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H.A.L.担当 川又利明
    
2021年2月1日 No.1647
 H.A.L.'s Hidden Story!! - 日本音響エンジニアリングHybrid-ANKH

思えばHi-End Audio LaboratoryとしてH.A.L.をスタートさせたのは1992年でした。
早いもので来年で30周年となります。これも皆様のお蔭と感謝あるのみです。

当時は現在の隣にあるビルの旧店舗の7Fを改装して出来る限りの環境作りを
しましたが、現在と比べれば雲泥の差という印象を免れないものでしょう。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/lhs1.html

そして、忘れもしない2001年8月1日に現在の5555がオープンしました。
ちょうど良い画像がないのですが、下記は今となっては貴重な写真でしょうか。
当時はQRDを天井と壁面に採用していました。
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/pho/010803/hal1.jpg

その後のH.A.L.におけるルームチューニングの歴史は下記をご覧下さい。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1602.html

その集大成として現在に至る日本音響エンジニアリングHybrid ANKHの
全面採用となりました。その詳細は下記にてご覧下さい。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1635.html

更に同社の技術ニュースNo.51にも下記のように掲載されました。
「Acoustic Grove System新製品Hybrid ANKHの紹介」
https://www.dynamicaudio.jp/s/20201228163355.pdf

さて、そもそもHybrid-ANKHとは何か? を私なりに解説させて頂こうと思いますが、
その原点は同社のAGS(SYLVAN・ANKH)であり詳細は下記をご覧頂ければと思います。
https://www.noe.co.jp/business/own-products/ags/
下記はAGS開発に関する関連サイト
https://www.noe.co.jp/technology/27/27news1.html

商品化されているのはSYLVANと各ANKHシリーズですが、同社のSound Laboratoryや
本格的なスタジオに設置されている業務用AGSの柱状拡散体の単位となる一本の
柱で最も太いものは直径約30センチ以上にも及ぶものもありますが、市販品の
ANKHに採用されているものは三種類の太さになっています。

一例としてANKH-I(フラット型)では柱状拡散体各々の太さは約30ミリが9本、
約50ミリが6本、約60ミリが4本で合計19本となっています。
同型Hybrid ANKHでは約50ミリ6本と約60ミリ4本を吸音体が包み込んでいるものです。

ちなみにANKH-II(コーナー型)では太さは約30ミリが9本、約50ミリが5本、約60ミリが
4本とコーナー直角部では直径100ミリ以上の太い円柱を1/4縦割りしたものが1本配置
されており合計19本となっています。同型Hybrid ANKHでは同様に太さ約30ミリ9本を
除いたものが吸音体に包み込まれているものです。

同社では各柱状拡散体の太さや材質、Hybrid ANKHの吸音材の材質と分量などは
企業秘密として非公開となっており私もその点については触れることが出来ません。

それらとは逆に同社が既に公開している資料がありますので、Hybrid ANKHとは
何かということを簡単にご理解頂くためにまず最初に下記をご覧頂ければと思います。

Acoustic Grove System ナチュラルで心地よい音場を実現するルームチューニング機構
https://www.noe.co.jp/technology/27/27news1.html

■上記より抜粋-AGS吸音特性
https://www.dynamicaudio.jp/s/20201228160456.pdf

このグラフの縦軸「残響室法吸音率」とは何かを簡単に理解して頂くために下記の
残響室についてをちらっとだけ見て下さい。
https://www.noe.co.jp/technology/13/13ane1.html

そして上記の残響室に測定対象として入れてみる物体に関しての吸音率の解説です。
https://www.jstage.jst.go.jp/pub/pdfpreview/jasj/68/12_68_KJ00008426315.jpg

さて、ここで上記の残響室についてで“6.残響時間と吸音について”に下記の一節があります。

「残響室は一般的にコンクリートで作られています。このコンクリートの吸音性能(吸音率)は3%程度です」

俗にいうコンクリート打ちっぱなしということで、よくモダンな建築で内装仕上げを
しない状態をイメージして頂ければ良いと思います。話し声が響き渡り物を落としても
床に当たった音が鮮明に聴こえるような状態というものです。

