《HAL's Hearing Report》


No.0020 - 2001/03/1

千葉県市川市在住 T.I.様より

 川又さんの部屋で堂々とハイエンドを聴かせてもらう方法 Part2
 (Part1はこちら

お客はお店に無理を言うべきだ!
 私は好きなものはトコトン好きになるタイプの人間です。言ってみれば、単純な思考回路の人間なのかもしれません。
 特に趣味のことに関しては、仕事の時間をやりくりまでしてでも時間を作ってしまうタイプ…。そんな私の今の趣味が“オーディオ”なのですからHALへ行く時間も無理をして作ってしまいます。

 というわけで、ヒアリングレポートの第2弾です。
 前回の長〜いヒアリングレポートをご覧頂いた方はご存知でしょう。(読んでいない方はヒマな時に気が向いたら読んでみて下さい)
 私がHALへ行ったのは、たったの5日前。なぜ、そんなにすぐ、またもやHALへ行ってしまったのか? 答えは簡単です。例のお目当ての商品の値段が、もうひとつ上の商品との金額的な兼ね合いが微妙な線だから。しかも、前回の試聴のときは、正直なところ感動した部分もあれば、私の好みでない部分もハッキリと判ってしまいました。コレが今ひとつ「買うゼ!」という言葉を吐き出せずにいる理由だったのです。

 だってですよ。考えて下さい。深呼吸をしてから金額のゼロの数を数えれば、買おうとしている商品は、給料の約半年分というお値段だ ということが、バカな私でも判ります。ローンを払っている間に、その分の仕事をこなせる“糧”となるようなものでなければ、購入など できたものではありません。

 そこで、気になっている“もうワンランク上の商品”を聴かせてもらって“値段に見合った『糧』があるかどうかを聴いて決めよう”と 考えたのです。しかも、前回聴いたお目当ての商品と同時比較をさせてもらって…。

 普通に考えれば、たったひとりのお客(しかもまだ購入したことのないお客)に、比較試聴をさせるだけの時間と機材の余裕を持ってい るお店は少ないでしょう。もちろん、私とて無理は承知です。でも、これだけ高額な買い物をしようかどうか?という時なんです。無理を言わなかったがために後悔するのはごめんです。

 そう思うと“駄目で元々”と開き直り、またすぐに川又さんへのメールを書いてしまいました。で、結果はというと前回の訪問から5日後に再訪問となったわけです。もちろん、比較試聴のために…。

 いきなりOKされたノーチラス801+αの音。

 私は前回のヒアリングレポートで川又ROOMの音は“良い音だけど私の好みではない”とハッキリ言いました。前日から機器のウォー ムアップをし、いろいろなセッティングをして私に聴かせてくださった川又さんにしてみれば、気持ち的には「なんだとぉ!」と言いたい レポートだったことでしょう。でも、川又さんはその気持ちをバネにする方なんですね。まぁ、順を追って話しましょう。

 まず5日ぶりに入った川又ROOMは、ノーチラス801の横にマイクスタンドに取り付けられた“murata ES103Black”が繋がれている、というのがパッと見てわかる違い。「えーと、今はムラタは繋いであったかな…あ、繋いでありますね」と川又さん。「ああ、聴いてみたかった商品ですのでぜひ聴かせてください」と私。間髪入れず「KIさん、それより他になにか変わったことに気が付きませんか?」と、なぜか話しをムラタから遠ざけたがる川又さん。「えー、ムラタがあるのと、うずまきノーチラスがこっちに向いているくらいしか…」と言う私。
 でも、このときすでに私の頭の中は、ムラタのことから離れ“その他の違いってどこだぁ?”と頭の中で前回の記憶をたどっていたのであります。そんな気が付かない私に「ハハハ、KIさん、ノーチラス801の色が違うでしょ。レッドチェリーの新品なんですけど、バーンインはしっかり済ませてありますよ」と川又さん。あぁ、そういえば…と思いつつも“今回801を買うつもりは無いから、説明はこのくらいにして、早くお目当ての商品を試聴させてくださいよぉ”と思う私だったのです。この後の衝撃的な出来事を、より大きくする話術だったとは知らずに…。

 「じゃあ、まずは前回と同じシステムで課題の曲を聴いていただいて、その後でもうひとつ上のランクの商品を聴いてみましょう」と川又さん。
 前回の音を覚えていないわけではないのですが、おさらいできるのならさせてもらったほうが正確な判断はできます。とうぜん「はい、お願いします」と言い、おさらい試聴の開始です。

 私の課題曲の1曲目は、前回も1曲目に聴いたクリスチャン・マクブライドの“スターズ・フェル・オン・アラバマ”です。この曲は、マクブライドのウッドベースはもちろん、ブラッシュやピアノが気持ちよく空中でクロスし合う曲で、私のお気に入り=リファレンス曲、になっているものです。さて、前回は緊張してしまったP−0sの操作ですが、今回は落ち着いた手つきでP−0sにCDを入れます。で、リモコンの7番のボタンをポチッ。

 マクブライドのベースが始まった瞬間“あれ? 前回とぜんぜん違うじゃないか!”と心の中で思ったのもつかの間。ルイス・ナッシュのブラッシュが始まったとたん、不覚にも「ありゃぁ…」とつぶやいてしまいました。前回よりもベースもブラッシュも強烈なくらいザラ ザラしてるんです。

