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H.A.L.担当 川又利明
    
2018年11月15日 No.1503
 H.A.L.'s One point impression!! - FOCAL Grande Utopia EM Evoの興奮!!

1979年に創立されたフランスのスピーカーメーカーFocal-JM Lab、そのJM Lab
ブランドとして最初に日本に送り込んできたのが下記の初代UTOPIAだった。
https://audio-heritage.jp/FOCAL-JMLAB/speaker/utopia.html

この初代UTOPIAが輸入されたのは1992年のH.A.L.創設とほぼ同じころ。

JM Labの創設者はJacques Mahul、彼の父親が経営するフランスの片田舎にあった
小さな精密機械工場で独自のスピーカーを作り始めて10年ほどの歳月をかけて、
このスピーカーを完成させた。それを国内で最初に常設展示したのがH.A.L.だった。

当時のステレオサウンド誌にてアワードを受賞し、初来日したJacques Mahulに
お会いすることが出来たのは私の生涯でも忘れることが出来ない思い出である。

それからUTOPIAシリーズとしてラインアップを拡大し、1995年に発表されたのが
初代Grande Utopiaであり、その当時の試聴体験をまとめたものが下記の随筆。

随筆「音の細道」第三十七話「魅惑のバスト」
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto37.html

1996年に書いた上記の随筆ではアメリカとフランスのハイエンドスピーカーブランド
二社のフラッグシップモデルを常設展示したという歴史を下記にて紹介していた。

当時のWilson AudioはFOCALのスピーカーユニットを採用していたのだから興味深い。
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/lhs2.html

その後には輸入商社が移り変わりFocal-JM Labとの距離感が大きくなっていた時代が
あったが、昨年からラックスマン株式会社が取り扱うようになり、FOCALブランドと
しての世界戦略でも大きな位置を占めるようになってきた。

FOCALとの関りを大変簡単に紹介したが、初代Grande Utopiaからの変遷を歴代モデルと
して比較すると次のようになる。その最新型Grande Utopia EM Evoが遂に上陸した!!
http://www.dynamicaudio.jp/file/20181114-01.pdf

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

そして、2018年11月某日、新横浜駅近くにあるラックスマン株式会社に赴き、
更に進化したFOCAL Grande Utopia EM Evoをじっくりと試聴することになったのです。
http://www.dynamicaudio.jp/file/20181114-02.pdf

全高2,012mmというGrande Utopia EM Evoがどんなサイズ感かというとこんな感じ。
http://www.dynamicaudio.jp/file/20181111-focalGUEME.01.jpg

ラックスマン株式会社は八階と九階にオフィスが、地下一階に試聴室を設けており
目測では天井高は約2.7メートル、縦横大よそ6メートル四方とお見受けした。
出来る限りの音響的な処置をしたという空間に下記のようにセットされていた。
http://www.dynamicaudio.jp/file/20181111-focalGUEME.02.jpg

当日の使用システムは次の通りでコンポーネントとケーブルはすべてラックスマン。

CD/SACDプレーヤー D-08u ¥1,100,000 
http://www.luxman.co.jp/product/d-08u

プリアンプ C-900u ¥1,100,000
http://www.luxman.co.jp/product/c-900u

パワーアンプ M-900u×2台 @¥1,100,000 ★バイアンプ仕様として二台使用
http://www.luxman.co.jp/product/m-900u

インターコネクト JPC-15000 ¥88,000 
http://www.luxman.co.jp/presspro/jpr_jpc_jps15000

スピーカーケーブル JPS-15000(3m) ¥320,000

スピーカー FOCAL Grande Utopia EM Evo(ペア) ¥27,000,000
http://www.luxman.co.jp/presspro/utopia-3-evo

この日、私は最初にかける曲はこれと決めていました。たった78秒間だけしか
使わないという、このCDを持参して行ったのです。

Handel's Messiah: A Soulful Celebration
https://en.wikipedia.org/wiki/Handel%27s_Messiah:_A_Soulful_Celebration

ネットで検索すると中古ディスクでもかなりいい値段がついているという話しを
耳にしましたが、現在当フロアーの二大リファレンススピーカーに対して次の
ようなテストを行ってきた選曲です。

2018年2月19日 No.1457
H.A.L.'s One point impression!! - HIRO Acoustic Laboratory MODEL-C4CS!!
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/1457.html

2018年10月27日 No.1498
H.A.L.'s One point impression!! - Y'Acoustic System Ta.Qu.To-Zero Vol.2
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/1498.html

上記のディスクの冒頭Overtureにおける最初の78秒間をのっけから大音量で
Grande Utopia EM Evoに叩きつけてみたのです!

左側から高速で叩かれるコンガの連打が右方向に流れるように展開し、カウンターが
00:12を示した瞬間に、とてつもない重低音のドラムによる強烈な打撃音がセンター
より右寄りの奥深いところから叩き出されます。この瞬間は快感でした!

大口径で重厚な低音のドラムの打音は極めて鮮明なインパクトの瞬間から、
揺れながら響き続ける太鼓の胴の重量感ある低音を長く長く空中に保ちながら
Grande Utopia EM Evoの低域再生能力の限界に挑戦してくる!

そのドラムの重量感と残響の克明さは前例のないほどのレベルであり、更に長く
尾を引く余韻が空間に満ち溢れる。これ程の揺らぎと情報量が隠されていたことに
驚愕し、次の展開を待っているとセンターから前例のない程のエネルギッシュな
タムが叩き付けるような打撃音を繰り出してくる! Grande Utopia EM Evoは凄い!