ここで上記のAGS吸音特性のグラフを再度ご覧下さい。縦軸において3%すなわち
0.03というポイントで吸音率が如何に低いかをイメージして頂けると思います。

そこでAGSの吸音特性に関しての評価の在り方は各周波数帯域でほぼ均一な吸音特性で
あるということが重要なことなのです。そう、特定周波数のみを吸音しないということです。

上記のAGS吸音特性のグラフは「吸音特性を容易に制御可能」と同じ題名の三種がありますが、
吸音材の組み合わせによりフラットな吸音特性が可能であるということがHybrid ANKHの
開発目的ということになります。

前述の事例でコンクリート打ちっぱなしの空間にANKHを置いたとしたら、グラフの
赤い折れ線で示された吸音率だけでは、その空間の残響時間の制御は困難と言えます。

では日本音響エンジニアリングはここでANKHを設置する空間の音響特性において、
AGSそのものは万能ではないということを暗に認めているのではないか? という
疑問点を持たれる方もいらっしゃると思いますが、それは近視眼的な見方という
ことになるものです。

なぜなら同社は音響設計の一要素として音波の拡散に主眼を置いてAGSを開発しましたが、
彼らの音響設計においては吸音効果をAGS以外の吸音材料にて施すということを必然として
取り入れているものであり、優秀な音響空間は拡散効果だけでは得られないということを
百も承知の上で実績を作り上げてきたわけです。

つまり、まとめとしては同社が設計する室内音響の吸音効果をAGSに追加したと
いうものであり、同社が目指した音響特性の改善を置くだけで実現できるものとして
Hybrid ANKHが誕生したという事なのです。

さて、Hybrid ANKHの吸音特性とはいかなるものか、同社でも測定をしているのですが、
その効果を示すグラフは企業秘密として非公開とされていますが、上記のAGS吸音特性の
グラフの数値を下記にお教えしますので皆様の頭の中で折れ線を当てはめて頂ければと思います。

ただし、下記の数値は私の主観によるグラフからの読み取り値です。また、ここでの
AGSとは商品のSYLVANと各ANKHシリーズという特定はなく同社が開発したAGSの検体で
あるということを追記しておきます。あくまでも参考値としてご理解下さい。

AGS吸音特性参照
https://www.dynamicaudio.jp/s/20201228160456.pdf

上記AGS吸音特性にて赤い折れ線の吸音率 :  Hybrid ANKH-I(フラットタイプ)の吸音率

周波数125Hzにおいて→    [0.29]  :    [0.16]

周波数250Hzにおいて→    [0.25]  :    [0.30]

周波数500Hzにおいて→    [0.26]  :    [0.74]

周波数1000Hzにおいて→    [0.23]  :    [0.69]

周波数2000Hzにおいて→    [0.18]  :    [0.68]

周波数4000Hzにおいて→    [0.13]  :    [0.55]

周波数8000Hzにおいて→    [----]  :    [0.56]

更に参考として次のデータも解説のために引用しますが*吸音力となっている点に
ご注意下さい。これはフラットタイプと違い音波に接する面積比が異なるためです。

上記AGS吸音特性にて赤い折れ線の吸音率 :  Hybrid ANKH-II(コーナータイプ)の*吸音力

周波数125Hzにおいて→    [0.29]  :    [0.18]

周波数250Hzにおいて→    [0.25]  :    [0.57]

周波数500Hzにおいて→    [0.26]  :    [0.74]

周波数1000Hzにおいて→    [0.23]  :    [0.72]

周波数2000Hzにおいて→    [0.18]  :    [0.52]

周波数4000Hzにおいて→    [0.13]  :    [0.40]

周波数8000Hzにおいて→    [----]  :    [0.54]

いかがでしょうか? 皆様の頭の中で新しい折れ線グラフがイメージされれば何よりです。

数値が大きいほど吸音効果が大きいということになりますが、Hybrid ANKH-Iでは
低音楽器のボリューム感が大きくなる250Hzから500Hzにかけて吸音率を高めていますが、
逆に4000Hzから8000Hzにかけては吸音率を横ばいとして楽音の響きを取り過ぎないよう
配慮されていることが分かります。

