかる!!

トゥイーターをインライン状に20個以上を並べて配置するということは水平方向の
指向性を拡大することにもつながるが、ダイヤフラムの振幅を軽減するという作用
が楽音の質感に重大な変化をもたらす。

◆“The D.Dipole Code”第四の謎解き。DDDは世界最大の振動面積を有する音響
  変換機として他に例を見ない驚異的なリニアリティーを持っている。

これが微小信号としての余韻感や楽音の解像度にこれほど貢献しているということ
であり、それはPQS402を実際に聴くことで証明されるだろう!!

                  -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

さて、マラソン試聴会でラストに演奏して大変好評だったこの曲をかけてみた。

ちあきなおみ/ちあきなおみ全曲集「黄昏のビギン」TECE32335
http://www.teichiku.co.jp/teichiku/artist/chiaki/disco/ce32335.html

冒頭のイントロは弦楽器だけ18秒間の演奏が続き、トライアングルの一打が入って
からギターの伴奏だけになり、そして ちあきなおみ が入ってくる。しかし…、
この人は歌が上手い!! 日本人としての情緒感がしっとりと心にしみこんでくるよ
うな、1959年に水原弘がヒットさせた原曲とは大そうな雰囲気の違いがあり、編曲
の上手さがアンプラグドの演奏をアコースティックに響かせる。

ギターとヴォーカルが1分50秒まで続き、そこからベースとバックのストリングス
が盛り上げるのだが、ここでベースのバランスが大きいことが気になった。そこで
【5】で述べた下記のジャンパーケーブルを差し替えてウーファーの調整をするこ
とにした。

http://dyna5555.cocolog-nifty.com/photos/secret/pqs402rearpanel.html

これによって起こる周波数特性の変化は前述のように60Hzから80Hzという領域で
あり、ヴォーカルでのDDDの動作には関係なかろうと思っていた。ところが…!?

http://dyna5555.cocolog-nifty.com/photos/secret/pqs402woofer_jumper.html

最初は赤黒のジャンパーケーブルをすべて取り外してオーケストラでのバランス
だったわけだが、そこから赤黒両方をショートして100Hz以下をフラットにした。

すると不思議なことに、最初に聴いた ちあきなおみ と音像の大きさが違うのだ!!
正確に言うと音像そのもののシルエットが小さくなったというよりは、口許から
発声したヴォーカルから周辺に拡散していくオーラのような余韻感がすっとなく
なっているようでヴォーカルがすっきり、あっさりと聴こえてくるのだ。これは?

60Hzから80Hzを中心とした変化のはずであり、ヴォーカルにはそんな低域は無関係
と思っていたのになんだろうか!?

私は思いがけない発見に驚き、これを追求しなくてはと実験をすることにした。
PQS402はバイワイヤー入力なので、DDDユニットへの接続を外しウーファーのみを
鳴らしてみたのだ!! すると…

「おー!! 220Hzがクロスオーバー周波数のはずなのにウーファーからヴォーカルが
 聴こえてくるじゃないか!!」

ちょうど ちあきなおみ が本来の歌詞をハミングで口をつぐんで歌っているような
声が何とウーファーから聴こえて来るではないか!! よし、それではジャンパーを
この状態で切り替えてみよう!!

赤黒両方をショートのフラット、赤いジャンパーのみショートで60Hzから80Hzで
約5dBアップ、赤黒両方を外してオープンにして約10dBのアップ。すると、どうだ
ろうか、ハミングしている ちあきなおみ の声がそれにつれてゆったりし量感も
段階的に増加していることがわかった。

左右のPQS402に搭載された25cmウーファー4基が、もしかすると左右8個の20cm
パッシブラジエーターまでもが ちあきなおみ のくぐもった声を出しているのか?

DDDのハイパスフィルターのスロープ特性は-18dB/oct。調べてみるとウーファーの
ハイカットフィルターのスロープは-12dB/octということだった。すなわち220Hzの
1オクターブ上の440Hzでマイナス12dB、更に880Hzではマイナス24dBながら中域の
信号が再生されてしまうということだ。

そして、DDDがいかに正確な再生をしているかという証にもなるのだが、上記のよ
うにDDDは電気的にはクロスオーバー周波数220Hzで-18dB/octでローカットされて
いるのだが、一般的なスピーカーの場合には下方に向かって-18dBの減衰特性で
ミッドレンジのユニットにも低域信号が含まれているということになる。そこにも
上記のドップラー効果が微妙に含まれている可能性があるだろう。

私は以前にもTrobadour40を下記のようにコーディネートしたことがあった。
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/348.html
結果として下記のようなシステムで納得できるシステムが完成した。
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/op-pho/tro40.html

これらの経験を通じて、DDDには独特なメカニカルなローカットフィルターの特質
があるようで、指定クロスオーバー周波数よりも下側は本当に音声として出力され
ないという性質がある。一般的なスピーカーユニットであれば、多少は低域がもれ
出てくるようなところがあるのだが、低域のレスポンスは正確に遮断されている
という実感がある。であるがゆえに低域の変化が克明に聴こえてくるのである。

