《H.A.L.'s 訪問記》


No.0010 - 2008/6/28

神奈川県横浜市 M.K 様-H.A.L.'s 訪問記

Vol.10「オーディオ的ダイエットに成功したGENESIS 5はこんなに魅力的!!」

2008年4月のある日、M.K 様からSound checkへのご応募を頂戴しました。

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川又様

横浜方面であまり大きな買い物していない者も該当しますか。

抽選でもなんでも結構です、迎えが必要なら喜んでお迎えに伺います。
ということで意思表示させて頂きますが、他にも希望者が多数でしょうね〜
気長に待ちます。

とても楽しみですがHAL会員に比べ陳腐な装置では、アドバイスは皆さんの
役に立たず掲載できるものではないと心配でもあります。

ぜひ悩める音の巡礼者に愛の説法を。

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このようなご応募を頂戴していながら、中々お伺い出来ず大変申し訳ございま
せんでした。また、ご愛用のシステムには関係なくハルズサークルの皆様への
無形のサービスとして実施しておりますので、どうぞ気になさらずにご利用
頂ければと思います。さて…

M.K 様とも10年以上のお付き合いになりますが、ずっと以前はQUADのESL63を
愛用されておられ、その持ち味を生かしての発展的なスピーカーの更新という
ことで8年前にお求め頂いたのがこれでした。なんだかわかりますか!?

http://www.dynamicaudio.jp/file/080622/732.jpg

皆様は、このスピーカーお分かりになりますか?
ハルズサークル会員の中にも他に愛用者がもいらっしゃるということは承知し
ていますが、今回はこのスピーカーならではの能力と魅力を堪能させて頂くこ
とが出来ました。

当日はあいにくの天気でしたが、私も会社を早めに出かけて一路横浜へ向かい、
わざわざ駅までお出迎え頂き大変恐縮しております。ありがとうございました。

保土ヶ谷近くの小高い丘の上から南方向に望み「私が子供の頃はここから海が
見えたものですよ」とおっしゃるM.K 様は幼少の頃からの横浜っ子だという。

その丘の南斜面の中腹に瀟洒な洋館という風情でたたずむご自宅は既に建築
されてから20年以上は経ったという。随分とおしゃれでモダンなデザインの
お住いであられる。さすがに建設関係のお仕事で海外通でいらっしゃるのか、
こだわりのツーバイフォー建築を恐らくは当時の一般人が知る以前に実行され
たというのだから驚いてしまった。

現在は一男一女お二人のお子様も独立され、ご夫妻とコリー種の愛犬とで暮ら
していらっしゃるという。この日も玄関では奥様とワンちゃんにお出迎え頂き、
恐縮しながらリビングルームへとご案内頂いた。

お子様たちが同居されていた時代には二階の書斎にてオーディオシステムを
セットされ、ご家族を呼び寄せては一緒に音楽を楽しんでいたという。
だが、さみしい事にお子様たちも成長するに従って自室に誘っても来ないよう
になってしまい、それなら一階のリビングにセットし直せば家族団らんで聴け
るだろうと考えられたという。それも納得のストーリーというもの。

しかし、いざリビングにオーディオシステムをセットしたら、今度はお子様
たちは二階の自室に上がってしまい一緒に聴くことがなくなってきたという。
私は微笑みながらお話しをうかがいつつ、それも納得のストーリーかもと^_^;

そんな思いのリビングルームにはピアノが設置されており、ピアノの鍵盤の上
から↓カメラを向けるとこのような雰囲気でした。大きな出窓はアメリカ製の
二重ガラスを輸入し取り付けたものというこだわり。音量は好きに上げていい
ですよ、とおっしゃる。インテリアにも凝った心休まるお部屋でした。

http://www.dynamicaudio.jp/file/080622/702.jpg

オーディオシステムの正面からは…

http://www.dynamicaudio.jp/file/080622/691.jpg

フロントエンドはこのように…

http://www.dynamicaudio.jp/file/080622/694.jpg

では、M.K 様のシステムをご紹介致しましょう。


◆H.A.L.'s 訪問記-Vol.10  神奈川県横浜市 M.K 様システム構成◆

………………………………………………………………………………
CARY  CD-306/SACD (税別\1,200,000.)
http://www.crossover.co.jp/
 
        □Power equipments□
Ilungo audio AC Cable (販売完了)
………………………………………………………………………………
                ▽ ▽ ▽

