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H.A.L.担当 川又利明
    
2021年5月10日 No.1660
 H.A.L.'s One point impression!!-Chord Electronics Reference Range

「H.A.L.'s One point impression!!-Chord Electronics Reference Range」

新ブランドとしてChordの輸入が開始されたのは確か2002年のこと。
履歴をたどると2002.3.29-No.0312-で初掲載していたものでした。
私がChordのアンプとして初めて聴いたのがSPM6000(486万円)でした。

そして、その二年後Chord創立者John Franks氏ご本人が来訪されました。
2004.1.21-No.0833-より下記ブリーフニュースを紹介致します。

          -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

引用開始

「遂に始動!! 21世紀のNautilusシステムが新しい展望を聴かせる!!」

先日Chord社長John Franks氏が来訪された。
http://www.chordelectronics.co.uk/

日本マーケットの視察と輸入元とのビジネス・ミーティングのため
というものであったが、駆け足で秋葉原のショップを視察する中で
やはり目にとまったのがH.A.L.のようであった。そして、同行された
タイムロード社長からのコメントが…。

「私から説明するまでも無く、御社の7階のスペースの印象は非常に強く、
 Chord製品を正等かつ存分にお客様方にご理解いただくためには、こう
 いうお店で常設試聴できる状況をつくっておかなくてはならない、と
 即座に申したものです。ハード面での充実だけでなく、スタッフや雰
 囲気といったソフト面での質の高さに気付いたからに他なりません。

 そして、頭に浮かんだのがChordを取り扱い始めて以来暖めておりまし
 たノーチラスとの共演。これを何とか実現したいということで、若干
 お互いに無理をしてでもこの際川又さんに聴いていただこうと相成り
 ました。」

というありがたいお言葉を頂きました。そして…、具体的な提案として
同社の営業からは…。

                     --------------------

今回弊社から提案させていただく内容を、下記にあらためてご案内いたしますので、
ご検討の程、よろしくお願い申し上げます。

B&Wオリジナルノーチラスとのコンビネーションで、ヨーロッパのスタジオ
サウンドを最高に贅沢な形で再現する(国内初!海外でも?)

世間的に相性が良いとされるCHORD社パワーアンプ群とB&W社スピーカーとの組み合わせ。
しかしながら、本当にその真価が発揮され、性能(対価)が酬いられた姿を知っている
ユーザーは少ないのでは?

それならば、プロ向けに宣伝も営業もしていないのに驚嘆と尊敬をもってエンジニアに
迎えられたCHORD製品を、本当に音楽を愛してやまないユーザーに紹介するにあたり、
B&Wの全てが具現化されたオリジナルノーチラスを、販売する側として本当に責任ある
姿勢で世に紹介してきた筋金入りノーチラス使いの川又様にコーディネイトして
いただくのがまさに理想と考え、この度ご提案差し上げた次第です。

実は相当前から勝手ながら妄想(?)しておりましたが、デモ機も揃わないのに軽口を
叩くわけにもまいりませんので、お声をかけるのを慎んでおりました。
しかし先般のCHORD社社長のお店訪問を機に急展開。詳しいことは抜きにしましても
デモ機が川又さんのために揃うということから推して知るべしです。

弊社デモ提案製品/CHORD社SPM1400Eモノラルパワーアンプ×8台
・定価140万円×8台
・1000W/2Ω、800W/4Ω、480W/8Ω
・単体での大きさは高さ185o×幅480o×奥行355o/約20s(軽いです!)
・同社モノラルアンプとして2番目の位置づけです
*ちなみに1番目はSPM6000、定価243万円
*標準装備のインテグラレッグがありますので、4つくらいでしたら重ねても大丈夫です

プリアンプはCHORD社のトップモデルCPA4000E 140万円を用意

日程/2月6日(金)7階に持込→2/22まで期間限定試聴を実施!!

