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H.A.L.担当 川又利明




2007年3月26日
No.482 「小編随筆『音の細道』特別寄稿 *第61弾*」
『The theory of evolution by KRELL!! 熱く厚い音を奏でる進化論とは!!』

 「H.A.L.'s Short Essay Vol.61」
        〔1〕20年目の技術革新は原点に戻ること

私も自分の歴史として残してきた随筆がたくさんあるが、それはまた現在の私に
とっての教科書ともなっている。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto35.html

1980年に発表されてKRELLの名前を一躍世界的に知らしめるようになった傑作が
KSA-100 であった。そして、KSA-100と対を成すモノラル・コンストラクション
プリアンプとしてPAM-2が登場している。その後6年間は同社はパワーアンプの
強化としてKSAの回路をパラレル化することでパワーアップを図りバリエーション
を増やしていった。ここまではパワーステージの物量を強化し、バイアス電流も
ふんだんに流しクーリングファンで冷却するという手法だった。

そのKRELLのパワーアンプに初めてAB級動作として実用上のパワーとアイドリング
をバランス化させようとして登場したのがKSA-200や、更に小型のKSA-80であった。

そして、90年には代表されるKSA-250が登場し、オートキャリブレーションという
手法で発熱をもたらすバイアス電流のセーブとヒートシンクだけの自然空冷という
家庭における実用上のプライオリティーを次第にバランス化させる方向へシフト
させてきた。しかし、それはファンの間では熱烈な支持を得られなかったのか…

92年にはSPB(サスティーンド・プラトー・バイアス)を開発し、KASシリーズへの
変遷していく。日本語の発音は“カス”だが、KRELL AUDIO STANDARDという程に
力の入ったシリーズだった。

しかし、実はこのKASの開発の背景には当時流行したスピーカーの性格が色濃く
表れており、通常のダイナミック型スピーカーでは考えられないような電流を
大食いする某社の平面型スピーカーを鳴らしきることがパワーアンプの勲章として
もてはやされた一時期があったのである。「人は世につれ、世は人につれ」的な
発想がオーディオ業界では主役をスピーカーとして語られたのであった。

さっ、そして随筆で述べているKRELLの新世代ということで96年に登場したのが
FPBシリーズであった。詳細は上記の随筆にあるが、ポイントとしてはパワー段の
動作はやはりA級動作として一世代後戻りして、バイアスを変化させる方式で前述
のSPB(サスティーンド・プラトー・バイアス)を更に進化させたということ。
「やはり、KRELLは純A級じゃなきゃ〜」ということだろうか。

http://www.axiss.co.jp/fkrell.html

今回の新製品KRELL Evolution 900では、何と20年前のAB級動作という実用性を
重んじた選択と、創業当時の手法であった固定バイアスという二つの理論に基づい
て設計された。2007年に日本でデビューを飾ることになったEvolutionシリーズが
私にどのような感動を与えてくれるのだろうか!?

http://www.axiss.co.jp/whatsnew_krellEvo900.html
http://www.axiss.co.jp/whatsnew_krellEvo202.html



           〔2〕試聴システム

2007年3月6日、実は既にこの日にKRELL Evolution 900とEvolution 202はセット
されていたのだが、体調不良と他の試聴課題が重なり、更に電源ケーブルを特注
したものに変更するなどの経緯があり本格的な試聴を先延ばししてしまっていた。

その試聴課題というのが前回取り上げたORPHEUS Heritage DACであった。その魅力
に惚れ込んでしまった私は、そっくりそのままのシステムに新世代KRELLを投入し
てみようと考えたものだ。


