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H.A.L.担当 川又利明
    
2023年6月6日 No.1732
 H.A.L.'s One point impression!! - Sonusfaber Amati G5

先ずは下記Sonusfaber Amati G5 日本語公式ファイルによる新製品資料をご覧下さい。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230515172537.pdf

上記にて解説されているように前回のHomageシリーズは次のようにTraditionとして
2017年に発売されていたものです。

「H.A.L.'s One point impression!! - Sonusfaber GUARNERI Tradition!!」
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/1387.html

「H.A.L.'s One point impression!! - Sonusfaber SERAFINO Tradition!!」
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/1388.html

そして、下記AMATI Traditionへと前回は小さいスピーカーから順番に発表されて
来ましたが、今回は逆にトップモデルからの登場となったわけです。

H.A.L.'s One point impression!! - Sonusfaber AMATI Tradition
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1396.html

Sonusfaberの新作スピーカーを聴いて感動した上記のレビューから早いもので
6年が経過していた事に改めて驚いてしまいました。

さて、上記AMATI Traditionの記事において第一印象を次のように述べていました。

「長年の経験をもとにして私が美しいと感じるオーケストラとはズバリこれでしょう!!」

美しい音、とは使い古された言葉であると思っているのですが、それでも使い続けて
しまう事をふと考えたのです。

仮に色鮮やかな花を8人の画家が描いたとしたら、対象物は同じでも8通りの絵画が
出来上がることになり、その一作ごとに画風は異なるのですが美しさという事では
8種類の美意識が誕生することになります。

オーディオにおける再生芸術という事ではCDであってもLPレコードであっても、
同じソースを8種類のシステムで聴いたとしたら、そこにも8種類の個性と魅力が
存在することになり、再生装置の設計者たちの美意識も8種類あるものだと思います。

更にオーディオシステムの中で最も音質的な支配力を持つのはスピーカーであり、
再生する音楽が同じものであったとしても、そこにはスピーカーの数だけ個性と
魅力が存在しているという事になろうかと思います。

絵画や彫刻など視覚で堪能する芸術もあり、音楽とは聴覚で表現する芸術ですが、
視覚芸術を楽しむ手段として印刷物や再生画像による鑑賞法があるように、耳で
感じる芸術としての音楽も録音と再生という手段によって普及してきたものです。

4Kから8Kへと高画質への技術進化があり、オーディオにおいても様々な新技術の
進歩によって録音する側と再生する側の両方に音質・品位の向上があったものです。

録音と一口に言っても実際には演奏された楽音の音波を先ずは記録し、それを
パッケージ化された商品でありデータとして特定し固定化するという範囲までを
示すものとして考えられますが、そこにも芸術性という感性の領域が存在します。

そして、再生という事では録音されたデータがアナログであろうとデジタルであろうと、
特定されたマスターテープという起源が存在しているわけで、その基準に照らして
ハイファイという原則に基づいた生音における芸術性が議論されていくわけです。

その範疇において再生システムで絶大な支配力を持つスピーカーを作る人々は、
技術的根拠を開発しつつも音質決定という段階では人間の耳によって判定する事が
最終的な手段であり、そこに設計者の感性による芸術性の発露が感じ取れるわけです。

さて、このような考察を元に画家が描く花のように、音楽を再生するスピーカーの
数だけ設計者たちの美意識と感性があるという事で、私は「美しい音」という表現を
今後も使い続けていく事にしたいと思っています。聴く側にも美意識ありなのです!

さて、前述のようにSonusfaberという音の芸術家は今までに四世代のHomageシリーズを
世に送り出してきたわけですが、前例に倣えば今まで四枚の絵画を描き上げてきたと
言えるものであり、そのいずれもが高い評価を得てきたものでした。

そのSonusfaberが過去に聴かせてくれた再生音と同じ音楽を五枚目のキャンバスに
どのように描き出してくれるのか、技術進歩と磨き上げられた感性の進化として
2023年5月某日…私はAmati G5の美意識を目と耳と身体で感じ取ることが出来たのです!

