第二十六話「箱の音を追放した旧約聖書」





第一章『旧約聖書 第一書』

 昨年の猛暑が信じられないくらいに、今年の夏は本格的な暑さの到来にためらいを見
せていた。水不足に喘いだ昨年の日本列島は一転して各地で大雨の被害を被り、いまだ
明けない梅雨空を見上げてはため息を漏らす若者たちも多い。うだるような暑さに迷惑
顔をするかと思えば、盛り上がらない夏に暑さを恋しく思う、そんな人々の思惑など知
ったことかと冷夏を運んでくる大自然を相手に、自分勝手なやつだと愚痴をこぼす人間
たちの方こそ身勝手な存在なのかも知れない。そんな、本格的な夏が待ち遠しい199
5年7月15日土曜日のことである。来週から評論家各氏の所へ試聴のために巡回して
しまう前にと、輸入元であるステラヴォックス・ジャパンの好意で、米国のハイエンド
スピーカーメーカーであるジェネシス社の新製品ジェネシスVを私のフロアーに持ち込
んで頂いた。ちょうど三週間ほど前に到着したばかりのジェネシスVを輸入元の試聴室
で聴かせて頂いたのだが、驚喜する程の新鮮な高域の美しさに対して、ミッドロー帯域
での疑問点が残り、自分のホームグラウンドで聴かせて欲しいという我がままを聞いて
下さったのである。このジェネシスVは、同社のシグネチャー・シリーズの最も小型な
モデルであり、大きさは高さが約98センチ、横幅27センチ、奥行き49センチ、と
大変小振りなサイズである。全体のプロポーションは、ウィルソンのWATT&PUP
PYの前面をほぼ同一形状として、奥行き方向に引き延ばしたスタイルをイメージして
頂きたい。但し、インテリアマッチングを考慮した優美な南米産のローズウッドで包ま
れた姿態は、精悍なブラックを基調とするWATT&PUPPYとは大きく印象を異に
するものである。今まで噂でしかなかったジェネシスの最新作を目の前にして、その音
を聴かされたときの第一印象は「創世記」からネーミングされたジェネシスにふさわし
い感動を提供してくれた。仕事がら数多くのハイエンドオーディオを聴きこんできた私
にとっても、このジェネシスVの登場によってダイナミック型スピーカーの進化がまさ
に「起源」と呼ぶにふさわしい、更なる新世代に突入していることを強く実感させられ
たのである。

第二章『Physical Description』

 ジェネシスVはコラム・スタイルのダイナミック型スピーカーでありながら、発せら
れる音波はダイポール型の放射パターンを持っている。まず、第一印象でこれまで聴い
たことのない大変に透明でありながら、それでいて存在感のある高域を再生していたト
ゥイーターに目が向いてしまった。数あるアメリカの高級スピーカーメーカーでも、ユ
ニットはフランスのフォーカルやデンマークのダイナオーディオ、あるいはドイツのM
Bクォトやイートンといったヨーロッパ製のものを採用しているところが多い。自社で
ユニットの製造まで手掛けるよりは、特別仕様の設計だけを行って製造を外注化した方
が、音質的な完成度と経営効率からメリットがあるのだろうと思われる。従って、私も
新しいスピーカーを見るとユニットの外観から製造元を察することが出来るのだが、ジ
ェネシスVのトゥイーターはこれまでに見たことがないものだ。それもそのはず、一イ
ンチ口径のトゥイーターは何とリボントゥイーターなのだ。極めて薄い透明なフィルム
状のカプトンのダイヤフラムに、何と12ミクロンのアルミニウムの薄膜が同心円状に
プリントされている。磁束を大変な精度で収束させた磁気回路が、それを見事に包み込
んでいる。そして、正面の頭頂部に取り付けられたトゥイーターと同じものが、後面の
同じ位置にアンビエンス効果を発生しやすいよう、傾斜を45度としてもう一つ取り付
けられている。但し、リアのトゥイーターはフロントに対して逆相に接続されている。
素人考えでは2個のトゥイーターは正相で駆動した方が良いのではないかと思うのだが
、この下の帯域を再生するユニットとのつながりにヒントがあるのだ。それは3インチ
という大口径のドーム型ダイヤフラムのミッドレンジドライバーであり、ボイスコイル
ボビンの直径も同様に3インチという強力な駆動系を有している。しかも、この大口径
ダイヤフラムの素材はチタンを採用し、それにシリコンコーティングを施しているとい
うのだから驚いてしまう。その下に続くのが6.5インチのメタルコーンのミッドバス
