《H.A.L.'s 訪問記》


No.0007 - 2008/6/4

千葉県の港町在住 M.M 様-H.A.L.'s 訪問記

Vol.7「耳で美味しいもの舌で美味しいもの両方を堪能させて頂きました!!」

私のお得意様の多くは大変長きにわたりお付き合いさせて頂いている方が多く、
ふと考えてみると何年前に知り合ったかということをお互いに忘れてしまって
いるケースが多々ある。今回のM.M 様もそのお一人。そんなことをお尋ねする
と「そう言えば川又さんと知り合ったのは何年前でしたっけね〜?」と笑いな
がらおっしゃる。

そんなお付き合いのきっかけを探ってみるとヒントはここ↓にあった。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto16.html

1993年6月18日にイタリアのクレモナで初めて公開されたGuarneri Homageが
日本に紹介されたのが今から14年前のこと。

このGuarneri Homageは当時のサウンドパーク・ダイナの7Fに立ち上げたH.A.L.
にいち早く展示し、これを鳴らすために私はQRDを使用した環境作りを行い、
アンプやプレーヤーのマッチングはいかなるものかと研究を始めたものだった。

そんな時に他所でGuarneri Homageを購入され、いったいどのようにして鳴ら
したらいいのか、というご相談で初めて来店されたのがM.M 様だった。

当時脚光を浴びていたJEFFROWLAND Concentraは同社が初めて開発した上級機
のセパレートアンプのノウハウをつぎ込んで1ボディーにまとめた作品だった。

カタログスペックを見ると当時のJEFFROWLANDのパワーアンプMODEL 2の75W/ch
という出力に対して100W/ch 8オームというパワーは説得力があり、同じく
JENSENのライントランスを搭載しているということで甲乙つけがたいという
定評だった。

しかし、聴いてみなければわからないのがこの世界。そして、聴いているから
こそアドバイスができるのがプロというもの。Concentraとは本当のところは
どうなのか、セパレートアンプと変わらないのか違うものなのか? というのが
そもそもGuarneri HomageオーナーとなっていたM.M 様の悩みであり期待でも
あったものだった。問われた私は自分の耳で聴いた評価を素直に述べていた。

「ご予算優先であればConcentraは大変まとまった音質です。しかし、比較の
 対象を同社のセパレートアンプまで広げてしまうと話しは変わってきます」

ということで、私はスピーカーをGuarneri Homageに固定したままでケーブル
関係はCardasを使用し、JEFFROWLAND COHERENCE+MODEL 6とConcentraとの比較
実験をやったものでした。優秀なスピーカーはコンポーネントの変化に敏感に
反応します。そして敏感な耳と感性をお持ちの方は直ちに反応されるものです。

「えー!!こんなに違うんですか!!」

同じスピーカーが豹変する様を目の前で体験し、結果的に採用されたのは
JEFFROWLAND COHERENCEにMODEL 6 + BPS-6という構成でお値段は合計すると
ちょうど500万円ということになる。当時のJEFFROWLANDはここに↓に紹介され
ているので参考まで。

http://www.ohbashoji.co.jp/support/discontinued/

後にセット価格140万円と値上げされるが発売当時のGuarneri Homageはペアで
120万円というプライスだった。これは稀に見るアンバランスなのか!?

その後プレーヤーはどうするか、という選択ではESOTERIC P-0が、DACは遂に
Wadia 9へということで、更にスピーカーとの価格差が開いていくのだった。

ここで印象に残ったのが、その二年後に発表されたP-0からP-0sへという進化
に伴って、普通であればバージョンアップしてということなのだが潔癖症の
M.M 様はP-0を下取りに出されてP-0sを新品として購入されたということだ。

更にM.M 様はMaster Clock GeneratorのdCS 992とTimelord Chronosを、また
dCS Elgar plusを導入されフロントエンドの充実が図られていった。

そして、大切なことは、これらコンポーネントのアップグレードに関しては
その都度Guarneri Homageでの試聴という体験を元に選択されたものであり、
これらの過程からもM.M 様はご自分に嘘がつけない性格であるということが
わかる。そして更にオーディオの年表としてページを加えていったのである。

Guarneri Homageは確かにこれらのアップグレードに対して反応し、年々音質
が磨かれていったという事実にM.M 様は納得されていた。そして、いつかは
Nautilusか!?という思いを抱きながらスピーカー以外のコンポーネントは更に
進化し続けたのだが、この一時代の意図的なアンバランスというのは実は…、
現在の高度なシステムへの10年以上にも及ぶ長大な序章だったのです!!

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

2008年5月某日、M.M 様のご住所をwebの地図検索に入力すると、なるほど〜。
路線検索で自宅から最寄り駅までのルートを調べると所要時間は約二時間半と
いう表示が表れる。これはちょっと気合いを入れて早起きしなければ(^^ゞと
いうことで、M.M 様もお仕事の関係で日中の方が都合が良いということで当日
は出社前に訪問させて頂く事になった。

私は事前に定期券のSUICAに数千円をチャージしてこの日の用意をしていたの
だが、房総半島の突端と言えるM.M 様の住む街に次第に近づいていく車内アナ
ウンスで「ここより先の駅には自動改札がありませんので、SUICA・PASMOなど
はご使用になれません。お客様にはご迷惑をおかけいたしますが現金での精算
をよろしくお願い致します。」とのこと。まあ、いいか〜(笑)

沿線の景色を眺めたり読みかけの小説を開いたり、せっかく二時間以上もある
のだから一眠りできないかと思いつつ寝付けない時間を過ごしていると…。
車窓からの景観に珍しいものが見えてくるではありませんか。エコロジーの
時代になって風力発電の白く大きな三枚プロペラの風車がゆったりと回って
いるではないですか。それがひとつ、またひとつと次第に数が多くなり、都心
では見られない風景に思わず視線を奪われてしまいました。

M.M 様のお住まいは全国的に有名な漁港の街にあり、そこで生まれ育ち長らく
地元の生活を送りつつ、スキーとゴルフを若いころから趣味としておられる。
スキーの帰りに地酒でおいしいものがあったからと、もう何年間も来店される
たびにおすそわけを頂戴しており、事あるごとにお土産を頂戴し恐縮している。

また、電車では遠くとも自家用車で何回もお越し頂いており、車の方が全然
早いということで私の地元の抜け道をお教えすることもありました。そんな
M.M 様のお宅に思い切ってお伺いしようという当日も駅まで車で出迎えて頂き、
有名な灯台と太平洋を眺めてしばしのドライブも楽しませて頂いた。

