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H.A.L.担当 川又利明
    
2020年1月22日 No.1586
 H.A.L.'s One point impression!! - ESOTERIC Grandioso K1XPS新登場!!

             ■ 序章 ■

プロローグで述べている「挑戦への勇気」とはどういうことだろうか?

オーディオを含むエレクトロニクス製品を設計・開発する場合に、このくらいの
コストをかけて、この程度の音が出るものを作り、何台くらいの売上を見込むのか。

このような発想では既に存在している市場が過去のデータからどのくらいの商品数を
吸収してくれるかを推測・予測することかが出来るだろう。

それはシェアの取り合いでもあり、他社との競合においてセールスポイントとなる機能、
性能、デザインの三要素で競争力を発揮すれば販売実績は見込めるものだろう。

しかし、これは既存の製品のスペックとデザインとプライスという操作を行うための
開発という見方も出来るわけだ。

だがハイエンドオーディオの世界ではどうなのだろうか? 
そして、ここで言うハイエンドオーディオとはどういうものなのだろうか?

過去の随筆、第 41 話で「ハイエンド」という言葉の定義について、傅 信幸氏が
実に上手く表現しているコメントがあるので紹介したい。

「ハイエンドオーディオ機器は確かに高価である。しかし、金ムクのパネルだから、
 ダイヤがボリュームに埋め込まれているから高価なのではない。そんなのはまやかしだ。

 ハイエンドオーディオの設計者は自分に忠実でうそがつけなくて、妥協するという
 ことをあまり知らず、了見の狭いせいもあって没頭し、ただし一種の鋭い感は
 働いているが、その結果生まれてきたために高価になってしまうのである。」

「しかし、そうやって誕生した製品は、わかるユーザーを大変納得させる。
 ハイエンドオーディオの存在価値はそこにある。
 ユーザーは音楽とオーディオに情熱を注ぐ人である。

 そういうあなたと同じ思いをしている人たちの作った作品は、あなたの五感から
 更に第六感まで刺激するに違いない。それをハイエンドオーディオと呼ぶ。」

私は自分が目指しているもの、また第三者にハイエンドオーディオを説明する
ときにも度々引用させて頂く名言であると思っているが、今回の ESOTERIC における 
P-01 & D-01 のプロジェクトはまさにこの言葉通りの信念と行動力によるものだった。

このくらいのコストでこの程度の音が出るものを作ろう、という目指す音質基準が
前例のあるものであれば苦労は少ないものだ。

また、同程度の音質でコストを下げて商品化しようという開発もあるだろう。
しかし、そこには「挑戦への勇気」は見ることが出来ない。

果たして第一部でご紹介した大間知氏や開発グループの方々は、セット価格440万円と
いう高価なシステムを作り上げる場合に、当初の企画段階から開発過程、そして音質の
検証と練り上げという時系列の中で目指す音、求める音という具体的なターゲットを
特定し持ち合わせていたのだろうか? 

答えは NO であろう。

開発の段階で設計の自由度ということを繰り返し述べているが、技術者が本当に
やりたいことを妥協しないで、自分に嘘をつかずに、そして経営トップがそれを
認めたときに一体どんな素晴らしい音が出る作品が出来るのかという結果は誰も
知らなかったのである。

つまり、未知のものを作り上げるという情熱と信念があっただけなのだ。

440万円というプライスを付けて果たして何台売れるのか? 
価格にふさわしい音質とはどんなものなのか? 

それは時代が求めているものなのか? 
どんなショップが何社くらい取り扱ってくれるのか? 
企業としての採算は?

こんな疑問だらけで未知数ばかり、そして大きなリスクもあるだろうP-01&D-01の
プロジェクトを発進させたということは株式会社ティアック エソテリック カンパニー・
プレジデント大間知 基彰氏が上述のハイエンド思想の持ち主であるからに
他ならならないだろう!!

