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H.A.L.担当 川又利明




2007年11月29日
No.553 「H.A.L.'s One point impression!!」
『H.A.L.のハードルを超えた最新型CD/SACDPlayer三機種の音質とは!!』

ハルズサークルレビューのみに配信してweb未公開の企画、人呼んで“ハルコン”
は見事に流会となりましたが、その企画あってこその貴重な分析と体験ができた。
この企画は11月16日に予定していたので、下記の三機種は14日にセットアップされ
そこからずっと24時間の通電、更に夜間もバーンインCD-ROMをリピートさせると
いう日々を繰り返していたものだ。

このレポートをいつ仕上げるかということについては、各社に無理をお願いして
機材の貸し出し期間を延期、更に延期と私の探究心が次々に試聴課題と新しい発見
を繰り返すうちに三週間が過ぎてしまった。

その中では時系列を前後させてのエピソードも含まれ、過去最大に時間をかけた
新製品レポートとしてお届けすることになった。先ずシステム構成は!?


          ◇ New CD/SACD Players-inspection system ◇

………………………………………………………………………………
Wadia 581i SACD/CD Player (税別\1,950,000)
http://www.axiss.co.jp/whatsnew_wadia581.html
                 vs
VITUS AUDIO SCD-010<専用ANDROMEDA電源ケーブル1.5m付属>(税別\2,000,000)
http://www.cs-field.co.jp/vitusaudio/vitusaudiomain.htm
                 vs
LINDEMANN 820S (税別\1,980,000.)
http://www.accainc.jp/lindemann.html

     and
TRANSPARENT PLMM+PI8(税別\606,000.)*WadiaとLINDEMANNに使用
*VITUS AUDIOにはTRANSPARENTのPIMMより専用ACケーブル使用
http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER
     and
Project“H.A.L.C”H.C/3M(税込み\500,000.)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/halc/index.html
………………………………………………………………………………
                ▽ ▽ ▽

TRANSPARENT  OPUS MM Balanced INTERCONNECT CABLE 2.0m (税別\2,660,000.)
http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#OPUS

                ▽ ▽ ▽
………………………………………………………………………………
HALCRO dm8(税別\2,200,000.)
http://www.harman-japan.co.jp/product/halcro/dm8_dm10.html
     and
TRANSPARENT PLMM+PI8(税別\606,000.)
http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER
     and
Project“H.A.L.C”H.C/3M(税込み\500,000.)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/halc/index.html
………………………………………………………………………………
                ▽ ▽ ▽

ESOTERIC 7N-DA6100 MEXCEL RCA 7.0m
http://www.teac.co.jp/av/esoteric/mexcel/
          and
Cardas Myrtlewood Block / Large single notch  (税別 \9,800.)
http://www.ohbashoji.co.jp/products/cardas/accessories/#woodblock

                ▽ ▽ ▽
………………………………………………………………………………
HALCRO HALCRO dm88 ×2 (税別\7,600,000.)
http://www.harman-japan.co.jp/product/halcro/dm88.html
http://www.halcro.com/productsDM88.asp
          and
TRANSPARENT PIMM+PLMM(税別\606,000.)×2set
http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER
………………………………………………………………………………
                ▽ ▽ ▽

TRANSPARENT  Reference MM  Speaker Cable 2.4m (税別\2,600,000.)
http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#REFERENCE

                ▽ ▽ ▽
………………………………………………………………………………
MOSQUITO NEO(税別\4,800,000.)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto54.htm
………………………………………………………………………………

以上の構成によって比較試聴した。各プレーヤーからの出力には266万円のバランス
インターコネクトを使用し、各社の出力する情報を余すことなく伝送するという
配慮を行い、同時にバーンインも240時間以上は行なっているという状態。
これだったら文句の付けようがないだろう(^^ゞ

ただし、電源環境だけは専用ACケーブルをVITUS AUDIOでは設定しているので、
そこのところは他社と違うレギュレーションとしている。
http://www.cs-field.co.jp/vitusaudio/cable.htm

使用したディスクは四枚だが、いずれのプレーヤーでも通常のCDの再生が基本。
CDはダメだがSACDは良いというものは私が知る限りではない。逆に各社のアップ
サンプリング技術やアルゴリズムの選択などもCDのみということもあり、基本を
重視して先ずはCDの再生音で検証したものだ。

以後は製品名は省略しブランド名のみで表記。試聴した順番はVITUS AUDIO、
Wadia、LINDEMANNの順番を繰り返しているが、この順序は私が事前に想定した
ものであり、仮にイベントを行ったとしたら同様な聴き方をしてもらおうと考えて
いたもだ。その理由は後述を読み進むうちにお解かり頂けると思う。

11月14日にセットアップして10日間以上ほぼ毎日三者を聴き続けてきた。
それは各々の違いが微妙だから表現が難しいということではなく、私には明確に
解り過ぎくらいであり、それをどのように表現したら良いとかという文章構成の
あり方に悩んでいたというものだった。

しかし、この10日間以上の時間があるものにとっては大変重要なバーンインの可能性
を示唆するものであることがわかり、もしも試聴期間が半分であったなら大きな
誤解を招いていたことだろう。それも後述するのでぜひご注目頂きたいものだ。

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

先ずは定番のマーラー交響曲第一番「巨人」小澤征爾/ボストン交響楽団から第二
楽章を聴いてのインプレッション。この曲を最初に選択した理由は、この曲で疑問
があった場合には他の曲を聴く気になれないというほど私のリファレンスであり、
オーケストラにおける周波数帯域ごとのレスポンスとバランス、弦楽器の質感、
管楽器の再現性、ホールエコーの保存性、などなど長年に渡り聴き続けてきた曲で
あるがゆえに多項目のチェックが直ちにできるからである。

しかし、以下の本文を書き始めるまでの10日間に、いったい何回スタートの一曲と
して選んだこの曲を繰り返し聴いたことだろうか!?