私も過去に二回ほど車で来たことがあるのだが、学生時代にアルバイトを終え
てから友人たちと朝日を見ようということでやってきたことを思い出した。
青春ドラマの一シーンではないが、ズボンを脱いで深夜の波打ち際を大声で
叫びながら走り回っていたのだから私も若かった(笑)

何を叫んでいたのかは覚えていないが、同世代の三人の友人たちといっしょに
ハメを外してやろうという思いがあったのだろう。深夜の浜辺で走り回って、
砂浜でほのかに光る夜光虫を初めて目にして感動したことを思い出した。

星屑のように輝く夜光虫を両手ですくい取ると光は消えてしまい、手の中には
黒い砂だけという一種のはかなさが記憶に残っている。その海岸を30年ぶりに
車の中から見下ろして、シーズン前で閑散とした波打ち際に当時の思い出を
古い映画のように頭の中で映写していた。あの時のままだな〜(^^ゞ

webの地図で調べていたが、ぐるっと周回して頂き方向感覚もわからなくなっ
ていると、ここです〜ということで、いよいよM.M 様のお宅に到着した。
れっきとしたご実家があり、その敷地にオーディオ専用のひと部屋を増築した
離れのような小ぶりな一戸建ての目の前に車が止まった。男一人が趣味のため
だけに使っている室内は正に機能性優先ということで飾り気はない。

ドアを開けると、実はスピーカーの後ろ側だった。正面に回ってみると…

http://www.dynamicaudio.jp/file/080528/508.jpg

システムの全体像として最小スペースで効率よくレイアウトされているのが
印象的。そして、このIsisは国内初の展示品が私の所に入った時に深夜まで
試聴されて一発でご注文頂いた国内オーダー初というもの。

http://www.dynamicaudio.jp/file/080528/510.jpg

しかも、このIsisはMyrtle Cluster Burl仕上げというプレミアムウッドで
オーダーされたもの。私のところにある展示品はCurly Mapleのスタンダート
ウッド仕上げなので、実は私でもこの仕上げのIsisは初めて目にするものだ。

http://www.dynamicaudio.jp/file/080528/530.jpg

エレクトロニクスコンポーネントを正面から見るとこの↑ようになっている。
Project H.A.L.C.のH.C/2Bを三台連ね、その下のスペースを有効活用して最短
でのワイヤリングを意識したセッティングです。要所としては先ず…

http://www.dynamicaudio.jp/file/080528/524.jpg

ESOTERIC G-0RbはRELAXA2PLUSによってフローティングされており、中には
当然JORMA DIGITAL/SMBケーブルが仕込まれている。そして…

http://www.dynamicaudio.jp/file/080528/528.jpg

Project H.A.L.C.は直接載せるだけでアイソレーション効果を発揮するが、
このようにM.M 様のこだわりはJEFFROWLAND  JS32でCOHERENCEのボディーを
直接支持するというセッティングを採択していらっしゃる。さすがです!!

http://www.dynamicaudio.jp/file/080528/546.jpg

そして、ラックの裏側をのぞいてみると、これまた重厚なケーブルが妥協なく
使用されており、こればかりは見えないところが多いので後述のシステム構成
を早く見たくなってしまうことでしょう。しばらくお待ちを!!^_^;

http://www.dynamicaudio.jp/file/080528/542.jpg

ケーブルと言えば、ここにも妥協なくCardas Myrtlewood Blockが使われてい
ます。ただ、残念なことに…とM.M 様がおっしゃるのは、すべからくシグナル
パスのケーブルはPAD YEMANJAシリーズになっているのに、このスピーカー
ケーブルだけがDOMINUSであり、これがアップグレードできれば完璧という
ことなのですが、中々見つからないものでと悔しがっておられました。しかし、
こんなに太いケーブルでさえもMyrtlewood Blockの効果↓はあるのです!!

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/511.html

さて、足元から逆に上を見上げると徹底したQRDの使用がM.M 様のこだわりを
示しているではありませんか。この辺は後ほどのアドバイスのポイントにも
なってくるところです。

http://www.dynamicaudio.jp/file/080528/539.jpg

このようにM.M 様の現在のシステムをざっくりとご覧になるだけで、冒頭で
述べたアンバランスの一時代が一種の準備期間であったことがお分かり頂ける
ことでしょう!! では、現在のシステム構成の詳細をじっくりとご覧下さい!!


◆H.A.L.'s 訪問記-Vol.7 千葉県の港町在住 M.M 様システム構成◆

………………………………………………………………………………
ESOTERIC G-0Rb(税別\1,350,000.)
http://www.teac.co.jp/audio/esoteric/g0rb/index.html
               with
JORMA DIGITAL/SMB-SMB for Internal Wire(税別\88,000.)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/545.html
               with
SAP  RELAXA2PLUS(税別\110,000.)
http://www.yukimu.com/products/SAP/RELAXA2PLUS/relaxa2plus.html

        □Power equipments□
ESOTERIC PS-1500 MEXCEL + ESOTERIC 7N-PC9100×2(税別\1,600,000.) 
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/560.html
http://www.teac.co.jp/audio/esoteric/7npc9100/index.html
               with
PAD  T.I.P(Total Isolation Platform)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/107.html
               and
H.A.L.'s  Original Products“P-board”(税込み販売価格\68,000.)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/508.html
………………………………………………………………………………
                ▽ ▽ ▽

ESOTERIC 7N-DA6100BNC×2(税別\480,000.)→Wordsync-for ESOTERIC D-01×2
http://www.teac.co.jp/audio/esoteric/7nda6000/index.html
               and
PAD YEMANJA  DIGITAL BNC (税別\538,000.) →Wordsync-for ESOTERIC P-01

                ▽ ▽ ▽
………………………………………………………………………………
ESOTERIC P-01+VUK-P01(税別\2,500,000.)
http://www.teac.co.jp/audio/esoteric/p01_d01/index.html
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/576.html
               with
H.A.L.'s  Original Products“Z-board”(税込み販売価格\57,000.)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/BZ-bord.html
               with
PAD  DC-Power Cable for P0(with PLASMA)(税別\1,520,000.)
               with
Project H.A.L.C. H.C/2B (税込み販売価格 一台\548,000.)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/halc/index.html

        □Power equipments□
ESOTERIC PS-1500 MEXCEL + ESOTERIC 7N-PC9100×2(税別\1,600,000.) 
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/560.html
http://www.teac.co.jp/audio/esoteric/7npc9100/index.html
               with
PAD  T.I.P(Total Isolation Platform)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/107.html
               and
H.A.L.'s  Original Products“P-board”(税込み販売価格\68,000.)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/508.html
………………………………………………………………………………
                ▽ ▽ ▽

PAD YEMANJA  DIGITAL XLR×2 (税別\1,176,000.)  