CDプレーヤーとプリアンプのリモコンを両手に持って、最初は控えめに…
次第にボリュームを上げて、あのアグレッシブで破壊的なドラムを何度も繰り返し、
Grande Utopia EM Evoが悲鳴を上げる寸前まで、いや! 実際には私の耳がギブアップ
するところまでパワーを上げ続けていったのです!

最初の曲からこんな大音量で鳴らすのか!? とラックスマンの皆さんは呆れていた
かどうかは分かりませんが、そんなテストを繰り返し内心に湧き起ってきた熱い
感動を表情には出すまいとして、後方に座っている担当者の皆さんに無表情を
つくろって振り返り一言!!

「これいいじゃない! いい低域だよ!」

いきなり衝撃的な選曲で、しかも遠慮のない大音量で何回も繰り返して次第に音量を
上げていき、まだかまだかと内心ひやひやしていたであろうラックスマンの皆さんの
表情がいっきに崩れました! とたんに笑顔になった皆さんに向けての一言です。

以前からのFOCALの特徴である開口部の大きなバスレフポートから発生する低域の
質感を承知しているだけに、この曲でドラムの大振幅の再生音がどうなるのか、
どっと空間を埋め尽くす洪水のような低音が出たらどうしようか!?

その段階で評価項目を切り替えて良いところを発見できる無難な選曲に変更して、
この場をつくろっておこうかと心構えしていたのですが、なんのなんの!

ハイテンションで引き締まった剛性の高い強烈なドラムが、私の肌に体感として
感じ取れるような音圧として感じられるほどの、言い換えれば当フロアーの
リファレンススピーカー二者に匹敵するほどのクォリティーを見せつけてくれ、
たった78秒間で私の懸念はあっというまに蒸発してしまったのです!!

「おいおい、この低音! 本当にバスレフなのかよ!」

1995年の初代Grande Utopiaでは“ラミナーフロー”と称する独特なポートを
エンクロージャーの最下部に設けていました。これは一般的な円筒形のバスレフ
ポートではなく、小型のCWホーンがフロントに向けられているというものでした。

ちなみにCWホーンとはホーンのスロートからマウスまで横幅一定のホーンのこと。
コンスタントワイズの略です。自作しやすい構造でバックロードホーンとして
採用されることが多い形式です。

ただ、当時のJM Labはウーファーユニットにホーンロードをかけて低域共振を狙い、
低域の再生帯域を拡張しようとしたものではなく、それでなくとも強力な同社の
ウーファーユニットで十分なレスポンスが得られるので、円筒形バスレフダクトに
よる風切り音と共鳴というデメリットを解消するためのトランスミッションラインと
考えた方が良いと思います。

つまり、低域の応答性を改善する一手段ということでしょう。

この段階で下記ラックスマンのプレスリリースを再確認する。間違えようがない。
バスレフ型しかFOCALは作らないはずなのだから。
http://www.dynamicaudio.jp/file/20181111-08.pdf
http://www.dynamicaudio.jp/file/20181114-02.pdf

そこで私はレディーには失礼ながらGrande Utopia EM Evoのスカートの下をのぞき
込んでしまったのが次の写真。こな写真は決してカタログには載せません。
http://www.dynamicaudio.jp/file/20181111-focalGUEME.03.jpg

間違いなくウーファーエンクロージャーの下には大きなポートがあります。
そして、上記で述べた“ラミナーフロー”同様に長い波長となる低音を遅延なく
滑らかに放出するためのデザインが施されているのも観察できました。

このポートは私の手の平がちょうど開く程度に開口部が大きなものです。
さすがに深さがどのくらいあるかは分かりませんでしたが、励磁型40センチ大口径
ウーファーの背圧処理を行うには十分なものでしょう。さすがです!

たった78秒間の再生音からGrande Utopia EM Evoの低域に関する考察が次々と
頭の中に沸き上がってくるのですが、私にとっては非常識な低音なのです!
こんなバスレフの低音は出るはずがない!

HIRO AcousticsとTa.Qu.To-Zeroという二大リファレンススピーカーは完全密閉型。

この両者で聴いてきた重厚でありながら膨らまない低音、バスレフポートから排出
された背圧が位相と時間が遅れて音像の輪郭を惑わすような低音ではないのです。

これはおかしい!? Electro-Magnet/40cmサブウーファーだからなのか?
http://www.dynamicaudio.jp/file/20181114-10.pdf
https://www.focal.com/en/focal-teach/electro-magnet-em

そこで私はプレスリリースを見直し、ラックスマン担当者に確認を求める。
http://www.dynamicaudio.jp/file/20181114-02.pdf

「このウーファーのクロスオーバー周波数はいくつですか?」と…

答えは80Hzです! これです、私が納得出来なかったバスレフの低音という
既成概念を覆した正確無比な低域の質感の秘密がここにあったのです!!

他のメーカーのスピーカーだったら30センチウーファーを基にした3ウエイスピーカーと
いうのは当たり前にありますが、Grande Utopia EM Evoには27センチ口径のミッド
ウーファーが装備されていて、これが80Hzから220Hzを受け持っているが、何と!!
これが密閉型だったのです!!

