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H.A.L.担当 川又利明
    
2020年11月4日 No.1631
 H.A.L.'s One point impression!! - Siltech Triple Crown Series

今回は結論を先に述べておきたい。

これまでの生涯に仕事がら世界中の著名ブランドのケーブルを、それも各社の
トップモデルを多数聴いてきた私ですが、今回ほど驚き感動した事はなかった!

そして、あっけなく思うかもしれないが、音質を表現するにふさわしい言葉を
私はたった一言で述べることができる。それはブランド名と同じく“Siltech”

ただし、Siltechは「Silver」と「Technology」の組み合わせによる造語ですが、
私に言わせれば、その音は「Silk」と「Technology」で“Siltech”と言いたい!
https://www.siltechcables.com/

そして、私の記憶では確か1980年代には既にSiltechは輸入されており、当時の
輸入代理店からの要請で同社のケーブルを聴き取り扱った経験は何度もあった。

しかし、私としては以前のSiltechでは感じられなかったハイエンドケーブルとしての
正に頂点を極める音を私は今回のTriple Crown Seriesで発見し感動し納得したのです!

前述の私の経験では数百万円という価格のケーブルも多数聴いてきたということ
なのですが、音を聴く前に価格による先入観で音質を見誤るということはない。

高価であることが聴き手の耳と感性に畏怖の念を暗示するように働きかけ、その
音質の何たるかをプライスの桁数で代弁するような解説を私がすることは決してない。

だが今回は音質を語る前に価格を先に紹介しておくことが必要ではないかと考えた。
後述するインプレッションで試聴したSiltech Triple Crown Seriesは下記の通り。

■Siltech Triple Crown Series-Inspection system
https://www.dynamicaudio.jp/s/20201024135946.pdf

Interconnect Cable(XLR):2.0M ¥4,500,000./1Pair
DACとプリアンプ間に使用プリアンプより高い!

Speaker Cable(Y-Lug)  :3.0M ¥7,500,000./1Pair
バイアンプ4台で×2Pairを使用したので¥15,000,000.パワーアンプより高い!

Power Cable            :2.0M  ¥2,000,000./1piece 
ディスクトランスポートとDAC2台に3本使用したので¥6,000,000.となる。

以上合計で¥25,500,000.という規模になる。あのHIROスピーカーより高い!

上記システム構成にてプリアンプとパワーアンプ間の7.0mのインターコネクト
ケーブルもTriple Crownにするとしたら、1.0mで250万円、2.0mで450万円、
つまり1メートル長くするごとに200万円となるので単純計算すると1,450万円、
バイアンプで2ペアだと2,900万円が必要となり、シグナルパス全てをTriple
Crownで統一することは大変に難しい。

そもそもCrown Seriesの最大の特徴である単結晶銀“S8”と名付けられた導体で
7.0mの長尺ものが作れるかどうかも不明。これは後日問い合わせてみよう!
http://www.noahcorporation.com/siltech/20201021_siltech_release.pdf

上記のように桁外れのプライスとなるケーブルを試聴することに意味があるのか?

営業的には非常識な試みではあるが、Hi-End Audio Laboratoryの使命として、
そして何よりも私の好奇心において、Siltech Triple Crownを理解しておくことが
下位モデルCrown Seriesを通じて皆様に提案できる根拠になるものと考えてのこと。

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

導入初日、先ず私はアナログ信号の最上流に当たるDACとプリアンプにTriple Crownの
インターコネクトケーブルを使用してみた。

Triple Crownのインターコネクトとスピーカーケーブルには独自のフローティング・
シールド・スイッチがあり、シールド接続を「Ground」もしくは「Float」に
切り替えることができるが、他社にはない機構で予備知識もないので最初は全て
「Float」として聴き始めることにした。

近年ケーブルの試聴のノウハウを習得していた私は最初から大編成の録音は使わない。
小編成の録音で私が求めている音像と音場感の両方が分かりやすい選曲とした。

H.A.L.'s One point impression!! - Y'Acoustic System Ta.Qu.To-Zero with SPL & XLR & BNC
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1625.html

