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H.A.L.担当 川又利明
    
2023年2月23日 No.1723
 H.A.L.'s One point impression - PILIUM Hercules & Alexander

この仕事を長らく続けて来た私にはオーディオシステムにおける再生音に関して、
自分が理想とする音、求めている音質というものに対する一家言がある。

これまでに何回も述べてきた「引き絞られた音像と広大な音場感の両立」という指標です。

これはスピーカーやコンポーネント、ケーブルや各種アクセサリーなど全ての
分野のオーディオ製品に対して言える事であり、それは今から9年前に出会った
HIRO Acousticの存在によって決定的になったと言えるかもしれません。

音楽を裸にするスピーカー登場!!その名はHIRO Acoustic Laboratory MODEL-CCS!!
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/1160.html

そして、このHIRO Acousticは以後も開発と進化を続け、海外メーカーの人々が
当フロアーを訪れる度に聴いてもらい、彼らの心中に何らかの刺激を与えて来たものと、
試聴する彼らの表情とリアクションから感じ取っているものです。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/hiro/

このHIRO Acousticが登場した2014年、ギリシャで設立されたPILIUMが日本で初公開
されたのは2022年のTokyo international Audio Showでのことでした。
https://www.piliumaudio.com/

2022/08/29 (月) 11:30
PILIUMというブランドのアンプに興味があります。
試聴と今後の情報提供を要請します。

上記は株式会社ナスペックの担当者に私が最初に送信したメールの履歴です。
この私の関心に応えてくれたのか、私の記憶が正しければ2022年10月31日の事。

PILIUMの創立者でありオーナーのKonstantinos Pilios氏が当フロアーを訪れました。

日本のハイエンドオーディオのレベルはこうなんだと、私は当然HIRO Acousticで
厳選した数曲を聴かせたわけです。すると彼はこう言ったのです。

「このスピーカーを鳴らすのであればOLYMPUSを使うべきだ」と…

このPILIUM OLYMPUSとは何か? 下記リンクをご覧下さい。(出典:avcat)
https://onl.tw/udtkcnw

現在PILIUMの自社サイトで「Divine Line」と称しているラインアップの上位に
位置する「Master Divine Line」を開発しているのですが、近未来のフラッグ
シップとなる最高位のプリアンプがPILIUM OLYMPUSだと言うのです。

やおらKonstantinos Pilios氏は持参したタブレットで多数の画像を開き、これが
OLYMPUSだと解説し、また工場での作業風景や呆れるほど巨大な電源コンデンサーの
パーツなど私に何枚もの写真を見せながら妥協なきモノ作りを力説するのでした。

その時点では私はまだPILIUMを聴いていなかったわけですが、HIRO Acousticを
聴いた彼の表情には自信とプライドが見受けられ、このスピーカーに対しては
最高位のアンプで鳴らす価値があると言いたかったものと私は推測しています。

そんな今まで語っていなかったエピソードを披露しましたが、遂にやってきた
PILIUMは下記の現在のトップモデル。

■PILIUM Hercules 税別¥12,500,000.   
https://naspecaudio.com/pilium/hercules/

■PILIUM Alexander 税別¥7,000,000. 
https://naspecaudio.com/pilium/alexander/

■試聴システムの主役たちが一堂に望める景色はこんな感じ!
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230208172436.jpg

関連記事
https://online.stereosound.co.jp/_ct/17577897

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ここで「引き絞られた音像と広大な音場感の両立」という私の持論に関して、
少し説明しておく必要があると思いますので簡単にまとめてみました。

音像と音場感のどちらが優先されるのかというと、オーディオシステムでの再生音
に関しては間違いなく音像の明確さという事が重要な事であると考えています。

音像そのものが可視化出来る程にリアルに再生されることで、楽音個々の位置関係と
遠近感が三次元的に認識される事になり、空間に彫像の如く音像が屹立することにより、
その周辺に音のない空間が感じ取れるようになり、その無音の空間に音像から放たれた
残響成分が余韻感として拡散していく状況が観察できることによって音場感が構成されます。

私が集中力を高めて試聴する際には、両目をしっかりと見開き左右スピーカーの
音源位置と、楽音が定位する中空の一点一点の音像を空間にプロットしていくという
聴き方をしているのはそのためなのです。私は音、音楽を見つめながら聴いています。

もしも音像が不明解で曖昧な再生音、あるいは音像の空間における投影面積が大きく、
その楽音がぼやけているような場合には、平面的な音になり楽音の実態感は薄れ、
音像と余韻との区別がつかなくなり音場感は感じられなくなります。