他の歌手のヴォーカルも同様にウーファーだけで鳴らすという実験を数曲行なった
が、結果は見事に同じ。女性ヴォーカルは高い周波数で再生されているのだろうと
思いきや、PQS402では理論値通り? にウーファーからもしっかりと唇を閉じて歌う
声が聴こえてくるのである。そして、ジャンパーの設定によって同様に変化する。

このようにPQS402の左右両翼からわずかにもれ出るハミングがDDDが放射する鮮明
なヴォーカルに対して、歌手の周辺に陽炎のようなエコー感を追加しているのだ。

しかし、これが面白い!! 使い手の感性によっては、音量をあまり上げないのであ
れば、低域の量感をゆったりと補足し一種の演出効果としてDDDが再生する声に
独特のゆとり、温度感、浮遊感のようなものを提供してくれるのである。

これはDDDの再生帯域がウーファーの微妙な挙動を隠すことなく正確に自分の受け
持つ領域のみを出力しているということだろう。これは新発見だった!!

◆“The D.Dipole Code”第五の謎解き。PQS402の素晴らしさはDDDの正確な駆動力
  によってウーファーセクションの再現性を高めていることが確認された。


【6】で下記のような記述があった。

「Trobadour80の高域特性を20KHzとしているのに対してPQS402では21.5KHzという
 ことで、外観と原理は同じであっても設計の違うDDDが装備されているのでは
 ないかと推測している。」

これについては輸入元から「大変申し訳ありません。弊社のwebではTrobadour80は
20kHzとなっておりますが、これは間違いです。修正します。カタログに記載され
ているとおり、PQS402もTrobadour80も21.5kHzです。」という訂正があり、どの
製品に搭載されているDDDはすべて同一であるということだった。

PQS402で聴くヴォーカル、これは私にとって前例のない魅力となって記憶され、
DDDの魅力は完全なピストン駆動を狙ったNautilusとも違う禁断の聖域を見せて
くれた。



【8】Impression in popular music of studio recording

さすがに夜も更けてくると寒さが忍び寄ってくる。しかし、私の好奇心は熱いまま
で、最後の仕上げとばかりにスタジオ録音の激しい録音にも挑戦したくなった。
オーケストラやヴォーカルで惚れ惚れとする美しさを見せてくれたPQS402が果たし
て果敢なポップスではどう鳴ってくれるのか!?

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/440.html

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/447.html

手っ取り早い選曲ではあるが、上記のように名だたるハイエンドスピーカーの
チェックに使用した“Basia”「 The Best Remixes 」からCRUSING FOR BRUSING
(EXTENDED MIX)をかけてみることにした。

http://www.sonymusic.co.jp/Music/International/Arch/ES/Basia/
http://www.basiaweb.com/
http://members.tripod.com/~Basiafan/moreimages.html#remixes1

サンプリングかドラムマシンのプログラミングによって作られたキックドラムの
音だと思うが、この強烈な打音と左右両チャンネルを通じて放射される打ち込みに
よる鋭い打音の数々をリピートしてみることにした。

そして、各々のジャンパーの切り替え三種類でどのような変化が起きるか観察しよ
うと考えた。赤黒両方をショートのフラット、赤いジャンパーのみショートで約
5dBアップ、赤黒両方を外してオープンにして約10dBのアップという変化だ。

先ずは赤黒両方を外して約10dBのアップ。私が求めている音量ではパッシブラジ
エーターの共振点が露骨に聴こえてしまうのだろうか、これは量的に出過ぎるとい
うよりも容積の小さなエンクロージャーが災いしているのか、低音の中に独特の
テンションが張り詰めた感触が固体感を出しすぎるようでパンパンした質感で
お勧めは出来ない感じだった。念のために他のディスクでもエレキベースのパート
を試してみたが、音像が膨らみすぎてスタジオ録音の魅力であるディティールが
消滅してしまい、聞き始めてすぐに止めてしまった。

次に“Basia”に戻して赤いジャンパーのみショートで約5dBアップ。前回よりも
すっきりと低域の輪郭を描くのだが、質感がたるんでいる。ドラムの打音の瞬間に
パッシブラジエーターが共振しているのが直ちに聴こえてしまうので低域の打音に
一体感がない。このようなスピード感ある打音の繰り返しでは25cmウーファーのみ
の再生音とパッシブラジエーターの存在感が融合しないのだろうか。もういい…

早くこれを試したかった、と思いながら赤黒両方をショートのフラットにする。
すると…!?

