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H.A.L.担当 川又利明
    
2021年7月29日 No.1668
 H.A.L.'s One point impression!!-Bricasti Design M20 & M28 Special Edition

             ■プロローグ■

今回の試聴と執筆には大変多くの時間をかけて取り組みました。
証左として先ずHi-End Audio Laboratoryという概念から私は考え直してみました。

オーディオ専門店ですから当然扱い商品の販売が究極的な目的となりますが、
その前に扱い商品を研究するという発想を持っているということです。

それは結果的に対象商品を設計制作した作者よりも、同じ商品を作者が知らなかった
高いレベルで実演するという事が研究所として必要不可欠な要素であると考えています。

スピーカーメーカーの試聴室で鳴らされた音質よりも、アンプメーカーのラボで
聴かれる音質よりも、プレーヤーメーカーの実験室で聴く音質よりも、各々の製品の
製作者が知り得なかった音が同じ製品を当フロアーで演奏した時に実現出来ること。

オーディオコンポーネントの商品価値は音質によって判定されるべきであり、
その点において私には価格崇拝主義というものはありません。

良いものは価格にこだわらず認め紹介し推薦しているものです。
高価であれば全てに合格点を与えるということはありません。

それは私の独善的な判定、独断と偏見によるこだわりと評されれば、そのように
発言される人々に対しては言葉では何も反論せず、実体験として人々に提供する
研究成果の音質と感動をもって対応するのみです。

そして、研究成果は私が提供できるオーディオシステムによる音質ということに
なるわけですが、研究者としては論文をもって研究成果を発表し世に問うことが
必要であり、厳密な意味で論文型式という堅苦しい書き方はしませんがレビューと
して情報公開していることが私にとっての研究発表の機会であると言えます。

そして、文系の論文とは違い理系の論文においては、そこで述べられている実験
方法を忠実に第三者が試行したとしたら同じ結果が得られることで研究成果が
事実として認められるということになろうかと思います。

その点において私が当フロアーで出している音質を、そのまま場所を変えて手に
入れたいと要望される方には、ビジネスとして入念なプランニングのもとに然るべき
予算を伴いますが、実現可能であり研究成果と同じ音を提供することで証明可能です。

さて、ここで過去の随筆、第41話と第53話でハイエンドオーディオという言葉の
定義について、傅 信幸氏が実に上手く表現しているコメントがあるので紹介します。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/oto/

「ハイエンドオーディオ機器は確かに高価である。しかし、金ムクのパネルだから、
 ダイヤがボリュームに埋め込まれているから高価なのではない。
 そんなのはまやかしだ。

 ハイエンドオーディオの設計者は自分に忠実でうそがつけなくて、妥協すると
 いうことをあまり知らず、了見の狭いせいもあって没頭し、ただし一種の鋭い
 感は働いているが、その結果生まれてきたために高価になってしまうのである。」

「しかし、そうやって誕生した製品は、わかるユーザーを大変納得させる。
 ハイエンドオーディオの存在価値はそこにある。
 ユーザーは音楽とオーディオに情熱を注ぐ人である。

 そういうあなたと同じ思いをしている人たちの作った作品は、あなたの五感から
 更に第六感まで刺激するに違いない。それをハイエンドオーディオと呼ぶ。」

私は自分が目指しているもの、また第三者にハイエンドオーディオを説明する時にも
度々引用させて頂く名言であると思っているが、なぜこの段階で述べたかったのかと
言うと前述の私の研究目的と通ずるものであり、同時に数々のハイエンドオーディオと
呼ばれる製品に対する判定基準がここにあるからなのです。

音楽を愛する人たちが作り、音楽を愛する人たちが使用する道具として、
感動こそが最も重要な要素であり、その感動は個人の経験値によってレベルの
高低があり一様ではないということ。

そして、私の研究目的として私自身のレベルアップを元に研究対象製品の価値観を
高める努力と実演を行い、それによって体験者の経験値すなわち感動できる音質の
レベルアップも同時に行っているということです。

簡単に言えばハイエンドと呼ばれる製品の音質をユーザーが感動し納得できる
音質にて実演し、その価値観を販売前に啓蒙し理解して頂ける環境とノウハウを
備えていなければならないということになります。それが専門店の使命です。

