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発行元 株式会社ダイナミックオーディオ 〒101-0021 東京都千代田区外神田3-1-18 ダイナミックオーディオ5555 TEL 03-3253-5555 / FAX 03-3253-5556 H.A.L.担当 川又利明 |
2026年3月25日 No.1855 H.A.L.'s One point impression & Hidden Story-MARTEN Coltrane Quintet Statement Edition- Vol.4 - |
■H.A.L.'s One point impression & Hidden Story-MARTEN Coltrane Quintet Statement Edition■
- Vol.4 -
2025年8月末にColtrane Quintet SEがやってきてから足かけ八ヶ月間に渡り試聴を続け、
様々な再生音のドラマが展開し国内初という受注も頂くなど高レベルの経験値を獲得しました。
そして、私の頭の中には数百種類の音質による記憶が蓄積され、それは時系列順に音質が
向上していくという進化をたどり、最終段階では下記のシステム構成となっていました。
H.A.L.'s Sound Recipe / MARTEN Coltrane Quintet SE - inspection system Vol.2
https://www.dynamicaudio.jp/s/20260307141705.pdf
この数か月間に輸入製品の価格改定もあり、2026年3月時点で最新のシステム価格となり、
途中から参戦したCH Precision D10というCDトランスポートによるディスク再生が音質的な
頂点に位置するという確認が行われ、更に各パートで使用する各種ケーブルのチョイスが
究極的な音質向上をもたらしたものと実感できる体験をしてきました。
本稿の締めくくりを執筆するにあたり、これから述べていくパフォーマンスはMARTENが作り
出した最新の音であると同時に、CH PrecisionとSiltechの影響力が最大限に発揮された音質で
あるということで、スピーカーとコンポーネント、そしてケーブルという三大要素からなる
私の理想とも言えるハイエンドオーディオの一例が具現化したものとして考えています。
よって、前章まではMARTENのスピーカーにフォーカスした書き方だったものですが、以降に
語る音質はCH PrecisionとSiltechを加えた三者によるものであると先ず明記しておきます。
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さて、奇しくも私が最初に聴いたMARTENのスピーカーがColtrane Quintet SEであった訳ですが、
上記で述べてきた二次共振回路を用いたウーファーの低域調整機能を有している同社製品に関して、
同様な論点にて考察したい項目があり、同社webサイトより必要と思われるスペックを抜粋して
下記に列挙しました。いったい何に私が関心を持ったのか!お分かりでしょうか?
■Coltrane Supreme Extreme(2025年発表) 税別¥180,000,000/pair
https://marten.se/products/coltrane/coltrane-supreme-extreme
Main Tower / Frequency range 120-60000Hz(+-2dB)
Crossover frequency First order: 120Hz, 370Hz, 1000Hz, 4000Hz
Type 5-way Drive units & *Crossover frequency
1 x 1” pure diamond tweeter
*4000Hz
1 x 3” pure diamond high midrange
*1000Hz
1 x 7” pure beryllium midrange
*370Hz
4 x 8” Crystalid mid-bass
Bass Tower / Frequency range 17-120Hz(+-2dB)
Crossover frequency First order: 120Hz
Drive units
5 x 10” aluminium sandwich bass
*120Hz
10 x 10” aluminium sandwich passive radiator★18Hz
■Coltrane Supreme 2(2014年発表その後)MK2 税別¥102,000,000/pair
https://www.marten.se/products/coltrane/coltrane-supreme-2/
https://zephyrn.com/newzephyrnwebsite/marten-coltrane-supreme-2-speakers/
Frequency range 18-100000Hz(+-2dB)
Crossover frequency First order: 120, 450, 3500 & 8000Hz
Type 5-way & *Crossover frequency
Speaker (front)
1 x 0.75″ Diamond
*8000Hz
1 x 2″ Diamond
*3500Hz
1 x 5″ Ceramic
*450Hz
7 x 8″ Aluminium sandwich
Speaker (back)
6 x 10″ Passive sandwich★19Hz
*120Hz
■Coltrane Momento 2(2018年発表) 税別¥72,000,000/pair
https://www.marten.se/products/coltrane/coltrane-momento-2/
https://zephyrn.com/newzephyrnwebsite/marten-coltrane-momento-2-speakers/
Frequency range 20-100000Hz(+-2dB)
Crossover frequency First order: 350, 3500 & 8000Hz
Type 4-way passive radiators & *Crossover frequency
Speaker (front)
1 x 0.75″ Diamond
*8000Hz
1 x 2″ Diamond
*3500Hz
1 x 7″Ceramic
*350Hz