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短期間の滞在でしたが初日よりは二日目、バーインを続けた三日目が更に素晴らしい
音質になったと感動していたところで時間切れとなってしまい搬出されてしまいました。

The Amati Generation 5
https://www.sonusfaber.com/en/products/homage/

日本で正式発表される前の貴重な三日間でしたが、実に多くの発見と驚きがあり
それを国内最速にて発表出来ることを大変光栄に思うものです。

■Amati G5【Wenge】のSide View
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230516144302.jpg

■同価格となったB&W 801D4/Bとの比較。ただし前後位置が違うのでサイズ感に注意。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230516144252.jpg

前作 AMATI Traditionのサイズと重量
幅411×高さ1170×奥行き540mm(突起部含む最外形寸法)  総重量61Kg

新製品 Amati G5 のサイズと重量
幅416mm×高さ1180mm×奥行き516mm(突起部含む最外形寸法)  総重量56Kg

参考として801D4のサイズと重量
幅451mm×高さ1221mm×奥行き600mm(突起部含む最外形寸法)  総重量100.6Kg

恒例ですが試聴システムは下記の通りです。

H.A.L.'s Sound Recipe / Sonusfaber Amati G5 - inspection
system
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230516143454.pdf

先ずはAMATI Traditionでも最初に聴いたオーケストラから聴き始めたのですが…

■マーラー交響曲第一番「巨人」小澤征爾/ボストン交響楽団/1987年録音の[3]を聴く
録音の古い順に写真左上から[1]右へ[2][3]、下段の左から[4][5][6]として。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210519123606.jpg

第二楽章の弦楽五部の合奏が始まった瞬間からボストンシンフォニーの音色に
私も知り得なかった色彩が展開する!

「美しい、ただひたすらに美しい!こんなオーケストラの美しさがあったのか!」

6年前の感動を引用する事を自ら禁じた私が前述の美音の表現に関して試行錯誤しつつ、
何とかひねり出した言葉に他の選択肢はなかった!

画家の色彩感はパレットの上で何種類もの絵具を調合し、描こうとする対象物の
色合いを観察しつつも自分の感性によって誰にも真似のできない色を作り出す。

一般人が言葉にすれば赤い花、黄色い花と一言で終わってしまうように、言葉で
言えばヴァイオリンの音、チェロの音のように、言葉で言えば受けた人は言葉で
理解し楽器の音を頭の中で再構成してイメージするのが通例の事なのだが、この時
Amati G5が発した音色の美しさを絵の具の調合法と同様に言葉で表現する事の
困難さに動揺し、私は美しい音という表現で逃げるしかないとギブアップしていた!

極め付きの滑らかさで切り返されるアルコの律動が、ともすれば解像度という評価
基準を高めた反作用として弦と弓の摩擦感を誇張し緊張感を伴う質感を肯定して
しまう局面があったかもしれないが、多彩な音色が合奏の中に存在しているという
事を情報量の向上として認めつつも、その音色の調合がAmati G5によってこれ程の
美しさとして昇華したオーケストラにただただ驚きと感動に言葉を失ってしまった!

Sonusfaberのスピーカーでミッドレンジにフェーズプラグを、それも他社の例では
ボイスコイルの直径と口径を同じくする太さの砲弾型フェーズプラグを見慣れてきた
ものだが、このユニークな形状の新開発フェーズプラグと、更にはセルロース・パルプ、
カポック、ケナフなどの天然繊維を調合しプレスしたコーンの特性なのか、はたまた
DAD(Damped Apex Dome)テクノロジーと称するダンピング機構のあるソフトドーム
トゥイーターとの連携がなせる技なのか、技術的要点は複数あるのだろうが、
第五世代のAmati G5は明らかに歴代最高の芸術性をオーケストラに与えている!

それはトランペットの質感にも直ちに反映され、右手奥から距離感をともなう響きを
発する金管楽器の透明度を未体験の領域と言えるほどに高め、スピーカーの評価で
私がチェックポイントとしているトランペットの質感における華やかさと鋭さとの
バランスを絶妙に安定化させ、滑らかさを感じつつストレスのない金管が成立している!

弦楽器の合間を縫ってステージ上に出現する時折りの木管楽器は周辺にふくよかな
残響空間を提示する事で存在感を示し、ゆったりと響きを広げていくホルンの質感を
好ましく追跡していくと、Amati G5は管楽器にも美しさを与えたのだと感動する!

響きの連鎖が管弦楽器の美的表現に多大な効果をもたらしたAmati G5は、極小の
トライアングルという高音打楽器の音源位置を正確に空間にピン止めし、一粒と
例えられる極小の音像から発した透き通るような余韻を中空に残す気遣いが憎い!