この三者共に将来性ある新製品だけに慎重になったということでもあり、更にここ
数日で驚くべき変化を見せたWadiaにとっては欠かすべからざる時間であったとい
うものだろう。


■VITUS AUDIO

このプレーヤーの最大の魅力であり特徴は何といっても楽音の質感である。
それも他社のフラッグシップとして展示しているセパレート型CDプレーヤーに匹敵
する“魅力ある質感”であるということを最初に述べておきたい。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/322.html

この↑Short Essayでも同社のアンプに関して同じ曲での感想を述べているが、
別に手を抜くわけではないがCDプレーヤー単体を聴いただけでも全く同様な魅力が
存在していることが直ちに察することが出来る。ぜひ再読して頂きたいものです。

先ず誰でもが感じることができるのが、冒頭の弦楽器群の重厚なアルコの繰り返し
で数十人が演奏する楽音の質感がこの上なくスムーズでありしなやかであるという
ことだろう。

オーケストラで最も演奏者の多い弦楽器のひとつひとつを黒髪に例えれば、ヴァイ
オリンは左から右に、チェロのコントラバスは右から左にと演奏の進行に伴って
左右のスピーカーの位置から反対側へときめ細かなヘアブラシで楽音の流れをさっ
と整えるように、一本一本の髪の毛の描写力をそのままに集団として多数の楽音が
一斉に弾きこなされる解像度と柔軟性が見事に調和するのである。

それはクセのある髪の毛ではなく、日本女性の黒髪に見られるキューティクルの
輝きであり、しなやかな感触をイメージさせるあの質感と言いたい。
髪の毛の一本ずつがくっきりと見分けられ、その流れる方向性に統一感があり、
その集まりが光沢感をうねりとなって表現する。これは見事だ!!

男性諸氏はあまり好んで見ようとは思わないだろうが、下記のサイトで登場する女性
たちの髪の毛のビジュアルイメージとして語っておきたい美しさがVITUS AUDIOの
魅力と言える。

http://www.shiseido.co.jp/tsubaki/index.htm

この弦楽器の質感の美しさと呼応するように管楽器の質感も特筆ものである。
マーラーの特徴でもあるひとつの主題を木管楽器がリレーするような演奏が続き、
オーケストラの中に点在する位置関係を見事に描きながら定位感を忠実に示し、
豊潤なホールエコーを伴って奏でられる響きにはうっとりするほどの魅力がある。

更に、私がこの上なく魅力として感じるのが金管楽器の刺激成分が見事に除去された
質感だろうか。トランペットの力強い旋律が右側後方から聴こえてくるが、俗に言う
ハスキーな音色ではなく、本当に透き通るような輝きに温度感と潤いを感じる。

VITUS AUDIOの音質は上質であることはもちろんだが、オーケストラにおける総て
のパートにおいて、楽音の発祥から消滅までの長い滞空時間を誇るエコー感が聴く人
の美意識を刺激し、私の感性の深いところに訴えかけるものが大きい。

再生芸術であり本物とは違うという認識を私は基本としているのだが、聴き進むうち
に心地よくリスナーを包んでくれる余韻感をなぜ否定出来るだろうか!?
それは意図的に演出したという付帯音ではなく、あくまでも楽器とホールという
両者が醸し出す響きのエッセンスに他ならず、聴く人が欲するものを暗黙のうちに
提供しているというHans-Ole Vitusのサービス精神にいたく感動させられた。

たった一台、1ユニットのVITUS AUDIOのコンポーネントが聴かせるオーケストラに
私は最初から惜しげもなく三ツ星を付けてしまったから後が大変だ(^^ゞ


■Wadia

TRANSPARENT OPUS MMという大変高価なケーブルを使うのだから、一台一台をつなぎ
換えるという作業の手間を惜しむことはない。しかし、この10日間あまり、いったい
何回繰り返してきたことだろうか。そのケーブルと同じアクシスが扱うWadiaだが、
正直に言って最初の一週間では課題曲のオーケストラでは星一つというものだった。

それは私が最も大切にしている余韻感と空間表現に関して、どうしても他の二社と
比較すると見劣りしていたからだ。これは他の課題曲でも更に強く感じたことであり、
今回の試聴期間が一週間以内であったら大変残念な結果を報告しなければならな
かったであろう。

だから私は輸入元であるアクシスに対して、しつこいほどに音質を調整できる機能
はないのかと問い合わせ、デコーディング・ソフトウェア: DigiMaster 2.5 (アル
ゴリズムA/B/C選択可能), 24bit resolution というところに注目した。

このアルゴリズムの設定方法をマニュアルとしてもらい、実際にA/B/C選択を切り
替えて私が求めている方向性での変化が表れないかと更に時間をかけて聴いてみた。
しかし、確か私の記憶によれば六日目という時点で実験してみても、三種類のアル
ゴリズムの音質の違いはわずかであり、アルゴリズムAが微妙だが空間表現に優れ
ているということがわかったものだった。これまで聴いてきたのがAだったので、
もはやここまでか…、と思っていた矢先である。

七日目…「あれ、ちょっと違うな〜。何か違うぞ!!」

八日目…「うん、間違いない。熟してきたのかな〜」

十日目…「えー!! どうしたの、このオーケストラは!!」

乾燥した肌にスキンローションがしみこんでいくように滑らかになり、今まで弦楽
器の発する余韻感は音像のサイズの1.2倍くらいのエコー感の広がり方と分析して
いたのだが、なんとなんと、他の二社に匹敵するくらいの豊かなエコー感を音像の
サイズの1.5倍くらいの広さに拡散させるようになっているではないか!!

その余韻感という情報量の増加にともなって当然弦楽器群の質感にも潤いが表れ、
最初はマッチョなだけで力強い各パートの演奏がNEOの前面にせり出してくるだけ
の音だったのが、ぐっと深みを増して響きを増量しているのでコントラストが以前
にも増して鮮やかになっている。

響きの階調が以前の倍近くに細かく再現されるので色彩感が豊かになった。
12色の色鉛筆しか持っていない子供が、24色の色鉛筆を買い与えられたときの感動
と喜びを表情に表し、嬉々としてオーケストラの絵を描き始めたという感じだ。

いや、よくよく私の感性で聴き続けていると、それは24色の絵の具であって、時間
が経つほどに絵の具を混ぜ合わせて新しい色をブレンドし、パレットに乗せていく
という快感をWadiaが覚えてしまったということだろうか。

すると、十日目にして以前の腕っ節だけで演奏していたオーケストラから繊細な
指使いのテクニックも身に付け、最初に印象に残ったWadiaらしい重厚な低域と
歯切れのいい再生音がマッチョな男性奏者からグラマーな女性奏者へと変身して
しまったことに気が付かされた。

しかも、Wadiaの魅力として筋肉質な楽音の質感に、今では優雅な響きの要素が加わり、
最初の一週間はロボットの指揮者であったのが生身の人間のしなやかな動きで指揮
されるようになったようだ。

私がやはりWadiaだ、と最初から感じていた重厚な低域の質感があった。
しかし、それは楽音の内向的な表現でしかなく、演奏者の周囲は真空状態のように
残響成分の伝播を拒んでいた。

しかし、熟成期間を与えたあとのWadiaはオーケストラのある空間で、不思議な空気
の発酵現象でも起こしたのか、Wadiaのテクノロジーが目覚めたときには楽音が発する
甘い気体が残響成分を見事に浮遊させる環境を作り上げてしまったようだ。

Wadiaでのオーケストラ、う〜ん、これも三ッ星だろうか!!