では、その研究対象とはいかにして選ばれているのか。

それは第一に専門店であるという事から取り引き先の各社から新製品の評価を
依頼されるということは誰でも想像出来ることですが、様々な情報を目にした
私の好奇心から、こちらから要請することもしばしばありました。

H.A.L.'s One point impression!!-Westminsterlab Rei & Quest
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1655.html

上記などは典型的な事例であり、多大な広告宣伝費をかけて目につくようなCMを
発していない製品であっても私は何も気にせずに声をかけているものです。

また今回の本題とは直接の関係はないものの、前述のような研究という考え方を
している私に新たな研究対象を提案して頂けるということは嬉しくありがたいものです。

国内外を問わずH.A.L.にて評価して欲しいという製品がありましたら何なりと
ご相談頂ければと、この場を借りてご提案申し上げます。そして…

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

今回のBricasti Designを聴いてみたいと私が行動を起こしたのは昨年末のことでした。

-☆-H.A.L.'s Circle Review-☆- 2020.12.29-No.4513-より引用

「2021年は本気でBricasti Designを聴いてみようと思います!」

輸入開始から既に数年経っていますが、ブランドの紹介は下記をご覧下さい。
https://www.bricasti.jp/

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

-☆-H.A.L.'s Circle Review-☆- 2021.01.31-No.4524-より引用

「Bricasti Designフルシステムを本日セッティングしました!」

ソース・コントローラー M12 希望小売価格:2,150,000円(税別)
(D/Aコンバーター・ネットワークオーディオプレーヤー機能付プリアンプ)
http://www.bricasti.jp/products/m12/
下記はセットアップされた状態です。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210127174307.jpg
M1 Special Edition mk2も同時に展示しました。
https://www.bricasti.jp/products/m1-special-edition-mk2/

フルバランス・モノラル・パワーアンプ M28 Special Edition:4,009,500円(税別・ペア)
https://www.bricasti.jp/products/m28-special-edition/
HIRO Acousticとのサイズ感を比較してみて下さい!
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210127174315.jpg

目下のところ上記の二点を試聴しているところですが、実はこんなものも来ています。

Model 15 Stereo Power Amplifier 希望小売価格:1,800,000円(税別)
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210131171316.jpg

輸入元サイトでは未公開ですが現地メーカーサイトにてご覧下さい。
https://www.bricasti.com/en/consumer/m15.php

それにしても、かのMarkLevinsonに似ていますよね〜。それもそのはず…
創業者の一人はMadrigal時代のMark Levinsonの開発者だったのですね!
https://www.bricasti.jp/about/

今後しばらくの時間をかけて同社のサウンドポリシーを検証していきますので
続報にご期待下さい。

                                引用終了

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

上記はハルズサークルの配信だけの記事であり一般公開はしていませんでした。
そして、結論から言えば続報としてインプレッションを述べるに至りませんでした。

研究成果として私が発表するのは納得したものだけ、感動したものだけという主義であり、
そのレベルで評価出来なかったものに関してはノーコメントに留める事にしています。

ただ一通りの試聴なのかと言えば決して手を抜くようなことはしていません。
アンプの熟成には時間がかかることを承知しているので、上記のM12とM28SEに
関しても相当な時間をかけて試聴しました。

エンハンサーCD-ROMを毎晩リピートさせて、今日はどうか、今日は変化したかと
毎日繰り返し聴き続けたのですが、もう…これ以上はだめかな〜と思うまで誠意を
尽くしての試聴に時間をかけてきました。もちろん色々な実験的試みもしています。

印象としては何かつるっとした音、私が求めている数項目の情報量が感じられない事。

当然相応の価格なのですから帯域バランスもレンジ感も、ひとしおの音質であることは
間違いないのですが、私にはどうしても納得出来なかったのです。

その検証にて決定打となったのは、DAC内蔵プリのM12の限界を感じた事でした。

システム構成の中でプリアンプだけをESOTERIC Grandioso C1Xに変更して鳴らして
みたのですが、同じパワーアンプM28SEの表現力が数段階向上してしまったのです。