柔軟な発想をする有能な若手のエンジニアとチームワークによって、彼らの技術力と
感性による判断に妥協を許さず嘘をつかせず、これまで世界中に存在していなかった
素晴らしいものを作り出そうという執念があったからこその結果である。

だからこそ、ここに「挑戦への勇気」があったと言えるのだ。
そして、次は私にも同様な挑戦をするという順番が求められてくる。

ESOTERIC が情熱と執念で作り出したP-01 & D-01を開発した彼らが知らなかった
素晴らしいパフォーマンスを引き出し実演し証明するということだ。

そして、最後に期待されるのがユーザーである皆様の挑戦への勇気である!! 

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

上記は随筆「音の細道」第53話「VRDS-NEOの覚醒」第7部からの引用です。
http://www.dynamicaudio.jp/file/060906/oto-no-hosomichi_no53.pdf

この随筆の発表から早いもので今年で16年という歳月が過ぎたことになりますが、
今回紹介する新製品Grandioso PS1を語るに当たり上記の一節を再読して頂きたいと
いう強い思いがありました。その前提として下記の第52話もご紹介しておきます。

第52話「VRDS-NEO」  
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/oto/oto52-01.html

上記の思想のままGrandiosoの初代モデルが下記のように登場してきました。

No.1085 2013年12月2日
「遂にやってきました!!ESOTERIC Grandiosoは想像以上・期待以上!!」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1085.html

No.1088 2013年12月14日
「H.A.L.'s impression-壮大で緻密なESOTERIC Grandiosoを聴く-Vol.1」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1088.html

Grandiosoシリーズはセパレートアンプの開発も推進してきました。

No.1150 2014年10月5日
「H.A.L.'s impression-壮大で緻密なESOTERIC Grandiosoを聴く-Vol.2」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1150.html

この直後に登場してきたのがHIRO Acousticです!

No.1160 2014年10月25日
「音楽を裸にするスピーカー登場!!その名はHIRO Acoustic Laboratory MODEL-CCS!!」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1160.html

ここでのマスタークロックジェネレーターの開発でフルシステムを完成していきました。

2016年8月16日 No.1317
「H.A.L.'s One point impression!! - ESOTERIC Grandioso G1」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1317.html

更に初代Grandioso K1がここで登場してきます。

2016年12月7日 No.1350
「遂に常設展示開始しました!!これはペアで聴いて頂きたいGrandiosoです!!」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1350.html
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1349.html

そして、初代Grandioso P1+D1から6年目にして登場したのがこれ。

2019年3月4日 No.1531
「ESOTERIC Grandioso P1X & D1Xが満を持してH.A.L.に登場!!」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1531.html

2019年7月4日 No.1548
「H.A.L.'s One point impression & Hidden Story - ESOTERIC Grandioso P1X & D1X」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1548.html

VRDS-NEOからVRDS-ATLASへ、そして新開発のMaster Sound Discrete DACを踏襲して…

2019年9月5日 No.1560
「期待の新製品ESOTERIC Grandioso K1Xを試聴開始! これがまた凄いことに!」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1560.html

実は、この一か月前に持ち込まれたGrandioso K1Xのプリプロダクションモデルの
リアパネルを見た私が発した一言がありました。

「この端子は何!?」

DC INと表記されたごつい端子を見て、はは〜そういう事ね!と近い将来に期待して
いたものです。そのオプション電源の試作機を何とか作ってくれ、と要望して企画して
いたのが…

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

「昨年のマラソン試聴会に間に合わなかった秘密兵器が国内最速で登場!」

私がマラソン試聴会で世界初公開する特ダネがあります!!
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1565.html

上記の最後で次のように述べていました…

「その第三弾は2019東京インターナショナルオーディオショウでも取り扱わないものであり、
 正に私のステージだけでしか実演しないという世界初公開の音です! これは秘密です!」

いったい秘密兵器とは何か!?

