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H.A.L.担当 川又利明
    
2020年8月18日 No.1612
 H.A.L.'s One point impression!! - ESOTERIC Grandioso C1X

2014年9月1日に発売されたESOTERIC Grandioso C1は下記のように導入しました。
http://www.dynamicaudio.jp/5555/MonthlyHi-Fi/201408/

その後で私は下記のようにインプレッションを発していました。

H.A.L.'s impression-壮大で緻密なESOTERIC Grandiosoを聴く-Vol.2
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1150.html

この最後の一節をこの段階で再度述べておきたいと思います。

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

今夜の感動をいかにして皆様に伝えるか!? 言葉の無力を感じながら、こんな
日本製品の素晴らしさが、壮大で緻密なESOTERIC Grandiosoをイメージして
頂くには最適かと、次のビジュアルを見て頂くことで締めくくりたい。

■Custom Namiki Falcon Resin Fountain Pen HD
https://www.youtube.com/watch?v=pRebkWHsHC0

私は初めて万年筆を手に取った時、これは限りなく細い線を書くものだと思った。
ペン先を曲げてしまっては壊れてしまうものだと思っていました。もちろん、
何十年前の私が手にした安物の万年筆ではそう思えたわけです。

しかし、こんな書き方、使い方があり、文字を書くのではなく描くものとして、
一流の万年筆とはこういうものなのかと驚いたものでした。

壮大な色を紙に乗せ、緻密な線を描き出す。その意に共通するものとは、壮大な
音場感を可能にし、緻密な音像を提示するESOTERIC Grandiosoではなかろうかと!!

音楽を絵画として聴かせるGrandioso、それが私の結論でした!!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

壮大な音場感と緻密な音像、正にESOTERIC Grandiosoの進化の方向性とは
この一言に尽きると実感していたのですが…、六年後の2020年その確信が
新たなXの登場で証明されることになったのです!
https://www.esoteric.jp/jp/product/c1x/top

8月某日、期待のGrandioso C1Xが発売前の短期間ですがH.A.L.にやって来ました。
外観に大きな違いはありませんが下記の向かって右側がC1Xです。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20200814133616.jpg

初日の試聴で新旧比較をしましたが、そこで確認した進化のベクトルを最初に
述べれば上記の方向性と同じだと直ちに結論が出たのですが、私の好奇心は更に
進化の大きさを検証したく多くの作業量を要する試聴へと向かっていきました。

それは言い換えれば独自の電流伝送方式「ES-LINK Analog」の真価を確認すると
いう事でもあり、下記のようにアナログソースセクションを今回は追加しました。

■H.A.L.'s Sound Recipe / ESOTERIC Grandioso C1X inspection system 
https://www.dynamicaudio.jp/s/20200812173929.pdf

それは全国の他のショップでも実現困難、もちろんESOTERICでさえも自社の試聴
システムではあり得ない規模というものでしょう。これです!
https://www.dynamicaudio.jp/s/20200812152534.jpg

その中核にあるのが2017年に発売されていたPhonostage Preamplifier ESOTERIC 
E-02には既にES-LINK Analog出力が装備されていたということ!

この超強力なアナログソースから先ずは検証を始めようと今回は取り組みました。
そして、その前の段階で下記にて述べているY'Acoustic Systemのケーブル
Ta.Qu.To-SPL & XLRの両者が大変大きな役割を果たしているということも追記します。

H.A.L.'s One point impression!! - Y'Acoustic System Ta.Qu.To-SPL & XLR Vol.2
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1610.html

というのはESOTERIC E-02からプリアンプに至るケーブルを最初は某社の長尺ケーブル
にて聴き始めたのですが、CD再生においてTa.Qu.To-XLRとの格差があまりに大きい事に
気が付き、悩んだ末に380万円というTransparent OPUS XLRケーブルに交換して
やっとTa.Qu.To-XLRと同等に比較できると納得したというエピソードがあったからです。

このケーブルを使用してESOTERIC E-02の音質が激変し、65万円という価格ながら
私が求める以上のポテンシャルを有していることが感動のうちに確認できたのです!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

今回は今までの新旧比較とは違うアプローチでアナログソースの試聴から取り
組んでいきましたが、その段階が自分でも呆れるほどのこだわりの結果として
次のように試聴を展開していきました。その流れを先ず説明したいと思います。

システム構成を見てお分かりのようにプリアンプ以降は同じです。
下記に説明する過程において次のように略称を設定しました。

Grandioso C1X = GR/C1X 
Grandioso C1 = GR/C1

デジタルソースに関してはGrandioso D1Xのみなので…

Grandioso D1X = (GR/D1X) 