Ilungo audio   animato-12SN 1.0m RCA-RCA (税別\195,000.)
http://ilungo.com/page/productsframe.html

                ▽ ▽ ▽
………………………………………………………………………………          
Ilungo audio   crescendo205 versionSN (税別\420,000.) 
http://ilungo.com/page/productsframe.html
http://www.dynamicaudio.jp/file/080622/729.jpg

………………………………………………………………………………
                ▽ ▽ ▽
                                      
Transparent MUSIC LINK ULTRA (7m) 
http://www.axiss.co.jp/ftran.html
              and
Purist Audio design(Rca/M-Rca/F*2)Adapter

                ▽ ▽ ▽
………………………………………………………………………………

MarkLevinson No.336L  (税別\2,000,000.) 
http://www.dynamicaudio.jp/file/080622/697.jpg

………………………………………………………………………………
                ▽ ▽ ▽
 
PAD  Maximus Bi-Wire 4.5m (税別\330,000.) 
 
                ▽ ▽ ▽
………………………………………………………………………………
GENESIS  GENESIS 5(税別 \2,250,000.)
http://www.dynamicaudio.jp/spd/hal/oto/oto26.html
               with
murata ES-103A(税別\200,000.)
http://www.murata.co.jp/speaker/tw/index.html
               and
H.A.L.'s  Original Products"B-board"×2(税込み販売価格\268,000.)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/BZ-bord.html
………………………………………………………………………………

今までのSound checkの訪問では聴かせて頂いた第一印象でも皆様ひとしおの
音質であり、私としては訪問記の中でも述べているように私が承知している
コンポーネントのグレードにふさわしい本来の音質を確保するということを
目指していました。

また、ユーザーのお部屋と環境においてベストと思われるコンディションを
設定するということを主眼に調整させて頂いております。これらは製品を新規
に販売しようということではなく、過去にお求め頂いた投資効果のあり方を
私のレベルで妥当なものに仕上げたいというものでした。

言い換えれば、私が訪問して調整させて頂いた後であれば、お客様の任意に
よってケーブルやアクセサリー、もちろんコンポーネントも含めて、より良い
ものを導入されたとき(ハルズモニターで自宅試聴したときにも)に投資効果と
して音質の違いがすぐに分かって頂けるような下地を作らせて頂いたという
ことなのです。私の訪問後であれば確実に新しい要素の音質をご確認頂けると
いう基礎を確立したということです。

しかし、今回のM.K 様の場合には上記の方針において、そもそもスタートライン
に立てるかどうか…という根本的なレベルからのスタートとなりました。

深いローストの酸味を押さえた香り高いコーヒーと手作りクッキーでおもてな
し頂き、世間話がはずむ中でそろそろ音を聴かせて頂くことにしたわけですが。

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■マーラー交響曲第一番「巨人」第二楽章  小澤征爾/ボストン交響楽団

最近は色々なお宅にお伺いして最初にこの一曲を聴かせて頂くのが快感!?
というか大変楽しみになってきました。最も聴きなれたオーケストラがどの
ように展開するのか? 

弦楽器の質感に独特の潤いがあるCARY CD-306/SACDにディスクをローディング
して、いよいよ第一声を聴くことに。Ilungo audio  crescendo205の滑るよう
なフェーダーの感触も心地よくボリュームを上げていきました。すると…

「あれ〜、これはちょっといけませんね〜。問題外の音質です(-_-;)」

もちろん、この言葉通りにズバリ口にしたわけではありませんが、ひとまずの
及第点として次のテスト曲へ進もうというレベルではありませんでした。

ルームアコースティックにおける伝送周波数特性、残響時間などの環境問題を
云々する前の次元で、スピーカーから出力される周波数特性そのものが大きく
バランスを崩しています。簡単に言えばサブソニックに近い超低域がブーミー
であり、オーケストラの主体となる音域は極端なカマボコ型の特性という感じ
で弦楽器などは遠くひっこんでしまい主旋律を演奏するパートのレベルが極端
に小さくなっています。

これはいけません、大変な“重症”です。^_^;
今までのようにスピーカーやリスニングポイントのリプレースメントで解決す
るような問題ではなく、根本的にスピーカーのチューニングが間違っています。

これほどの…、いや失礼しました。この帯域バランスの調整をどこから手を
付けていくべきか、初めてのケースでもあり私の頭は高速回転して具体的な
治療方法の手順を検討し始めていました。さあ、大変です!!

