《HAL's Hearing Report》


No.0198 - 2005/7/3

宮崎県延岡市 T H 様より

川又より

今回の投稿は10ページにわたる手書きによるお手紙を頂戴したものから原稿を
起こしたものであり、お客様ご本人には配信されていないものです。

しかし、T H 様には地元のハルズサークルの友人が数名いらっしゃるとのことでした
から、もしかしたら今回掲載されたということはお友達から知らされるかも知れま
せん。同じ延岡市の会員の皆様でお心当たりの方はお取り計らいをよろしくお願い
致します。<m(__)m>

それでは、遠方よりご来店頂いたT H 様のレポートをどうぞご一読下さい!!


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宮崎県延岡市 T H 様より

川又 利明 様

 前略。

 先日(5月8日午後)貴店を訪れさせて頂いた際は初対面にも関わらず、とても親切
に対応して頂き、大変恐縮するとともに感謝しております。

 恐らく世界中でここでしか得られないであろう貴重な体験をさせて頂きましたし、
記念に素晴らしいCDまで頂きました。 

あの時「ハイブリッド盤のCDレイヤーの音は、今一つ良くない」などと大変失礼
なことを言ってしまいましたが、頂いたCDはとても自然な録音で新鮮でしたし
とても立派な音でした。

あらためてお礼申し上げます。

御迷惑でなければ、ぜひまた訪問させて頂きたいと思います。

 さて、あの5月8日の感動を忘れない為にも私の拙文で失礼ですが、ダイナミック
オーディオ5555訪問記を残しておきたいとの思いで、ここに書いてみます。
お時間のある時にでも、お目をとおして頂ければ幸いです。

「今度、東京に行くけど、どこのオーディオショップがいいかな」

との私の問いに、ベスト電器延岡店のY氏が

「やはりダイナミックオーディオでしょう。」

と言われ、帰宅してステレオサウンド(NO.152)を開いてみると、ダイナミック
オーディオはそれぞれ、ちょっと恐そうな各店長さんの顔写真入りで、なんと
10店もあるのは参りました。

その中でStradivari Homageに会えそうな5555に的を絞り訪れさせて頂きました。

 まず1Fのオーディオアクセサリーのフロアに入ってみると、オーディオ誌では
よく見かけるものの、実物をみるのは初めてという品々が多数あり、それなりに
楽しませて頂きました。

エレベーターで上のフロアに行こうと思いましたが、さすがにハイエンドフロアに
いきなり行くには敷居が高く、まず3FのJBLフロアに上がらせて頂きました。

K2S9800のSEは、初めて見るものでした。
私がオーディオに関心を持ち、また実物にも触れる機会のあった1970年代の半ばか
ら80年代の前半にかけてのJBLからすれば、その仕上げが美しくなったものだと
思いました。

ちょうど私が入室した時、4348が鳴っていました。

その音に触れるのは初めての事でした。私が老兵4343を使用しているので、その現
代バージョンである4348には、大いに興味があったのですが、音楽ソースの問題か
セッティングの問題か、はたまた私の耳の問題か、私の予想した「JBLのこの
25年の進歩をまざまざと感じさせる音」では少なくともなかったように思いました。

4348の実力は、こんな物ではないだろうと知りつつも、少しホッとしたというのが
4343のオーナーとしての正直な所かも知れません。

さて、いよいよハイエンドのフロアに上がるかどうか迷っていましたが、意を決し
て3Fの担当の方にお聞きしたら「どうぞ構いませんよ」との嬉しい言葉に後押し
されて上へのエレベーターのボタンを押しました。


 ドアを開けると、そこにはオーディオ誌の写真で見たことのある川又氏がおられ
ました。「いよいよ来たぞ」と緊張しつつも、ろくに挨拶もせず、試聴室へ入りま
した。

 眼前に広がるスピーカー群。そこには、一歩足を踏み入れた途端、やわらかな
上質な音と確固たる強力な音群、そして独特の空気に包まれた自分を感じました。

「これは別格だ。今まで聞いた音とは確かに違う」

生意気な私も4348の時と違い、自分の4343と比較して云々などと分析的に考える
気にもならず、ただひたすら音を聴くと言うより、音に浸るだけでした。

ただ、ここまでなら「5555は、ほんとにすごいぞ」で終わるのですが、今回の訪問
が私にとって大きな意味を持つのは、川又さんが特別な体験をさせて下さったこと
です。


 それは現代を代表する最高のスピーカーであるMOSQUITO NEO 、Stradivari
Homage、
B&W800Dを、それぞれ吟味した最強のメカでドライブさせ、最高の音質で同じ
CDを比較試聴するという大変贅沢で貴重な体験をさせて頂いたからです。今でも
夢の様です

