発行元 株式会社ダイナミックオーディオ
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H.A.L.担当 川又利明
    
2016年11月17日 No.1347
 H.A.L.'s One point impression!! - Kiso Acoustic HB-G1 Vol.2

H.A.L.'s One point impression!! - Kiso Acoustic HB-G1
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/1344.html

ほぼ毎日HB-G1を聴き続けています。上記の試聴体験から今だ興奮冷めやらず、
そして更なる可能性を追求したいと思わせるスピーカーなのですから!!

オーケストラでの素晴らしさでベースシステムを導入したKiso Acousticの新機軸を
感動のうちに実感した訳ですが、それが低域の増強という事だけではないという
ことは述べてきましたが、私が次なる焦点を当てたのはヴォーカルというジャンルです。

感動しないと書けない私ですが、背筋を這い上がり脳天にガツンと響いた歌声を
聴かせてくれたのは更にチューニングした下記のシステム構成です。

◇ H.A.L.'s Sound Recipe / Kiso Acoustic HB-G1-inspection system  Vol.2 ◇

………………………………………………………………………………
dCS Vivaldi Clock (税別¥2,120,000.)
http://www.taiyo-international.com/products/dcs/vivaldi-clock/
     and
TRANSPARENT XLPC+PI8 (税別¥770,000.)
http://www.axiss.co.jp/brand/transparent/power-code/power-cord-2/
     and
finite element MR02-2+CERABASE 4P (税別¥970,000.)
http://www.axiss.co.jp/brand/finite-elemente/finite-elemente/
………………………………………………………………………………
                ▽ ▽ ▽

Cardas Audio Lightning BNC Cable
http://www.taiyo-international.com/products/cardas/digital/

                ▽ ▽ ▽
………………………………………………………………………………
dCS Vivaldi Transport (税別¥5,230,000.)
http://www.taiyo-international.com/products/dcs/vivaldi-transport/
          and
TRANSPARENT XLPC+PI8 (税別¥770,000.)
http://www.axiss.co.jp/brand/transparent/power-code/power-cord-2/
     and
finite element MR02-2+CERABASE 4P (税別¥970,000.)
http://www.axiss.co.jp/brand/finite-elemente/finite-elemente/
………………………………………………………………………………
                ▽ ▽ ▽

TRANSPARENT REFERENCE XL 110ΩAES/EBU DigitaL (XLR)×2 (税別¥960,000.)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/1037.html
http://www.axiss.co.jp/ftran.html

                ▽ ▽ ▽
………………………………………………………………………………
dCS Vivaldi DAC (税別¥4,270,000.)
http://www.taiyo-international.com/products/dcs/vivaldi-dac/
     and
TRANSPARENT XLPC+PI8 (税別¥770,000.)
http://www.axiss.co.jp/brand/transparent/power-code/power-cord-2/
     and
finite element MR02-2+CERABASE 4P (税別¥970,000.)
http://www.axiss.co.jp/brand/finite-elemente/finite-elemente/
………………………………………………………………………………
                ▽ ▽ ▽

Vitus Audio-Andromeda Interconnect cable XLR 1.5m(税別¥1,070,000.)
http://www.cs-field.co.jp/brand/vitus/products/andromeda.html

                ▽ ▽ ▽
………………………………………………………………………………
Vitus Audio  SL-102(Anodized Gray) (税別¥7,130,000.)
http://www.vitusaudio.com/en/79989-SL-102
Vitus Audio-Andromeda AC Power cable 1.5m(税別¥420,000.)付属
http://www.cs-field.co.jp/brand/vitus/products/andromeda.html
     and
finite element MR02-2+CERABASE 4P (税別¥970,000.)
http://www.axiss.co.jp/brand/finite-elemente/finite-elemente/
………………………………………………………………………………
                ▽ ▽ ▽

Vitus Audio-Andromeda Interconnect cable XLR 7.0m(税別¥3,490,000.)
http://www.cs-field.co.jp/brand/vitus/products/andromeda.html