6 x 8″ Aluminium sandwich
Speaker (back)
4 x 10″ Passive Aluminium sandwich★21Hz
■Mingus Orchestra(2019年発表) 税別¥45,000,000/pair
https://marten.se/products/mingus/mingus-orchestra
https://zephyrn.com/newzephyrnwebsite/marten-mingus-orchestra-speakers/
Frequency range 22-100000Hz(+-2dB)
Crossover frequency First order: 350, 3800 & 8000Hz
Type 4-way & *Crossover frequency
Speaker (front)
1 x 0.75″ Pure Diamond
*8000Hz
1 x 2″ Pure Diamond
*3800Hz
1 x 7″ Pure Ceramic
*350Hz
4 x 8″ Aluminium sandwich
Speaker (back)
4 x 10″ Passive Aluminium sandwich★22Hz
■Mingus Septet(2023年発表) 税別¥23,500,000/pair
https://marten.se/products/mingus/mingus-septet
https://zephyrn.com/marten-mingus-septet-speakers/
同Statement Edition 税別¥26,500,000/pair
https://www.marten.se/mingus-sepet-se-wins-stereo-sound-grand-prix-2023/
Frequency range 23-60000Hz(+-2dB)
Crossover frequency First order: 200, 800, 6000Hz
Type 4-way & *Crossover frequency
Speaker (front)
1” pure diamond
*6000Hz
3” pure beryllium
*800Hz
7” pure ceramic
*200Hz
2 x 8” aluminium sandwich
Speaker (back)
2 x 10″ Passive aluminium sandwich★23Hz
■Mingus Quintet 2(2022年発表) 税別¥13,400,000/pair
https://marten.se/products/mingus/mingus-quintet-2
https://zephyrn.com/newzephyrnwebsite/marten-mingus-quintet-2-speakers/
Frequency range 24-100000Hz(+-2dB)
Crossover frequency first order: 370 & 4000Hz
Type 3-way bass reflex & *Crossover frequency
Speaker (front)
1 x 0.75″ Diamond
*4000Hz
1 x 5″ Ceramic
*370Hz
3 x 7″ Aluminium sandwich
上記スピーカーを2026年3月に当フロアーにセッティングした状況は下記。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20260304164211.jpg
同様な項目をColtrane Quintet SEでも抜き出してみました。
■COLTRANE Quintet Statement Edition(2024年発表) 税別¥38,000,000/pair
https://www.marten.se/products/coltrane/coltrane-quintet/
https://zephyrn.com/marten-coltrane-quintet-speakers/
Frequency range 18-60000Hz(+-2dB)
Type 4-way bass reflex & *Crossover frequency
Crossover frequency First order:170, 1000, 6000Hz
Speaker (front)
1” pure diamond/6000-60000 Hz Custom diamond tweeter
*6000Hz
3” pure beryllium/1000-6000 Hz Custom beryllium high midrange
*1000Hz
7” carbon fibre/170-1000 Hz Custom convex carbon fibre mid-bass
*170Hz
2 x 10” aluminium sandwich/18-170 Hz Aluminium sandwich bass
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私が注目したポイントとはズバリこれです。
前述してきた例の4クリックのチューニングノブを有するMARTENのスピーカーで、Mingus
Quintet 2とColtrane Quintet SEを除く他のスピーカーでは、低域再生に関して全て
パッシブラジエーターを採用しており、同社の上級モデルにはバスレフ型がないという事です。
他社にはない技術として二次共振回路を用いたウーファーの低域調整機能が素晴らしいと
今まで散々述べてきたわけですが、そもそもMARTENは今までバスレフ型を採用してこなかった。
バスレフポートと同様にパッシブラジエーターにも共振周波数があり、上記スペックの
各スピーカーの最後にあるPassive…のあとに★マークで表記した周波数です。
その共振周波数はパッシブラジエーター振動板の質量と実効面積、エンクロージャー容積
などを公式に算入して求められるのですが、ありていに言えば振動板の質量と面積と
エンクロージャー容積の数値が大きくなれば共振周波数は低くなるという原理になります。
そのために振動板にカウンターウエイトを追加するなどの手法で共振周波数を下げることは
出来ますが、出力音圧は低下し能率が悪くなり、振動板の面積も駆動源となるウーファーと
同等か更に大きくしなければならないという傾向もあります。
なぜ、Coltrane Quintet SEにはバスレフ型を採用したのか?