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近代のハイエンドスピーカーというのはAVLONにしてもMOSQUITO NEOにしても
多くのメーカーではスピーカー自体に周波数特性をユーザーが調整するという
機能を製品に持たせるということをしなくなっています。

言い換えれば、設計者が決定したこだわりのバランス、高度な測定技術や素材
開発から生まれたテクノロジーと製作者の耳と感性の自負によって作り出され
た音質をそのままユーザーに受け入れてもらいたいということです。

しかし、このGENESISはすべての帯域で調整機能を搭載しており、それは設計
者にしてみればユーザーの好みとルームアコースティックに合わせて調整でき
るという利便性を提供しているとも言えるのですが、実は両刃の剣というもの
であり、一定水準の経験とノウハウがあるユーザーであればいいのですが、
そうでない場合には主観によるチューニングに頼ることになり大きな過ちと
迷いをもたらすことになってしまいます。

私は、様々なケースを想定しつつ、先ずはこのマーラーを三回ほど繰り返し
繰り返し聴き続け、調整ポイントがどこにあるかを推測することから始めました。

http://www.dynamicaudio.jp/file/080622/719.jpg

暗いので写真の写りは良くありませんし、画質補正にも限界がありますが敢え
てご紹介すると、これがGENESIS 5に付属するサブウーファー用のサーボアンプ
です。次にご紹介するのが、これをコントロールするリモコンです。

http://www.dynamicaudio.jp/file/080622/721.jpg

この主な機能として次の項目があります。

VOL→サブウーファーの音量を数値として0〜100の範囲でコントロールします。

LP→サブウーファーの再生帯域をローパスフィルターとして設定します。
  70Hzから120Hzの範囲でコントロールします。

HP→サブウーファーの再生帯域をハイパスフィルターとして設定します。
  16Hzから32Hzの範囲でコントロールします。

PHASE→サブウーファーが再生する帯域の位相を0〜180度の範囲で調整します。

M.K 様が設定されていた数値は次のようなものでした。

VOL→50〜55   LP→90Hz    HP→16Hz    PHASE→0 

私は、先ず何回もオーケストラを聴きながら、このサブウーファーの調整より
もスピーカー本体のバランスを整えなければならないという判断をしました。
そこで、上記のVOL→0まで絞り込みGENESIS 5本体のアッテネーターを先に
調整することにしました。

GENESIS 5は基本的には4Way構成なのですが、ミッドバスを含めての各帯域の
レベル調整は次のようになっています。具体的には写真をご覧ください。

http://www.dynamicaudio.jp/file/080622/708.jpg

Tweeter→上記の写真でLevelと表示されていますが、MINIからMAXまで無段階
の回転式ボリュームになっています。M.K 様はこれを角度で言いますと12時半
くらいにしていらっしゃいました。

Mid-range→上記の写真で1.2.3という3段階の設定になっています。ただし、
これは単純な周波数特性を音量としてとらえているのではなく、ミッドレンジ
のドライバーのロールオフ特性として楽音の質感を微調整するものです。
M.K 様はこれを2のポジションで使っておられました。

このようにGENESIS 5というスピーカーは本体で二つ、リモコンで四つのコン
トロールが可能であり、同時にその設定によって大きく変化してしまうという
性質を最初に述べておきたいと思います。

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

私は何回もオーケストラを聴くうちに、サブウーファーのVOLが先ず大きすぎ
ると最初に判断し、先ずは上記の写真にあるGENESIS 5本体の設定を行うべき
ということで調整を開始しました。この時点ではサブウーファーはほとんど
ゼロに近いレベルまで絞り込み、もっぱら本体の後ろにあるスイッチのみで
判定することにした。

Tweeterのボリュームを最低と最大に、Mid-rangeの三ポジションを個々に比較
するということで、オーケストラの同じパートを聴きながら、何回も何回も
プレーヤーをスタートし、またスピーカーに駆け寄ってポジションを調整し、
という作業を恐らく30分以上繰り返していきました。

特に難しかったのはMid-rangeの調整です。Tweeterは最低にしても完全にゼロ
になって出力が出なくなるわけではなく、一定の音量は出力されています。

そして、最大にしても明らかに聞き苦しいような派手な高域になるわけでも
ありません。Mid-rangeはスロープ特性を変化させているので、その高域側の
質感を先ず決定し、それにトゥイーターの再生レベルを上乗せしていくという
手順が妥当だと思われたからです。