 言葉で無理矢理、表現するのなら、ブラッシュの毛先が増え、毛先の形がわかる感じ。しかも前の時より固くて芯のある毛先なんです。“私が欲しいのはコレだよコレ”と何度、心の中で思ったことでしょう。
 前回の試聴の時に、私がノーチラス801に足りない部分と思ったザラザラ感が、見事なくらいあるのです。ツィーターといっても、高域だけがプラスされるのではなく、バスドラムやベース、ピアノ、ハイハットに至るまで、すべてのエッジをクッキリハッキリとさせてくれるんですね。不覚にもES103の音に1ラウンドKOされてしまった感じです。

 アラバマが終わった瞬間にP−0sを止め「川又さん、この前の音とぜんぜん違うじゃないですか!」と私。「え、良い意味で言われていればいいんですけど…」と川又さん。「良い意味に決まっているじゃないですか!こんなにブラッシュが鮮明なアラバマは初めてですよ。私が好みでないと言った801の悪い部分がすべて無くなってます。ムラタのツィーターはスゴイですね」と、さっぱりお目当ての商品から気持ちが遠のいている私がそこには居ました。
 それから3分ほど川又さんとムラタのツィーターについての解説が続いたでしょうか。話の成り行き上、お目当ての商品はそっちのけで、ムラタのツィーターを外して同じ曲を聴いてみることに…。

 “うーん、これは駄目だ。前回のときに聴いた801に戻ってしまったぞ。いかん、今日は違うモノを試聴しに来たのに、いきなり801とムラタのツィーターが欲しくなってしまったではないか。そういえば前回伺ったときは、私の隣にムラタの偉い人が来ていたんだっけ。しまったなぁ。挨拶のひとつでもしておけばよかったなぁ…”と、どこまでも腹黒い私。「KIさん、だからココへは通って下さいって言ったじゃないですか。ちゃーんと好みに仕上げますよ」と笑いながら言う川又さん。
 “しまった。ムラタが繋いであることをあまり意識しないようにする話術にハマッてしまったぞ”と心の中では思いつつも“いやー、この音は、私が知る限り最高の音だなぁ”と、初めて川又ROOMで思っていたわけであります。そうそう。そういえば、前回のレポートを書いたあとの川又さんの感想に「手ぐすね引いて待ってます」と書いてありましたっけ。

 仕事が先か? オーディオが先か?

 1ラウンドKO負けをしてしまった私が、その後のお目当ての商品の試聴でどういう買い物をしたのかは、聞くまでもないでしょう。
 当然ワンランク上の商品は、つい先程聴いた感動をも上回る、私を納得させる感動的な音楽を聴かせてくれました。つまり、私は給料約8ヶ月分という、とてつもない買い物を決めたのです。

 でも、これだけの潜在能力が判れば、ここまで高額な買い物でも、多分後悔はしないでしょう。それより、この音楽に刺激されて、仕事のイヤなことも忘れられそうな気がしますからね。いいのです。この買い物が、仕事をがんばる材料になれば…。

 川又ROOMでは自分の気持ちをハッキリ言うのが礼儀!

 HALへ来て一度試聴したら、川又さんへ自分の好みや主張は隠さず言ってみることです。川又さんは世界のありとあらゆるコンポーネントを聴いている方ですから、駄目な部分をハッキリ言えば次回の試聴までにしっかり対策してくださる方だと感じました。ハイエンドはひとつひとつが高い買い物なんですから、ムダを省くという意味も兼ねて、HALを川又さんを活用しない手はない、と、今回つくづく思いましたね。
 ハタから見れば“話術にハマって高い買い物をしているだけ”と映るかもしれませんが、正真正銘“納得の上での購入”なんですよ。そのくらい、値段の価値が見いだせる状態で試聴させてもらえましたし、このコンポーネントを使った音楽は“生きるため、または仕事をするため、の糧となるものだ”と感じられましたからね。影で川又さんの悪口をコソコソ言っていても、アナタが得することはひとつも無いと思います。

 それより、ガンガン無理難題を言って川又さんの力を利用するほうが、趣味を楽しむ上でよっぽど得することが多いと思いますよ。
 いやー、それにしてもこれからが大変だなぁ。今度はノーチラス801とムラタES103の購入資金を作るために仕事をしないと…。

あとがき

 お世辞抜きに今回の演奏は私が知る限り最高。

 それにしても今回はもの凄い演奏を聴かせて貰ったものだ。
 お目当ての商品が、今まで聴いたことのなかった“理想の演奏”を実現しているのですからね。自分の選んだ商品が想像以上のポテンシャルを秘めていることが判ったうれしさと、手に入れる場合は金銭的な壁に挑まなければいけない状態を“もの凄い”と言わずになんと表現すればいいのでしょう。複雑な心境です。ちなみに、比較試聴として聴いた曲は3曲だったのですが、何度も聴いたことの無かった音が出現し、何度、背中がゾクゾクするような感覚に襲われたかわかりません。
 この音は言葉で説明するより、川又さんにアポイントメントを取って、聴いた方がいいでしょう。ジャズ好きの方には絶対にオススメです。


HAL's Hearing Report