発行元 株式会社ダイナミックオーディオ
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H.A.L.担当 川又利明




2007年1月29日
No.462 「小編随筆『音の細道』特別寄稿 *第58弾*」
   「The D.Dipole Code」  -◆- Vol.2 -◆-


『The D.Dipole Code』      
       
『新たな登場人物を加えての新展開を誰が予想しただろうか!?』

                                 川又利明

《主な登場人物》

ピーター・ディック …… 技術者であり数学者でもあり情報技術の専門家

ホルガー・ミューラー …… Manhattan Acustik社/現GERMAN PHYSIKS社の社長

私 …… ハイエンド・オーディオ・ラボラトリー主宰者

PQS402 …… GERMAN PHYSIKS社の新製品

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/456.html
Vol.1〜2での登場人物は既に上記にて紹介されていたが更に…

Brumester Brothers …… PQS402と同国ドイツ出身の輝く風貌を持つ兄弟

Jorma Sisters …… スウェーデン出身のスレンダーとグラマーの美女姉妹

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

【9】Why was VitusAudio chosen?

昨年11月13日に初めてPQS402がやってきたわけだが、私は事前よりGERMAN PHYSIKS
のDDDを鳴らすためにはほぼフルレンジという性格を背景にして、高域の質感を
重んじて暖色系の質感を持つVitusAudioを採用しようと考えていたものだ。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/322.html

そして、VitusAudioの内部配線材を供給するJORMA DESIGNのインターコネクトと
スピーカーケーブルを使用することで両社の魅力を自然な形で再現できればという
配慮も手伝っていた。

それらをほぼ一ヶ月間という時間をかけて総合的に評価したということで下記の
ようなエピソードを述べてきたものだった。それだけ当初のシステム構成には自信
があり、また試聴した多くのユーザーにも説得力を持っていたものだった。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/456.html

やがて年が明けて1月中旬のこと、長らくこのフロアーでリファレンスの勤めを
終えたVitusAudioが遂にここを去る日がやってきた。別れを惜しみ搬出の前日まで
私は時間を見つけてはVitusAudioによる演奏を記憶に焼き付けていたものだった。

さて、では今後PQS402の魅力を更に引き出していくアンプとして何を選択していく
のか? またしても私は実践の前に推測を重ね、フロントエンドで採用してきたあの
Brumesterで統一しては…という構想を思いつき早速セッティングを行なったのが
新しい第二段階の下記システムである。


      ◆ GERMAN PHYSIKS PQS402 inspection system Vol.2 ◆

Brumester 969 CD Transport (税別 \3,900,000.)
http://www.noahcorporation.com/burmester/cd969.html
     and
TRANSPARENT PLMM+PI8(税別\606,000.)
http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER
      ↓
◆付属STリンクケーブル & 付属EXTERNAL CLOCK用BNCケーブル
      ↓
Brumester 970SCR D/A Converter(税別 \4,400,000.)
http://www.noahcorporation.com/burmester/da970.html
     and
TRANSPARENT PLMM+PI8(税別\606,000.)
http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER
      ↓  
JORMA PRIME Interconnects XLR 2.0m(税別\1,350,000.)
http://www.cs-field.co.jp/jormadesign/primeprice.htm
      ↓   
Brumester 808MK5 Pre Amplifier (税別 \3,700,000.)
http://www.noahcorporation.com/burmester/pre808.html
     and
TRANSPARENT PLMM+PI8(税別\606,000.)
http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER
      ↓  
JORMA PRIME Interconnects XLR 7.0m(税別\3,450,000.)
http://www.cs-field.co.jp/jormadesign/primeprice.htm
      ↓  
Brumester 911MK3 Power Amplifier×2台(税別 \5,400,000.)
http://www.noahcorporation.com/burmester/power911.html
     and
TRANSPARENT PIMM+PLMM(税別\606,000.)×2set
http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER
     ↓  
JORMA PRIME Loudspeaker cable 3-meter Biwire/pair (税別 \3,350,000.)
http://www.cs-field.co.jp/jormadesign/jormadesignmain.htm
     ↓  
GERMAN PHYSIKS PQS402
http://www.zephyrn.com/products/germanphysiks/pqs402.html

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

輝くクローム仕上げが映えるBrumesterだが、その個性と魅力を一般の皆様、正確
に言えばBrumesterの音とはどのようなものなのかを知らない方々はデザインと
外観から相当鋭角的であり鮮烈な音質なのではと思いがちであろう。

しかし、実際は全く逆であり、三年前から同社をここで使ってきた私の分析では
しっとりとした質感に滑らかさを基調とする心地よい演奏をこなすメーカーとして
位置付けてきたものだった。

いや、後述するが、その感想は第一印象の延長であって真実とは異なるものがあり、
三年目にして私は同社の実力の程を思い知らされることになったのである。

さて、セッティングを終えて最初はオーケストラから、ということで第二世代の
システムで第一声を聴いたのだが…、どうも以前のPQS402の在り様というか質感と
違う。当然のことなのだが、つまり私の期待通りになっていなかったということだ。

「う〜む…、ちょっと違うんだよな〜。軽いというか重心が伸び上がっていると
 いうのか…。もう少しこうあって欲しいという私の要求にはちょっと…」

VitusAudio SM-100というパワーアンプは固定バイアスによって100W/chの出力を
発生する。http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/322.html
と、このShort Essayでも述べているが…

「同じ100Wを発生させるために使用する消費電力がA級で340W、AB級で107Wという
 ことで、使用しているバイポーラトランジスターのバイアス電流をAB級で省エネ
 設計にしているだけのようなのだ。つまり、AB級にするとより大きなパワーが
 得られるという発想ではないのだ。これは言い換えればパワーデバイスである
 トランジスターの動作点を最高のポイントに絞り込んで設定し、無理な出力は
 はなから設計しないというこだわりなのである。」

ということで、無音状態でも結構な発熱があり冬場でもこの試聴室の暖房になって
くれていたものだ。しかし、この今となっては決して大きくない定格出力100Wが
実は超強力な電源部の設計によって想像を絶するパワー感を持っていたものだった。

今回フロントエンドは従来通りで同じスピーカーを鳴らしている。変わったのは
アンプだけだ。定格インピーダンスが4オームというPQS402に対してパワーアンプ
の動作環境が変わったのだろうか!?