「どこのオーディオショップがいいかな」

と出発前に考えていた時点から考えれば、これはまさしく奇跡かもしれません。

 この3つのスピーカーは、川又さんが「どれを求めても良い」と言われるのは、
私も文句なく同感です。

各々、個性の違いはあるにしても、甲乙つけられるものではないし、またその様な
聴き方は、このクラスのスピーカーに対し、失礼であるとさえ思えます。

ただ今思えばMOSQUITO NEOは音の密度、エネルギー感がすごいと思いました。
Stradivari Homageは、スピーカーユニットの存在はなく、スピーカーボックスを
含めた全体でとても良く鳴っていた様に思います。

B&W800Dは、Stradivari Homageとは逆に、きわめて強力で良質なスピーカー
ユニットの存在を感じました。

 「調子にのるな。控えよ。」と川又さんに叱られるかもしれませんが、今度機会
があれば巻貝の様なあのノーチラスとJMラボのグランドユートピアBeもぜひ
聴いてみたいと思いました。

さて、話が戻りますが、今回の訪問の大きな目的はStradivari Homageを見ること
でした。あえて見ると書いたのは「とても音までは聴かせてもらえないだろう」
と思っていたからです。

その意味では今回は大きな収穫でした。 

Stradivari Homageの魅力のひとつが、その美しさです。

多くの誌上で見る事の出来るのは、日本標準と言われるレッドヴァイオリン仕上げ
です。今回貴店にあったライトグラファイト仕上げはステレオサウンド(151号)の
302ページの写真以外は私は見たことがありません。

この数少ないライトグラファイトに出会えた事は幸いでした。
なぜなら、アマティーゆずりのレッドヴァイオリンにも興味はあるのですが購入す
るならこのグラファイトかなと、例の1枚しか見たこと無い写真で、恋心のような
ものを感じていたからです。

視覚的には4343は男性的ですが、Stradivari Homageは女性的、それも、すこぶる美
人です。

レッドヴァイオリンですと、クラシック、それも弦楽器以外を聴くのは許さないと
いった気品を感じますが、ライトグラファイトはもっと現代的で、いろんなジャン
ルの音楽を聴かせてくれる様な視覚的なイメージがあります。

いずれにせよ、ライトグラファイトの実物にお目にかかれ、その美しさと、見事な
音を実感でき、また川又さんより「価格はレッドと同じで注文すれば入手可能」と
教えて頂いたのは「ここでしか得られない貴重な情報」だと思いました。


以上で5555の訪問記はお終いです。
貴店を訪れさせて頂いてから、はや1ヶ月半、なんで今頃この様なものを送るのか
と疑問に思われるでしょう。

実は、この文は訪問直後に書いたものですが、すぐにお出し出来なかったのは、
実は1枚のCDの到着を待っていたからです。

川又さんからCDをプレゼントして頂きましたが、貴店を出てから秋葉原の駅へ向
かう途上、私は1枚のCDを川又さんに贈ろうと決めていました。そのCDは川又
さんが「何かリクエストはありますか」とあの時言われ、私が「バスマリンバ
の・・」とはっきりしないことを言ったあのCDです。

結局あの場では見つからなかったのですが、貴店でMOSQUITO NEOのパワフルで
スピーディーな反応に触れた時、「これであのCDを聴いてみたい」と思ったから
です。
そのCDとはGMLのXRCD ULTIMATE ORIGINAL SOUND RESTORATION(GMVO-2004) 
です。

ところが、このCD、ベスト電器のY氏に注文をお願いし、以前はすぐに届いたの
ですが「一週間もすれば届くでしょう。」と彼は言っていたのですが、待てど暮ら
せど届きません。

ついに「まだ来ないの?」と聞いたところ答は今一つ歯切れが悪く、手はつくすが
場合によっては入手不能かもしれない、との事でした。

肝心のCDを川又さんにプレゼント出来なければ私の目論見は根幹から崩れる事と
なり、いつ届くか分からないCDを待ちつつけるわけにもいかず、大変残念ですが、
今回はお礼のお手紙のみとなる事をお許し下さい。
ただ、今後このCDが入手出来れば即、お送りいたします。

               -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

PS 
 5月の半ば頃でしょうか。

 ベスト電器のY氏が「先生、P-0の話が載っているので持って来ました」と彼が
持参したものは、川又さんが書かれた「音の細道 第52話 VRDS NEO」をパソコ
ンからプリントアウトしたものでした。

 これは、読み物としても面白く、充実した内容で大変勉強になりました。
まずCDとは、またSACDとは何かが大変分かりやすく、また両者の情報記録密
度の違いもよく分かりました。