また、Hybrid ANKH-IIでは250Hzから吸音力を引き上げ1000Hzまで継続させており、
4000Hzから8000Hzにかけては吸音力を減じる方向性があることが分かります。
これも音楽成分の主たる帯域で響きを保存する意図をもって設計されたということです。

ちなみに125HzにおけるAGS吸音特性に関しては前述のように業務用の設計として
直径約30センチ以上にも及ぶ拡散体を使用しているための数値と推測できます。

いずれにしてもHybrid ANKHは本来の拡散機構という機能性を維持しながら、
コンクリート製住居など反響が大きい空間における残響時間を制御するという
課題に挑戦したものであり、音楽をより生々しく聴かせるという響きの美しさを
目指したものであると言えるのです!

美しい響き、そのためには不必要で余分な響きを排除することが必要であり、
響きのぜい肉を削ぎ落とすことで楽音本来の姿が美しくなってくるということを
Hybrid ANKHは目指したのです!

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

ここで再度Hybrid ANKHを導入した当フロアーの景観をご覧下さい。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20200518150422.jpg
https://www.dynamicaudio.jp/s/20200518150402.jpg
https://www.dynamicaudio.jp/s/20200518150412.jpg

日本音響エンジニアリングの製品化正式発表が行われるまで私からのリリースは
特に発してこなかったわけですが、2020年6月以降の試聴環境は大きく変化し、
それ以降の試聴はHybrid ANKHの影響下で行ってきたということになります。

Y'Acoustic Systemの各種Ta.Qu.To-Cableをはじめとして、Accuphase C-3900や
ESOTERIC Grandioso C1Xなどの新製品、驚愕のSiltech Triple Crown Seriesや
Soulnote P-3 & S-3、そしてCHORD Power ARAY & Ground ARAYなどによる
デリケートな比較試聴など、既に多数の分析と評価の際は敢て述べませんでしたが
Hybrid ANKHによる音響的環境変化のもと既に多くを語って来たことになります。

このように多数の音質評価の土俵として改善された音響空間で半年間以上過ごして
来たわけですが、その際試聴に使用していたのは当然のごとくHIRO Acousticであり、
上記の新製品におけるインプレッションのように私としても満足し納得出来る音質で
あったことは言うまでもありません。

という事は各種の新製品の評価において無言のうちにHybrid ANKHのパフォーマンスも
述べてきたことになり、半年以上経過して再び環境の変化を分析するには重複箇所が
多く適切ではないのではと考えました。そこで、下記の写真をちょっと見て下さい。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210124163310.jpg

これはリファレンスであるHIRO Acousticを試聴しているポジションからの眺めです。
この時、左右HIRO Acousticのトゥイーター間隔は大よそ3.1m程度、リスナーからの
距離は大よそ3.8mというトライアングルを構成しているという状況です。

しかもHIRO Acousticは当フロアーのベストポジションということで、ほぼ部屋の
中央にセットしてあり、音源として前後左右の壁面からも最も距離がある位置です。

もちろん各々の壁面における音響的な処置に対して無関係という事はないのですが、
他のスピーカーのポジションから比べれば壁面の状態からの影響力は軽微であると
言えるかもしれません。

ラック裏の配線が見苦しいので、あまりお見せしたくはないのですが上記の状況を
説明する上で下記の写真によってスピーカーの位置関係を見て頂ければと思います。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210124163327.jpg

既にご存知のように私は製品の評価にはほぼ全てHIRO Acousticを使って試聴を
行うのですが、その配置に関しても最優遇しているポジションであることを
ご理解頂ければと思います。

では、Hybrid ANKHによる環境変化の効力を分析するために、どんな方法を取れば
良いのだろうかと考えました。すると答えは意外に単純な事で、語り尽くした感の
あるHIRO Acousticではなくスピーカーそのものを換えてみようと思いつきました。