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

その答えが上記のGrandioso PS1でした!
https://www.esoteric.jp/jp/product/ps1/top
https://www.dynamicaudio.jp/s/20200117173525.pdf

そして、国内初という事で試作機がH.A.L.に登場しました!
https://www.dynamicaudio.jp/s/20200117162017.jpg

Grandiosoシリーズが勢ぞろいしたことになります!
https://www.dynamicaudio.jp/s/20200117162026.jpg

発売前の試作機ですが音質的な完成度は万全ということで、今回集中して試聴する
ことが出来たのですが、果たしてその音質とは…


        ■ 開発した新技術を音にするため ■

この新製品を評価すべく私がコーディネートしたシステム構成を下記にご紹介します!

H.A.L.'s Sound Recipe / ESOTERIC Grandioso K1X & PS1 - inspection system
https://www.dynamicaudio.jp/s/20200117180802.pdf

思えば16年前のP-01+D-01を語った序章で当時としては前代未聞のセットで440万円と
いうプライスに驚いていたものですが、Grandioso K1XとPS1では400万円というお値段。

このGrandioso PS1という外部強化電源ユニットの価格が120万円という事に対して、
上記で私が使用したTransparentの電源ケーブルとアイソレーターの価格が253万円と
いう事になる非常識な組み合わせ。

2019年12月31日 No.1580「H.A.L.'s One point impression!! - Accuphase E-800」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1580.html

同様な事例として上記でも「オーディオシステムにおける相互補完と相互否定に関して」と
いう一節で私の考え方を述べていますが、被検対象にベストなコンディションを与えると
いうことはGrandioso PS1を擁護するものではありません。

極めて厳しい審査基準としてGrandioso PS1を裸にしてしまうシステム構成なのです!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

この試作機の滞在日数は三日間だけ。初日は小手調べという程度で二日目から
本格的な試聴を行いました。ここで重要なポイントを先に述べておきます!

★内蔵アップコンバーターの設定は16Fs、つまり705.6KHzにて行いました。

Grandioso PS1本体には一切の操作スイッチはありません。
接続したGrandioso K1Xの電源スイッチをオンにするとPS1も同時に起動します。

PS1使用前・使用後の比較は大口径DCケーブルを接続したり外したりを繰り返し、
接続変更をいちいち行って再起動させてからの試聴と手間のかかる作業です。

先ず最初に述べておかなければいけない大前提があります。

Grandioso K1Xを必ず先に聴き、その記憶が鮮明なうちにPS1を追加してという
段取りで比較試聴したわけですが、そもそもGrandioso K1Xという高レベルの
プレーヤーがあってこその評価ということを忘れてはいけないということです。

私はGrandioso K1XにPS1を追加した音質に関して述べるわけですが、PS1がなければ
K1Xが使い物にならないという意味では決してありません。誤解なきように一言。

この二日間というもの非常に多数の曲を試聴しましたが、確認のために同じ曲を
何回も繰り返すことがあり選曲の順番としては後述の通りではありません。

下記に述べる分析は理解して頂きやすいように配慮しての選曲順としてあります。
DCケーブルの抜き差しと電源の再起動を何回繰り返したか分からない程の回数でした。

■UNCOMPRESSED WORLD VOL.1
http://accusticarts.de/audiophile/index_en.html
http://www.dynamicaudio.jp/file/100407/UncompressedWorldVol.1_booklet.pdf
TRACK NO. 3 TWO TREES

演奏者はサックスとピアノというたった二人、大編成の演奏からではなく強化電源と
いう意味合いを分析するためには小編成の課題曲から聴き始めることに…。

ECMレコードの創設者マンフレート・アイヒャーが手掛けたような素晴らしい音場感を
聴かせる選曲。先ずGrandioso K1Xで二回ほど繰り返し記憶に焼き付ける作業から…。

Grandioso G1で高精度なクロック信号を送り込んでいるのが前提の音。一体型の
プレーヤーとして最高峰のクォリティーが感じられ、この段階で不満はない。

K1Xの電源スイッチをオフとしてメカの停止からシャットダウンまでしばらくの間。

PS1のDCケーブルを差し込んで再度電源投入し、K1XのディスプレーにGrandioso Xの
表示が現れてイニシアライズを待ち、その後TOCを読み取りトラックタイムが表示される。