Brumester 911MK3は価格とサイズを考えれば高出力のパワーアンプと言える。
PQS402の定格インピーダンス4オームに対して何と350W/chを供給できるステレオ
2chアンプなのだが…。パワーの大小ではないと思うが、実は私は贅沢に911MK3を
二台使っているが、各々の911MK3の片チャンネルを遊ばせてモノラル仕様として
使っていた。

つまり、各々の911MK3の片チャンネルのみ入出力を接続し、もう片チャンネルは
全く使用していないという状況だ。実は、この911MK3はブリッジ接続によって
4オーム負荷に対して何と770Wというハイパワーを可能にする設定があるのだが、
私は過去にあるスピーカーで使用したときに厳密に試聴を繰り返して楽音の質感を
重視するとBTL接続にしない方が良いという判断をしていたからだった。今回も
その教訓から片チャンネルのみを使用するという接続で聴き始めたのだが…。

PQS402におけるDDDの特徴と低域に関してはウーファーとパッシブラジエーターが
受け持つという構成は既に述べているが、どうもこの時の911MK3では従来のような
魅力が今ひとつ引き出せないでいた。

いや、連続ドラマの主役が途中降板して同じ物語を代役の俳優が務めるようになっ
たが、周囲の出演者は何事もなかったように演技していることの違和感のようなも
のだろうか。

前回まで、はまり役の俳優がこなしていた役柄に馴染んでいるのに、その当人が他
の役者に代わってしまったにも関わらず共演者たちは何もなかったようにやりとり
している情景に対する奇妙な思いと似ているようなところがある。

VitusAudioは確かに魅力的ではあったのだが、それと同一の性格や音質を求めて
しまうという私の方に無理があるのだろうか?

そして、VitusAudioによって感動した演奏がPQS402に対するイメージとして定着し
てしまったらしい私の我がままなのだろうか?

どうにも割り切れない思いから、再び試行錯誤のチューニングが始まった。

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

定番であるマーラー交響曲第一番「巨人」小澤征爾/ボストン交響楽団第二楽章。
そして、セミヨン・ビシュコフ指揮/パリ管弦楽団 ビゼー「アルルの女」「カル
メン」の両組曲から1.前奏曲8.ファランドール10.アラゴネーズ15.ハバネラ
更に、指揮: ワレリー・ゲルギエフ/チャイコフスキー《くるみ割り人形》全曲
サンクトペテルブルク・キーロフ管弦楽団、合唱団

これらを軸にして何枚ものオーケストラを聴き続け、どこかに突破口はないかと
模索していると、ふと脳裏をよぎったあの可能性とは…。

「そうだ!! 911MK3の左右チャンネルとも仕事をしてもらうか。BTL接続を久しぶり
 に試してみよう!!」

Brumesterから供給された銀線を使用した911MK3のブリッジ接続用アダプターを
久しぶりに持ち出してきて、プリアンプからのインターコネクトの一方を逆相に
して911MK3の左右入力端子に接続する。そして出力端子は左右チャンネルのホット
側をクロスするよう接続しブリッジ接続として再度911MK3のミュートをオフにした。

「あー!! これいいじゃない!!」

コントラバスのピッチカートのように低域のホールエコーを含ませて音場感を作る
ような演奏、フォルテシモに駆け上がっていくオーケストラの各パートに骨太さを
追加したようなエネルギー感、弦楽器群が一斉にアルコを繰り返す際のレイヤーの
厚み、などなどが私の期待に一歩近付いてきたではないか!!

当然770Wなどというハイパワーを全開にしているわけではないのだが、対する
スピーカーによってパワーアンプの使い方で変化の在り方もケースバスケースと
いうことなのだろうか。

ベンディングウェーブという理論に基づいて設計されたDDDは、わずか0.25ミリと
いう極めて薄いチタン製ダイヤフラムを通常の磁気回路とボイスコイルによって
駆動している。これは言い換えればダイヤフラムに伝播させる音響エネルギーは
その表面を複雑な波形として波打たせるものであり、そのエネルギーを絶えず継続
して供給させなければならない。つまり、瞬間的な電圧での制御というよりは電力
として電流も流し続けなければならないということなのだろうか?

74KgというVitusAudio SM-100の超ヘビー級電源部を思うに、わずか?37Kgの911MK3
が回路設計の妙で作り出した4オーム350Wという出力との比較で送り出せる電流の
ゆとりというものに違いがあるのだろうか。

土台としてパワーアンプの底力をどこに求めるかで、このブリッジ接続は911MK3の
電源部を左右チャンネル分すべてを使うことが出来るという選択が功を奏したよう
である。先ずは第一のハードルをクリアーしたということか。

楽音の質感に厚みが欲しいと願ったことが不満のないところまで実現できたとして
も、アンプの個性とは本当に異なるものであり、またそれをPQS402は忠実に再現す
るということがスピーカーの実力として奥深さと驚きを新たにするものだった。
PQS402は素晴らしい!! そしてBrumester 911MK3の底力はこれほどだったのか!!



【10】New discovery of Brumester

私は多様なコンポーネントを単品として受け入れた場合には、その前後周辺での
使用条件を電源環境からさかのぼって私が吟味したケーブルやラックなどのセット
アップで色々と試行錯誤を繰り返しながら、最初に素性の素晴らしさを認めたもの
は音質追求の策を色々と講じて私なりの音質に仕上げていくのが常である。

しかし、ある程度そのメーカーの製品が複数で同時に導入した際にはそのメーカー
が付属ないし指定するケーブルなどで使い始め、電源ケーブル以外でセットアップ
に必要なケーブルを付属させて来られた場合には、そのまま使用することが多い。
GOLDMUNDなどは好例であり自社開発したケーブルを単品でも販売しているような
こだわりを私も大切にしているものだ。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/205.html

さて、Brumesterの日本での取り扱い開始に際しては上記のブリーフニュースでも
述べているように2002年6月27日に配信した内容の通りであった。そして紆余曲折
を経ながら現在のようなコンポーネントをここで演奏してきたわけだが、私は自分
の耳を疑うような大きな衝撃を受ける事実が出来したのである。

Brumester 969 CD Transport (税別 \3,900,000.)
http://www.noahcorporation.com/burmester/cd969.html
      ↓
◆付属STリンクケーブル & 付属EXTERNAL CLOCK用BNCケーブル
      ↓
Brumester 970SCR D/A Converter(税別 \4,400,000.)
http://www.noahcorporation.com/burmester/da970.html

この高価なBrumester BrothersのCDシステムを私は今までこのように配線して使い
続けてきた。もとはと言えば、通信用光ケーブルとして開発されたSTリンクは伝送
帯域も数メガヘルツという超広帯域であり、家庭用オーディオ装置としてはWadia
が採用したことで一躍高音質伝送方式として脚光を浴び、それに倣うメーカーも
一時は増えたものだったが現在は減少する傾向にあった。これはシングルモードの
ようによりハイスピードで広帯域伝送の通信用ケーブルが開発され、アメリカの
ATTなどの通信を本業とするメーカーがSTリンク用のインターフェースの生産を
次第に打ち切ってしまったことも要因であろうと考えられる。