もはやミッドバス、あるいはミッドウーファーと呼ぶことがふさわしくないでしょう。

この27センチドライバーは名目共にウーファーであり、上記の巨大なバスレフ
ポートによって制御されているのがサブウーファーということで私は納得しました。

「Grande Utopia EM Evoの低域は密閉型のメリットを持ちながら、超低域のみを
 バスレフということであれば私は大賛成!! これはいいですよ!!」

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

最初の選曲でGrande Utopia EM Evoの素晴らしい低域に感動しましたが、この一曲は
27センチウーファーの質感が私の求めている方向性にマッチしているという事が
確認出来たというもので、検証したいポイントはまだまだあります。そこで次の一曲。

H.A.L.'s One point impression!! - Y'Acoustic System Ta.Qu.To-Zero Vol.3
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/1500.html

上記で使用したCheryl Bentyne「THE COLE PORTER SONGBOOK」の11.Bigin The Biginです。
http://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKICJ-567/

Dave Tullのドラム伴奏だけというCheryl Bentyneのヴォーカルが冴えわたる一曲。
ほぼイントロなしでヴォーカルが入ってくるが、いやはや…声質の素晴らしこと!

後に他のヴォーカルも聴くので中高域の質感については後述するとして、私は更に
Grande Utopia EM Evoの低域を観察することにした。

全曲の典型的ポップス調の録音と違いアコースティックなドラムという楽音は
倍音成分を多分に含んでいる。これは高域に向けて二倍、四倍という高調波も勿論だが、
逆にサブハーモニクスという1/2、1/4という低周波も含まれているということ。

密閉型エンクロージャーでは理論値通り、ほぼ-6dBで減衰していくサブハーモニクスを
Grande Utopia EM EvoはElectro-Magnet/40cmサブウーファーに託すことで再生帯域を
拡張しつつコントロールするという芸当を可能にしている。

今後の解説に必要になるので、ここでGrande Utopia EM Evoの取り扱い説明書を
一度開いておいて頂ければと思います。実物は64ページに及ぶ厚いものですが、
日本語のページのみ抜粋したものが下記のリンクとなります。

そして、今後引用するページは説明書各ページの右上にある小さな黒ベタ白抜き
ページ数であり、pdfファイルのページナンバリングではありませんのでご注意下さい。

■Grande Utopia EM Evo取り扱い説明書抜粋(各ページ数にて引用・参照のこと)
http://www.dynamicaudio.jp/file/20181114-12.pdf

先ずGrande Utopia EM Evoのサブウーファーに関して接続方法から述べていきます。

取り扱い説明書の20ページにサブウーファーのコントローラ―がありますが、
パワーアンプとの接続に関しては書かれていませんので、次の画像をご覧下さい。

http://www.dynamicaudio.jp/file/20181111-focalGUEME.06.jpg

よく見かけるバイアンプ、バイワイヤー対応入力ターミナルですが、MAIN INPUTと
SUB BASS INPUTに分かれているところに注目して下さい。一般的なスピーカーでは
ミッドハイレンジとウーファーに分けているのですが、Grande Utopia EM Evoでは
何とサブウーファーのみにパワーアンプ一台をあてがうという方式なのです。

それだけ80Hz以下の超低域にこだわっているということで、それが今後の試聴で次第に
浮き彫りになってきますので今の段階でこのポイントを説明しておきたかったものです。

Grande Utopia EM Evoのベース部ではスピーカーケーブルのバインディングポストの
後ろにDC terminalがありますが、そこにAlimentationからのケーブルを接続すると
いうことが書かれています。聴き慣れない言葉ですが、これはpower supplyの意味。

下記がその実物の画像ですが意外とコンパクトであり、上部のSubwoofer level settingの
ダイヤルをいじっていく実験を二曲目の課題曲でやってみたのです。これが面白い!!

http://www.dynamicaudio.jp/file/20181111-focalGUEME.05.jpg

Dave Tullのキックドラムに集中してElectro-Magnetサブウーファーの電源部にある
ダイヤルのセンターNOM(nominal positon)で最初から聴いてきたわけですが、
その状態では密閉型スピーカーに比べてキックドラムの打音の余韻が空間に拡散して
いくようなイメージで独特の響きを伴っていることが分かります。

それを思い出すと完全密閉型エンクロージャーのTa.Qu.To-Zeroでは、このキック
ドラムの音を言葉にして「ドン!」「ドス!」「バス!」「バン!」と例えるのが一般的
かもしれませんが、「ドッ!」「バッ!」という感じになると述べていました。

センターNOMの位置ではまだ「ドス!」「バス!」に近い質感と言えると思います。

これを数秒間聴いて確認し、次は@の一番低いレベルにすると「ドッ!」「バッ!」に
かなり近くなりますが、前述のサブハーモニクスの含有量がちょっ不自然になると
いう分析ができるのです。これはHIRO AcousticやTa.Qu.To-Zeroで密閉型スピーカー
での低域を聴き続けてきた私だから指摘出来ることかもしれません。

それでは試しに最大値にしてみようとDでキックドラムを聴いたのは五秒間くらい。
これはもうサブハーモニクスが過大で膨らみ過ぎたドラムは聴くに堪えません!

最小最大を比較してBにしてみると、条件付きで「これもありかな〜」という判定。

その条件とはルームアコースティックにおいて木造建築で低域が抜けて行っていまう
場合と、選曲によって低音の通奏楽音が多用されている曲などを控えめな音量で聴く
という場合には推奨範囲と言えます。さて、ここで種明かしをしましょう!