毎回繰り返すルーティーンがもどかしいが、リモコンでスタートさせ思わず息を止め
最初の一音の登場を待つ、すると……

「えっ! なに! これ同じK1Xなわけ!? 嘘でしょうー! 脅威のドーピングじゃないか!」

VRDS-ATLASが生み出す解像度と分解能は音像の再現性に関して同一のはず。
PS1を追加してもK1Xのメカニズム駆動用電源はそのまま使用しているはず。

なのに音像の輪郭が別次元の鮮明さを見せるのはなぜ!
https://www.esoteric.jp/jp/product/ps1/feature

センター左寄りの空間でスピーカーユニットが存在していない中間定位という音源位置。
そこに出現したサックスの存在感が濃厚になる、エネルギー感がある、熱い音だ!

音像の輪郭表現を司る要素としてメカニズムの性能は大きな要素。
その電源は同じであるのに、音像そのものに肉厚感というか著しい質感の向上が
見られるので、音像サイズが縮小したように錯覚してしまう! この変化凄い!

センター右寄りの中間定位として現れるピアノの出足はゆったりした展開。
このピアノさえも打鍵ひとつずつの音像サイズが縮小したように聴こえる。

数秒間でも私の耳には多数の情報がインプットされ、HIRO Acousticによって分類
整理されたデータとして私の頭の中に並べられていく。

膨大な記憶の引き出しから、この課題曲のラベルがついたひとつを取り出して、
先程聴いたK1X単体での音質や過去に聴いた同じ曲での記憶をスキャンして
相違点と類似点を高速で弾き出す!

「この音は新種だ!」と、たちどころに結論がアウトプットされてきた!

Grandioso D1Xで開発された新開発のMaster Sound Discrete DACが搭載された
二機種目というGrandioso K1Xでの分解能と情報量の素晴らしさは既に確認済み。

音像の輪郭表現の鮮明化、音像サイズの縮小化という初期分析をしたはずなのに、
Discrete DACに対するK1Xのデジタル回路用電源もそのまま使用しているという
事実に再検証の必要ありと私の頭の中でフラッグが上がる!

最もシンプルな小編成の録音に関して、のっけから絶大な違いを見せつけられた
私脳は自分の手足に再検査を命じて、DCケーブルを外し電源オフの作業を繰り返した!

「なんと! そういうことだったのか!」初期分析の半分は肯定、半分は否定。

PS1によるDC電源の供給という変化は絶大な情報量の増加を生み出している。
それは音像という楽音の質感と、音場感という微小信号の再現性の両者に表れていたのだ!

PS1を追加すると余韻感が格段に向上し、その響きの領域が拡大され空間を広げる。
その変化のベクトルを感じた私は逆に音像が引き締まったのかと誤解していたと気付く!

海面に三角の頭を見せる文字通り“氷山の一角”という情景をイメージして欲しい。
水面下には見えているものの数十倍の体積という氷山の大きさを語る言葉。

その氷山が浮き上がって来たとしたらどうだろうか。海面上に見えていた三角形と
同じ傾斜を持つ氷山が姿を現し、今まで見えていたものと相似形の三角形が想像以上の
大きさであったことに驚く。

そんな水面下の膨大な情報量がGrandioso PS1によって浮き上がってきたのです!
音像サイズが縮小したのではなく、その楽音が発した響きの全体像が見えてきたのです!

よって今まで聴いていたサックスとピアノの楽音そのものに、こんなオーディオ的
質量があったのかと実感された! さて、スタジオ録音でシンプルな編成といえば!