     -*-*-*- ここからは2007年11月27日以降の音質 -*-*-*-

実は、昨日のこと。アクシス担当者からWadia 581の音質に関わる改善策が出来た
ので、数時間で行い当日のうちに返却するからということでいったん引き上げて
いった。そして、11月27日の閉店時間になって戻ってきた。そうしたら…!?

私は昨日までの試聴で散々上述の感想を述べてしまっている。その舌の根も乾かない
うちに三ッ星と評価してしまったものに対して今更何を追記するのか?そんな思い
を胸にしながら、最近はこれしか聴いていないという課題曲の最初の一曲をかけた。

「うっ…、違うな〜、確かに違うぞ!!」

十日間以上の熟成期間を重ねてきたWadiaの更にその上を行く予兆が冒頭から表れ
ている。私の記憶の中のファイルとぴったり二枚重ねにして灯りにかざし、二枚の
シートを透かして見るとホールエコーが以前よりも充実していることがわかる。

それもオーケストラのフォルテで大音量を発した後の尾を引くような余韻感ではなく、
各パートが発した小音量の演奏パートで顕著に感じられる。

ホールの随所に使われている木材が年代を重ね自然な乾燥を毎年繰り返し、鏡板の
ような硬質な表面が音波を心地よく跳ね返すようになったのか!?

木管楽器のソロパート、弦楽器群のピッチカート、コントラバスもゆったりした
響きを従前に増してエコー感を長引かせ、そして屋外コンサートホールの反ドーム型
の
屋根がスピーカーの上に設けられたように、微弱な楽音の最終的な消滅までの過程を
更に延長する情報量の拡大が明らかなのだ。

いや、これはWadiaそのもののノイズフロアーが極限まで低下したということの
表れなのだろうか? そして、この一日にして起こった変化は大きい。これは更に
検証を加えてみる必要があるだろう。

そして、肝心なことは余韻感が素晴らしく鮮明になるというこは演奏に細やかさ
繊細感が伴うようになったということであり、ここでWadiaならではの重厚な低域
の魅力と溶け合ってしまっているという事実だろう!! これは大変な脅威だ!!

時系列のジャンプも気にせず、私は次の課題曲をすぐにかけることにした。


■LINDEMANN

さて、順番としては最後になったがLINDEMANNでのオーケストラはどうか!?

はい、これは演奏開始直後に早くも当選確実の三ツ星を私はつけてしまいました!!

AccA web siteと担当者の解説を要約すると次のようになる。

           □より洗練されたD/Aコンバーター設計□

「820Sでは、D/Aコンバーターシステムにおいて音質に影響する要素を研究した上
で、
 超低ジッターのマスタークロックによる独自の高分解能リサンプリング・アーキ
 テクチャー“HiDRA”(High Definition Resampling Architecture)を継承する
 一方、基板全体をリファインしてコンバーター入力におけるジッターを極限まで
 低減しました。

 各チャンネルそれぞれに、極めて分解能の高いバーブラウン社製D/Aコンバーター
 モジュールPCM/DSD1792を採用。

 その入力は192kHz信号にも対応、PCMデータを1.41MHzにオーバーサンプリングし、
 データは4倍モジュレーターによってアナログに変換されます。

 すなわち合計5.64MHzのモジュレーションが行われることになるわけで、これほど
 のサンプリング性能をそなえたCDプレイヤーは他に類を見ません。」

お〜、なるほど〜(^^ゞ

というアップサンプリングテクノロジーが最初から私の頭の中にファイルされており、
それは他社の製品で体験したアップサンプリングの高度な質感という記憶につながる
ものであり、アップサンプリングの倍数が大きくなった時の質感の変化を私は経験
として耳が覚えていた。この特徴がズバリ表れている。

LINDEMANNで聴き始めたオーケストラは楽音の総てで大変細やかなニュアンスまで
再現し、冒頭の弦楽器群のアルコは申し分ない質感。しなやかであり繊細であり
女性的なしとやかさがシルクタッチの艶やかな弦楽器を再現し、そして特筆すべき
ことにオーケストラ全体で奥行き方向の定位感で最も奥深くに定位している。

ここで敢えて比較すれば奥行き方向の距離感という見方ではWadiaが最も近く、
それがエネルギッシュな演奏という印象にも一役買っているものだった。

VITUS AUDIOは一転してそれよりも距離感を保ち、各パートの発する余韻感という
ものを楽音の周辺に美しく展開させるので遠近感のあり方としては深い…。
ただし、後述するが他の曲では違う展開を見せてくるのだが。

そして、このLINDEMANNが最も懐が深いオーケストラでは楽音の色彩感が、これは
多数の演奏者が発した音に対する視覚的な比喩の一例としてだが、個々の楽音が
空気中に溶け出していくようにグラデーションの階調が実に細かく数多くの段階で
一つの色合いを表現している。

水彩画の画用紙にいったん乗せた微量な絵の具を水だけ含ませた筆で薄く薄くのば
していき、半透明の染みのように紙に染み込んでいくような感じなのだ。それは
後からペンで字が書けるほどの極めて薄い透明感のある色ののり方であり、更に
水だけで引き伸ばしていくと遂には色が見えなくなって画用紙の白に同化してしまう
ような淡い色彩感であり、LINDEMANNが聴かせるオーケストラの各パートの楽音は
見事に空中に溶け込んでいくという過程にぴったり一致するイメージなのだ。

ハイサンプリングという手法では、正にこのような微小信号の消滅までの時間軸の
進行に伴う変化が聴き手に正確に伝わるものであり、淡白な表現とも言えるかも
しれない。このような表現を借りれば色彩感が最も濃厚なのはWadiaであり、その
対極にあるのがLINDEMANNであり、VITUS AUDIOは中庸であると言える。

さあ、基本的なオーケストラでの比較は最初から鮮明な個性を見せてくれた。
ではスタジオ録音での課題曲ではどうなるのか?