Mid-range→ポジション.2
これがM.K 様の選択でしたが、特に音質的な根拠というよりも真ん中という
安心感で選ばれていたようです。確かに悪くはないのですが、これをスタート
として私は他のポジションを聴き始めました。

Mid-range→ポジション.3
このスイッチによるミッドレンジは出力音圧の増減というよりは楽音の質感に
関係するもの。恐らくはミッドレンジドライバーのハイカットフィルターの
ロールオフ特性を選択するものなのだろうが、この.3のポジションではハイ
カットフィルターのターンオーバー周波数が低めになるかスロープ特性が急峻
になるようでヴァイオリンの音色が荒々しく感じられ好ましくなかった。

Mid-range→ポジション.1
このポジションを一発で選択したわけではなく、各々のポジションを多分三回
ずつくらい聴き比べてのことでした。このポジション.1で弦楽器の質感が滑ら
かに感じられ、フィルターのかかり方がゆったりとしたスロープ特性のようで
あり、弦楽器の質感はコントラバスの高音階の部分を含めて良好に感じられた。
これで行こう!! 

この設定にTweeterのボリュームを数段階に分けて調整し乗せていきます。
絞りきってゼロとしても極端にモコモコの音になるということはありません。
しかし、M.K 様が設定しておられた12時半くらいという角度では私の見立てで
はせっかくのリボントゥイーターの魅力を引き出しているとは言えませんでした。

思い切って最大にしましたが、この音質が私が承知している録音状態を再現
するには妥当なところではないかと思いました。しかし、後述しますがM.K 様
はスーパートゥイーターも使用されているので、これを最後に調整するとして
最大値の5時くらいからわずかに下げて3時くらいの角度で落ち着きました。
この調整だけでも何回もスピーカーと椅子の往復をしてのことでした。

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

さて、やっとGENESIS 5本体での調整が終わりました。これが最も慎重に行う
べきものであり、また時間もかかってしまいましたが、私が日頃追求している
音質レベルにほぼ到達出来たと思います。

次はいよいよサーボアンプの調整ということですが、過去にGENESISを取り
上げた下記の随筆はもちろんM.K 様も精読されたということでした。
しかし、これらの体験談は当時のH.A.L.という環境において私が判断したもの
であり、当然一般的なお住いと部屋では大きく事情が違います。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto26.html
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto34.html

そして、初めてGENESISのスピーカーを扱ってから13年という時間経過もあり、
私の追求する音質レベルは当時とは大分違う次元に到達しているという自負も
あります。この際は初心に帰るつもりで過去の経験則をいったんリセットし、
M.K 様のお部屋におけるベストを追求しようということで各パラメーターの
調整を始めました。その各項目をどのように変更していったか、ワンポイント
のコメントを付けながらM.K 様の設定との対比ということでご説明しました。

VOL→M.K 様の設定 50〜55  変更後の私の設定 20〜23

LP→M.K 様の設定 90Hz    変更後の私の設定 120Hz

HP→M.K 様の設定 16Hz    変更後の私の設定 32Hz

PHASE→M.K 様の設定 0   変更後の私の設定 180

GENESIS 5のサブウーファーの再生帯域はハイパスとローパスフィルターの
両者で構成するバンドパイフィルターによって駆動されます。

一般的な心理としてはせっかく超低域の16Hzまで出してみたいということでしょう。
現存する楽音としてパイプオルガンで16Hzという音階を出すものがありますが、
こんな低い周波数を楽音として録音しているディスク、または演奏のための
楽譜としても、これほど低い周波数の楽音というのはほとんどないという事実
があります。

正確にこの音階を演奏せよという譜面を元に作曲され、それをパイプオルガン
で演奏したとしても、それは長大な譜面の中で数個の音符だけかもしれません。
そして、そんな音楽を録音したディスクというのは数千枚に一枚という程度
かもしれません。しかし、スピーカーの性能として出してみたいという気持ち
は分からなくはありません。

ですが、実際に16Hzという楽譜によって指定された楽音が含まれる演奏や録音
というものはほとんどないと言ってよいくらいなのです。そして、CDを制作す
る過程で使用するスタジオモニターのスピーカーやアンプは16Hzを再生するこ
となど出来ないものがほとんどであり、音楽ソフトの音質決定で基準とされる
機材にはそのような再生能力はありません。つまり、音楽ソフトのデジタル化
で超低域まで記録されるようになりましたが、実際には制作側ではそのような
超低域に関しては管理していないという実情があります。

