発行元 株式会社ダイナミックオーディオ
〒101-0021 東京都千代田区外神田3-1-18
ダイナミックオーディオ5555
TEL 03-3253-5555 / FAX 03-3253-5556
H.A.L.担当 川又利明
    
2021年4月1日 No.1654
 H.A.L.'s One point impression!!-Playback Designs SPA-8

今回の試聴と執筆には大変多くの時間をかけて取り組みました。
証左として先ずHi-End Audio Laboratoryという概念から私は考え直してみました。

オーディオ専門店ですから当然扱い商品の販売が究極的な目的となりますが、
その前に扱い商品を研究するという発想を持っているということです。

それは結果的に対象商品を設計制作した作者よりも、同じ商品を作者が知らなかった
高いレベルで実演するという事が研究所として必要不可欠な要素であると考えています。

スピーカーメーカーの試聴室で鳴らされた音質よりも、アンプメーカーのラボで
聴かれる音質よりも、プレーヤーメーカーの実験室で聴く音質よりも、各々の製品の
製作者が知り得なかった音が同じ製品を当フロアーで演奏した時に実現出来ること。

オーディオコンポーネントの商品価値は音質によって判定されるべきであり、
その点において私には価格崇拝主義というものはありません。

良いものは価格にこだわらず認め紹介し推薦しているものです。
高価であれば全てに合格点を与えるということはありません。

それは私の独善的な判定、独断と偏見によるこだわりと評されれば、そのように
発言される人々に対しては言葉では何も反論せず、実体験として人々に提供する
研究成果の音質と感動をもって対応するのみです。

そして、研究成果は私が提供できるオーディオシステムによる音質ということに
なるわけですが、研究者としては論文をもって研究成果を発表し世に問うことが
必要であり、厳密な意味で論文型式という堅苦しい書き方はしませんがレビューと
して情報公開していることが私にとっての研究発表の機会であると言えます。

そして、文系の論文とは違い理系の論文においては、そこで述べられている実験
方法を忠実に第三者が試行したとしたら同じ結果が得られることで研究成果が
事実として認められるということになろうかと思います。

その点において私が当フロアーで出している音質を、そのまま場所を変えて手に
入れたいと要望される方には、ビジネスとして入念なプランニングのもとに然るべき
予算を伴いますが、実現可能であり研究成果と同じ音を提供することで証明可能です。

さて、ここで過去の随筆、第41話と第53話でハイエンドオーディオという言葉の
定義について、傅 信幸氏が実に上手く表現しているコメントがあるので紹介します。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/oto/

「ハイエンドオーディオ機器は確かに高価である。しかし、金ムクのパネルだから、
 ダイヤがボリュームに埋め込まれているから高価なのではない。
 そんなのはまやかしだ。

 ハイエンドオーディオの設計者は自分に忠実でうそがつけなくて、妥協すると
 いうことをあまり知らず、了見の狭いせいもあって没頭し、ただし一種の鋭い
 感は働いているが、その結果生まれてきたために高価になってしまうのである。」

「しかし、そうやって誕生した製品は、わかるユーザーを大変納得させる。
 ハイエンドオーディオの存在価値はそこにある。
 ユーザーは音楽とオーディオに情熱を注ぐ人である。

 そういうあなたと同じ思いをしている人たちの作った作品は、あなたの五感から
 更に第六感まで刺激するに違いない。それをハイエンドオーディオと呼ぶ。」

私は自分が目指しているもの、また第三者にハイエンドオーディオを説明する時にも
度々引用させて頂く名言であると思っているが、なぜこの段階で述べたかったのかと
言うと前述の私の研究目的と通ずるものであり、同時に数々のハイエンドオーディオと
呼ばれる製品に対する判定基準がここにあるからなのです。

音楽を愛する人たちが作り、音楽を愛する人たちが使用する道具として、
感動こそが最も重要な要素であり、その感動は個人の経験値によってレベルの
高低があり一様ではないということ。

そして、私の研究目的として私自身のレベルアップを元に研究対象製品の価値観を
高める努力と実演を行い、それによって体験者の経験値すなわち感動できる音質の
レベルアップも同時に行っているということです。

簡単に言えばハイエンドと呼ばれる製品の音質をユーザーが感動し納得できる
音質にて実演し、その価値観を販売前に啓蒙し理解して頂ける環境とノウハウを
備えていなければならないということになります。それが専門店の使命です。