上記でも使用した楽音の質感と空間表現が素晴らしいECMレコードの下記を聴く。

HIRO Acousticの高速反応は楽音の質感というものに敏感に反応する。
これは打楽器のアタックなどの瞬発力という観点だけでなく、再生音の過渡特性が
素晴らしいという事は音色や質感にも忠実に表れてくるというもの。

私は日頃から限りなく引き絞られた音像と広大な音場感の両立ということを、
ケーブルの音質判定をはじめとしてスピーカーやコンポーネントの理想像として
追求してきたものでした。

その目標としていた項目に対して、たった1ペアのTriple Crownがもたらした
驚きと感動をどう表現したらよいのか数日間悩み続けたものです。

■Dominic Miller / Absinthe (CD)よりタイトル曲1.Absinthe
https://dominicmiller.com/product/absinthe-cd/
https://www.youtube.com/watch?v=sY6aQy0MJ7k

Grandioso P1Xのカウンターが001、002、003と進むが全くの無音。
そして4秒後、スティングの多くの曲でサイドメンを務めているDominic Millerの
ギターがセンターに登場する…、すると、勝負はこの最初の一音で決した!

「なに!?このギターの質感の変化は!? いや、それだけではないぞ!」

ある意味では以前より硬質に感じるのだが、それは音像の輪郭再現性が極めて
高い証拠となり、一切のにじみがなく極めつけの透明感をもって音像を造形する。

それは静寂さの中に成立する一種の迫力となり、ギターの爪弾きの一音一音に
新たな生命力を感じ取れるほどの究極的な描写力として演奏者の情熱を空中に描く!

弾かれた弦の躍動感をクローズアップしたビジュアルとしてスピーカーのセンターに
くっきりと焼き付けたように、たったひとつの楽音をここまで忠実に…、いや!
忠実さという言葉にゴールがあったとしたら正に終局的とも言える未体験領域の
再生音…、いや! Dominic Millerのクローンプレーヤーが目の前に誕生したということか!

どんな言葉で表現したらいいものか、その一言が中々見つからないうちに、最初の
一曲で次々に私のベストという記憶が更新されていくのだから堪ったものではない!

ドラムManu Katcheの微細なタッチと質感のシンバルの細かい刻みが左右から展開するが、
銅を主成分とした金属の合金で製造された円盤の厚みが薄くなったように錯覚するほど
透明度を増した音! それほど細かい振動を肌で感じた! これは凄い!

スティックがシンバルの端を数分の一秒刻みで細かく叩き、あるいはブラシで撫でて
いるのかと錯覚するほど繊細な響きを当然のごとく空間に散りばめる、HIRO Acousticの
お家芸とも言える空間描写力とESOTERIC Grandiosoシステムの膨大な情報量の威力が
単純な打楽器の響きを躍動させる生命力をここでも与えたTriple Crownに私は絶句した!

センターのギター、左右のシンバルという三者によって構成される目に見えない
舞台に切れ込むようにして登場するのがSantiago Ariasのバンドネオン。

ボタン式の蛇腹楽器であるバンドネオンは鋭い明快なスタッカートを響かせ、
そのリードそのものが蛇腹からはみ出して空気を振動させているのではと思うほど、
楽音そのものの鮮度が今まで体験のないほどに鮮烈な素晴らしさに耳を疑う!

アコーデオンとは違い左右対称の構造となっているバンドネオンは最初、左の
シンバルとセンターのギターの中間に表れるが曲の進行に伴いメロディーラインが
代わるとセンター右側にも違う音階で登場するというミックスダウンの妙技が
克明に解るという解像度の素晴らしさを自然にふるまっていく。これは素敵だ!

以上三者の定位が演奏空間のスケールを示すのかというと、いや、まだ先があった!

Nicolas Fiszmanのベースがセンター後方に登場し、その低音の音像に私はすぐさま
合格点を与えていた。余韻を引くギターと好対照にソリッドに引き締まるベースだ!