                ▽ ▽ ▽
………………………………………………………………………………
ESOTERIC D-01+VUK-D01×2(税別\2,500,000.)
http://www.teac.co.jp/audio/esoteric/p01_d01/index.html
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/576.html
               with
Project H.A.L.C. H.C/2B (税込み販売価格 一台\548,000.)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/halc/index.html

        □Power equipments□
ESOTERIC PS-1500 MEXCEL + ESOTERIC 7N-PC9100×2(税別\1,600,000.) 
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/560.html
http://www.teac.co.jp/audio/esoteric/7npc9100/index.html
               with
PAD  T.I.P(Total Isolation Platform)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/107.html
               and
H.A.L.'s  Original Products“P-board”(税込み販売価格\68,000.)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/508.html
………………………………………………………………………………
                ▽ ▽ ▽

PAD YEMANJA  Interconnect/XLR 1.0m (税別\1,480,000.)

                ▽ ▽ ▽
………………………………………………………………………………
JEFFROWLAND COHERENCE  (税別\2,200,000.)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/109.html
http://www.jeffrowland.com/ClassicPreamps.htm
http://www.ohbashoji.co.jp/support/discontinued/file/coherence.pdf
               with
PAD  DC-Power Cable for COHERENCE(with PLASMA)(税別\680,000.)
               with
JEFFROWLAND  JS32 (税別\26,000.)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/542.html
http://www.ohbashoji.co.jp/products/jrdg/accessories/
               with
Project H.A.L.C. H.C/2B (税込み販売価格 一台\548,000.)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/halc/index.html

        □Power equipments□
ESOTERIC PS-1500 MEXCEL(税別\900,000.) 
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/560.html
               and
ESOTERIC 8N-PC8100×2 (税別\600,000.)
http://www.teac.co.jp/audio/esoteric/8ncu/index.html
               and
H.A.L.'s  Original Products“P-board”(税込み販売価格\68,000.)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/508.html
………………………………………………………………………………
                ▽ ▽ ▽

PAD YEMANJA  Interconnect/XLR 1.0m (税別\1,480,000.)

                ▽ ▽ ▽
………………………………………………………………………………
JEFFROWLAND MODEL 12  (税別\2,600,000.)
http://www.jeffrowland.com/ClassicAmps.htm
http://www.ohbashoji.co.jp/support/discontinued/file/model12-10.pdf
               with
PAD  T.I.P(Total Isolation Platform) ×2
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/107.html
               with
Project H.A.L.C. H.C/2B (税込み販売価格 \548,000.)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/halc/index.html

        □Power equipments□
ESOTERIC PS-1500 MEXCEL(税別\900,000.)+ESOTERIC 8N-PC8100(税別\300,000.) 
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/560.html
http://www.teac.co.jp/audio/esoteric/8ncu/index.html
               and
TRANSPARENT PLMM(20A仕様)×2(税別\480,000.)
http://www.axiss.co.jp/ftran.html
               and
H.A.L.'s  Original Products“P-board”(税込み販売価格\68,000.)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/508.html
………………………………………………………………………………
                ▽ ▽ ▽

PAD DOMINUS PLASMA BI-WI SPEAKER CABLE 2.0m (税別\3,050,000.)
               and
Cardas Notched Myrtlewood Blocks“Large single notch”(税別\9,800.)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/511.html
http://www.ohbashoji.co.jp/products/cardas/accessories/

                ▽ ▽ ▽
………………………………………………………………………………
Avalon Acoustics“Isis”(税別 \9,860,000.)
http://www.ohbashoji.co.jp/products/avalon/isis/
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/440.html
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/441.html
               and
H.A.L.'s  Original Products“B-board”×2(税込み販売価格\268,000.)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/BZ-bord.html
………………………………………………………………………………

凝り性というものはオーディオだけではない。「これ水出しのアイスコーヒー
です〜」ということで、香り高いコーヒーでM.M 様自らがもてなして頂いた。
コーヒーの味がわかる方は酒の味もわかり、そして音もわかる!!

上記のシステム構成で、それをどのようにセッティングしチューニングして
こられたのか、という現在の音質に関してもM.M 様の判断と選択によって作ら
れてきたものであり、それが果たして正しいベクトルの元に成長してきたのか
どうか、この日私が聴かせて頂くということにM.M 様も大層な期待と不安(笑)
の両方を持っていたらしい。それでは…、と試聴が始まる段階で更にM.M 様の
こだわりが私以上に展開していく!! というのは次の写真で(^^ゞ

http://www.dynamicaudio.jp/file/080528/547.jpg

M.M 様のシステムの音質を判定するにはM.M 様が決定した仕様に従わなければ
ならない。この写真のように照明をすべて落とし、エアコンも止める。

この状態でいつも聴いているということでした。時間とともにゆったりと七色
に発色を変えていく特殊なランプがP-01が乗ったラックのコーナーポストに
二つ置かれ、そのほんのりとした光だけがコンポーネントをわずかに照らし
幻想的な雰囲気が漂う。

見た目の空間の大きさを忘れさせてくれる演出であり、音場感がイマジネーシ
ョンの発達と同期して拡大してくれるというリスニングスタイルがいいです!!

この訪問記も回を重ねるごとに皆様にパターンがわかってしまうようで、先に
M.M 様から「川又さん、知ってのとおり私は交響曲はあまり聴きませんから」
と先にコメントを頂いてしまった。

私がいつもオーケストラから試聴を始めるというパターンなので、日頃のご本
人のセッティングよりも、M.M 様の判断でオーケストラ向きと思える配置を
意識してスピーカーのリプレースメントを中間的なところにしてあるという。
何から何までお心遣い頂きありがとうございました。<m(__)m>

そして、「川又さん、メガネも外した方がいいですよ!!メガネも音質に影響が
あって微妙にざわざわした雰囲気を追加してしまいますから。」私は「あっ、
はい、そうします〜」ということで、アドバイスに従うことに。

そして、ヘッドレストをわざわざ外して耳の後ろでの反射が起こらないように
したリクライニングチェアーに座らせて頂いた。
P-01とCOHERENCEのリモコンを両手に持たせて頂き、さあ試聴開始です!!