      ◇ KRELL Evolution series inspection system ◇

………………………………………………………………………………
ESOTERIC G-0s(税別\1,200,000.)
http://www.teac.co.jp/av/esoteric/g0_g0s.html
     and
JORMA DIGITAL/BNC-BNC 24cm Internal Wire
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/470.html
     and
ESOTERIC PS-1500+7N-PC9100(税別\950,000.)
http://www.teac.co.jp/av/esoteric/ps1500/
………………………………………………………………………………
                ▽ ▽ ▽
ESOTERIC 7N-DA6100 BNC(Wordsync用)(税別\240,000.)→ESOTERIC D-01×2
http://www.teac.co.jp/av/esoteric/mexcel/
                ▽ ▽ ▽
………………………………………………………………………………
ESOTERIC P-01 (税別\2,200,000.)
http://www.teac.co.jp/av/esoteric/p01_d01/
     and
ESOTERIC PS-1500+7N-PC9100×1(税別\950,000.)
http://www.teac.co.jp/av/esoteric/ps1500/
http://www.teac.co.jp/av/esoteric/powercable/9100mexc.html
………………………………………………………………………………
                ▽ ▽ ▽
ESOTERIC 7N-DA6100 RCA 1.0m(税別\240,000.)■44KHz Singleで伝送
http://www.teac.co.jp/av/esoteric/mexcel/
                ▽ ▽ ▽
………………………………………………………………………………
ORPHEUS Heritage DAC(税別\4,000,000.)
http://www.yukimu.com/jp/orpheus_heritage_dac.htm
     and
TRANSPARENT PLMM+PI8(税別\606,000.)
http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER
………………………………………………………………………………
                ▽ ▽ ▽
ESOTERIC 7N-DA6300 RCA 1.0m×2(税別\560,000.)
http://www.teac.co.jp/av/esoteric/mexcel/6300.html
                ▽ ▽ ▽
………………………………………………………………………………
KRELL Evolution 202(税別\2,500,000.)
http://www.axiss.co.jp/fkrell.html
     and
TRANSPARENT PLMM+PI8(税別\606,000.)
http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER
………………………………………………………………………………
                ▽ ▽ ▽

KRELL CAST Cable : CAST 10 (10m)(税別\124,000.)

                ▽ ▽ ▽
………………………………………………………………………………
KRELL Evolution 900 (税別\6,600,000.)
http://www.axiss.co.jp/fkrell.html
          and
TRANSPARENT PIMM+PLMM(税別\606,000.)×2set
http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER
………………………………………………………………………………
                ▽ ▽ ▽
STEALTH Hybrid MLT Speaker Cable 5.0m H.A.L.'s Special Version
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/290.html
                ▽ ▽ ▽
………………………………………………………………………………
MOSQUITO NEO(税別\4,800,000.)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto54.htm


        ■ 比較参考用として下記システムも同時に試聴 ■

日頃のリファレンスとしているHALCROも適宜比較するこににした。
おおよその価格帯もいっしょのレベルであり、この辺が私の標準というものだ。
………………………………………………………………………………
HALCRO dm8(税別\2,200,000.)
http://www.harman-japan.co.jp/products/halcro/dm8_10.htm
                ▽ ▽ ▽
HALCRO HALCRO dm88 ×2 (税別\7,600,000.)
http://www.harman-japan.co.jp/products/halcro/dm38_68.htm#dm68
http://www.halcro.com/productsDM88.asp
………………………………………………………………………………

その他のコンディションも前回と同じとしている。詳細は下記をどうぞ。
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/480.html



       〔3〕知っていると思っていた予想に反する印象

しかし、前回のORPHEUS Heritage DACで楽しみながら試聴するということで久々に
自分の裸の感性で立ち向かったものだったが、今回も同様に心がけることにした。

ここでつまづくようなことがあっては先に進めない課題曲。最初の一曲として私は
迷うことなくこれをかけることにした。もう、定番であるマーラー交響曲第一番
「巨人」小澤征爾/ボストン交響楽団第二楽章。さあ、前回とアンプが変わっただ
けというものだが果たしてどうなるのか!!