個性が魅力のアナログ再生ですから、誤認がないようにトーンアームとカートリッジも
次のように二種類使用しています。アナログのAを頭文字として次のようにしました。

SAEC WE-4700 & Ortofon MC Anna Diamond = (A:S/O) 
GRAHAM ENGINEERING PHANTOM 3/12inch & TechDAS TDC01 Ti = (A:G/T) 

また、伝送方式に関しても次のように略称を設定しました。
この入力方式の設定変更はリモコンのセットアップメニューで行うのですが、
三階層まで深く降りて切り替えて変更するので手間がかかります。

そこでライン入力1をXLR2、ライン入力2をESLAとしてケーブルの差し替えにて
短時間で切り替え出来るように配慮しました。

ES-LINK Analog = ESLA
通常の電圧伝送 = XLR2

同時に今回の課題曲も重要な要素であり、各段階で選曲を切り替えていますが、
LPとCDにて同じアルバムを用意しました。

選曲の意図は単純ですがシンプルな小編成でアコースティックな曲であり、
少数の楽器で音像と音場感の両者を観察しやすいもの。

奇しくも両方ともに1978年の録音ですが曲層としては対照的な下記の二タイトルです。

先ずはこれです。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20200812153201.jpg

アルテュール・グリュミオー - グリュミオーのバッハ/ヴァイオリン協奏曲全曲 - 25PC-53
https://www.snowrecords.jp/?pid=90421082

ARTHUR GRUMIAUX / アルテュール・グリュミオー J.S.バッハ:ヴァイオリン協奏曲(全3曲)
https://www.universal-music.co.jp/arthur-grumiaux/products/uccd-9832/

J.S.バッハ:ヴァイオリン協奏曲 第1番 イ短調 BWV1041
第1楽章:(Allegro moderato)と第3楽章:Allegro assaiの二曲のみ使用します。
これは[J.S.バッハ]と表記します。

次はこれです。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20200814133252.jpg

How Long Has This Been Going On? / Sarah Vaughan
https://artist.cdjournal.com/d/how-long-has-this-been-going-on/4108121022

このB面では伴奏楽器はひとつ、つまりヴォーカルとのデュオという極めて小編成の
録音がありレイ・ブラウンのベースだけという9.Body And Soulとルイ・ベルソンの
ドラムだけという10.When Your Lover Has Goneの二曲を使用しました。
これは[Sarah Vaughan]と表記します。

以上を使って私が試聴した過程を次のように示していきます。

Take.1  GR/C1X-(A:S/O)-XLR2[J.S.バッハ]

Take.2  GR/C1X-(A:S/O)-ESLA[J.S.バッハ]

Take.3  GR/C1X-(A:G/T)-XLR2[J.S.バッハ]

Take.4  GR/C1X-(A:G/T)-ESLA[J.S.バッハ]

Take.5  GR/C1X-(GR/D1X)-XLR2[J.S.バッハ]

Take.6  GR/C1X-(GR/D1X)-ESLA[J.S.バッハ]

Take.7  GR/C1X-(A:S/O)-XLR2[Sarah Vaughan]

Take.8  GR/C1X-(A:S/O)-ESLA[Sarah Vaughan]

Take.9  GR/C1X-(A:G/T)-XLR2[Sarah Vaughan]

Take.10  GR/C1X-(A:G/T)-ESLA[Sarah Vaughan]

Take.11  GR/C1X-(GR/D1X)-XLR2[Sarah Vaughan]

Take.12  GR/C1X-(GR/D1X)-ESLA[Sarah Vaughan]

ここからプリアンプを変更していきます。

Take.13  GR/C1-(GR/D1X)-XLR2[Sarah Vaughan]

Take.15  GR/C1-(A:S/O)-XLR2[Sarah Vaughan]

Take.16  GR/C1-(A:G/T)-XLR2[Sarah Vaughan]

Take.17  GR/C1-(A:S/O)-XLR2[J.S.バッハ]

Take.18  GR/C1-(A:G/T)-XLR2[J.S.バッハ]

Take.19  GR/C1-(GR/D1X)-XLR2[J.S.バッハ]

上記でお分かりのように先ずはLPにて特定のトーンアームとカートリッジにおいて
アナログソースの課題曲を聴き、組み合わせをそのままにES-LINK Analogで比較し、
その後にCDにてデジタルソースの通常伝送を、その後にES-LINK Analogで比較します。

曲を変えて同様な比較を行い、最後に聴いた課題曲の記憶が鮮明なうちにプリアンプを
旧型に切り替えて順番を逆にして前記と同じ流れにてプリアンプの違いのみを抽出し、
そのテーク数は19となりました。

つまり以前のように旧型から新型に切り替えて比較するという従来方式とは全く
逆の流れでGrandioso C1Xとは何かを浮き彫りにしていこうと試みたのです!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

先ずTake.1の最初の演奏を聴いた時の驚きと感動が素晴らしかったということ!