そして低音の打楽器、グランカッサとティンパニーがステージ奥で叩かれる打音が、
見事な集束を見せる音像となって私の関心をぐっと引き付ける。膨らまない低音だ!

その視点は直ちに低弦楽器の質感に移り、コントラバスの質感と音像表現にも同じ
特徴が見られることに気が付く。Amati G5とはホール録音における低音楽器の音像を
これほどまでに統率する能力を持っていたのか!

古くから弦楽器が良いとされるスピーカーは楽音のテンションを緩めた感があり、
その穏やかさゆえに弦と弓の摩擦感よりは豊かな残響成分として大きめの音像で
ゆったりと響かせるものが良しとされてきた傾向があったのではないだろうか。

その延長線上では低音楽器の表現は打楽器でも弦楽器でも、あるいはピアノでは
音階が低くなってくると音像が肥大化するという傾向になっていたものです。

そんな古くからある箱型スピーカーとしての傾向を思い出すのですが、Amati G5に
おいてオーケストラが演奏するホールという一大空間において、楽音の種類と音階に
左右されない正確な音像サイズを当然のごとく聴かせる描写力に私は注目しました!

同じステージで演奏しているからこそ同等な音像サイズでなければならないものです。

グランカッサやティンパニーが強烈な打音を発した、あるいはコントラバスがぐっと
低い音階の連続した低音を発したとして、それらの低音楽器がステージ手前に移動
してきたかのように音量感を高め音像が大きくなってしまってはいけないのです。

そんな幼稚な事をAmati G5はすることはないと、Sonusfaberの設計者たちは一笑に
付するだろうと、私は前作のAMATI Traditionにおける低域再生の実態から察して
いたのですが、ひねくれものの私は直ちに選曲を変えてチェックすることにしました。

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ホール録音では低音の音像に関して演出的に響きを豊かにすることで、聴き手に
とって楽しめる再生音になるという見方もあります。それ故にオーケストラ全体の
響き余韻感というものを低音楽器が担ってしまう傾向もあり、小型スピーカーなど
では程よい手加減のバスレフ効果として私も全否定するものではありません。

聴き手のニーズによって低音の量感を満足させるという音作りは、コンパクトな
スピーカーにとって認可された音響的ドーピングと言えるかもしれないからです。

そんな前提に立ってオーケストラで感じたAmati G5の低域再生における制動力の
判定ということではスタジオ録音で次の三曲で試してみようとCDを交換しました。

■溝口肇「the origin of HAJIME MIZOGUCHI」
https://www.sonymusicshop.jp/m/item/itemShw.php?site=S&ima=3355&cd=MHCL000010099
http://www.archcello.com/disc.html

このアルバムではオーケストラでの美意識に通じる中高域の再生能力もチェックし、
更に低音楽器の質感と音像表現に関しても同時に確認出来るのがポイントです。

先ずは「14.帰水空間」から聴かなければと直感しての事。それは冒頭から終始
リズムを刻み続けるシンセドラムの低音で低域の質感をチェックしたかったから。

「このドラムの質感、管共振で特定周波数を増強したバスレフでは出せない低音だ!」

イントロから左右とセンターに定位するドラムが叩かれ始めた瞬間から、他社の
バスレフ型スピーカーでは出ない低域の質感に直面し、同社が提唱するユニークな
位相反転方式Stealth Ultraflexの威力をまじまじと見せつけられた!

エンクロージャー容積、ウーファーユニットのf0(エフゼロ:最低共振周波数)、
バスレフポート内部の空気の質量などを方程式に算入することで求められる
特定の共振周波数がスピーカーシステムの低域レスポンスを延長することで
低音の増強・補強を行うのがバスレフ型スピーカーというものだが、その副産物
として共振周波数の近辺で特定の周波数で低音の質感が変調される傾向がある。

更には共振周波数のオクターブ上の帯域でもランブルが発生し、低音楽器の音色に
特有の付帯感をもたらす変調が起こる可能性があり、このようなドラムの再生音では
スピーカーによって実に様々な音色へと変化してしまうことが多い。

ところが、ステルス・ウルトラフレックスの名の通り、パイプ形状のバスレフポートを
持たないスリット型のバスレフ構造であり、更にアンプのヒートシンクのように
排出される音波の拡散を狙った多層構造のフィンによって低周波の気流によるノイズを
除去するというAmati G5の瞬発力と制動力を高い次元で確立したドラムの高品位な
打音が素晴らしいのです!