このような思想を持っている私の元に今回持ち込まれたのがPlayback Designs SPA-8です。
http://naspecaudio.com/playback-designs-dream8/spa-8/
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210307184819.pdf

当フロアーのパワーアンプ用ステージには乗らないので床置きです。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210307161349.jpg

ボディーサイズと奥行きが解かりやすいように角度を変えてみました。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210307161358.jpg

サイズ感が解かるようにカメラを引いてスピーカーたちと比べるとこうです。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210307161340.jpg

上記ではディスプレーがパワーメーターモードでしたが通常は下記のように。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210310171440.jpg

確かに高価なアンプであり、サイズ重量ともに唸らせる威容がありますが、
私の経験値においては過去にこんなアンプもありました。

GOLDMUND TELOS 5000(2008年発売当時:税別¥38,000,000.)重量260Kg
下記は最新型なので参考まで。サイズと重量は変わらず。
https://goldmund.com/telos-5500-nextgen-power-amplifier/

1000万円以上のアンプは過去にも取り扱い経験は多数あるので、今回のSPA-8に
驚くという事はないのですが、だからこそ価格に見合う評価の仕方に関しては
以前よりも冷静かつ慎重にと思ってしまうものです。

なぜかという理由は同社での純正ペアとなるプリアンプが現在はないからです。

これまでにもメーカーの国内外を問わずパワーアンプの方が先に商品化され、
遅れてからプリアンプが作られるという事例を何度も経験してきました。

同社でのプリアンプがない状態で他社製プリアンプで試聴するという事は音質的には
混血状態であり、どうしてもプリアンプの個性が再生音に出てしまうというもので、
パワーアンプ単体での評価、そのメーカーの音質的指向性の見極めが出来ないからです。

そして、同社から純正ペアのプリアンプが一年以上の時間をかけて開発され、
それ以前に試聴した同じパワーアンプで聴いた時にこそ大きな感動があったという
思い出がいくつもあるという経験をしてきました。

それ故にSPA-8を現時点でどのように聴き評価するのか、今回は正直に言って
悩み続けた数日間がありました。

上記のようにプリアンプの存在なくしてパワーアンプの音質は語れない。
特定のプリアンプを固定しておき、SPA-8と他社パワーアンプを比較してみるのか?

いや、その方法ではプリとパワーアンプのマッチングの結果が音質変化として
表れるだけで、SPA-8の本性を聴き分けることは出来ないのではないか?

疑り深く、こだわりある私は主役であり検証しなければならないSPA-8の本領を
探り出すことは、前記の方法では推測ばかりが多くなりSPA-8の本質を探るには
困難ではないかと悩み続けていたのです。ではどうするのか…

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

私がリファレンスとしているHIRO Acousticは音楽を裸にする…と例えたように
大変に敏感なスピーカーであり、コンポーネントの違いも各種アクセサリーの
効果も怖いほど的確に引き出してしまうものです。

ここで私が日頃からお客様にアドバイスとして述べているポイントを披露します。

良いコンポーネント、優秀なスピーカーというものはシステム構成や環境に何らかの
変化を与えた場合に直ちに的確な音質変化として示してくれることが重要な要素です。

コンポーネントでもケーブルでも電源や各種アクセサリーでも、使い手が施した
何らかのアクションに対して的確に反応し変化してくれることで、オーナーが望む
音の方向性に対してマッチしているかどうかの判定基準を提示してくれる事が
優秀な製品という事であり、であるが故に使い手の好みという音質の方向性が
発見出来て正しい方向へ導いてくれるものなのです。

そこで私は次のような二種類の試聴システムを今回は採用することにしました。

H.A.L.'s Sound Recipe / Playback Designs SPA-8 inspection system Vol.1
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210307173517.pdf

H.A.L.'s Sound Recipe / Playback Designs SPA-8 inspection system Vol.2
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210321173028.pdf

このように当フロアーにある私が認めている二機種の優秀なプリアンプのみを
切り替えて、被験者であるSPA-8を固定しての比較試聴をすることにしたのです。

さて、このクラスのアンプだと、どうしても最大出力というパワーが気になって
しまうものですが、SPA-8の場合には1,600W×2(4Ω)800W×2(8Ω)となっています。