この課題曲のLPは42年前のアナログ録音です。これまでずっと聴き続けてきた
膨大な記憶があるのですが、正にその中で最高と位置付けられるものでした。

この[J.S.バッハ]は再生システムの鏡とも言える録音であり、それは再生音の
個性を示すものでもありますが演奏と録音が実に音楽的であり、言い換えれば
どんなシステムで聴いても音楽として楽しめてしまうものなのです。

私が日頃から目指している壮大な音場感と緻密な音像という観点を思いっきり逸脱
しても、音質そのものはアーチストの目指した音の方向性として多数の傾向があり、
音楽鑑賞という広義で言えば、どんな再生音でもそれなりに楽しめてしまうものです。

つまりは、この録音だったらこのように聴こえなくてはならないという一方的な
音質傾向の定義があるわけではなく、絵画で言えば写実的なものと抽象的なものの
両方ともに認められてしまうように、再生側の選択と解釈によって楽しめてしまう
という傾向があります。

大事なことは再生システムによって起こる音質の変化量、変化領域が大変大きく
広いという事なのです。だからこそ再生システムの鏡という表現を使ったのです。

一般的にはアナログの音は雰囲気があり温かみがあるというイメージで語られる
ことが多いと思いますが、最初のTake.1を聴いた瞬間に既成概念は吹き飛びました!

冒頭からグリュミオーの力強いアルコから始まり、動機的展開のソロとトゥッティーが
絡み合うように結びついていく。

「お〜!このヴァイオリンの質感の芳醇さと明晰さは何としたことか!!」

グリュミオーをとり囲むソリスト・ロマンドの各パートが各々の配置を後方に
展開させ、楽団を俯瞰したときの状態を見事に聴き手にイメージさせる!!

グリュミオーのヴァイオリンがこれまでに聴いたときよりも濃厚な印象を受ける。

いや、正確に言えば音像の中身がしっかりしていて楽音のエネルギーを周囲に
撒き散らすことなく包括し、アナログだからということで曖昧な音像をふわふわと
浮かせると言うことがない。

これはバックを務めるソリスト・ロマンドのヴァイオリンやチェンバロなどにも
共通して言える。くっきり楽音の“芯”が見えてくるが、その音の“核”の部分が
過去の記憶と比較して素晴らしく鮮明になっている。

スタジオ録音の打楽器やリズム楽器のように点として楽音の発祥ポイントを
イメージできない弦楽器なので、その輪郭がくっきりと黒い線で描けるような
イラスト風のイメージではなかろう。

むしろ水彩絵の具を、水を多く含ませた筆によって引き伸ばしていくうちに、
その色の濃い部分が自然に薄れていくように色彩感の濃淡で聴き取ってしまうのが
弦楽器かもしれない。

TechDAS	Air Force Oneで聴いた、このバッハは各奏者の存在感を大変くっきりと
鮮明に再現する。しかし、その質感には今までにない楽音のコアと周辺に拡散して
いく余韻感のセパレーションに私は着目した。そう、静かだ!!

スクラッチノイズが大変少なく、またノイズの発生が極めて短時間であり尾を引かない。

レコードがターンテーブルシートの上に浮いている状態では、音溝に含まれる
ノイズの原因となる傷やホコリなどの要素をスタイラスチップが通過するときの
反作用で大きな雑音として再生される。

しかし、Air Force Oneではレコード自体が完璧に32Kgのプラッターと一体化して
いるので、針先と音溝の摩擦による反作用でレコード盤面が微妙に振動し、それを
ピックアップするということがない。

このノイズフロアーの低さが私の記憶にあるグリュミオーのヴァイオリンの質感を
変えてしまったようだ。

とにかく以前に聴いたグリュミオーのヴァイオリンという音像表現が究極的に
縮小され、HIRO Acousticのセンターにくっきりと屹立するかのアルコに驚く!

それがTake.2でES-LINK Analogに切り替えた瞬間に、この演奏に光が降り注いだ!