最後になりますが、川又様の評価がどうくだるのか、不安な反面、自信も少し・・・
箱鳴りの要素が少ないスピーカーを使う方は、必ずより生に近い高音・生に近い
低音を好みを排して見破ってくださるからです。

お忙しい中、急な話を持込んでしまい誠に恐縮ですがどうぞよろしく
お願い申し上げます。

                                引用終了

          -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

このようにChord社長John Franks氏との出会いから急展開した企画は下記のように
実現したものでした。

小編『音の細道』「Chord Electronics + Nautilusが聴かせる魅惑の世界!!」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/270.html

上記から私が大変に重要だと考えている次の一節を抜粋しました。

                     --------------------

引用開始

つまりプリアンプの個性に染まりやすいタイプがChordと言えるのかもしれない。
これは無個性ということではない。ニュートラルであるからこそ、若干の色彩感の
変化があっても聴く人にわからせてしまうという素性の良さがあるものだ。

中にはどんなプリアンプを組み合わせてもパワーアンプの個性が最後まで聴こえ
てくるアンプもあるので…

「これじゃ、パワーアンプを通じて他者の個性を聴いているような
 ものだよ。Chordとは何か? これを聴くにはプリがなきゃだめ〜」

ということで、追加でCPA4000Eを持ち込んでもらったのだが…!?

Chordは非常に合理的なモノ作りをするメーカーである。同じデザインのサイズの
パネルを各モデルに使用して統一感をかもし出し、同時にコスト低減も図っている。

プリアンプの操作感としてはどちらかというとデリケートなフィーリングと言うよりも、
ざっくりとした感触がスイッチやノブに触れてみると感じられるものだ。

そして、SPM 6000をCPA4000Eで鳴らし始めた瞬間に私は内心で喝采したものだ。

「これだ!! これですよ、これ!! 」

高域のぎらつきはなくなり爽快な透明感で弦楽の演奏がきれいな余韻をほとばしり始める。
そして低域は見事にダイエットして重量感とテンションの高まりを両立させる。

あ〜、こんなことだからアンプの組み合わせというのは作者の感性を読み取るのに
間違いを犯しやすいのだ。

違ったメーカー、作者のプリとパワーアンプというのは、言わば完成されたジグソー
パズルのようなものだ。左右半分ずつをプリとパワーアンプが受け持っていて、
それで初めて一枚の絵として完成するのである。

仮に完成しているジグソーパズルの幾何学的なカットにそって慎重に真ん中から
分けたとしよう。その分かれ目は決して直線ではなく、ご想像頂ける様にジグソー
パズルのあの不可思議な形状での断面で左右に切り分けたとイメージして頂ければと思う。

左右のどちらの画像を見ても解像度も色彩感も素晴らしく、個々には完成されている
絵がそこにあるのだが、どちらの画像とも別々のメーカーのものを真ん中で合わせ
ようとしても違うメーカーのプリとパワーでは決して完璧には一致しないのである。

それが、あの時には千載一遇の出会いとでも言うように、Chord同志のペアで鳴らし
始めたときには、それ以前に聴いていたSPM 6000の評価が一変してしまったのである。

言い換えれば、他社のプリで鳴らしていたSPM 6000の音質は価格的に見ても外観の
豪華さからしても全くそぐわないものであり、そこで分析するのを止めていたら
私はChordの製品をここに置くことはなくなっていたであろうということだ。

                                引用終了

          -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

その一年後2005年2月にChordのフラッグシップ SPM 14000(税別価格¥9,940,000.)が
国内最速で持ち込まれ試聴したエピソードを下記にて報じていました。
https://www.chordelectronics.jp/products/chord-range/sp%ef%bd%8d14000/

小編『音の細道』特別寄稿「繊細なる巨人、その名はChord !!」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/329.html

上記でも最初は同社純正プリアンプがない状態から試聴開始し、その後しばらくして
ChordよりCPA 4000E(税別価格¥1,620,000.)が届いてからの印象まで述べていました。

また、その後にCPA5000(税別¥2,600,000.)が発売されていましたが、展示して
いたSPM 14000は既に無くなってしまっていたので、当時のトップモデル同志での
試聴は実現できなかったという思い出もあります。
https://www.chordelectronics.jp/products/reference-range/cpa5000/

