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2023年3月27日 No.1728
 H.A.L.'s One point impression & Hidden Story - BOENICKE AUDIO W13SE

                              - 1 -

この仕事を長らく続けて来た私にはオーディオシステムにおける再生音に関して、
自分が理想とする音、求めている音質というものに対する一家言がある。

これまでに何回も述べてきた「引き絞られた音像と広大な音場感の両立」という指標です。

これはスピーカーやコンポーネント、ケーブルや各種アクセサリーなど全ての
分野のオーディオ製品に対して言える事であり、それは今から9年前に出会った
HIRO Acousticの存在によって決定的になったと言えるかもしれません。

上記は最近発表した記事の冒頭に述べている一節です。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1723.html

そのHIRO Acousticは音楽を裸にするスピーカーと紹介し…、
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/hiro/

Y'Acoustic System Ta.Qu.To-Zeroは音楽をドレスアップするスピーカーと呼び…
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1625.html

Kiso Acousticを響きを作る芸術的スピーカーと表現してきました。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/660.html

この自説によって私は各種のオーディオ製品を分析、評価を行ってきたものですが、
ことスピーカーに関しては「引き絞られた音像と広大な音場感の両立」という評価
基準は重要なものであり、それを前提として今回紹介するBOENICKE AUDIO W13SEを
聴いて私は、その素晴らしい音質を次のように提唱することにしました!

BOENICKE AUDIO W13SEは快楽をもたらすスピーカーであると!
https://boenicke-audio.ch/
https://zephyrn.com/boenicke-w13/

ここで注記しておきたい事は敢てBOENICKE AUDIOというブランドにおいて、
W13SEというモデルを特定しての宣言であるという事。

現時点では同社のW5、W8、W11という下位モデルを私は聴いていない状態で、
W13SEを素晴らしいスピーカーであると評価したという事なのです。

輸入元サイトには語られていない今後述べる同社の特徴として、三機種の下位モデルは
すべてバスレフ型スピーカーであるのに対して、W13SEは密閉型エンクロージャーを
採用したアクティブウーファー搭載モデルであるという点が重要なポイントなのです。
https://zephyrn.com/boenicke-audio-range/

バスレフ型スピーカーの出す低音は録音されている信号とは異なる音であるという事、
バスレフポートによって設計者の意図した低音の個性が存在しているという事を私は
以前から述べてきましたが、W5、W8、W11という下位モデルの評価に関しては現時点では
白紙ということで、今後の試聴によって評価したいと考えているものです。

よって、今回は私が試聴したW13SEのみの素晴らしさという事で紹介していきます。

                              - 2 -

ドイツのオーディオ雑誌 image hifi による記事
https://boenicke-audio.ch/W13SE+_imagehifi.pdf

先ずは輸入元サイトでは紹介していない上記のリンクを開いて頂ければと思います。

筆者の感想と製品の内容紹介が絡みながらの記事となっていますが、私が述べたい
項目を説明するに当たり掲載されている画像が重宝なポイントとなっています。

BOENICKE AUDIOのwebサイトでは最初に同社工場での作業風景が動画で紹介され
ているので、天然木材を精密加工で削り出して左右に分割された複雑な形状の
エンクロージャーを貼り合わせてボディーを作っているという独自のモノ作りは
最初にご理解頂けるものと思います。
https://boenicke-audio.ch/

輸入元サイトでも三機種の下位モデルに関しては内部構造の図面を紹介しており、
サイズから想像もできない低音を再生するという事がポイントになっていますが、
W13に関しては輸入元サイトでは内部構造の図面は紹介されていません。

先ず、それが上記リンクのimage hifiによる記事で3ページ目に写真として複雑な
内部構造が見られるもので、本体の左右サイドに二基搭載されているアクティブ
ウーファーに関して、更にミッドレンジとトゥイーターに関しても密閉型である
ということが解ります。

さて、次の4ページ目には全体の外観が映されていますが、BOENICKEのW8とW11とも
共通な構成としてリアにはアンビエンス用シルクドームツイーターを搭載しています。

これは輸入元サイトにはありませんが、クロスオーバー周波数は6KHzで6dB/octの
スロープ特性で設定されており、後方へ放射される高域成分により後述する
素晴らしい音場感を生成しているものです。

またエンクロージャーの足元にある黒いフットはSwing Baseと呼ばれるもので、
海外ではオプション扱いとなっておりBOENICKEの音質的な特徴のひとつとして
高く評価されています。これは日本では標準装備として販売されています。

エンクロージャー底部にある青銅製のインシュレーターに収まっているボールの
上に1点で支持され、ワイヤーで吊られた2点支持のSwing Baseとの三点支持となり、
これを使用するかしないかで劇的な変化があると海外のレビューで書かれています。

私が思うに確かに三点支持ではあるのですが、Swing Baseの二点でもスピーカー
本体の荷重は受けていると思うのですが、重心としては底部のボールによる支点が
最も大きく荷重を受け止めているものであり、この一点支持をサポートする形で
Swing Baseが機能しており、床の材質による影響からアイソレーションしている事が
一番重要なポイントではないかと考えています。

次の5ページ目にはアクティブウーファーのユニットがクローズアップされていますが、
これはJL-Audioの13TW5v2-4というサブウーファーユニットであり下記のメーカー
サイトへのリンクにて紹介しておきます。

13.5-inch (345 mm) Subwoofer Driver, 4 Ω
https://www.jlaudio.com/products/13tw5v2-4-car-audio-tw5v2-subwoofers-92183

射出成型によって作られた強靭なバスケットフレームの厚み(Mounting Depth)は
たった67mmしかない薄型ドライバーであり、横幅はわずか179mmしかないという
W13の細身のエンクロージャーに左右対向で二基を搭載できるカーオーディオで
実績を積んだ強力なユニットです。
https://zephyrn.com/newzephyrnwebsite/wp-content/uploads/2022/01/W13-drawing2.jpg

振動板の最大振幅は約22mmというロングストローク・バスドライバーであり、
250-600Wというパワーハンドリングが可能であり、BOENICKE W13ではチャンネル当たり
350WというクラスDパワーアンプで駆動しています。この辺は9ページ参照のこと。

次の6ページ目にはミッドバスレンジとトゥイーター、リア・トゥイーターなどの
画像が掲載されていますが、視覚的にも大変印象的なのがミッドバス・ドライバーの
ウッドコーンでしょう。

同じくアップルウッドのフェーズプラグも独特のものですが、そこに銅製の
ショートリングがはめ込まれていることにお気付きでしょうか。

B&Wなどはボイスコイルの近辺に銀または銅製のショートリングを配置することで
磁気回路の歪率を低下させるというノウハウを以前から実践していますが、
同社も音質に影響する基本技術はしっかり押さえているということが解ります。