絵画の世界では光の印影を表すために、物の影を描くことと同時にハイライトと
して光が当たる場所に微妙な白を上塗りすることが良くある。

しかし、描きたい対象の上に白、下に黒という単純な手法ではなく、ESLAにすると
ヴァイオリンそのものに光が当たり、飴色の輝きが楽音の響き全てに行き渡る!

アナログ再生にして前代未聞の絞り込まれた音像として描かれるヴァイオリンは
もちろんのこと、伴奏弦楽器とチェンバロ全ての輝きが増し空間の輝度を高める!

それは余韻感の増量として空間に拡散し、Grandioso C1Xに搭載された高音質を
追求するESOTERIC独自の集積型アンプモジュール「Integrated Discrete-Amplifier 
Module IDM-01」による情報量の拡大という狙いに直結する印象をもたらしている!

そして、フォノアンプE-02とGrandioso C1Xによって初めて実現したアナログ再生に
おいて、いかにESLAの威力が素晴らしいのかを最初の課題曲で思い知ったのです!

はやる好奇心に背中を押され、この感動的なアナログ再生の要因は何かと私は急ぎ
Take.3としてピックアップの上流に変化を与えることにした。

当フロアーのセッティングの都合上、プリアンプとターンテーブルの距離があり、
アームリフターで針を落としてから急ぎ足でセンターポジションに駆け戻る。

間に合った!
ガイドループをたどる数舜のサーフェスノイズの後、グリュミオーのヴァイオリンが蘇る! 

「あ〜美しい! 音像サイズはほぼ同じだが、しなやかさが加わり絶妙な音色だ!」

私は今回Air Force Oneをツインアームとして二種類のピックアップを設定したが、
アナログ再生の機微として異なる個性と魅力の二種の音を聴くべきと考えた事に
大きな意義があると直ちに実感した。

ダブルナイフエッジという軸受け構造のリジッドな質感と言えるSAEC WE-4700と
いうトーンアームに、超広帯域を直感できるOrtofon MC Anna Diamondという組み合わせ。

その忠実無比な音像表現でありながら、音色として多層構造の響きの要素を正確に
引き出していくOrtofonのフラッグシップモデルの素晴らしい情報量との対比が見事!

SAECとは好対照のワンポイントサポートという軸受け構造による初動感度の素晴らしさ。

しかし一点支持のためオイルダンプを必要とするGRAHAM ENGINEERINGのロングアーム
PHANTOM 3/12inchに取り付けたTechDAS TDC01 Tiの堅実であり土台がしっかりした
再生音との対比。

カートリッジとしては両者ともに最高峰のモデルだが、E-02とGrandioso C1Xよって
実現したESLA伝送において、私はトーンアームの個性と実力をしっかりと確認していた。

エッジを鮮明にして音像の輪郭を克明に描き出すSAEC、音像の解像度を維持しながらも
根を張った低域をベースにして響きの美しさを聴かせるGRAHAMとの対比が素晴らしい!

逆に細かいニュアンスと余韻の拡散が素晴らしいMC Anna Diamondというピックアップ、
ディティールをくっきりと描きながら分解能の素晴らしさを誇るTDC01 Tiという
二機種のカートリッジは使用するトーンアームを交換しても個々の魅力は変わらない。

さあ、Take.4だ! 

ESLA伝送で起こった楽音の質感の変化、同時に音像の縮小と余韻感の増大。
予想していた変化の方向性はピックアップが変わっても健在であり、前述のように
演奏空間全体に光が降り注ぐという表現がTake.4でも確認された!

アナログソースの課題曲ひとつに四種類の比較試聴を行い、ESLA伝送の素晴らしさが
実感され、新製品を最初に試聴するという今までと違う順番が感動の鮮度を高めていた!

そして、ここでまったく同じタイトルのCDによるデジタルソースによるTake.5だ!
最初に通常の電圧伝送によるXLR2で比較。リモコン操作が出来きて楽になった。
すると…

「あれ…、D1Xってこんな音だったかな〜? もちろん悪くはないが物足りない…」

最高レベルのアナログソース四種を聴いた後で、今まで聴き慣れていたGrandioso D1Xの
第一印象は図らずも従来の印象とは少し違っていた。何が物足りないのか…?