■Grande Utopia EM Evo取り扱い説明書抜粋(各ページ数にて引用・参照のこと)
http://www.dynamicaudio.jp/file/20181114-12.pdf

上記の46ページをご覧下さい。上記のダイヤル操作によって聴感上の変化を簡単に
述べましたが、このページのグラフに示されているレスポンスの変化が起こっていたわけです。

それをキックドラムという倍音成分の多い楽音で実験すると音質変化が大変分かりやすいのです!

さて、ここで足元のElectro-Magnetサブウーファー電源部から目を上げて、次の
ポイントを今の段階で説明していきたいと思います。

レディーがまとうドレスの背中のファスナーを下ろすように、Grande Utopia EM Evoの
リアパネルを開けてみたのが次の画像です。

http://www.dynamicaudio.jp/file/20181111-focalGUEME.08.jpg

各ジャンパーケーブルの設定項目が分かりやすいように違う角度で次の画像。

http://www.dynamicaudio.jp/file/20181111-focalGUEME.07.jpg

上記二枚の写真を見て何か気がつきませんか? なに〜もったいぶるなって!?

Electro-Magnetサブウーファー電源部のダイヤルでセンターNOMより1ステップ上の
Bにして条件付きと述べていましたが、その私の条件をクリアーするチューニングの
結果が上記の写真に写っているわけです!

はい、SUB BASSのジャンパーが左側の@LOW Qに変更しているということなのです。
これはどういうことかというと、上記の46ページの下のグラフをご覧下さい。

Sub-Bass(サブウーファー):Qファクター(超低音の電磁制動)の調整という項目で
制動力を高めて結果的に周波数特性としてレスポンスを抑えるチューニングとしたのです。

要点としてはサブウーファーの存在感を超低域の余韻感を大切にしつつ、しかし
低音が膨らまず制動感をちょっぴり高めるという考え方のチューニングということです!

そして、前述の条件の一項目はクリアー出来ますが、どうしても変更できない条件とは
ルームアコースティックという環境による変化です。つまり、以上の設定に関しては
ラックスマンの試聴室における…という大前提があることを注意しておかなければ
なりません。

ですから、Grande Utopia EM EvoをH.A.L.で鳴らしたらどうか、あるいは一般ユーザーの
部屋で鳴らしたらどうか、ということになると以上の低域セッティングは根本的に
変わってくるということなのです。

どうやったら適切なチューニングが出来るのか!? はい、そのために私がいます!!

超低域の振る舞いはマイクで測定した伝送周波数特性のグラフを見ただけでは分かりません。
それこそ多数の音楽を聴きながら経験に基づいたハイセンスなチューニングが必要と
いうことになろうかと思います。

失礼しました。話が営業トークになってしまいましたので戻すことにしましょう。

次に説明書の47ページをご覧下さい。ここに27センチウーファーの特性がグラフで
示されています。最初の選曲で、このウーファーが密閉型であるということを私は
大変高く評価していますが、レスポンスとしてはこのようになっています。

ここで更にもう一つの注意点がありますが、本稿を執筆するに当たり私は輸入元
ラックスマンを通じてGrande Utopia EM Evoのクロスオーバーネットワークの
スロープ特性はマイナス何dBなのかを問い合わせたのですが、どうやらFOCALは
独自のノウハウというか企業秘密ということで教えてもらえませんでした。

ということは、取扱説明書のグラフにあるフィルター特性は厳密なものではなく
説明しやすくするためのイメージとして理解した方が良いかと思います。

というのもグラフの縦軸が+2dBから-6dBまでしかないので、レスポンスの変化量を
大変デフォルメして見せているということからも推測されるからです。

だって公開しているクロスオーバー周波数でゼロdBぴったりなどということは
ほとんどあり得ないもので、きれいに見せているな〜という象徴的なグラフですから。

また、サブウーファーとウーファーのグラフでは横軸の周波数のプロットの仕方が
違っていますので、そこもご注意頂ければと思います。

私は試聴した上で、この27センチウーファーの設定はANORMALで変更はしていません。
低音楽器の基音が集中している帯域であり私の耳ではLOWとHIGHでも変化量が大き過ぎて
楽音の質感そのものが変質してしまうのでフラットなままとしました。

ミッドレンジとトゥイーターも同様で結果的にはフラットなままとしました。

実は、この辺は後述するオーケストラでの試聴と大きく関わることなのですが、
この際ですから一気に各帯域における私の分析をここで述べてしまいましょう。

ミッドレンジのレベルもNORMALの他、LOWとHIGHでも試聴しました。

オーケストラの選曲で判断したものですが、単独でミッドレンジだけをLOWとHIGHに
切り替えると弦楽器の質感が変化し過ぎてしまい、どうにも聴いていられません。
これは一番分かりやすいレスポンスかと思います。

次にトゥイーターですが、レベルをいじるとしたらルームアコースティックで高域の
反射音が大きい時と吸音され過ぎで高域が乏しくなる時にいじっても良いと思います。

その際に上記のミッドレンジを連動して調整すべきであり、室内のコンディションに
よっての判断で良いと思います。

言い換えればスピーカーの近くに大きい面積のガラスがあり高域の一次反射音が
大きい時などはトゥイーターとミッドレンジをLOWにする。また同様にスピーカーの
付近に厚手のカーテンがあったり、布製家具などで高域の吸音率が高い場合などは
HIGHにしたりという調整ということになります。