言い換えれば、多数の音楽CDには制作者が知らなかった超低域の成分が騒音と
して記録されているということが良くあります。

オペラのステージを役者が歩いたり踊ったりした時の床の音、Eric Claptonの
Unpluggedでテレビスタジオの木製のステージを足の裏で叩いてリズムをとっ
ている音、バロック音楽なのに録音した教会でマイクが風に吹かれる音、また
ウッドベースに過剰なイフェクトを付けたせいで20Hz以下のサブソニックが
盛大に録音されていたCDなど、本来の楽音ではない超低域が高性能なスピー
カーによって再生されてしまう場合がほとんどなのです。

もちろん、超低域をきちっと管理してカットしている録音が大半ですが、この
ような事例を考えるとHP→M.K 様の設定 16Hzという状態では本来の楽音では
ない要素まで過剰にで引き出してしまっていました。

その暗騒音に近い超低域の音圧感があるのでIlungo audio  crescendo205の
フェーダーを上げると低域ばかりが目立ってしまい、結果的にサブウーファー
の音圧に合わせた音量にすると中・高域が極端に不足していたという状況でした。

私は結果的に32Hzとしましたが、これでも録音されている信号に楽音として
明確に20Hz以下が記録されていればスピーカーとしては再生してくれますので
16Hzが全く出なくなるということではないものです。しかし、オーケストラ
全体を聴きたい場合にはHP→32Hzで十分です。逆に暗騒音はカットした方が
精神的にも気持ち良く聴けると思います。


次にLP→120Hzとしましたが、これは私がオーケストラを聴いての判断です。
ミッドバスドライバーがパワーアンプからの信号で出力している帯域に厚みが
欲しいということです。ミッドバスとミッドレンジはユニットの後方では
トランスミッションラインという方式で吸音材の詰まった空洞があるだけです。

そのために非常に高速反応しますが低域方向へ向けての音圧はだら下がりに
なっていて重量感を求めるような設計ではありません。抜けのいいミッドバス
に連動してハイスピードな低域を目指してのサーボアンプの採用ですから、
その意図を生かすためにも帯域バランスを考慮してローパスフィルターの設定
に関しては高めにしました。


VOL→変更後の私の設定 20〜23としましたが、これは実は前述のバンドパス
フィルターの設定とも連動してくる調整ポイントなのです。仮にLPとHPの設定
で32Hzから70Hzという最も狭い帯域で使用すれば、もう少しボリュームを上げ
ることができるでしょう。逆に16Hzから120Hzという最も広い範囲で設定した
らこのボリュームはできるだけ下げた方が賢明です。

これもオーケストラを聴きながら、不要な低域が出過ぎるのを嫌い、低音楽器
の輪郭が見えるようなボリューム感というところで私が判断しました。
こういうさじ加減は実際に聴かないと分からないものですから。


さて、最も厄介なのがPHASEです。これはM.K 様もご自分で色々とやったけど
変化はわからなかったとおっしゃっていました。それも無理からぬことです。
今まで述べてきた設定が適切でなければ、低域の楽音の音像やエコー感という
ものが見えてきませんので、低音が肥満化してしまった再生音をただただ聴い
ていても骨格が見えなかったということなのです。

しかし、この調整ではオーケストラは不向きでした。

■MUSE 1.フィリッパ・ジョルダーノ/ハバネラ
http://www.universal-music.co.jp/classics/refresh/muse/muse.html

この曲のドラムの二連打を使って調整しようと思ったのですが、ズシーンと
響き、エコー感が広がっていく演奏だとわかりにくいものです。そこで…

■DIANA KRALL 「LOVE SCENES」11.My Love Is(MVCI-24004)
http://www.universal-music.co.jp/jazz/artist/diana/disco.html

この曲のウッドベースを使って調整することにしました。ピッチカートの弾く
瞬間のフォーカスがぴったりと合い、そして開放弦のダイナミックな響きで
音像の膨らみ方をチェックしたいからです。これは大正解でした。

PHASE→M.K 様の設定 0 では、ウッドベースの輪郭が甘くなり音像としても
サイズが大きくなってしまいます。そこで私は0から90、次に180と段階的に
何回も繰り返していくと、逆相となる180のポイントでフォーカスが実に鮮明
にくっきりと再現されることを確認しました。これでこそ!!という音です。
この後にオーケストラでも確認しましたが、最初の再生音ではまったく見えな
かったコントラバスの音像が、またざらっとした摩擦感まで含めて感じられる
ようになってきました。このPHASEの調整は周波数特性のバランスを整えて
からのツメの調整ということでしょう。