その後、コンパクトで最先端のデジタル技術を駆使した大ヒット商品Chord DAC64から
更にDAC64MK2へと続くCHORAL RANGEが話題となり同社は躍進して行くのですが、
前述のようなハイエンド志向のREFERENCE RANGEのアンプにおいては長らくの間
当フロアーでは本格的な試聴をしてこなかったということなのです。

このような歴史を振り返り、私は大分以前からプリアンプとパワーアンプのペアで
試聴しなければメーカーが求める音質を理解できないと考えていたのですが、
本当に久しぶりの事ですが下記の新製品に巡り合うことが出来たのです。

Chord Electronics  UltimaPre2 税別¥2,300,000. ★新製品
https://www.chordelectronics.jp/products/reference-range/ultima-pre2/

Chord Electronics  Ultima5(2台にてモノバイアンプ) 税別¥3,400,000.(2台)
https://www.chordelectronics.jp/products/reference-range/ultima5/

さて、Chord社長John Franks氏に続いて、もう一人のキーパーソンをご紹介して
おかなければならないと思います。

Chord社が日本に輸入されてから一貫して正規代理店となっている株式会社タイム
ロードの代表取締役社長 平野至洋氏です。先ずは下記をご覧下さい。
https://www.timelord.co.jp/company/

-略歴-

大学では音響工学を専攻、ジャズ研究会に所属しベースを担当
大学卒業後パイオニア株式会社に就職。回路設計エンジニアとして工場で約3年勤務の後、
本社の企画部門に異動。

パイオニアに在籍中、10年間アメリカのオハイオ州とミシガン州に駐在。
この頃、アポジーやクレル、ワディアなどアメリカのハイエンドオーディオの洗礼を受ける。

アメリカではAyreの故チャールス・ハンセンやデビッド・チェスキー氏などと親交を深める。
日本に帰任後、カーOEM事業の企画部長就任後、駐在時の経験よりTAD事業を任される。

取締役社長に就任し、世界的なコンシュマー向け高級オーディオとしてブランドを確立した。
2017年にパイオニアグループを退社し、2017年12月に株式会社タイムロード代表取締役社長に就任。

-引用終了-

さて、ここで次のブリーフニュースを紹介しておきます。

「思わぬ訪問者David Cheskyから頂いた大変うれしい勲章とは!?」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/550.html

「ミスター・カワマタ、ニューヨークに来ないか!!」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/645.html

2007年10月にデビッド・チェスキーと一緒に来訪されたのが、当時アメリカにて
パイオニアのカーオーディオのビジネス展開を担っていた平野至洋氏だったのです。

ですから平野至洋氏とは14年前に既に面識があり、2009年4月の再来訪の際にも
お目にかかっていたものでした。ですから、平野氏が帰国されTADの社長となり
挨拶に見えられた時には驚き親しみを感じ人生の奇遇というものを実感したものです。

そして四年前に株式会社タイムロード社長に就任されということで挨拶に来られた
時には私は思わず失笑してしまったものです。長らくのお付き合いに感謝致します。

ちなみにTADというブランドともご縁が深く、2003年のTAD-M1の開発段階では三回も
当フロアーに試作機を持ち込んでの試聴を行ったという思い出もあり、その後に
同社のラインアップを多数実演して来たという歴史もありました。

そして、HIRO Acousticが登場するまでは2007年に発表したTAD-R1をH.A.L.の
リファレンススピーカーとして採用していた事実もあり、TAD-CR1を含めて多数の
TAD製品を取り扱ってきたという歴史にも平野氏が関わっていたということなのです。

さて、ここで平野氏をなぜ紹介したかというと、そのお人柄と下記に述べるエピソードの
基点となる出来事があったからです。

UltimaPre2とUltima5(2台)を当フロアーにセットアップするに当たり、製品そのものは
配送業者の手によって搬入され、連休の最中にも関わらず5月2日(日)にわざわざ
平野氏がセッティングのために来られたのでした。