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

次の課題曲は最近新しく私のテストディスクとして採用したもの。
Swedish Beautyというキャッチフレーズに惹かれて一挙にシリーズ三枚を注文して
しまった。その中でこれは!!という一枚がこれ。

Lisa「Embraceable」エンブレイサブル この1.LIGHT MY FIREがちょうどいい。
http://www.spiceoflife.co.jp/sb_cd03.html

アコースティックな女性ジャズヴォーカルの一曲だが、ここでもまた各々の個性が
表れてきた。試聴した順番は前回通りとしたが、これも10日間以上何回も何回も
繰り返し聴き続けてきたものだった。


■VITUS AUDIO

ウッドベースとブラッシングとパーカッションという軽いリズムセクションにピアノ
とギターが加わり、最後のサビのところで渋いトランペットが登場するというシンプ
ル
な編成のしゃれたヴォーカル曲である。

イントロから始まって最後まで右チャンネルでは一貫してシェイカーが一定のリズム
を刻んでいるが、このシェイカーの音色・質感だけに注目しても三者の個性がある。

そのイントロではウッドベース、ピアノがセンターに、左側でギターが一斉にスタート
するが、それらのバランス感覚も比較に面白いところ。

VITUS AUDIOではやはり各楽音の質感の素晴らしさに先ず目が行く、いや耳が反応する。

シェイカーの中の小石に大小の粒の違いがあるのか、またスイングによってシェイカー
の中身が片方に完全に集中して歯切れよく響き、手首のスナップがしなやかに楽器を
扱うビジュアルが右側のNEOの頭頂部の上の空間に見えるようだ。

ウッドベースの輪郭を意図的にくっきりさせないジャズの録音もあるが、この場合
にはきっちりとセンターに定位し、それに重なる定位のピアノとも抜群の解像度で
混濁がない。

オーケストラと全く違う楽器のサイズと録音環境がここでもVITUS AUDIOの魅力を
楽音の高度な質感として最初から安心した演奏を繰り広げる。
さあ、リーサのヴォーカルが入ってくる。

「You know that it would be untrue  You know that I would be a liar…」

訳詩によれば…

「そうよ、そんなの正しくないし  そうよ、私は嘘つきになっちゃうわ」

と、甘くキュートな歌声で、かのロックバンド、ザ・ドアーズの最大のヒット曲を
まろやかなジャズに仕立て直してしまったリーサのヴォーカル。この声質だけでも
私はVITUS AUDIOに瞬く間に“三ツ星”を与えてしまった!!

見事なウェーブでブロンドの髪を煌めかせるリーサだが、前述の例えのように人間
の声という楽音にもキューティクル効果をもたらしたのか、彼女の口許からこぼれた
吐息に混じる喉もとのウェットな質感は心地よく耳に響き、ヴォーカルのエコー感
とピアノのエコー感がスピーカーの後方に向けて爽快に響き消失前の美しさをここ
でも発揮してくれる。

ブラッシングだけのドラムは控えめにヘッドの上をすべり、シンバルに飛び掛ると
瞬間的なアタックをも見せる。弦楽器やヴォーカルのように連続する楽音での質感
では滑らかさスムーズさに好感を覚えるものだが、VITUS AUDIOはきちっとリズム
楽器のテンションを再現し、アタックの瞬間に放った楽音が見事な放物線を描いて
NEOの周辺に拡散していく。

スタジオ録音では当然マスタリングの過程で音質調整がなされるが、それらは単純に
低音から高音までの周波数特性のバランスを調整するだけではない。各パートが同じ
環境で演奏しているかのように個々の楽音の質感とリヴァーヴの深さも整理して
調和した音場感を作り出すことも重要な要素だ。

それを思えばリーサのヴォーカルの残響が立体的に広がっていくという描写力は
マスタリングにおける意図的なサービスだと思いつつも、実際にヴォーカルという
一つの楽音が作り出す音場感の大きさにはっと息を飲む思いだった。

その響きの美しさこそ、人間が生理的に好む温度感であり質感であると思われる。
やはりVITUS AUDIOの音は暖かい!!

LIGHT MY FIRE!! 正に聴き手のハートに火をつける音に三ッ星が決定した!!


■Wadia

この比較は面白かった!! 冒頭のシェイカーは中の小石が大きくなったのか、はた
また外側のケースの材質が木から金属に変わったのか、同時に多数の打音が一瞬に
して放射されるシェイカーの質感がテンションを高める方向へとがらっと変わる。

ウッドベースは重厚さを増してボリューム感を高め、ピアノの質感は演奏者の筋肉
がウエイトトレーニングで強化されたように力強くなり、なになにギターの音も
厚く濃厚な質感にと全体的に濃厚な演奏のバックバンドに豹変している。

そして、リーサのヴォーカルだ。お〜、なるほど、そうきますかー!!

輪郭表現は大変くっきりとする。それは背景の色合いと声質が明らかに違う色彩感
であり、そこに中間色のエリアはないのでは、と一瞬思えるようにヴォーカルが
浮き上がり明確さを輪郭の鮮やかさとして表現する。言い換えれば、淡い部分が
多数見られるグラデーションの階調の複雑さというよりは、ヴォーカルの口許の
色合いが濃厚になり、周辺に撒き散らすエコー感のエネルギーを一極集中したよう
な濃密な印象がある。

誤解のないように補足するが、Wadiaはエコー感が少ないということを述べたいの
ではなく、口許のリップスティックの色が大変鮮やかになり存在感を高め、背景と
のコントラストを強調するというダイナミックな歌い方になったということだろうか。

同じ音量であることを同じ重さの砂と例える。仮に1キロの砂山を作ろうとしたとき
に、
VITUS AUDIOで作った砂山の裾野は比較的広く、そう仮に直径30センチの円の中で
盛り上げた砂山だとしよう。ところが、Wadiaは同じ1キロの砂で直径15センチの
円の中に傾斜が急な頂上の高さも高い砂山を盛り上げて作ってしまうという個性だ。

この砂山を上から見た時の面積の大きさが音像のサイズということの例えであり、
また、その時の等高線の間隔が詰まっているほど急斜面ということであり、音像の
サイズが小さいということだ。そして地面から急激に立ち上がる斜面は輪郭をしっか
りと描くので、くっきりした輪郭を見せてくれるということだ。

逆に等高線の間隔があいていればなだらかな斜面で音像のサイズは大きく、裾野が
広がりながら地面と交じり合う高さでは余韻感が空間に溶け込んでいく境界線が
はっきりせずにソフトな輪郭表現ということだ。

低域から高域に渡る総ての楽音で、このように例えられるエネルギー感の集束が
再生音に感じられる。これは熱い音と表現してもいいだろう!!

この特徴は明らかにWadiaであって私のかなり以前の記憶とも一致する。
私はここにWadiaというブランドが経営的に引き継がれているだけでなく、以前の
熱く濃厚でエネルギッシュな音も引き継いでいたということを明らかに確認した!!