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

このような初歩的なスピーカー本体でのレベル調整を行いながら、同時に最も
最初に聴かせて頂いたM.K 様の設定によるバランスの問題点が確認されてきま
した。再度下記の写真をご覧ください。

http://www.dynamicaudio.jp/file/080622/729.jpg

Ilungo audio  crescendo205の出力をPADのアダプターによってRCA端子二系統
に分岐して、一方をMarkLevinson No.336Lに、そしてもう一方をGENESIS 5の
サーボアンプに送ります。

サーボアンプの調整は前述していますが、言うなれば肥大化したサーボアンプ
からの低域信号を基準として全体のボリューム調整をしていたらしく、そう
すると肝心な中・高域のレベルが大きく不足してしまいバランスを崩していた
ということだと思われました。

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

さて、GENESIS 5の本来の音質が戻ってきたということで、ここからいつもの
ようにスピーカーのリプレースメントを行っていくことにしました。先ずは
調整前の配置をご覧ください。

変更前
http://www.dynamicaudio.jp/file/080622/691.jpg
    ↓ ↓ ↓
変更後
http://www.dynamicaudio.jp/file/080622/716.jpg

この変更によって前回の茨城県潮来市 R.N 様のケースで述べてきたような
オーケストラを中心とした各種の録音に対して音像の明確化と奥行き感の
向上という両者が得られるようになってきました。

GENESIS 5の英文説明書を何度も読んで、ご自分なりに取り組んでこられた
M.K 様でしたが、メーカーの指示書では計り知れないものがあり、必ずしも
ユーザー個々のケースにマッチするということではないと思います。

しかし、リアにもアンビエンストゥイーターを搭載しているGENESIS 5は、
私の調整後でも十分に後方への余韻感の広がりを魅力的に聴かせてくれ、
解像度がプラスされたことでのスタジオ録音への対応も素晴らしいものが
ありました。どうぞご安心ください。


これで、やっと本来のバランスが戻ってきたということなのですが、最後の
ツメとしてmurata ES-103Aのセッティングも私の判断で調整し直すことにしました。

ただし、murata ES-103Aでは電気的な調整方法はありませんので、位置的な
違いによっての微調整ということになります。

http://www.dynamicaudio.jp/file/080622/713.jpg

先ず私はこの↑ようにES-103Aを一番奥に移動してオーケストラを聴きました。
すると、不思議な事に弦楽器群が遠のいてしまい、それが遠近感としてよりも
楽音の音量感として物足りなくひっこんだ印象になってしまいました。ほんの
数センチなのに大きな違いです。そして、このようなデリケートな違いが発揮
されるようになったこと、変化がわかるようになったということが大切なこと
だと改めて思われました。では逆に…

http://www.dynamicaudio.jp/file/080622/715.jpg

このように最も前に出したらどうか?
こちらの方が楽音の鮮度が高くなったような印象であり、演奏しているステージ
の照明が明るくなったような変化がありました。
しかし、先ほどのようにオーケストラの奥行き感は薄くなってしまいました。
スタジオ録音ばかりを聴くということだったら推奨したかもしれませんが、
私はもうちょっとアレンジを加えてということで…

http://www.dynamicaudio.jp/file/080622/710.jpg

このような位置関係に決定しました!!
GENESIS 5のフロントバッフルはスラントデザインで後方に傾斜しているもの
ですが、その傾斜しているバッフルの延長線上になるような位置であり、
3センチほどの移動なのですが、楽音のストレートな鮮明さを残しながら
奥行き感を含ませるというさじ加減です。このポジションを決定するにも
何回も何回も動かしながら、私の舌?と耳で微妙な隠し味を施したというもの
でした。これも私と同じ経過で実験して頂ければお分かり頂けるでしょう!!