貴重なゴールデンウィークの最中に来て頂き恐縮至極であり、開梱作業のために
カッターをお貸ししましょうか、と言うと…

「大丈夫です、カッターは持参して来ましたので」と、おっしやる。

私も多数の取り引き先担当者と付き合いはありますが、こんな小さなことまで
気遣いし販売店に手間をかけないという配慮までお持ちになっている営業マンは
他にはいないでしょう。恐れ入りました。そしてありがとうございました。

平野氏は作業用グローブまで持参され手際よく開梱作業をしているところに、
私は次のように話しかけました。

「平野さん、実は依頼した後で気が付いたのですが、バイアンプを希望しましたが
 プリアンプUltimaPre2のXLR出力端子は一系統しかなかった事に昨日気が付きました。
 そこで私は社内を散々探し回ってバランス二分配のアダプターを用意した…」

と、ここまで言いかけると…

「川又さんからバイアンプ希望とうかがった時点で気が付いていたので、
 このスプリッターも用意してきました!一応有名ブランドのケーブルで作った
 物なのですが、これで大丈夫でしょうか」

と、何とも痒い所に手が届くような気配りまでして下さり、さすがだな〜と
感心したものです。それが下記写真の上にあるXLR:Yスプリッターです。
下に映っているのは私の方で用意したPADのYアダプターです。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210503180610.jpg

という事でセットアップを完了した状況が下記の画像となります。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210503180619.jpg

ちなみに本来はデモ機は1台しかないUltima5なのですが、もう一台を私のために
わざわざ新品を開封して使わせて頂けるということで本当に頭が下がる思いです。

しかし、このYスプリッターに関しての音質変化が私の第一関門となろうとは…。

新品を開封したばかりのパワーアンプでもあり、セッティング直後の音質に関しては
可もなく不可もなく、そして私の感動もなく…、動作確認ということで音を出して
みたという事で初日は終わりとして、エンハンサーCD-ROMを一晩リピートさせて
翌日からの試聴に臨もうということにしました。平野さん、ありがとうございました。

          -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

さて、上記のXLR:Yスプリッターは含めていませんが、今回の試聴システムは下記の通り。
こだわりのシステム構成でChordのアンプがお安く見えてしまうという恒例の検証
システムで、初日の音質は評価の対象外ということで二日目から試聴を開始したのです。

H.A.L.'s Sound Recipe / Chord Electronics Reference Range - inspection system
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210503180601.pdf

恒例の課題曲、マーラー交響曲第一番「巨人」第二楽章を聴き始めて…?
続いてヴォーカル曲も数曲聴いて…?

何か、こう…違う、というかきれいすぎる。つるつるした質感というか…、
別に嫌悪感を持つような音ではないのですが、何らかの情報がスポイルされて
いるのではないかと思い始めてしまったのです。これはいかがなものか…?

もしかしたら…、いや、わずかな、そんなポイントで情報量が変わるのか?
でも、取り敢えずはそこしか考えられないので実験してみることに。

上記のXLR:Yスプリッターを取り外し、バイアンプからシングルアンプへと切り替え、
通常の状態で聴き直すと…

「ほ〜、そういうことですか!」

プリアンプからパワーアンプへのインターコネクトケーブルを通常通り直結して、
再度入念に聴き直すと高域の情報量がわずかに違う。これは楽音の品位を貶める
ような極端な変化ではないのだが、楽音の鮮やかさというかプレゼンスのあり方が
微妙に異なることに気が付く。

これはHIRO Acousticという極めて敏感なスピーカーと私のこだわりの感性による
ものなので、一般の皆様はさして気にかけなくとも良いと思いますが、必要性が
あってXLR出力端子から二分配するという手段に要注意という教訓となりました。

その後に上記のシングルアンプのままで二種類のXLR:Yスプリッターを比較試聴して、
より変化の少ない方を選択するのに結構な時間を要して取り組みました。

普通の人だったら気が付かない気にしないレベルであっても、私のこだわりから
発生した疑いが再生音に感じられた場合、アンプの検証を行う以前の環境整備と
いうことで、より良好な状態で試聴すべく必要な作業であると思ったからです。

