第二話 「新世代スピーカーの定義を考える」





 アブソリュート・サウンド編集長のハリー・ピアソン氏は、同誌の1990年11月
12日号誌上において〈AVALON ACOUSTICS ASCENT2〉に対して行った評論の中で非常に
興味深い記述を残している。

 「50年代の批評家たちによって生み出されたスナップ(破裂音)とか透明感という
ような多くのボキャブラリーによって、これらニュー・ジェネレーションのスピーカー
を表現するのは難しいのではないか。ニュー・ジェネレーションのスピーカーを評価す
る際には、過去において満足して使っていた言葉から離れて、より高い次元での視点で
論じ主張する時代が到来したと私は感じている。」

 この記事の中のニュー・ジェネレーションのスピーカーとは、もちろんアヴァロンを
指し示すわけだが、同類の進歩を遂げたブランドとして、ティール、ヘイルス、ウィル
ソン・オーディオなどもその範疇に入ると思われる。そして、これらのスピーカー群を
表現するのに次のような例を挙げている。

 「馴染の深いスピーカーに例えればアヴァロンは低音部をコーン型、中高音部をコン
デンサー型にしたハイ・ブリッド型のスピーカーとして論じることが出来る。もちろん
アヴァロンはコンデンサー型特有の高域のカラーレーションを持っていないし、コーン
とコンデンサーをつないだほど音のつながりは不連続ではない。また、コンデンサー型
の美点である音色バランス、見通すような透明感を備えている。その透明度は総てを見
せてくれるという意味で、明瞭度であるとも表現出来る。この明瞭度というのは、人の
声を再生するスピーカーの能力以外の何物でもない。特に子音における十分なトランジ
ェントの正確さであり、電気的な汚れがなく正確な発音を伝える能力を示している。」

 楽器を発音方法によって分類すると叩く楽器、引っ掻き擦る楽器、吹く楽器、肉声と
全体的な各楽器の演奏環境に対して、その表現力に一貫性があるということである。つ
まり、個々の楽器と音場感に基づいて、視覚的イメージと演奏されるステージ周辺の音
響的環境を尊重し忠実に再現するのである。

 ハリー・ピアソン氏の評論文に私なりの解釈をつけるとすればこのようになる。具体
的にはエンクロージャーのデザインと共振対策と言える。そして、箱自体の存在目的の
時代的変化が大きな問題である。昔は低音を如何にして出すかという、低音の増強や補
足として箱を設計していた。しかし、最近は低音の量ではなく質をコントロールする手
段として設計されているのである。

 ここで最も注目すべきことは、ニュー・ジェネレーションという表現でスピーカーの
歴史にはっきりとした時代の変化を明記したことである。1920年代、ラジオ用とし
てコンシュマー・ユースの口火を切ったダイナミック型スピーカーは、30年代には映
画音響として大音量ワイドレンジ化を実現して、数々の名器を残しながら現在に至って
いる。スピーカーの70数年の歴史の中でダイヤフラムの駆動原理を超越したニュー・
ジェネレーションを、私は専門店の立場から推奨し広めていきたいと考えている。


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