ただ一つ面白いのはトゥイーターのSLOPE特性のジャンパーケーブルの設定です。

NORMALの他、SOFTとPRESENCEというポジションがありますが、一般的なトーン
コントロールのように周波数が高くなるにつれてハイ上がりになったり、逆に
高域がロールオフしていくようなカーブではなく、トゥイーターのローカットの
ターンオーバー周波数となる2.3KHz付近のレスポンスが変化するとグラフで示されています。

しかし、不思議なことに耳で聴いていると2.3KHzよりもっと高い帯域での変化として
感じられるということなのです。ですから、スタジオ録音のジャズやポップスでの
高音楽器、シンバルやハイハットなどの各種パーカッションの高音などの輝きが
心地よく聴こえる変化でもあり、全体的に余韻感が向上するのでPRESENCEのみを
単独で変化させることも条件付きでありかなと思います。

また条件付きと言いましたが、オーケストラにおける弦楽器の音色やヴォーカルの
さ行の発音などにナイーブなイメージを好むか、少しエキセントリックな質感を
好むかという使い手の選択で良いと思います。

これは同時にミッドレンジのハイカットフィルターとの関連性もあり、二つの
ユニットが共同作業で音楽の中心帯域を再生しているということです。

ここだけは好みに応じていじっても演奏全体のバランスを大きく崩すことは
ないので楽しみながらで良いと思います。

さて、説明書の48ページでは理想条件下でのフラットレスポンスというグラフが
ありますが、これは説明の要はないと思います。49ページのJPの解説通りです。

面白いのは50ページと51ページです。前ページでの理想条件に対して実際の部屋で
伝送周波数特性がサブウーファーの調整で、こう変化するというグラフです。

このグラフも80Hzというクロスオーバー周波数からのレスポンスを描いていますが、
実際のルームアコースティックではグラフの見た目以上に音質変化が大きくなります。

それを私は一番最初に述べていたものです。ここで注意しなければならないのは
試聴に使う選曲です。100Hz以下の低音が含まれている録音かどうか、それを
知らずに調整しようとしたら過剰反応を起こしてしまうからです。

録音によっては超低域をカットしてリズム楽器の低音部の抜けを良くする、
切れ味の良い低音として音楽を仕上げるなど、ローカットすることでドラムなどの
テンションが高まり鋭くなるという傾向を意図的にマスタリングの段階で処理して
いる録音が結構多いということなのです。

その様に意図的にローカットした録音でチューニングすると他の録音では低域が
溢れ出してしまうということになりますのでご注意下さい。

52と53ページとはサブウーファーのレベル調整に関するグラフと説明があります。
これも上記で私が選択したサブウーファー電源部のダイヤルとの関連性が必要です。

コツを簡単にお話ししますと、サブウーファーの帯域は量を増やしたら引き締める、
量を減らしたらテンションを緩めるというさじ加減が重要なのです。
難しそうに聞こえますが面倒でしたら私を呼んで頂ければと思います。簡単です!

54と55ページは27センチウーファーの説明です。これはですね〜、私が評価した
密閉型エンクロージャーによる低域なので、レベルを変化させても音色に与える
影響は比較的少なくてすむ帯域ということになります。

しかし、上記に述べたトゥイーターとミッドレンジの連携によって楽音の質感を
壊さないようにすると説明しましたが、実はこれもサブウーファーとの連携を
重要視するところであり、スタジオ録音で鮮明に録られている特定の低音楽器だけに
フォーカスを合わせてチューニングしてしまうと低域過多になってしまいやすい
ところです。ほどほどにということと、室内の定在波と関わってくるところなので
慎重に取り組みたいところです。

56ページ以降は前述したミッドレンジとトゥイーターのグラフと説明になりますが、
両者の連携は既に述べているので、取扱説明書の説明(笑)はここまでとしましょう。

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

■HELGE LIEN / SPIRAL CIRCLE   7. Take Five
http://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245411462

最近多用しているシステム全体でのトランジェント特性を観察するための選曲。
同時に前述の二曲で分析しチューニングしてきた低域の再現性をチェックする。

このキックドラムも前曲同様にアコースティックな録音であり、「ドス!」「バス!」と
いうよりは「ドン!」「バン!」と聴こえる。ドラムヘッドをビーター (Beater)が
叩いたインパクトの瞬間はドライであり、からっとした打音は後を引かない。

いや、正確にいうとアタックの瞬間から数ミリセカンドの響きと余韻は録音されて
いるものの、低域の制動力によってスピーカーのウーファーがドラムの胴のように
二次的な残響を付加していないので大変高速反応のキックドラムとなる!

極めて短時間のインパクトであるのに重量感を周囲の空気を震わせることで表現し、
サブウーファーの制動力がことごとく打音の造形に貢献してくる。ここで再度、
Electro-Magnetサブウーファーという他社にないテクノロジーを見ておきたい。

http://www.dynamicaudio.jp/file/20181114-10.pdf

これだけの物量投入を行い40センチという大口径サブウーファーを搭載した意味が、
ポートチューニングによって濁ることのない爽快で圧巻の低域を叩き出す!

ここでのドラムは多彩なパーカッションを叩きまくるが、小さな金物を鋭くヒットする
パートが盛んに表れる。「カキイーーーン」「カチイーーーン」と、そもそもは
トゥイーターなどない空間に、あたかも音源がそこにあるかのように定位鮮やかな
高音階の打音が中空を跳ね回るかのように躍動する音に背筋が緊張する!!