第一楽章で直感し第三楽章でも疑いは晴れず、再度トラック1に戻して聴き直す。

私はアナログよりデジタルの方がクロストークが少ない分だけ音像サイズは小さく
なるものという認識でいたのですが、どうも少し違う…、こちらの方が微妙に大きい…

四種のアナログソースでの再生音ではノイズフロアーが極めて低く、確実に全ての
余韻感を聴き取ってきたという自信があり、ピックアップの個性によって音色の
異なるLPの音質に最高評価をつけていたのだが、Grandioso D1Xでも第三の余韻感と
して見事な響きの多層構造を聴かせてくることはそうなのだが…、どうにも前者で
比較した音質のグレードが高すぎたのだろうか…?

多少の戸惑いと聴き慣れていたはずのGrandioso D1Xに切り替えてからの得点が低く
感じられてしまったのは、もしかしたらGrandioso C1Xのせいなのだろうか?

だって今までGrandioso D1Xの素晴らしさを聴いてきたのはGrandioso C1だったのだから…。

その答えがTake.6にあるのかもしれない! D1XのアナログアウトをESLAに切り替えた。

「おー! これは何とした事か! D1Xの素晴らしさとはこれ! この音ですよ!」

グリュミオーのヴァイオリンの音像がギュッと絞り込まれ色濃くなった音色に豹変する!
同時に響きのレイヤーは三割増しとなり、余韻感の滞空時間が延長されたように漂う!

そうか! デジタルかアナログかの違いではなく、ES-LINK Analogかどうかだったのか!

ソースコンポーネントのグレードを気にする前にESLAの有無がこんなにも違うとは!

悩んだ受験生が試験の後に模範解答を見せられたような思いで、Take.7で曲を変え
今まで感じ取ってきた変化の傾向と分析が鮮明なうちに[Sarah Vaughan]に取り組む。

9.Body And Soulはレイ・ブラウンのベースの録り方がオフマイク的に距離感があり、
ヴォーカルの傾向を聴くにはいいが、ノンリバーブの鋭いルイ・ベルソンのドラムが
印象的な10.When Your Lover Has Goneに焦点を合わせて聴き始めた。

あ〜、我慢が出来ない! 次だ、Take.8にしてESLAで聴かくなくては!

「あ〜、やっぱり、そうきましたか〜! もうESLAでは音のテンプレートが出来たぞ!」

9.Body And Soulでのベースよりもヴォーカルのリバーブの違いが凄い。

ESLAにするとSarah Vaughanの口元がチャーミングに細くなり、バランスエンジニアが
コンソールのリバーブノブのクリックをみっつほど上げたのではなかろうかという
ほどに余韻感が増量する。これはいい!!

10.When Your Lover Has Goneではドラムの最初の一打からして違う!

タムにヒットする瞬間が破裂音と言いたいぐらいに鋭さを増し、タイトなキック
ドラムの連打ではビーターのアタックが加速されたようにインパクトの瞬間が見えてくる!

連続する楽音としてのヴァイオリンとは違い、ヴォーカルとドラムだけという
シンプルな演奏においてもESLAの効果は絶大であり、しかも前述のようにトーン
アームの個性としてSAECの魅力がズバリ感じ取れる変化。これはいい!

Take.9でのピックアップの変更も予想通りの変化。このヴォーカルはいいですね〜!
それとキックドラムの重量感が高まったような変化も好ましい。さすがです!

Take.10でESLAに切り替えると…。お〜、このヴォーカルはいいですね〜。

ストンと音程が下がった時のSarah Vaughanの歌声の肉厚感、ビブラートを利かせた
スキャットの巧さ、歌声の構成要素のすべてに情報量の拡大をもたらすESLAに納得!

TechDAS TDC01 Tiの魅力がドラムのテンションに表れ、引き締まった打音が爽快に
響き渡るダイナミックな演奏で思わずボリュームを上げていきたい誘惑にかられる!

Take.11でCDに切り替えると…。

「いや〜、想像はしていたが…、悪くはないんです…、しかし…」

微妙にサイズアップした音像のヴォーカルは、それなりに魅力的かもしれない…。
そのリバーブは前のテークより控えめに聴こえてしまうのはなぜ…。
デジタルなんだからドラムの切れ味は鋭くなって当然なのだが…。

人は現金なもので一度経験してしまった高いレベルが忘れられないものであり、
最高峰のアナログソースと比較して前曲同様にGrandioso D1Xの総合評価に関して
物足りなさがあり、このテークの試聴は早く終わらせたいという正直な気持ち。

Take.12でESLAに切り替えると…。

「参ったな〜、これじゃ後戻りできない! D1XでESLAはマストでしょう!」

9.Body And Soulでは当然のことながらスクラッチノイズがない背景に見事な
ヴォーカルが浮かび、Sarah Vaughanの太い歌声にかけられたリバーブが周囲の
空間に余韻のオーラをなびかせ、デジタルソースの本領発揮と言わんばかりの
広大な音場感を展開する! これは素晴らしい!