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

■マーラー交響曲第一番「巨人」第二楽章  小澤征爾/ボストン交響楽団

この曲を最初に聴くのは演奏全体で周波数特性でのバランスを見るという事が
とりあえずの目的。往診して最初に血圧と体温を測り聴診器を当てるという
初歩的なチェックを行うのと同じようなものです。

ここでつまづいてしまうと次の選曲で部分的な検証に進むことになり、逆に
大きな問題がなければ他のオーケストラの曲を続けていくというのがパターン。

さあ、どう出るか!?(^^ゞ

「あ〜、いいバランスですね〜。Isisのボディーに埋め込まれた二つの33cm
 ノーメックス・ケブラーコーンウーファーが発する低域というのは正にこの
 ような質感と量感を狙ったものですが、しっかりとオーケストラの土台を
 支えていますね〜」

第一印象としては及第点のスタートです。これは私が口にしたことではなく、
胸中でつぶやいたコメント。M.M 様にお出しする診断書はもっと診察してから
でないと断定的なことは言えません。慎重になることは当然のことです。

コントラバスのうなりは解像度をしっかり保ち重量感も十分。それにチェロや
ビオラが複雑なレイヤーを積み重ねても快適な分離感が心地よい。低域から中
域にかけての弦楽器のバランスが適切であり重心をきっちりと落としたIsisが
スピード感あるバスを奏でる。

往診のスタートとしては私が承知している音質としても上位クラスの良い質感
とまとまりであり、M.M 様のこれまでの取り組みが相当に高いレベルの再生音
として一曲目の出足を飾ってくれたというもの。いやいや、お見事です!!

冒頭の出足から数十秒間で帯域バランスには問題なしというパスを発行したが、
私はあることを発見していた。それを知らないM.M 様が第二楽章を聴き終えて
私に話しかけようとした寸前に、私はリモコンで2トラック目の第二楽章を
もう一度聴き始めたのでした。何かある? とこの時にM.M 様は気がつかれたの
かもしれません。じっと二回目の演奏が終わるのを待っていて下さいました。

「う〜ん、やっぱりそうだよな〜」

と、二回目のマーラーを聴き終えて私は直観で感じたことをどのように言葉で
説明して良いのかを考えあぐねていた。オーケストラにおける弦楽器は面と
して展開するが、管楽器は点として音源を認識し拡散していくエコー感の中心
に最も濃厚であり楽音の核と言えるものが存在する。スタジオ録音では、この
管楽器のように中空に様々な楽音を定位させ、楽音の中心部からエコー感が
拡散されていくという図式を私はイメージしてきた。

これをビジュアル的に発想しても、オーケストラの中心にいる指揮者のすぐ左
となりにコンサートマスターがいるわけで、第一ヴァイオリンの十数人は指揮
台のすぐ近くからステージの端まで観客に演奏者の右側面を見せながら並んで
いるわけだ。この二列縦列を客席から見ればヴァイオリンの音源は面として
感じられるという描写につながってくるものだ。

ただし、同じオーケストラでも協奏曲となると少し事情が違ってくる。
交響曲では弦楽器群は面としてステージを埋め尽くすように展開するが、協奏
曲というソリストがセンターに定位するオーケストラものでは弦楽器は程よく
センターを空けて左右に分かれ、ソリストの演奏を取り囲むように録音されて
いる。これはピアノコンチェルトでもヴァイオリン・コンチェルトでも同様な
傾向にあり、弦楽器は主役のソリストを包み込むようにして定位感をずらして
録音されているのである。このような見識を持っている私が感じたこととは?

さて、私はマーラーの交響曲を聴いていったいどんな違和感を感じたのか?

「中心から左方向に面として展開しているヴァイオリンが、ある音階とある
 強弱に差し掛かった時に、その余韻感が右側に異様に広がってしまう。
 それは一瞬のことなのだが定位感がずれるということではなく、ちゃんと
 弦楽器群としてセンターから左側の中間定位は感じられるのだが、特定の
 一部分のエコー感だけが右側のIsisの付近まで伸びていくというのは覚えが
 ないが…。でも、こんな細かい点を指摘する人も他にはいないだろうし…」

言葉にするのは中々難しいものだが、数え切れないほど聴いてきた曲だけに
その再生音は私の記憶の中で一種のテンプレートのように原型が出来上がって
いるので、これは…という相違点が見つかるとたちどころにブザーが鳴るしか
けになっている。ほんの一瞬なのだが本来あるべきはずがない右半分の空間に
どうしてエコー感が漏れ出ていくのか、ルームアコースティックのいたずらと
しか思えない現象が今後の検証をどう進めるべきかを早速私は考え始めていた。

しかし、前回のNautilusではクラシックしか聴かないというケースでの調整
だったので的を絞りこむことができたが、M.M 様は逆にヴォーカルものが中心
でクラシックはほとんど聴かないという方なので、最初のオーケストラだけで
今後の検証の方向性を決めてしまってよいものかどうか、という迷いもある。

であれば、ヴォーカルもので後ほどじっくりと聴き込んでみようということで
先にオーケストラよる課題曲を済ましてしまおうと次の二枚を聴くことにした。


■セミヨン・ビシュコフ指揮/パリ管弦楽団 ビゼー「アルルの女」「カル
 メン」の両組曲から1.前奏曲 8.ファランドール

前奏曲の弦楽器群だけによるアルコの重奏は大変重厚な響きでコントラバスの
重量感がオーケストラの底辺を支えているようで雄大な演奏が好ましい。日頃
はオーケストラを聴かないというM.M 様だが、チューニングの方向性には曲層
を変えても違和感なく追従する整合性があるようで見事としか言いようがない。

マーラーの場合とは弦楽器パートの使い方が違うのと録音のセンスも違うので
同様な違和感はこの曲では発見されない。というよりも、弦楽器群の重奏が
大変厚みのあるものであり、絶えず繰り返される主題の旋律が上記のような
違和感をチェックするには向いていないのかもしれない。

逆にM.M 様のシステムのまとまりが良いという質感を実感することになり、
前曲での印象が勘違い、錯覚だったのではと思えるほど爽快に楽しめるものだ。

そして、ファランドール。主題の旋律は同じであっても打楽器と管楽器が華々
しく展開するので印象が全く違う。打楽器も管楽器と同様に点としての音源
認識があり、その一点から放射される余韻感の広がりにさすが、という印象を
持ち始めた時だった!!