ここで今後の試聴評価に関わるエピソードとして下記の二つの経験談を紹介して
おきたいと思いました。先ずはこれ…

「聞きしに勝る音CH Precision M1が鳴らすHIRO Acousticの快感!!」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1208.html

上記のレビューから私が述べたかった事例を要約すると下記の画像となります。
http://www.dynamicaudio.jp/file/20150415-chm1.06.jpg

この時代ではまだシングルウーファーのMODEL-CCS Improvedだったわけですが、
私の選曲で私が求める音量で鳴らした際の最大出力が1,310Wにも及んだというもの。

次は下記のレビューですが、私の長文を読むのは大変でしょうから、ポイントに
なる要素だけを要約して紹介します。

H.A.L.'s One point impression!! - Very Exciting Sound by HIRO Acoustic and Accuphase
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1482.html

この時代ではダブルウーファーのMODEL-CCCSとなっていて、オールAccuphaseで
マルチアンプ駆動した際のエピソードです。下記に要約していきますと…
http://www.dynamicaudio.jp/file/2018.06.25.02.jpg

HIRO Acousticは各モデルのクロスオーバー周波数は非公開としていので、
Accuphase DF-65にプリセットされているクロスオーバー周波数から、
自社製クロスオーバーネットワークMODEL-CCX Improvedとの近似値を選択し、
下記のクロスオーバー周波数として再生したという条件です。

■ウーファー・ローバス・カットオフ周波数  355Hz - 18dB/oct

■ミッドレンジ・ハイパス・カットオフ周波数  400Hz - 18dB/oct

■ミッドレンジ・ローバス・カットオフ周波数  3150Hz - 18dB/oct

■トゥイーター・ハイパス・カットオフ周波数  3550Hz - 18dB/oct

この基本設定のもとで特定の課題曲を私が求める限界的な音量で鳴らしてみて、
マルチアンプシステムで各々のアンプが一個のスピーカーユニットに対して、
どんなパワーを送りこんでいるのかに興味を持ち、8台のアンプのパワーメーターに
ピークホールドを設定して実際の出力を可視化してみたのです。すると…。

A-250は40ポイントのバーグラフの他に五桁のデジタル表示にて数値化したパワーを
ピークホールドさせてみると、なんと! トゥイーター一個に対して瞬間最大で526W。
同様にミッドレンジには465Wというパワーを送り込んでいたということが解かりました。

M-6200のメーターはレッドゾーンの中間で静止しており、7オームのウーファーで
換算するとピークでは300W以上が出力されていたことになり、ダブルウーファー
なので合計では600W以上でドライブしていたことになります。

これら3ウエイ合計で大よそ1,600Wということになりますが、求める低域の音圧と
いうことを重要視しなければシングルウーファーに換算して低域は約300W程度と
考えても良いでしょう。

そうすると前記のCH Precision M1が表示したパワーとほぼ同じと想定されます。

大まかな構成比ではトゥイーターで約40%、ミッドレンジで35%、ウーファーで
約25%というパワー配分となります。ウーファーよりトゥイーターの方が大きな
パワーで鳴っていたという事で皆様からすれば意外だったのではないでしょうか。

ただし、これらは課題曲によって演奏楽器の周波数帯域によっても違うものとなり、
更にトゥイーターやミッドレンジは電圧駆動という概念で良いのですが、
ウーファーは電流駆動として正確な波形再生には大きな電流が必要になる瞬間も
ありますのでパワーアンプ搭載のメーターに関しては、あくまでも概算値である
という事も述べておかなくてはならないと思います。

それに私が鳴らした実験的大音量ということもありますので、あくまでも事例の
ひとつであるというものです。良い環境あってのハイパワードライブというものです。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1647.html

ちなみに課題曲における瞬発力と迫力のある特定演奏個所でのピークですから、
のべつ幕なしの大音量として再生音のすべてにおいての平均出力では決してあり
ませんので、誤解なきように追記しておきます。

このようにスピーカーシステムのクロスオーバーネットワークを通じて鳴らした場合でも、
マルチアンプ駆動でスピーカーユニットとアンプを直結して鳴らした場合でも、
パワーアンプのカタログに表記される最大出力というスペックに対して、実際には
瞬間的に上記のようなパワー配分がされているということを述べておきたかったのです。