これも前述のように一週間以上というバーンインの成果によって熟成された温度感
であり、他社にない高レベルの個性として認めることから、自信をもって三ッ星を
提供するものだ!!


     -*-*-*- ここからは2007年11月27日以降の音質 -*-*-*-

深夜の試聴室とデスクを何度も往復するということ自体、私の感動と興奮が高まって
いるという証拠で、「感動の大きさに文章量は比例する」という格言がまたぞろ
現実になろうとしているのか。

リーサの曲を聴き始めた数秒間で私は呆れてしまった!!

「ちょっと…、ちょっとそれはないんじゃない〜」

この曲の最初から最後まで右チャンネルでのシェイカーのリズムが繰り返される。
そのシェイカーの質感からして以前とは全く違っているのだから、一体これまで
何を聴いてきたのかという私の残業時間を虚しくさせるような変化に驚嘆した。

「冒頭のシェイカーは中の小石が大きくなったのか」

と上記に述べたばかりであったが、それが背反する観察結果となった。確かに
Wadiaらしい小さな打音の集合体であるシェイカーなのだが、中の小石の半分程度
が逆に小粒になって軽やかであり繊細な質感に変わってしまっているのだ。

しかも、そんな一楽音の変化がヴォーカルの変化のベクトルを予測させていたのか、
リーサの声が出た瞬間に彼女が発する余韻感というオーラが私にははっきり見える
ようになってしまったから始末が悪い。

いや、以前からもヴォーカルの発生から口許の輪郭をたどり、放たれた声が周囲の
空間に浮遊しながら消滅していく様相を感じていたのだが、何と今のWadiaは彼女の
背景に向けて照明を当てて、そこに何があるのかまで見せてくれるようなのだ。

そこにはただ空気があった。しかし、その空間は光を当てることで大きさがわかり、
以前には気が付かなかったエコー感が拡散するために必要な空気がまだたくさん
あったということを知らせてくれた。その空間に向かって彼女のオーラは薄い乳白色
の煙となってエコー感を漂わせ、バックのトランペットやピアノなども同様に自分
から立ち上る陽炎のような余韻感が感じられるようになったのである。

同一傾向ではないものの、Wadia以外の製品が持っていた要素を独自にアレンジして
演奏にそこはかとない潤いと豊潤さをしっとりしたジャズヴォーカルで聴かせるの
だから恐ろしいものだ。

一体何をどうしたらこうなるのか? 私の興奮は好奇心に居場所を譲り先に進む!!


■LINDEMANN

やはりスタジオ録音での比較では楽音を各論として分析することが出来るので、
各社の比較でもポイントごとに記憶との照合がしやすい。さあ、LINDEMANNだ。

おー!! たかがシェイカーの音が洗練されたと言ったらオーバーだろうか!?
おー!! ベースの立体感をエコー感の長さとして見立てたら間違いだろうか!?
おー!! ピアノの打音にリヴァーヴが追加されたと錯覚したら誤解だろうか!?
おー!! 少ない出番のギターがしっとり聴けるのはいけないことか!?
おー!! リーサのヴォーカルがチャーミングに若返るのはなぜなんだ!?

さて、そんな驚きもつかの間、実はこのLINDEMANNにもWadiaでのアルゴリズムの
切り替えのように、もう一つ音質調整の可能性を含むところがあった。

リモコンでディスプレー上にDAC Sample Rate というメニューを呼び出して、
44.1/88.2/176.4という三種類を選択できる。今までは176.4で聴いてきたが、
試しに他の設定で試聴してみた。はい、すべて私の推測したとおりの変化です!!

ここで上述の砂山の例えがわかりやすいだろう。

同じ1キロの砂山を作ろうとするのだが、LINDEMANNでは直径40センチの面積を
使って緩やかな傾斜で裾野の広い富士山のような形でイメージされる音像を描く。

上記のサンプルレートを44.1にすると直径は20センチくらい、88.2では30センチ
くらいの面積において同じ1キロの砂山を形成することになる。当然面積が小さく
なれば高さも伸びて等高線の間隔は狭くなってくる。

そう、私が言いたかったのは上から見た砂山の形が音像の大きさであり、エネル
ギー感の集束してイメージであり、同時にエコー感として拡散しやすい形かどうか
というものなのである。

しかし、いくらサンプルレートを変えてもWadiaでの直径15センチというのものには
追いつかないものであり、それは逆に言えば余韻感として広がっていって欲しい
裾野の広さと、自然でなだらかな傾斜によるエネルギー感の消失時間の長さという
ことにもつながっていく個性の捉えかたなのである。

うん、この砂山の比喩は単純でビジュアル的にも理解しやすいだろうか。
上から見ての等高線の間隔が最も広く、地面に接する円周のところでは薄くなった
砂と土が殆んど交じり合っているようなイメージだろう。その部分に余韻感として
聴き手が感じるグラデーションの最終部分があるわけだ。

LINDEMANNがイメージさせる広い面積での背景に溶け込んでいきそうな裾野の周囲で
見せる残響の最終部分の美しさに、私は三ッ星を捧げたい!!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

次の課題曲もヴォーカルだが、同じスタジオ録音でも前曲とは全く違う傾向のもの。

“Basia”「 The Best Remixes 」   Epic (Japan) ESCA-5164

http://www.sonymusic.co.jp/Music/International/Arch/ES/Basia/

http://www.basiaweb.com/

http://members.tripod.com/~Basiafan/moreimages.html#remixes1

シンセサイザーによる打ち込みによる正確無比なリズム楽器、サンプリング音源に
よる人工的でありながら透明感のある楽音、それにチェロなどが織り交ぜられた
まさに音像の輪郭表現や低域の迫力あるドラムの質感などをチェックすべき選曲。

これまでのアコースティックな曲だけではなく、録音環境の響きという要素を廃し、
鮮明に描かれるスタジオワークの醍醐味をチェックすることにした。このような
人工的とも言える音楽によって更に三者の個性が際立っていくことになる。


■VITUS AUDIO

三者の中で最もヘビー級の26キロという本体重量はLINDEMANNの二倍はある。

http://www.euphonia-audioforum.se/forums/index.php?showtopic=4334

この↑中にある 2007-08-03 09:25 の写真をご覧頂きたいものだが、分厚いアルミ
パネルによる本体の造形にふさわしく、搭載メカのPhilips CDPro2LFをマウント
するベースも写真のようにアルミから削りだしたもの。