10.When Your Lover Has Goneではドラムの一打ずつで音像サイズが縮小した功績として、
インパクトの瞬間のエネルギー感を増強するという副作用が認められ、このドラムが
ブラシで叩かれているという事を忘れさせてくれるほどのスリリングな演奏に変貌する!

興奮のうちに12テークの試聴を行ってきたが、ここで私は新たな悩みに直面した。

Take.13以降ではプリアンプを変更して、確かに同じ課題曲を6テークも試聴したのですが、
それを何と表現してよいのか言葉に困ってしまったのです。

大変申し訳ないのですが、この6テークの感想は一言にさせて頂きます。

「Grandioso C1は過去のものになってしまいました…」

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

以上は最も時間をかけて慎重に入念に比較試聴した19テークでしたが、
この他にも時間が許す限り出来るだけ多くの曲を聴き続けていました。

それら全ての印象を語ることは前述の評価を言葉を変えて同意義に述べることに
なってしまいますので、仕上げとして最近よく使用する課題曲にて次のテークを
比較試聴してみることにしました。その選曲とは下記のアルバムです。

■Espace 溝口 肇 best
http://www.archcello.com/disc.html
http://mizoguchi.mystrikingly.com/

Take.20  GR/C1-(GR/D1X)-XLR2[溝口 肇 Tr.1 Espace]

Take.21  GR/C1-(GR/D1X)-XLR2[溝口 肇 Tr.2 世界の車窓から]

Take.22  GR/C1-(GR/D1X)-XLR2[溝口 肇 Tr.10 Offset Of Love]

Take.23  GR/C1X-(GR/D1X)-XLR2[溝口 肇 Tr.1 Espace]

Take.24  GR/C1X-(GR/D1X)-XLR2[溝口 肇 Tr.2 世界の車窓から]

Take.25  GR/C1X-(GR/D1X)-XLR2[溝口 肇 Tr.10 Offset Of Love]

Take.26  GR/C1X-(GR/D1X)-ESLA[溝口 肇 Tr.1 Espace]

Take.27  GR/C1X-(GR/D1X)-ESLA[溝口 肇 Tr.2 世界の車窓から]

Take.28  GR/C1X-(GR/D1X)-ESLA[溝口 肇 Tr.10 Offset Of Love]

ここでは旧製品にて課題曲を聴き、それを元にして次にGrandioso C1Xに切り替えて
最初に通常のXLR2で、最後にESLAとしてプリアンプの進化に沿った順序で比較試聴
していったものです。

このディスクは最近のケーブルやコンポーネントの評価に多用するようになり、
チェロという楽器は録音センスによって音像サイズが大きく変化する事に注目。

ホール録音などではチェロが演奏する音階が高くなると音像は小さくなり、
反対に低音では音像が大きくなるという傾向がスピーカー再生ではよくあること。

ところが、このディスクではスタジオ録音として楽器ひとつずつの鮮明さが大きな
前提となっていますが、チェロの音像サイズに関してはホール録音のような傾向は
見られず、各々きっちりとトラックごとにコントロールされているものです。

演奏する音階に関係なくチェロの音像サイズが小さい順では「10.Offset Of Love」
次に「2.世界の車窓から」そして「1.Espace」が最も大きな音像として聴こえる。

更にチェロとの遠近感という観点では手前に張り出してくるような至近距離で
聴こえるのは「1.Espace」であり、伴奏楽器と横並びの遠近感ということでは
「2.世界の車窓から」となり、そして「10.Offset Of Love」におけるチェロは
伴奏楽器よりも奥深くに位置する遠近法が感じられる。

この聴き慣れた選曲ですが、Take.20からTake.23までは今までの音ということ。
上記のアナログソースを使っての比較とは逆に進化の足跡をたどっての試聴です。

先ず最初の衝撃はTake.23からでした…。

この曲でのチェロは主役の位置づけが明確であり、ソロで始まった瞬間から巧妙な
スタジオワークにおいて素晴らしいリバーブによる広大な音場感が聴きどころです。

Grandioso C1Xにおける数々の新技術がどこに表れてきているのか、先ずはチェロが
発する多彩な響きが作り出す音場感の変化に驚かされたのです!