HIRO Acousticはいわば仕事用スピーカーとして欠かせないものであり常用して
来たのですが、リクエストされなければ普段はあまり鳴らしていないスピーカー。

そして、それ以前に聴いていた記憶に対してHybrid ANKHの恩恵として感じられる
程度のブランクがあったもの、言い換えれば今になって新鮮さを感じられる音源と
いうことで私が選んだのが下記で紹介していたFOCAL Grande Utopia EM Evoでした。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1503.html

Grande Utopia EM Evoを試聴する位置での景観が下記です。左右スピーカーの
中心点での間隔は大よそ3.6m、リスナーからフロントバッフルまでの距離は
大よそ4.8mということでHIRO Acousticの場合よりスケール感が大きくなります。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210124163319.jpg

肝心なことは上記で左側側面から見たスピーカーの位置関係でも解るように後方の
壁面までの距離はHIRO Acousticと比較して1メートル以上接近していることになり、
同時にRch側Grande Utopia EM Evoは右側壁面に大変接近しているという位置関係です。

当フロアーでは前後二段二列でスピーカーを配置していますが、当然のことで
大型スピーカーは後列となってしまいます。それでも一般家庭から比較すれば
大変広いスペースであると言えますが、以前にはどうしても壁面に近い位置関係での
低域の質感に関しては程度の差こそあれ妥協していたという事は否めないことでしょう。

このようにHybrid ANKHを設置してからあまり鳴らしていなかったという事、そして
上記のように位置関係に関しても多少のハンディキャップを抱えているということの
二点から試聴システムを次のように決定したのでした。

■H.A.L.'s Sound Recipe/日本音響エンジニアリングHybrid ANKH-inspection system
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210307163858.pdf

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

H.A.L.'s One point impression!! - FOCAL Grande Utopia EM Evoの興奮!!
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1503.html

三年前の上記インプレッションでGrande Utopia EM Evoの特徴を私なりに説明して
いましたが、先ず気になるのは独特の低域再生の手法ではないかと思います。

80Hz以下を受け持つElectro-Magnet/大口径バスレフ型40cmサブウーファーの採用と
80Hzから220Hzを受け持っている密閉型27センチ口径のミッドウーファーの存在。
http://www.dynamicaudio.jp/file/20181114-10.pdf
https://www.focal.com/en/focal-teach/electro-magnet-em

壁面に接近配置した大型スピーカーの強力な低域に対してHybrid ANKHがどんな
変化をもたらしてくれるのか、Hybrid ANKH導入前に聴いていたGrande Utopia
EM Evoの音質は妥協したポジショニングだから仕方ないと思っていたのですが…!?

■Flim & The BB's / Tricycle (DMP) 1.Tricycle
https://www.discogs.com/ja/Flim-The-BBs-Tricycle/release/6194802
https://www.discogs.com/ja/Flim-The-BBs-Tricycle/master/484773

ピアノのイントロで始まるユニークな曲ですが、最も特徴的なのが途方もなく大きい
ダイナミックレンジでしょう。ここでも爆発したとしか言いようがない前代未聞の
迫力が襲いかかってきます!この試聴のため敢て私の考える最大音量で再生しました!

ドラムとパーカッションを担当するBill Bergが叩き出す打撃音は、その時間軸を
ぎゅっと圧縮したようにエネルギーを凝縮して正に爆風のごとく、凄まじい衝撃波
として私の体に強力な音圧を叩きつけ後方へと飛び去って行くように鋭いのです!