人間の聴覚は瞬間的な打楽器のような楽音では音圧が大きくてもストレスなく
聴いてしまうものですが、連続音ですと低音量でもうるさく感じられてしまう
という特性がありますので、ダイナミックな選曲での瞬間最大出力であるという
ことでご理解頂けますように追記致します。

そして、巨大な躯体と大出力パワーを誇るアンプを検証していく際に、上記のような
経験則を元に個性の違う他社パワーアンプと比較するのではなく、プリアンプを
交換することでSPA-8の優秀さをスペックだけでなく、どのような音質変化として
表現してくれるのかという着目点において冷静に試聴評価をしたという前置きでした。

優秀なパワーアンプであればあるほど、その自己主張によってプリアンプの個性が
埋没してしまうことなく、しっかりとパートナーの魅力を引き出してくれなくては
ならないと私は考えています。

どんなに優秀なプリアンプにつなぎ替えても我関せずで変化せずというのは、
あくの強い我が儘で鈍感なパワーアンプであり、むしろ無色透明であり他者の
カラーを引き出してくれる素直さと存在感の方が将来性があるというものです。

それはコンポーネントとして無個性という言葉で置き換えるのではなく、現時点で
正確な評価をするために必要な事だと思うからです。ここで再度述べますが…

なぜかという理由は同社での純正ペアとなるプリアンプが現在はないからです。

デジタルプレーヤーという分野からアナログアンプへ進出したPlayback Designsが
目指した音とは、あくまでも同社プリアンプとのペアリングによって評価される
べきであり、現時点で私が出来ることはパワーアンプの素性を探るというレベルで
あることを述べておきたいと思います。

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

さて、大分長い前置きになってしまいましたが、SPA-8のMUTEスイッチをオンオフし、
プリアンプの切り替えをする度に歩き回り、納得いくまで比較するという作業には
歩数計で計りたいくらいの労力で多くの時間を使ってしまいました。

以降はESOTERIC Grandioso C1XはESOTERIC、Vitus Audio SL-102はVitus Audioと
ブランド名だけで表記します。

先ず最初にPlayback Designs SPA-8が文字通りのハイパワーであることを前提として、
瞬間的な大出力再生という局面だけではなく微小信号の再現性という事を探っていこう
として、その端的な判定要素として毎度自説として述べている凝縮した音像と広大な
音場感という私の聴き方というか着目点を確認したく最初に選曲したのがこれ。

Kirkelig Kulturverksted(KKV)はノルウェーの会社兼レコードレーベルで、
これまでに何回も紹介してきました。
http://www.kkv.no/

Kirkelig Kulturverksted  30 years’ fidelity
http://kkv.no/en/musikk/utgivelser/2000-2009/2004/divers/

上記のアルバムから恒例となってしまった次の二曲でESOTERICとVitus Audioを
比較することからスタートしました。

教会で録音した広大な音場感を伴うコーラスとスタジオ録音された鮮明なヴォーカルという、
対照的な空間表現が絡み合う私の欠かせない課題曲のひとつです。

7.Som En Storm, O Hellig And - Ole Paus & Oslo Chamber Choir
https://www.youtube.com/watch?v=9CJBropx7SE

10.Mitt Hjerte Alltid Vanker - SKRUK / Rim Banna
https://www.youtube.com/watch?v=42fIQbjp3bY

広角レンズで捉えたような背後の壮麗な合唱と、歌手の表情をジャストフォーカスの
望遠レンズで鮮明に捉えた音像の双方ともにアンプの情報量によってリアルさが
再現されるかどうか、両プリアンプから送りこまれた情報量をSPA-8がスピーカーに
どのように伝えるのかに注目して比較してみました。

7.Som En Stormでは冒頭から混声合唱が背景を構成し、ギターとベースに続いて
オンマイクでノンリバーブで録られたOle Pausの渋いヴォイスがセンターに浮かびます。

中央奥にサックスが登場すると、オルガンと共にゆったりとした余韻感を拡散し、
残響がほぼないヴォイスを包み込むように展開していきます。

そして、最後には再度合唱のみとなりスタジオ録音の伴奏楽器と奥行き感の対比を
美しく飾りながら幕を閉じるという演奏。

反対に10.Mitt Hjerte Alltid Vankerでは冒頭から一分間はRim Bannaのソロヴォーカルが
センターに定位しますが、これには絶妙なリバーブがかかり余韻感を空間に広げていきます。