「なんと!! こんなニュアンスがNEOで聴けるとはどういうことなんだ!!」

第二楽章の冒頭から前回とは全く違う世界が展開する。
こんなボストンシンフォニーを聴いたのは初めてだろう。

過去の数々の記憶を一瞬にしてスキャンし同類項のものを探したが見当たらない。
コントラバスがこれほどエネルギー感を持って聴かせるマーラーは前例がない。

NEOのウーファーは一般的なスピーカーのようにビスでフロントバッフルに締め
込んで取り付けているのではない。エンクロージャー後方からガスシリンダーに
よる30キロのプレッシャーで厚さ20ミリのフロントバッフルに常時圧着し続けられ
ているという構造上のノウハウが再生音のハイスピード化に一役買っている。

それはドラムのような打撃音を強力に放つということも当然のことなのだが、低域
の微細な信号を埋もれることなくどれだけ忠実に再現するかということ。言い換え
れば低音楽器の余韻感、ホールエコーをどれだけ微細なレベルで聴かせてくれるか
ということでも大きな特徴となっている。

その四基のウーファーは一糸乱れぬ連係を見せ、KRELL Evolutionは600Hzまで担当
するNEOのウーファーに今までにはなかった低音域でのホール感を実に鮮やかに
再現させてくれるのである。コントラバスだけでホールの空間を示し、その重量感
溢れる響きがNEOの周辺に今まで見えなかったステージを出現させる。
NEOの低域にこれほどの空間表現を醸し出した事例は初めてだ!!

しなやかであり重厚な低域の魅力を私はどこかで聴いたことがあったはずだが…!?

そして、驚くのはたっぷりとした低弦楽器の響きに包まれるようにステージが形
作られるが、そこに鮮やかに浮かび上がる弦楽器群の美しさだ。Heritage DACを
称える比喩としてさんざん使い古してしまった言葉だが、それを更に磨き上げた
オーケストラの美しさがそこにあった。

高級車の塗装は数回の工程を繰り返し、塗料と塗布とバフによる磨きを何度も繰り
返して光沢感を高めていくという。ピアノなどの楽器でも同様な仕上げのノウハウ
があるものだが、音を磨くとはこういうことなのだろうか。

高級なワックスをかけたばかりのボディーはきらきら輝くばかりでなく、しっとり
とした輝きを得るものだが、聴きなれたNEOがKRELL Evolutionによってぬるっと
するような質感で潤いをたたえながら輝き始めるという現象を私は初めて体験した。

その証拠に弦楽器だけではなく、木管楽器の吹き出しの最初の一音によるピンポイ
ントの定位感と、そこから発生したエコー感が以前にも増して広く拡散していく。
金管楽器はフォルテに差し掛かっても、ツーンと鼓膜にプレッシャーを与えること
がないので爽快に響き渡り音場感を濁らせることがない。

待てよ、この濡れた輝きというイメージはどこかで聴いたことがあるはずだが…!!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

さあ、困った!!前代未聞のオーケストラを聴かされて、その豊潤さとダイナミック
な展開に圧倒され、次に何を聴くか。これも前回の試聴で使ったこれで確認したい。

http://www.universal-music.co.jp/classics/artist/akiko-suwanai/discography.html
諏訪内晶子(ヴァイオリン指揮)ヨーロッパ室内管弦楽団
J.S.バッハ:ヴァイオリン協奏曲集

今回は1トラック目の「2つのヴァイオリンのための協奏曲 BWV1043」 第一楽章:
Vivace を聴くことにした。この演奏はコントラバスがヴァイオリンに付き添うよ
うに旋律を奏で、後続のヴァイオリン協奏曲とは趣きの違う演奏となっている。

「おお〜、静かな迫力とはこのことか…」

フルオーケストラで驚いた低域の重厚さはここにも表れている。実に厚みのある
コントラバスのアルコが冒頭からNEOを包み込むように展開し、そこに諏訪内の
ソロが浮き上がってくる。なぜ、浮き上がってくる…という表現をするのか!?

それはバックの重厚なバスの演奏が背景を埋め尽くす中で、彼女のStradivariが
スポットライトを浴びたように鮮明に、しかも麗しい質感を伴って中空に現れる
からだ。この対比は実にしなやかであり、思わず引き込まれてしまう情緒感を
諏訪内のビジュアルイメージと共に見せてくれる。こんな演奏は初めてだ!!