更にドラムやパーカッションなどの打楽器、ピアノのような打弦楽器、ハープのような
撥弦楽器などのテンションが高く立ち上がりが高速であり、引き締まった質感を
再生するシステムである場合には音像の明確さが感じられ易い傾向があります。

また、上記でシステムと書きましたが音が出せる総合的な事例を述べたかったものであり、
私は前述しているようにスピーカーやコンポーネント、ケーブルや各種アクセサリーなど
全ての分野のオーディオ製品に対して同様な評価基準を持っていることも述べておきます。

最後に上記のように音像と音場感の関連性に関して正確な判断をしようとした場合、
再生システムの置かれた音響的環境も重要な要素である事を追記しておきます。

文章で表現すると解ったような解らないような感じかと思いますが、百聞は一見に
如かずという言葉通りかと思います。ネットでこの英訳を検索してみたのですが…

「百聞は一見に如かず」→「seeing is believing」だそうです。
であれば…「hearing is believing」とも言えるわけで、当フロアーで試聴して
頂けましたら上記の解説を実体験して頂くことが出来るものです。

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H.A.L.'s Sound Recipe / PILIUM Hercules & Alexander - inspection system

https://www.dynamicaudio.jp/s/20230208172444.pdf

先ず最初にPILIUMの試聴を開始した際のシステム構成を紹介しなくてはと思いました。
なぜならば、このシステムで体験した事による貴重な経験とエピソードがあったからです。

H.A.L.'s Sound Recipe / Burmester 159 & Y'Acoustic Ta.Qu.To-Zero-inspection system
Vol.2
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230118172624.pdf

私はPILIUMの試聴を開始する前は上記のBurmester 159とTa.Qu.To-Zeroの組み合わせで
一週間以上の試聴を続けてきました。

言わばバージョンアップされたTa.Qu.To-Zeroの音質を分析しつつ、同時にこの
スピーカーの個性にすっかり馴染んでいた状態からHIRO Acousticに変更した事で、
オーディオシステムの主役であるスピーカーの違いに改めて驚きつつ、PILIUMの
第一声を聴いて素晴らしいテンションと引き締まった打楽器に感激したわけです。

そして、PILIUMとHIRO Acousticの組み合わせにて最初に感じた打楽器などの鋭さが
素晴らしい解像度であった事に感動しつつ数日を経たのですが、その特徴を表現する
ためにESOTERIC Grandiosoシリーズのアンプと比較してみようと思いつきました。

そこで、ソースコンポーネントは同じくしてGrandioso C1X&M1Xに切り替えて同じ
課題曲を聴き始めたのですが…、おや!?これは!?今までと違うぞ!と直感しました。

それは第一印象から高く評価してきたPILIUMの美点というべき打楽器の素晴らしく
引き締まったテンションが、何と今までリファレンスとしてきたGrandiosoのアンプ
でも同様な傾向として感じられてしまったのです。そんなはずはない、これは如何に!?

HIRO Acousticの敏感なウーファーは低域信号に関して楽音の質感、音色という
解りやすい変化で再生システムの傾向をすこぶる敏感に表現してくれるのですが、
今まで私が評価し基準にしてきた低音とは違うという戸惑いと変化の原因は何かと
推測し直ちに確認せねば!ということで周囲を見回して考え始めたのです。

すると…「もしかして、これか!?」とアンプ以外の要素があった事がひらめきました!

PILIUMとHIRO Acousticの最初の組み合わせにおいては、KIMBER SELECT KS 9038と
いう20万のジャンパーケーブルを使って試聴しており、アンプをESOTERICに変更して
からも同じケーブルで聴いていた事にふと思い当たったのです。

そして、今まで使用してきたESOTERIC GrandiosoのアンプにおいてはTa.Qu.To-Jumper
Cableをリファレンスとして使用してきた事を思い出したのです。

そこで、たった20センチしかないジャンパーケーブルなのですが、Grandiosoのアンプで
今まで基準としてきたTa.Qu.To-Jumper Cableに戻してみたら…!?

「おー、これですよこれ!この深々とした重厚な低音こそ聴き慣れたHIRO Acousticだ」

なんと、私がPILIUMの第一印象として感じ取った打楽器のテンションとは実はたった
20センチのジャンパーケーブルの個性によるモノだったのか、危なかったな〜!