Mike Lindupのキーボードは浮遊感のある幻想的なハーモニーをスピーカー後方に
展開し、ECM独特の音場感を形成する残響の連鎖を遠近感をもって表現する。

サイドメンが出そろったところでDominic Millerのギターが再度リードを取るが、
私が圧巻の思いで聴き惚れる楽音がここから始まる。

金物パーカッションを左右チャンネル間でロールさせていたドラムManu Katcheが
叩くタムの強烈、かつインパクトの鋭い打音が炸裂し、その質感に感激した!

ドラムヘッド(振動膜)はシェル(胴)の開口部にある枠に対して、フープによって
押し下げられることで振動膜がエッジに押し付けられ張力が与えられる。

こんな単純なことを敢て口にするのはTriple Crownによって変化した質感というのは、
このフープによるテンションの張り詰め方が更にキュッと強められたように、
その打音の鋭さが驚くほどに素晴らしく緊張感を高めたからなのです!

そして、インパクトの瞬間における立ち上がりの素晴らしさと同時に、その打音に
対してかけられたリバーブ、簡単に言えば余韻の時間軸が圧倒的に長く引き伸ばされ、
打音の発祥から消滅までのプロセスを前例のないほど克明に描き出した情報量の
拡大という現象に舌を巻いてしまいました! これほどの違いがあるのだと!

小編成のバンドによる録音ながら各楽音のディテールが素晴らしく鮮明に描かれ、
同時にスタジオ録音にして広大な音場感を形成する課題曲において、各パートの
変化の有様が私が持っている評価の物差しでは測りきれないほどの感動でした!

さて、ここで今後の試聴のためにシールド接続の「Ground」と「Float」の違いを
確認しておかなければと思いつく。今までは全て「Float」で試聴したものだが、
まったく同条件においてケーブルの出口側でありプリアンプの入力側のスイッチを
「Ground」に切り替えてみた。すると…

「お〜、そういうことですか! しかし、この違いが分かるシステムでないとな〜」

確かに手応えのある変化ですが大変微妙なニュアンスと言って良いと思います。
更にケーブルの入り口側、DACの出力側も「Ground」に切り替えてみました。

「なるほどね〜、同じベクトルの変化方向として傾向がつかめたぞ」

「Ground」に切り替えてみると、音像の中身が濃密濃厚になり楽音の存在感と独立性と
いう観点でプラス傾向になるのですが、反面余韻感が減少する変化を私は感じ取りました。

その傾向はケーブルの出口側での切り替えの方が影響力は若干大きく感じられます。

ここで追記したおかなければならない項目がありました。

■H.A.L.'s Sound Recipe / ESOTERIC Grandioso C1X inspection system
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1612.html

上記ではGrandioso C1XにおけるES-LINK Analogの貢献度の大きさを述べていましたが、
Triple Crownの分析を行う段階で先ずは通常の電圧伝送のみにて試聴してきました。

このケーブルの評価を下す上で電流伝送だから、ES-LINK Analogにしたから良かった
という猜疑的な解釈を除外しておきたかったからです。これは是非覚えておいて下さい!

合計四種類のスイッチ切り替えを実験した結果、私は残響成分を最大限に発揮する
選択が好ましいと判断し、全てを「Float」にしたセッティングで今後も試聴すると
いう事にしました。これはスピーカーとシステム構成で違う傾向になる可能性も
ありますので、使い手の選択で良いと思いますので誤解なきよう補足しておきます。

■Espace 溝口 肇 bestより「1.Espace」「2.世界の車窓から」「10.Offset Of Love」
http://www.archcello.com/disc.html
http://mizoguchi.mystrikingly.com/

最近多用している上記の課題曲でも「Ground」と「Float」の違いを比較しましたが、
上記の簡単な説明ですが同傾向の変化を確認したものでした。納得です。

しかし、この課題曲に変えてから次の試聴を始めたのですが、実は今回のTriple Crownの
試聴で最も刺激的、かつ感動的なケーブルとの出会いという事が起こったのです!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

私が当フロアーでリファレンスとして採用している多数のTransparentの電源ケーブル。
http://www.axiss.co.jp/brand/transparent/power-code/power-cord-2/

