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H.A.L.担当 川又利明


2011年6月28日
No.830 「H.A.L.'s One point impression!!-MORDANT-SHORTの奇跡!! Vol.2」
 
「おー!! いい!! 素晴らしい!! そして、今までのマーラーと異質だ!!」
 
いきなりの賛辞を述べることになったが、聴いたのはこの曲。
 
■マーラー交響曲第一番「巨人」小澤征爾/ボストン交響楽団
 
定番となっているこのディスクは聴き始めて十数年、しかも今日は三回聴いた。
営業中は何かと邪魔(失礼!!ご来店のお客様ではありません)が入り、途中で
止めてしまったのだが、例のごとく閉店後の深夜の試聴では何と第四楽章まで
聴き続けてしまった!!
 
来客もなくなり、換気扇とエアコンを止めて試聴室のノイズフロアーを下げて
次第にしっとりと薄く汗をかくまで室温が上がって来るのを覚悟の上で、今夜
の私はPerformance6に敬意を表し、このスピーカーがなぜこれほどに私を虜に
するのか自問自答しながらの試聴である。決して節電のためではない。
 
最初から第四楽章までの全てを時間軸をトレースするように克明に、楽音の
再現性を各論として述べるのは困難かもしれないと思い始めていた。なぜか?
この私にして、こんなに大きく強く感動したマーラーの一番は初めてだったからだ!!
 
演奏が始まってから随所で過去に記憶のない音に出会い、その度に心が震える。
私の目線はもはやPerformance6をセットした3メートル前方の空間に釘付けと
なり、展開する楽音の流れを全身全霊を込めて集中し眼球の動きはピタリと
止まってしまった。
 
エアコンを止めているのに両腕には鳥肌が立つ。小澤征爾の指揮棒が何処かを
指しピンと躍動するように跳ねた時、ボストン交響楽団の各パートの演奏者が
忠実に反応して楽器を操った時、私の後頭部では盛大に両手持ちのシンバルが
打ち鳴らされた!!
 
白銀と化した後頭部から私の大脳の奥深くに分布しているシナプスに強烈な
電流がほとばしり、それは首筋をかけ下りて背筋を凍らせたように膠着させ、
その一瞬後には爆発するように背中に痙攣をもたらす!!凄い!!
 
           -*-*-*-*-*-*-*-*-*-
 
このディスクでは常に弦楽器の質感を最初にチェックする。思えば一週間前、
配線して最初に鳴らした時のPerformance6を表して、私は輸入元の担当者に
「今のところ私が感動するような音は出ていない」とそっけない報告のメール
を送ったものだったが、当時は先ず弦楽器の質感で私としては到底許容できる
音質ではなかったのである。
 
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/828.html
 
それから最初の変化は三日目か、上記のインプレッションを配信した日のこと。
そして、オーケストラでのインプレッションを書けない日に掲載した↓この
ブリーフニュースの最後には次のように述べていた。
 
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/829.html
 
「前号では突然発したMORDANT-SHORTの奇跡を粋な録音のヴォーカル曲を主体に
 私の思うままに述べてみた。実は後日述べることになるが、最初に因幡 晃の
 CDを選んだ事にはちょっとした訳があった。それは後ほどの試聴による確認
 を予定するとしてPerformance6 に対する私の興味は尽きない。」
 
そのちょっとした訳というのは三日目にして熟成の結果を期待させる音を出し
始めたPerformance6でオーケストラを聴くには更にバーンインの時間をかけて
熟度の飽和曲線を登りきったという事を私が納得してからと思っていたからだ。
 
節電の時代に反して夜間は徹夜でエンハンサーCD-ROMをリピートさせ、昼間は
音楽をかけるという急速なエージングを一週間施したのが今夜の音だった!!
 
乾いた髪にブラシをかけようとしたら髪の毛がきしむ音がして抵抗が大きい
状態が一週間前の最初の弦楽器だったのか、今日のPerformance6が聴かせる
弦楽器はしっとりと潤いと光沢のある黒髪に櫛が滑らかに通り、櫛の通った後
には流れるような光の束が反射する輝きを発するがごとく、見事に弦楽五部の
全てがほぐれているのである。
 
第一ヴァイオリンと同じ音階を第二ヴァイオリン、そしてビオラもチェロも
奏でる時の壮麗な美しさと言ったら筆舌に尽くしがたい魅力に震えた。
音階は同じでも楽器の大きさと音色が当然異なるわけだが、その四部が同時に
同じ旋律を奏でるとPerformance6の中間と両翼の外側にも溢れんばかりの
音場感、サウンドステージが浮かび上がる様を私は恍惚として眺める他なかった!!
 
そうだ!! 
 
2011年5月21日から5月23日の3日間開催されたベルリン・フィルハーモニー
管弦楽団の定期公演で佐渡 裕が指揮を取ったことが話題になり、自宅のテレビ
でそのドキュメンタリーを見ていたことがあった。
 
そのリハーサルの後で、2009年に31歳でベルリン・フィルのコンサートマス
ターに就任した今年33歳の樫本大進が佐渡 裕に話しかけていた。
 
「欲しい音があったら何でも言って下さい!!」
 
欲しい音? 譜面通りに音階とリズムをきちんと守り演奏すればいいのでは?
指揮者が楽員に求めるべき「欲しい音」とは一体何なのか?
 
これはオーディオでも言えるかもしれない。
周波数特性が平坦で歪なく、ダイナミックレンジが広い音が一般的にはいい音。
だったらオーディオシステムは皆、言葉通りの同様な目標を目指せばいいのでは!?
 