その結果、二種類のXLR:Yスプリッターのみを散々比べてみた結果、納得出来る
選択が出来ましたので以後の試聴は私が選んだ方で行うことにしました。
平野さんがお持ちになった方か私が用意した方かは今回は非公開としておきます。

この微妙な比較試聴に結構な時間と神経を使ってしまい、選択したスプリッターで
再度バーンインをやり直そうということでエンハンサーを更に一晩リピートする
ことにして、三日目に本格的な試聴を行っていく事にしたのです。

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H.A.L.'s One point impression!!-Playback Designs SPA-8
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1654.html

H.A.L.'s One point impression!!-Westminsterlab Rei & Quest
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1655.html

最近は上記のように新作アンプの試聴機会に恵まれ、Hi-End Audio Laboratoryと
いう概念から同社純正のプリとパワーアンプで聴くことの重要性を述べてきました。

「この私の心が揺さぶられるほどの感動で一目惚れした新製品とは何か!?」

そして、このような直感的に私の感性を刺激したアンプとの出会いに大きな喜びと
感動を長文にて語ってきたものですが、今回のChordに関しては未だに感動という
言葉を使っていない事からお分かりのように、まだ私の中では?だったのです。

タイムロード平野さんにお願いして、バイアンプでのセットアップを行いましたが
新品であるという事からバーンインが未熟であろうとの推測はあるものの、三日目の
試聴に臨むまで半信半疑の心境であり果たして声を大にして推薦できる音質なのかどうか、
一抹の不安を抱えて試聴室に入ったものでした。

ちなみに一般的にバイアンプと言えばステレオ2chのパワーアンプの一台には
スピーカー側の低域のL/Rchを、もう一台で中高域のL/Rchをという接続という
使い方を説明していますが、私の場合には一台のアンプのL/Rchにスピーカー側の
低域と中高域を接続し左右独立してのモノラル構成としてのバイアンプを推奨しています。

最初からモノラルパワーアンプの場合には関係ありませんが、この方が以前から
述べている音像と音場感に関して有利な面があると私は考えているからです。
そのセットアップ法が三日目で果たして真価を発揮するのかどうか…。

そんな心境で過大な期待はしないようにしようと何気なく、本当に何気なく恒例の
オーケストラをかけたのでした…。すると…

■マーラー交響曲第一番「巨人」第二楽章 小澤征爾/ボストン交響楽団

「おいおい! これじゃ全く別物じゃないか! 昨日までの音は何だったんだ!」

驚きと喜びが半々という私の内心の声です。これほど弦楽器が美しくしなやかで、
しかも演奏空間の透明感が感じられるとは何という事だろうか!

冒頭の弦楽五部のアルコによる重厚な合奏が始まった瞬間に楽音の鮮度が究極的に
高まっていることに驚いてしまいました!

昨日までの音に対して鮮度が高いという事は楽音の質感に自然さと情報量の
素晴らしさが表れているということと、空間を再現するプレゼンスが格段に
向上しているということ。

普段は感じない見えないもので、太陽光が斜めに室内にさし込んだ時、
その光線のさなかに室内の微量な塵がキラキラと輝きながら、ゆったりと
浮遊している光景を思い出してしまいました。

今まで気が付かなかった楽音全ての余韻感に光が当てられたかのように、ゆったりと
ステージの上空に漂うように響きの残滓が浮遊し残響のグラデーションを私の目の前に
描き出してくれたのですから思わず興奮し、これだ! と心中で叫んでいたのです!

私は常々オーディオシステムで聴くオーケストラの弦楽器の音像は面として感じると
述べてきましたが、その中身として総勢50名の弦楽奏者個々の音色が混在している事を
感じさせてくれる再生音が優秀なものだと述べてきました。

この時初めてUltimaPre2とUltima5のペアによって、私が求め目指している情景描写が
三日目にして表れてきたのです! 素晴らしい、これは実に素晴らしい!

そして、オーケストラで管楽器の音像は点として感じられるとも述べてきましたが、
太陽光線によって可視化出来るようになった木管楽器の音像が実に鮮明であり細かく
集束された点として認知され、キラキラと輝くが如くの例えのようにリードから
マウスピースから発せられた音の余韻感を際立たせながら空間に立ち昇って行くのです!