                ▽ ▽ ▽
………………………………………………………………………………
Vitus Audio  SM-102(Anodized Gray)(税別¥13,800,000.)
http://www.vitusaudio.com/en/121301-SM-102
Vitus Audio-Andromeda AC Power cable 1.5m×2(税別¥840,000.)付属
http://www.cs-field.co.jp/brand/vitus/products/andromeda.html
     and
TRANSPARENT PIMMX(税別¥540,000.)
http://www.axiss.co.jp/brand/transparent/transparent-2/
………………………………………………………………………………
                ▽ ▽ ▽

Vitus Audio-Andromeda Speaker cable 3.0m(税別¥2,120,000.)
http://www.cs-field.co.jp/brand/vitus/products/andromeda.html

                ▽ ▽ ▽
………………………………………………………………………………
Kiso Acoustic HB-G1(税別¥4,500,000.)
http://www.kisoacoustic.co.jp/
     and
H.A.L.'s  Z-Board×2(1枚/税別・配送費込み¥60,000.)スピーカー本体用
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/BZ-bord.html
     and
H.A.L.'s  P-Board×2(1枚/税別・配送費込み¥65,000.)クロスオーバーネット用
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/BZ-bord.html
………………………………………………………………………………

ハードウエア的な変更としてはスピーカーケーブルですが、前回は原さんが主宰する
shizukaブランドのSpeaker Cable CCL-1 (2.5m/税別¥120,000.)を使用していました。
http://www.shizuka-acc.com/ccl-1

第一段階のコーディネートとして合格点の音質であり、原さんにも敬意を表しての
選択でしたが、やはりスピーカーケーブルのグレードアップにもHB-G1は敏感に反応
してくれたのは言うまでもありません。この音だったら原さんも喜んでくれることでしょう。

そして、上記にはチューニングという表現をしていますが、ケーブルの変更だけ
ではありません。もう一つ、私も貴重な体験となったノウハウがあります。

アナログ信号の最上流であるdCS Vivaldi DACですが、初期バージョンでは出力レベルの
設定が2Vと6Vでしたが、現在のソフトウエアでは0.2V 0.6Vが加わり四種類あります。

ここの展示品はマラソン試聴会の際にBespoke audioのPassive Preamplifierを使用し、
音量的にもハイレベルを必要としたので6Vとして実演しましたが、ここに戻ってからも
そのままで使用していたのです。

そして、dCS Vivaldi DACの出力を受けるプリアンプVitus Audio SL-102ですが、
メニュー設定によって入力感度とオフセットゲインを選択できるようになっています。

工場出荷時の入力感度は4Vで標準とされていますが、この他に2Vと8Vという三種類が
選択できるようになっています。私は標準の4Vで使用していたものでした。

大編成のオーケストラで多数の楽音が盛大に演奏される楽曲では分かりにくいものですが、
熟成してきたHB-G1で聴くと、送受信レベルの関係にデリケートな違いがあることに
気が付かされたのです。

それを判定するのに使用した曲は定番中の定番である大貫妙子の「四季」でした。
今日はこれを10回以上繰り返して比較試聴したのです。

高い透明感に素晴らしいリヴァーヴが見事な音場感を展開する「四季」での声質と、
拡散していく余韻感を注意深く観察していくと微妙に違うのです。

Vivaldi DACから6Vで出力して入力感度4Vで聴いていると、声のテンションが高まり
声量が上がるとヴォーカルの質感が微妙にくもり、リヴァーヴが減少するのです。

では、プリの感度を8Vに上げてみると音量が下がり現象も緩和されますが、私が
今までに聴いてきた音質からすると物足りない質感が微妙に残ってしまいます。

今度はVivaldi DACから2Vで出力して入力感度2Vでボリュームを補って聴きますが、
まだ私の耳はOKと言ってくれません。

それではと、Vivaldi DACから2Vとしてプリの感度を4Vにすると…!?