しかし、CDトランスポートとD/Aコンバーターをつなぐ方式としては依然として
高音質であることは間違いなく、光伝送のために筐体間のアース電位共有という
足かせもないので私はずっとこれをBrumesterの音質の一環として使用したきた。

そして、969と970SCRではEXTERNAL CLOCKと称する自社規格によるクロックの共有
も設計に含まれており、970SCRのクロックを969に供給して使用するという方式を
推奨している。970SCRのインプットセレクターを押し続けるとディスプレーの表示
では「44.1」から「96.2」と変化し、内部でアップサンプリングして24ビットまで
解像度を高めるモードに移行する。更に押し続けると「Snc」の表示に切り替わり、
その上でEXTERNAL CLOCKにて970SCRからのリンクにロックしたことを知らせる。

他社ではGENロックと称する方式が過去にもあったが、BrumesterのEXTERNAL CLOCK
も私の推測では2.6MHz〜10MHzくらいの高周波でクロック伝送しているはずである。
この伝送用ケーブルに私はこの三年間というものBrumesterが付属させてきたもの
でプラグをモールドした黒いBNCケーブルを何の疑いもなく使用し続けてきた。
いや、それを使ってさえも素晴らしい音質であったことは以前に何度もレポートし
てきたものだった。

事実、今回のPQS402の当初のシステムでも同様なケーブルを使い、VitusAudioの
個性を絡め取るようにして素晴らしい評価をしてきたものだった。おしなべて暖色
系のキャラクターが、BrumesterのEXTERNAL CLOCKの在り方というか素性を上手く
バランス化させてきたのだろう。そして、探究心と好奇心旺盛な私だが、今まで標
準品として使用してきた付属のBNCケーブルを、あのJORMA DIGITAL BNCに取り替え
てみようと思ったのがいけなかった!!

このJORMA DIGITALはハルズモニターでも大変好評であり、自宅試聴からそのまま
購入へというケースが連続している実力の持ち主であり、この試聴室でも実は皆様
に紹介していないだけで裏方として既に使用されていたものである。

http://www.cs-field.co.jp/jormadesign/jormadigitaltechnical.htm

あの時、私は何気なく、いやMaster Clock GeneratorとWord Syncの威力は知って
いるものの、自社規格で一対一のリンクのみというBrumesterのEXTERNAL CLOCKに
対してさほどの期待感はなかったと告白しなければならないだろう。実は、この
EXTERNAL CLOCKをオンオフした時の違いも過去に試したことはあるのだが、標準
付属品ケーブルを使用していた実験では…?…という感じだったのである。

だから何気なくと表現するのだが、ここにJORMA DIGITAL BNCを使ったその時!!
このBNCケーブルを取り替えるために一旦外すとEXTERNAL CLOCKが一旦は外れてし
まうので音質はモコモコになってしまう。再度インプットセレクトのスイッチを
長押ししてカチッとロックさせてボリュームを上げたとたん!!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

【5】First impression で述べているように、PQS402はリアパネルにある赤黒の
http://dyna5555.cocolog-nifty.com/photos/secret/pqs402rearpanel.html
ジャンパーケーブルの設定で下記のように60Hzから80Hzの超低域だけを調整する
ことが出来る。
http://dyna5555.cocolog-nifty.com/photos/secret/pqs402woofer_jumper.html

私は今回のフルBrumesterシステムのチューニングは先ずオーケストラからという
ことで、60Hzから80Hzで+10dBのポジションとなる赤黒ジャンパーともに外すとい
うセッティングで試聴を開始していた。

たった一本のJORMA DIGITAL BNCによって起こった変化は過去三年間のBrumesterの
評価を根底から覆すものだった!! 他社のサイトだが、この変化を顕著に表現する
例えとしてこのリンクをご覧頂きたい。

http://www.audioquest.jp/Howcan.html

この冒頭にある楽譜のイメージそのものなのである。付属BNCケーブルで今まで
聴いていた音は譜面の上に曇ったガラスが三枚もあったのだ、ということを瞬間的
に事実として私に突きつけたのである!! これには驚いた。

マーラー交響曲第一番「巨人」小澤征爾/ボストン交響楽団第二楽章。

冒頭で弦楽器群のすべてが重厚なアルコを繰り返すが、今までは演奏者すべてに
除幕式で銅像を覆っている白い布がかぶさっていたのだろうか。何を演奏している
かはわかっても演奏者の姿を見ることはかなわずシルエットのみを見ていたことに
気が付く。

JORMA DIGITALに切り替えた瞬間にセレモニーの開始が宣言されて除幕式が始まり、
さっと白い布が引き払われたように演奏者のボウタイの傾きがわかるほどの解像度
を私に見せてくれるのである。こんなことってあるだろうか!!

木管楽器の余韻はとたんにホールを漂いはじめ、右側からの金管楽器の響きは反対
側のDDDからもほとばしり、ボストンシンフォニーホールに最新式の空気清浄機が
導入されて空気が澄み渡るように余韻感を増加させる。

そして何とも素晴らしいのが個々の楽音のフォーカスが開けた視界に極彩色の点と
してくっきりと描かれる快感は過去のBrumesterサウンドにはなかった再現性の
極みとして私を熱くしてくれた!!


セミヨン・ビシュコフ指揮/パリ管弦楽団 ビゼー「アルルの女」「カルメン」の
両組曲から1.前奏曲 8.ファランドール 10.アラゴネーズ 15.ハバネラ

1.前奏曲での弦楽器群の合奏では質感が落ち着き、解像度が上がったから鋭くなり
過ぎるのでは、という危惧を一瞬にして払拭していた。余韻感が豊潤になると響き
にも潤いが感じられ、前項で述べたパワーアンプ911MK3のエネルギー感が弦楽器を
滑らかに聴かせるという一芸をこともなげにこなしてしまった。こんな演奏は初め
てであり、PQS402の潜在能力がここまであったのかと一瞬私のあごが下がってしま
うのだった!!

8.ファランドールでは弦楽器と管楽器の合奏が冒頭から響き、今まで管楽器の鋭さ
が弦楽器との対比で各々の発するエコー感が空間でクロスするような戸惑いが分解
能の限界を感じさせる局面があったが、なんとなんとJORMA DIGITALに切り替えて
からというもの、お互いの定位置とエコー感が拡散する空間とのセパレーションを
きっちりと見極めることができるようになったのか何のストレスもない。この音量
でもすこぶる爽快な展開に私はついついボリュームを1クリック上げてしまった!!