管弦楽の情景描写が鮮烈な変化を見せたかと思うと、キラキラと輝くのは打楽器の
特にトライアングルの微細な打音と余韻感としても表れており、バーンインの成果が
細かな高音の響きに実態感を与えた驚きに私は数舜の間に身体が固まってしまいました。

その興奮と感動から身体の硬直を解きほぐしてくれたのはステージ奥から響く
ティンパニーの引き締まった打音でした。HIRO Acousticは低音楽器の音像を
膨らませることはないのですが、その特性を当然の帰結とばかり肯定的に
響かせるUltimaPre2とUltima5の低域の駆動力に舌を巻いた驚きでした!

システム構成を見てお分かりのように電源ケーブルを除く全てにTa.Qu.To-Cableを
使用していますが、このケーブルの開発意図を忠実に再現してくれるアンプの登場に
私は本心から感激し感動してしまったのです!

しかも…、今回は私のこだわりからバイアンプとしていますが、現状で察知した
パフォーマンスの根本はシングルアンプでも到達可能と判断しました。

という事はプリとパワーで400万円です!
このプライスレンジでここまで私を感動させ納得させたアンプは初めてでしょう!

オーケストラという大編成にて昨日と全く違う素晴らしさを感じさせたくれた直後、
今度は正反対でサックスとピアノのデュオという小編成でシンプルな課題曲にて
三日目のUltimaPre2とUltima5をチェックしなければと選曲を進めていきました。

■UNCOMPRESSED WORLD VOL.1
http://accusticarts.de/audiophile/index_en.html
http://www.dynamicaudio.jp/file/100407/UncompressedWorldVol.1_booklet.pdf
TRACK NO. 3 TWO TREES / TRACK NO. 4 SAMBIENTA

「TWO TREES」とは美味いネーミングだと思います。サックスとピアノという二本の木が
細かい枝葉を大きく広げて青空を背景にして聳え立つイメージではありませんか。

そのタイトルのようにセンター左寄りの中空に浮かび上がったサックスの太い幹は
的確であり鮮明な音像を先ず提示します。そして枝葉の広がりのように絶大な残響を
空間に撒き散らしながら右側スピーカーの更に外側まで、いや左右音源の両翼まで
実に広大な音場感を描き出す素晴らしさ!

そしてセンター右寄りの空間に打鍵の一粒を点として見せつけ、その連携が鍵盤の
広がりを感じさせるように軽やかでありながら鮮明なトーンを展開するピアノ!

この打鍵の一音ずつに実に見事な残響成分をはらませた再生音はひとつの空間を作り、
ハンマーアクションのひとつずつが叩き出した鮮明な打音が立ち上がり消滅していく
過程の最中に新しい音が発生してくる響きの連鎖に私は美意識を感じてしまうのです!

これはプリアンプUltimaPre2の有する情報量の素晴らしさなのか、Ultima5にある
強靭な駆動力と解像度のなせる技なのか、これには誰しも答えることは出来ないだろう。

たった二人の演奏者が奏でる余韻の最後を堪能してしまうとストップは出来ない。
次のトラックで「SAMBIENTA」が始まってしまうのを私は心待ちにしてしまったから…。

最初は静かに高音の涼やかなパーカッションが聴こえるかどうかという弱音から
始まり、多種多様なパーカッションが空中を飛び交うように展開する導入部。

もう…既に、ここから違う! 前曲のオーケストラで太陽光線で浮かび上がった空中の
細かい塵の煌めきという例えを使ってしまったが、その比喩はこの曲でこそ相応しかった
のかもしれないと言うほどに鮮やかで鮮明なパーカッションが舞い踊る躍動感に痺れる!

特にスピーカーユニットが存在しない中空のある一点から叩き出された硬質な打音が
尾を引く彗星のようにスピーカーのはるか向こうに飛び去って行く描写が凄い!