またこれらの信号をピックアップする事が上下左右のブレをはじめ、いかに困難な
作業であるかが実感されました。これらの問題に対する、サーボやスレッド送りと
いったP-0のアプローチやVRDS-NEOとの違いも少し理解出来たような気がしまし
た。

それにしても情報密度の高いSACDの音楽信号をより正確に読み取る事は、
ピックアップの線速度の速さからしてもきわめて困難との印象を持ちました。

CDからSACDという電気的な記録の進歩は、恐らくそれを読み取るメカの進歩
より、はるかに早いのではないかというのが川又さんの書かれた52話から読み取れ
たというのは言い過ぎでしょうか。

 この52話の後半では、従来のSACD再生機と比べ「明らかにCDの再生音を
越える領域に入った」としてエソテリックX-01が高く評価されていました。

私の眼からもX-01はお値頃感もあり、コストパフォーマンスという点では求めや
すく、恐らくこの52話を読まれて当時購入された方も多いのではないかと思います。

しかし、そう時を経ずして今度はP-01が登場しました。

この矢継ぎ早のエソテリックの商品開発力は、ある意味すごいと思いますが、
ユーザーの感覚からは、少しそのスピードが早すぎるような気がします。

それは開発スピードを遅くしろということではなく、ひとつの商品を作り上げ、
世に問うには、充分時間をかけて練り上げていかないといけない熟成という
部分が多くあるように思うからです。

私のP-0は2回のバージョンアップ。D-70も1回のバージョンアップを経験し
ています。

このバージョンアップは時代の進歩による恩恵を旧製品にもフィードバックして
くれる手段として私は好意的に受け止めていますが、P-0の1回目のバージョン
アップは未完成な部分をバージョンアップの形で補修した感もないではありません。

語気が荒くなってきた様ですので、このあたりで止めておきます。

話を戻しますが、この52話の前半のメカ説明はあらためて素晴らしいと思いました。

 こういうメカの説明、それも図に表したり、文章にするというのは、音の印象を
文章にする感性や表現力の問題とは違い、膨大な勉強を要すると思います。

川又さんの理科系的な素養と大変努力家の一面を垣間見る気がしました。

 第47話「純粋主義者」のプロローグで川又さんが述べた「その作品に対して納得
した上で製作者の技術と感性を代弁できるほどの学習意欲をもって製品の紹介に
来られるべきであろう」という姿勢をあらためて御自分でも実践されている事に敬
意を表するとともに頭が下がりました。
 
 大変御多忙な中、最後までお目を通して頂きありがとうございました。

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川又より

T H 様今回のお手紙本当にありがとうございました。私の方こそ大変恐縮しており、
ご配慮の行き届いた文面に頭が下がる思いでございます。

CDをお送り頂けるということも大変ありがたいお話しであり恐縮しております。
どうぞ、あまり気遣いなさいませんようお願いいたします。

ベスト電器のY様におかれましては当社をご紹介頂きありがとうございました。
今年の秋には秋葉原にもヨドバシカメラの巨大な店舗がオープンし秋葉原も大きく
変わろうとしていますが、当社の営業方針が大型量販店の皆様にも認めて頂いて
いるということをありがたく拝聴させて頂いた思いでした。
これからもがんばらねばと考えているところです。(^^ゞ

また、補足説明させていただきますと、X-01からP-01に至る開発のテンポに関して
ご意見を頂戴いたしましたが、実はこれらはVRDS-NEOの開発において既に構想を
もたれていたものであり、順序だててメカの開発から商品化へという流れがあった
ものでございます。

このP-01に関する随筆も一般公開するようになっていますので、こちらで印刷した
ものをお送り致します。どうぞご一読下さいませ。

◇webをご覧になっている皆様は下記よりどうぞ。
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/pdf/oto_53.pdf
 (957KBとサイズが大きいのでダウンロードの際にはご注意ください)

そして、次回のご来店も心よりお待ちしておりますので、どうぞ気軽にお越し下さ
いますよう最後にお願い申し上げます。ありがとうございました。<m(__)m>

               -*-*-*-*-*-*-*-*-*-


川又より
さて、上記にT H 様が述べておられる随筆の一説ですが、全文をご紹介するとこの
ようになっています。


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プロローグ

 平成大不況と言われて久しく時が経ち、グラフの上下動が報じられるのは小渕
総理の支持率だけという景気の低迷が続く99年3月の第1週。

富山市に本拠を置くシーエスフィールド株式会社の代表取締役である今井芳範氏
より突然のアポイントが入った。以前から存在は知ってはいたものの、とんとお付
き合いの機会はなく私の方からは特にアプローチすることはなかったのである。