「おー!!これだよこれ!!大貫妙子の頭上に広い空間が出来たようで天井が高いぞ!!」

同じコンポーネントを使っていながらヴォーカルに滑らかさが加わり、リヴァーヴの
拡散領域が倍加するのですから驚きです!!この違いをHB-G1が教えてくれました!!

オーケストラによる総合的なバランスとホール感という空間提示において、前回は
HB-G1の潜在能力の高さを実感したものですが、更に鳴らし込んできた成果として
ミッドハイレンジの分解能と情報量が高まったという事でしょうか。素晴らしいです!!

これらのチューニングにおいて思わぬ変化を確認し、これは先日のオーケストラを
聴き直さなくては先に進めないと思ったのが運の尽き。またしてもやられました!!

■和田 薫/伊福部 昭/外山 雄三:日本の管弦楽(マルメ響/広上 淳一)
http://ml.naxos.jp/album/BIS-CD-490

伊福部 昭 - 交響譚詩 Ballata Sinfonica
 I. Prima ballata: Allegro capriccioso

叩き付けるように炸裂する冒頭のアタック、そして滑るように滑らかに展開する
弦楽器の質感と金管楽器の伸びのある音色と空間表現の素晴らしさ!!

数日前に感動した音質そのものが根底から作り直されたかのように情報量が激増し、
ステージを俯瞰するように全体像が見渡せる整然とした音場感の質的向上が素晴らしい!!

滑らかな弦楽器は更に美しく、透明感ある金管楽器の質感は更にクリアーに、
個体感をより増して打楽器の輪郭が極めて鮮明に描かれる変化量の大きさに
ただただ驚き感動しながら初めて聴いたような新鮮さが胸を打つ!!こんなに変わるか!?

II. Seconda ballata: Andante rapsodico

前曲の変化の在り様で予測できなくはなかったが、時折登場する印象的なバス
クラリネットの存在感がまるで違う!!

緩急の繰り返しから全くの無音を経て、演奏形式が何度も変わりながら変化するも、
スピーカーケーブルの変化がもたらした低域の充実感が引き続き顕著に表れる。

それはコントラバスと打楽器の輪郭を克明に描くようになったという変化と、
バスクラリネットのような低音階のソロバートで質感の素晴らしさを引き立てる。

このディスクにおける過去最高の感動レベルと言ったら大げさだが、それはハイファイと
いう概念ではなく、HB-G1が作り出した響きの造型による芸術的な感動と言えるだろう!!

4.外山 雄三 - 交響詩 「まつら」Symphonic Poem, "Matsura"

空気を弾くような低弦のピッチカートによる合奏で始まり、と前回も紹介した曲。
この冒頭のピッチカートの後に湧き起こるような余韻が以前に増して素晴らしい!!

木管楽器のソロバートにおける存在感が見事に向上したと述べたが、この曲では
随所に管楽器のソロが広大な空間に広がる余韻感の源として演奏されるが、
エレクトロニクス・コンポーネントのチューニングによるヘッドルームの拡大が
再生音にこれ程の影響力を持っていたのかと、HB-G1の創生する響きと録音された
ホールエコーとの調和と融合が格段に進化していることに驚く!!これはいい!!

■「鬼神」和田薫の音楽
http://www.kaoru-wada.com/
http://www.kaoru-wada.com/?p=854
http://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKICC-819/

ヴォーカルをチェックしよう思っていたら、あまりの変化にとんだ寄り道のように
このディスクも聴き直さねばならないと聴き始めて驚き感動してしまった!!

5.チェロとオーケストラのための 祷歌
https://www.youtube.com/watch?v=hDDhkPKShAc

Vivaldi DACの出力レベルとプリアンプVitus Audio SL-102の入力感度の設定変更に
よって、空間情報の増大は予想外のものだったが、スピーカーケーブルのアップ
グレードとの両方の影響なのか、冒頭からチェロの音像そのものの変化が際立つ!!