私は上記にて納得できないものはノーコメントと述べましたが、良いものは良いと
力説しますが、認められなかったものを悪く書いても何も生まれることはありません。

しかし、納得出来ない要素、原因はどこにあるのかという検証をすることも重要です。
ですから私はM12の価値観を貶めるような表現はしたくないので詳細は述べません。

そして、私の分析はHIRO Acousticというスピーカーと当フロアーの音響的環境と、
更に私という音質評価者の存在を前提にしているものであり、聴く人が換われば
評価も変わるでしょうし、スピーカーや環境が換われば勿論音質も変わるので
あくまでも私のホームグラウンドにおける一例として私の個人的評価であると
いうことを述べておきたいと思います。本稿は全て私の責任による発言です。

M12の特徴であるDAC内蔵による機能性の充実と、シンプルなシステム構成を望まれる方で
他のスピーカーや環境にて素晴らしい音質を提供するという可能性も十分にあるわけです。

ですから、決して私が最終判定者ではないということを繰り返しておきます。
そして、エピローグはまだ終わっていなかったのです。

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

-☆-H.A.L.'s Circle Review-☆-2021.06.16-No.4569-

上記の試聴に際して私からリクエストしていた項目がふたつありました。

ここのリファレンススピーカーであるHIRO Acousticをベストに鳴らすために
現在は日本に1セットしかないパワーアンプM28でバイアンプ駆動したいので
もう1セット用意出来ないか!?

次にDAC内蔵プリアンプではなく純粋なアナログプリを使って試聴したいので
現地メーカーに要望として伝えて頂けないだろうか!?

以上の希望がやっと実現することが出来そうです!

先ずはアナログプリですが今年1月の段階で既に海外では発売していましたが、
日本での正式輸入がされていなかったという新製品とは下記のM20でした!
https://www.bricasti.com/en/consumer/m20.php

そのM20が正式に完成し、M28も2セット揃ったという事で、こんな我が儘な要望が
半年かけて実現し近日中に当フロアーにやって来ることになりました!

下記の記事でも述べていますが、今年の前半はアンプというカテゴリーにおいて
本当に素晴らしい新製品に巡り合う事が出来ましたが、果たしてBricasti Designは
どんな新世界を見せてくれるのか楽しみでなりません。続報にご期待下さい!
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1655.html
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1660.html

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

-☆-H.A.L.'s Circle Review-☆- 2021.06.28-No.4572-より引用

配信がないのは何かを聴き続けているから、ということで毎日Bricasti Designを
繰り返し試聴していました。まさに研究しているということだったのです。

第一印象として光る原石を見つけたような大きな可能性を感じるものでした。
と前号で述べましたが、私のこだわりから今までに聴いた四日間の音質では
納得が出来なかったのです。

新製品のアナログプリM20は日本に送るために新規に一台をわざわざ組み上げた
ものということで、まったくの新品というものでありバーンインが必要でした。
https://www.bricasti.com/en/consumer/m20.php

それを承知で約50時間エンハンサーをリピートしてから聴き始めたのですが、
どうも納得出来なかったのです。これ以上続けても変化なかったらどうしようか
と思いながらも更に50時間以上鳴らし続けてきたのですが、今日になってやっと
開眼したようです。今までと見違えるほど素晴らしくなりました!

一時は諦めかけていましたが、このアンプには相当なバーンインが必要だったのです。

それはHIRO Acousticで聴いているから解かるようなものなので現地メーカーの
人たちにはイメージ出来ないかもしれませんが、M20+M28SEの潜在能力というか
本当の音質という未知数の高い可能性があるアンプだということが解りました!

いや〜、嬉しかったですね〜! その経験も含めて近日中にインプレッションを
述べたいと思っていますので続報にご期待下さい。明日からまた試聴です!

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

本稿を執筆している日取りから考えると、今はもうオリンピックが始まっている
7月末と言うことになります。その間に何があったのか、ここからが面白くなります!