それは同社独自の並列フィルター回路によるネットワーク・モジュールを搭載すると
いう外観で解る積極的なアプローチによる手段により、その効果を音質的に高く評価
してきた結果でした。

オーディオケーブルの音質は導体、絶縁、構造の三大要素によって分析評価できる
ものですが、そこにTransparentの場合にはネットワーク回路という他社にない
テクノロジーを投入し、前記の三大要素に加えてフィルタリングという概念を
確立したものでした。

その中で最高峰というOPUS Power Cordを私はリファレンスシステムに多数採用し、
文字通り電源ケーブルの最高位(私が実際に聴いた中で)として位置付けてきました。

そして、今回手元にあるTriple Crown Power Cableは三本。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20201101163524.jpg

これをどこに使用するか、私は長年の経験から電源ケーブルの初期評価に際して
先ずはシグナルパスの上流側に使用してみることが分かりやすい判定法として来ました。

そこで上記のシステム構成一覧にあるようにディスクトランスポート、モノDACの
二台のOPUS Power Cord三本と入れ替えて試聴してみることにしたのです。

前述の通りTransparentと比べれば外見上は何の変哲もない電源ケーブルです。

SiltechはTriple Crown Seriesの内部構造は非公開としているので、上記の三大
要素として単結晶銀“S8”という導体だけは特徴として理解できるのですが、
見た目にはストレートなごく普通のケーブルとしか言えません。

今までOPUS Power Cord(75万円)を自信をもって最高位としてきた私は正直に言って
Triple Crown Power Cableにさほどの期待感は持っていなかったというのが本音。

前述のテストで最後に試聴した溝口 肇/Espaceの「10.Offset Of Love」をさりげなく、
いや…起こる変化に関して全くの期待と予測なしに気軽に聴き始めたのです。ところが…

「えっ!? なにこれ! 演奏のエネルギー感、躍動感がどうしてこんなに変わるんだ!」

この私にして、この時の驚きと感動は尋常なレベルではありませんでした。
予想していなかった事とは言え、楽音全ての要素で激変という正に電源ケーブルの怪!

冒頭のセンター左寄りに登場するギターはE線からA線にかけての太く低い音階の弦が
エネルギッシュに音量も大きく聴こえる程にたくましくなっており、良く言われる
楽音の厚みが増している変化。

厚みが増すということは単に音量感として増加したというレベルではなく、
一弦ずつの爪弾きから弾き出される楽音の響きが多層化したということであり、
余韻に含まれる音色の数が圧倒的に増加しているという事。これは凄い!

すかさず右チャンネルで叩かれるパーカッションの打音にも同様な変化を察知。
切れ味が増したアタックから放出された余韻感が余裕をもって空間を飛び去る!

そして圧巻だったのはセンターに定位するベースの重量感がぐっと沈下するのと、
引き締まった筋肉質な低音が躍動する快感というダブルパンチ!これは素晴らしい!

更に溝口 肇のチェロにおける多項目の変化という連鎖反応が未体験の感動をもたらす!

「なんでチェロの質感がこんなに変わってしまうんだ!」

前述のように楽音の厚みを増すのだが決して演奏が鈍重になるということはなく、
アルコの切り返しは鋭さを増し低音階での音像サイズはきっちりとキープし、
演奏者の頭上に残響を広げる空間を再構築したように展開する余韻感の拡散が凄い!

Interconnect Cableによって緻密に構成される音像のコントロールはそのままに、
楽音の個々に引き出し切れていなかったエネルギー感がまだあったのかという迫力。

演奏の進行と共に全ての楽音から溢れ出る響きのレイヤーが美しくたなびく素晴らしさ!

打鍵の一音ごとにピシッとフォーカスが合ったピアノが時折りセンター右寄りの
空間に彩を添え、それと入れ違いにオーボエのソロが登場すると音像の密度感は増し、
不思議にも演奏空間の温度感が高まったが如く、余韻の延長を秒針の刻みを見ている
ように引き伸ばしていく情報量の増加に私の顎は数秒間下がったままとなる!