こんなにスマートで凝縮された音像だったろうか!? ステージの中央に位置する
チェロの演奏開始直後、以前よりも引き締まった音像がセンターに表れ、
演奏の強弱による音像サイズの変化がほぼ抑えられた分解能の素晴らしさにはっとする!!

アレグロに移行しオーケストラ全体が呼応する律動的な展開となっても、各パートの
音像が独立しながらも響きを共有する妙技を披露し、Oliver Wenholdが演奏するチェロは
次第に熱を帯びて盛り上がりを見せながらセンターに屹立する音像は微動だにしない。

ソロ楽器の存在感を濃厚に示し、響きのグラデーションが階層の段数を倍加する
情報量の素晴らしさに前回聴いた記憶が快感を伴いながら上書きされていく!!

3.津軽三味線とオーケストラのための「絃魂(イトダマ)」
https://www.youtube.com/watch?v=77KhSBt-rFs&list=RDrB-Z3_Ugsy4&index=2

この曲の三味線の質感は前曲のチェロと同様な傾向にあると直感された。
HB-G1というコンパクトなスピーカーが発生する音場感は実に広大であり、
響きを作るスピーカーは楽音そのものと音場感の両方に作用するのだが、
前述のチューニングの結果として和太鼓の質感も素晴らしい変貌を遂げて
いることが実感された!!

これはスピーカーケーブルの変更がもたらした成果だろう。
多様な和太鼓の輪郭がこれ程までに鮮明になるものなのか!!

管弦楽全体が素晴らしい動機でインパクトのあるフォルテが連発し、他のスピーカーでは
三味線の音像がデフォルメされる傾向もあったが、HB-G1の作る音の造型は連続する
楽音に対しては響きを創生するが、三味線のようにパルシブで切れが良い楽音に
対しては応答性のみ素晴らしさを発揮するが、三味線という楽音にエンクロージャーに
よる響きを付加することがない。楽音によって創造する響きをすみ分けているのだが、
その傾向が次の曲でも実感された。

7.和太鼓とオーケストラのための協奏的断章 鬼神
https://www.youtube.com/watch?v=rB-Z3_Ugsy4&list=RDrB-Z3_Ugsy4#t=49

先ずは冒頭の大太鼓の打音でスピーカーケーブルの威力が発揮された。
ずしりと以前になかった重量感を伴い、しかし音像は引き締まって輪郭が際立ち、
ベースシステムと強調したミッドレンジによる和太鼓の質感が更に素晴らしい!!

DACの出力レベルとプリアンプの入力感度の設定変更によって、以前よりもプリ
アンプのボリュームは大きめの数値で聴くことになったが、入力感度をDACの
出力電圧の二倍としたことで聴感上のダイナミックレンジが向上していた。

そして、プリアンプのピークマージンに余裕が出来たことにより、微小信号が
余韻感として存在していたことが証明され、低域の余韻と高域成分の再現性が
向上したことでホールの空間表現に格段の進歩が聴き取れる。

まさに怒涛の如く叩かれる和太鼓の強打にベースシステムがしっかりと足元を支え、
オーケストラ全体の低音部すべてがしっかりと大地に根を下ろしたような安定感を持つ。
前回の課題曲を聴き直してよかった!!

チューニングによって変化した各項目をしっかりと記憶し、以前の体験に肯定的
要素をたくさん加えることができたので、次の課題曲へと進む準備が出来たのです。

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

オーケストラとは違いヴォーカルという主役はあるが、伴奏楽器の多彩な録音を
同時に吟味する音楽ジャンルにHB-G1がどのように対応するのか。私の選曲はこれ。

Mercedes Sosa / Misa criolla
https://goo.gl/ydCvXX
Mercedes Sosaの公式サイトは下記。
http://www.mercedessosa.com.ar/
ミサ・クリオージャ(南米大陸のミサ)
http://www.universal-music.co.jp/mercedes-sosa/
http://www.universal-music.co.jp/mercedes-sosa/discography/