          ■ダイバーシティサウンド■

上記ではDAC内蔵プリのM12を使用したシステムの印象を「何かつるっとした音」と
一言で述べていますが、その意味するところは何だったのか、私が納得出来なかった
という音質に関して、どのように説明したらよいのだろうかという悩みもありました。

それは一般的な指標で言えばM12が劣っているという事ではなく、ハイファイ装置として
きちんとした基本性能を持っているということは解っているのですが、しかし私が求める
レベルには至っていないということを違うシステム構成にて確認しなくてはと考え、
それをどう表現したらよいのかも同時に考えることが必要だろうと思ったものです。

そこで下記の試聴に再度、取り組んでいたというものでした。

H.A.L.'s One point impression!!-Chord Electronics Reference Range Vol.3
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1667.html

後述致しますが、このVol.3となるインプレッションで新たな表現法が見つかった
という事もありましたが、実は同時進行でもう一つのアクションが進行していました。

私が以前に下したBricasti Designの評価を再確認するためにも、再度M12を用意して
M20と比較することで前回の私の評価が正しかったのかどうか試みようと思ったのです。

上記のChord Electronicsの試聴を行いながらも、M12とM20を直列につなぎエンハンサー
CD-ROMを長時間に渡り同時にかけることで両者の熟成度合いにもバランスを取りながら
下記のように同一環境を用意し本格的な試聴を行うべく準備をしてきました。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210725161915.jpg

M28SEに関しても前回は床置きでしたが、下記のように当フロアーの強固なアンプ
ステージにセットし(後ろ向きで失礼)入念なバーンインを繰り返していたのです。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210725161858.jpg
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210725161906.jpg

そのシステム構成を下記にてご紹介します。この中で新製品M20ですが日本価格が
決定していませんので、あくまでも私個人の推測値としての価格としてあります。

H.A.L.'s Sound Recipe/Bricasti Design M20 & M28 Special Edition - inspection
system
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210725161709.pdf

50時間以上のバーンインを行ってからM20が見違えるようになったと前述しましたが、
果たして以前にM12に下した評価が正しかったのかどうか興味津々の比較試聴が始まりました!

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

先ず私は上記のようにM12を使用したシステムの印象を「何かつるっとした音」と
連想させた要因は何であるかを掘り下げて確認しなくてはと思いました。

そして、Chord ElectronicsのインプレッションVol.3で学習してきたポイントが
蘇ってくるわけです。この段階で次の一節を抜粋して引用しておきます。

「受容器として舌で感じる基本味の甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の五味などは
 耳で聴いた時の楽器や声の認知であると言い換えたいのです。

 これはヴァイオリンだピアノだ、これは女性の声だテノールだ、という具合に
 楽音の種類や音源の特定という事ではないだろうかと私は考えました。

 ある音波が耳に入り感じた時、ハイファイ再生の最も基本的な性能として、
 楽器の種類や音階を識別できること、聴覚における基本的な認識というレベルが
 ここにあると例えたいのです。舌と耳という二種の受容器での共通項とします。

 そこで味覚と関連性をもつ風味という感覚を私は耳で聴いた時の再生音の中に
 含まれる多様な情報量として、前述のように視覚、記憶などによって想起され、
 聴覚によって認知された楽音(再生音)に対して拡張された知覚心理学的な感覚として
 補足・追加された音の味わい、テイストとして次のような項目を当てはめました。

 質感、音色、響き、余韻感、音像と音場感という立体感、これらが高い次元で
 感じられる再生音こそが、耳で受け取り嗅覚で補足された音の風味として重要な
 パラメーターではないかと考えたのです。」

舌で味う味覚があり、それに嗅覚によってもたらされる風味が加わる。
耳で感じた音があり、私が比喩するところの嗅覚によって補足される音の風味となる。

これを念頭においてM12の際にも当然聴いていたオーケストラを最初に試したのです。

■マーラー交響曲第一番「巨人」小澤征爾/ボストン交響楽団/1987年録音の[3]
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210519123606.jpg
録音の古い順に写真左上から[1]右へ[2][3]、下段の左から[4][5][6]とします。

この第二楽章を最初はM12で聴き、ブリアンプのみM20に切り替えたのです。すると…

「あー! そういう事だったんだ! だから、つるっとした音と言ってしまったのか!」

冒頭の弦楽の合奏を聴き始めた瞬間に、M12では今までのシステムでは感じなかった
違和感があったのですが、その正体がM20との比較で解ってきたのです!