そして、手前にはフロントトゥイーターとリアトゥイーター両者が映っていますが、
ホワイトシルバーのフロントトゥイーターの入力端子に金色のコイルのような物が
取り付けられている事に注目して下さい。

これと同じパーツはウッドコーンのミッドバスレンジにも取り付けられています。
これは世界中のメーカーどこでもやっていない独自のテクノロジーであり、
「electromechanical parallel spiral resonator」と称しているユニークな技術で
輸入元サイトでは略して「エレクトロメカニカルパラレルレゾネーター」と
表記しているものです。このデバイスの役目に関しての説明は悩みました…。

トゥイーターとミッドバスユニットのクロスオーバー周波数は公表されていませんが、
輸入元を通じてBOENICKEに質問したところ2KHzであるという事が解りました。

トゥイーターはMundorf Silver Gold Oil capacitorを採用した6dB/octのスロープ
特性によるローカットフィルターが設定され、ここには8cmのエレクトロメカニカル
パラレルレゾネーターが装備されています。

ミッドバスも同様に6dB/octのスロープ特性によるローカットフィルターが設定され、
16cmのエレクトロメカニカルパラレルレゾネーターが装備されています。

ただし、ミッドバスではハイカットフィルターは使用されておらず、キャパシターに
よる音質劣化を究極的に排除するというこだわりがあるそうです。

そして、注目すべきはミッドバスの動作に関して「bending wave radiator」である
という評価がなされていることです。

B&Wでは1998年のNautilus800シリーズから2010年の800Diamondシリーズまで、
ミッドレンジには黄色い15cmケブラーコーンを採用してきました。

ケブラーコーンの繊維の編み目には微妙な弛緩というか、細かい編み目には若干の
たわみというかズレが生じるようになっていて、敢て振動板の分割共振を発生する
ようにすることで、高域周波数ではコーンの中心部のみが動き、再生周波数が低く
なるにつれてコーン全体が動くような特性を持たせていたのですが、その挙動を
解析装置の画像で見ると振動板が波打っているように見えるものでした。

BOENICKEではウッドコーンという一定の柔軟性ある材質で振動板を作ることによって、
同様な分割共振を利用してミッドバスドライバーを駆動しているということでしょう。

であるがゆえにBOENICKEではミッドバスユニットにはハイカットフィルターは使用せず、
高域方向に向けては開放的な鳴らし方をしているものと考えました。

この特徴は後述する音楽性の表現力に関して大変素晴らしい魅力となっています。

さて、以上の解説の上でエレクトロメカニカルパラレルレゾネーターとは一体
どんな目的と機能性を持っているのか、私なりに考えてみたのです。

画像を見てお分かりのように金メッキされた銅線を数ターンのコイル状に成形し、
その一端をスピーカーユニットのプラス側入力端子に接続、もう一端は何もせずに
開放された状態で、電気的にはオープンになっているので通電はしていません。

そして、見た目単純なコイル状の銅線を取り付ける場所が何故ここなのか?

私は当初、このエレクトロメカニカルパラレルレゾネーターの画像を見て、
コイル状の形から何らかのインダクタンス成分を応用しようとしたのではないか、
電気的に特定周波数のフィルターの役目を果たすのだろうかと思っていたのですが、
トゥイーターとミッドレンジの両方に使用している事と使用するユニットに対して
長さが異なるという意味は何なのかを考えたのです。

その答えは海外の記事にも書かれていないし、BOENICKEでは企業秘密として教えて
くれないし、輸入元に訊いても解らないし(笑)ということで自分なりの解釈をしました。

昔からオーディオの世界では、ある物体や構造の共振・共鳴現象を応用して特定の
周波数成分を減衰させるという目的においてレゾネーターという言葉を使ってきました。

エレクトロメカニカルパラレルレゾネーターを取り付けているポイントが
スピーカーユニット入力端子のプラス側であるという事、その端子からはボイス
コイルが伸びていて磁気回路の中でオーディオ信号の波形に準じて激しく動いている。

そのボイスコイルは磁束の中での高速な挙動によって、渦電流や歪が発生してしまうが、
それをポールピースの形状など磁気回路の設計や、ショートリングでの歪キャンセルを
行うなど、各社の技術力で歪率の低下という難問に挑戦したきたものでした。

しかし、それらはスピーカーユニットそのものを設計製造するメーカーであれば、
開発時点で多数の技術を磨き採用出来るでしょうが、BOENICKEはどうなのか。

残念ながらBOENICKEそのものではスピーカーユニットを製造することは出来ず、
他社からのOEM供給に頼るしかありませんが、経験とノウハウによって既成の
スピーカーユニットにおける歪感をBOENICKEは察知して、ボイスコイルの延長線上に
アンテナのように波長を意識し吟味された長さの銅線を接続することで、高調波の
特定周波数における電磁気的共振周波数を熱に変換させるテクノロジーとして開発した
のがエレクトロメカニカルパラレルレゾネーターではないかと考えるに至りました。

これは電磁気的にはボイスコイルの延長線上に配置するという意味もありますが、
コイル状の導体の長さに関しては機械的な共振制御という意味合いもあります。

他社の事例になりますが、以前に当フロアーのリファレンスラックとして長らく
採用してきたfinite elementeにおける制振技術に同様なものが見受けられます。

http://www.axiss.co.jp/brand/finite-elemente/what-pagode-mkii-rack/

上記サイトでは同社のResonator Technologyというものを紹介していますが、
「内蔵レゾネーターの制振効果」という見出しで三種類の画像がありますので
それらをご覧頂ければ理解しやすいかと思います。

これはドルトムント応用科学大学Dr.Borchetの協力を得て開発された振動制御技術と
いうことで、科学的な測定と設計に基づいた6種類のピッチ(220Hz, 486Hz, 512Hz,
550Hz, 670Hz, 882Hz)のロッド型レゾネーターをカナディアンメイプルのソリッド
ウッド・フレーム4箇所に分散して内蔵したものです。

サンプリングした6種類の周波数によって細いロッド型レゾネーターの長さが異なり、
ラックの製品ごとに使用するレゾネーターの種類も変えているというものでした。

さて、それではBOENICKEも同様に科学的な研究と測定技術を元にエレクトロメカニカル
パラレルレゾネーターを作っているのか?