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

開発されたのが13年前、M.K 様が導入されたのが8年前。今まで色々なトライ
をご自身で繰り返されてきた歴史があるでしょう。しかし、私のフロアーで
たびたび試聴され、どうしてこのCDはこんな音なんだろう? 我が家とは違う!!
ということを常々感じておられたというコメントを頂きました。

しかし、今回訪問させて頂き実情を拝見し聴かせて頂き、やっとM.K 様の疑問
に答えを差し上げることができたようです。

私はこれまでの調整に関しての確認の意味でも、やっといつものテスト曲を
聴けるというレベルになってきました。こうでなくてはいけません!!(^^ゞ


■セミヨン・ビシュコフ指揮/パリ管弦楽団 ビゼー「アルルの女」「カル
 メン」の両組曲から1.前奏曲 8.ファランドール

冒頭の主題を弦楽器群の合奏で奏でる出足からして先ほどとは別モノのようで、
同じ音階を重厚なアルコで繰り返すパートの中に多数の楽員の姿が見えてくる
ようです。本来のGENESIS 5はリボントゥイーターという滑らかな高域再生の
優秀なスピーカーであり、設計者のアーノルド・ヌデールがホール録音の
クラシックを極めたいという理想の元に追求してきた音質がこれでしょう!!

ヴァイオリンの質感は鮮明になり輝きを増し、ただし聞き苦しい鋭さはなく、
ただただ純粋な弦の艶やかさが光るのみです。

ファランドールではステージ後方の打楽器が遠近感を十分に含ませ、タンバリン
の響きには距離感を思わせるエコー感が見事に再現されています。木管楽器の
歯切れのいいパートはアンビエンストゥイーターの威力を引き立て、フォーカス
と残響の両方を見事に私の視覚が捉えられるほどにリアルな質感となりました。

この録音はオーケストラ全体で発したフォルテをスパッと切り取ったように
発音を急停止させた演奏箇所がありますが、ホールエコーがこれほど空間を
満たしてくれるとは大きな改善でした。いいですね〜(^^ゞ


■チャイコフスキー:バレエ音楽《くるみ割り人形》op.71 全曲
サンクトペテルブルク・キーロフ管弦楽団、合唱団
指揮: ワレリー・ゲルギエフ CD PHCP-11132
http://www.universal-music.co.jp/classics/gergiev/discography.htm

この序曲での弦楽器は美しい!! ちょっと弓を乗せただけという微妙なタッチ
のアルコが繰り返され、オーボエのソロがひっぱるエコー感を背景に見事な
配置で弦楽器の主題が空間を染めていきます。

15トラックの中国の踊りではファゴットの低音階でこんなにホールエコーを
含んでいたのか、弦楽器のピッチカートはこんなにエネルギー感があったんだ、
と新たな発見があり、良いスピーカーは時代が変わっても魅力は色褪せないと
いうことが新鮮な驚きでした。

16トラックのトレパークなどは、今でも私のフロアーで鳴らしても多くの人々
を感動させるだけのダイナミックかつ繊細な再生音であり、逆に大太鼓の連打
は重量感をしっかりと握り、また音像も肥大化せずに引き締まっているという
絶妙のバランス感覚が私を思わず唸らせる!! いいですね〜!!


■MICHAEL BUBLE/1.「Fever」WPCR-11777
http://wmg.jp/artist/michaelbuble/profile.html

この曲ではサーボアンプのチューニングを再チェックするようにベースとドラム
のバランスに注目していたが、重厚さとテンションの高まりを両立した低域が
問題なく再生され、逆に演奏に引き込まれてしまった。

「Fever」だけでなく、M.K 様にとっての懐メロというべき
「Put your head on my shoulder」もアンコールとしておかけしたが、
スタジオ録音に対しても見事な再現性であり、文句のつけようがない!! 

まあ、多少は親ばか的な思い入れはあるにしても、どなた様に聴いて頂いても
魅力的な音質に生まれ変わったということを実感しました。


■ちあきなおみ/ちあきなおみ全曲集「黄昏のビギン」
http://www.teichiku.co.jp/teichiku/artist/chiaki/disco/ce32335.html

さあ、最後ははこれです!! クラシック音楽を中心に聴いておられたM.K 様で
すから、ちあきなおみなどは名前を知ってはいても自宅で鑑賞するということ
などなかったということでした。

それが、生まれ変わったGENESIS 5が今まで経験したことのない美声で歌い
はじめたのですからM.K 様の驚きも相当なものだったでしょう。
M.K 様からのリクエストもあり、同じCDから「喝采」もかけてしまいました。

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聴くたびに新鮮な音にM.K 様も大変喜んで頂き、今まで聴こえなかったものが
聴こえてくるということで次々にご自身のCDを聴き始めました。

今までは聴いても楽しくないので自然に聴きたいCDが減ってしまい、最近では
数多くのコレクションをお持ちでありながら聴いていたのは10枚くらいだった
というお話でした。

それもそうでしょう…、肥満していたシステムの音質では食べ物と同じように
好き嫌いが出てしまっても仕方のないことです。

それが今回の調整で本来の姿が見られるまでダイエット出来たということでしょう。

体形が良くなれば色々な服が着られるようになりますね。同じように再生音の
バランスが自然になれば、今までのように音楽の偏食もなくなり、幅広い曲層
で様々な音楽が楽しめるようになることでしょう!!