スタジオできれいにお化粧されたストリングスが左チャンネルの奥に展開する主役
不在の数フレーズの間奏部が終わり、再びセンターにチェロが戻ってくると遠近感は
そのままなのに、オーディオ的被写界深度の精度感が維持されたアルコの演奏に
未体験のドーピング効果が表れている事実に納得せざるを得ない。これは凄い!

「2.世界の車窓から」をリモコンで呼び出し冒頭のキックドラムを待って身構える。

「きた! お〜これほど違うのか!」

上記のTriple Crown Power Cableでの変化を経験すると、低音打楽器の振る舞いも
予測していたように隠されていたエネルギー感を放出する切れ味と重厚感に圧倒される!

ただ重々しくなるという事ではなく、キックの瞬間で感じるテンションも高まり、
瞬間的に波打つドラムヘッドの低音が空気をはらんで拡散していく爽快感が加味された!

前曲よりは手前に定位するチェロはベースと等距離なのだが音像サイズは少し大きい。
しかし、チェロの弓が切り返されるごとに弦の躍動感が高まり、背後に展開する
多数のパーカッションの鮮やかさも向上し遠近感の演出が音場感の拡大を示していた!

そう、電源ケーブルによる変化は躍動感を向上させただけに留まらず、演奏全体の
空間表現をも拡大するという予想外の変化も追記しなければと頭にメモしていた。

当然「1.Espace」も続けて聴いたのですが、多数の楽音による変化を分析した後で
チェロのソロ演奏において何が起こるのか、冷静な予測と期待する興奮とのはざまで
数秒間の休息をとりリモコンを手にしてボタンを押した。すると…

「うわ! 濃いチェロだ! でもキレがいいので気持ちいい! まるで食レポだ!」

多数の伴奏楽器を含む演奏では楽音個々に変化を読み取ってきたが、チェロだけという
録音ではどうなるのか、私が分析してきた変化の方向性という推測はズバリ的中!

当然ボリュームは全く同じなのに、まるでウェイトトレーニングで筋力を強化した
ように力感が溢れ、溝口 肇の指先から弓にまで血流が通ったように躍動感が増している!

しかし、同じ体重なのに筋肉量が増えた例えで連想されるように音像サイズは維持され、
更に引き締まったかのようなプロポーションのチェロが前方に迫ってくるのを私は
快感と共に受け止めてしまった!

そのチェロには前述のギターで感じたような色彩感の増加と響きのグラデーションの
増加傾向が表れており、ソロ演奏の中に垣間見える多数の音色の存在感が露わになる!

もちろん私は他の課題曲も聴きまくり、以前の記憶との比較を行い全てにおいて
Triple Crown Power Cableの未体験領域を開拓し、本稿では語り切れない体験を
数多くしたのだが、選曲の数だけ文章を連ねても私のボキャブラリーが枯渇して
来るようなので拙い表現はこの辺で留めておくことにします。

そして、電源ケーブルにおける私の評価の頂点にTriple Crown Power Cableを
位置付けること、その判定に異を唱える要素を私は自身の中に微量でも発見する
ことが出来なかった! とにかく、この電源ケーブル凄いです!

更に私はこの段階で前曲との記憶を重ね合わせ、今までHIRO Acousticで聴いてきた
感触と異なる要素を発見していた。それを確認するためにも次の段階に進もうと思う。

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

Interconnect Cableで音像サイズと輪郭再現性、更に透明感の極みを体験し、
Power Cableによって未体験のオーディオ的ドーピング効果に驚き、次に何を見せて
くれるのか、Siltech Triple Crown Seriesによる再生音の新機軸は当然のごとく
スピーカーケーブルを加えての試聴へと進んでいった。

Triple Crown Speaker CableにはInterconnect Cable同様にシールド接続の
「Ground」と「Float」の切り替えがあり、先ずは最初にこの実験に取り組む。

上記の課題曲の記憶が鮮明なうちに同じ選曲で実験することにしたのですが、
スピーカーケーブルを加えたことによって起こった第一印象が先ず凄かった!
それは後述するとして…。