その後にコーラスグループSKRUKが壮大なサウンドステージとして登場し、
パーカッションとピアノを空間に織り交ぜながら展開する美しい音場感が魅力の一曲。

二社のプリアンプにおいて早速表れた個性の違いは最初から感じ取っているのだが、
その特徴と魅力をSPA-8での最大公約数としてどのように表現したら良いのか、
うかつなことは言えないと慎重になった私はセンター定位の音像と背後の伴奏楽器の
関連性を探るために最近課題曲に上げている次のスタジオ録音も続けて聴くことにした。

■Melody Gardot/Sunset in the Blue[SHM-CD]より1.If You Love Me
https://www.universal-music.co.jp/melody-gardot/products/uccm-1260/
https://www.universal-music.co.jp/melody-gardot/about/

クラシック音楽などのホール録音では弦楽器、スタジオ録音で演出を加えた音質では
ストリングスと呼び分けている私ですが、イントロでの美しいストリングスで始まる一曲。

このストリングスにおいても早々に二社のプリアンプの個性が浮き彫りになってくる。
抜群の解像度でイコライジングの旨味を直ちに聴かせるESOTERIC、しっとりとして
濃厚な群像としてのストリングスを描き出すVitus Audioと両者ともに文句名無し!

そして、暗いステージの真ん中に颯爽とスポットライトが当てられ歌い始める
Melody Gardotのヴォーカルがセンターに表れる。いい、ぞくっとする!

■輸入元によるPlayback Designs SPA-8日本語公式ファイルは下記。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210307184819.pdf

センター定位のヴォーカルで音像を観察し、伴奏楽器とコーラスの展開により
音場感を読み取り、二社のプリアンプにおいて感じられた特徴が次第にSPA-8を
語る最大公約数として極めて高精度な情報量を有するアンプとして見えてきた!

パワーアンプにおいての情報量という事では入力から電力増幅する出力段に至る前段、
いわゆる電圧増幅段の重要性がキーポイントと言えます。

多岐に渡るSPA-8の技術的こだわりは資料の通りですが、ディスクリート構成の
Class-Aで動作する入力段及び電圧増幅段を経てClass-Aプリ・ドライバー段及び
ドライバー段を構成しているというこだわり。

CD/SACDプレーヤーにおいてもA/D変換後の出力段には当然アナログ回路が存在して
いるわけですが、Playback Designsが成し遂げたディスクプレーヤーのパフォーマンスに
おいて同様な電圧伝送する回路構成が上記のパワーアンプにおける前段です。

スピーカーを駆動するエネルギー源をどうするか、という事では少数の増幅素子で
ハイスピード、広帯域伝送を優先させたGOLDMUNDやFM Acousticsのようなスイス製
アンプとは対照的なハイパワーアンプの設計法ですが、出力段は物量投入した多数
並列の増幅素子で大出力を確保するという設計法はKRELLやMarkLevinsonなどの
アメリカを代表するブランドのアンプでは以前から行われていたこと。

大出力時の音質は後述するとして余韻感や音場感というプレゼンスに関わる情報量が
二社のプリアンプいずれにおいても大変に豊かであり、文句なしの再現性として三曲
のヴォーカル曲を比較することが出来た。

その中でプリアンプの個性をどのように引き立たせてくれるのか、という着目点に
関しては特に音像サイズにおいてESOTERICによる濃密であり凝縮されたヴォーカルが
印象的であり、それは同時に伴奏楽器のすべてに対しても言えることと確認された。

各楽音の放つ残響成分をSPA-8は忠実に再現しているという第一のハードルがクリア
されたという納得の試聴が出来た。更に器楽曲でも追求してたみたくなり直ちに次の選曲!