15.ハバネラではゆったりとした独特のリズム感から一瞬にして吹き上がるフォル
テシモへの変化で加速感の素晴らしさを見せてくれる。注意深く聴いていると低域
のエコー感がPQS402の4個のウーファー、8個のパッシブラジエーターという強力な
ドライバー全部から弾き出され、ホールの空間にすーっと溶け込んでいく低音階の
余韻感をPQS402の周辺に以前の倍のスケールで展開している。これは凄い!!

高域の余韻感と解像度だけでなく、低域方向にもBrumester+JORMA DIGITALの貢献
が間違いなく感じられる。これが今まで私が知っていたBrumesterなのだろうか!!


ワレリー・ゲルギエフ/チャイコフスキー《くるみ割り人形》全曲にいたっては、
管楽器のソロで時折刺激を感じていた要素がすっかり消え失せ、弦楽器のtuttiで
は刺激成分が浄化されたように消え去り、ゲルギエフの録音で時折お目にかかる
硬質な印象が緩和されている。そして、驚いたのはハープのソロだった。
左側に位置するハープが奏でられたときに、私は右側のDDDからも間違いなく余韻
成分として数瞬遅れたハープの弦が鏡に映るように聴こえてくるのに驚嘆した。
こんな描写力がBrumesterにあったのだ!!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

いずれにしても、こんな晴れ晴れした空間の見通しの素晴らしさと解像度の物凄さ
がBrumesterの潜在能力として存在したということに驚いてしまったのである。

穏やかで温度感がある音、これは言い換えればフォーカスをちょっと甘くして
テンションを緩めて聴かせることによる演出効果と言えなくもない。

冒頭に私はVitusAudioの後任としてBrumesterを指名した理由を、そんな役どころ
として考えていたと述べていたが、実はBrumesterはそんな器ではなかったのだ!!

私が求めていた潤いのある質感と音場感、それに対する解像度とフォーカスを両立
するという類稀な能力を持っていたのだ。それを引き出したのがJORMA DIGITALの
たった一本のケーブルということで、私は過去三年間に評価していたBrumesterと
いうメーカーの評価を根本から訂正することになってしまったのである。

私はいったいこれまで何を聴いてきたのだろうか!?



【11】Brumester that revives by JORMA DIGITAL

「蘇ったBrumester」などと表現するとBrumesterに申し訳ないような気がするのだ
が、それほど私が感動したということであり同社の技術力と再現性の素晴らしさを
思い知ったということでお許し頂きたい。何がBrumesterの素顔であり本性なのか、
これを教えてくれたのがJORMA DIGITALだった!!

そして、次にはホール録音のオーケストラではなくスタジオ録音の数々で聴きたく
なってきた。もちろんPQS402の赤黒ジャンパーはすべて外してフラットに戻しての
試聴である。さあ、どうなることか!?


まず最初に聴きたかったのは最近のお気に入り、“星乃けい”のデビューアルバム
『NEARNESS OF YOU / KEI HOSHINO』から1トラック目の「Day by Day」だった。
http://www.upstream.co.jp/~kei/

シャープの協力でフル1ビットDSD録音のハイブリッドディスクだが、残念ながら
Brumester 969と970SCRではSACDに対応していないのでCDレイヤーを再生すること
になる。しかし!! そんなものはかまうものか!!と言わんばかりの弾ける音が冒頭
から飛び出してきた。

ピアノのイントロからヴォーカルが入り、しばらくはウッドベースとのデュオで
進行する。最初のピアノのアタックと切れ味が別物のように違う。
そして、フラットに設定したPQS402は本当にくっきりとセンターにベースの輪郭を
描き、大型スピーカーとは思えない引き締まった低域を再現してくれる。
さあ、ここから既に“聴きどころ”は始まっている。ヴォーカルのリヴァーヴが
面白いように左右のDDDに広がっていき、なんとも豊かな音場感を創生する。
これはいい!!

ここで実験的にEXTERNAL CLOCK用BNCケーブルを付属品に戻してみると…

「おいおい、それはないだろう〜。出し惜しみしてるのか〜」

と、思いたくなったしまうほど余韻感は減少し、ベースの輪郭はぼんやりして
なまったピアノには輝きがなくなってしまう。ヴォーカルのリヴァーヴはセンター
よりわずかに拡散しているがスピーカーのグレードが落ちたように感じられる。
こんな音を今まで聴いていたのだろうか? もういいや〜。

再度JORMA DIGITALに戻してロックをし直して聴きなおす。

「おー!!これだよ、こんな音こんな表情をBrumesterは持っていたんだ!!」

一旦知ってしまうと戻れない。Brumesterの輝くフロントパネルが曇ってしまった
ような音だったが、JORMA DIGITALにするとは〜と息を吹きかけてクロスで磨いた
時のように輝きが戻ってくる。そして、その鏡のようなパネルに映っているのは
満面に笑みを浮かべた私だった!!

ピアノの打音には生気が蘇ったように弾け、シンバルのリズムは鮮明さを増し、
ベースの引き締まって重厚なリズムは私の体のどこかをスイングさせてくれる。
しかし、この人はヴォーカルが上手い!!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

さあ、次は私の定番とも言える曲だ。

大貫妙子の22枚目のアルバム"attraction"から5トラック目ご存知の「四季」
http://www.toshiba-emi.co.jp/onuki/disco/index_j.htm

noonのSmilin'
http://www.jvcmusic.co.jp/noon/

立て続けに二曲を聴いて記憶が確かにうちにデスクに戻ってくる。こんな繰り返し
であっと言う間に時間が過ぎていく。これまで数百回以上、つまり数え切れないほ
ど聴いてきた大貫妙子のイントロのギターとベースが出た瞬間にどきっとした。
ヴォーカルが始まったときにはぞくッとした(笑)

聴きなれているはずの大貫妙子はこんなにクリスタルだったか!? いや透き通って
いたのかだろうか? 今までBrumesterに抱いていたイメージは穏やかな雰囲気の中
でちょっぴりフォーカスを甘口にしながらも最低限の解像度はしっかりとしている
ので微妙なところで分析的な表現をしないという安堵感だったのかもしれない。
微妙な曖昧さは人によっては心地よいの感じる局面があるものだろう。

しかし、JORMA DIGITALによってBrumester 969と970SCRはぴしっと背筋を伸ばして
姿勢を正し、それ自身が発する再生音に妥協と曖昧さを一切否定するような、過去
のイメージは間違いであったことを強烈に語りかけてくれた。「四季」で聴かれる
ギターとパーカッションはくっきりと鮮明な音像を描き、無指向性のDDDが発する
音波なのに定位感が抜群に素晴らしく輪郭の再現性は息を呑むほどに鮮やかだ。