私も仕事柄世界中の数多くのオーディオ製品を取り扱っているのだが、それらの取
捨選択に関して私の信条としている考え方がある。

まったく面識やコミニュケーションのないブランドは取り扱わないのである。
もっと単純な表現をすれば、製品の情報を郵便やファックスで送り付けてくるだけ
の輸入元の商品は販売にまったく力が入らないのである。

やはり、海の向こうにいる製作者が情熱をもって作り上げた作品に対して、それを
輸入する立場の人が日本人の感性で賛否両論を送り、その作品に対して納得した上
で製作者の技術と感性を代弁できるほどの学習意欲をもって製品の紹介に来られる
べきであろうと思うのである。

雑誌での露出と評論家諸氏の辯舌におまかせするのではなく、少なくともハイエン
ドと称するレベルのコンポーネントのセールス活動に関して、これらが製作者に対
する敬意の表れであると同時に最低条件の礼儀でありモラルであると考えている。

こうした考え方の私は必然的に輸入商社と海外のメーカーに対して、こと音質にか
かわる要素では要求の度合いも高くなってしまう。しかし、日本のユーザー側に立
って製品の完成度や問題点に対して疑問を投げかけて改善していくということも、
広範な意味でとらえれば専門店の仕事の範疇ではないかと思うのである。

従って、輸入商社にとって私はうるさい存在であるかも知れない。

しかし、逆に私が納得し気に入ったものであれば、商社に言われなくても率先して
独自の販売プロモーションを展開して商品を紹介し販売してしまうという実績があ
るのである。

何も注文を付けないが消極的で行動しない店あるいは担当者と、言うことは言うが
やるべきことは積極果敢に取り組んでいくという姿勢の担当者のどちらが輸入商社
にとって有益であるか、私のフロアーの商品構成を観察して頂き、お客様に判断し
て頂ければよいのではないかと考えている。

さて、こうした考え方をしている私が我が意を得たりという程に話が合ってしまっ
たのがシーエスフィールド株式会社の今井芳範氏であった。

ハイエンドオーディオの世界はつきあう人間によって大変大きなレベル差を生じる
ものである。最も大きな要素は一般ユーザーが頼りとする販売店とその担当者のレ
ベルである。

つきあっている店のグレードによってユーザーの感性がどれ程磨かれるか、要は訪
れるたびに心底おいしいと満足と幸福感にひたれるだけの演奏を聴くことが出来る
かという非常に初歩的であり大切な要素がここにある。

我田引水な引用で恐縮であるが、私はB&Wのオリジナル・ノーチラスの販売に関
しては99年7月時点で発売以来通算で20セットを販売している。これは私が口
がうまくて安売りしているからではない。

そもそもノーチラス自身が聴く人を魅了するクォリティーを本来有しているのであ
り、私は努力してそれを引き出しているだけに過ぎないのである。B&Wのトップ
の人間と話したところ、どうやらこれは世界記録らしい。

こうしたこだわりと感性に根ざしてハイエンドと称されるカテゴリーの商品群を取
り扱う輸入商社と専門店という流通の枠組みの中で、うるさい私が尊敬の念を抱く
ほどの人物は多くない。

ハイエンドの世界では流通の段階でも人間同士の信頼感が本当に大きな要素を占め、
今井氏とお会いできたことと同氏が取り扱う製品の本質が、今回の随筆を執筆しよ
うと決意した大きな原動力となったものである。


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もう六年前の記事ですが、当時述べていることと現在では私のセールスポリシー
に何の変化もないものです。ハイエンドオーディオを真剣に開発し、真剣に輸入と
いうビジネスをこなし、真剣に音質本位で取り組む販売姿勢は時間がいくら経って
も変わることはないのです。

それはハイエンドオーディオの市場規模が世界的にも国内的にも拡大していないと
いう背景をもとに、現状維持のマーケットスケールの中で熟成を意識する時代に
なってきたということに言い換えができるからです。

それは販売方法の熟成でもあり、そしてユーザーの感性の熟成と成長でなければ
ならないと思っています。そして、ユーザーの感性の成長を促す活動を誰がやって
いかなくてはならないのか。

採算重視の国内メーカーはだめです。輸入商社では限界があります。
つまり、そこにこそHi-End Audio Laboratoryの使命があるわけです。

それは大そうに難しいことではありません。私が無料で提供している試聴のための
時間と東京への交通費を都合して頂くことで実現できることなのです。

全国のハルズサークルの皆様、ご自身の感性を磨き進むべき方向を発見されるため
にも、ぜひ、この夏にはご来店を検討されてはいかがでしょうか。
そして、皆様のご入会をお待ちしております!!


HAL's Hearing Report