■UNCOMPRESSED WORLD VOL.1 よりTRACK NO. 3 TWO TREES
http://accusticarts.de/audiophile/index_en.html
http://www.dynamicaudio.jp/file/100407/UncompressedWorldVol.1_booklet.pdf

サックスとピアノによるデュオの録音でスタジオ録音にてECMのような広大な音場感を
有する課題曲として多用している一曲。

濃密濃厚な音像をVitus Audioは響かせ、微小信号の一粒さえ余すことなく引き出す
ESOTERICの素晴らしいスケール感によるサウンドステージの提示と納得の対比だ。

■Dominic Miller / Absinthe (CD)よりタイトル曲1.Absinthe
https://dominicmiller.com/product/absinthe-cd/
https://www.youtube.com/watch?v=sY6aQy0MJ7k

冒頭のDominic Millerのギターから始まるECM本家の素晴らしい音場感は両者同様に、
各パートの楽音をぎゅっと絞り込んだ音像提示はESOTERICの得意とするところ。

対してVitus Audioは個々の楽音に密度感の高い肉厚な音像を造形し、今まで何度と
なくフルESOTERICで聴いてきた印象に異なるテイストを引き出している。

私の頭の中では次第にSPA-8での最大公約数として語りたい特徴が次第に形になりつつ、
その仕上げとして近年欠かせない課題曲としてきたチェロの質感で確認することに…

■Espace 溝口 肇 best 
http://www.archcello.com/disc.html
http://mizoguchi.mystrikingly.com/

最初にチェロが最も遠くに位置し音像も小ぶりに再現される「10.Offset Of Love」を
期待のうちに聴き始めた。ESOTERICでは想像通りというか過去に聴いてきた印象が
そのままストレートにSPA-8によって再現される事を確認する。

Vitus Audioでの印象も前曲までの比較で察知してきたイメージ通りに展開し、
チェロと伴奏楽器全てにわずかな弛緩を与え緊張感を解きほぐすような音色となる。

「2.世界の車窓から」の冒頭でのキックドラムの質感の変化には驚く!

この打楽器のテンションの変化は両社のプリアンプの個性が大きく反映された
ものであり、私はこの数秒間のキックドラムを聴いて次に何をすべきかひらめいた!

「1.Espace」でのソロで演奏されるチェロの音像の変化と振る舞いを聴き取りつつ、
Vitus Audioの魅力をSPA-8は確実に音にしていると実感が深まる。

そして、前曲のキックドラムで、はっと気が付いたチェックポイントが見つかり、
これも今後の選曲にて確認してみようという好奇心と意欲が盛り上がってきた
ことに胸を熱くする!

今後の選曲で追求していく両社プリアンプの個性がいかに発揮されたか、それを
もって逆説的にSPA-8の存在感を探っていこうという段階で、これまでのチェック
ポイントを再確認する意味で今までにないダイナミックな次の課題曲で確認する。

■FIFTY SHADES OF GREY ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK
  3.THE WEEKEND / EARNED IT(TRADUCIDA EN ESPANOL)
http://www.universal-music.co.jp/p/UICU-1262

ESOTERICで聴くSPA-8は一定の共通項を持っていたのか、以前にGrandioso M1で
聴いてきた印象に通ずるところがあり、この曲の洪水のように溢れ出る低音の
響きに適度なブレーキをかけるように制動しているという印象が感じられる。

逆にVitus Audioではずっしりとした低音を抑制することなく豪快に響かせる。

それは前曲のチェロの質感でも感じていたことだが、楽音に肉付きを与える要素が
あるようで、このポイントが後述する打楽器とオーケストラの対比においても
共通項となる要素があることに少しずつ気が付き始める。いいですね〜SPA-8。

最初のKKVによる残響の多い教会での録音という点を除けばスタジオ録音での
聞き慣れた課題曲で比較していくうちに、両社のプリアンプでの違いをSPA-8が
どのように聴かせ、同時に両社とのペアリングにおいて見えてきた最大公約数的な
要素はなんだろうかと頭の中で言葉に置き換える作業が進行していった!

先ず音像サイズに関して、この段階で述べておくとESOTERICの方が凝縮し小ぶりな
音像を提示する事が解かる。

これは全ての課題曲においてもSPA-8の能力としてパワーアンプにおいて音像を
膨らませるという作用はなく、ソースコンポーネントとプリアンプにて制御された
音像サイズを忠実に引き出すということ。これはいい!