これに関しては設計者Sven Boenickeからは明確な回答はないものの、これを作れる
人材はたった一人しかいない貴重なものだというコメントしか得られていない。

あるライターが数年前に取材し書いている記事から読み取ると、このレゾネーターを
制作している職人が耳で聴いて最終調整を行っているという。

それは金属を打ち鳴らす音を再生し、その音色を聴きながら満足するまで微細に
長さを調整するという正に職人技によって作られているということなのです。

結果的に私も耳で聴いてスピーカーを評価するわけですから、製作者が人間の耳で
聴いて判断しているというモノ作りの在り方を否定することはできないわけであり、
このエレクトロメカニカルパラレルレゾネーターの効果がどのようなものかは後述する
私の試聴感想にて結論を述べさせて頂くという事で説明を締めくくりたいと思います。

                              - 3 -

あくまでも一般論という事ですが、3ウエイスピーカーの場合にウーファーと
ミッドレンジのクロスオーバー周波数は300Hzから500Hzの範囲とするメーカーが多い。

これが低すぎるとミッドレンジが受け持つ低音楽器の再生音で振動板の振幅が大きく
なり歪率の悪化につながるという場合があり、逆に高すぎるとウーファーが再生する
中音域の楽音が鈍重になり同様に歪率の悪化につながってくるからです。

そこに満足出来ない場合、またウーファーの受け持つ帯域を極めて低い領域まで
拡張したいと考える場合にはミッドバスを追加して4ウエイとするケースもあります。

私は以前に何回もアクティブウーファーを搭載したスピーカーシステムを鳴らして
きた経験がありますが、上記の一般的なクロスオーバー周波数によるアクティブ
ウーファーという場合には残念ながら高い評価をしたものはないと記憶しています。

それは例えるならば四輪駆動の自動車で前輪と後輪を各々に別のエンジンで駆動
するようなイメージで、トルクと立ち上がりが違う別々のエンジンでは一定の速度で
走る場合でも滑らかで調和のとれた走行が出来ないようなイメージと例えられます。

前輪が中高域で後輪は低域という言い換えをすれば、低速から高速まで全ての局面で
様々な楽音と旋律を受け持つ前輪は頻繁に細かくハンドル操作に反応し、操縦性に
対して機敏に反応しつつ操舵性を重視しながら駆動するエンジンのトルクも適切に
調整されて走行しなくてはならないものかと思います。

しかし、後輪に例える低域のエンジンは操舵性を重視すれば様々な速度において
前輪の挙動に合わせてトルクも敏速に調整されなければならないのに、アクティブ
ウーファーのように異なるエンジンが絶えず独自のパワーを出し続け、中高域との
調和が成されずにトラクション・コントロール出来ず強引なエネルギー感を絶えず
送り出し、あわやドリフト走行のような強引な回転を後輪に与えてしまうような
イメージと言ったらいいでしょうか。

どういうことかとオーディオ的に例えれば、アクティブウーファーの調整に関して
ホール録音のオーケストラで低域の量と質感をチューニングすると、スタジオ録音の
ジャズやポップスでは低音が出過ぎてしまうというケースが多いものです。

逆に低音楽器が鮮明に録音されているスタジオ録音でチューニングすると、
今度はオーケストラを聴いた場合に低音の量感が物足りなくなってしまうのです。

オーディオ再生においてスピーカーに求められるのはワイドレンジであること、
すべて帯域の再生音に関してバランスのとれた周波数特性であることが基本ですが、
そこには無響室においてマイクで測定した各帯域の音圧がフラットになればいいと
いう単純なものでは計り知れない難解さがあります。

このような難問に際してアクティブウーファーの調整に関しては量と質の両立と
いう観点では、動作させるクロスオーバー周波数の設定という事が大きな注意点
となってしまうものです。ただし、これは私の主観的な考え方である事を追記しますが。

BOENICKE W13SEの試聴を輸入元に申し込んだ際に、まだ私は十分な予備知識がない
状態でしたが、その際にアクティブウーファーであることを初めて知りました。
と同時に上記の懸念が真っ先に頭に浮かんだのです。

いかんせん輸入元サイトでもW13SEのアクティブウーファーのクロスオーバー周波数と
いうデータは何も記載されていないものであり、前述のような懸念から不安が先行して
いたというのが本音のところです。

そして、BOENICKE W13SEを当フロアーにセットして第一声を聴く前に、輸入元の
担当者に真っ先に質問したのがアクティブウーファーのローパスフィルターの
周波数はいくつなのかという事でした。

そこで私の質問を予期していたのか、輸入元の担当者はローパス周波数は
50、62、78、98Hz、12dB/octであると即答してくれました。それを聞いた私は…

「おー! それならいい、これはいけるかも!?」という心境になり、アクティブ
ウーファーの調整は後回しで取り敢えずのニュートラルな状態で第一声を聴き、
その素晴らしさを直感した事が私のプロモーションの原動力になったわけです。

さて、それでは先ずアクティブウーファーのチューニングを解説する前に、
実際に当フロアーにセットした状況を下記にて紹介しておきます。

■BOENICKE AUDIO W13SE Setup View
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230313131209.jpg
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230313131200.jpg

左右スピーカーの間隔は約3.2メートル、フロントバッフルからリスニングポイント
までは約3.6メートルというトライアングルであり、リスナーを頂点として左右の
スピーカーは45度という角度になります。私の定石というセッティングです。

そして、恒例の試聴システムを下記にて紹介しておきます。

■H.A.L.'s Sound Recipe / BOENICKE AUDIO W13SE - inspection system
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230320171503.pdf


次にBOENICKEサイトで公開しているアクティブウーファー用アンプに関する資料を
下記にて紹介しておきます。

■Bass Amplifier Operating Manual
https://boenicke-audio.ch/W13BassAmplifer.pdf

ただし、ここで…
「ほとんどの場合、部屋や好みに応じて、プリセット2 または 3 を使用します。」
と書かれていますが、この後に私のチューニングを説明して行きますが、あくまでも
操作説明という範囲であり、これは無難な設定というものでベストではありません。

上記のOperating Manualでは肝心な操作パネルに関しての説明がありませんので、
私がチューニングした結果となっていますが、ベースアンプの操作部を撮影した
ものを下記にて紹介しておきます。

■BOENICKE AUDIO W13SE アクティブウーファーのコントロールパネル
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230311172608.jpg

-∞から+6でセンターがゼロとなっているノブがPotentiometerでアクティブ
ウーファーの音量調整を行い、その下にあるPRESET SELECTのボタンを押していくと
右側のPRESET1からPRESET4まで順送りに切り替わっていき、順番にPRESET1が50Hz、
PRESET2が62Hz、PRESET3が78Hz、そしてPRESET4が98Hzとなります。

その下のXLR入力には既にプリアンプ出力のバランスケーブルが接続されているもので、
PRESET SELECTの左にあるXLR出力はもう一台のスピーカーに接続するためのスルーアウト
端子ということです。ですから、この端子を使うとアクティブウーファーの低音は
モノラルとなってしまう事にご注意下さい。