そんな一シーンを思い出したのはPerformance6が奏でるオーケストラの音に
私がこのキャリアと年齢にして新たな発見をさせられたものであり、悟らされた
という事だったのだ。
 
今まで数えきれないシステムで、ひょっとしたら四ケタの回数を聴いてきた
かもしれないマーラーの一番で、第一楽章軽やかな弦楽器を、第二楽章では
律動的な弦を、第三楽章では弱音の極みでさえ響く弦楽器を、第四楽章では
エネルギー感にあふれ、生命の喜びをダイナミックに表現する弦楽器を!!
 
弦楽器群の音色の変化をこれほど大胆に聴くことが出来たのは、いや!!
これほど小澤征爾がボストン交響楽団の楽員に音色の変化を求めていたという
ことを私は教えられたのであり、それは衝撃的だった!!
 
このスピーカーは何なんだ!!
 
楽章の各パートにおいて作曲者が自らのイメージを封じ込めたスコア―があり、
その譜面に対して指揮者の感性と力量で様々な解釈を施し、その結果演奏者に
対して音階と強弱以外の楽音のニュアンスを求めていた。
 
Performance6が初めて私に教えてくれたのか、弦楽器は音階と強弱の変化だけ
でなく、音の色を変化させているというオーケストラの醍醐味が素晴らしい!!
 
ステージの雛壇の最上段に位置する金管楽器がPerformance6の頭上から飛んで
くるのが爽快だ。しかも、一切の刺激成分はなく、音源の位置関係を明確に
聴き手に伝える描写力。
 
更に、弦楽器群に埋もれることなく木管楽器は自分のパートを空間に示し、
交互にバトンタッチするように右から左へ、左から右へと、クラリネットと
オーボエが1フレーズ毎に位置を変えながら展開していく。見えるようだ!!
 
面白いことにホルンは逆だ。確かこの曲ではホルンは8本で演奏しているはず
だが、彼らの発する響きはステージ上で既に融合し、贅沢に空間を独り占め
るように残響をたなびかせて消えていくのだから面白い。自分はここにいるぞ
という個体感のある楽音ではなく、弦楽器に傘をかぶせるようなドーム型の
響きを形成するのが印象的!! これほどステージの上で視野が広がっていく
スピーカーはあっただろうか!!
 
この曲でもティンパニーやグランカッサという太鼓、打楽器のダイナミックな
打音はいたるところに登場する。そして、圧巻なのは金管楽器群の出足をピタリ
と一致させた時の瞬発力あるダイナミックな一打が忘れられないのである。
第四楽章でこのシーンが私の頭の中を一体何回、白銀の境地に変えた事か!!
 
そして、なぜ今まで気がつかなかったのか!!
 
第三楽章では葬送行進曲のゆったりした主題で、大太鼓をゆったりと鳴らす。
胴の両端に張られた膜を直角に叩くのではなく、膜に寄り添うように奏者の
腕が流れる一瞬にタッチするように、なでるように叩く音が連続する。
 
第四楽章では対照的に管楽器があたかもシンコペーションを意識しているかの
ように打楽器の打音を待ってから強力な楽音を噴き出す場面で、スピーカーの
ウーファーがどくんと脈打つような打撃を見せる。
 
私は今日Performance6で聴くことで初めてそれを見た!!
 
大太鼓の奏者が叩いた後の響きの長さを推し量り、震えている太鼓の膜に手を
当てて消音しているという場面を!! 
 
Performance6が正確無比に微弱な音を大太鼓から引き出し、それを滞空させて
いる間は間違いなくうっすらとして白い霞のように打音の響きの残滓が見える。
それが、奏者が手を当てた瞬間にすっと消えてしまったということだ。
 
迫力ある打音は他のスピーカーでもいくらでも出せるだろう。しかし、打音の
滞空時間をぴたっと止めてしまう演奏者の手の動きを見せてくれるたのは私に
して初めての体験なのである。
 
実は、今まで述べてきた事は別の言葉で言い換えることが出来る。
Performance6というスピーカーはローレベルの信号を極めて忠実に再生すると
いうことなのだ!!
 
オーケストラの様々な楽器が生み出す音がホールという空間に広がり、消えていく。
その過程において、発生した楽音の消滅まで実に正確に再現しているということだ!!
 
弦楽器の質感に潤いがあるのもそう、管楽器の響きがホールの天井を目指して
拡散していく有様もそう、打楽器の震える膜をミュートするのもそう!!
 
微小信号をこれだけ旨味をもって聴かせるスピーカーは他にあるか?
 
私はオーディオシステムで再生音の大小、つまりダイナミックレンジの上下両端
においてこんな思いを今日はイメージしていた。
 
微小な信号と再生音に仮に音の質量があるとすれば大きく重たい。
それはアンプのボリュームを上げて音量を上げないと録音された小さな音を
実際の耳で聴くことが出来ないからだ。つまり大きなエネルギーでスピーカー
を駆動しないと動いてくれないというイメージだ。
 
逆に大きなレベルで録音されている音の質量は軽く小さい。
同様にアンプからの出力という電気エネルギーはボリュームを絞り音量を
小さくしても大きな音は苦も無く聴こえるのだから、軽く動くということか。
 
Performance6は、このように例えた音の質量を録音レベルと楽音の音量の大小
を問わず均等化して再生するという極めて稀なスピーカーだということだ!!
 
「おー!! いい!! 素晴らしい!! そして、今までのマーラーと異質だ!!」
 
と述べたが、これは違和感ではない!! 和合感なのである!!
 
オーケストラの楽員全ての音をPerformance6は音色から音量、定位と奥行き感
という三次元情報を加えた上で、聴き手に安らぎと興奮をもたらす和合感だ!!
 
さあ、どうしよう。この真実を果たして日本のオーディオファイルに広めて
行くべきなのか、それとも…!?


このページはダイナフォーファイブ(5555):川又が担当しています。
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