ユニットである。透明なコーティングが施されているものの、色彩感からしてアルミニ
ウムであろうと思われる。このミッドバスユニットが85Hzから500Hzを受け持
つことによって、ミッドレンジドライバーの低域部をうまくサポートしているようだ。
さて、この二つのミッド、ミッドバスのユニットは、いずれも直後に若干の吸音材を施
しながら完全な後方開放型となっている。従って、リアーのアンビエンス用トゥイータ
ーが逆相で動作することによって、ミッドとミッドバス・ユニットの後方放射と同相で
音波を拡散させていくことになる。また、徐々に音量をあげていくと、トゥイーターの
ダイヤフラムが肉眼でも見えるほど振動しているのがわかる。リボン型である以上は、
クロスオーバー周波数をそんなに低く設定出来ないはずだ。おそらくは大口径のミッド
レンジドライバーが500Hzから5キロHz、あるいは8キロHzくらいまでをカバ
ーしてトゥイーターにつないでいるものと思われる。しかし、ネットワークの遮断特性
は、多分マイナス六デシ/オクターブ程度のゆるやかなスロープを採用しているのでは
ないかと推測される。このネットワークはヘビーデューティーな4オンスカッパーのグ
ラスエポキシ基板に装填され、同社が特許を有する箔膜コンデンサーや空芯ニッケル合
金インダクター、レーダーシュタインの特注レジスターなどが贅沢に搭載されている。
そして、このネットワークによってトゥイーターとミッドレンジのレベルコントロール
が可能で、本体後面の下部にダイヤル式のアッテネーターが取り付けられている。注目
すべきは、このネットワークは4ウェイとして設計されているのだが、多分リアのアン
ビエンストゥイーターはフロントのトゥイーターよりも高いレンジを放射するようにな
っているものと思われる。さて、このジェネシスVで最も特徴とされるものが低域の再
生方法だ。8インチのコーン型カーボンウーファーがフロント、リアーともに2個ずつ
の片チャンネル4個、両チャンネルで8個のウーファーが装備されている。これを、何
と800Wのハイパワーを有する付属のサーボコントロールアンプで駆動するのだ。ス
ピーカー本体とサーボコントロールアンプ間の配線は、ノイトリック製のマルチロッキ
ングコネクターを装着したオーディオクェスト社製の特注ケーブル(英文資料には長さ
30フィートとあるが、サンプル入荷したものは約6メートルであった)が付属されて
おり、何の不安もなくしっかりと接続が完了する。サーボコントロールに欠かせないセ
ンサーからのフィードバック信号を、ウーファーへのパワー供給と別ラインで伝送する
必要があるため、多芯構造で評価の高いオーディオクェスト社のケーブルが採用された
のであろう。フロントの2個のウーファーの上側にセンサーコイルが装着されているの
であろうか、ウーファーのコーンを指で叩いて見ると一つだけ違う音がする。そして、
このセンサー信号を受け取ってウーファー一個あたり100Wという強靱なパワーで低
域を鳴らすアンプだが、意外と柔軟性に富んだコントロール機能を搭載している。サー
ボコントロールアンプ本体には一切のスイッチはなく、すべて付属の赤外線方式のリモ
コンで操作を行う。このリモコンのキーを押すと、サーボアンプのインジケーターが瞬
間的 に輝きを増して受信したことを知らせ、3秒程度の間に徐々に光度が 下がって適
切な明るさに戻る。さて、ミッドバスユニットが内臓ネットワークによって85Hz以
上を受け持っているのだから、ウーファーは85Hz以下を受け持っているのかという
とそうではない。リモコンのローパスのスイッチを操作すると70Hzから120Hz
の表示 が表れ、どこから下の周波数を再生するかが連続可変でコントロール 出来る。
ハイパスも同様に下が16Hzから、確か上の方へは40Hzまでの範囲が選択出来る
。これらのレンジは、0から100までの連続可変となっているリモコンのボリューム
スイッチで、低域だけの音量がコントロール出来る。ところで、現在のハイエンドスピ
ーカーは、ウィルソンにしろティールやアヴァロンにしろ本体の設置にはスパイクコー
ンを使用するものが大変多くなっている。しかし、このジェネシスVの底面はまったく
の平面であり、スパイクを取り付ける穴やそれらしい構造は見当らない。そこで、もし