ここで改めて注記しておきたいのは、BOENICKE AUDIO W13SEというスピーカーを
使用する場合にはプリアウトが二系統あるプリアンプを使用しなくてはならない
という条件があります。

もしくはスプリッターを使用して1系統のプリ出力を並列に分岐するというこが
必要になってきます。ただ、プリアウトはRCA端子しかない場合には販売店に
相談してくれという但し書きがありました。

他社のアクティブウーファー搭載スピーカーでは、パワーアンプからのスピーカー
ケーブル入力に対してハイインピーダンスの並列化した配線によって内部で低域用
アンプに対して信号供給するというものや、スピーカーの中高域用入力端子から
ジャンパーケーブルでサブウーファー入力に接続させるものがありますが、私の
経験からもプリアンプからのライン入力という方式が望ましいものと考えています。

                              - 4 -

さて、前述のようにアクティブウーファーのローパス周波数と再生する曲の選択に
よってチューニングの傾向が変わるということ、そのさじ加減で使い手のセンスが
問われるものであり、「引き絞られた音像と広大な音場感の両立」という私の持論を
実際の音質表現とするために行ったチューニングの概要を説明しておきたい。

先ずはアクティブウーファーのローパス周波数と音量レベルの関連性について、
私の経験から次のような法則的チューニングの基本があると考えています。

ローパス周波数を高くするにつれて音量レベルは下げていくこと。逆にアクティブ
ウーファーの再生音量を上げたいのであればローパス周波数を下げていくこと。

アクティブウーファー調整方法のコツという事で是非ご記憶頂ければと思います。

このような観点からもBOENICKE W13でのローパス周波数の最低値が50Hzという
極めて低い周波数を選択していることに私は拍手を送りたいものです。

Goldmund Epilogue Series
https://goldmund.com/full-epilogue-audio-speaker/

懐かしく思い出すのは上記のGoldmund FUll Epilogueにおいて、DAC/アンプ内蔵の
サブウーファーとして開発されたEpilogue 3(一番下の大きなスピーカー)に関して
当時の社長であったMichel Reverchonにローパス周波数が気になって質問したところ、
この120キロを超えるEpilogue 3のローパス周波数も50Hzだったのです。

■BOENICKE AUDIO W13SE アクティブウーファーの設定
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230311172608.jpg

さて、話しを戻しますと、上記のコントロールパネルで音量ツマミのセンターで
時計で言うところの12時に当たる“0”のポジションは固定しておき、先ずは下記の
聴き慣れたオーケストラの課題曲でPRESET1からPRESET4までのローパス周波数の
選択という事から調整を開始しました。音量レベルよりもローパス周波数を先に
チューニングした方が良いと私は考えています。

■マーラー交響曲第一番「巨人」小澤征爾/ボストン交響楽団/1987年録音の[3]を聴く
録音の古い順に写真左上から[1]右へ[2][3]、下段の左から[4][5][6]として。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210519123606.jpg

最初に第二楽章の冒頭で弦楽五部の合奏から始まる7分間を、その後に第四楽章の
ダイナミックな打楽器と爆発的な音量から始まる強烈なフォルテによる雄大な
フルオーケストラによる3分程度を連続して試聴していく。

PRESET1:50Hz→出会い頭に最初に聴いた設定値だが過不足なく自然なバランス。
       このままでも良いくらいの自然さなのですが、比較しないと根拠が
       定まらないのでスタート時の基準としておきます。

PRESET2:62Hz→コントラバスの量感は増加、低音の音像がわずかに膨らみ始める。
       たった12Hzの違いなのですが、低音楽器の音量感が増加し音像の
       サイズも微妙に大きくなるのですが、聴く人によってはホールの
       残響成分が豊かになったかのように肯定的に考える事もあると思います。

PRESET3:78Hz→チェロなどの低弦楽器の音階が低くなると更に音像サイズが増大。
       スタートの50Hzから28Hz高くなったローパス周波数ですが、それは
       オクターブ上昇するごとにミッドバス帯域における他の楽器の低音階で
       演奏されるパートに及ぼす影響は大きくなり許容範囲ぎりぎりか。

PRESET4:98Hz→弦楽の低音階、グランカッサなど打楽器のサイズ感も肥大。
       ここに至ると昔のアンプのトーンコントロールでBASSをぐっと
       持ち上げたような誰にでもわかる変化量となり好ましくありません。

何度も左右スピーカーまで歩き設定変更し、各項目でポジションで感じ取った印象を
出来るだけ簡単にまとめてみましたが、オーケストラなどのホール録音に関しては
PRESET2からPRESET3まで進めて行っても、これがホールエコーなのだろうという
肯定的な見方も出来るので顕著な違和感としては感じられないものでした。

ただし、PRESET4に関してはウーファーの自己主張が強くなり、コントラバスや
グランカッサの残響成分に誇張感が表れ始めたのです。そこでPRESET1に戻すと…

グランカッサやティンパニーの打楽器の音像が見えてくる。従ってステージの奥行き、
打楽器との遠近感も解るようになる。これだな〜と思いつつ、PRESET2とPRESET3も
現時点では選択範囲という可能性を残しつつ次の段階へと試聴を進めることに。

前述のようにオーケストラでチューニングするとスタジオ録音の楽曲では低域が
出過ぎるという過去の経験を念頭に置き、ここでの課題曲は多数の選曲から次の
チェックポイントに注意しつつ進めていく事にする。

その第一は同じスタジオ録音と言っても楽器編成の大小によって低音楽器の個性と
魅力がどうなるか、ヴォーカルが含まれている場合には歌手の声量とのバランスを
見ながらのチューニングもあり、リズム楽器の多くがアクティブウーファーの発する
低音により変化するので楽器の数によってバランス感覚も変わってくるということ。

もう一つはBOENICKE W13SEは密閉型エンクロージャーであり、下位モデルの場合には
バスレフポートによる低音の演出的量感と言うものがスピーカーの魅力としての
着目点になるものですが、両者において低音の打楽器とベースなどの弦楽器では
量感と質感の棲み分けをして評価しなければならないという事です。

簡単に言えばドラムなどの打楽器ではインパクトの立ち上がりが鋭く、打音の残響と
いう観点よりは切れ味良く、ブレーキがきいた瞬間的な音像の捉え方を評価基準と
することが多いと思われます。

逆にベースなどの弦楽器の低音に関してはピッチカートとしてもアルコにしても、
低弦の響きがボリューム感として好ましく感じられるような連続する楽音としての
重量感やたくましさという、意図的共鳴による低音の迫力は好まれる傾向があります。