先ずは低域の分解能はどうか? 距離の二乗に反比例して減衰する音波の特性を考え、
Hybrid ANKHの吸音と拡散効果の両者をスタジオ録音の正確無比な解像度で捉えた
ドラムの再生音にてチェックしようと思ったものです。

Grande Utopia EM Evoの放った凄まじい打撃音が私の耳に到達するまで大よそ
1/100秒という時間がかかり、その一次反射音は室内の反射面との距離関係による
三角関数で導かれる遅延を伴い数十ミリ秒の遅れでやって来る。

しかも左右スピーカーの環境は異なり壁面との距離も違い、おまけに音源はふたつ
あるので双方のスピーカーから発生した音波の反射音は遅延時間にもずれが生じる。

一般的な室内ではスピーカー1台に対して反射面が6面、左右で合計12面あり、
その反射面の材質などで反射音の周波数特性が異なり、同時にスピーカーの前後
左右に拡散していく音波にも指向性があるので各々の周波数特性は更に複雑になる。

理屈では分かっていても、そんな複雑な要素をどう理解するかというと、簡単に
言えば私が常々述べているように楽音の音像が見えるか、質感はどうか、音場感は
いかに、という結果論で判定していくしかないものです。

一次反射音が適切に拡散吸音され、二次・三次反射音と反復する過程でも同様な
拡散吸音効果が発揮されると上記の各項目に目指すべき方向性が示されてくる。

先ずはドラム全体でのインパクトの瞬間における音像が見えてきたことに驚く!

密閉型27cmミッドウーファーの制動力は打音が放射された後の空間でも維持され、
各サイズのタムのテンションもシンバルの輝きも向上し素晴らしい引き締め効果が
表れていることに今更ながらに安堵し納得した! これはいいです!

40cmサブウーファーのもたらす重低音にも解像度の向上が見られ、右側壁面に
接近しているRch側Grande Utopia EM Evoの強靭な低域再生においても向上した
分解能により、センター定位のキックドラムの音像もくっきりと姿を見せ、
発せられた打撃音という短時間で瞬間的な音像を見事に再現していく。
これは素晴らしい!

この曲でのサビでは左右に展開するドラムロールが用意されていて、多数のドラムを
連打すると個々の打音の位置関係が正確に把握できる音像を左右に広げていく…見事だ!

残響時間が各帯域で均一であること、そして録音スタジオ同等として私が求めている
0.25から0.3秒程度の制御された残響時間によって打楽器の残響に尾ひれをつけることなく、
強力な響きのブレーキングをHybrid ANKHが実現しているという納得のダイナミズムだ!

残念ながらGrande Utopia EM Evoにおける伝送周波数特性や残響時間の測定はして
いないのですが、Hybrid ANKHを導入してから当フロアーのリファレンススピーカー
二機種において測定した残響時間特性データがあるので参考までに紹介しておきます。

    HIRO Acoustic MODEL-CCCSにて :  Y'Acoustic System Ta.Qu.To-Zeroにて

                     L/Rチャンネル別残響時間(単位:秒)

周波数125Hzにおいて→   Lch [0.63] Rch [0.36] :  Lch [0.48] Rch [0.55]

周波数250Hzにおいて→   Lch [0.46] Rch [0.35] :  Lch [0.35] Rch [0.33]

周波数500Hzにおいて→   Lch [0.36] Rch [0.38] :  Lch [0.33] Rch [0.33]

周波数1000Hzにおいて→  Lch [0.29] Rch [0.29] :  Lch [0.27] Rch [0.39]

周波数2000Hzにおいて→  Lch [0.29] Rch [0.30] :  Lch [0.28] Rch [0.36]

周波数4000Hzにおいて→  Lch [0.31] Rch [0.32] :  Lch [0.31] Rch [0.32]

周波数8000Hzにおいて→  Lch [0.31] Rch [0.30] :  Lch [0.32] Rch [0.32]

周波数16000Hzにおいて→ Lch [0.25] Rch [0.26] :  Lch [0.21] Rch [0.32]

両者ともにリスニングポジションにおける測定ですが、125HzでHIRO AcousticはLchの
残響時間が多少長いのはガラス張りショーケースなど反射面があること、Y'Acousticでは
Rch側に壁面が近くなることが原因となっていますが、その他の帯域では両者ともに
私が求める残響時間が実現されていることが解ります。納得し安心出来ました。

伝送周波数特性に関しても上記測定値でイメージして頂けるように全帯域において
ほぼフラットレスポンスとなっていることを追記しておきます!