これは音量を上げて行っても破綻することなく、重量感ある低音の立ち上がりから
消滅まで、変調成分と不純物のない音色のドラムが素晴らしく、前作でも密閉型の
HIRO Acousticの低音に近い音質と表現した爽快感溢れる見事なドラムが展開し、
オーケストラで感じた低音楽器の素晴らしさをスタジオ録音の課題曲でも確認したのです!

それに続くオーロラのようにたなびく女性ヴォーカルを思わせるシンセサイザーが
幻想的な響きで展開し、キーボードが印象的なメロディーを奏でるとウインドチャイムが
きらびやかに舞い、重厚なベースがゆったりと表れてチェロが登場すると、その音像が
素晴らしく絞り込まれたシルエットであることが確認され、Amati G5のバスレフ方式が
中・高域の質感まで大きな貢献をしていることに驚く! Amati G5のチェロはいいです!

そして、この曲での次なるチェックポイントとして左右に展開するマリンバの打音、
跳ねるように展開するピアノとテンションと透明感を見事に両立し、響きの純度が
極めて高い事に驚きつつ、Amati G5に起こった進化を実感していったのです!

革新的な新技術 Intono Technology(イントノ・テクノロジー)として製品資料に
紹介されているミッドレンジドライバーの背圧処理によって、トゥイーターとの
連携作業によって醸し出される中・高域特性の素晴らしさはオーケストラの弦楽
だけでなくスタジオ録音でのチェロはもちろんピアノやマリンバの質感に大きな
貢献を実現しているという認識が聴くほどに高まっていくのですから堪りません!

同アルバムから次の課題曲は「10.Offset Of Love」としました。出だしが勝負!

イントロでセンター左寄りの空間に登場するギターの質感が何とも素晴らしい!
爪弾きの瞬間の鋭さはもちろん、サウンドホールから溢れ出す響きのレイヤーも
すこぶる鮮明であり、右スピーカーの軸上に定位する極めつけに鋭いアタックの
コンガの打音に驚く。

ソフトドームトゥイーターとは思えない切れ味の鋭さとインパクトの瞬間から
飛び散っていく余韻感の素晴らしさまで、同じくソフトドームトゥイーターの
HIRO Acousticで聴き慣れた透き通るハイテンションの打音が飛び散っていく!

センター定位のチェロは素晴らしい遠近感で背後から響き渡るのだが、その鮮明さは
音像というディティールの見事な確立によって得られる空間情報であり、遠ざかる
遠近法によって響きの消失点を克明に描く再現性は音楽のジャンルを選ばない!

いつもとは逆の順番で「1.世界の車窓から」を聴くことにした。予想できる音で!

イントロでの8秒間のハープのみの演奏。このわずかな時間軸でDADテクノロジーと
称するダンピング機構のあるソフトドームトゥイーターの貢献度の大きさが証明される!

撥弦楽器というシンプルな発音方式のハープの一音ずつは再生音の純度と質感を
見極めるには大変好都合な音源であり、優秀なスピーカーであればあるほど、
弾かれた瞬間から弦の響きが空間に漂い響く余韻の展開に多くの情報が確認出来る。

チェロとハープのみというデュオの演奏は両者ともにセンター定位でありながら、
ハープの音階ごとに一弦ずつの定位感を与え左右に展開し、その中央にチェロが
すこぶるつきの鮮明さで屹立する音像表現に感服の思いで聴き惚れる私がいた!

さて、シンセドラムという無機的な表情のドラムの質感において、楽音の性格が
再生音として低域の表現力がチェック出来たわけだが、私は更に追い込みをかける!

生のドラムが空気感をはらんで叩かれる再生音でスピーカーの低域特性の一面を
深掘りしていこうと次の選曲に進む。いくつか候補が上がった課題曲からこの選曲。

■HELGE LIEN / SPIRAL CIRCLE   7. Take Five
http://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245411462

ここで録音されているキックドラムの質感は、先日BOENICKE W13SEのアクティブ
ウーファーのチューニングでローパス周波数において、50Hzという最も低い周波数を
選択した私の判断においても、その打音の純粋さを維持するという視点において
バスレフ型スピーカーの特徴が表れやすい課題曲であると言える。

ドラムソロから始まるユニークなアレンジのTake Fiveで、冒頭のドラムの切れ味と
タムのヘッドを直撃し強烈に弾ける打音と高音階の金物パーカッションの鮮烈な
インパクトが縦横無尽に空間に飛び交う導入部が始まった。どうするAmati G5。

先ずはキックドラムの重量感と制動感の物凄さに気圧される思いで固唾を飲む!