私が所有しているバージョンは廃盤(UCCL-1002)ですが、そのジャケットはこちらで。
https://goo.gl/eu9FBs

スタジオ録音のジャズやPOPS系の曲にも興味はあるが、これまでのオーケストラと
音場感の素晴らしさという共通項を持つ選曲です。チューニングによって改革された
HB-G1によって、どんな展開が待っているのか期待しつつ試聴を開始しました。すると…

Track.1 Kyrie (Vidala-Baguala)

VidalaとBagualaとはアルゼンチン北西部地方の素朴な山唄の調べで、ゆったりした
三拍子の曲調。冒頭では先ず合唱指揮カルロス・ロペス・プクシオによるブエノス
アイレス・エストゥディオ・コラル合唱団の雄大で壮麗な合唱から始まる。

あたかもステンドグラスから差し込む陽光に鮮やかな色彩が透かされて、虹色の
影を白い壁面に柔らかく投げかけるカテドラルの高く広大な空間にいるような、
混声合唱の素晴らしい響きがHB-G1の周囲に湧き起こるスペクタクルにしびれる!!

もちろん他のスピーカーで数え切れないほど聴いてきた、この冒頭の合唱が響く
壮大な空間表現を、こんな小さなHB-G1がこともなげにこなしてしまう驚きと感動。

そこに打ち鳴らされるボンボ・レグエロ(フォルクローレの大太鼓)の重厚な響きが
鮮やかに広がっていく素晴らしいサウンドステージ。その広大な音場感を背景に
センターの空間に出現するMercedes Sosaの素晴らしい声量と歌唱力の醍醐味!!

冒頭からの一分半は伴奏楽器は大太鼓のみという宇宙的空間を響かせる声楽の素晴らしさ!!

特にMercedes Sosaの歌声で音階が下がっていく時にHB-G1のボディーの振動を素肌に
感じるような肉声によるバイブレーションの迫力がジーンと胸に響いてくる驚き!!

ケーナとギターの切ないメロディーが後を引き継ぎ、切れ味のいい鋭いギターが
響かせる余韻の何とも美しい間奏が始まる。切々と情感を音色に乗せたケーナの
はかない響きはHB-G1の共鳴の美学に導かれて、ふんわりと空間を漂う余韻をしっとりと放つ。

間奏が終わると合唱が再開し、Mercedes Sosaのヴォーカルが情感あふれる歌声で
Cristo,ten piedad de nosotros …という緻密で雄大な祈りの言葉を歌い上げる。
Ten ten piedad…と呼応する合唱と同じ空間にして素晴らしい分解能が奥行き感を深める。

わずかにギターの爪弾きがセンター左寄りの空間に表れ、繰り返す祈りに融合し、
抑えた音量のダブルベースの低音と細かく慎重に連打するシンバルの渋い響きで
終焉を迎えると、私は思わず背筋に寒気というかしびれを感じて硬直してしまった。

歌詞の意味など分からないのに、じんわりと内面から湧き起こってくる感動の波!!

極めてシンプルな伴奏で雄大な合唱と録音当時63歳だったMercedes Sosaの迫真の
ヴォーカルによる4分57秒という演奏が終わった時、なんで日本人の私が目元を
熱くしているのだろうか、という音楽の奥深さとHB-G1の他に例のない音響的
説得力に動揺しているのでした。これには参りました、本当に!