これを一言で言えばM12では音楽の香りがしなかった。音の風味が感じられなかった!

サランラップでもクレラップでも商品名はどうでもいいのですが、食品包装用の
ラップでオーケストラを包み込んでしまったという表現でいいかもしれません。
確かに、そこに美しいオーケストラが見えているのに香りがしないのです!

音の風味とは何か、音楽の香りとはどういうことかは前述しましたが、M12では
オーケストラの各パートが空間に発散するはずの響き余韻感というものが皆無とは
言いませんが、私の求めるレベルからすると大変に少ないのです。香らないのです!

それを言い換えると、弦でも管でも様々な楽器の音像が不明確になるので、
それらを包括して描く音場感も同時に広がりを感じないということでしょうか。

そして、弦楽五部の各パートでも多数の演奏者がいて各々が演奏する楽音の微妙な
違いが集団の中に感じ取れるので、多数の音色と色彩感を感じるのが優秀なシステムだと
今まで何度も述べてきました。これを視覚的に言い換えると…

油彩画の筆とナイフで絵具を何層にも塗り重ねた厚みというものが存在し、
キャンバス表面に描かれた多彩な色彩の盛り合わせが絵具による起伏を作り、
陰影となって絵画に重厚な存在感を与えるというものでしょう。

そんな絵画は本来ならば見る時の角度や光の当たり方によって陰影が感じられ、
指で触れようものなら、画家独自の筆遣いによって塗り上げていった絵の具の
タッチがざらっとした質感として感じられことでしょう。

ところが、M12で聴いたオーケストラはラップで包まれていたの例えのように、
各パートの楽器は何かは分かるのですが、巧妙に描かれたキャンバス表面の
絵の具の質感ともどもラップを透かして見るだけでは陰影もなく、ざらついた
感触なども封印されてしまったということでしょうか。

だから、いくら耳を傾けても指を差し伸べても、ラップのつるっとした感触と
均一な光の当たり方によるのっぺりした画像に見えてしまうことから、思わず
私の言葉では「何かつるっとした音」と表現してしまったのでしょう!

やっと、答えと表現方法も見つかったようで安心してしまったのですが、
それはM20で比較試聴して初めて感じられた事だったのです。

他のメーカーのプリアンプとの比較だったらこうはいかないでしょう。
M20の解像度抜群の開放感というか、音像と音場感が格段に違うオーケストラに拍手です!

同じ設計者、同じ感性を持った人だからこそ共通した音楽の香りと風味の違いを
作品として完成させることが出来たものと、しばらくの間悩んでいた私の疑問点に
解答が見出せた喜びとなってM20でマーラーを聴き続けてしまいました。

この比較試聴によって半年前に感じていたBricasti Designを再評価しなければ、
という思いがふつふつと湧き起り、オーケストラでの判定を続けなくてはと
今度は第四楽章を聴くことにしたのです。

前曲とは異なり冒頭からの嵐のような打楽器の咆哮、金管楽器の叫び、弦楽五部が
連動して行う思い切った展開の強弱など聴きどころが違うからです。ではM12から…

「おや!?こんなグランカッサだったか? ティンパニーまで違う。もうM20に換えよう!」

よく「打てば響く…」という言い回しがありますが、M12では打てど響かず。
これも前述のオーケストラをラッピングしたということで説明できそうです。

打楽器の打音の発祥から響きの拡散、そして消滅までを表現するには音場感として
空間再現性が必要になってきますが、薄い膜のラップを通して打楽器を叩いているのは
見えるのですが、その響きがラップで包まれた小さな空間に封じ込められているという
のが私の印象でした。M20はたちまちにラップを引きはがし空間を開放したのです!

低音打楽器の音が封じ込められたら当然その空間内部で響きは飽和し音像は見えません。
そして、肥大化した打音が膨張した音像、いや音の塊のように感じられ、しかも
通気性のない密閉空間でこもった音の倍音はマスキングされ抜けの悪い打音になって
しまっているようなのです。つまり打楽器の音色も暗く変化したしまったということか。

そのラッピング効果は金管楽器の質感と響きにも影響があるようで、爽快に響き渡る
トランペットからも打楽器同様に音の香り、音楽の風味が無くなってしまった事に
M20に切り替えたことで比較され解ってしまったのです!