■Espace 溝口 肇 best よりタイトル曲の1. Espaceです。
http://www.archcello.com/disc.html
http://mizoguchi.mystrikingly.com/

スタジオ録音によるチェロのデュオという選曲。ただし、Maxine Neumanのセカンド
チェロは控えめな演奏というかサポート役としての位置づけで、ほぼ溝口 肇の
演奏がセンターに音像を描く録音となっています。

その音像とは低音階ではゆったりと展開し音階が上がってくるときゅっと引き締まり、
チェロ独特の録音形態となるのがスタジオ録音のいいところ。

これがホール録音だと多くの音階でホールの残響を含んだ響きとなるため、
音像の造形としてはふっくらとしたシルエットになってしまうところ。

Grandioso K1Xのトレーにディスクを乗せたままで電源スイッチをオフにすると、
自動的にトレーがクローズしてディスクを取り込んでからシャットダウンすると
いう親切設計がありがたい。ひと手間省けます(笑)PS1を接続して再起動すると…

「おー! 音階ごとにPS1のご利益が得られるとは驚きだ! これ素晴らしいです!」

冒頭のチェロは低音階のアルコがゆったりと展開しますが、なんと低域の余韻感と
残響成分の内容が変化しているのに唖然とする!

低音部の余韻として拡散する領域が一回り広く大きくなっているので、同じ音量で
あるのにスケール感がアップしている。これは後述するオーケストラでも同様な
変化を示すのでクラシックを愛する人々には堪らない魅力となるだろう。

そして次第に音階が上がっていくと、左右スピーカーのセンターに演奏者が起立
したがごとくに音像サイズをぐっと縮小し同時に輪郭が更に鮮明になったチェロが浮かぶ!

そう、まさに浮かぶという表現が適切なように、高音階の弦の摩擦感かせ発する
バイブレーションの残響にひだが感じられるほどに空気の微振動として拡散し、
マスタリングによって施されたリバーブの職人技を見事に聴かせる! これ凄い!

前曲で“氷山の一角”という例えをしているが、それが水面に浮かび上がってきたと
したら、チェロのソロ演奏はこうなるだろうという同様な情報量の拡大が聴き取れた!

いい、実にいい! と、そのまま 2.世界の車窓から まで聴き続けてしまった。
すると、冒頭のキックドラムの連打、センターからのベース共に重量感を増加し、
前曲同様に音像が圧縮されたと感じてしまう変化に他のスタジオ録音も聴きたくなる。

いや、教会での録音とスタジオ録音とのハイブリットレコーディングとも言うべき、
ヴォーカルとコーラスの録音で先ずは確認してみよう…

■Kirkelig Kulturverksted  30 years’ fidelity
http://kkv.no/en/musikk/utgivelser/2000-2009/2004/divers/
そのトラック10. Mitt Hjerte Alltid Vanker - SKRUK / Rim Banna
https://www.youtube.com/watch?v=42fIQbjp3bY

パレスチナ出身のシンガーRim Bannaが冒頭の一分間でウッドベースだけを伴奏とした
ソロヴォーカル。その後にパーカッションが加わりSKRUKのコーラスが壮大な空間を創る。

DCケーブルを外し電源リセットからのルーティーンを繰り返しK1Xのみで聴く。

センターにぽっかり浮かぶヴォーカルは余韻感を周辺に振りまき、ベースの低音が
しっとりと背後に基点の音像を造形し、パーカッションの引き締まったテンションと
ピアノの打鍵の転がるような連打が聴き慣れた空間を創っていく。さて、もう一度…

「なに!? このヴォーカルの変化! ベースも共通、でもコーラスとピアノは!」

センター定位不在という前曲とは違い、HIRO Acousticのど真ん中に定位するヴォーカル。

その質感は濃厚になり実態感を倍加させ、ズームアップしたかのごとくに肉声の
細やかなバイブレーションが残響として空間に拡散していく情報量の激増!

ウッドベースの輪郭が引き締まった変化を確認するが、それは音像内部の低音が
肉厚になったというもので膨らまずに重量感を増したという分析で納得。

ここでも前曲で感じて低域の充実感があり、教会で録音されたコーラスの音場感と
絶妙にマッチしたスタジオ録音のソロヴォーカルと伴奏楽器の調和が素晴らしい!
その証拠は待つまでもなく次の合唱でのパートでチェックされた。

驚異的なのはSKRUKのコーラスが左右のスピーカーの更に両翼まで広がっていくと
いう空間サイズの拡大。女性コーラスのソロバートとして高音階の歌声がセンター
左寄りの空間から立ち昇った時の質感も変化し、滑らかさと艶やかさが加わる美声。

男性コーラスのハーモニーが構成する響きのレイヤーが更に力強さに満ち溢れるので、
低音階の合唱が教会という録音環境の広大な空間を見事に再現する醍醐味!