同じく2007-08-03 10:20 の投稿の写真では、このメカベースの裏側が写っている。
それを見てお解かりのように、CDPro2LFのメカと光学系は小さく軽いものなのに、
なぜここまで剛性の高いマウントベースを設計したのか?このベースを押してみると
若干の手応えとともに沈み込み、ダンピングされたフローティング構造であることが
わかる。なぜ、ここまでこだわったのか、その答えがいよいよこの選曲で明らかに
なってくる。

このディスクの一曲目、6分46秒という長さのCRUSING FOR BRUSING(EXTENDED MIX)
を使用する。冒頭はサンプリングのパーカッションによる派手な高音が乱舞し、
センターにくっきりと描かれるドラムが一定のリズムで強力な低音を叩き出す。

私はこの高低両方の楽音によって、長いイントロで繰り広げられる人工的に輪郭を
きっちりと枠取りされたパーカッションとドラムを先ず注視して比較の対象としていく。

ここで最初に驚いたのは、あの軟弱?と思われているPhilipsメカが何とも素晴らしい
引き締まった低域の再現性を持っているということだ。

NEOの四個のウーファーが一糸乱れぬ同期の上で叩き出す打音は快感を催すほどの
テンションの引き締まりを見せ、その先でエレキベースが入ってきてもくっきりと
分離する。連続する低音と一瞬の打音という対象的な低域がボリュームを徐々に
上げていっても破綻することなくきっちりと聴かせてくれる。

賑やかなイントロが終わりかけるとサンプリングのピアノかな? と思わせる透明感
のあるクリスタルなアタックが響き渡りBasiaを迎え入れる。

アコースティックな演奏に質感の素晴らしさで絶妙なタッチが惚れ惚れするような
マッチングを見せたVITUS AUDIOが何ともハイテンションな曲でも抜群の追随性を
見せてくれる。

ふんわりと雰囲気を作り出すプレーヤーもあるが、それらは決まってハイテンション
なこのような選曲になると足元がふらつくように音像が肥大化してしまうものだ。
ところがどうだろう!!

予想に反して? VITUS AUDIOの描く鋭い立ち上がりとアタックの鮮明さは一瞬私に
ESOTERICのVRDS-NEOの再来をイメージさせるような鮮度の高い研ぎ澄まされた音を
いとも簡単に提示してくれる。

そうか〜、ボディーとメカにこれだけの重厚な設計を施したということが鮮明な
スタジオ録音の特徴を見事に引き出しているのだろう!! 脱帽の思いだ。

そして、ただただテンションが高く張り詰めているというだけでは耳に刺激成分を
感じることもあるのだが、今まで聴いてきた選曲での質感の素晴らしさが透明感を
際立たせ、聴きやすい派手さ!? として、いつの間にか上がってしまった音量にも
気持ちよく体の一部がリズムをとって動いてしまうのだ。これはいい!!

ポップスの迫力ある演奏に品位を与えてくれたVITUS AUDIOにここでも三ッ星だ!!


■Wadia

いや〜、正直に申し上げて、この時を待っていたというのがWadiaだろう。
冒頭のドラムが鳴り始めたとき私は直感してしまった!!

そう、前述の砂山の例えで最小面積でエネルギーを集約させて熱く重厚な音を出す
というWadiaの個性をエコー感の少なさに対する反証として見てしまったが、実は
このような選曲での鳴りっぷりは最高と言える。

低域の重量感を更に増加させ、サンプリングとは言えドラムのアタックの直後に
拡散してしまうエネルギーを集束させて見事な音圧のピークを叩き出す!!

上から見た砂山の等高線の間隔が詰まっているということは、急峻に立ち上がる
山の斜面ということであり、砂がくずれないように霧吹きで水分を与えて斜面を
手で固めたようにすっくと立ち上がるアルプスのような砂山の形だ。

1キロの砂を直径15センチの中で盛り上げたという例えをしたが、この曲の総ての
楽音でその例えがズバリものを言う!!

一種の興奮を伴うBasiaの曲は、遥か以前に夢中になったことがあるWadiaの全盛期の
迫力を思い出させる。

文章量は少ないが、この曲を最後までノリノリで聴かせてくれたWadiaに三ッ星!!


     -*-*-*- ここからは2007年11月27日以降の音質 -*-*-*-

閉店間際に戻ってきたWadiaで夜更けまで試聴を続けている。更に一晩のバーンイン
を行い、お化粧直ししてから二晩目の試聴だ。そして、今“Basia”を聴いて私は
興奮し感動している!!

冒頭のパーカッションの乱舞というか盛大に派手な音がNEOの周辺に飛び回るが、
この質感の変化はどういうことだろうか!? 昨日でも他社と比較すれば硬質な印象
があったが、更に今は私の視界の中で強烈なライトが高度なスイッチングで高速の
点滅を繰り返すように煌めいている。この輝きは我が目と耳を疑うほどエネルギー
感に満ち溢れていて昨日との別物という印象が駆け抜けた!!

次に私が口をあんぐりと開けて、ふと気が付くとニンマリと表情が変わっていくの
を自覚しながら聴き惚れていたのが打ち込みによるドラムの音。一体このテンション
の高まり方をどう説明すればいいのか!?

キックドラムに相当する鮮明すぎるほどのサンプリングによる打音が、そう打撃音
がNEOのウーファーから放射される時間軸を半分にしたほどにタイトに引き締まり、
「ドス!!ドス!!」という音から「ダン!!ダン!!」という口調の変化で言い示すほど
の変化に唖然としてしまった。

CDプレーヤーの個性でここまでNEOの低域を変化させてしまったということは私の
記憶にもない。ここまでテンションを高めて高速反応する低域は私も初めてというか…。

今までの二曲ではノイズフロアーのあくなき低下という追求から微弱音の再現性が
素晴らしく高精度になり、ゆえに余韻感が増量され、そして楽音の質感にしっとり
とした潤いを追加するという分析を行なっていた。

その選曲から一転してハードなポップスのスタジオ録音の中高域では同様な変化を
私は感じていたのだか、それだったら低域もゆったりする方向に変化するのではと
いう予測が完全に裏切られたのだった!!

そして、“Basia”のヴォーカルは美しくなった!! いや、今までそうでなかったと
いうことではない。ホールエコーの増量もスタジオワークで付加されたリヴァーヴ
も同様に再現される空間がサイズアップしているのでクールなはずの彼女の声質が
温度感を上げてウェットに聴こえるということだ。これは気持ちいい!!