「あ〜、これはいかん! こんな埋もれていた余韻がまだまだあったのか!」

空間表現はどれだけ微細な響きを再現できるかというポイントにかかっているものですが、
通常の電圧伝送においてもチェロの発する余韻感は三割増しという直感があり、
D1Xというアナログ信号の最上流からもたらされる情報量の格差に唖然としてしまいました!

弦を擦る摩擦感が耳に心地いいバイブレーションをもたらし、その振幅が次第に
弱く細かくなって響きのレイヤーを構成するのですが、余韻の消失点が延長され
改めて視線を上下左右に動かして楽音をトレースし直さないと空間サイズが追い
きれない程に拡大しているのです! これには驚きました!

そして特筆すべきことはスピーカーセンターにくっきりと定位する音像の鮮明さです!

これは特に音階が高くなっていった時に姿を現すのですが、摩擦感の根っこというか
最も音色が濃厚になっているポイントが視覚的に切り取り出来るほどの輪郭なのです。

Take.24では冒頭のキックドラムの音像とテンションの引き締まった変化にハッとする!

これは他の課題曲での低音楽器にも言える共通項ですが、インパクトの瞬間で
ストロボ効果のように垣間見える打音の発祥地点を明確に察知することができ、
余韻を残す楽器とは対照的に残響の尻尾にあったエネルギーを打撃の瞬間に折り返し、
キックドラムの立ち上がりに厚みと重量感をもたらすのですから堪りません!

その後の左右に展開する金物パーカッションの切れ味も同様に鋭さを増すのですが、
その残響成分が空中に留まっている時間軸が引き伸ばされ、打音のひとつずつが
音場感を構成するという芸当に舌を巻く。いやいや、これはいいです!

Take.25ではセンターの奥に距離感をもって浮かぶチェロが印象的なのですが、
そこから放たれる余韻は左右ではなく天井に向かって伸びあがっていくという
展開の素晴らしさが倍加してセクシーなチェロの旋律が際立ってくるのです!

音像の縮小と音場感の拡大。常々私が求めている方向性がここでも確認され、
右チャンネルの後方にたなびくような響きを伴って登場するオーボエの姿。
センター右寄りに少し遠くにセットバックして表れ短いフレーズでのピアノ。

どの楽音のサンプルをとってみてもGrandioso C1Xにおける多項目の情報量が
増加しているということが確認されていきます! 

そして、極めつけはここからだったのです!

Take.26 …聴き慣れた課題曲にてGrandioso D1XからGrandioso C1XへとES-LINK 
AnalogによってGrandiosoの血統がつながった瞬間の驚きと感動が私を揺さぶった!

1.Espaceの冒頭から摩擦感を含むごりっと手応えを感じるチェロが眼前に出現!
ゆったりとしたアルコで弾かれる低音階のチェロが響きの奔流を撒き散らす!

何と低域の信号には未知の余韻成分がこれほど含まれていたのか!
チェロの低音が発する音場感は直前に聴いた電圧伝送とは桁違いに広大であり力強い!

そして、敏感なHIRO Acousticのウーファーは立ち上がりだけでなく、残響成分の
抽出にも威力を発揮することは承知の上だが、余韻を拡散していく広範囲な領域は
思わず上半身を反らせて見直さないとフォロー出来ない程のスケール感となっていた!

更に音階が高くなるにつれて、楽音の粒子がスピーカーのセンターに収束しはじめ、
以前とは違う求心力をもって音像を形作っていく耳で感じる情景描写に息をのむ!

これは凄い! 初体験のチェロが私の前にそそり立っていく!

不思議なことに時折り弾かれるピッチカートの余韻感は弱音であるはずなのに生気に富み、
センター左寄りからそっと入ってくるセカンドチェロの響きと交差しながら余韻をはらみ、
楽音の中心部から周辺に拡散していく響きのグラデーションが更に多層化してくる!

プリアンプのボリュームは同じはずなのに、躍動感の高まりは音量が上がったかの
ような錯覚をもたらし、力強くなったチェロの音色は同時に密度感を高めている!

音像の絞り込みと音場感の拡大という相反するような変化の方向性がES-LINK Analogの
真骨頂なのだと、D1XからC1Xに初めて血が通ったという興奮に私の体温は一度上がった!

Take.27 …冒頭のキックドラムの連打。あ〜、もう…ここからして大違い!

弦楽器という持続音でのES-LINK Analogの威力は前曲で思い知ったが、
打楽器でも瞬時に感じとれた。いや、この方が分かりやすい!