面として展開する弦楽器群の中で対照的な点として打楽器と管楽器を区別して
聴かせる分離の素晴らしさは文句のつけようがない。しかし、面として展開す
る左右の弦楽器群がエコー感としてオーバーラップする時の重なり方が!?
そう、私が日頃聴いているIsisとちょっと違うのではと感じ始めていた。


■チャイコフスキー:バレエ音楽《くるみ割り人形》op.71 全曲
サンクトペテルブルク・キーロフ管弦楽団、合唱団
指揮: ワレリー・ゲルギエフ CD PHCP-11132
http://www.universal-music.co.jp/classics/gergiev/discography.htm

これは1.15.16トラックという象徴的な三曲を聴いていく。前曲で感じた面と
点という対比においては更に分析には適した選曲。ただし、ゲルギエフの録音
では前の二曲のように弦楽器群の空間支配力はそれほど大きくなく、管楽器や
打楽器と比較して等分のエネルギー感で弦楽器も展開する。

「極小の音像に引き締まって展開する管楽器と対比して低音の打楽器の勇壮な
 響きは素晴らしい。ただし、その低域がダレてしまい音像としてあいまいに
 されることがないのがいい。」

ここではIsisの面目躍如たる演奏が各パートで展開する。ここでもクラシック
は普段聴かないというM.M 様のチューニングが決して的を外しておらず、的確
にシステム全体の帯域バランスを整えてこられたという実績が見受けられる。

オーディオシステムと対峙した時に、その時々の音質を更にもっと素晴らしく
するためにはどうしたらいいのか? と、際限のない追求姿勢を持たれている
ユーザーは現状否定の元に楽しみながらも細かい変化を与え、その変化の前後
で二者択一を行いながら自分にとっての良い選択というものを追求していく。

自分のシステムに与える変化の数によって学習量が変わるので、おのずと経験
則によって変化の兆候を予測できるようにもなり、二者択一というレベルも、
すなわち比較する二種類の音質も年々品位が高くなっていくものである。

M.M 様のお部屋を見てわかるように環境と電源などコンポーネント以外にも
相当な注力をされており、スキのない音質に仕上げてこられた努力は並大抵の
ものではないだろう。それは長きにわたるM.M 様との会話の中からも察する
ことができるものであり、どのくらいの変化量であれば反応されるか、という
過去の店頭における私の実験試聴でもM.M 様は敏感に反応されていたお一人だ。

いわば、独立独歩の鳴らし込みをされてきたM.M 様の腕前は相当なものである
という実感が聴き進むにつれて湧いてくるのであった。オーケストラの各論に
おける追求がM.M 様のためになるかどうか、私の検証と分析がM.M 様のお役に
立てるのだろうか、という思いもあるが、マーラーの交響曲で感じた違和感が
まだ思いに残っていた。もう、この辺でM.M 様の主流であるヴォーカル曲に
進んでもいいだろう、と新たな展開に期待して次のディスクを用意する。

とにかく、一曲聴くたびに照明を明るくし、私がリモコンで曲をスタートさせ
るたびに照明もリモコンでオンオフして下さるというM.M 様のこだわりに私も
恐縮しながらディスクを交換するのでした。(^^ゞ


■“Basia”「 The Best Remixes 」からCRUSING FOR BRUSING(EXTENDED MIX)
http://www.sonymusic.co.jp/Music/International/Arch/ES/Basia/
http://www.basiaweb.com/
http://members.tripod.com/~Basiafan/moreimages.html#remixes1

オーケストラは演奏全体のバランス感と雄大な広がり中における個々の楽音の
質感と存在感を総合的に判断するにはふさわしい。しかし、逆に鮮明に録音
されたスタジオ録音の各楽器が再生状態によってどのような変化があり、また
その原因を究明するにはポップス系の録音がどうしても必要になってくる。

今回も対照的なオーケストラの次に選曲したのはこれだった。そもそも↓この
Avalon Acoustics“Isis”Storyで最初に使った曲も同じものということで
いよいよスタジオ録音での試聴を開始した。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/440.html

私がP-01のリモコンでスタートさせると手際よくM.M 様が照明を落とし、聴き
なれたイントロが始まった。賑やかな高音階のパーカッションが左右のIsisの
軸上に展開し、センターではサンプリング音源によるドラムをタイトで重量感
ある打音として一定間隔で叩き出してくる。

ここでも私はリクライニングチェアーの上で上半身を前後に動かして耳の位置
を変えて再生音の質感の変化をチェックした。ゆったりとリクライニングを
倒した位置から前方に1メートル程前かがみに姿勢を変えると低域の質感が
新鮮になりスピード感も増す。

M.M 様のお部屋は築10年あまりということだが、壁は五重構造になっていて
遮音・防音は十分に配慮したという。しかし、そのおかげで室内の床面積は
一回り狭くなってしまい実質14畳程度という広さ。

ちょうど私の試聴室でのセッティングにおける左右スピーカーとリスニング
ポジションのトライアングルの半分くらいの距離感だろうか。その中でQRDを
多用されてルームアコースティックを少しでも改善しようという近年の努力の
跡が音質にも表れており、不要な定在波やブーミーな低域のだぶつきもなく
各帯域はスムーズにつながっていて好ましい。

しかし、室内の伝送周波数特性に大きな問題はないにしても、スピーカーと
耳の距離感によって低域の質感が変化してしまうという現象は起こりえる。
結論としては、確かに前方にかがみこんでスピーカーに接近した方が低域の
質感の鮮度は上がるものの楽音の輪郭は見えなくなる。

リクライニングを倒して後方に引いた方が音像が見えてくるので、こちらの
方がいいですね、と申し上げるとM.M 様も既に承知のことと返事があった。

B-boardに載せたIsisの頭頂部まで床からちょうど160センチ、そしてダイヤ
モンドトゥイーターまでが150センチという高さ。その下に左右四基の33セン
チウーファーが構成する目に見えない四角いスクリーンが存在するわけだが、
耳を前方に動かすとスクリーンいっぱいに広がったドラムとなって聴こえる。
しかし、M.M 様が普段聴かれているリクライニングチェアーの後方では不思議
にドラムの面積は半分以下に絞られて輪郭を感じられるようになってくる。

リクライニングを倒して頭が後ろの壁から至近距離になるのだが、そこには
QRDのAbffusorの上にDigiwaveが載せられた二段構造で設置され、耳の後ろで
発生する反射波を吸音・拡散させているのである。このように壁に接近した
耳の位置でも逆に低域の解像度が上がりノイズフロアーも低下させるという
セッティングの基本的なノウハウが生かされている。この構図は残念ながら
撮影するのを忘れてしまったが、QRDの使い方として頭の後ろというのは大き
なポイントになるということをお知らせしておきたい。

さて、低域の音像の描き方で納得しイントロではサンプリング音源の人工的な
響きの音質からチェロがアコースティックな伴奏を加え、ピアノが心地よく
空間を広げたところに“Basia”のヴォーカルが聴こえてきた。すると…

「う〜ん、バックの楽音に対して相対的にヴォーカルの音像が大きい?」

のではないかという印象が脳裏をよぎる。いや、低域の印象に比べて中高域の
音像の間隔が詰まっているような感じか? 再生される楽音の周波数の上下変動
に関しては全く問題なく、きれいに分離しているのだが…?