前述のようにポートチューニングによる共振周波数の影響を受けない極め付きに
ストレートなキックドラムが周辺の空気に与える波動感の物凄さに驚く!

ポップスの録音ではキックドラムにイコライジングを施すことはよくあることで、
アコースティックな打音というよりも低域成分をブーストした重々しさを演出
している録音をよく耳にするが、この曲のドラムはスタジオワークでの音色加工を
否定している純粋なアコースティックさが際立つもの。その空気感が見事なのです!

センター左側の空間を大きく使ってキックペダルの先端にあるビーターがヘッドを
叩く瞬間の音は、十分に乾燥した空気に軽く波動を広げていくように周辺の空間に
「ドフ!バフ!」という言葉に例えられるような開放感溢れる打音を展開する!

この空気を揺さぶるようなキックドラムのハイスピードな連打が、Amati G5の低域
再生においてバスレフポートの共振に依存しない重量感と制動力を見せつける!

ミッドレンジのフェーズプラグの貢献度は弦楽のような連続音だけでなく、
ドラムにおけるインパクトの素晴らしさとテンションの高まりにも感じられて、
トランジェント特性の素晴らしさが濁りと刺激成分を除去した打撃音を実現し、
爽快に響き渡る快感に思わずボリュームが上がってしまった!これ素晴らしいです!

そんなドラムのイントロで、Amati G5の美しい仕上げから想像もできない程の
聴きやすい迫力という打楽器における絶妙なエネルギーバランスを確認しつつ、
やはりSonusfaberだと思わず唸りたくなる質感のピアノとベースが加わってくる。

前述の課題曲ではリバーブを施したピアノの音色であり、距離感を漂わせながら
余韻を引き伸ばすピアノだったが、この曲ではドラムの迫力に負けじとスピーカーと
同じ距離感でお馴染みの変拍子をTake Fiveの旋律で弾き始める。ピアノもいいです!

ドラムに対峙するようにセンター右寄りに登場するウッドベースの質感は正確な
音階を奏でつつ、しっかりした音像を見せつけるがシルエットの膨らみはなく、
しかしながら弾ける低弦の感触にはSonusfaberの特色が垣間見えて好ましい。

このウッドベースはピッチカートでピアノの旋律を支える伴奏者として登場し、
その後はアルコで重厚かつビリビリと摩擦感を醸し出すのソロパートを展開する。

ピアノトリオの一人ずつがソロを取るTake Fiveの大胆なアレンジによって、その
メンバー一人ずつにスポットライトを当てるような、正確な音像表現でソロバートを
クローズアップしていくAmati G5のジャズにおける適応性の素晴らしさに脱帽した!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

ホール録音からスタジオ録音での各項目をチェックし、楽音数においても編成の
大小でAmati G5のパフォーマンスの素晴らしさを確認してきたが、聴き慣れた
ヴォーカルでの再現性はどうか更に一歩踏み込んでの試聴で次の選曲。

■DIANA KRALL「LOVE SCENES」11.MY LOVE IS
https://www.universal-music.co.jp/diana-krall/products/uccv-9580/

冒頭からのフィンガースナップが印象的なヴォーカルとウッドベースのデュオ選曲。
ところが一種の効果音として単純なはずのフィンガースナップの質感に私は注目した。

楽音ではないので弦楽器はこう鳴ってほしい、ピアノはこう鳴ってほしいという
期待感というか思い入れというか、人それぞれに楽音の音色や鳴りっぷりに対して
自分の好みを反映したスピーカーと再生システムの評価を無意識にしているものです。

かくいう私も無意識の内に自分の好みの音を求めていることは認めざるを得ないのですが、
仕事がら追求している音質レベルの高さ、聴いてきた製品のグレードと数、そして
H.A.L.という音響空間の品位など、私が推薦する音で皆様に感動して頂いてきたと
いう実績を私の評価基準として認めて頂くしかないのですが敢て一言言及しておきます。

その前提に立って色々な楽音に対する既成概念で自身の好みの音質がどうかという
議論の対象にならない音、その好例としてDIANA KRALLが弾くフィンガースナップの
再生音があります。これが本当にスピーカーによって千変万化なのです!