これはHeritage DACのなせる技か!! いや違う…どこかで知っているはずだ!!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

次も諏訪内晶子/詩 曲(ポエム)より
http://www.universal-music.co.jp/classics/artist/akiko-suwanai/
1トラック目のサン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ 作品28

ここで使っているのはハイブリッド・ディスクということなので、試しにHeritage
DACからESOTERIC D-01に切り替えてSACDレイヤーでKRELL Evolutionをテストして
みることにした。Heritage DACの美しさがKRELL Evolutionの分析を曇らせること
があってはいけない。さあ、どうなるか!?

「あっ、こうなったか〜」

先ず、Heritage DAC独特の解像度を維持しながら演奏全体のテンションを程よく
弛緩させるという傾向、それが緊張感を払拭してリラックスできる要素を演奏に
織り交ぜていくという独特の美意識があったのだが、そこが先ずESOTERIC D-01へ
の切り替えで修正される。

ゆったりとした甘美な響きから音像を少し引き締める変化が現れ、フロントエンド
の変化を敏感に察知しているKRELL Evolutionのデリカシーが直ちに私を一歩違う
方向性へといざなった。

同じ彼女のStradivariがセンターのやや左側に浮かぶが、先程までと違い演奏の
エネルギーを集束して音像のシルエットを先程よりも引き締めているのがわかる。
しかし、逆にSACDという特質からか、その余韻感は素晴らしいものがあり、響き
の要素が潤い感を作り出すという現実をそっと教えてくれる。

「やはり、そうだな〜」

HALCROよりも若干だが音像の輪郭表現に緩やかなグラデーションを加えるのか、
KRELL Evolutionが描く楽音のくま取りは周辺の空気に溶け込みやすい性質がある
ということを教えてくれた。余韻感が再生している空間に溶け込みやすいという
ことは微細な信号を最後の一滴まで再現するので、その残響の微粒子が余韻の完全
消滅の一歩手前で響きの残滓を聴く人に感じさせるのである。これは美しい!!

ソースコンポーネントを切り替えてもKRELL Evolutionの魅力は同様だ。しかし…
この質感はどこかで味わったことがあるような…!?

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

ホール録音のニュアンスがとてつもなく美しく再現されるという魅力が新しい
KRELL Evolutionの特徴として完全に私を圧倒している。では、スタジオ録音では
どうなのか!? おっとりして甘いテンションになってしまうのだろうか?

では、前回もご紹介した Shun-ich Kogai の作品からこれを聴こう。
(本名の公開は控えたいので親しみを込めて敬称は省略させて頂きました)

http://www.shimaken.jp/  より  http://www.shimaken.jp/sss/

1. AND THE MELODY STILL LINGERS ON (A NIGHT IN TUNISIA) featuring bird

この曲でイントロに各種のパーカッションが展開し、左右スピーカーの中間を踊る
ようにしてきらきらと軽やかな音色がちりばめられている。そして、一転して強烈
なビートのドラムとベースがおなじみのリズムを刻み始める。

「おー!! このドラム、このベース、重くて引き締まって、いいねー!!」

特にキックドラムの厚みが違う。決して引きずるような質感ではなく、きっちりと
打音の立ち上がりを捉えているが、NEOの四基のウーファーが裏側で金属フレーム
で連結でもされているかのようにがっちりとホールドした打音を叩き出す。

不思議だが事実だ。この打音はHALCROよりも厚く重い。しかし、早い!!

パックの演奏の豹変に驚いているところにヴォーカルとしてフィーチャーされた
bird が入ってくる。低域が重厚だとするとヴォーカルのテンションも甘口になる
場合が多いものだが、さすがEvolutionの名を冠する今回のKRELLは違った!!