「こんな高域は覚えがない! 純粋であり濁りなく何たる透明感か!」

弦楽器の高調波の音色においてもトゥイーターは重要なわけだが、極めてシンプルに
ハーモニーが伴わない甲高いパーカッションの透き通る質感が記憶にないことに気付く!

http://www.dynamicaudio.jp/file/20181114-07.pdf

上記のリンクは2ページあるので後者を是非確認して頂きたい。私はトゥイーターの
ダイヤフラム後方への背圧が、ドライバーユニットの容器の内部構造によって跳ね返り
振動板を後ろから叩くことによって高調波歪が発生し音質を損ねるという理屈を何回も
述べてきたことがある。

その代表的な事例がB&W Noutilusのサイレンサーロッドの原理、そしてスピーカーの
価格に関わらず良いものは良いと大変高く評価したMORDANT-SHORT Performance 6 !

H.A.L.'s One point impression!!-MORDANT-SHORTの奇跡!!
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/828.html

下記にてATT (Aspirated Tweeter Technology)という解説をご覧下さい。
http://naspecaudio.com/discon/performance6/

トゥイーターのクロスオーバー周波数としては低めの2.3KHzから40KHzという
超広帯域を受け持つ革新的なアイデアと構造はスピーカーユニットそのものを
内製化しているFOCALの大きな強みであり、目の前に展開する輝く星々のごとくと
言える鋭く細かい金属の打音の純粋さを裏付けていると確信する。この高域凄いです!

最低域と最高域の両端で極めて高い追随性を打音で示し、音量を上げても少しの
滲みも発生しないGrande Utopia EM Evoに私は只者ではないと頭の中でマークした!

さて、次の選曲だ!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

■FIFTY SHADES OF GREY ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK
  3.THE WEEKEND / EARNED IT(TRADUCIDA EN ESPANOL)
http://www.universal-music.co.jp/p/UICU-1262

今まではアコースティックなドラムに注目する選曲が多かったが、飾り気のない
打音の正確さに注目しインパクトの瞬間と、その後の音場感としての拡大に視点を
おいてのGrande Utopia EM Evoの魅力を感じ取ってきたが、スタジオワークにおいて
入念なリバーブ処理による空間を作り出している選曲とヴォーカルにスポットをあてる。

HIRO AcousticsとTa.Qu.To-Zeroという二大リファレンススピーカーで何回となく
聴き続けてきたEARNED ITのディスクをローディングしてリモコンを手にした。

「おおー! 何とも凄まじいエネルギー感! でかい、こんなスケール感が出せるのか!」

イントロのスネアーと低弦楽器が同期した爆発する低音のダイナミズムに震える!

恐らくはサンプリング音源から作ったのではと思われる何層にも響きを残す重厚な
低音がサブウーファーの存在感を吹き飛ばして炸裂する!

せっかくの強力な40センチウーファーを無視しての言葉ではない。重々しさという
感触を、濃厚な低音として不純物を溶かし込んだような低音ではなく、極めて高速
反応で低歪の低域が放つ爽快な響きの拡散領域が広大であるが故の言葉のあやだ。

しっかりと重低音の波動感を持ちながら、その滞空時間が極めて長いという事実。

サブウーファーがポートの共振周波数に縛られることなく、低音が消滅していく
までに広がる空間の大きさは私の視界から外れるほどに拡張していく素晴らしさ!

打音のインパクトの瞬間だけでなく、この曲のように重奏する低音が極めて正確な
余韻感として空間を構成するということは各帯域ユニットの性質が均一化され
コントロールできることが重要! と思ったらFOCALは下記のように当たり前のこと
として自社開発の振動板を徹底使用していたのです。これも押さえておきたい!

http://www.dynamicaudio.jp/file/20181114-09.pdf

そこに登場したファルセットボイスの音像はGrande Utopia EM Evoの巨体に似合わず、
ジャストセンターの空間に焦点を合わせたクロスヘアの中心に極めて鮮明な像を結ぶ!

透き通るようなヴォーカルがくっきりと提示され、トゥイーターと連携するミッド
レンジドライバーの底力が前曲のドラムとは異なる説得力をもって迫ってくる!

超強力な低域ユニットと新開発の構造を持つトゥイーターとを結ぶミッドレンジ
ドライバーと、それを搭載するエンクロージャーデザインを想起させる音質に
私の視線は見逃してはならないポイントに向けられた。

TMD SUSPENSION(TMDとはTuned Mass Damper)
http://www.dynamicaudio.jp/file/20181114-03.pdf

ミッドレンジは220Hz以上を受け持つが、このクロスオーバー周波数だと結構な
低域成分が含まれてくるので振動板のストロークも大きくなる。そこで大振幅の
際にエッジが伸び切った状態で機械的反作用が発生し歪率が悪化することを防止
するための特殊なリブ構造を取り入れたというイメージ図である。なるほど!