今回は訪問させて頂いて本当に良かったです。
私が販売した高価なオーディオシステムの音はこんなものか〜!?
という誤解を受けることもないでしょう。

どうぞ自信を持って多くの皆様にも聴かせてあげてくださいませ!!

M.K 様のシステムは本当はこんなに美しい音だったんです!!

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私が訪問した当日の現場では上述のような詳細な解説を口頭で述べたものでは
ありませんでした。そういう意味で、後日このようなレポートとして文章化す
ることでご本人にも改めて理解を深めて頂けるということに意義があります。

今回もM.K 様に原稿の内容を確認して頂きましたところ、次のようなメールを
頂戴致しました。
中々味のあるご感想でしたので、ぜひにと紹介させて頂くことにしました。

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

川又様

遠路はるばるお越し頂き、又雨の中の深夜帰宅させてしまい申し訳ありませんでした。

今読ませて頂きましたが、“調整しながらの説明と合わせ”頂いたアドバイス
は寄航できる安全な心の港であり、私のバイブルです。

これほど早く原稿まとめられるとは思ってもいなかったので、驚きが先で感謝
が後からぐっとこみ上げてきました。

本当にありがとうございました。
一生大切にさせていただきます。

H.A.L.会員でも落ちこぼれはいる、ということで川又さんの名誉にキズがつく
ことが心配ですが、それさえかまわなければ喜んで公表お願いします。


じっとレントゲンを見つめる医師…

受診者は気軽な健康診断のつもりが、沈黙が長引き「何かあるのかな…」から
「かなり問題が…」に変わり「これはひょっとして“手遅れ宣告”か!!」

張り詰めた緊張感と静寂…
(大音量でオーケストラが鳴っていても、私にはそう感じました)

黙ったままSPと席を何度も往復…
「動き回って何かする事有れば私が」思わず声かけるが、医師は「いや」と
言ったまま何度も何度もこれが約一時間半…

時間も気になるが「これは治らないのではないか」という思いが…

そんな時「根本から直したので時間がかかりましたが(ほんとにすみません)
これで人様にお聴かせできる程度の音にまでになりました!!」

このときで21時を回っていたでしょうか、約二時間です。

診察そして治療する側のご苦労は計り知れないものと思いますが、受診者は
「何も出来ずただ聞いているだけ…」

でも、次第に音の輪郭が見えてくる過程を味わえる幸運に恵まれました!!

“チェロの音階が見えない、ピアノの左手は床からの震動とともに感じるが
それがない”等しているうちに「低音強調、中音貧弱」となっていたのですね、
恐ろしいことです。

調整後感激の一番は「弦楽四重奏でチェロの音階が見える!!」
そして「ビオラが聞こえる!!」です。

川又さんには論外かもしれませんが僕にとっては新鮮な感激です。
最近はピアノとソロの声楽しか聞かなくなってしまったのも機器ではなく私に
責任があることやっと分りました。

機械に申し訳なかったと反省。

停年過ぎての大物買はなかなかですが、これからアドバイス頂きながら更に
快適な環境を作っていきたいと思います。

老後の楽しみが増えました、本当にありがとうございました。

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M.K 様ご丁寧なメールありがとうございました。
喜んで頂いて何よりでした。

正に往診にうかがった甲斐があったというものでした。
M.K 様のシステムは相当な性能と表現力、そして魅力があるということを
私が太鼓判を押して保証致します!!

どうぞ、これからは奥様やお子様たちはもちろん、多くのゲストをお招きして
音楽を楽しんでください。

私がお納めしたオーディオシステムにふさわしい音質になったということで、
私も自分のプライドにかけて安心できたものでした。

老後の楽しみなどとはおっしゃいますが、まだまだ現役でお若いのですから
これかもどうぞ末長くお付き合い頂ければと思います。

ありがとうございました。<m(__)m>


HAL's Hearing Report