よって私はスタジオ録音の課題曲では比較的編成の大きな楽器編成による選曲と、
次にデュオかトリオという小編成にて打楽器と弦楽器の低音という瞬間的な打音と
唸るような低弦の響きという相反する低域再生の両方に注目しながら多数の曲で
試聴していったものです。

最初はヴォーカル曲で伴奏楽器の編成も比較的大きな課題曲とし、いわゆるバンドの
一員としてのドラムやベースという低音楽器の在り方もヴォーカルを基準とした
量感と質感の両方をチェックしました。曲数が多いので曲紹介は省略致しました。

PRESET1:50Hz→今回の試聴で最も曲数は多く過去の課題曲まで含めて多数を聴きましたが、
       出だしの設定ではありますが過不足なく好ましい音像と音場感の両立を確認。

PRESET2:62Hz→オーケストラのようにわずかな低音増量という印象で許容範囲。
       ヴォーカルの伴奏という位置付けで録音されているドラムやベースは
       この段階ではルームアコースティックの特徴に合わせてという選択が
       十分に可能な範囲として受け入れできるバランスでした。

PRESET3:78Hz→この段階になるとドラムという瞬発的な楽音に対して、ベースなどの
       連続する楽音の音量感が目立ち始める。同時に両者の音像も次第に
       大きくなっている事で、せっかく作ったスタジオ録音における空間
       表現という遠近感と立体感の自然さが乏しくなってくる。

PRESET4:98Hz→あくまでも私にとってはという注釈の上で述べれば、前述の四輪駆動の
       自動車で後輪のエンジンが強引な力を低音にもたらしいてるという感じで
       ヴォーカルを追い越してドラムとベースが張り切りすぎというバランス。
       これはアクティブウーファーの典型的な悪い見本として結論付けました。

さて、次はデュオかトリオという小編成によるスタジオ録音。ただし、小編成でも
ヴォーカルとのデュオという録音もありますが、ポイントは上記の打楽器と弦楽器と
いう二種類の低音楽器に関してクローズアップした課題曲にて、前回の設定から逆の
順番で試聴していくと…。

PRESET4:98Hz→この分類の課題曲も結構な数を聴きましたが、この設定ではほぼ全てにおいて、
       スタートして数秒から数十秒という短時間で結論が出ました。         
       打楽器と弦楽器のいずれでも低音楽器の音像は肥大化し、ドリフト走行の
       後輪が砂煙をもうもうと巻き上げて主演のヴォーカルをマスキングして
       しまうかのバランスで評価の対象外というものです。

PRESET3:78Hz→これ以前の試聴ではギリギリ許容範囲というオーケストラの事例も
       ありましたが、小編成で克明な録音での低音楽器に求める再現性と
       しては肥満体の音像であることが解りすぎてしまうので低評価。

PRESET2:62Hz→ここまで落として行けば大丈夫かと思っていましたが、連続音の
       ベースに関しては音像が集束してきたかな〜という印象はあるのですが、
       キックドラムの打音に関しては密閉型スピーカーの表現力としては
       まだ物足りず、音像が大きいので重量感は希薄になってしまう傾向。

PRESET1:50Hz→ほぼ全ての選曲において一番いい!というよりも素晴らしい!
              この私でさえも驚くドラムとベースの理想的な音像、そして余韻感!
              縮小し凝縮した音像により楽音の濃密感が高まり、それが功を奏して
       ヴォーカルの音像を鮮明に磨き上げていくという相乗効果がいい!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

上記のような分析と評価をしましたが、それはあくまでも当フロアーという環境に
おいて私が判断した設定であるということを追記し、PRESET1:50Hzを選択しました。

■BOENICKE AUDIO W13SE アクティブウーファーのコントロールパネル
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230311172608.jpg

次の段階として音量レベルの調整となりますが、このボリュームノブは画像のように
上下各々に四つの目盛りがあり4クリックでひと目盛りという設定になっています。

アクティブウーファーの調整に関して、曲のジャンルによって好ましい低域レベルが
変化するということ、ローパス周波数の上下によって音量レベルの調節にコツがあること
などを述べてきましたが、もう一つ打楽器と弦楽器などの連続音など注視すべき楽音に
よってチューニングの勘所があるとも述べていました。

それを念頭においてのレベル調整ですが、先ずプラス方向にひと目盛りずつ変化させて
いったのですが、打楽器のように瞬発的であり短い時間軸での楽音に関しては4クリック、
つまりひと目盛りプラス方向へという程度までは許容範囲と言えますが、それ以上は
明らかに出過ぎという感じで推薦できる傾向ではありませんでした。

次に思い切ってマイナス方向で-∞でアクティブウーファーをオフにするという所まで
実験的に絞り込み、ウッドコーンのミッドバスユニットだけによる再生音も体験しました。

同じユニットを使ってもバスレフ方式による低域のエクステンションを行わない
密閉型というBOENICKE W13において、単純な低音不足を感じるものではありますが、
バスレフポートによる共振周波数が存在しない低音は-6dB/octという減衰特性に
より誇張感のない緩やかな低音表現であった事を最初に述べておきます。

次の段階として時計で言えば12時のセンター“0”まで、ひと目盛りずつ上げていく
という変化を実験しました。その際に8時から10時という角度となる二目盛りの増加に
関しては緩やかな上昇カーブとなっていることが解りました。

しかし、10時から12時までの二目盛り、8クリックという過程においては急激に
レベルが大きくなってくる特徴があることが解り、ここで私は前述の打楽器と
弦楽器という両方の低音楽器を交互に聴きながらチューニングを進めていったのです。

この調整には時間をかけましたが、瞬発的な低音であれば12時、連続する低音であれば
10時くらいという範囲と見当をつけましたが、とにかく二目盛りではありますが、
その中の1クリックずつの変化量は8時から10時の範囲に比べて大きなものがあります。

一口に打楽器と書きましたが実際には曲によって音像の捉え方は大きく違います。
シンセドラムのように個体感があり小ぶりな音像というものもあれば、ジャズの
アコースティックなキックドラムでは超低域の打音で大きな音像となるものもあり、
どれかに絞り込むチューニングでは中々難しいものがありました。そこでこの選曲。

■DIANA KRALL「LOVE SCENES」より11.MY LOVE IS
https://www.universal-music.co.jp/diana-krall/products/uccv-9580/

打楽器の低音も一通り聴いた上でヴォーカルとウッドベースのデュオという選曲。
以前から何度も試聴に使用してきたChristian McBrideの素晴らしいベースがポイント。

というのはアコースティックなウッドベースのピッチカートの立ち上がりに見られる
瞬発的な低音の音像と、開放弦での持続する低音という対比があり、同時に倍音成分が
多く含まれるウッドベースという観点もあり、この曲で10時から12時までの二目盛り、
8クリックという細かい変化をつけながらチューニングしていったのです。