しかし、Vitus Audioの音像表現が私にとって不満を残すものかというと、決して
そんな幼稚なプリアンプではなく、あくまでも両者の比較の上での特徴と言えるが、
ESOTERICの音像の凝縮感を際立たせる要素として、極めて滞空時間の長い余韻感を
伴っているという点に対し、Vitus Audioの方が残響の着地点が近く短時間となって
いるという傾向に置き換えて指摘しておきたい。

逆にVitus Audioが聴かせる楽音の音色に独特な肉付き感というか、再生音全体の
温度感を微妙に高めるような暖色感があり、この特徴もプリアンプの個性によって
SPA-8の中立性として巧妙な音のメークアップとして美意識を有していると実感する。

音楽を裸にするスピーカーとしてHIRO AcousticはSPA-8が送りこんでくるパワーを
忠実な再現性として比較して聴かせてくれたのだが、前述してきた途中経過で感じ
とってきた両社プリアンプによる比較において私が察知していた要素をもっと
確実に引き出していこうと次の選曲に進んでいった。

■Flim & The BB's / Tricycle (DMP) 1.Tricycle
https://www.discogs.com/ja/Flim-The-BBs-Tricycle/release/6194802
https://www.discogs.com/ja/Flim-The-BBs-Tricycle/master/484773

■HELGE LIEN / SPIRAL CIRCLE   7. Take Five
http://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245411462

前述にて私の経験したエピソードで1,300Wを超える大出力で3ウエイスピーカーの
各ユニットに対するパワー配分の件、そして増幅素子数において一部のスイス製
アンプに見られる最小限のデバイス数で高出力を求めるということと、一部の
アメリカ製アンプに見られる物量投入型で多数並列の増幅素子で大電力を生み出す
という事例を述べましたが、この二曲では正に大出力時のパワーハンドリングに
関してチェックしようというのが狙いです。

SPA-8は出力素子にThermal TRAK出力トランジスタを採用。これはバイポーラ・
トランジスタと温度検出用ダイオードを一つにした5ピンのデバイス。

この独創的な増幅素子をどのように運用するかというバイアス電流に関しても、
SPA-8ではディスクリート・バイアス・ジェネレーターと称してThermal TRAK出力
トランジスタに対してバイアスを一瞬のうちに調整するハイスピード・リアル
タイム・バイアス調整回路を開発。インピーダンスも低く抑え常にバイアスを
最適な状態に保ち、使用状況に応じて歪みを最小限に抑える新機構を実現した。

更に47,000μFの平滑コンデンサ×6と、特別に電磁シールド処理された巨大な
1800VAトロイダルトランス×2を搭載した超強力な電源部を搭載している。

本体重量137Kgというのは不摂生による肥満ではなく、開発者の妥協なき思想を
そのまま反映させた筋力の塊というものであり、ただマッチョであればいいと
いう事ではなく、その強靭な筋力は鋭敏な反射神経も備えているという。
そこを引き出すための大出力時の課題曲だったのです。

この両曲共に使い慣れた課題曲ですが、両社プリアンプにおいて私が設定した
ボリューム位置は今までの最大値。空気を揺さぶるキックドラム、はじけ飛ぶタム、
輝く振動にきらめくシンバルと大迫力の打楽器が炸裂する比較試聴です!

これはですね〜、結論から言うと圧倒的にESOTERICがいい!いや、失礼!
ESOTERICを使ってのSPA-8におけるパワーハンドリングの素晴らしさでした!

今まで音像の絞り込みとテンションの引き締まりという言葉でスタジオ録音の
多数の課題曲を試してきましたが、この曲ほどに両社プリアンプの個性が歴然と
表れたものはありませんでした。

音像の凝縮感とは打楽器においてインパクトの瞬間をどう捉えるか、キックドラムの
ように低音打楽器のエネルギー感にどうブレーキをかけて制動するか、ハイパワー
ドライブの圧倒的迫力を精密にコントロールしているという実感に感動しました!

私が求めた音量では瞬間的に1,000Wは軽く超えているパワーであると言える
この選曲においてはVitus Audioを弁護して、こんな魅力もあるのではという
言葉は虚しくなってしまうほどに痛快なESOTERICとのコンビネーションにSPA-8の
威力が発揮されていたのです!

ところが…、Playback Designsが求めた完成度とは何か、最後の選曲は
定番のオーケストラにて全く異なる局面を展開することになってくるのです!