島 健のピアノはジャケット写真のように激しく火花を飛び散らせるイメージで
中空に展開し、その光と影の瞬間的な繰り返しは意外なことにまぶしさがない。
つまり、ボリュームを知らず知らずのうちに上げてしまっても刺激成分が混入する
ことがなく、ピアノの弦が叩かれた瞬間から演奏者の表情が透き通って見えるよう
な透明感がNEOの周辺に独自のステージを作り上げていた。

記憶喪失の男が自分の過去を思い出すのに苦痛の表情を浮かべるように、私はまだ
思い出せない記憶の断片にもどかしさを感じている。確かにどこかで…

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

スタジオ録音のピアノとヴォーカルの鮮明さ、ダイナミックさに圧倒された私は
再度Heritage DACに戻して、ピアノがホール録音されたもので今までのチェック
ポイントを再確認しようと思いついた。

もう10年前の録音だが、こんなディスクを最近気に入って毎日かけている。

http://www.universal-music.co.jp/classics/release/m_topics/umcl200702/gershwin70.html

ガーシュウィン・ソング・ブック
アンドレ・プレヴィン(ピアノ)とデヴィッド・フィンク(ベース)

気を惹かれたのが録音されたホール。聞き覚えのあるタングルウッドという地名。
ボストンから車で約3時間かかるマサチューセッツ州西のレノックスにあるという。
1994年7月7日にオープンしたセイジ・オザワホールでの録音だったからだ。

セイジ・オザワホールは新しい建物を建てるにあたって、一番多く寄付をした人が
その建物の名前をつける権利が与えられたという。このホールはソニーの大賀典雄
社長によって、タングルウッドに一番ふさわしい名前ということで小澤征爾の名前
が付けられた。音響効果と外への解放性という一種矛盾したような2つをテーマに、
総工費は970万ドルもかかったそうだ。客席数は1,180席、外壁はレンガ、室内は
木材をふんだんに使ったこった造りだという。
確かに、その響きが録音されているのだろう。

30年前の私はオーディオに対してはアグレッシブな聴き方をしていた。JBLにサブ
ウーファー二台とスーパートゥイーターを追加して、各々のパワーアンプを独立
させる変則マルチアンプシステムでロックやジャズを近所迷惑を顧みずに大音量
で鳴らしていたものだ。

当時は自分の目の前30センチくらいで大きな音で手を叩いたようなインパクトが
ドラムの再生音で聴きたいと、楽音のアタックがどれほどインパクトのある立ち
上がりで再生できるのかということに執念を燃やしていたものだった。
しかも、LPレコードしかない時代だった。

そんな私が今では音が消えていく美しさというものに心惹かれるようになって
しまったのは年のせいだろうか(笑)

とにかく、このディスクのピアノがセイジ・オザワホールの中で転がるように弾け
そして、響きながら消え去っていく空間描写が美しい。
そして、デヴィッド・フィンクのウッドベースが距離感をもって録音されていて、
ピアノが溶け込んで消えていく同じ空間にゆったりと響き渡る演奏が素晴らしい!!

弦楽器の甘美な質感と低音楽器のエコー感の再現性、そしてスタジオ録音では忠実
な音像表現と重量感とテンションが完全にバランスした演奏をKRELL Evolutionが
実現してくれた。

その仕上げとしてたった二人の演奏者が自身の楽音を広大なホールの空間に響かせ
ながら、その余韻感に浸りたいという自分で楽しみたいテスト曲を最後に選んだ。

1.They all Laughed
おー!! 冒頭から胸のすくような爽快な響きが私の視線をNEOの向こう側に釘付けに
する。そうだよ、ステージをわずかに見上げるようにアンドレ・プレヴィンの
ピアノが展開し、いきなりアップテンポの快適なリズムでベースが響き渡る。
時折のソロパートになると、その余韻を一滴でも取りこぼしてはもったいないと
言わんばかりにホールエコーの美しさに聴きほれる。

2.Someone to Watch Over Me
アンドレ・プレヴィンのソロだ。時折右手だけで転がるような連打が繰り返され、
たった一人の演奏者がホール全体の空間に自身の楽音をほとばしらせる贅沢。
録音のうまさも手伝って、しっかりとハンマーの存在感を伝えるアタックの鮮明さ
がありながら、その後に滞空時間の長いホールエコーがNEOの周辺に展開する。

「KRELLの音って、力強いだけかと思ったらこんな一面もあったのか…」

こんな思いが脳裏をよぎったときに、今まで白い幕に閉ざされていた私の記憶の
一辺が垣間見えてきた!!