8通りの比較とは言いつつ、1クリックごとの変化を段階的に行ってみましたが、
その中でこれが最高最適という1点を特定する意味が果たしてあるかどうか、
10時から12時までの範囲であれば及第点という解釈から中間の11時という事で、
再度オーケストラも聴き直し現状における最適値として納得したものです。

以前に経験したアクティブウーファー搭載スピーカーのあるモデルでは、
低域の調整に関してリモコン操作が可能であり、好みのポジションをプリセット
メモリー出来るものもありました。

そんな利便性があれば選曲によってローパス周波数と音量レベルを変化させ、
曲によってメモリーから好きな低音を選択して聴くことも出来るというものですが、
今回のチューニングでは最大公約数的に曲を選ばず「引き絞られた音像と広大な
音場感の両立」というものを目指した結果であると追記しておきます。

さあ、この後は“快楽をもたらすスピーカー”を楽しんで行くだけです!
https://boenicke-audio.ch/

                              - 5 -

Kirkelig Kulturverksted(シルケリグ・クルチュールヴェルクスタ)は「教会の
文化工房」という意味を持つ、1974年にErik Hillestadによって設立された
ノルウェーの会社兼レコードレーベルです。以降KKVと表記します。
http://www.kkv.no/

これまでに何回も紹介してきたKKVは教会で録音した広大な音場感を伴う楽音と
スタジオ録音された鮮明なヴォーカルや楽器という、対照的な空間表現が絡み合う
課題曲として長らく愛用してきたものでした。

長い残響時間で豊かな響きの教会での録音が多数あり、またスタジオ録音での
楽音を魅力的なマスタリングの上で追加した曲も多く、素晴らしい響きの空間と
鮮明な音像両者を同時に楽しめるハイブリッドレコーディングというもの。

今年で創立49年目となるKKVですが、その30周年記念アルバムが大変お気に入りで、
「引き絞られた音像と広大な音場感の両立」をチェックするには好都合な録音であり
私はいまだに課題曲として多用しているものです。

Kirkelig Kulturverksted  30 years’ fidelity
http://kkv.no/en/musikk/utgivelser/2000-2009/2004/divers/

曲名はノルウェーの言語なので私は発音出来ませんが、クラシックでもジャズでもない、
ロックやポップスでもない、このKKVのアルバムでBOENICKE AUDIO W13SEの素晴らしさを
楽しもうと考えました。先ずはこの曲です。

7. Som En Storm, O Hellig And - Ole Paus & Oslo Chamber Choir
https://www.youtube.com/watch?v=9CJBropx7SE

ちょっと調べてみると、このOle Pausはスウェーデンとノルウェーのバラードの
伝統におけるノルウェーの吟遊詩人であり、作家、詩人、俳優とのこと。

彼はノルウェーで最も人気のあるシンガーソングライターの一人と考えられ、
ボブ・ディランに相当するノルウェー人であり「国民の声」と言われていという。

この曲の冒頭は大変美しいオスロ室内合唱団による合唱から始まります。

そして、この混声合唱が始まった瞬間に私の口は半分開き、声にならないほ〜と
いうため息が…。

BOENICKE AUDIO最大の特徴であるウッドコーンのミッドレンジが醸し出す人間の声、
広大な空間を描き出すコーラスの美しさに感動してしまいました!

「なんということか!透明感溢れる歌声が広がっていく空間と余韻の素晴らしさ!」

ノルウェー語でSom En Stormとは「嵐のように」という意味らしいのだが、その嵐の
前の静けさを歌ったらこうなるのだろうかと思ってしまうほどの清々しいコーラス!

そして、左右チャンネルに二本のギターが軽やかにカッティングを刻むリズムが入り、
センターにはウッドベースが登場する。ここです!

センター定位のベースは膨らまず広がらず極めて鮮明な輪郭を描くのだから堪らない。

今までにもサイドウーファーのスピーカーは何機種が聴いたことがありましたが、
前述のようにアクティブウーファーではなく通常の3ウエイスピーカーでのクロス
オーバー周波数で構成されたサイドウーファーでは低音楽器の音像表現が定まらず、
良く言えばおおらか、悪く言えば膨らんだ低音という印象を持っていたものですが、
BOENICKE W13SEでは実にくっきりと引き締まったベースを再生することに感動する!

先に述べていたアクティブウーファーのチューニングがこれほどまでに功を奏した
再現性につながるとは予想していなかった。DSPを使用して低域のレスポンスを
コントロールしているBOENICKEのセンスに脱帽の思いで心地良く聴き続けると…

そして、そのペースの定位は同じくするが更に遠方の上の空間からサックスが登場する。

このサックスは十分にウェットな質感を保ち、正に点音源と指さすことが出来る
ような引き締まった音像から呆れるほど広大な音場感の広がりをもって展開する。

そして、何よりも今までに聴いたことのない質感のサックスであることに思い当たる。

それはコーラスにおける声の質感とも共通するものであり、他のスピーカーとは異なる
ミッドハイレンジの極めて自然であり寛げる音色の魅力をウッドコーンのユニットが
作り出しているのかと納得されられる。これは全ての曲で共通した魅力ともなっている。

時間軸を考えれば短時間ではあるが、BOENICKE W13SEで聴く音楽の全てに新鮮さを
感じるものであり、搭載しているユニークなスピーカーユニットの貢献度が低域から
高域に至る全ての帯域で他社にはないぬくもり感として私の胸に浸透してくる思いが
あるのですが、ピンポイントの音像と広大な音場感をすんなりと表現するBOENICKEの
個性と魅力に関してアンビエンストゥイーターの威力をここで実感したのです。

6KHz以上を再生するアンビエンストゥイーターには個別のレベル調整はなく、
設計者が考えたバランスで高域のみを放射しているのですが、実際にスピーカーの
後方に回り込んで聴くと想像以上の音量で鳴らされているのが印象的でした。

私はここで意地悪な実験をしました。ちょうど良いサイズのゴムのキャップを見つけて、
それをテープでW13SEのアンビエンストゥイーターをすっぽり隠すように貼り付けたのです。

すると、楽音そのものの湿度が下がり乾燥した質感というか、今までに感じていた
しっとりとした感触が損なわれ、同時にサウンドステージのスケールも半減して
しまうという変化が表れ、楽音の質感だけでなく音場感そのものにも悪影響を
及ぼしてしまった事が直感され、BOENICKEの感性による判断と選択が正しく、
彼の考えた魅力的なスピーカーとは何かという応えを実感したものでした。

そして、絶妙なリバーブによって残響という衣装をまとった伴奏楽器とは反対に
すっぴんのOle PausのVoiceがほぼノンリバーブという鮮明さでセンターに登場すると…

「一皮むけた声質と言ったら過去の事例に申し訳ないが、それほど鮮明だから仕方ない!」

喉元から発する息遣いをマイクが拾っているのか、唸るように唇を閉じて発する
低い声は耳元で囁かれた時に感じるくすぐったい空気の振動を思わせるリアルさ!