オーディオ的チューニングのノウハウで下準備していたものの、素晴らしい音楽性に
感動してしまったものですが、この録音で注目すべき分析があり、今まで語った
ことのないエピソードを披露することにしましょう。下記のスピーカーでの体験談です。

音の細道 第58話「The Sonusfaber」前編
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto58.html

上記の随筆14ページにてThe Sonusfaber搭載ユニットの帯域分割を説明しています。
25センチ・フロントウーファー二基が250Hz以下を受け持ち、38センチ・サブウーファーが
80Hzをハイカット-24dB/octで動作して、80Hz以下ではフロントウーファーと同時に
低域を再生するという仕組みです。

そして、このスピーカーはトライワイヤリングとなっていて、サブウーファーと
フロントウーファーが独立した入力端子を持ち、その他のミッドハイレンジは
ひとつの入力端子によって構成されています。そして、随筆で最後のページで
紹介している、この曲を聴いた時に行った実験が大変興味深い結論となったのでした。

“Basia”「The Best Remixes」1.CRUSING FOR BRUSING(EXTENDED MIX)

恐らくは打ち込みによるシンセドラムだと思うのですが、冒頭から強烈なキック
ドラムの連打が繰り返される曲です。この曲を結構な音量で流しながら私はサブ
ウーファーの入力端子につながっていたスピーカーケーブルを外したのです。
すると…

驚いたことに、ドラムの楽音そのものが音量と質感ともにほとんど変化しないのです。
つまりは、この一見強力な打音を響かせる低音には80Hz以下の信号がほとんど入って
いないという事なのです。

フロントウーファーは250Hzから上のハイカットを-18dB/octで設定されていますが、
500Hzで-18dBの減衰量で中間の375Hzでは-9dB、300Hzでも-5dB程度の低域を出力して
いるということで、ほとんどの低音楽器の帯域をカバーしていることになります。

私は今回試聴したMercedes Sosa / Misa criollaではラテン楽器の大太鼓として
重厚な低域を響かせるボンボ・レグエロの再生音に大変興味を持っていて、
他の多くのスピーカーでも試聴に使ってきました。

そして、この曲をThe Sonusfaberで聴き、同じようにサブウーファーの接続を外した
のですが、この時の低音の変化量と大きさというものに驚き納得したのでした。

あれほど重厚で厚みがあり、ただしアコースティックに空間に広がっていく低音の
ボンボ・レグエロの音質が根底から崩れてしまったのです。そうか〜と納得しました。

The Sonusfaberのサブウーファーは設定されたカットオフ周波数80Hz以下の信号が
入力された時こそ、しっかりと役目を果たし素晴らしい低域を叩き出しますが、
見かけ上はボリューム感のある低音でも本当の重低音が録音されていない場合には
当然ですが反応しません。

しかし、このようにミッドバス帯域のユニットを持たない2ウェイ、もしくは3ウェイ
スピーカーであっても、100Hz以下の大振幅の低域が再生された場合には、それらの
ウーファーが重低音のストロークを再生するとミッドバス帯域の歪率を低下させると
いう事実があります。

簡単に言うとウーファーユニットの振動板の大きな前後運動によってドップラー
効果が発生し、変調歪の原因になるということです。ただし、それは再生音量と
歪率に比例関係があるので、小音量では気にならない程度というものでしょう。

設計者の意図によってクロスオーバー周波数120Hzとして、-12dB/octで駆動される
HB-G1のベースシステムによるボンボ・レグエロの再生音が実に興味深い考察を生む。

まずは、この曲を演奏中に私は気になることがあり、HB-G1に近寄りベースシステムの
フロントグリルを取り外してみた。前回のインプレッションでは次のように述べていた。

「前述のように120Hzを境にして、ベースシステムとミッドレンジが共同作業で主な
 低音楽器を再現するわけだが、間近で見るとミッドレンジの振動板がベースシステムの
 それよりも激しく振幅していることが分かる。」

これは上記の「和太鼓とオーケストラのための協奏的断章 鬼神」において、大太鼓の
再生音に対して間近で観察した時のことで、同様にボンボ・レグエロの重低音に対して
ベースシステムのウーファーがどんな反応をしているのか確認したくなったのです。