そんな私の推測を問いかけたところ、設計者Leif Oloffsonから届いたコメントは…
「その象徴的なキャビネットの形状のためにパッシブラジエターを設置するスペースがなく、
もし、キャビネットの形状が異なっていれば、おそらく同様にパッシブラジエターを
採用していたかもしれない。
もしパッシブドライバーを使用したColtrane Quintetのバージョンを設計するとすれば、
10インチのパッシブドライバーを4基搭載する必要があり、そうなると全く別のスピーカー
になってしまいます。形状やサイズも大きく異なるものになります」
更に、確かに駆動源となる磁気回路のないパッシブラジエーターではありますが、
ボイスコイルの代わりにLCR素子を使った共振回路を組み込むことで励磁作用を利用して
共振周波数を調整出来るという技術もあり、これをMARTENは自社のパッシブラジエーターに
応用していると思われます。
ただし、バスレフ型との決定的な違いはポート開口部で発生する風切り音や、共振周波数の
数オクターブ上まで影響をもたらすポート独特の共鳴音が一切ないという事がパッシブ
ラジエーター最大のメリットであり、バスレフ型へのアンチテーゼとしてMARTENは一貫して
高級モデルにはパッシブラジエーターを採用し続けてきたという事なのでしょう。
では、なぜColtrane Quintet SEではパッシブラジエーターを採用しなかったのか?
上記の説明でお分かりのように良い結果を求めてパッシブラジエーターを妥協なく採用
するとしたら、エンクロージャーの容積と振動板の実効面積に多くを求めなければならず、
上級機のパフォーマンスを継承しながら小型化するという命題に関して駆動源を持つ
ウーファーにてバスレフ型の弱点を解消すれば良いという設計思想ではなかろうかと
私は推測しています。
そこで更にLeif Oloffsonに問いかけたところ…
「どちらの設計が優れているかについては一概には言えませんが、パッシブドライバーを
採用するとキャビネット形状の自由度がある程度制限されます。一方で、バスレフ設計
でも同等に優れたスピーカーを設計することは可能ですが、特性としてはやや異なります。
バスレフ設計の利点は、キャビネット設計の自由度に加え、より大音量で再生でき、
パッシブドライバー方式のようにダイナミックレンジが制限されにくい点です。
一方、パッシブドライバー方式の利点は、再生音量に関わらず低域の特性がより
安定している点にあります。つまり、小音量でも大音量時と同様のレスポンスが得られます。
これに対してバスレフ設計では、音量によって特性が多少変化します」
やはりという思いがありますが、逆説的に考えればバスレフ型であっても大音量で
なければ全く問題ないという事であり、私は上記で小型化という表現をしましたが、
単純に全体のサイズを縮小するという事だけが設計者の目論見ではないと考えています。
それはColtrane Quintet SEよりも上級機は全てユニット配列が上下対称であり、
俗にいう仮想同軸型としてトゥイーターを中央に配置してきました。
これはパッシブラジエーターを駆動するためのウーファー振動面積を確保するために
相当数のウーファーユニットを搭載する必要があり、それを実現するためには中高域
ユニットの上にも駆動源である低域ユニットを設ける必要性があったということです。
しかし、その半面ではトゥイーター周辺のバッフル面積は大きくなり、MARTENが誇る
ピュアダイヤモンド・トゥイーターとピュアベリリウム・ミッドハイドライバーが
放射する中高域の放射音に対して反射面が存在することになり、それを回避するための
新たな試みとしてトップトゥイーターとして中高域ドライバー周辺の反射面積を
最小化するというデザインに舵を切ったMARTENの新たな挑戦ではないかと考えました。
スピーカーエンクロージャーのデザインとしては世界的にもB&W、AVALON、Wilson Audio
など多くのメーカーが同様な方向性を示しており、サウンドステージを造形する手段
としてトゥイーター周辺のバッフル面を最小化するという形状が多くなっています。