歌うでもなくラップのように叫ぶでもなく、しっとりとしながらグルーブ感のある
Voiceが正に吟遊詩人として語り掛けてくるリアルさに背中がぶるっとする!

「オンマイクでのリアルな声、余分なリバーブもない緻密な音像が素晴らしい!」

この肉声に関しても上記のアクティブウーファーのチューニングがきいていました。

一般的な3ウエイスピーカーではヴォーカルはもちろんの事、この曲のような肉声
と言える再生音に関しては想像以上にウーファーが関わっており、バイワイヤー
接続が可能なスピーカーで試しにミッドハイレンジのスピーカーケーブルを外して
ウーファーだけ鳴らすと、そこからくぐもったヴォーカルが聴こえてくるものです。

つまりヴォーカルの再生音に関してウーファーの反応が遅かったり、バスレフ型
スピーカーのように共振周波数を利用した低音がポートからも再生されたりする場合、
人間の声という帯域の再生音に大きな影響を与えているという事なのです。

ですから、このOle PausのVoiceに関しても私が今までに聴いたことのない質感、
好ましい音像表現としてW13SEが鳴らし始めた時に驚いてしまったのです。

変調され位相が遅れた低域という設計者の視野に入っていなかった要素によって、
低音の吹き溜まりのような、ぼそっとした後味がない爽快ですっきり整理された
素晴らしいVoiceというものを私は初めて聴きました!

知らぬ間にOle Pausの背後にはオルガンが表れ、長いトーンの合間に細かい音符を挟み、
ギターとベースの背景に風に揺らぐ音響カーテン、いや、オーロラのように煌めき
揺れる響きの背景を形成する。これがまた素晴らしい!

二本のギターはVoiceの合間に交互にスリリングな見せ場を作り、間奏でのサックスを
再度迎え入れ、リードのバイブレーションをたなびかせるサックスとの連携において、
あたかも教会という豊かな響きの空間で吹いているような美しい音場感を私の眼前に
展開していった! この音場感はいったい何なんだ!これがBOENICKEの感性なのか!

youtubeでパソコンのスピーカーで聴いている皆さんには想像も出来ないハイエンド
オーディオの極みとも言いたい演奏空間にしびれていると、オスロ室内合唱団の
コーラスが冒頭の主題をもう一度繰り返し、その厳かな響きが数秒間私の頭の中に
余韻のリフレインを残して幕を閉じる! いや〜、これには震えました!!

10. Mitt Hjerte Alltid Vanker - SKRUK / Rim Banna
https://www.youtube.com/watch?v=42fIQbjp3bY

SKRUKは1973年に設立されたノルウェーの合唱団で、指揮者のPer Oddvar Hildreと
共に現在まで広範囲な活動をしている。Rim Bannaはパレスチナの歌手、作曲家。
この曲も、くれぐれもパソコンのスピーカーで聴いて誤解なさらないように(笑)

Rim Bannaが登場するのは冒頭の一分間だけ。しかし、このソロバートが凄い!

伴奏はウッドベースだけ。それも、わずかにそっと弦に触れるだけという弱音の
ピッチカートでヴォーカルに寄り添うような低音の起伏を響かせる。

このRim Bannaのソロヴォーカルが聴かせる音像の忠実さ克明さという描写力に驚く!
同時に彼女の歌声によってスピーカーの周辺に出現するサウンドステージの素晴らしさ!

それはヴォーカルの質感に先ずは安定した艶やかさと滑らかさが感じられるという
基本構造の上に成り立っていて、ここで強くウッドコーンのミッドレンジと同時に
アンビエンストゥイーターの存在感を実感し、上記に述べているようにアクティブ
ウーファーの成功例として人間の声をここまでリアルに浮き上がらせるのかという
発見に言葉を失う!

当然、横幅たった179ミリというW13SEのプロポーションにも音像と音場感を両立
させるデザインセンスがあることが前提で、アンビエンストゥイーターによる
中高域の放射パターンの広範囲な展開が功を奏している事を実感させられる。

そして、一分後にセンターからアフリカ系パーカッションの乾いた打音が出現し、
同時に右チャンネルからは一定間隔で鳴らされる鈴の音が幻想的な空間を醸し出す。

その辺からベースは低音階のピッチカートで存在感を示し始め、先ずはSKRUKの
男声合唱が重厚なベールを思わせるハーモニーで湧き上がってくる。ここがいい!!

幾重にも重なるコーラスはパートごとの分解能を理路整然と示し、センター右寄りの
中空に極めて鮮明であり美しいピアノが登場する。このピアノの質感は絶妙な立体感と
ともに、まさに空間を転がるように一鍵ずつの打音の連続と、その瞬間から放出される
透明感抜群の響きの連鎖を展開していく。これは見事! ピアノの一弦にも音像あり!

ゆったりした男性合唱が招き寄せるように女性コーラスが登場し、youtubeでも分かる
バラード調の旋律が上品なうねりを伴って重なり合っていく。素晴らしいです!

右チャンネル寄りのピアノが儚なげなメロディーを奏でていると、左チャンネル寄りの
後方から女性ソプラノが立ち上がり清涼感溢れるみずみずしい歌声を披露してくる。

伴奏楽器はシンプルであるが繰り広げられるコーラスの響きの階層は美しい連なりを見せ、
それを縫い上げるようにピアノの美音が演奏空間を引き締めながら、しっとりと幕を下ろす。

スタジオと教会という残響時間が極めて異なる空間で演奏された両者の楽音を
絶妙なテクニックで合成することで展開する録音芸術の見事な再現性!

この二曲を聴いて、前述したBOENICKEの独創的な技術であるエレクトロメカニカル
パラレルレゾネーターと称した数センチの銅線をニッパーでパチンと切り取ったら
どうなるのだろうかと想像してしまった。これは隠し味と言えるものだろう。

これほどの自然な滑らかさを表現するスピーカーがあったとは、私にして初めて
という個性と魅力に納得しつつ、設計者の感性の素晴らしさに感動してしまった。

一流レストランのシェフが供する料理を味わって、その熟練の感性によって作られる
料理はレシピを真似しただけでは出来ない領域の完成された味だと感動出来るでしょう。

その美味に隠されたテクニックのひとつずつ、スパイスと調味料の配合における感覚、
その名人芸による料理から隠し味をひとつずつ抜き取り外して行ったらどうなるのか?