「やはり、そうか! 38センチウーファーで体験したことと同じ現象だぞ」

当たり前と言えば当たり前なのだが、The Sonusfaberのサブウーファーによる
同曲での実験で80Hz以下の重低音がいかに多く含まれているかを承知しているが、
この時にもHB-G1のベースシステムの4個のウーファーはミッドレンジの同口径
ユニットと比較にならないほど猛烈なピストンモーションを繰り返していることが
確認され、録音されている重低音に対して正確な挙動を示していることが分かった。

さて、ここでちょっと話しを戻しますが、The Sonusfaberの実験でこのMisa criollaを
かけてボンボ・レグエロの再生音が激変してしまい、この38センチサブウーファーの
威力を実感したと述べましたが、その時にはヴォーカルを含めて他の楽音にはほぼ
影響なく聴き続けることが出来ました。

もちろん、上記のテスト曲で“Basia”などはサブウーファーがなくても全く関係
ないかのように聴き続けることが出来ました。これらを前提に私は意地悪な実験を
HB-G1にしかけてみたのです。

HB-G1は外付けのクロスオーバーネットワークで、ベースシステムとミッドハイ
スピーカーにスピコン・コネクターを使用して別々にバイワイヤー接続しています。

そこで、私はベースシステムの配線を外してこのMisa criollaを聴いてみたのです!
すると…!?

250Hzをクロスオーバー周波数として25センチウーファー二基が低域を受け持っている
The Sonusfaberでは、38センチサブウーファーを外しても大太鼓の質感だけは軽く
なってしまいダメですが、音楽としては黙って聴かせれば全く問題なく聴けてしまうでしょう。

しかし、HB-G1でベースシステムを外してしまうと、ボンボ・レグエロの打音は
はるか彼方に遠ざかってしまい音色は同質ですが低音はないに等しい状況です。

更に、混声合唱のテノールとバスが薄くなってしまい響きも減少し、Mercedes Sosaは
10歳も老け込んだように声が細くなってしまい、あろうことかギターの質感までも
軽くなりサウンドホールがなくなってしまったように音色が大きく変わってしまうのです。

この変化の大きさはHB-G1がベースシステムを根底に置いた3ウェイシステムであると
いうことを改めて裏付けるものであり、前回のインプレッションでも述べていたように
120Hzのクロスオーバー周波数で-12dB/octということは180Hzでも-6dBの出力があるわけで、
240Hzでも-12dBの音圧、更に360Hzでも-18dBという出力があるわけです。

それらが密閉型エンクロージャーの特徴として、ポートチューニングによる共振周波数の
影響がない自然減衰した中低域の再生音をもベースシステムが担っているという明らかな
証拠になってくる好例の現象と言えるのです。

つまり、HB-G1はベースシステムを使用しなかったらHB-1やHB-X1と同じ音がするのでは、
という初心者的想像を完全否定するスピーカーだということです。

こんな意地悪な実験をしてベースシステムをを外した後に、私は同じ曲HB-X1で聴きました。
いや〜、改めて原さんのHBシリーズにおける音作りと上手さ、そしてセンスに良さに脱帽です!!

HB-X1で聴くと量感的には少ないもののボンボ・レグエロの質感はちゃんと表現され、
更に合唱とMercedes Sosaの歌声、ギターとケーナの音色など何も問題なく鮮明に
美しく下記のように聴くことが出来るのですから改めて感心してしまいました!!

「H.A.L.'s One point impression!!-Kiso Acoustic HB-X1」
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/1075.html

上記のインプレッションでもThe Sonusfaberを引き合いに出して解説していましたね。
私が評価してきたスピーカーの守備範囲が大変広かったという事でしょうか。

しかし、この曲以外にも多数の曲を聴きましたが、HB-G1が聴かせるヴォーカルの
迫力と生々しさ、これは半端ではありません!!
ぜひ皆様にも体験して頂ければと思います!!

川又利明
担当:川又利明
TEL 03-3253-5555 FAX 03-3253-5556
kawamata@dynamicaudio.jp

お店の場所はココです。お気軽に遊びに来てください!


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