きったトランプはわずかに周囲に乱れがあるが、それをテーブルでトントンと均し、
滑らかな断面となって完璧な直方体となった瞬間の快感と例えたらどうだろう。

HIRO Acousticの膨らまない低音という大前提のもと、アナログ信号の伝送手段だけで、
キックドラムの質感をここまでびしっと気を付けをさせてしまう魔法があったのか!

鉄道の機関音を思わせる金属のパーカッションが左、右と素早く展開し余韻を撒き散らす。
その鐘が叩かれる瞬間の鋭さは真鍮を磨き上げた時の輝きにも似て鮮明鮮烈であり、
打音の余韻も延命されて空間を飛び交うような躍動感が与えられていた! これは凄い!

そしてセンターに表れるエレキベースの重量感にも変化がある。重くなった!
同じセンター定位のチェロとは明確な分離を示し、ぐっと沈み込むベースの快感。

前曲と同じ奏者のチェロなのだが、ベースと同様に水平方向での音像サイズは
広がることなく左右スピーカー間の1/3程度の範囲にくっきり浮かび上がる。

録音センスが異なりアコースティックな残響を振りまくというよりは、一定領域で
濃密な質感で弾かれるチェロにも前述で例えたハイライトが当たり解像度が高まる!

この曲のチェロは音階によって音像サイズが変化することはなく、伴奏楽器の数が
多いゆえに同列な距離感で定位し、背景の細かいパーカッションの鮮明さが際立つ。

ゆっくりとテンポを落としながら、センター奥でスネアの打音が響きながら次第に
フェードアウトしていく終焉部まで実に見晴らしのいい音場感が続く快感に唸る!

Take.28 …出だしのギターが何でこんなに!? 生々しいを通り越した立体感に息をのむ!

センター左寄りのギターの一弦ずつがほぐれて弾かれる分解能の向上が真っ先に感じられ、
右側で叩かれるコンガの切れ味が鋭くなり、その後方の空間でさらっと展開するピアノ。

出だしの数秒間を数えるうちに各楽音の鮮度向上には目を見張る違いが感じられ、
まるでひな壇の上段という高さを感じるセンターの奥で溝口 肇のチェロが始まる。

「1.Espace」でのチェロは躍動感のある男性的な演奏、「2.世界の車窓から」では
伴奏楽器と歩調を合わせた中性的なチェロ、そして、この「10.Offset Of Love」
では女性的なチェロと言える距離感と音像サイズがしっかりと確認できる。

三曲の中で最も音像は小ぶりで遠くから聞こえるのだが最もセクシーなチェロ!

その音色はメロディーラインにふさわしく滑らかであり、自分の立ち位置から上に
残響が伸びあがって広がっていくという展開がES-LINK Analogによって更に鮮明に!

ひな壇の最下段一番手前という位置関係でギターとパーカッション、その少し奥で
中段にピアノとオーボエ、その奥にチェロという遠近感が克明に描かれる気持ち良さ。

音場感とは空間表現でもあるが、それは余韻という響きの要素だけでなく遠近感と
定位感という三次元的な解像度によって描かれる再現性でもあり、個々の楽音の
質感が向上することでリスナーの位置関係も認識させてくれる臨場感が凄い!

そして終盤を迎えようとする時、チェロの背景に虹色の色彩感を刺すような秀麗な
ストリングスが展開していく。スタジオワークで補正された音色と分かっていながらも、
その美しさに聴き惚れる時間が愛おしい! これは素晴らしいです!

お気付きでしょうか、チェロという楽器が録音によって様々な個性を発揮する事。
冒頭で述べた万年筆の例えのように微細な細かく細い線、力強く滲みのない太い線。
この両方を表現する事の素晴らしさと難しさ。ESOTERICはそれを実現したのです!

Grandioso : 壮大な・堂々とした…の意味するところを私は考えた。
すべての音楽で壮大な情報量で音場感を描き緻密極まる解像度で楽音を描き出すことだと。

X化による進化を繰り返していく事に共通するものこそ、壮大な音場感を可能にし、
緻密な音像を提示するESOTERIC Grandiosoではなかろうかと!!

音楽を絵画として聴かせるGrandioso C1X、それが私の結論でした!!

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最後に述べておきたいことがひとつ。

オーディオ雑誌やネットでの情報は多々あれど、実体験として提供できる情報
発信力があるのがHi-End Audio Laboratoryだということ。

感動の共有こそH.A.L.の使命なのです!

川又利明
担当:川又利明
TEL 03-3253-5555 FAX 03-3253-5556
kawamata@dynamicaudio.jp

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