やと思われる記憶が思い起こされた。この随筆の第二十四話、第四章で登場するテクニ
クスのSB−M10000で採用されたデュアルダイナミックドライブと称される方式
である。簡単に説明すると、スピーカー本体の前後に取り付けられた一対のウーファー
が全くの正相で、つまり互いのウーファーの振動エネルギーを打ち消し合うように逆方
向へピストンモーションを行うようにしたものだ。これによってSB−M10000は
、設置する床の状態に左右されにくい低域再生を可能としたのだが、思えばジェネシス
Vも同じ原理として受け取れる構造となっている。結果的な構造上の共通点として底面
は両者共に全くの平面で、スピーカー自体で独立した低域の解像度を得るような設計が
なされたものと推測される。さて、ミッドバス以上のユニットには通常のパワーアンプ
を使用するので、このサーボアンプに対してはプリアンプの出力を並列で取り出して接
続する必要がある。サーボアンプの入力はRCAピンのアンバランスとXLRのバラン
ス入力の両方が装備され、十分に高い入力インピーダンスで受けているので、プリアウ
トを並列化して接続しても何ら問題は発生しない。当然プリアウトが二系統装備された
プリアンプでも良いが、プリ出力をパラレルに分岐するケーブルも手配出来るので心配
はない。また、リモコンには位相(フェーズ)の連続可変スイッチがあり、0から18
0度までの範囲でウーファーの位相を中・高域に対してコントロールすることが出来る
。このフェーズのコントロールによる変化であるが、0から90度までは聴感上の変化
を聴きだすのは難しかった。しかし、90度から180度まで位相を変化させていくと
低音楽器の量感が減少し、特に低音楽器が音を発する瞬間よりも余韻やエコーの部分が
削ぎ取られていく様子が手に取るように分かる。従って、このフェーズのコントロール
がもたらす効用は、ウーファー全体のボリュームコントロールでは補えきれないルーム
アコースティックとのマッチングを整えることが目的と推測される。例えば、大変響き
がライブな部屋にジェネシスVをセットした場合、ウーファー全体の音量を押さえない
と低域だけが部屋に充満してしまうような状態を、フェーズを徐々にずらしていくこと
によって、ボリューム感を維持しながら低域の残響を相殺する方向に変化させていくこ
とが可能となる。あるいは、設置場所をやむを得ず部屋のコーナー近くにしなければい
けないような状況で、低域の輻射が耳についてしまう場合なども同様な調整の手段を提
供してくれる。このような「身体的特徴」をもつジェネシスVは、米国での販売価格を
思えば日本で設定されたセット165万円という価格は大変妥当である。そればかりか
、ご紹介したように85Hz以下の低域再生に強力なサーボアンプを付属させてパッケ
ージ商品とした事は、パワーアンプにかけていたコストが軽減出来るという大変大きな
利点がある。翻して考えてみれば、現在使用しているアンプをそのまま使用することが
、ジェネシスVを導入する場合に何の問題にもならないということだ。このジェネシス
社は長年インフィニティー社で活躍されていたアーニー・ヌデール氏が社長を務め、P
Sオーディオ社の創立者の一人でもあるポール・マクゴーワン氏と共に設立したものだ
。アーニー・ヌデール氏自らは原子核物理学者であり、一時はハイテク宇宙航空産業に
従事し、同時に演奏家としてクラシック音楽を学ぶという趣味性の広さを有する人物で
ある。また、以前ポール・マクゴーワン氏が創立者の一人として参画したPSオーディ
オは、デジタル製品まで手掛ける大手エレクトリック・コンポーネント・メーカーに成
長を遂げている。この両者の出会いを、彼らが作り出した製品のクォリティーとして顕
著に表わしているものがある。前述のサーボコントロールアンプである。アーニー・ヌ
デール氏は1968年当時インフィニティーにおいて独自のサーボテクノロジーを開発
製品化した訳だが、同社のサーボコントローラーはハイエンドにふさわしい高級感と機
能性を兼ね備えていたものとは言い難い。しかし、ジェネシスVはそのサーボテクノロ
ジーにふさわしい能力と機能を内蔵した(コントローラーではなく)アンプとして、我
々の前に自信作を披露してきたのである。これは、PSオーディオにキャリアを残して
きたポール・マクゴーワン氏の手腕が多いに発揮されたものとして評価できる。当然の