シンセサイザーの重厚な低音が空間を埋め尽くす。この絶大なパワー感がまた凄い!
その低域を背景にしてセンターに浮かび上がるサックスの何と鮮明な事か。

これでもかと音階を下げたシンセサイザーの低音がHIRO Acousticのハイスピードな
ウーファーを揺さぶり、ぐっと床まで沈み込むような重厚な迫力を波動として私に
送りつけてくるとセンター奥ではスネアが刻むリズムが忠実に伝わってくる!

PCの小さいスピーカーでは望むべくもないが参考のために下記を紹介しておきます。
https://www.youtube.com/watch?v=anN49AO2LXY

大空間ホール録音のオーケストラ、たった二人の奏者が作り出す素晴らしい音場感の
スタジオ録音で先ずは三日目に大化けしたUltimaPre2とUltima5で次の選曲はどうするのか?

■やはりヴォーカルだろう! 大貫妙子 「pure acoustic」より7.「突然の贈りもの」
http://www.universal-music.co.jp/onuki-taeko/products/upcy-7097/

以前にも述べていますが、この「突然の贈りもの」はヴォーカル、ピアノ、
ベース、サックスという全てがセンター定位なのです。これがポイント。

そして、冒頭からの三分間はピアノ伴奏による大貫妙子のヴォーカルのみで、私が
聴きたいポイントである音像と音場感の関係を適切に評価し分析することが出来ます!

「突然の贈りもの」という歌のメロディーを先ずピアノが奏でる導入部。これだ!
既に違いが表れている事に予測が的中したことに半分安堵し半分驚喜する!

センター定位というとこじんまりした音像でピアノの音階が全部真ん中に集中して
孤立したかのようなイメージを持たれたとしたら大間違い。

センター定位でありながら立体感があり見事に空間に浮かぶ鍵盤のビジュアルが
HIRO Acousticの中央に浮かび上がってくる。そのリアルさが堪らない!

数フレーズのピアノに続き大貫妙子が同様にセンターに登場すると…。

「えっ、この音像サイズが凄い! チャーミングでコンパクト、見事なプロポーションだ!」

センター定位のヴォーカルが発散する余韻感は上下左右に展開していく。
これもピアノ同様にこじんまりした空間ではなく広大な空間に向けて清々しく響く。

オーケストラであれだけ美しい弦楽器を聴かせてくれたUltimaPre2とUltima5が
歌手に対して非礼を働くことはない。瑞々しく艶やかな歌声にうっとりする私…。

前曲のピアノとサックスによるサウンドステージの展開がここでも功を奏して
センター定位のヴォーカルにきっちりと定位を安定させ、左右スピーカーの中心点
から三次元的な広がりを見せる余韻感という情報量の重要さに凄みさえ感じる!

しっとりと入ってくるベースの低音には前曲で感じた大迫力のシンセサイザーの
低音に通じる重量感を持たせながら、輪郭を鮮明に再現する低音楽器として
シンセサイザーの連続音とは一線を画する引き締まった音像を造形する!参った!

四つ目の楽器としてセンターに浮かび上がるサックスの音色に私は得も言われぬ
透明感を察知していた。ヴォーカルの音像と同じ位置関係にありながら、双方ともに
一切の混濁はなく極めて鮮明な響きを軽々と実現してしまう力量はどこにあるのか!

「お〜、凄い! Ta.Qu.To-Cableの素晴らしさと相まって見事に集束した音像だ! 」

普段の試聴では目を見開いて音が発生する位置関係を観察しているという私は
視線を動かすことなく見事なセンター定位による録音の妙技に感動していた。

スタジオユースというプロの現場で高く評価されるChord Electronicsだからこそ、
スタジオワークで創造された音楽性を忠実に再現するのだろう。文句なしです!

日本製のヴォーカル録音ではマウスサイズは小さく表現される、これは以前からも
述べていた特徴だが、センター定位からの音場展開の物凄さを聴かせられてから
私は海外録音のヴォーカルでも検証したくなるのは当然と次の選曲に進む。

■Melody Gardot/Sunset in the Blue[SHM-CD]より1.If You Love Me
https://www.universal-music.co.jp/melody-gardot/products/uccm-1260/
https://www.universal-music.co.jp/melody-gardot/about/

スタジオ録音の音質的演出を施された弦楽器を私はストリングスと呼んでいる。
この曲のイントロはセンター左寄りから流れ出るようにして始まるストリングスで
幕を開けるのだが、そのストリングスを聴いた瞬間に私の体温は一度上がった!