NIC MAGNETIC CIRCUIT(NICとはNeutral Inductance Circuit)
http://www.dynamicaudio.jp/file/20181114-04.pdf

マグネットとポールピースによって構成されるスピーカーの磁器回路の設計目的は
ボイスコイルギャップ内にいかに均一な磁束を安定的に作り出すかということ。

その要素としてボイスコイルに音楽信号の電流がダイナミックに流れた時に発生
する反発要素の磁力によって、規則性ある磁界が乱されるのを防止するという
目的で採用されたのが上記のファラデーリング(NIC)という部品です。

磁気回路の中に真鍮や銅の部品をボイスコイル付近に置くことで磁界の安定化を
図るというのは呼び方は違うものの他のメーカーでも取り入れている技術ですが、
磁気歪がこんなに減少するというグラフを堂々と見せるのだから相当な自信です。

MRR CABINET STRUCTURE(MRRとはMachined reinforcement rings)
http://www.dynamicaudio.jp/file/20181114-05.pdf

B&W 800D3シリーズでも同様なことをやっています。フロントバッフルの内側に
アルミフレームを格納して、そこにウーファーユニットを直接取り付けることで
振動モードを拡散してエンクロージャーへの不要共振を防止するというアイデア。

これをGrande Utopia EM Evoのミッドレンジと27センチウーファーの内側に仕込んで
いるということで、密度感と情報量に溢れるミッドレンジと密閉型ウーファーの
正確無比な低域をこんな裏方が支えているということも是非お知らせしておきたかった。

更に形状は異なるものの40センチサブウーファーの取り付け部に関しても同様な
アルミフレームが使用されていることも追記しておきたい。なるほどね〜!

Gamma Structure
https://www.focal.com/en/focal-teach/structure-gamma

上記のスピーカーユニット内部と周辺技術を包括して収容するエンクロージャーの
こだわりが上記のGAMMAです。最も厚い個所で50mm厚にも及ぶMDFで構築した鉄壁の
設計が素晴らしいものであり、更に下記に示すオーダーメードのカラーリングが美しい!

UTOPIA III EVO FINISHES
http://www.dynamicaudio.jp/file/20181114-11.pdf

FOCALのサイトでも上記テクノロジーの解説があります。
https://www.focal.com/en/focal-teach/

同社の他のスピーカーなも共通する技術解説は下記にてご覧下さい。
http://www.dynamicaudio.jp/file/20181114-08.pdf

聴き慣れた課題曲において今までに未体験の情報量が溢れ出し、それはスピーカー
ユニットだけが高性能だからというものではなく、スタジオで作られた精密な音場感と
いう余韻感が重要な響きの要素を上記のテクノロジーが総合的に作り出したのです!!

こんなにも広大に広がり展開するTHE WEEKEND/EARNED ITを聴いたのは初めて!!
早くオーケストラを聴きたい願望がムズムズしてくる!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

■マーラー交響曲第一番「巨人」第二楽章 小澤征爾/ボストン交響楽団

いつもなら真っ先に聴く私の定番課題曲を今回は最後に聴くことになった。

それはFOCALが考えている音の志向性に関して、特に低域の個性に関して私の
求めている方向性と異なるベクトルではないかという思いがあり、上記のように
気になるポイントを先に聴かなければオーケストラを聴いても意味がないと
僭越ながら思っていたからです。しかし…

HIRO AcousticsとTa.Qu.To-Zeroという二大リファレンススピーカーを手に入れた
私が採点するスピーカーの評価基準は本当に高いものになり、これらに匹敵する
魅力を発見できることが重要になっています。

ただし、それは価格的なものではありません。いくら高価であっても納得出来ない
ものは推薦出来ず当フロアーに置くことはありません。もちろん各社の個性を
認めた上の事なので低価格のスピーカーであっても、この私が聴いて素晴らしいと
思えるものは今後も自信をもって推薦していきます。

そんな自信の源は何か!?というと簡単です。ここで演奏して皆様に感動して頂けるか
どうかという聴き手の感性に対する説得力があるかどうかというシンプルな判定です。

もっと簡単に言えば「美味しいかどうか」感性で味わって頂き、聴いた後の表情が
笑顔になれば良い音なのです。これはお客様に日頃申し上げていることですが、
されとて私も同じ人間なので好きな曲を聴いた後にどんな表情になるかが問題。

LUXMAN D-08uのリモコンでトラック2を押し、C-900uのリモコンでボリュームを
上げていき、いよいよクライマックスとばかりボストンシンフオニーの登場を待つ!

「うわ〜、何という音数!!こんな緻密で濃厚なオーケストラだったのか!?」

この瞬間から内心では自分の顔がほころびていくことを自覚しているのですが、
癪に障るので表情には出さないという私の意地(笑)

冒頭の弦楽五部による壮麗なアルコによる合奏が始まった瞬間に経験のない情報量の
素晴らしさに戸惑い、数秒のうちに私の記憶のファイルをスキャンして該当なしと
フラッグがピンッ!!と頭の中に立ち上がる!!

指揮者はオーケストラの音を一つにまとめようと苦心するが、オーディオマニアは
オーケストラの各パートを分離して解像度を極めることに腐心するという皮肉が
Grande Utopia EM Evoによっていとも簡単に現実となる。しかし!

弦楽各パートの旋律が折り重なる響きのレイヤーとして何重にも交差しているが、
弦楽奏者の一人ずつが発する微妙な音色の違いをしっかりと含んでいる美しさ!

左右チャンネルから溢れ出る響きが左右反対方向へと導かれるように余韻を投げかけ、
ステージを埋め尽くすかのような残響のグラデーションが壮大な音場感を構築していく!