この「Ground」と「Float」の切り替えに関しては上級者向けのオプションであると、
この段階で述べておく必要があるかもしれない。

これによって起こる変化はTriple Crown Seriesの本質を根底から覆すほどの大きな
違いをもたらすものではなく、整ったコンディションの中で前述したように音像の
内部における質感と、それを取り巻く空間表現の違いということになるのですが、
それらを聴きとるためには音場感の再生能力に長けたスピーカーとシステム構成と
いう前提が必要であると考えている。そして、ここでも実験の結果私の判断では…

シールド接続の選択に関してはインターコネクトケーブルとまったく同じ傾向を示し、
上記同様に私の選択は全て「Float」として試聴していくことにしました。

当然のことながらスピーカーケーブルもTriple Crownにしたことで、私の好奇心は
前述の課題曲のみに納まらず実に多様な選曲で多くの試聴を繰り返しました。

そのすべてにおいて感動したという結果を述べた上で、限られた紙面でどの選曲まで
取り上げて本稿で述べるべきか文章量の節度を考慮し、必要最低限の課題曲にて私の
分析と感動をお伝えすべく、今まではスタジオ録音での選曲であったのに対し終盤は
ホール録音のオーケストラにて検証した項目を述べていく事にする。まずはこれ!

■マーラー交響曲第一番「巨人」第二楽章 小澤征爾/ボストン交響楽団

音像と音場感が適切にコントロールされ緻密な楽音の質感を注視してきた選曲で
スピーカーケーブルを加えた第一印象に関して、これまでの変化の傾向を予測し
Triple Crown Seriesの血統という深みを持った感動に包まれたあとに、ホール録音と
いう巨大なサウンドステージを有する選曲に転じて最初に聴きたかったのはこれ。

今までコンポーネントやケーブルまで含み、ほぼ全ての新製品の評価で定番として
きた選曲を満を持して聴いてみることに。リモコンでトラック2のボタンを押すと…

「何なんだ!この弦楽器の音色は!管楽器、特に金管楽器の質感がどうしてこうなるのか!?」

冒頭の弦楽五部の合奏が始まった瞬間に私の体温は一度上がっていました!
弦楽器の音色にこれだけの色彩感があったなどと今の今になって驚きの発見です!

小学生だった頃の図画工作で写生の授業、面白半分で白いパレットの上に適当に
絞り出した絵の具の数々。大人のように色調の調合など知らない子供の頃、
予備知識もなく自由気ままに原色の絵の具を混ぜ合わせていくと千変万化の色彩が
表れてくる面白さを思い出しました。

長きに渡り聴いてきたマーラー一番の二楽章で、今まで聴いてきた弦楽器の音色は
まだまだ音の絵の具の調合が不出来であったこと、混ぜ合わせる原色の少なさと
どの色とどの色を混ぜるかという好奇心不足であったことを痛切に思ったのです!

重なり合う弦楽器のハーモニーには実に多様多彩な色彩感があり、コンポーネントが
再生するオーケストラにおいて以前は限られた範囲の音色しか聴くことが出来なかった
のだという事実に圧倒されてしまいました!

それは未知の音色であり、CDからピックアップされアナログ変換された信号の中に、
これほどの情報量が含まれていたのかという驚愕の発見と言っても良いと思います!

そして木管楽器の発するピンポイント定位の楽音ではリードの質感が殊更に美しく、
ステージの上空に立ち昇る余韻が素晴らしい響きのグラデーションを展開する!

更にステージ上手奥から響き渡るトランペットの質感が耳を疑うほどに滑らかだ!

金管楽器の音が何らかの歪成分を含むとギスギスとした鋭さをもって響き渡ることが
あるのですが、Triple Crown Speaker Cableに換えてから心地よい透明感によって
清々しささえ感じる音色となってステージ奥から飛来する力強くも美しい質感に驚く!

冒頭の合奏による弦楽五部の実に勇壮な展開が進行し、中盤から第二主題の旋律が
登場してくる頃には、私の頭の中に目の前の未体験の美しさを何と言葉にするかと
いう情景描写の難問が浮かび上がってきていました。そう、未体験の美しさなのです!