■マーラー交響曲第一番「巨人」第二楽章 小澤征爾/ボストン交響楽団

冒頭で述べたように今回のSPA-8の試聴は同社のプリアンプがないので、いわば
混血の再生音となることを覚悟の上で取り組んだというものでした。

このマーラーの定番課題曲を二社のプリアンプで聴き比べましたが、前述の音像
サイズの捉え方という視点に関してはESOTERICの方が小ぶりの表現ということは
管楽器の質感、弦楽五部の各パートにおける分解能の素晴らしさということで
引き立った要素がありましたが、Vitus Audioでの温度感というか、しなやかであり
たおやかな音色に交換が持てるという両者ともに評価ポイントが分かれ同点としか
言いようのない安定感だったのです。しかし、驚くべきことに…

■マーラー:交響曲第五番 嬰ハ短調
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮) ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団
http://www.kinginternational.co.jp/classics/hmm-905285/
http://www.kinginternational.co.jp/classics/kkc-5842/
https://www.ongakunotomo.co.jp/m_square/readers_choice_total/index.html

この曲をご存知の方だったらピンとくる第一楽章冒頭でステージ上手の奥深い
位置から響き渡るトランペット。オーケストラと録音によって色々な特徴が
表れる金管楽器の聴かせどころだと思います。ESOTERICで先に聴きました…

上記では以前にGrandioso M1で聴いてきた印象に通ずるところがありと述べている
一節がありましたが、ESOTERICで聴き始めた時には同様な印象で驚きはなかったのです。

むしろ今までに聴いてきたフルESOTERICによる解像度の素晴らしさと楽音の質感に
共通項を感じ取り、この楽章の締めくくりとなる再度の弦楽のピッチカートまで
安心感をもって聴き続けてしまいました。そして、Vitus Audioに切り替えると!

「えっ! なに! こんなトランペット今まで一度も聴いたことないぞ!」

白いパレットに絵具を思いつくままに絞り出し、何の予備知識もない子供でも
原色同士を混ぜ合わせると、こんな色になるんだと自然に学んでいくものですが、
私の今までの経験の中でも突然変異と言っては問題かもしれませんが、Vitus Audioに
切り替えた瞬間に響き始めたトランペットを聴いて絶句してしまいました!

その衝撃的な初体験の管楽器の質感には芳醇で滑らかな響きが音像の鮮明さと
同時に感じ取ることができ、決して楽音を曖昧にしてぼやけさせた色合いという
ものではなく、当然一流の演奏者が吹いているのでしょうが楽器そのものが
替わったのではないかと思わせるほどの変化なのです!

ただ質感が変わったというだけではなく、その変化が妖艶であり美しさを感じ、
未体験の音色は正にパレットの上で起こった予想外の発色というものでしょう。
そして、その偶然にも混ぜ合わせて出来上がった色の何とも美しいこと!

冒頭のトランペットの激変に圧倒され、その影響力が続く弦楽器の質感にも表れ、
想定外の美意識に襲われた私は微動だすら出来ず最後まで聴き続けてしまいました!

いや〜、驚きました! Vitus AudioとSPA-8によるオーケストラにこんな可能性が
あったとは予想もしていませんでした! 最後のピッチカートの音色! あ〜堪らない!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

長時間に渡る試聴を追えて私の結論は簡単な一言で言い表す事が出来ます。

Playback Designs SPA-8は未だに未完成であると…。

どういう意味かというと前述したようにハイエンドオーディオのこだわりからして、
設計者としては妥協なきアンプを作り出したという自信はあるでしょう。

しかし、現時点では彼らの手になるプリアンプがない以上は血統がつながった音と
いうものを私たちは感じ取ることはできないのです。

それはなぜかというと、今まで述べてきたようにプリアンプの変更によって
これほどに変化量が大きいということはパワーアンプとしての中立性を語るものであり、
その能力の高さは正にゲインのあるケーブルという表現に当たるものだと思います。

単体で見ればSPA-8の優秀さは私が試聴を始めた当初より感じていたものでした。

しかし、ハイエンドオーディオ作品としての音質の完成はパートナーとなるプリ
アンプの登場を待ってということになろうかと思います。

その将来性に対する期待感と信頼性をこめて皆様がSPA-8を自身の耳と感性で体験し
見極めたいという方は私にご相談頂ければと思います。これは始まりなのですから!

川又利明
担当:川又利明
TEL 03-3253-5555 FAX 03-3253-5556
kawamata@dynamicaudio.jp

お店の場所はココです。お気軽に遊びに来てください!


戻る