指をパチンと鳴らす音には楽器の音のように、こんな音で鳴ってほしいというような
期待感や思い入れをイメージする事はなく、シンプルな破裂音というSEとして私は
多数のスピーカーで聴いてきたのですが、Amati G5のフィンガースナップは私にして
初めてという質感だったのです。

バスレフ型スピーカーではポートチューニングによって三者三様の色々な低音が
スピーカーの特徴として各社の個性になっていて、同じ録音を違うスピーカーで
再生すると低音楽器の質感はスピーカーの数だけ存在すると前述しましたが、実は
このフィンガースナップに関してもスピーカーによって大きな変化があるのです。

このフィンガースナップの質感に驚いた私は、この音質をどのように文章表現するか
数日間悩み続けたのですが、一番近い音質として例えるとしたら、思いついたのは
日本古来からある拍子木でした。

紫檀、黒檀、花梨、樫など堅い木材を細長い四角の棒状に切り、その一面を叩き
合わせることで発する鋭い音は、楽器として雅楽でも用いられ、相撲の呼び出し、
歌舞伎などの舞台でも、紙芝居や火の用心など夜回り・夜警でも使われることから
その音をイメージして頂くことが出来ると思います。

シンプルな木の棒を叩き合わせる楽器としてはクラベスがありますが、クラベス
では片方の木片を楽器としてつまむようにして持ち、もう片方の棒をばちとして使い、
お互いが交差するように打ち合わせるので、拍子木のような鋭い音は出さないものです。

この拍子木を思いついた時に木の硬さに関してネットで調べたら下記のサイトがありました。
https://mokuzaikan.com/member/muku-item/entry-11219.html

木の硬さや重さは木の比重で判ります。各樹種には比重(=気乾比重:木材を
乾燥させたときの重さと同じ体積の水の重さを比べた値。1に近づくほど重い)
と説明されていますが、木の硬さ別にランキングした図表もあり、なるほどなと
思ったものです。

拍子木に使われる紫檀の比重1.04、黒檀の比重0.85〜1.09、ということで、
家具を作るスギ、ヒノキ、キリなどと比べると非常に高い硬度であることが解ります。

上記に拍子木が使われる場所として雅楽の演奏会場、国技館の土俵がある空間、
歌舞伎座などの大ホールなど、いずれも大きな空間であり、最たるものは夜回り
として屋外で叩かれるなど、響きと長い残響を伴う拍子木の音がイメージできます。

そして、このDIANA KRALLのフィンガースナップもスタジオワークで長いリバーブが
施されており、センターで弾かれた指の残響が左右スピーカーの両翼へと広大な
空間をイメージさせるように広がっていくものです。

今まで私が評価してきたスピーカーの多くは、この音で極めつけに高いテンションで
フィンガースナップを再生するものが多く、鋭い立ち上がりから長い残響までをも
克明に聴かせていたものですが、正に拍子木で言うところの紫檀、黒檀のような
硬質な木材の質感であったと例えることが出来ると思います。

ところがAmati G5では残響成分の在り方は同様に情報量としての余韻感を維持して
いるのですが、紫檀、黒檀ほどの硬質感ではなく、スピーカーの仕上げで良く
使われるウォールナット:胡桃やチェリー:桜のような中程度の硬さの木材で作った
拍子木のように、人肌の温度感を思わせ肉厚感のあるフィンガースナップなのです!

その弾ける瞬間のはち切れんばかりの緊張感というか高速な立ち上がりの後に、
そのテンションの高まりを維持したままで残響を残す他社のスピーカーに対して、
Amati G5では人間の指という繊細でありながら骨と肉の存在感を思わせる微妙な
柔軟性をスナッピングの音色に含ませているという事が私を驚かせたのです!

前述のように楽器ではない音なので、それをどのように再生するかという期待値は
人それぞれではあるが、空間に展開する残響成分は情報量として必要なものであり、
その解像度を維持したままで耳に優しいスナップ、いや実際に目の前で指を弾いた
生のフィンガースナップとはこう言う響きと質感になるのではと、新しい視点を
Amati G5はもたらしたと直感したのです!これは素晴らしい事だと思います!