なんとしなやかで艶やかな弦楽器であることか、なんと透き通った管楽器であることか、
そして何と空間で調和しハーモニーの美しさを見せつけるオーケストラであることか!

その時にひらめいたのがシルキーなオーケストラという一言。
つややかな光沢感、すべすべした質感、多彩な色が輝く正に絹のような音質だと!

インターコネクトケーブルによって引き継がれてきた膨大な情報量、電源ケーブルに
よって引き出された躍動感、そしてスピーカーケーブルによってもたらされた調和の美学!

これこそTriple Crownではないだろうか!
だから「Silk」と「Technology」で“Siltech”と言いたいのです!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

さて、ここで「今までHIRO Acousticで聴いてきた感触と異なる要素を発見していた」と
いう一節を思い出して頂きたい。この上Triple Crownを語る要素として何があるのか?

それはオーケストラを聴き始めて感じた事ではなく、それ以前に試聴してきた多数の
課題曲すべてで感じ始めていたことであり、それを確認するために用意した選曲がこれ!

■マーラー:交響曲第五番 嬰ハ短調
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮) ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団
http://www.kinginternational.co.jp/classics/hmm-905285/
http://www.kinginternational.co.jp/classics/kkc-5842/
https://www.ongakunotomo.co.jp/m_square/readers_choice_total/index.html

この選曲理由は下記のエピソードから思い立ったものでした。

H.A.L.'s One point impression!! - HIRO Acousticにしか出せない低域!!
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1481.html

この中から次の一節を引用します。

「そして、私が最も驚き感動したのはグランカッサの響きでした!
 軟らかいヘッドを持つマレットで穏やかに細かく連打することで、その打音は
 ゆったりと続く、たゆたうような低音をステージの隅々まで行き渡らせる。」

一言で言うと重たい低音を軽く出すというHIRO Acousticの特徴を述べているのですが、
全ての課題曲で私が感じていた経験のない変化の兆候がここにあったのです。

これは全てのTriple Crown Seriesに当てはまることなのですが、最も顕著に私が
感じ取ったのは電源ケーブルだったでしょうか。

今まで聴いてきたHIRO Acousticを核とするリファレンスシステムにおいて、
低域の特徴は再三繰り返し述べてきたことなのですが、Triple Crownを使って
みると低域のレスポンスが拡張されているという事なのです!

それは低音の量的増加という変化ではなく、再生周波数帯域の下限と思っていた
低域の周波数特性が更に低い帯域まで拡張され重厚感に新しい局面が発生すると
いう現象を確認したのです!

上記のマーラー五番第一楽章でのグランカッサとコントラバスの質感の変化、
スタジオ録音でのドラムの最低音の充実とウッドベースの重量感の向上など
ケーブルによって起こり得るのかと半信半疑であった再生帯域の拡張があったのです!

私は以前からいわゆる銀線という導体のケーブルで、その特徴として認識していた
ことは中高域の質感がしなやかで滑らかで美しいという印象でした。

その半面で低音楽器の質感は良く言えば開放的、悪く言えば緩い質感というもので、
銀線の特徴は中高域に対する評価のみを語ってきたように思うのです。

Siltechの単結晶銀“S8”と名付けられた導体からのイメージでは上記のような
高い周波数帯域での美しさしか思いつかないかもしれませんが、なんとなんと!
Triple Crown Seriesでは低域に対する投資効果が素晴らしく感じられたのです!

正にSiltech Triple Crown Seriesはコンポーネントの潜在能力を最大限に引き出す
ということに成功した無類のケーブルであると結論付けることが出来ます!

しかし、その前にはお値段というハードルがあるのも事実。

今回は限られた時間しかなかったので戦略モデルであるCrown Seriesに関しての
試聴は後日としましたが、Siltechというブランドの価値観を大いに高める経験となりました。

私は今後ともSiltechの多数のケーブルをここで検証し続けることでしょうし、
同時に日本国中のオーディオファイルの皆様に推薦していきたいと思っています!


川又利明
担当:川又利明
TEL 03-3253-5555 FAX 03-3253-5556
kawamata@dynamicaudio.jp

お店の場所はココです。お気軽に遊びに来てください!


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