「音のハイビジョンだね〜、JORMA DIGITALは音でばっちり1080iを実現したぞ!!」

それほど以前との格差が大きいという実感を思わず例えるとこうなってしまった。

noonのSmilin' ではいたずらにヴォーカルの口許を誇張して唇と舌をクローズ
アップするように下品なカメラワークではなく、彼女の背後にあるべき空間に
すーっと染み渡るような余韻感を放射している。

そして、ギターとのデュオによるこの曲で伴奏者の存在感をくっきりと描き、その
ギター自体のエコー感をもPQS402のDDDという広大な面積のダイヤフラムに伝える
という芸当を簡単にこなし、ヴォーカルが拡散していく空間とギターが同居しなが
らも互いの領域を識別し棲み分けるしているという分解能の曲芸を見せてくれる。

「こんなの初めてだ!!」

この言葉は登場人物のすべてに捧げるものであることをお忘れなく!!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

ちあきなおみ/ちあきなおみ全曲集「黄昏のビギン」 次はこれが聴きたい!!
http://www.teichiku.co.jp/teichiku/artist/chiaki/disco/ce32335.html

さあ、この曲は以前のVitusAudioとBrumester 969と970SCRを付属BNCケーブルで
接続していたセッティングで最も感銘を受けた一曲だったが、どうなるのか1?

冒頭のイントロは弦楽器だけ18秒間の演奏が続き、トライアングルの一打が入って
からギターの伴奏だけになり、そして ちあきなおみ が入ってくる。ここで最初の
衝撃が私の胸に去来した!! 違う、全然違う!!

「何、このストリングスの質感は? 何、このトライアングルの透明感は? 何、この
 ギターのテンションは…」

最初から過去の記憶との相違点を即座に聴き取った私は頭の中のボックスにたちど
ころにチェックマークを付けながら驚きを抑えつつ聴き続けた。そして、しばらく
ヴォーカルを聴き進むにつれて、その変化の大きさにちょっぴり動揺してしまった。

「えっ、ちあきなおみ の声って、こんなに若かったっけ〜!!」

失礼ながらお顔の肌には艶がもどり、小皺と思っていたものがあっさりと消え失せ、
若返った表情で40年前のラブソングを余裕で歌いこなしている。かすれ気味の声質
に魅力があったとしたら彼女のファンはどう思うだろうか。唇を閉じかけても豊か
な声量の歌声が軽くPQS402のDDDを波打たせ、思わず美しいと私の口からこぼれそ
うな一言を思って一瞬赤面してしまうようだ。

どう考えても不思議だ。オーディオ信号とは全く無関係のBrumester 969と970SCR
のEXTERNAL CLOCK用ケーブルを換えただけなのに…。

私の思いをよそに曲は進行しバックにストリングスとウッドベースが入ってくる。
しかし、オーケストラでも確認したが弦楽器の再現性は息を呑むほどであり、以前
に確認したウッドベースの音像も引き締まっているのだから不思議だ。一週間前と
は全く異なる性格に素直なPQS402は変節してしまったようだが、その変わり方が
心地よく私の耳に響くのだから堪らない!!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

オーケストラやヴォーカルで惚れ惚れとする美しさを見せてくれたPQS402は以前に
ない魅力を発散し始めたが、それが逆効果になることはないのか? つまり、アコー
スティックな録音ではいいが、果敢なポップスではどう鳴ってくれるのか!?

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/440.html

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/447.html

手っ取り早い選曲ではあるが、上記のように名だたるハイエンドスピーカーの
チェックに使用した“Basia”「 The Best Remixes 」からCRUSING FOR BRUSING
(EXTENDED MIX)をかけてみることにした。もちろんPQS402の低域はフラットで。

http://www.sonymusic.co.jp/Music/International/Arch/ES/Basia/
http://www.basiaweb.com/
http://members.tripod.com/~Basiafan/moreimages.html#remixes1

この曲では以前にPQS402の赤黒ジャンパーの差し替え実験で変化を捉えやすい課題
曲として応用していたものだが、BrumesterとJORMA DIGITALによる解像度アップと
クリアーさの向上ということがアダにならないだろうか。私は意地悪な予測を胸に
ディスクをセットした…!? また試聴室とデスクを往復だ。

しかし…、戻ってきたら私は思わず先に一服したくなってしまった。(^^ゞ

「正直言って呆れています、そして驚いています。PQS402とはこんな一面があった
 のかと…!!」

冒頭から1分40秒まで派手なプログラミングによるドラムセットの音が印象的だが、
たった0.25ミリという便箋の紙と同じようなDDDの円錐状の“膜”から、こんな
鮮烈な音が出ようとは!! まるで音波にあてるアイロンがあったかのようなのだ。

びしっとノリの効いたワイシャツの襟のように高域だけでなく低域の質感にテンシ
ョンが加わり、ファジーなところも演出のうちという以前の心地よさを語る言葉を
一蹴するような目を見張る鋭さが私を襲った。

しかし!! これが凄い!!

何もストレスを感じさせることがないほどにすーっと空気中に溶け込んでいくよう
な後味なのだ。

ここまで来ると“Basia”のヴォーカルも予想できる。と、その通りの透き通るよ
うな質感で歌い始めた“Basia”は以前のPQS402ではなかったような音像の収縮を
見せており、これがすこぶるつきの細身のシルエットとなって私の目の前でマイク
を握っているかのようだ。思わずボリュームをワンクリック上げて聴いてしまった。

余韻の浮遊感という比喩でアコースティックな録音の魅力を語るとしたら、この
選曲では逆効果になってしまうだろうという推測を尻目に、大音量での爽快感は
何としたことだろうか!!

パワーを上げても音像の輪郭は維持され、ヴォーカルの質感では乾燥肌になること
もなく潤い、PQS402の向こう側にあるはずもない空間をスタジオ録音のくせに聴き
手にイメージさせるマジックが憎らしい!! ポップスもがんがんイケル!!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

外観は何とも頼りなく華奢なJORMA DIGITALという存在。それに対して今回は特に
触れていないが、丸いウッドのバストをケーブルの中間に頂くJORMA PRIMEという
好対照な外観の違い。

これが登場人物の紹介で奇しくも「スレンダーとグラマーの美女姉妹」と私が称し
た由縁である。

そして、悲しいかな強力なパワーを内に秘めて輝きながらも美女に翻弄される
Brumester Brothersという存在も世の男性の例にもれずに女性に弱いのだろうか!?