事とは言え、インフィニティーの片手で持って下げられるサーボコントローラーと、8
00Wのパワーを誇り重量が40kgを上回るジェネシス のサーボコントロールアン
プでは、同じスピーカーメーカーであってもエレクトロニクス分野への取組み方に格差
を感じてしまうのはやむを得ないことだ。

第三章『コンビニ・ハイエンド』

 今回お借りしたジェネシスVは滞在期間が二日間ということで、CDやアンプの広範
囲な組合せを試みるというよりは、じっくりと一つのシステムで聴き込むことに専念し
た。CDプレーヤーは日頃聴きなれているマークレビンソンのNO・31LとNO・3
5L、プリアンプはジェフローランドのコヒレンス、パワーアンプもジェフローランド
のモデル9というラインアップである。ジェフローランドの音質は、聴きなれていると
共に中立性を重んじた音質であるところから判断もしやすく、ちょうどコヒレンスの出
力はXLRで2系統あるので、一つをモデル9に、もう一つをジェネシスVのサーボア
ンプのバランス入力へと結線する。確認のために三週間前に輸入元で聴いた曲から試聴
を開始した。「ウン、間違いない。」この前聴いたものと寸分違わない新鮮な高域が眼
前に展開する。金属性のミッドバス及びミッドレンジの高域共振が感じられずに無理な
くリボントゥイーターにつながっている。しかも、存在を感じさせないアンビエンスト
ゥイーターの効力なのか、余韻感の存続性が大変見事に維持されており奥行き感が大変
深く感じられる。とにかく、ローレベルでのディティールの表現力が際立って素晴らし
いことは断言できる。アポジーを代表とするリボン型スピーカーや、以前色々と試して
みたGEMのリボントゥイーターの記憶が鮮やかに蘇ってくる思いだ。この「ローレベ
ルのディティール」ということは、単に小音量時の鮮明さというものではない。峻烈な
アタックの後に残る残響、これ程までに長かったのかと実感するホールエコー、マスタ
リングの過程で付加されたリヴァーブの見事なスタジオ録音、どれを取ってみても微小
な信号に反応するリボントゥイーターの功績が光るものだ。そして、3インチのチタン
ニウム製ミッドレンジの圧倒的なトランジェントとハイスピード感は、素材が金属であ
ることを見事に忘れさせてくれるヴォーカルと弦楽器の再生を平然とやってのけてしま
うのである。リスニングルームの空気に何の抵抗もなく溶け込んでしまうようなヴォー
カルと弦楽器の再生について、このコンビネーションが醸し出す爽やかで軽やかな質感
は、無理に言葉で表現することを躊躇ってしまうほどのものである。さて、前章で概要
を説明したサーボコントロールによる低域再生だが、単純な表現を借りて極論すれば「
ストイックな低音」と言える。インフィニティーの低域がゴージャスな量感を伴って、
低音の量的な満足感を売り物にしてきたような所を(最も、過去のインフィニティーの
製品に対する私の記憶から述べているのであって、現在のインフィニティーの賢明なる
オーナーの皆様には当てはまらない事だと思いますが)真正面から否定し対極しあうよ
うな所が感じられる。とにかく、反応が早いのである。一般的なスピーカーでもパワー
を上げていけばアタックの鋭さは得られるものだが、特筆すべきは立上りよりも立ち下
がりである。俗に言う「箱の音」というものは皆無なのである。スピーカーのエンクロ
ージャー自体が、あるいはバスレフポートが共振して起こるふくらみを持った響き、こ
れらが取り払われた希代まれな低音再生を聴くことができる。当然、いくらかの質量を
持つユニットの振動板を動かし始めるという事は、「静の慣性」から立ち上げるべきエ
ネルギーをアンプが供給してなされることである。しかし、いったんピストンモーショ
ンを開始した振動板に与えられる「動の慣性」を、静止させようとする反作用的なエネ
ルギーをアンプが供給する事はない。一般的に言って、その作用と同様に考えられる効
果としては、次ぎなる低域信号の供給によって、それ以前の信号によって起こった「動
の慣性」を打ち消すということである。しかし、振動板の質量が限りなく小さく、エン
クロージャーとバスレフポートの共振が限りなく小さい、ということであればアンプか
らの一方通行でも制動効率が良くなるのであろうが、実際にはなかなか思ったようには