「そうだ、あれだよ!! あのときのKRELLだよ!!」

当時はまだJBL 4343が爆発的なヒット商品としてもてはやされ、当時ダイナミック
オーディオの店頭にはアルテックやダイヤトーン、そしてタンノイなどのフロアー
型スピーカーが全盛だった。

インパクトを求めて立ち上がりの鋭さを追い求めていた当時の私が、憧れていた
JBLでこんな音が出るのか!! と驚き感動したことがあったではないか!!

ズシン、ドシンとウーファーの迫力に手に汗を握る思いでボリュームを上げ、
打楽器の再生音に強みを発揮していたJBLがこんなにしっとりとしながらも力強い
演奏を聴かせるという不思議に、ざっと30年前の若かりし私は驚き感動したもの
だった!! まだ若造の私が先輩社員の得意げな顔を横目に聴いたことがある音!!

「どこかで聞き覚えがあると思ったら、そう!! KSA-100の記憶だったんだ!!」

私は比較試聴をリアルタイムでやらないと納得しないタイプの人である。一週間前
一年前の音と、今目の前で鳴っている音との比較などとんでもない。比較する両者
を同じ環境で同じシステムで同時に試聴しなければ本当のことはわからない。

だから、極力私は新製品のどこが良くなったのかは旧製品との同時比較で納得でき
るという信条をずっと持ち続けていた。
そして、今回も過去のKRELLとの比較をしようというものではない。

無限のパワーをイメージするネーミングのKRELLだから、大音量でダイナミックな
演奏を派手に再生するという局面だけでKRELLの魅力を推し量ろうとした時代が
確かに私にもあったようだ。

しかし、KRELL Evolutionは違った!!

もっと洗練され、アンプに求めるパワーの裏づけをディスクに記録された情報量の
再現性という視点で検討され開発されていたということが今回の試聴で納得できた。

ただガッツがあり、大音量でも破綻しないというパワーのあり方は卒業したのだ。

固定バイアスに戻し、AB級動作で必要な時にだけハイパワードライブに高速で移行
するという進化を遂げ、時代に逆行するような設計方針の変更を巧妙な音作りと
センスで間違いなくEvolutionを実現している!!

まるで、ボディービルのトレーニングを重ね筋骨隆々のマッチョに変身していった
KRELLが、20年かけて作り上げた肉体でヴァイオリンの弓をつかもうとしたときに
指先のフィーリングがどうだったか? あるいは盛り上がった肩の筋肉と上腕の力
こぶをぴくぴくと動かしながらピアノの前に座り、鍵盤を抑えようとしたごつい
指と手が思うように動かないことに気がついたのか?

今KRELLは必要なものが何だったのかという疑問に自ら答えを出し、創業以来27年
の歳月をかけて近代化されたオーディオシーンに対応するために再度肉体改造を
やり遂げたのである。

力強さを失わずにしなやかに動く指、微細な信号にも反応するデリケートで繊細な
神経。まるでウエイトを絞り込んで階級を下げ、二階級制覇を狙うボクサーのよう
に減量に成功した音質のあり方を私はKSA-100の記憶にオーバーラップさせた!!

今回のレポートで比喩した単語の数々は私のキャリアと記憶のデータベースから
引用したもので間違いはない。そして、その演奏のひとコマひとコマを皆様が体験
されれば確実にご理解頂けるだろう。

熱く厚い音!!

そう、やはりがんがん熱を出すKRELLなのだ!!

この熱気を皆様にも感じて頂きたい!!


このページはダイナフォーファイブ(5555):川又が担当しています。
担当川又 TEL:(03)3253−5555 FAX:(03)3253−5556
E−mail:kawamata@dynamicaudio.jp
お店の場所はココです。お気軽に遊びに来てください!!

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