「おー!! これだよこれ!! ひょっとしてIsisよりタイトな低域かも知れないぞ!!」

この曲で感動したIsisの33cm ノーメックス・ケブラーコーンウーファーの魅力は
もちろん健在なのだが、GERMAN PHYSIKSが誇るネットワーク技術がここでは光った。
赤黒ジャンパーを二本ともショートすると並列に接続された2個のキャパシターと
インダクターとレジスターが各1個、そして直列のインダクター2個がすべてオンに
なり、100Hz以下のダンピングファクターを強烈に引き上げるようだ。

この状態ではドラムの打音という瞬間的な入力に対しては音像の輪郭をくっきりと
PQS402のセンターでDDDの少し奥に定位させ、とても低域の音源が12個もあるとは
思えないような鮮明なフォーカスをずしりと響く低音でも発揮してくる。

次に入ってきたエレキベースでも弦を弾いた後の継続する響きにおいても音像を
膨らませることなく、音階を正確無比にトレースしていくのがわかる!!凄い!!

これは使いこなしということになるのだろうが、オーケストラを中心にクラシック
音楽を楽しまれるというユーザーには赤黒ジャンパーはすべてオープンを推奨する
が、ジャズやポップスを低音量で聴きたいという場合にも同じ状態でよいだろう。
むしろ小音量でラウドネスを効かせたような演出でスタジオ録音も楽しめる。

しかし、私のように結構な音量で鳴らす場合には、このジャンパーは前述のように
意識的にダンピングファクターを強化する赤黒ジャンパーを二本ともショートする
フラットポジションをお勧めしたい。実験的にボリュームを上げていったが、他の
スピーカーでは体験出来ないような一種ストイックな低域がリズム楽器のエネル
ギー感を増強しつつ、輪郭を維持しテンションを高めて打音のインパクトに爽快な
後味を残して展開する。音量によって変化しない低域の質感を私は始めて体験した。

そんな低域の素晴らしさはスプリンターの強靭な筋力を思わせつつ、体型は長距離
ランナーのようなスリムさでオーディオ的“体脂肪率”がきわめて低いのである。

そして、“Basia”のヴォーカルが入ってくる!!

「おー!! こんな“Basia”初めてだ!! 」

ヴォーカルの質感は散々チェックしたものの、一種人工的なエコー感とクリスタル
な質感が共存する“Basia”の声がなんともしっとりとして耳に心地いい!!

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto40.html

ベンディングウェーブの原理については上記の随筆で述べているが、ここに登場す
るBWT(マンガーユニット)は再生する周波数によって振動面積が変化する。
簡単に言えば、同じベンディングウェーブ理論でも高域になればなるほど振動する
のがダイヤフラムの中心点のみに縮小してくるのである。ここに指向性の問題が
あるのだが、DDDではどの周波数でも均一な振動面積を確保し、それは前述してき
たように位相ずれもドップラー効果による変調歪みもない。そして、振動面積の
並外れた大きさから得られる音響出力では振幅は微小であり、素晴らしいリニア
リティーを発揮する。

これまで解き明かしてきたDDDの謎が、ダイナミックであり忠実な輪郭を記録して
いるスタジオ録音の再生で極めつけの魅力を振りまいたのである。

正にオールマイティーといえるPQS402は確実に皆様の感性を魅了するだろう!!

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

この段階で『The D.Dipole Code』で述べたいことは一通り言い尽くしただろうか。
いや、試聴時間がもっとあり、更にたくさんの曲を聴けばまだまだ演奏に沿った
PQS402の魅力を語り続けることが出来るだろう。
それほど、他のスピーカーとは違っているということだ。

「ダ・ヴィンチ・コード」の原作に登場する主人公の一人、ロバート・ラングドン
という人物は“宗教象徴学”専門というキャラクターである。古代から伝わる歴史
的なデザインや文章などが、なにを象徴したものなのかを研究する学問なのだろう。

この段階で私はまだ読破していないが、数世紀も前の遺物を見て、そこに描かれて
いる文字や図形が何を象徴し意味しているのか。それは世界各地の古代文明や宗教
が歴史をさかのぼるにつれて発祥の由来を同じくし、かつ時代が繰り返されること
で各々の遺物による象徴の意味合いに関連性を持ってくるものだということが
「ダ・ヴィンチ・コード」の物語りを読み進むうちに私にも解ってきた。

一つの遺物が象徴するものは他の遺物との関連性を秘めており、それを解き明かす
ことがストーリーのバックボーンになっている。

私も数々のオーディオ“作品”を組み合わせ、分析し記憶するという仕事を通じて
それらどのように連係し絡み合い、音楽の何を象徴するために作られたのかが次第
にわかるようになってきたという自負がある。

言うなれば“オーディオ的象徴学”ということだろうか!!

冒頭の《主な登場人物》にあえて PQS402 …… GERMAN PHYSIKS社の新製品 と
記したように、この存在がすべての音楽ファンが求め探していた“音楽の聖杯”と
して『The D.Dipole Code』の結末に位置付けられるだろう!!

“音楽の聖杯”を捜し求める人はぜひH.A.L.を訪れるべきだろう!!


このページはダイナフォーファイブ(5555):川又が担当しています。
担当川又 TEL:(03)3253−5555 FAX:(03)3253−5556
E−mail:kawamata@dynamicaudio.jp
お店の場所はココです。お気軽に遊びに来てください!!

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