その男性合唱が歌い上げる空間の中でピアノの素早いタッチの演奏が絶妙の響きで、
PS1の追加によって余韻の滞空時間が引き伸ばされ美しい残響の名残りを中空に放つ!

この二曲によってPS1がK1Xに何をしたのか、という分析の第一段階に自信を持った。

VRDS-ATLASを駆動するK1Xの電源は同じだが、PS1追加によって一見したところ
音像サイズの凝縮という変化を感じるが、これは誤解であった。

メカニズムの優秀さが示す音像の描写力において、そのサイズを変化させるという
ものではなく、音像という楽音の中身に関して顕著な情報量の増加が起こり、
それは楽音のエネルギー感、濃厚さ、力強さとして感じられるので、対比として
音像の核というか中心部においてのリアルさが向上しているということ。

Discrete DACを動作させるK1Xのデジタル回路用電源もそのままだが、楽音の質感と
音場感を構成する微小信号の情報量も激増するので空間がスケールアップしてくる!

以上の音像と音場感という両者に対してGrandioso PS1追加の恩恵が確認された!
正に音像は引き締まり音場感が拡大するという私が求める方向性にジャストミートした!

楽音の数が少ないシンプルなスタジオ録音にて音像と音場感の変化を先ずは分析したが、
ではゴージャスで迫力満点の次の課題曲ではどうか!?

■FIFTY SHADES OF GREY ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK
  3.THE WEEKEND / EARNED IT(TRADUCIDA EN ESPANOL)
http://www.universal-music.co.jp/p/UICU-1262

もう何回繰り返したか忘れてしまったルーティーンでPS1を接続し直してみると…

冒頭から噴出するがごとくの音の洪水。スネアーの打音と共に低弦楽器の重厚な
低域がスピーカー周辺を埋め尽くす録音は相変わらずの迫力。しかし、この低音が!

「おおー! そうきますか! チェロの低音で確認したことがここでも!」

この曲も実に多数のシステムで聴いてきたものですが、同じソースコンポーネントで
電源強化という設定変更による変化に思わず唸り、驚き、驚喜してしまいました!

この怒涛の如くの低音部の展開に重量感と充実感の両方が付加されたことに痺れました!

重量感とはそのままで不思議なものですが低弦楽器の音色が濃厚になった変化です。
充実感というのは重たくなった低音の残響が拡散していく範囲が驚くほど拡張した
ということで、低音が消滅するまでの時間軸が延長されているという事なのです!

そして、その低音と同期して叩かれるスネアーの打音の輝度が高まっています。
それと同じ定位のヴォーカルがセンターに登場すると、ここでまた、ため息です!

チェロの高音階での音像の引き締まり効果という表現をしましたが、THE WEEKENDの
歌声は正にそのポイントと一致する声質であり脅威の引き絞り効果で登場します!

その引き締まった音像というのは前述のようにサイズダウンというよりも、
歌声そのものの濃密感を高めていて、その上でリバーブが増量されたかのように
周囲の空間に溶け込むようにして消滅していく時間軸が延長された快感なのです!

この曲ではセンター定位のヴォーカルに寄り添うように、途中で数フレーズの
短時間の演奏ですがピアノが心地よさそうにセンター右寄りの空間に表れます。

私が心地よさそうと表現したのは打鍵の一音ずつが際立って鮮明に変化しており、
その一音ずつが空中に漂うような響きを残しながら消え去っていく美しさに私は
この時に気が付いたからなのです! 

同様な伴奏楽器の充実感はパーカッションにも細かく刻まれるストリングスにも表れ、
この課題曲が迫力だけでなく美的な観察ポイントもあったのだとPS1に教えられました!