大空間での大音量再生という場面ではトゥイーター周辺のバッフル面の存在は議論する
ほどのものではありませんが、MARTENが今回取り組んだデザイン変更の恩恵として
小音量においても広大な音場感をリスナーに提供する手段として私はエンクロージャー
デザインの優位性を重視しています。
そして、株式会社ゼファン 代表取締役社長 安藤 宏平 氏は言う…
「私はCQの外観デザインはMARTENで最も美しく、歴史的に見てもMARTENのアイコン的な
デザインだと考えています。上方と後方に向かってシェイプしていく形状は他のMARTEN
製品とは一線を画すデザインであり、初代Coltraneから変わらぬデザインであり、
“これぞMARTEN”を体現している製品です」
■初代Coltraneとは2003年に発表されたものであり参考リンクとして下記を紹介します。
https://www.stereophile.com/content/m%C3%A5rten-design-coltrane-loudspeaker
昨年発表した新たなフラッグシップモデルColtrane Supreme Extremeと同じウーファーを
二基使用して、パッシブラジエーターの共振周波数に対して開発していた二次共振回路を
バスレフ型のColtrane Quintet SEにも応用するという事で、音量に関わらず素晴らしい
サウンドステージを作り出すという挑戦が見事に開花したものと私は推測しています。
その根拠となる音質を私は次なる試聴で発見し確認したのでした!
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「温故知新」とは私のオーディオ分析においても重要な意味を持つものであり、
古い録音であっても良いものは良いという指標となってきました。
数十年前の録音であっても電子的な録音技術の新旧に関わらず、センスの良い録音と
いうものは存在しており、録音年代が古いソースであればあるほど今まで聴いてきた
回数と再生システムの種類の多さという観点から以前との比較要素が多いのが事実。
ただし、ここで注意しなければならないのは、オーディオとは再生芸術であるという
視点を忘れてはならないという事です。
どういう意味かと言うと、優秀な音質で録音しようとした当時のアーチストや
プロデューサー、録音エンジニアたちがスタジオで聴いた音とは当時のスピーカーや
アンプという機材を通じてのものであり、それを忠実に再現しようとしても近代の
再生装置の音質と性能というものとは比較にならないという事実があるからです。
オーディオという趣味が普及してきた半世紀前を思い出すと、スタジオモニターの
スピーカーがマニアが求める理想であった時代がありました。
それは家庭用の再生装置の性能と音質が未熟だったからであり、録音スタジオで
基準とされるスピーカーが時代の頂点であるという考え方であったわけですが、
長年の技術革新を重ねて開発されてきた近代スピーカーの諸特性は飛躍的に向上し、
スタジオモニターを上回る音質を獲得してしまったという事実を認めざるを得ない
と考えられるからです。それはアンプの進化も同様であると思われます。
オーディオにおける「温故知新」とは録音データというソフトに関しては
有意義ではありますが、再生装置としてのハード面では通用しないということ。
録音当時のスタジオでモニタリングされていた音質とは、あくまでも当時の機材を
使っての再生音であり、数十年前に録音された当時のアーチスト、プロデューサー、
エンジニアたちは、自分たちが残した録音データが未来の再生装置によって、
どのような音質で聴かれることになるのか全く想像出来なかったであろうということ。
言い換えれば、私たちが使っている近代的なオーディオシステムによって制作者
たちが知り得なかった高品位な音楽を鑑賞できるようになったという事で、録音
スタジオの音質を求めるのではなく、録音データを使って制作当時よりもはるかに
多くの情報量をもって聴くという独立性と特殊性が再生芸術の真意であると考えます。
簡単に言えば、アーチスト本人が知り得なかった音楽を近代のオーディオシステムに
よって私たちは聴いているという事になろうかと思います。