ただし、ヴォーカルのリヴァーヴは大変心地よく広がり、透明感があり他の
楽音との混濁もないので聴き疲れもせずに快適なのだが、もう少し何とか…。

M.M 様のセットアップの完成度が高いだけに惜しいと感じる要素がそこにある。
この原因は何か、更に聴き続けることで探り出していかなくては!!


■MICHAEL BUBLE/1.「Fever」WPCR-11777
http://wmg.jp/artist/michaelbuble/profile.html

この曲もヴォーカルには大層なお化粧が施されているのだが、プロデューサー
のセンスがいいのか違和感なく聴けてしまう。ベースのイントロで先ほど感じ
た低域の質感の変化を上半身を前後させて確認する。ドラムだけでなくベース
という連続する低域でも同様な質感の変化であり、やはり後方に引いた位置の
方が好ましい質感と音像サイズが確認できた。

楽音個々は大変透き通っている印象で美しく、そこに不満要素はないと言える。
しかし、透明度がある楽音が放つエコー感の末端、もしくは音像の周辺部が
隣り合う楽器とオーバーラップしているのではないかと、数多くIsisという
スピーカーで聴いてきた経験からイメージされるようになってきた。そうか〜
そういう可能性もあり得るか!!と、解決策のヒントがこのあたりから次第に
私の頭の中で形になってきたようだ。

「よし!!傾向がつかめてきたようだ、次の曲ではどうだ?」

またまた照明をオンオフして頂くというこだわりで、ディスクの交換を済ませ
何度目か覚えていないが姿勢を正して椅子に戻ってきた。


■MUSE 1.フィリッパ・ジョルダーノ/ハバネラ
http://www.universal-music.co.jp/classics/refresh/muse/muse.html

これはイントロでのフィリッパ・ジョルダーノ一人の声をオーバーダビング
してコーラスとして録音されたところが先ず気になって何回か聴き直す。

センターに定位するフィリッパ・ジョルダーノのメインヴォーカルに対して
確か四種類のハーモニーで多重録音されたバックコーラスが展開し、各々の
口許が微妙にパンされて左右に定位感をずらして録音されている。

このシステムの情報量と高品位な質感が各パートのコーラスも見事に再現し、
くっきりと鮮明な彼女の声が重なり合って展開する。えっ!! 重なり合って??

確かに複数のヴォーカルがほぼ同じ音量感で展開するのだから、多少は響きが
オーバーラップするのは仕方のないことなのだが、私の基準と記憶に照らし
合わせて密集しすぎているのではという思いが浮かんできた。

そして、例のズーンッと深く沈みこむようなドラムの音がセンターに表れる。

「おー!!このドラムの質感と重量感はいいですね〜!!」

疑問点を解決しなければと思いつつも、低域の再現性がきっちりと中高域との
分離を果たし心地よく響くのでついつい記憶のファイルの1ページを使っても
留めておきたい評価ポイントとなった。これはいいです!!

ハバネラ独特の周期的に盛り上がるフォルテの演奏箇所では盛大に合唱とオー
ケストラの残響感が左右のIsisの両翼の外側にまで飛散していく。いいです!!

遠くに聴こえるタンバリンとカスタネットの細かいリズム、ヴァイオリンの
弓が一斉に弦に勢いよくタッチダウンするような強烈なフォルテを繰り返し
ながら私は過去に聴いてきたIsisの再生音との相違点が何なのか、頭の中で
記憶のファイルを高速検索しながら聴き続けていた。このページだろうか?


■DIANA KRALL 「LOVE SCENES」11.My Love Is(MVCI-24004)
http://www.universal-music.co.jp/jazz/artist/diana/disco.html

今までのスタジオ録音は大編成、もしくは多数の楽器がちりばめられたものが
多かったが、いつものようにこの曲の出番がやってきた。楽器はみっつだけ!!

DIANA KRALLのヴォーカルと指の音。そして、クリスチャン・マクプライドの
ウッドベース。楽音の数はたった三種類だが、プロデューサーの腕の見せ所と
いう演出がなされている。

ウッドベースの音はほとんどノンエコーという感じてオンマイクで鮮明な質感
でクローズアップされた音像を描く。対照的にDIANA KRALLのヴォーカルと指
を鳴らす音は盛大に深いリヴァーヴがかけられているので、人工的でありなが
ら美しい音場感として空間に広々とした余韻感を提示する。絶対に同じ室内で
演奏したものを同時録音したら、こんな空間表現の大きな違いはあり得ないと
いう録音なのだが音楽として楽しく聴けてしまうのはプロデューサーの巧さ!!

さあ、冒頭からウッドベースと指の音がスタートした!!

「あー!!ベースの質感と音像の鮮明さはいいですねー!!」

と、内心で拍手をしている。それでは指を鳴らした音は!?

「きれいな減衰カーブで消えていくエコー感はさすがだね〜」

エコー感をふんだんに追加してありトゥイーターが活躍する指の音、まったく
エコー感のない低音、この両極端な楽音がIsisの上下で展開し見事に分離して
いるのはさすがというもの。そして、ヴォーカルが…

「うん、確かにきれいに広がり濁りもなくすっきりしている。これはこれで
 いいのだが…、これまでの伴奏楽器の数が多かった録音とは違いほとんど
 ソロヴォーカルのみの録音に近いということで彼女のプロポーションが…」

誤解のないように申し上げるが、これは大きな不満として感じられたことでは
ない。素晴らしい音質であることは承知の上なのだが、M.M 様が長年かけて
チューニングしてきた音のキャンパスにもっとふさわしいものがあり、まだ
それが発見されていないのでは…という可能性が次第に私の心を騒がせはじめた。

それは、これまでのM.M 様のチューニングに対するこだわりと細かさを承知し
ているだけに、私としても確証をつかむまではおいそれと下手なアドバイスは
できないという踏み込みにおける慎重さとも言える。