第四楽章でM20に切り替えての比較試聴で、音の香り音楽の風味がラッピングされた
ことで私が例えた「何かつるっとした音」という表現の分析が出来た上に打楽器や
金管楽器の質感、音色まで変化を及ぼしていたことが解ったのですが、次の課題曲で
M12とM20の対比ということが更に判明してきたのです!

■溝口 肇「the origin of HAJIME MIZOGUCHI」
https://www.sonymusicshop.jp/m/item/itemShw.php?site=S&ima=3355&cd=MHCL000010099
http://www.archcello.com/disc.html

このアルバムは前回のChord ElectronicsのインプレッションVol.3から使い始めた
課題曲なのですが、オーケストラのように多数の楽器が混在し、その各パートの
分解能と空間での調和を推し量る聴き方とは違い、個々の楽音を冷静に比較検討
するのにふさわしい選曲が出来るものです。

先ず最初にM20でチェロとハープだけという「1.世界の車窓から」を聴き始めました。
SACDなのでDACの出力レベルが約6dBほど低くなるのでボリューム設定が上がります。

この録音ではチェロもハープもセンター定位。しかし、ハープは演奏者の右側に
マイクをセットしてあるのか音程の高低によって左右に展開する弦一本ずつの
音像に位置関係を見ることができる。

ありていに言えばハープの音階が低くなると右側に、高い音階では左側に展開し、
視覚的に言えばハープの弦を透かして見ると、その向こう側にチェロがいるという構図。

ハープの三音からなる鋭いピッチカートの和音が冒頭に弾かれてスタートする。
この瞬間的ともいえるハープをHIRO Acousticが放って1/100秒後に私の耳に届き、
弦の周辺となる空間の全くの静寂と、その中心に屹立した鋭いハープに驚き感動する!

この段階でM28SEを4台使いモノラル・バイアンプとして構成の素晴らしさが
先ず実感されました。

Chord ElectronicsのUltima5が170万円であるということを考えると、当フロアーで
過去に扱ってきたアンプたちと比較して何と費用対効果が大きい事かと前回述べた
わけですが、その魅力はさて置いてパワーアンプのゆとりある駆動力と分解能の
素晴らしさがハープの爪弾きの一音ずつにしっかりと感じ取ることが出来ました。
これは素晴らしいです!

左右に展開するハープの弦を透かして向こう側にチェロが見えると述べましたが、
遠近法がしっかりと完成しチェロの音階が上下しても音像サイズは見事に維持され、
その朗々たる響きが空間を作り出す演奏に私は自信をもって太鼓判をバンと押しました!

ハープの鋭い爪弾きの一音が発散する残響が空間を形成し、低い音階でエネルギー感が
ほとばしり、M20の潜在能力をいかんなく発揮する音楽の風味を堪能してしまいました!

そして、M12に切り替えたのですが…、ハープとチェロのデュオというシンプルな
録音であってもラッピング作用は間違いなくあると冒頭のハープの爪弾きだけで
感じられてしまうのだから仕方がない。

ハープの弦一本が作り出していた響きの美しさは半減し音の香りはラップに封じられ、
オーケストラの打楽器で気が付いた低音楽器での音像サイズの変化はチェロの低音階
でも表れてチェロの音色が薄く膨張してしまう傾向を私は察知してしまった。

大編成オーケストラの再生音で分析した要素がスタジオ録音による二人だけの演奏にも、
ラッピング作用を確認したところで次の選曲とする。この選曲が爆発的変化をもたらす!