ステージ上手の遠くから力強いトランペットが灯台が発する一条の光のように輝き、
不思議なことに金管楽器の鋭さによる眩しさがないので心地よく消えていく残響を見送る。

弦楽の大波がひいた後に出来たステージの中ほどの空間から、木管楽器のソロバートが
ここぞとばかりに立ち上がって演奏したのかと思わせる存在感が実に鮮明で美しい。

うねるような旋律の展開に一服の鎮静剤のごとく、トライアングルが精巧な響きで
叩かれるポイントに視線が引き付けられると一瞬の鎮静化がなされたステージで
次の律動が動き始める。こんなに役者が多かったのか、見せ場があったのかと長年
聴き続けてきたCDが改めて私の宝物になったような感動が続く! 素晴らしいです!!

文句のつけようがないオーケストラに舌を巻き、それでも何か言ってやろうと、
感動しているくせに表情に出さないように気を引き締めて指摘したのがこれ。

http://www.dynamicaudio.jp/file/20181111-focalGUEME.04.jpg

リアパネルを開けると表れるクランクハンドル。これは何に使うのか!?
実は既に皆さんは見ているのですが再度下記の21ページを開いて頂きたい。

■Grande Utopia EM Evo取り扱い説明書抜粋(各ページ数にて引用・参照のこと)
http://www.dynamicaudio.jp/file/20181114-12.pdf

アメリカのWilson Audioはタイムアライメントとフェーズアライメントを各スピーカーの
前後位置関係を移動することで調整するという仕組みなのは知る人が多いと思います。

あるいは同様な原理を最初からスピーカーデザインに取り入れて、一般的なサイズの
部屋で使用する事を前提にして各ユニットの前後関係を設計時に決定しているという
メーカーも多いものです。

私は上記の説明書を見て大変合理的、かつ日本の住宅環境においてもマッチする
有意義な距離感の設定だと感心しました。

クランクハンドルを差し込んだトゥイーターエンクロージャーの上に光が反射している
小さな窓に気が付きましたでしょうか。その窓の中にカウンターが見えるのです。
それが下記のFOCUS TIMEという機構です。
https://www.focal.com/en/focal-teach/focus-time

今回の試聴を始めたセッティングは下記の状態でカウンターは111という設定値。
これはラックスマン担当者が測定し聴感上で決定したというもので私は納得しました。
http://www.dynamicaudio.jp/file/20181111-focalGUEME.09.jpg

好奇心旺盛かつ何かしら言わないと気が済まないという意地もあり、私自身で
クランクハンドルを回して何度も何度もカウンター000と111を比較したのです。
http://www.dynamicaudio.jp/file/20181111-focalGUEME.10.jpg

早速カウンター000で再度マーラー交響曲第一番を聴きます。すると…

「ほほ〜、こうなるのね〜。よしもう一度!」

結局、マーラーはカウンター000と111を三回ずつ聴いて納得しました。

更にヴォーカルでのフォーカス変化を確認したいので、これも定番の課題曲で
大貫妙子のATTRACTION収録の「四季」も二回ずつ比較しました。しつこいか〜
http://www.universal-music.co.jp/onuki-taeko/products/upcy-7103/
http://onukitaeko.jp/info/top.html

スピーカーとの距離が5メートル以上でカウンター000というポジションでは最初
音場感が広がったという感触がありました。これはひょっとしてありかな…と!

しかし、二回三回と繰り返していくうちに変化の傾向がつかめてきました。

カウンター000ではトゥイーターを中心にして展開していたステージの地平線が
上空に拡大するように音場感がふくらむというか、各パートの響きが上に向かって
伸びあがっていくように展開するのです。だから一瞬これも悪くないのかもと
思ってしまったわけです。しかし!

カウンター000での音像は逆に輪郭を失い存在感が希薄になり、緻密で濃厚だった
弦楽五部には隙間が生じ質感が淡泊になり、管楽器の音源の存在感は薄まり明確な
定位感がなくなりぼんやりとした遠景の中に埋もれてしまったのです。そうか!

大貫妙子のヴォーカルでもリバーブのかかり方が強調されるのか、唇のフォーカスが
甘くなってしまい余韻の広がりの中に焦点がばらけてしまう印象があります。

ストリングスが入ってくるとヴォーカルのリバーブは意図的に取り払われ、バックの
弦楽の響きと混同しないようにとエンジニアの操作がなされている録音のはずが、
ヴォーカルの音像が不鮮明になってしまうので前後感も損なわれています。

そんな変化を確認した上で再度カウンターを111に戻すと、今まで述べてきたような
空間での音源位置がビシッと復活し、巨体に似合わない細やかでデリケートなタッチが
戻ってくることを確認しました!!

この実験は大変有意義であり、ハイエンドスピーカーの本質と価値観を十分に
発揮してくれたものでした。私の好奇心と興味本位な実験試聴に快くお付き合い
頂いたラックスマンの皆様に心からお礼申し上げます。ありがとうございました。

さて…、こんな贅沢な試聴を約三時間に渡り行い、今までの記憶にないほどの魅力と
能力を見せつけてくれたGrande Utopia EM Evoをどうしたらよいのか!?

これ程のグレードであることを確認した私は、Grande Utopia EM Evoというフラッグ
シップの価値観通りに日本のオーディオファイルに聴いて頂き評価して頂くには
どうしたらいいのだろうかと帰路の車中にて考え始めていたのです。そして…!

■上記新製品の新企画はハルズサークル限定にて実施の可能性があります。
 この機会に是非ハルズサークルにご入会下さい。

川又利明
担当:川又利明
TEL 03-3253-5555 FAX 03-3253-5556
kawamata@dynamicaudio.jp

お店の場所はココです。お気軽に遊びに来てください!


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