さあ、そしてChristian McBrideの素晴らしいベースが登場します!

既に低音打楽器の音像再現性に関して独自のバスレフ方式による見事な輪郭表現と
絞り込まれた低音の密度感と重量感について述べていましたが、ウッドベースの
引き締まった質感は素晴らしい追随性の過渡特性として音に表れており、重厚な
低弦楽器のピッチカートを克明に描き出すAmati G5の低域再生に痺れてしまいました!

こんな着目点で感じたAmati G5の個性は既に述べてきたようにオーケストラの弦楽で、
最初の感動をもたらした美しさであったわけですが、DIANA KRALLのヴォーカルが
入ってきた瞬間に人肌の感触をもつ拍子木の例えが女性ヴォーカルの声質にも見事に
反映されていることに気が付くのです!ハリと潤いの両立した美肌のDIANA KRALLです!

フィンガースナップとウッドベースの前例のない表現力に驚き、Amati G5の歌声の
魅力をしっとりと感じた私は日本の女性ヴォーカルでも確認しなければと、これも
恒例となっている次の選曲へと進んでいきました。

■大貫妙子/ATTRACTION 5.四季
https://www.universal-music.co.jp/onuki-taeko/

この曲でもイントロでのギターの質感に早速に前述のしとやかさというか、適度な
緊張感の緩和と情報量の維持が両立しており、弦が弾かれる瞬発力はそのままに
余韻の美しい広がりに既に納得しつつ聴き、その後にセンターで叩かれるトライ
アングルの音色に完璧な透明感を与えつつ金属的な響きから眩しさを取り去った
爽快感な打音が宙を舞う!

そして登場したヴォーカルにオーケストラの弦楽やスタジオ録音のチェロで直感した
滑らかさがあり、これまで聴き続けてきた大貫妙子の声質に対して、私も初体験という
人肌のぬくもりというか、得も言われぬ心地良い歌声にSonusfaberの世代変わりした
設計者たちの開発力と情熱が目指した進化の方向性を日本語の曲でもしっかりと
感じ取ることができた!

曲の中盤からヴォーカルの背後を飾るストリングスが入ってくると、スタジオ録音の
弦楽器の調べは前述のオーケストラでの場合と同じく際立つ滑らかさとしなやかな
柔軟性が見事な調和によって描かれ、今まで幾度となく聴き慣れてきたはずの質感に
また新たな美意識の発見という展開にますますAmati G5の価値観を高めていくのでした。

革新のミッドレンジドライバーの貢献度は聴き進むほどの予想できる音質となっていき、
ヴォーカルの質感で納得した聴き手の感性に寄り添うような耳で感じる感触を更に
確認しようと、これも聴き慣れた課題曲にとディスク交換の楽しみと期待感が募る。

■UNCOMPRESSED WORLD VOL.1 TRACK NO. 3 TWO TREES
http://accusticarts.de/audiophile/index_en.html
http://www.dynamicaudio.jp/file/100407/UncompressedWorldVol.1_booklet.pdf

オーケストラによる美音から打楽器の低音に着目し、更にヴォーカル曲によって
今度は打楽器に近い弾ける指の音から歌声の美しさへと視点を変えてきましたが、
その最たるものとしてサックスとピアノだけという選曲でAmati G5の新技術が
どのように反映されているかに関心と興味を抱きつつスタートすると…

「なに!このサックスの音色! なに!このピアノの質感! こんなスピーカーなかった!」

これまでに何回も述べてきた「引き絞られた音像と広大な音場感の両立」という
指標に対して、その音像サイズの凝縮という方向性において、どちらかというと
硬質なイメージに通じる音色という特徴を持つスピーカーの方が向いているのでは
という予測があったものですが、そんな予想を軽く否定するAmati G5の意外性に驚く!