この私が取り上げた曲は今後も定番の課題曲となるだろうと思われる興味深い演奏。
これです、「14.帰水空間」をM12のままで聴き始めました。

とてもユニークなのはシンセドラムの打ち込みによる打音で左右とセンターの三点から、
各々異なる音色のドラムとして登場し約20秒間一定のリズムだけを聴かせる。

左チャンネルからは重低音のドラム、右チャンネルは明るく抜けのいいドラム、
センターではわずかに音階の高い打音と高音階のパーカッションがきらめく。

そんな人工的なドラムだが逆に正確無比な打音の繰り返しを曲の最後まで続け、
それが最前列に並び手前に張り出して来るかの迫力をもち前後の定位感を保ち、
それとぴったり寄り添うような重厚なベースがセンターに登場する。

その後ろ背景にキーボードのシュールなハーモニーが展開し始めると、真逆な
アコースティックなチェロ、マリンバ、ピアノが交代で主題の旋律を奏でる。

極めて明確な低音リズムと幻想的とも言える奥に展開する三者の楽器が個性的な
空間表現を提示し、帰水空間というタイトルから連想される癒し効果が心地いい。

選曲の魅力はM12でもしっかりと感じ取ることができ、DAC内蔵でシンプルな再生
システムを目指すのであれば十分ではないかと…、ここまでは思っていたのですが。

この曲をなぜ選んだのか、試聴における選曲の理由はここにありとM20に切り替えると…

「おー! シンセドラムの音が何でこんなに違うんだ!」

ある意味、無機質で機械的、であるがゆえに正確な打音を繰り返す打ち込みの音。

それなのにM20に換えたとたんにドラムの音色を構成する倍音がこんなにあったのかと驚く。
ドラムだけの20秒間でプリアンプが果たす役目、存在感がこんなにクローズアップされるとは!

「えっ、ベースの音像ってこんなに引き締まっていたのか!」

ラッピング作用は低音の音像と質感を変えると学習したばかりなのに激変のベースに驚愕!

「どうしてパーカッションの輝き方がこうも違うの!」

きらめくような小粒な高音のパーカッションの残響が飛び去って行く快感がいい!

「美しい…、楽音に風味が加わるとこんなにチェロが美しくなるのか!」

キュートな音像にたっぷりの響きをまとったチェロから音の香りが漂ってくる!

「参ったな〜、マリンバのインパクトの瞬間がこんなに鮮明になるなんて!」

マレットがマリンバを叩く瞬間の描写力は桁違いと言っていいです!M20凄いです!

「これ本当に同じピアノなの!? 余韻が消える前に次の打鍵が繰り返される響きが鮮明!」

ラッピングで封印されていた微小信号による残響成分がM20で蘇った物凄い情報量!

これがESOTERIC Grandiosoが創出している情報量だったのか!
これがHIRO Acousticが発揮しえる音像と音場感の素晴らしさだったのか!

これです! 音の香り、音楽の風味、私が求めていた方向性をM20で確認出来た一曲でした!

そして、それからというもの…

■Dominic Miller / Absinthe (CD)よりタイトル曲1.Absinthe
https://dominicmiller.com/product/absinthe-cd/
https://www.youtube.com/watch?v=sY6aQy0MJ7k

■大貫妙子 「pure acoustic」より7.「突然の贈りもの」
http://www.universal-music.co.jp/onuki-taeko/products/upcy-7097/

■Melody Gardot/Sunset in the Blueより1.If You Love Meと9.From Paris With Love
https://www.universal-music.co.jp/melody-gardot/products/uccm-1260/
https://www.universal-music.co.jp/melody-gardot/about/

などなど、最近の課題曲を聴き続けてしまいました。
これらの曲ごとに前述の分析結果がピタリと当てはまっていく快感に酔いしれ、
M20の登場がBricasti Designの本望であろうと私は結論付けました。

オーディオという趣味においてアーチストが情熱を傾けた録音作品を再生する。
その再生音に無数の多様性、ダイバーシティサウンドがあることをBricasti Designが
証明したのです!

Bricasti Designの素晴らしさ、価値観を今後どのように皆様に伝えていくのか、
それはユーザー一人ずつの多様性を発見し感動へと導いていく私の仕事でもあります。

Hi-End Audio Laboratoryはそのために存在しているのですから!

川又利明
担当:川又利明
TEL 03-3253-5555 FAX 03-3253-5556
kawamata@dynamicaudio.jp

お店の場所はココです。お気軽に遊びに来てください!


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