左右スピーカーの間に目に見えないキャンバスがあるかのように、その面に貼り
付けられた平面的なストリングスではなく、ふ〜と空間に浮かぶストリングスが凄い!

これは浮遊感という曖昧なものではなく、弦楽器というモチーフを浮き彫りにしたような…、
そうステンシルのイメージだろうか。文字や図形の型紙の上からカラースプレーで
染料を吹き付けると対象物に文字や図形が描けるというあれです。

その型紙をステンシルプレートというのですが、本来は対象物の紙などに密着させ
カラースプレーを吹き付けて輪郭をしっかり描くようにするわけです。

しかし、私が思うにステンシルプレートを数ミリで良いので紙から浮かせた状態で
カラースプレーを吹き付けたとしたらどうでしょう。
この例えだったら想像がつくでしょうか?

UltimaPre2とUltima5のペアで聴いたスタジオ録音は、このテクニックと同じような
結果をもたらし、文字そのものの色はしっかりと吹き付けられているのですが、
数ミリ浮かせた事によって紙との隙間に絶妙な濃淡が作り出されるという印象です!

こんな巧妙なグラデーションによってストリングスは空中に漂うような存在感となり、
それが当然のことながらMelody Gardotのヴォーカルにも発揮されるという素晴らしさ!

カラースプレーが向けられた中心点から離れていくに従い色彩感は希薄になり、
楽音のグラデーションが空間に出現するという一芸がリアルさにつながっていく
という録音センスの巧さを再生音にしてくれるのがChordだったのです!

実に魅惑的な演奏にしばし我を忘れていると、おかわりがしたくなる。
もう一曲はこれにしよう! 9.From Paris With Love

軟らかいブラシでそっとリズムを刻むドラムの軽く明るい音を背景に、しっとりと
ストリングスが奏でられ、ヴォーカルの登場を予感させます。すると…

「あー! こんなに魅力的なMelody Gardotの歌声は聴いたことがないぞ!」

私は正直に言って今までに何度となく聴いてきたMelody Gardotのヴォーカルが
UltimaPre2とUltima5のコンビネーションでここまで妖艶であり蠱惑的な歌声に
変貌するとは想像もしていなかったのです! 参りました、これは堪らない!

仕事で聴く音楽はコンポーネントを分析するための試薬という感じだったのですが、
このヴォーカルに関しては無意識のうちに味わい楽しんでしまっていたのです!

From Paris With Love…、いいタイトルじゃありませんか!
もう一曲聴きたい、しかもパリから愛を込めてとくれば最後の一曲はこれだ!

■Hilary Hahn / PARIS
https://www.universal-music.co.jp/hilary-hahn/biography/
https://www.universal-music.co.jp/hilary-hahn/products/uccg-45003/

セルゲイ・プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲 第1番 ニ長調 作品19、
その第一楽章が始まった時…、ステージのセンターからHilary Hahnが表れる。

交響曲の録音とは違い協奏曲の録音ではソリストに独自の音像を与えるのが普通。
つまりシンフォニーにおける弦楽編成の真ん中にスペースを作り、そこにピアノや
ヴァイオリンのソリストの音像を配置させる。

この時、プロデューサーやアーチストのセンスによってソリストの音像サイズは
録音によって異なる。オーケストラのサイズに対して大きなピアノやヴァイオリンに
なってしまい、主役の尊重を音像サイズによってアピールしてくる録音も多いもの。

しかし、この録音のHilary Hahnは実にいいサイズの音像なのです!
これだけは言っておきたかったのです。…で、音質はどうだったのかって!?

いやいや…、もう語るものはありません。私は楽しんでしまったからです!

だって、お分かりでしょう…、弦をブランド名にしたChord Electronicsですから!

川又利明
担当:川又利明
TEL 03-3253-5555 FAX 03-3253-5556
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