やはり、Jorma Sistersという美女姉妹にもまれながら男はたくましく成長してい
くのだろうか。

いや、成長したのはPQS402かもしれない。『The D.Dipole Code』の主役として、
これからも解かれたはずの謎がまた謎を生んでいくことだろう。

実は、Jorma Sistersにはもう一人のスレンダーな美女がいた。
彼女の到来は明日の予定。





『Brumester BrothersとJorma Sistersの更なる活躍』


【12】The Convenient Truth(好都合な真実)

http://www.futsugou.jp/

またまた話題の映画のタイトルを拝借して私が体験したエピソードを語らせて頂く。

1月15日に配信したVol.3の最後のメッセージ。

「実は、Jorma Sistersにはもう一人のスレンダーな美女がいた。
 彼女の到来は明日の予定。」

これは何を隠そうJORMA DIGITAL RCAのことだった。翌日に配線し毎日24時間体制
でバーンインを繰り返して八日目、届く前に十分なバーンインが行なわれている
はずというコメントを頂いたものの凝り性な私は自分の試聴時間が持てないことを
理由に更に200時間以上のバーンインを続けてきたことになる。そして今日…!?


      ◆ GERMAN PHYSIKS PQS402 inspection system Vol.3 ◆

Brumester 969 CD Transport (税別 \3,900,000.)
http://www.noahcorporation.com/burmester/cd969.html
     and
TRANSPARENT PLMM+PI8(税別\606,000.)
http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER
      ↓
◆EXTERNAL CLOCK用BNCケーブル:JORMA DIGITAL BNC(税別\108,000.)
◆付属STリンクケーブル vs JORMA DIGITAL RCA(税別\108,000.)
http://www.cs-field.co.jp/jormadesign/jormadigitaltechnical.htm
      ↓
Brumester 970SCR D/A Converter(税別 \4,400,000.)
http://www.noahcorporation.com/burmester/da970.html
     and
TRANSPARENT PLMM+PI8(税別\606,000.)
http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER
      ↓  
JORMA PRIME Interconnects XLR 2.0m(税別\1,350,000.)
http://www.cs-field.co.jp/jormadesign/primeprice.htm
      ↓   
Brumester 808MK5 Pre Amplifier (税別 \3,700,000.)
http://www.noahcorporation.com/burmester/pre808.html
     and
TRANSPARENT PLMM+PI8(税別\606,000.)
http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER
      ↓  
JORMA PRIME Interconnects XLR 7.0m(税別\3,450,000.)
http://www.cs-field.co.jp/jormadesign/primeprice.htm
      ↓  
Brumester 911MK3 Power Amplifier×2台(税別 \5,400,000.)
http://www.noahcorporation.com/burmester/power911.html
     and
TRANSPARENT PIMM+PLMM(税別\606,000.)×2set
http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER
     ↓  
JORMA PRIME Loudspeaker cable 3-meter Biwire/pair (税別 \3,350,000.)
http://www.cs-field.co.jp/jormadesign/jormadesignmain.htm
     ↓  
GERMAN PHYSIKS PQS402
http://www.zephyrn.com/products/germanphysiks/pqs402.html

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

先日はBrumester 969と970SCRでEXTERNAL CLOCKと称する自社規格によるクロック
リンクに使用するケーブルによって私はBrumesterの本当のパフォーマンスを三年
目にして初めて目の当たりにするという驚きの体験をしたのだったが、この救世主
として活躍したJORMA DIGITALを肝心なオーディオデジタル信号の伝送に使用する
ことで上記のように電源ケーブルを除きすべてをJORMA DESIGNで統一できるという
ことに大きな関心と期待を寄せていた。

付属STリンクケーブルとJORMA DIGITAL RCAの比較を行なうことでBrumester 969と
970SCRのパフォーマンスにいかなる変化が起こるのか?
これは時間をかけてチェックしなければと試聴室が使える頃合を見計らいながら
同時にバーンインを進めてきたものだった。

そして、今回の試聴は簡単だ。970SCRのインプットセレクターによって二種類の
デジタルケーブルを比較試聴できるのだから。これがもし片方がSTリンクという
光伝送でなければちょっと厄介なことになる。私は以前にも他社のトランスポート
から二本のデジタルケーブルを同じD/Aコンバーターのデジタル入力端子に接続し
その入力切替で簡単に二種類のケーブルを比較しようとしたことが何回もあったが、
電気的導体として同時に複数のデジタルケーブルを接続しておくとシャーシアース
の共有化によってケーブルの個性が正確に聴き取れないという経験があった。

つまりD/Aコンバーターの入力切替だけで比較試聴するよりも、同じケーブルでも
一本ずつ接続して試聴した方がケーブルによる変化量が大きく聴こえるということ
であり、一本ずつの差し替えによるテストが、そのケーブル本来の能力と魅力を
引き出してくれるということだ。

しかし、今回はその心配がない。970SCRの入力セレクターの切り替えだけで効率的
に、かつ瞬間的に二種類のケーブルを比較できる。

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

ここで選曲だが、どうも最初にオーケストラをもってくると全体的なバランスを
チェックするには良いのだが、PQS402の赤黒ジャンパーの切り替えによる低域の
変化量を考えるとスタジオ録音の鮮明な録音で各論として各楽音の質感を注視して
いく方が近道であろうと考えた。そこで…

先ずPQS402の赤黒のジャンパーケーブルを外して下記のように60Hzから80Hzにおい
てもフラットレスポンスとする。
http://dyna5555.cocolog-nifty.com/photos/secret/pqs402rearpanel.html

http://dyna5555.cocolog-nifty.com/photos/secret/pqs402woofer_jumper.html

その上で選曲したのがこれ。

あのESOTERIC P-0がデビューした1997年にリリースされたDiana Krallのアルバム
「Love Scenes」の11トラック「My Love Is」という曲。

http://www.universal-music.co.jp/jazz/artist/diana/disco.html

この随筆でもテスト曲として使用していたものだ。
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto44-1.html

この曲はちょっとユニークでウッドベースのChristian McBrideとDiana Krallの
デュオという演奏なのだが、ヴォーカルとウッドベースの他にもうひとつの楽器が
終始演奏されている。その楽器? とは何とDiana Krallが鳴らす彼女の指である。

そして更にユニークなのが名プロデューサーTommy LiPumaによるスタジオワークだ。
実際に二人の演奏者が同一空間でデュオとして演奏したら絶対にありえない空間
表現がこの録音の醍醐味である。

Christian McBrideのベースはほとんどエコー感を含まないオンマイクという風情
ですこぶる鮮明な音像がスピーカーのセンターに出現するのだが、それとは全く
対象的にDiana Krallのヴォーカルと指には深いリヴァーヴがかけられていて広大
な音場感を発生させている。この好対照な録音は今回のようなデジタルケーブルの
比較だけではなくD/Aコンバーターのアナログとデジタル両方のフィルターの相違、
おなじみのオリジナルラックH.A.L.C.における機械的なチューニングの在り様、
更にはパワーアンプのドライブ能力からスピーカーの低域における反応速度などの
分析には打ってつけの一曲であり、もちろんP-0のようなトランスポートのメカニ
ズムの精度と能力を聞き分けるにも好都合なテスト曲と言える。

じっくりとバーンインを行なったJORMA DIGITALのRCAとBNCケーブルが定着し、
私も知りえなかった魅力を見せ始めたBrumester Brothersとの連係において、今度
はオーディオデジタル信号を伝送する一本のケーブルで何が見えてくるのか!?