瞬発性のある打楽器での低域再現性を確認した次は連続する低音、あるいはリバーブを
施した低音に関してもチェックすべきと次の選曲を考え、これだという一枚が見つかった。

■GODZILLA: KING OF MONSTERS(ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK)
https://wmg.jp/ost/discography/21102/

「ゴジラ キング・オブ・ザ・モンスターズ」このサントラ盤です。
https://www.godzilla-movie.jp/

下記は参考まで。

Godzilla KOTM - Making the Music - Bear McCreary (official)
https://m.youtube.com/watch?v=YINrERKAR4A&list=RDYINrERKAR4A
https://www.youtube.com/watch?v=jV0w7jGK04s&list=RDYINrERKAR4A&index=4

スタジオ録音ながらマスタリングのセンスが良く、オーケストラとは異なる音場感
ながら、打楽器と声楽、そして掛け声セッションのバランスが良く調和しています。

私が課題曲にサントラ盤を使用するというのはたまにあることですが、著名アーチストが
自身のアルバムで発表している曲を寄せ集めてものではなく、その映画のために編曲、
作曲され新規に録音されたものということで、まさしくオリジナルサウンドトラックと
いうディスクです。

このCD1の17トラック「Goodbye Old Friend」2分50秒という短い曲。

冒頭は宗教曲を思わせる女性コーラスから始まり、しばらくすると混声合唱に発展し
雄大な響きの大変美しいコーラスへと展開していく。これを聴いた時にふと思う。

「いや〜、バッフル効果があるだろうGrande Utopia EM Evoで何と美しい響きだろうか!」

この第一印象が後述する別のチェック項目につながっていくのです!

そして、右奥から勇壮なドラムによる力強いリズムが静かに始まり、やがて左手から
低い音階を奏でる大きな二胡と思える中国の弦楽器が登場し、次第に高まるドラムの
リズムに呼応するようにホルンを中心とした管楽器が壮大なサウンドステージを
背景に描き始め、そこにヴァイオリンの調べが空間を満たしていく。きれいだ!

長大なクレッシェンドで声楽と管楽器による広大な空間へと拡大する響きが渦巻き、
うねるような旋律が頂点を迎えた時、一瞬の静寂が戻り再び混声合唱による主題が
繰り返され、壮大な低音の残響を残しながら消えていくドラマチックな一曲です。

このディスクはサントラ盤なので劇場のサラウンドとスーパーウーファーの存在を
意識した重低音が含まれていることは織り込み済み。

そして、その重厚感極まる低音はドラムだけではなく、コントラバスかシンセサイザーか
分からないが同程度の低音階にて脈打つような重低音が空間を埋め尽くしていることに
はっと気が付く。Grande Utopia EM Evoの低域再生能力をHybrid ANKHが引き出したのか!

三分に満たない短いトラックながら声楽とオーケストラが音の洪水のごとく押し寄せる
という迫力の中に、各パートの分解能を更に高めて音像を明確にし、広大な音場感と
両立させる再生空間の品位をHybrid ANKHが高めていたことに改めて驚き感動した!

しかし、冒頭で感激した女性コーラスの響きの美しさはどうした事か。
この私が聴いてひらめいた感動の背景を探るべく次の選曲で検証を進めることに。

■Melody Gardot/Sunset in the Blue[SHM-CD]より1.If You Love Me
https://www.universal-music.co.jp/melody-gardot/products/uccm-1260/
https://www.universal-music.co.jp/melody-gardot/about/

優雅でしとやかな旋律のストリングスが背景を飾り、七色の声として変幻自在の
歌唱を聴かせるMelody Gardotのヴォーカルがセンターに登場した時の驚きと感動!

明らかに今までのGrande Utopia EM Evoと違うぞ! と思った私はメジャーを持って
スピーカー周辺を測り始めました。Grande Utopiaのフロントバッフルから後方の
Hybrid ANKHまでの距離が大よそ2メートルはある。更に左右トゥイーターの間隔を
測り直すとやっぱり3.6メートルに間違いない。この音像のリアルさは一体何なんだ!?