しかし、何とかお役に立ちたいという気持ちから次の曲を…


■ちあきなおみ/ちあきなおみ全曲集「黄昏のビギン」
http://www.teichiku.co.jp/teichiku/artist/chiaki/disco/ce32335.html

今までのヴォーカルものは海外の作品であり録音だった。以前から承知して
いる傾向として海外のヴォーカルの音像とエコー感のあり方は、どちらかと
言うとゆったりして伸びやかな空間表現をするが、歌手の口許はふっくらと
してグラマーな音像をイメージさせるものが多い。

同じスタジオワークで録音後に深いリヴァーヴを追加したとしても、マスタリ
ングの特徴もあるのか日本人のヴォーカルと比較すると個性の違いが大きいと
いうことが実感される。つまり、日本のヴォーカルの録音傾向は口許は小ぶり
に聴こえチャーミングであり、細身のボディーから発散するエコー感の美しさ
という違う魅力があると私は考えている。そこで最後に、この曲を持ってきた。

イントロのギターとヴァイオリンが流れ始め、ちあきなおみのヴォーカルが
聴こえてきた瞬間に私は閃いていた!!

「これはもしかしたら、いや!!やっぱりそうかもしれない!!」

と、思い立った私は高精度なM.M 様のセッティングに初めてメスを入れる自信
が湧いてきた。一通り聴き終えてからM.M 様にお断りして最も基本的なスピー
カーのリプレースメントをいじらせて頂くことにした。

先ず、M.M 様の標準とされているポジションがこれ↓

http://www.dynamicaudio.jp/file/080528/552.jpg

このポジションからわずかに左右外側に動かした位置でこれまで聴いてきた。
それを私は思い切ってこんな↓風に動かしてみた。

http://www.dynamicaudio.jp/file/080528/550.jpg

これで左右の間隔でざっと30センチくらい広がったことになる。
この目的と推測される変化をまったく口にしないで、まったく同じ音量で再度
「黄昏のビギン」を聴き始めた。すると…

「おー!!これですよ、これ!! 抜けてきましたね〜!!」

これをきっかけに今までの試聴で感じていた微妙な違和感と期待感の両方に
私としても突破口が見えてきたように思えてきました。

この最後のちあきなおみを聴いて、M.M 様の標準とされているポジションで
感じたことはヴァイオリンとギター、そしてヴォーカルの音像がスピーカーの
センターに集中するように定位していたことでした。

特に個々の音像の質感が濁っているということはないのですが、各々の音像が
同じ位置関係に定位して聴こえてしまうために前後の遠近感が不足したように
思われ、同時にアニメのセル画を二枚あわせにして見ていたように楽音と楽音
の隙間が感じられず、その結果として個々の楽器が発しているエコー感で鮮明
さが減少していたようなのです。

セル画という例えをしましたが、透明なセルロイドに絵の具で絵を描いたとし
て、その絵の具は水彩絵の具で水で薄めると半透明になり、その半透明の質感
が余韻感となって周辺に広がっていく要素だと想像して下さい。

そのようにして淡い部分と濃い部分が描かれている透明なシートを同様な違う
絵を描いたもう一枚のシートと重ね合わせて光にかざして見たというイメージ
です。あるいは、もっと極端に言えば連写したネガフィルムのわずかに違う
隣り合うフレームのネガを重ねて見たときのような感じでしょうか?

ヴァイオリンとギターとヴォーカルという違う絵が描かれた三枚のシートが
ありますが、各々一枚ずつは大変美しい画質でありM.M 様の高度なテクニック
によって素晴らしい色彩感を正確に再現しているのです。これが前提です!!

その三枚のシートを別々の空間に配置して眺めたいのですが、残念ながら以前
のセッティングではシートの半分程度が重なり合っていたという状況でした。

一枚のシートには中心に楽器が描かれており、その楽器が発したエコー感は
水彩絵の具が薄められていくようにシートの端の方にも余韻感を残します。

その薄められた色彩感の音楽的に美味しい部分が三枚共に重なっていました。
しかし、これを30センチ程でもスピーカーの間隔を広げることで、かろうじて
シートの重複していたところを引き離すことができたのです!!

このイメージが思わず私が「抜けてきた!!」と例えた所以なのです!!

そうすると、不思議な事にこの曲の後半で入ってくる伴奏のペースまでもが
変化して解像度が高まりました。この低域の変化は傍らにいらしたM.M 様も
気がつかれた様子でした。

一枚の透明シートに極めて高品位であり美しい絵を描くことを既に実践されて
いたM.M 様の力量には感服致しました。そして、私がこれまでの試聴で観察し
M.M 様のチューニングの方向性とベクトルのあり方を肯定すべき調整法の最後
のツメとして、たった30センチの変更ということがブレークスルーにつながっ
たようです。

ここで、急遽今までのテスト曲の抜粋を次々に聴き直しました。海外録音の
ヴォーカルもの、そしてオーケストラまでもが違う質感に豹変しているので
すから驚いたものです。ただし、この変化というのは相当に高いハードルを
数センチ引き上げるという高度なレベルであることを追記させて頂きます。

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

言わば水平方向のスピーカーのリプレースメントということで、更に品位が
向上したということをM.M 様にも認めて頂きましたが、徹底した調整という
こだわりの一面を軌道修正された方が良いでしょう、というアドバイスがもう
ひとつありました。

http://www.dynamicaudio.jp/file/080528/539.jpg
http://www.dynamicaudio.jp/file/080528/508.jpg

再度、この二枚の写真をご覧ください。M.M 様のお部屋はスピーカーの上の
天井が後方に向けて傾斜しており、部屋の中心から低くなっていくものです。

B-boardに載せたIsisの頭頂部まで床からちょうど160センチと前述しましたが、
その上の空間は残念ながらゆとりがなく、上のSkylineからは目測で60センチ
くらいの距離だと思います。もちろんSkylineがないよりはあった方がいいの
ですが、Skylineは全く吸音をしません。拡散のみです。

「音圧は距離の二乗に反比例して減衰する」ということは以前から述べていま
すが、音源から至近距離の壁面や天井には同じQRDでもAbffusorかDigiwave、
またはBADを推薦致します。天井に取り付けるのであればBADが良いでしょう。

そうすることでスピーカーに直近の天井からの一次反射を減衰させることで
不要な反射波が耳に届く前に整理されます。私は最初に聴いたマーラーの一番
で弦楽器群のエコー感が思わぬ方向に広がっていくという現象を体験しました
が、恐らく至近距離にあるSkylineとスピーカー両側面の壁からの二次反射音
の複合作用ではないかと推測するようになりました。

M.M 様のお部屋にはGuarneri Homageがまだ置いてあります。実は、何年間も
の間ヴォーカルを追求していくとフォーカスの出方はGuarneri Homageの方が
鮮明であったとおっしゃる。でも、それは無理もないことで、Isisと違って
Guarneri Homageの方が天井から距離があるので影響を受けていなかったとい
うことだと思います。この原理さえお分かり頂き改善して頂ければIsisの音は
更に進化することでしょう。

将来的にスピーカーの上の天井にBADを取り付けることを想定し、その効果を
試す意味でも現状でスピーカーの上にあるSkylineにフェルト生地をかぶせる
ことで高域の吸音性を追加するという実験をお勧めしました。ホームセンター
や生地屋さんで安価に求められるものであり、お金をかけずにチューニングが
出来る要素です。それで至近距離の一次反射音を減衰させれば、もっと音像の
再現性が鮮明になってくるはずです。ぜひお試しください!!