そして…、いよいよオーケストラです!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

この二日間に聴いた課題曲は多数のあるのですが、聴き進めるうちにPS1使用前と
使用後の変化が予測出来るようになってきました。

マーラー:交響曲第1番ニ長調「巨人」(1893年版 花の章付き)
https://www.kinginternational.co.jp/genre/kkc-6022/

このトラック2より1893年版での第二楽章である「花の章」を先ずかけてから…。
Grandioso PS1を追加して再度聴き始めたのですが、あまりの変化と感動になんと!
時間を忘れて全楽章を聴き続けてしまいました!

このフランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)レ・シエクルでの録音は2018年の
最新テクノロジーによる高品位なデジタル録音ですが、使用している楽器は
ピリオド楽器ということで百年前の楽器を集めて録音されたものです。

ですから近代的なオーケストラで聴ける弦楽器とは違うガット弦で高音階が微妙に
ひきつったような印象があり、管楽器もドイツ製とオーストリア製という古いもので
暗い音色と音量が小さいという特徴があります。

つまり、作曲者が当時聴いていた楽器を使用して、マーラーの感性を忠実に再現
しようという試みによる、最新録音により忠実度を高めた時代物の楽器による演奏なのです。

先ず最新録音であるがゆえに各楽器の音像の捉え方は極めて鮮明であり、更に
指揮者の感性によるものかマスタリングによるリバーブの追加が極めて淡泊と
いう特徴もあります。

K1Xのみで「花の章」を聴き、PS1を追加して同じ楽章を聴いたのですが…

「おー! スタジオ録音で分析した傾向がホール録音でもドンピシャリ一致したぞ!」

先ずは音像の在り方はサイズの縮小ではなく楽音そのものの変化として鮮明さを増し、
その対比として空間表現が実に広大な視野として展開する見事さに息を飲みます!

そして、その変化は後述する近代的なオーケストラの録音との対比とも言えるものでした。
この曲でPS1を追加するとピリオド楽器という音色と質感と違いがより大きく感じられるのです!

つまり、弦楽器の音色はガット弦によるものなのか、その質感は明るくなります。
情報量としての余韻感や倍音成分の在り方も含めて摩擦感が鮮明になるのですが、
同時に潤いも感じられるようになり余韻感の延長という演奏のうま味が感じられる!

同時に木管楽器の時代を感じさせる響きのふくよかさが増量し、金管楽器の音色は
まさにいぶし銀の質感と言えるつつましさがあり、総じて管楽器の暗い音色という
傾向が確実に伝わってくるという変化で聴いていて心地よいのです!

更にグランカッサやティンパニ―という打楽器に関してもマスタリングでの操作が
極力抑えられているせいか、デフォルメされた音像の肥大がなく一個の楽音として
ステージ上での音像サイズが維持されて響くので遠近感もしっかりと認識できます。

ピリオド楽器らしさが更に聴き取れる変化をGrandioso PS1がもたらしてくれたことで
オーケストラの多様な録音センスというものが聴き分けられるようになり楽しいのです!

■マーラー交響曲第一番「巨人」第二楽章 小澤征爾/ボストン交響楽団

ここで私は定番の課題曲を聴くことにしたのですが、近代的な楽器によるデジタル
録音ではGrandioso PS1の効果が上記とは異なる方向性で感じられたことに驚きました。

それは上記のフランソワ=グザヴィエ・ロトの感性によってピリオド楽器の質感を
どのように録音したかという手法と真逆の傾向が聴き取れたからです。

「おー、なんとゴージャスなマーラーだろうか!」

長年聴き続けてきた課題曲ではありますが、上記のマーラーに対してマスタリングに
よってオーケストラの各パートの質感が実に華やかであるという事なのです。

弦楽五部が同じ音階を違う楽器で演奏した際の音色の違いが更に鮮明になり、
特にヴァイオリンの音色に関しては滑らかさ艶やかさが増量された感じになります。

木管楽器などは吹き始めた瞬間にクローズアップされたように音量感が増量し、
個々のパートともにソロでの演奏の際にスポットライトを当てたように感じます。

金管楽器などは音色と音量の両方で華やかさが加わり、PS1の追加によってホール
全体に響きを広げて行くようなスケール感の拡大が感じられます。これはいい!