スピーカーの再生音でドラムやパーカッションなどの打楽器のテンションという
ポイントに関して、それを鋭いインパクトでスピード感溢れる打音というものを
狙ったとして、あるいは意図的ではないにしろ切れ味のいいシャープな打音という
ものは超低域の成分をローカットすると得られるものという経験がありました。

ローカットという表現をすると語弊がありますが、ローエンドまで再生出来ない
ウーファーや、低域の駆動力に欠けるアンプ、瞬間的な低域成分を伝送しきれない
スピーカーケーブルなど多数の要因があるのですが、重厚な低域成分というものが
再生出来ないと楽音のテンションが高まって聴こえるという現象となるものです。

HIRO Acousticは敏感にジャンパーケーブルの個性を警告的に私に知らせてくれた
という事であり、PILIUMの本質的な能力と魅力を分析するに当たり的確な状況判断が
出来るようになったというものでした。さあ、PILIUMの試聴のやり直しです!

H.A.L.'s Sound Recipe / PILIUM Hercules & Alexander-inspection system
Vol.2
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230213155059.pdf

上記の経験からTa.Qu.To-Jumper Cableを使用して、上記システム構成にて以前から
述べているようにウーファーの背圧をリユースしない密閉型エンクロージャーによる
二機種のスピーカーで集中してPILIUMの試聴を行いました。

先に結論を述べておくと、私の経験でも前例がないほどの「引き絞られた音像と広大な
音場感の両立」を実現しているのがPILIUMというアンプの素晴らしさであると断言します!

音像と音場感という評価基準に関して、私が近年の試聴で多用しているのが下記の
ディスクです。スタジオ録音での克明な音像、巧妙なリバーブを駆使しての三次元的
な音場感、スタジオワークで描かれた各パートの楽音は立体的に展開し、音像の
フォーカスと遠近法の消失点を鮮明に描く素晴らしい録音で、私が求めるチェック
ポイントを網羅した課題曲であると言えます。これで再度PILIUMを聴き直す事に!

■溝口肇「the origin of HAJIME MIZOGUCHI」
https://www.sonymusicshop.jp/m/item/itemShw.php?site=S&ima=3355&cd=MHCL000010099
http://www.archcello.com/disc.html

先ずはこのアルバム「14.帰水空間」における冒頭からのシンセドラムは圧巻でした!

HIRO Acousticの極めつけにスピード感ある反応はそのままに、マスウエイトを
ウーファーの後ろに取り付けたかのような重厚感が加わり、更にTa.Qu.To-Zeroの
叩き出す打音にも肉厚感が増量され、特に左チャンネルのドラムがぐっと沈み込む
重量感溢れるサブハーモニクスをひねり出すという聴き慣れたはずのスピーカーの
異変に圧倒される!

このぶ厚い低音のドラムとは対照的に右チャンネルからの打音にはスカッと抜ける
高域方向への倍音成分が引き立ち、ウーファーの振動板の裏側に隠されたクランク
シャフトが仕込まれているのではないかと思えるほど、強烈な立ち上がりの鋭さと
制動感の強靭さが打音の輪郭再現性を高めていることに驚く!これは凄いです!

センターのドラムは切れ味のいい二連打を叩き出し、同時に高音階のシンセサイザーの
短い刻みのリズムを伴って、スピーカーという音源がない空間に絞り込んだ焦点の音像
をピン止めし、ウーファーとトゥイーターの極限的な同期による瞬発的な打音を
きっちりと定位させる解像度の素晴らしさにたじろぐ!こんな音はじめてだ!

サンプリング音源によるドラムなのだが、再生システムの個性によって打音の質感は
様々に変化してくることを今まで何度となく経験して来たものですが、バスレフ型
スピーカーには出せない低域の質感を有するスピーカー二者に対して、ここまで
制動感と重厚感をもたらしたアンプがあっただろうか!? これは只者ではない!

続いて左右スピーカーの両翼まで到達するかと思える広大なサウンドステージを
描きながら、かすれた女性コーラスをイメージさせる音色のシンセサイザーが
オーロラのようにたなびく響きの背景を提示すると、主題の旋律をキーボードが
中空に散りばめていくという幻想的な音の景観を眼前の空間に創出する!

ドラムによる低域の再現性の素晴らしさから予想された重厚なベースが登場し、
きらめく高音の多彩なパーカッションはミラーボールが撒き散らす反射光のごとき
細かい音の粒子を周辺の空間に出現させ、絶妙なタイミングでスイッチが入った
スポットライトが舞台の中央を照らしたかのような、音の演出が聴き手を引き込む
その瞬間に溝口肇のチェロが登場する!