BOENICKEの感性と技術で作られたスピーカーの構成要素をひとつずつ分解し、
取り去っていくという実験が出来れば技術的要素各々の貢献度を分析することが
出来るかもしれませんが、一流レストランでの食の味わいというマナーに反する
事になるのと同じ事だと私は納得し味わい楽しむことに専念すべきだと思いました。

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

天然木材を削り出して造形するBOENICKEのイメージから察すると、上記のような
アコースティックな録音に関しての魅力というのは、ある意味では想像の範囲内
という事も言えるかもしれないが、アクティブウーファーを駆動する左右合わせて
4チャンネルで合計1,400WというクラスDパワーアンプの威力というポイントも
感じ取っておきたいと選曲したのが次の二曲。

■Flim & The BB's / Tricycle (DMP) 1.Tricycle
https://www.discogs.com/ja/Flim-The-BBs-Tricycle/release/6194802
https://www.discogs.com/ja/Flim-The-BBs-Tricycle/master/484773

■HELGE LIEN / SPIRAL CIRCLE   7. Take Five
http://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245411462

当フロアーのリファレンススピーカーは金属製で重量級、共通点は密閉型という
ポイントは今まで述べてきた通りで、その低域の素晴らしさも事あるごとに書いて
来ましたが、横幅は約18センチ、奥行き39センチ、高さ105センチで40キロという
BOENICKE W13SEが上記の課題曲でどのような低音を聴かせるのかに興味があった。

この二曲に関しての聴きどころはドラム、それも超低域まで沈み込む重量感ある
キックドラムに注目して限界点ぎりぎりまで音量を上げて聴いて行ったのです。

「なに!?このドラム!膨らまない、そして重たく高速反応の打音が物凄い!」

バスレフ型スピーカーにはない密閉型エンクロージャーの特徴が低音の打撃音に
最初から感じられ、とにかく切れ味がいい打音が素晴らしく引き締まったテンションで
この試聴室の空気を揺さぶる快感に更にボリュームが上がってしまう!これはいい!

これに関しては結論として以前にも述べた事のある次の一節を引用してまとめます。

誰しも学生時代の体育の授業で、あるいは部活などでバスケットボールを体験した
ことはあろうかと思います。体育館でバスケットボールをバウンドさせてドリブル
した時の床を打つボールの音を思い出して欲しいのです。

カゴに入った多くのバスケットボールから一個を取り出し床に打ち付けるように
バウンドさせた時の感触、その中で空気が少し抜けてしまったボールをバウンド
させると手元に戻ってくるスピードも遅いし反発力も低くなり弾み方も弱くなり、
何よりもバウンドさせた瞬間の床とボールの音が違っていたものです。

空気圧のあまいボールだと「ドス、バス」という感じで、テンションが低く緩い
歯切れが悪い音ではなかったでしょうか?

ところがパンパンに空気が入っているボールだと「ドッ、バッ」と床を打つ音も
切れ味良く、張り詰めたテンションと反発力でドリブルもしやすくなったものです。

私はBOENICKE W13SEで聴いたキックドラムの音質で思い浮かべたのは、しっかりと
空気を入れた硬いバスケットボールがバウンドするイメージだったのです。

この低音、他のスピーカーでは出ない!

私は冒頭でKiso Acousticに触れていましたが、Kiso Acousticが登場した当時に
このように語っていた事を記憶しています。

「このサイズで大きなスピーカーと同じような低音が出せるのがいいという事ではない、
 他のスピーカーに出せない音をKiso Acousticが出せるという事が素晴らしいのです」

Kiso Acousticは明らかにエンクロージャーを第二の音源として響きを作るスピーカー
なのですが、同じ木製エンクロージャーのBOENICKEではありますが、その低音は
私の求める方向性の質感であり、これに関しては響きを利用しての低域再生ではないと
明言できる質感であることをどうしても述べておきたかったのです。

そうです、BOENICKE W13SEは他のスピーカーでは出せない音を聴かせてくれるのです!

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

BOENICKE AUDIO W13SEは快楽をもたらすスピーカーであると!
https://boenicke-audio.ch/
https://zephyrn.com/boenicke-w13/

私は冒頭で上記のようにBOENICKEを語りました。
そうなのです、この私にして魅惑的であり安らぎを感じ、その音質の肌ざわりと
感触に快感をもたらすという今までに経験のないスピーカーと言えるのです。

そんな思いを最も感じたのが、この曲でした。

■Melody Gardot/Sunset in the Blue[SHM-CD]より1.If You Love Me
https://www.universal-music.co.jp/melody-gardot/products/uccm-1260/
https://www.universal-music.co.jp/melody-gardot/about/

質感と言い音色と言い、この私が今までに聴いたことのない美しさで奏でる
イントロのストリングスに続き、蠱惑的で妖艶なMelody Gardotのヴォーカル。

滑らかでふくよかな歌声に心癒され、興奮から安らぎへといざなう旋律の調べで
語りかけてくるBOENICKEはこう言うのです…

「If you love me let me know」私を愛しているなら教えて、と…

作り手の感性に共鳴するのがハイエンドオーディオの意味するところであり醍醐味でしょう。

どこになぜ共鳴、共感したのかを語るのは野暮というものかもしれません。

感性が感性に響き合ったのなら言葉は要らないのかもしれません。

ここにBOENICKEのカタログがあります。
ちょうどCDジャケットサイズの小さな45ページからなるブックレットです。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230326170843.jpg

思うに人生には実に数多くのページがあるものです。

毎年、毎月、毎週、毎日と私たちは一枚が7枚、7枚から30枚、そして365枚と
1ページずつ白紙のページをめくりながら、そして喜怒哀楽を無意識のうちに
書き連ねたページを閉じながら生きてきたわけです。

音楽とは数百数千ページを一気にめくって過去の何かを見せてくれるものです。

そこには自分の想いが当時の言葉そのままで書かれていて、その文字の未熟さ
を恥ずかしく思いながらも切ない思い出を今は誇らしくも客観的に見ることが
出来るのでしょう。

今回は自分の記憶と感性の何かが反応しての試聴だったかもしれませんが、
その正体を思い出そうにも書き忘れていたのか、あえて書かなかったのか。

そのページを閉じれば今に戻ってくる、そしてBOENICKEで聴く音楽によって
数千ページを飛び越える旅に出られる…。

私にとっての初体験の感動はきっときっと皆様にも伝わっていくことでしょう。
そのためにはBOENICKE AUDIO W13SEを聴くだけでいいのですから…。

川又利明
担当:川又利明
TEL 03-3253-5555 FAX 03-3253-5556
kawamata@dynamicaudio.jp

お店の場所はココです。お気軽に遊びに来てください!


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