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

実は、東京へ戻る特急は一日に何本もあるわけではなく、それに乗れば東京駅
まで私の自宅からの所要時間よりも一時間弱も短縮して行けるというものです。

その時間ぎりぎりまで聴かせて頂き、車内で昼食がとれればいいと思っていた
のですが、M.M 様は何と…^_^;

「せっかくここまで来たのですから、いいものを食べて行って下さい〜」

ということで、再度車で連れて行って頂いたのは漁港の目の前にある料理屋
さんでした。注文は私に任せてくださいというお言葉で、魚は金目鯛とな!!

金目鯛の刺身、サラダ、フライ、漬け、という品々で、私は金目鯛の刺身など
は生まれて初めてのもの。今まで地元のスーパーで金目鯛と言えば干物だけし
かないわけですから、無理もないことか。また寿司屋でも金目鯛というネタは
お目にかかったことがなかったようです。

深海魚に属する鮮度が落ちやすいデリケートな魚なのでしょう。これはここで
しか味わえないものであり私も初体験というものでした。

刺身…「あ〜、しっかりした食感で肉厚で臭みもなく風味抜群。美味いな〜」
*このお店ではワサビもいいが醤油に一味唐辛子がお勧めということでした。
 でも、両方ともおいしかったー!!

サラダ…「刺身を胡麻ダレで野菜と和えたもの。これはいけますね〜」

フライ…「揚げると白身がプリプリして風味が増しますね〜、美味い!!」
*このお店オリジナルのポン酢がお勧めということでしたが、私は塩で頂きま
 した!! 沖縄の塩だと言っていましたが、これがまた素晴らしい!!

漬け…「自家製の漬けダレに漬け込んだ刺身ですが、これで食べたご飯は最高!!」

いつものようにご飯もおかわりして大満足!!
何だかオーディオよりもハイテンションになってしまいましたが、この年に
して初体験の美味は生きてて良かった〜(笑)という感動の大きさでした(^^ゞ

M.M 様には試聴の時間よりも私に気を使って頂き恐縮しております。さすがに
国内有数の漁港ということで都会では味わえないものがあったのですね〜。
ありがとうございました。<m(__)m>

夕方になって会社にたどり着くと早速M.M 様からメールが届いていました。

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

 川又 様

今日は大変お疲れ様でした。
また遠いところをお越し頂きましてありがとうございました。

スカイラインの効果についての指摘は自分にとっての盲点でした。
この部分については今後いろいろと試してみようと思います。

音像のフォーカスの点は現システムの最重要問題であったわけですが、
なかなか改善の糸口が見つからない部分でありました。

これから先、川又さんによる自宅システムの実態に即した具体的なアドバイス
が得られるというのは心強い限りであり、また、今回の川又さんの企画の最大
の利点であると実感しました。

それから今日は事前に、川又さんがだめだと思ったところは遠慮なく洗いざら
い指摘して下さいと言おうと思っていたのを忘れてました。(^_^;)

今日の話の中に出てきたこと以外に感じられた問題点を控えておいて頂けると
ありがたいです。

次回ダイナにお邪魔したときは川又さんにお聞きしたいことだらけになりそう
ですがよろしくお願いいたします。

またいつかお魚を食べにきてください!!(^。^)
今日はありがとうございました。

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

こちらこそ、ありがとうございました。拙いアドバイスでしたが、実際に私が
Isisの高さとGuarneri Homageの高さで声を出してみて、Isisのトゥイーター
の高さで発した声には天井から降り注いでくるような反射音があったことで、
音源と天井の関係がご理解頂けたのではないかと思います。

ルームアコースティックの現状とは、あの通りなんです。
その基本さえご理解頂ければ何よりだと思います。頂戴したメールで述べられ
たように、同じ環境で同じ音を聴かせて頂くことが最も重要なことです。

昨日食べた美味しいものを言葉や文章で人様に伝えようと思っても無理なこと
です。一つの味と音を理解するためには同じものを食し聴かなければだめです。

その意味では今回M.M 様のシステムを聴かせて頂いたことは共通の体験であり
私の記憶の中にしっかりとアドバイスの根拠が出来上がったわけです。
今後は店頭でお話しするときにも具体性のあるご提案ができると思います。
それが何よりのことでした。

耳でおいしいもの、舌でおいしいもの、この両方を堪能させて頂き今回の訪問
は大変有意義であったと思います。ありがとうございました。<m(__)m>

この訪問記は原稿の段階でご本人様に確認して頂き、ご了承のもとに公開させ
て頂いております。後日の電話でM.M 様から頂いた一言。

「川又さんが手直ししたIsisのセッティングですが、あれから聴き込んでみて
 やっぱりこの方がいいと実感しました。本当にありがとうございました。」

という生の声を頂戴しました。こちらこそ、ありがとうございました。
お礼を申し上げるのは私の方でございます。

私が訪問先で先ず最初に観察するのはルームアコースティックです。

次に、その環境の中でスピーカーとリスナーの関係が正しいかどうかをチェックします。

これが出来ていないと、いくら高価な装置でも本領を発揮しません。
そして、自分ではやっているつもりでも客観的な診断をしてもらうことで、
自分が良しとしたことに自信を持って頂くこともSound checkの目的の一つです。

Sound checkとは先ず現状認識から入り、その現象をご本人に自覚して頂ける
ように実験によって証明し、できればお金をかけないで調整していけるように
アドバイスさせて頂くことが主目的です。

どうぞ、こんな活動を皆様にもご利用頂ければと願っております。

その前にハルズサークルにご入会下さい(^^ゞ


HAL's Hearing Report