絵画や彫刻という物理的に固定化された芸術は実物をもって鑑賞するのみですが、
録音された音楽データは時代と技術の進化に伴って成長し変化し続けるということ。
そんな思いから「故きを温ねて新しきを知る」という選曲、私が昔から数えきれない
ほどの実に多くのスピーカーとシステムで聴いてきた経験値の高い曲というもので
MARTENの音を確認していこうという発想になってきたのです。まず最初の選曲はこれ。
■日本の管弦楽作品集(マルメ響/広上淳一/1990年録音)和田薫/伊福部昭/外山雄三
https://ml.naxos.jp/work/79927
https://ml.naxos.jp/album/BIS-CD-490
36年前の録音ですが、CDのライナーノーツにある僅かなレコーディングデータで
まず最初に紹介しておきたいのが下記のA/Dコンバーターです。
SONY PCM-F1
https://audio-heritage.jp/SONY-ESPRIT/etc/pcm-f1.html#google_vignette
家庭用として販売されたSONY PCM-F1に2ch信号を送り込んでいたのは下記のアナログ
ミキサーであったのですから、今では考えられない機材選択と言えます。
Studer 961
https://www.retrosonicproaudio.com/product/studer-961-10-2-analog-mixing-console
近代のオーケストラの録音ではサブマイクを各パートにあてがうのが通例ですが、
この録音に使用されたマイクは下記の6本だけというシンプルさ。
(参考として記載したURLは当時のモデル名ではなく現在のもの)
Neumann U89 ×2本
https://www.neumann.com/ja-jp/products/microphones/u-89-i
Neumann TML170 ×2本
https://www.neumann.com/ja-jp/products/microphones/tlm-170-r
Neumann KM130 ×2本
https://www.neumann.com/ja-jp/products/historical/km-130
たった6本のマイクアレンジをどのように行ったかの記載はありませんが、1990年に
Malmo Concert Hallで録音されたもので、スウェーデンの当時のスタジオで使用して
いたモニタースピーカーは記されていませんが、上記の「温故知新」という発想に
ふさわしい音質であり現在でも通用する36年前の名録音です。これを聴くと…!?
伊福部昭 作曲 交響譚詩/Ballata Sinfonica
I.Prima ballata:Allegro capriccioso
近代のオーケストラ録音のようにサブマイクでピックアップされた各パートの楽音が
演奏の進行によって盛り上がりデフォルメされるような傾向ではなく、どちらかというと
俯瞰的に距離感をもってステージに並ぶオーケストラ全体を均一に捉えた録音傾向。
しかし、弦楽五部の猛々しい質感と言える冒頭の演奏が始まった瞬間、私は唸った!
このCDを聴き始めて30年以上経つのに、これほど流麗華麗な弦楽の音色を初めて聴いた!
印象的なチューバのバリバリと切れ味鋭い咆哮が冴え、打楽器と見事に同期した金管楽器が
まさに炸裂するように弦楽がトレースしていく各小節の区切りに楔を打ち込むように展開する。
Coltrane Quintet SEに搭載されたピュアダイヤモンド・トゥイーターとピュアベリリウム・
ミッドハイドライバーの連携による中高域の再生音は、初めて聴くMARTENというブランドが
作り出したスピーカーに対する私の評価に歴代最高というレッテルを気前よく献上していた。
前例なき美音という一言に尽きる出だしからの再生音は、これまで聴いてきたCDの音質とは
何だったのか根底から見直すことになり、同国スウェーデンのオーケストラの録音データを
MARTENがどのように現代のリスナーに提供するのか、その高品位な再生音によって文化的
遺産と言えるデジタルデータの価値観を最高レベルに高めた事実を驚愕のうちに確認した!