上記のフランソワ=グザヴィエ・ロトのセンスとは対極的にマスタリングによる
演出が商品としての面白さを狙ったものという印象がPS1によって引き立てられた
という解釈で私は納得しました。その変化を知ってしまった後戻り出来ないでしょう!


     ■ セパレート型ディスクプレーヤーの新定義 ■

前述のようにGrandioso K1Xの発売段階で既に強化電源を開発するという計画が
あったという事を述べましたが、Grandioso P1XとD1Xの開発段階で完成させた
新技術の重みと重要さということをESOTERIC開発陣は強く自覚していたのでしょう。

VRDS-ATLASとMaster Sound Discrete DACを核とした新世代Grandiosoにおいて、
その可能性の大きさを知るがゆえにPS1という手段を考え付いたと思われます。

私は過去に名器と評価したセパレート化したプリアンプの構成を思い出していたのです。

シグナルパスのオーディオ回路とコントロール機能をひとつのユニットとして、
電源部を別にしたもの。JEFF ROWLANDのCoherenceを思い出しました。

コントロール部と電源部をひとつのユニットとして、オーディオ回路を別として
純粋なシグナルパスを実現しようとしたもの。MarkLevinson No.52が思い出されます。

その他にも歴史的にはセパレート型プリアンプは多数ありますが、いずれにしても
上記の三項目をどのように分けるかという手段にメーカーの選択と個性が見て取れます。

ここで、序章で述べたP-01 & D-01を思い出して下さい。初代P-0から別電源とした
トランスポートP-01の意味、業界初のモノラルDACとして左右個々の電源部を必要
としたD-01の存在価値。

一般的には電源内蔵のディスクトランスポートと電源内蔵のDACという2ユニットで
セパレート型CDプレーヤーは構成されますが、前述のプリアンプの事例のように
構成内容を再構築ということで、メカとコントロール機能とDACを1ユニットとして
電源部だけで1ユニットとしたセパレート型プレーヤーが存在しても何もおかしく
ありません。いや、K1Xの内蔵電源の一部は継続使用されるのは例外として…

ESOTERIC開発陣は長年の経験と最新技術の対比からも、電源部の独立と強化という
ことが音質的にどれだけの貢献をするかという事を知っていたわけです。

しかし、商品としての戦略的意味という宿命も私は理解できるものです。
そこにGrandioso K1Xの設計ポイントがあったわけです。

私は上記にて「この音は新種だ!」と述べましたが、ESOTERICという血統は確実に
継承されていますが、その音質に新種Grandiosoを発見した思いなのです!

この画像を再度ご覧下さい。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20200117162026.jpg

Grandioso P1X+D1XとHIRO Acousticというスピーカーを駆使して比較試聴出来る
のはここだけです。そして、禁断の同族比較をしてしまったのです! そして…

私は新たな新製品として次の新種Grandiosoを発表したいと思います!

ESOTERIC Grandioso K1XPS 絶別定価¥4,000,000. これです!

私は長年に渡りESOTERICとのお付き合いがありますが、価格の制約を排除して
今までにないものを作りだそうとするロマンチシズムをしっかりと持っている
数少ないブランドであるということを高く評価しているものです。

序章で述べていた一節を再度見直して頂きたい。

「未知のものを作り上げるという情熱と信念があっただけ」

私がESOTERIC製品に惹かれるのは、この情熱と信念があるからなのです!

そして、最後に期待されるのがユーザーである皆様の挑戦への勇気です!! 

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この新製品に関してもハルズサークル会員限定企画を実施しています。
この機会にどうぞご入会頂ければとお薦め致します!
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/circle.html

川又利明
担当:川又利明
TEL 03-3253-5555 FAX 03-3253-5556
kawamata@dynamicaudio.jp

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