一体何をやったのか、一夜明けた今日アクシスの担当者から回答が届いた。

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

いつもお世話になります。

昨日対処させていただいたWadia581iにつきまして、以下にご報告いたします。

この度のWadia581iへの対処の目的は、一言で申し上げると、数値では表せない
聴感S/Nの更なる改善です。

その具体的な処置内容は、SACD/CDドライブメカの真下に位置するDSD/Multi-bit
変換基板からDACボードへのデジタル信号ケーブル配線と、デジタル入力基板から
DACボードへのデジタル信号ケーブル配線の引き回し経路を変更しトランスポート
&デジタル回路用電源部からのそれぞれの距離を、より引き離すことにしました。

更に、デジタル回路への電源供給ケーブルに高周波ノイズ吸収フェライトコアを
追加したことの二点です。

これによってDACボードへのデジタル回路からの高周波ノイズ(もちろん可聴帯域外
ですが)潜入が一層(数デシベル)改善され、結果的に聴感上のS/N改善にも反映され
ました。

これらの対処は所謂「改良のための仕様変更」に属するものですが、表示スペック
変更を伴なうものではありません。

また、これは製品への弛まざる向上を求める中で、ワディアと弊社双方の技術的
解析/評価審議から派生し実施された技術改善です。

以上、何卒よろしくお願い申し上げます。

アクシス株式会社 商品企画室 

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

「おー!! アクシスは音質追求をここまで技術的に行い、Wadiaと対等に渡り合い
 製品の音質に関わる輸入商社だったのか!!」

なるほど、製品のパーツは何も変えていないということは、そういうことだったのか!!

まとめとして砂山の例えをすれば、低域に関してはやはり直径15センチのスケール
で引き締まった下半身を持っているが、高域になればなるほど直径30センチの魅力
を音場感への浸透力として持ちえたと言えるだろうか!!これは憎いことをやった!!


■LINDEMANN

前項で述べたLINDEMANNでは直径40センチの面積をもって砂山をイメージした、と
いうことがここではズバリ的中する。

ドラムのテンションと引き締まり方という採点方法ではどうしてもVITUS AUDIOと
Wadiaに軍配が上がってしまう。イントロを聴き進むうちに、これも個性なのだから
仕方ないだろうという思いがあり、リズム楽器に対しては打音のエネルギー感を
時間軸で圧縮して聴かせるという方向性ではないようだ、と思いつつBasiaの
ヴォーカルが入ってくるのを待っていたものだった。すると…

おー!! そうきましたか!!

Basiaのヴォーカルの質感は硬質な印象が拭い去られ、無機的な伴奏の中にあって
ふっくらとした余韻感を伴う質感であり、深いリヴァーヴの折り返しが実に新鮮だ。

そして、今まで打音のテンションに注意を引かれてしまったのか、チェロがゆったり
としたメロディーを奏で、その後に仕上げのトランペットがヴォーカルの代わりに
ジャストセンター定位でNEOの奥深いところから響いてくる。これはいい!!

人工的に管理された伴奏の楽音の数々に、唯一生の楽器でのしっとりした質感が
絡み合ってくると迫力という言葉に引き寄せられていた私の観察点が回れ右をした。

そう、ハイテンションで人工的なクリアーなサンプリング音源の嵐の中で、一瞬の
うちにスイッチされた観察眼、いや耳の聴きどころとしてアコースティックな楽音が、
いかに調和しているかがわかる。そう、冷たくないのだ!!これにも三ッ星だろう!!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

最後の選曲はこれ。2007年の7月16日-20日スペインのラ・コルーニャというオペラ
ハウスで収録された村治佳織/VIVA! RODRIGOでロドリーゴ:アランフエス協奏曲
を聴くことにする。
http://www.universal-music.co.jp/classics/kaori_muraji/uccd1200rodrigo/

これまでの三曲を総合的にチェックしようという考えがありました。交響曲では
弦楽器群は面としてステージを埋め尽くすように展開するが、協奏曲という
ソリストがセンターに定位するオーケストラものでは弦楽器は程よくセンターを
空けて左右に分かれ、ソリストの演奏を取り囲むように録音されている。
これはピアノコンチェルトでもヴァイオリン・コンチェルトでも同様な傾向にあり、
皆様はお気付きだっただろうか。

そのソリストを優先した録音上でのオーケストレーションのチェック、そして
ギターというテンションを高めて弾ける楽音のニュアンスと好対照に、なめらかに
聴きたい弦楽器、そして管楽器の響きが豊かに再現されて欲しいという相反する
楽音の特徴を一度にチェックできるからだ。

十日間以上に渡る検証の最後で、私はこの曲も何度も繰り返すことになった。


■VITUS AUDIO

第一楽章で村治佳織のギターが先行し、それを管と弦が追いかける展開を気にした。
天井の高いオペラハウスのステージ、そのセンターでオーケストラに取り囲まれる
ような配置で演奏しているというのがライナーノーツの写真から見受けられる。

彼女の演奏をスローモーションで見たら、指先があれほど高速に動きまわり、弦の
一本一本を確実な音階として弾いているのが見えることだろう。
そのギターの余韻感はどちらかというとオーケストラの楽員がいる左右方向に拡散
する。その証拠に彼女のギターを捕らえているマイクロホンには、驚くべきことに
ホール壁面の一次反射音がリターンして記録されているのがわかった!!

そんな再現性の忠実な描写力を緊張感をもって追いかけながらも、楽音の質感には
ギターという弾く楽器にしては珍しい漂うような余韻感が私の耳を和ませる。

そう、やっぱりVITUS AUDIOでは美しいものは何か、ということを先に考えさせる
不思議な魅力があるようだ。

そして木管楽器が点として絞り込まれた音像を提示し、同様にホールエコーを上に
感じながら村治佳織を取り囲むようにリレーして自分のパートをこなしていく。

さあ、ヴァイオリンが入ってきた。あっ、これはいい!!