何度も聴いてきた曲なのにPILIUMで聴くと、なぜかドラマチックなのはどうしてか!?

まばゆいライトに照らし出され溝口肇の指先から上半身の挙動まで、未体験の
解像度がチェロの楽音の内面まで描き出すような見事な音像の出現!

ゆったりしたメロディーの流れは弓の切り返しを感じさせない絶妙なアルコによる
チェロの存在感を、あたかも見えないセンタースピーカーによって単独音源として
スピーカーのセンターに定位させたような精密な響きと音像を浮かび上がらせる!

私の視線は楽音が表れる中空の一点を見つめ、また新たな音が発生する一点に向けて
素早く反応し、無意識のうちに眼球と視神経が目の前で展開する様々な楽音の発祥と
消滅のサイクルを監視し続けるという試聴スタイルを心地良く続けていく。

点と点を結べば一本の線になり、空間におけるxy軸の仮想座標をスピーカー周辺に
並べていく事で輪郭を感じさせる音像として出現させ、PILIUMは更にz軸を新たに
追加させるという能力を持っていたのか、遠近法を音場感にもたらす三次元的な音像の
存在感を聴く人に見せてくれるのかと、アンプが果たす役割の大きさと可能性に私は
新たな数ページを使って記憶のファイルに長文のレポートを書き留めつつ聴き続けた!

そしてマリンバの登場。右から左方向に音階が高くなっていく鍵盤の配列がチェロ
よりも手前に近い遠近感で定位し、手首のスナップをしなやかにきかせてマレットを
操る演奏者の上半身が左右に動きながら一個一個の音板をヒットする一瞬を見せつける!

紐で吊り下げられているマリンバの音板ひとつずつに音像としての存在感が表れ、
高速のロール(トレモロ)から2本マレットでの和音まで一粒ずつの音の結晶が弾ける!

その一打ずつにPILIUMが生命力を与えたがごとくの躍動感が堪らない!

主題の旋律を再度チェロが引き継ぐ間奏が濃密な音像の中身と、立ち昇る余韻感として
センターから周辺部へと連鎖する空間という響きの情景描写にうっとりしていると、
細かいタッチで右手の指が鍵盤上を滑っていくようなピアノのソロバートが始まる。

同じコードをオクターブずつ下げながら数フレーズごとに繰り返し、時折りの単音で
ロングトーンの残響を漂わせるサウンドステージの何と広々としたことか!これ凄い!

多数のパーカッションは眼前の空間に仕込まれていたLEDの瞬間的な明滅のように、
研ぎ澄まされた高音階の輝きとして出現し空間を飛び交い、そのひとつずつに
施されたリバーブが右に左に流星が引く光の尾のように流れていく情景に見惚れる!

やがて主演のチェロが戻ってくると、次第に歩むテンポを落として行くように主題の
旋律をソロで奏でながら繰り返し、伴奏楽器が少しずつ退いていき、歩んできた道を
振り返り、ふと立ち止まるように一定のリズムで音量を下げながら冒頭から続いて
いたドラムが鳴りやむと、最後のフレーズをチェロがしっとりと演奏し幕を閉じる。

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

前述のようにジャンパーケーブルの音質差に気が付き、システム構成を変えて再度の
試聴に望んだのはPILIUMのデモ機を返却しなければならない前日のことでした。

最後の一日で時間に追われつつも、二機種のスピーカーで五時間近く多数の課題曲を
聴いたわけですが、全ての曲で「引き絞られた音像と広大な音場感の両立」という
指標が高次元で達成されたという事を私は確認することが出来ました。

その中で最も印象的であり記憶が鮮明な一曲でPILIUMの魅力を述べようと試みた
ものですが、オーケストラでもヴォーカルでも、全ての音楽で私の記憶にない
素晴らしい音質であったと結論付けることが出来ます。

仕事がら世界中のハイエンドアンプと言われるものを多数聴いてきた私ですが、
このPILIUMに関してはオーディオシステムでのアンプの貢献度という事に関して
前例のない高みにあるものと自信をもって推薦出来るものです。

一曲の中にこんなドラマチックな味わいがあったのかと、再生音の余韻よりも
数倍長い感動の余韻をPILIUMがもたらしてくれるという事を追記しておきます。

さあ、このPILIUMという存在を今後私はどう取り扱っていくのか?
悩ましい希望に身もだえしているこの頃です。

川又利明
担当:川又利明
TEL 03-3253-5555 FAX 03-3253-5556
kawamata@dynamicaudio.jp

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