ディスクをローディングして11トラックを呼び出し、先ず最初に付属STリンクケー
ブルで、全く同じ音量で970SCRのインプットセレクターを切り替えJORMA DIGITAL
RCAで聴くというシンプルな比較試聴がはじまった!!

              -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

最後はゆっくりとフェードアウトしていくこの曲は3分26秒の収録時間、ゆっくり
消え去っていくまでにDiana Krallが指を鳴らす回数は何ときっかり210回を数える。

本当に彼女がずっと指を鳴らしていたのかどうかはTommy LiPumaに訊かなければ
わからないが、「パシッ!!パシッ!!」と続く指は彼女の気質のように鋼鉄製では
ないかと思わせるようなハイテンションの響きがあり、途中で疲れを見せたのか
音色が色々と変わるので本当の指の音かもしれない。

チェックポイントは冒頭から始まるこの指の音、きりりと引き締まって重量感に
溢れスピード感あるウッドベース、そして広大な広がりを見せるヴォーカルの展開
という三つの要素を聴きとっていく。

最初に付属STリンクで数回リピートして記憶に焼き付け、次にJORMA DIGITAL RCA
に切り替えてということでほとんど相似形と思われる両者を比較していく。

しかし、それにしても低域をフラットにしたPQS402の低域の音像表現の見事なこと。
これだけの大型スピーカーにしてウッドベースの輪郭がきっちりと現れ、重厚な
響きを保ちながらも引きずるような余分な響きは一切なく見事なプロポーションを
ベースに与える。

そして、Brumester 911MK3の770Wというパワーがものを言っているのか、PQS402の
8個のパッシブラジエーターまでも、エンクロージャー内部の音圧で動かすのでは
なく、あたかもスチール製のクランクで機械的に連結されているかのようなタイト
な低域を叩き出す!!

指を鳴らすこと五回目から入ってくるベースとのデュオが50秒間続く、その間は
ベースと「パシッ!!パシッ!!」という音だけの演奏が続く。そして、やっとDiana
Krallのヴォーカルが登場する。引き締まったベースとは対象的に、彼女の口許か
ら弾けるような声が飛び出すとDDDの周辺にエコー感を撒き散らす。

「おー!!これまで付属STリンクで聴いてきたBrumester Brothersのパフオーマンス
 はやっぱり素晴らしいじゃないか!! やっぱり高速広帯域伝送のSTリンクだった
 ら安心して聴けるという能力があるね〜」

さあ、3分26秒の演奏の各チェックポイントに駅伝の中継所さながらに、音楽の中
に私はランドマークを次々に設定していった。今回の比較試聴は楽だな〜、と思い
ながら、いったんポーズをかけて970SCRのインプットセレクターをRCAというポジ
ションに切り替えた!! すると…

「えーーー!! 嘘でしょう!!」

私は想像もしていなかった展開に最初に戸惑い、次に疑い、最後に納得するまで
何度も何度も970SCRのインプットセレクターを押し直すことになった!!

ベースが入ってくるまでの指を鳴らす音がたった4回まで、という段階で何と既に
JORMA DIGITALはあのSTリンクという輝かしい過去をもつケーブルをぽ〜んと置き
去りにしてしまった情報量の増加を見せているではないか。

STリンクでさえ左右のDDDのセンターやや右よりで弾かれる彼女の指のタップは
左チャンネルのDDD付近までエコー感を到達させていたのだが、何とJORMA DIGITAL
に切り替えた瞬間に「パシッ!!パシッ!!」という鋭い立ち上がりの指先のピッチ
カートは、その切れ込んだ発音の瞬間からスタートして左右のDDDの更に両翼に
至るまでの長い滞空時間をあっさりと達成してしまっているのである。

「おいおい、たったこれだけのフィンガータップにこんなに長いリヴァーヴを
 スタジオワークで付け足していたということかい!?」

ウッドベースが入ってくる前の指だけの音の数秒間でエコー感という情報量に圧倒
的なリードをJORMA DIGITALに許してしまったとは、あのSTリンクにしてどうした
ことなのだろうか!? 相手が悪かったのか!?RCAとBNCという細身のJorma Sistersは
何と物凄いスタートダッシュを切ったことか!!さあ、Christian McBrideがベース
の弦を一本だけ弾くというスタートで低域の比較が始まった!!

「ちょっと待って!! そんなはずないでしょう〜」

ここでも戸惑いから疑問、最後に納得というプロセスを繰り返す。なぜかと言えば
導体と絶縁体、デジタル伝送のルールとしてのインピーダンス、それらの要素が
ケーブル設計でパラメーターの多さとして完成度を高めるのに苦心するものだが
STリンクはそんなことには関係なくメガヘルツ帯域までハイスピード伝送するとい
う触れ込みではなかったか!!

ところが何としたことか!! JORMA DIGITALで聴くウッドベースの音像の方が小さく
なっているではないか!! こんなことってあるのだろうか!?

Christian McBrideというプレーヤーは太い弦を引き付け、解き放つピッチカート
で大変な指の筋力を音で表現できるのだという。一本の弦から唸りをあげるような
低音を弾き出し、開放弦でも音像が膨らまないというBrumester Brothersの得意技
は何とJorma Sistersによって支えられていたパフォーマンスだったというのか!?

光ケーブルから導体のケーブルにスイッチして低域が引き締まってしまったという
のは私の記憶にあるだろうか?