オーケストラとは言え最初のマーラーは30年前の録音。そして、今年の新録音で
ギターというソリストの背景にどのような弦楽器の質感を定着させるのか、これは
プロデューサーとエンジニア、そしてアーチストの感性という三者の協議によって
形成される音質傾向なのだろうが、弦楽器の音質がイメージとして近代化された
硬質な質感は避けたいもの。

ソリストとしてのギターをNEOのセンターにふっくらと描きながらも弾いた後の
余韻感で潤いを持たせ、相変わらずVITUS AUDIOで聴く総ての楽音に質感の素晴ら
しさを実感させられる。それを取り囲む弦楽器は出足からスムーズであり艶やかな
質感を情熱的なスコアーの推移に沿って展開していく。これは安心感とも言えるか。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/552.html

このショートエッセイにおいても、私は大編成のオーケストラとソリストの音像の
違いということを述べているが、ホールでの生演奏では逆にソリストをクローズ
アップさせて、その一人だけの演奏を音量的に拡大して聴きたいということは不可能だ。

それをオーディオは可能にするが、ソリストの発する余韻感とオーケストラのそれ
を調和させるという技術が録音側でも必要になり、そして再生側でも求められると
いうことを私はVITUS AUDIOで教えられたようだ。このバランス感覚が素晴らしい。

各パートの質感に問題なく、また各パートの発する余韻感と空間表現に問題なき
ことがわかると、あとは演奏に集中したいという気持ちをVITUS AUDIOは加速する。

分析の後に納得、そして楽音の質感にうっとりしている自分に気が付き、味わうと
いうことを教えてくれたVITUS AUDIOに最後の三ッ星を拍手と一緒に贈っていた!!


■Wadia

冒頭の村治佳織のギターが力強い。これは誰しもが感じる特徴だろう。
前述の砂山の例えのようにソリストの演奏を盛り上げる要因としてWadiaの個性は
聴く人を惹き付ける。

そして、最小面積で砂山を盛り上げていくという特徴はソリストと背景の前後感と
いう見所にもスポットを当てた。

ガリシア交響楽団の楽員たちは非常に多国籍のメンバーからなると記されていたが、
Wadiaは弦楽器のサイズによって、そして管楽器の長さによっても居場所が異なる
ステージの有様を多数のカメラで一つずつ撮影するように各パートごとの描写力が
クローズアップされたイメージで、鮮明、かつ濃厚な質感で訴えてくる。

ハイテクを駆使したWadiaの設計にラテン的な音質の個性があると称したら叱られて
しまうだろうか!? しかし、今ここで展開しているアランフエス協奏曲の熱い厚い
音はステージのかぶりつきで最前列に座り直したという印象をどうしても拭い去れない。

こんな情熱的な演奏を聴かせるWadiaに最後の三ッ星を捧げたい!!


    -*-*-*- ここからは2007年11月27日以降の音質 -*-*-*-

実は、今原稿を書いているのは28日なので24時間のバーンインを行なった状態。
そこで聴き始めたアランフエス協奏曲は冒頭から別物の響きを私に提示する。

「えーい!! もう仕方がない!! 前言撤回だ!!」

何が!? というとこれ…「ステージのかぶりつきで最前列に座りなおした印象」
ブラッシュアップされたWadiaは最前列から十数列後ろの席にいました!!(^^ゞ

冒頭の村治佳織のギターからして違う!!

0.1秒で34メートルという音速。彼女の発したギターの音はオペラハウスの天井で
反射して降り注いでくるというエコー感のシャワーを私の顔に浴びせる。

タンギングが効いた木管楽器のパートの1フレーズごとに同様なエコー感に驚く。
ヨーロッパのオーケストラとは雰囲気の違う弦楽器の質感が今まであったが、
それは誤解だったのか、しっとりとした潤いを帯びたガリシア交響楽団の演奏は
奏者が音を止めてもエコー感が中空に漂うゆとりを見せ始める。これはいい!!

昨夜よりも村治佳織のギターにはまろやかさが加わっていて、料理の工程で味付け
した後に寝かせるという意味合いをオーディオにも当てはめているようだ。

「あっ、いかん!! 最後まで聴いてしまった!!」

感動と文章量は大きくなっても時間はそうはいかない(^^ゞ


■LINDEMANN

村治佳織のギターは弦の弾く瞬間よりも拡散していく余韻感に最初から美しさを
感じてしまう。そう、ソリストの位置関係も最初から奥行き方向へ遠ざかった。

砂山の例えで、三者の中で最も面積が大きくなる傾向のLINDEMANNだが、実は遠近法
の使い手としては最も優れているのかもしれない。

しかし、LINDEMANNには美しい…という言葉が最もふさわしいと感じられた。
そう、分析するというイメージではなく鑑賞にふさわしい再生音なのだろう。

上記のWadiaに対して客席の位置は更に10列ほどステージよりも遠ざかる。

仮にオーケストラの全容をカメラに収めようとしたときに望遠レンズを使って
各パートを撮影し、ややクローズアップしてステージに寄った構図で撮影したとす
る。
それを焼いたものを何枚も横並びにしていくとステージ全体が見えてくる。

しかし、望遠レンズでは被写体深度が違うと演奏者のひとりはジャストピントだが、
その前後は当然ぼやけてしまう。その傾向がステージ全体に見られるだろう。

だがLINDEMANNは違う。精度の高い広角レンズで捉えたオーケストラが正にそれ!!
上記にも述べたが、ステージよりも遠ざかるイメージというのは奥行き方向に引き
があり、ステージの奥の奥まで均一なフォーカスで演奏を見せてくれるのである。

その結果、解像度は素晴らしく遠近感ということでは明らかにアメリカ製のWadia
とは違う展開を見せ、その両者に対してVITUS AUDIOの中庸という見方が成立する。

極めてしなやかに展開する弾く楽器とオーケストラの対比に最後の三ッ星を贈る!!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

それにしても私には長い三週間だった。^_^;

ここまで三社比較を時間をかけて聴き続けたのは初めてだろう。

私も話題の端に載せたミシュラン東京だが、http://www.michelin.co.jp/guide/
星ひとつをとるのにどれほどの努力が必要なことか、また調査と格付けに関しての
権威を維持するだけの労力の感性とは大変なことなのだろう。

それに比して私は総てに三ッ星を提供したが、それは格付けとしての認識が甘い、
またいい加減だと思われるだろうか!?

いや、違う!!

料理の世界には和食あり中華あり、フレンチ、イタリアン、そしてエスニックな
ものまでジャンルは様々であり、それらの店はおのずと相容れる競合関係にはない。

だから、味わいの志向として各々の料理店に対して複数の格付けが行なわれ、同時に
同じジャンルにおいても無星から三ッ星までの開きが出るのだろう。

私が総てに三ッ星を付けた理由を述べたが、最後に言いたいことがある。

H.A.L.には三ッ星しか置かないということだ!!

オーディオの美食家たちよ、どうぞ三ッ星の音を食しに参られよ!!


このページはダイナフォーファイブ(5555):川又が担当しています。
担当川又 TEL:(03)3253−5555 FAX:(03)3253−5556
E−mail:kawamata@dynamicaudio.jp
お店の場所はココです。お気軽に遊びに来てください!!

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