行かないものである。サーボコントロールの効果を説明するときに、立上りのスピード
感を補うものとしての解説を時々耳にすることがあるが、ジェネシスVを聴いての私の
印象としては、全く逆の目的にサーボコントロールが効力を発揮していると実感された
のである。バスドラムやベースなどの低音リズム楽器の質感は本当にストイックにコン
トロールされ、他社のスピーカーに比べると細身になり過ぎて物足りないという人もい
ると思う。しかし、ひとたびオルガンやコントラバス、あるいはシンセベースのような
低音楽器の通奏楽音を聴けば、立ち下がりをコントロールすることの重要性をご理解頂
けるものと思う。微弱ながらも録音されている低音階の響きはきちんと再生する。つま
り、アンプから出力された信号に忠実にウーファーを駆動すると、瞬間的に消える低音
と長く尾を引く低音とが明確に聴き分けられるということなのだ。従って、それ以前の
振動が残っているところに次ぎの信号が突入して起こる変調歪や音像の肥大化がなく、
極めて正確な音階が聴き取れる。こんな基礎的な理解を前提として、ウッドベースがイ
ントロにフィーチャーされたヴォーカルを聴いたのだが、そのウッドベースの質感が大
変大きく変化する。最初は低域の量的な所を求めてリモコンのコントローラーを次のよ
うに設定した。ハイパスを16Hz、ローパスは120Hzと最大レンジにして、ボリ
ュームを最大100の半分で50というパラメーターでセットしてウッドベースを注意
深く聴いた。太い弦を「ビン、ズン」と力強くピチカートした瞬間の音は隠れてしまい
、その後にたわんで振動する弦の「ブーン」と尾を引いて唸るような感じになってしま
った。量としては出ているのだが、私としては納得できない。そこで、パラメーターの
変更を行う。ハイパスを30Hzから上を、ローパスは70Hzから下を、ボリューム
を50から40へとセットしなおしてから同じパートを聴く。「やはりそうだよね。こ
っちの方が正解かな。」と思った。ベーシストの指が弦をグッと引込み、パッと解き放
した瞬間の映像イメージが見えてきた。しかも、音階は明確であり、同じ演奏にスリリ
ングなスピード感とドライブ感が加わり大変爽快だ。やはり「過ぎたるは及ばざるが如
し」の典型的な事例である。そして、「よし、次ぎはオルガンだ。」と、珍しいパイプ
オルガンのスタッカート奏法の曲をかける。腹に響く地を這うような低音、などとオル
ガンの連続した低音を表現するが、この曲は叩くようにオルガンの鍵盤を叩き、壮大な
空間がその後に表れるという録音だ。凄い!しばしあっけに取られて聴き惚れてしまう
。わずか横幅27センチのスピーカーから、まさかこれほどのエネルギーが出ようとは
誰が予想しえたであろうか。ここにも、インフィニティーとは違う判断から、800W
のパワーアンプをコントローラーと一体型として完成させたジェネシスのこだわりが感
じ取れる。過去の私の記憶によれば、世界最大の振動面積をもつ米国サウンドラボのA
1がこれに近い表現をしていた。しかし、サウンドラボA1は高さが約2m、幅が90
cmという巨体ではなかったか。それからというもの、これまで多用してきた試聴盤を
次ぎから次ぎへと聴きだして止まらない。お客様と一緒に聴いた時間を合わせれば、二
日間で10時間以上は聴いたであろうか。少し驕ったもの言いだが、この私が新製品の
スピーカーにこれほどの時間を使ったのは初めてである。「しかし、そんな凄い低音を
出すんだったら、反りのあるLPをかけたら振動板がバタバタするんじゃないか。」鋭
いご指摘です。昔のアンプにはサブソニック・フィルターが付いていたが、いまのハイ
エンドモデルには付いていない。しかし、ご安心あれ。ジェネシスVはアナログファン
にもうれしい副産物として、自分でローカットフィルターを持っているのだ。そして、
小音量で聴く時のラウドネスコントロールの代用として、リモコンで低域の量感を補っ
て聴くのも面白い。コンビニエンスな使いこなしが出来るハイエンドモデル。といった
らステラヴォックスの西川さんに叱られるだろうか。最後に一言、既に日本初のオーナ
ーが誕生しています。
                                    【完】


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