スピーカーを正面から見て、その中間にある後方の壁面には何もない平面だとしたら、
ヴォーカルの音像は肥大して輪郭が薄れ茫洋としてとりとめのない歌手の口元となる。

また、HIRO AcousticやY'Acoustic System、あるいはVIVID Audioのスピーカーの
ようにフロントバッフルが存在しないデザインではヴォーカルが空中にぽっかりと
浮かぶように鮮明な音像を提示するという私の常識からして、Grande Utopiaには
やはりバッフルがあるという音像の特徴を感じるものなのですが、それがないのです!

しかも、音源であるGrande Utopiaのスピーカーユニットからは後方に2メートルも
離れているというのに、Hybrid ANKHの拡散吸音効果という事が音像の成立に非常に
大きな変化をもたらしているということが実感されました! これは素晴らしいです!

そして、左右スピーカーの間隔を測り直したのは、中間定位として音源であるスピーカー
ユニットが存在しない中空に位置する楽音の音像が本当に素晴らしく鮮明だったからです。

以前と同じポジションなのに楽音の品位がこうも違うという驚きから思わず測り直して
しまったのです。分かっていても同じ左右間隔で音像がこうも鮮明なのですから!

双方の音源の位置関係から想定できるバックの伴奏楽器群の各パートがヴォーカル
だけでなく素晴らしく鮮明な音像を有しているという驚きがあり、これもバッフル
効果が環境変化によって緩和され楽音の解像度を大きく向上させた証であると
判断されました。特に工事をしなくても、この変化が得られるという事は吉報です!

2,012(H)×654(W)×880(D)mmで重量は265kg/1台という巨体であるGrande Utopia
EM Evoに対してHybrid ANKHが施した変革は外見のプロポーションはそのままに、
低域再現性の素晴らしい向上と音像における分解能の素晴らしい変化、同時に
その両者が確立されたことによる広大な音場感の獲得という事だったのです!

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

上記の課題曲は三曲までですが、当然のことながら私はオーケストラをはじめとして
より多くの選曲にて試聴を繰り返してきました。

そして、今回はGrande Utopia EM Evoにて拙いインプレッションを述べましたが、
実は他のスピーカーにおいても以前から変化の兆候を感じ取っていたものであり、
その音質変化のベクトルは同じ言葉で表現される方向性と同一のものでした。

それらを今回は最も大きなスピーカーを事例として語ったに過ぎないものです。

さて、AGSシリーズには以前から通常のANKHがありましたが、今回のHybrid ANKHと
どのように棲み分けして採用すればよいのか、実践的な意味で考えてみました。

前述した下記の一節を再度引用しますと…

「日本音響エンジニアリングは音響設計の一要素として音波の拡散に主眼を置いて
 AGSを開発しましたが、同社の音響設計においては吸音効果をAGS以外の吸音材料にて
 施すということを必然として取り入れているものであり、優秀な音響空間は拡散
 効果だけでは得られないということを百も承知の上で実績を作り上げてきたわけです」

という事は新規設計にてオーディオルームを作るのであれば、その設計段階で
吸音体による残響時間の制御がなされているので従来のANKHで良いと思います。

しかし、既存の部屋で特に音響的改築などしなくても、あるいはマンションなど
鉄筋構造の部屋で大変ライブで残響時間が長い環境において、単純に置くだけと
いう設置方法を考えればHybrid ANKHを選択すべきでしょう。

なぜなら日本音響エンジニアリングの技術力によってHybrid ANKH内部において、
音響建築と同様な吸音効果を内蔵しているからということになります。

Hybrid ANKHの一番のセールスポイントは置くだけでいいということ!

この記事に続く私の仕事は意外に簡単な事なのです。
皆様のお部屋に一度でいいので試しにHybrid ANKHを置いて頂けるように、
悪魔のささやきのように密やかにお薦めしていく事でしょうか…。


川又利明
担当:川又利明
TEL 03-3253-5555 FAX 03-3253-5556
kawamata@dynamicaudio.jp

お店の場所はココです。お気軽に遊びに来てください!


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