私の長いキャリアの中でもそんなことははなかっただろう、という回答が数瞬の
うちに弾き出され正解を告げるベルが頭の中で鳴り響いた。

指の音とウッドベースだけという50秒間に様々なチェックポイントを通過していく
うちに、私は既にSTリンクでの音質が色褪せ始めていることに気が付く、いや!!
より素晴らしいものを求めるという貪欲な私の感性が自動的にランキングを更新し
てしまったのだから仕方ない!! さあ、Diana Krallの声に集中しなくては…

「これはまずいよ〜、こんなに違ったら私でなくたってみんなわかっちゃうよ〜」

既にご存知のようにDDDは無指向性であり、それゆえに360度のあらゆる方向に均一
に音波を放射するPQS402なのだから、ヴォーカルの口許の輪郭表現はちょっと大き
めになるのでは、という既成概念を持っている方は結構多いかも知れないが、
ここでPQS402を聴かれた方々はそれが大きな間違いであったということに直ちに
気が付くことだろう。

それほどキュートな口許のサイズをPQS402は空間に浮かべることが出来るし、更に
世界最大の振動面積を有する4個のDDDが放つ音の密度感とエネルギー感は想像を
絶するところがある。

そして、フィンガータップで分析したことと、ウッドベースでの変化で発見したこ
との両方の要素がヴォーカルで現れてきたのである。

すなわち、先ずベースと同様にヴォーカルの口許のサイズは見事にダイエットに
成功し、ベルトの穴を三つ飛ばして締められるようになったように引き締まった
音像を提示する。更に、同時に起こっているのはフィンガータップでのエコー感が
時計の秒針の動きと連動するように長時間の残響として録音された情報量を克明に
引き出すようになっていることだ。STリンクよりも情報量が多く、かつ音像として
解像度を際立たせる。こんなマジックをJorma Sistersは軽々とこなしてしまった。

すべてをJorma Sistersで統一したパフオーマンスの倍化は二倍どころではなく、
数倍の可能性を思わせる微笑を余裕として顔に浮かべ、北欧のエチケットに習い
美しい曲線美の長い足を交差させ、膝を折って優雅なスカートを片方の手でつかみ
Brumester BrothersとPQS402に向かって頭を垂れるお辞儀をしているかのようだ!!

真の実力者は誰なのか!?
それは、この三者のコンビネーションがあっての素晴らしさであって、単独では
成しえないものかもしれない。それでいいじゃないか!!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

さて、最後に私が注目したのはBrumester Brothers、彼らの連係プレーにおいても
他社にはないユニークな音質調整機能を有しているということだ。

http://www.noahcorporation.com/burmester/da970.html

Brumester 970SCR D/A Converterには他社にはないデジタル出力の仕様がある。

先ずはこれをご覧頂きたい。
http://dyna5555.cocolog-nifty.com/photos/secret/970scr_output1.html

これは私がリファレンスとして今回の試聴で使用していたRCAデジタル出力の1番
である。このようにデジタル出力回路の最終段にあるバッファーからダイレクトに
出力端子へと接続されている。

次は同じRCA端子なのだが、75オームの抵抗でインピーダンスを整えているのか、
このように固定抵抗を挿入しての出力。
http://dyna5555.cocolog-nifty.com/photos/secret/970scr_output23.html

更に、その固定抵抗の前にマッチングトランスを挿入したデジタル出力端子。
http://dyna5555.cocolog-nifty.com/photos/secret/970scr_output5.html

最後に、これがSTリンクの出力端子とEXTERNAL CLOCKの入力端子ということで、
今ここで接続してあるのがJORMA DIGITAL BNCである。
http://dyna5555.cocolog-nifty.com/photos/secret/970scr_output678.html

ちなみにデジタル出力の4番はAES/EBUのバランスデジタル出力となっている。

さて、なぜこのように同じRCAデジタル出力が三種類もあるのか?設計者がここまで
こだわったというのは当然音質の違いがあるからだろう、ということでSTリンクと
の比較で納得した私は三種類の出力端子を順番に比較していった。

当然、選曲は同じだがリファレンスとして接続していたOUT PUT 1 が最高の解像度
と音場感を提示しており、私が上述してきた素晴らしさはここで検証したものだ。

さて、OUT PUT 2 に切り替えると、若干だが音場感は狭くなり余韻感が拡散する
スペースも縮小されるのだが、不思議なことにフィンガータップが肉厚になり、
ウッドベースには弾力性が宿り、ヴォーカルが濃厚に感じられるようになる。

この状態でも基本的に解像度は落ちることはないので、ジャズの古い録音を敢えて
このポジションで聴いてみるのも楽しいかもしれない。


次にOUT PUT 5を試してみた。このニュアンスは中々面白い。フィンガータップは
弾く瞬間に微妙なまろやかさを含ませるようなところがあり、しぃ〜んと消えて
いく余韻感よりも音像として前面に一歩接近してくれるような変化があり、更に
ウッドベースも同様にピッチカートのエコー感よりも弾いた瞬間の厚みというか
良い意味で角を微妙に丸めた聴きやすさがある。そして、ヴォーカルではそのよう
な兆候がサ行の発音という(英語ではなんというか…)しっとりとした潤いが増し
てテンションを気持ちよく弛緩させてくれる。これは妙味というものだ。
このポジションではクラシックの古い録音か小編成のバンドものやバロックなども
面白いかもしれない。

「はて、こんなデジタル出力端子の傾向の違いを考えていたら、Jorma Sistersと
 出会う前のBrumester Brothersがこんな性格ではなかったかと懐かしく思って
 しまった。なるほどね〜」

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

今日は幸運なことに?(^^ゞ
試聴室を使える時間があって、ここ数日取り組みたかった試聴がやっと出来た。

結果的に12章に及んだ『The D.Dipole Code』も、これで一応の完結としよう。

私はここで商品を展示するだけではない!!

いや、作品と呼びたい数々のコンポーネントの本当の魅力と能力を引き出すことが
私の使命でもある。

スピーカーメーカーの試聴室で鳴っている音質よりも高いレベルの音を。
アンプメーカーのラボで試聴している音質よりも豊かな情報量を。
プレーヤーの開発メーカーが日頃聴いている演奏よりも感動的な音を。

つまり、ここに送り込まれてくる作品を作り出したメーカーの人々が出している
音よりも、同じ作品をより高い次元の音で演奏したいというのが私の願いだ。

ここ最近聴き込んでいたGERMAN PHYSIKS PQS402は初お目見えの時から比べると
大変成長し磨かれてきた。いや、洗練されてきたと言った方がいいかもしれない。

メーカー各社では実現できないシステム構成と環境と、そして私という使い手の
相乗効果が各社の作品の“好都合な真実”を暴き出すのである。

だから…、この仕事は面白い!!


                               『The D.Dipole Code』 【完】


このページはダイナフォーファイブ(5555):川又が担当しています。
担当川又 TEL:(03)3253−5555 FAX:(03)3253−5556
E−mail:kawamata@dynamicaudio.jp
お店の場所はココです。お気軽に遊びに来てください!!

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