真鍮で作られているサックスは金管楽器ではなく木製リードを振動させて音を出すため、
木管楽器として分類されているのですが、元々は吹奏楽団における木管楽器と金管楽器の
橋渡しを目的に1840年代に開発された楽器。

サックスの再生音において、その金属製の胴管のイメージに近い冷たく硬質な音色を
基調とするのか、振動する音源は和名ダンチクという植物から作られるリードである
ことから木製の楽器という印象を助長する雰囲気を再生音に求めるべきなのか、私は
Amati G5で聴くサックスの音質で新たな考察を始めてしまったのです。

この曲では同時にピアノの質感にも前例のない音色を感じ取っていたものですが、
ピアノも弦をハンマーで叩くことで発音する鍵盤楽器の一種でありながら、響きを
生むために木製の響板と金属製の弦とフレームという構成要素があるわけです。
内部機構の面からは打楽器と弦楽器の特徴も併せ持った打弦楽器に分類される。

今までは引き絞られた音像という着目点において、それを追求してきた自分の足跡を
振り返ってみた時に無意識のうちにサックスで言えば金属製の胴管、ピアノで言えば
ハンマーで叩かれる金属弦そのものにおける直接的な音色の特徴を求めていたのでは
ないかと思い立ちました。その方が楽音の発祥位置をピンポイントに感じやすいからか。

2チャンネル再生においてスピーカー軸上に定位する楽音ではなく、この曲のように
音源であるスピーカーユニットが存在していない空間に定位するサックスとピアノを
Amati G5で聴き始めた時に、私が追求してきた指向性には別の選択があったのだと
気が付いたのです!

Amati G5で聴くサックスは湿り気を帯びたリードによる発音という原理から想像される
しっとりとしてぬくもりのある音色が私を驚かせ、ピアノでは響板の響きを尊重する
ような雰囲気が心地良く、しかしながら克明な音像を空間に定位させるステレオ再生の
基本を忠実に実現しているという素晴らしさに感動しました!

思えば数あるスピーカーメーカーの設計思想にもサックスやピアノという楽器に
おける分類法と興味深い共通点があるのではないかと考えられるのです。

HIRO AcousticやMAGICOのように100パーセント金属製エンクロージャーというブランド、
つい先日も感動的なインプレッションを述べたBOENICKE AUDIOや老舗TANNOYのように
100パーセント木製エンクロージャーというスピーカーと分類が出来るものです。

Sonusfaberも起源をたどれば後者の精巧な木製エンクロージャーによって定評を得た
ブランドであったものですが、Homageシリーズを例にすると第三世代のGuarneri
EvolutionとAmati Futuraの時期からアルミ製金属パーツを採用するようになり、
正に古楽器チェンバロから発展していったピアノと同じような進化をたどり現在に
至っているものです。

創始者であるFranco Serblinが同社を離れて設計者が愛弟子的存在であったPaolo
(Arturo Bandini)Tezzonに引き継がれ、更に現在ではPaolo Tezzonも去っており
新たな設計者たちがSonusfaberの現在の音を作っているという遍歴があります。

同社の処女作であるElecta Amatorの輸入開始当時からSonusfaberを知っている私は、
前述のようにウッドとメタルという言わばハイブリッド・エンクロージャーによる
スピーカー作りへと進化していった同社の歴史を見続けてきたわけですが、その
集大成とも言えるGeneration 5においてシンプルなサックスとピアノによる贅沢な
空間再生による演奏によって、その素晴らしい進化に感動し納得したのです!

この原稿の下書きでは、この後にも試聴した課題曲がいくつも続くのですが、
それらの感想を述べるにしても既に前述してきた印象が繰り返されるだけだと思い至り、
この続きに関しては当フロアーにAmati G5をセットして実際の音として皆様に聴いて
頂くしかないと締めくくることにしました。そして…

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

      -☆-H.A.L.'s Circle Review-☆-No.4747-より

「Sonusfaber40周年記念モデルSTRADIVARI G2ミュンヘン<HIGH END>にて発表」

「私の経験と感性をもってして感激したStradivari Homage の衝撃!!」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/304.html

「世界一贅沢なたくらみ!? 1ショップで2セットのStradivari Homage!! 」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/316.html

日本での発売当時は上記のように盛り上がったものでしたが、あれから20年近くの
歳月をかけてGENERATION 2として新作が発表されました。現地メーカーサイトは下記
https://www.sonusfaber.com/en/
https://www.sonusfaber.com/en/products/stradivari/

既報のようにAmati G5に続く新製品STRADIVARI G2の発表により、皆様に提供できる
Sonusfaberの近未来に大きな期待が寄せられるものです。続報にご期待下さい。

川又利明
担当:川又利明
TEL 03-3253-5555 FAX 03-3253-5556
kawamata@dynamicaudio.jp

お店の場所はココです。お気軽に遊びに来てください!


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