そして、上記のように6本という少数のマイクを使った録音はオーケストラの各パートを
等距離に捉えていると述べていますが、グランカッサやコントラバスの低音楽器が発する
楽音が極めて自然なホールエコーに素直に従い響きを拡散していくという描写力に貢献し、
左右スピーカーの後方に見事な音場感を作り出していくという展開が実に素晴らしく、
前述したスピーカーデザインの効用が究極的に発揮されていると実感される!
しかし、そこに私は過去の記憶との相違点を見つけた。
楽音の美しさに視線を奪われていた私は聴き進むにつれて、Coltrane Quintet SEだけが
有する空間表現力があるのでは…という新たな発見が現時点では漠然としているが脳裏に
浮かび始めていたのです。これはなんだ…!?
外山雄三 作曲 交響詩 / 4.Symphonic Poem "Matsura"(1982年)
大変印象的なピッツィカートによる斉奏でコントラバスが重厚な低音を奏でる冒頭部。
あっ、これだけでヒントになる!秩序ある拡散を見せる低音が造形する音場感が凄い!
日本情緒という言葉を五線譜に表現してと、今はやりのAIに求めたら模範解答として
作曲してくれそうな旋律が静かに始まり、ピッコロの音色は日本の横笛を連想させ、
高音階の長く引き延ばされる弦楽のしっとりとした質感が空間を満たし、和太鼓の
鋭く淡白な打音がステージを駆け巡る序盤の演奏に引き込まれていく。
中盤では情緒的な日本風の旋律をグロッケンシュピールの鍵盤が細やかに奏すると、
トライアングルはステージの奥から存在感ある煌めきを発し、再度ピッコロのソロパートが
空間にたなびく余韻を残す最小音量の演奏をColtrane Quintet SEが克明に描き出す!
ゆったりとしたホルンの響きは見上げるホールの天井をイメージさせ、コントラバスの
低音は逆にステージの床を這うように左右に広がり、ホーンの鋭い響きが弦楽の主題と
交差するように展開しフィナーレに向かい壮大なクレッシェンドへと駆け上がっていく!
4ウェイのColtrane Quintet SEからしなやかに美しく、うねるような弦楽の旋律が繰り
返し押し寄せ、管楽器が同調した咆哮を響かせ、打楽器の連打が激しさを増しながら、
フォルテに達したオーケストラが最高の高まりを発した直後、一瞬の静寂が訪れる。
数拍の無音からステージ上手に突如ファンファーレが響き、グランカッサの強烈な一打
と共に幕を閉じるトラックタイム12:55という壮大なエンディングにしばし身動きできず!
しかし、このCDにて感じ取ってきた新たな発見という一項目に関して、これを説明する
ためのワードがいまだ見つからず、更に次の選曲へと好奇心が加速する私がいた。
■和太鼓とオーケストラのための協奏的断章“鬼神”(2009年)
ドイツ・ケルン・フィルハーモニーホール/和田薫/WDRケルン管弦楽団
3.「津軽三味線とオーケストラのための“絃魂(イトダマ)”」
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKICC-819/
壮大なホルンの響きとハイテンションな弦楽と打楽器が強烈なインパクトで襲いかかって
くるような導入部。コントラバスとグランカッサの完璧に同期した重厚な低音が爆発し、
オーケストラ全体が発したエネルギーが聴衆の体感温度を1℃高めたのではと想像する。
この冒頭部の再生音を聴いた瞬間、前二曲で感じ始めていた漠然とした思いを
どう表現したらいいのか、同じ曲を過去に様々なスピーカーとシステムで聴いてきた
記憶と比較することで、どんな言葉がふさわしいのかが次第に形になってきたのです。
今思えば多数のスピーカーで聴いた上記のグランカッサ他の打楽器と低弦楽器の壮大な
低音にはもっと多くの量感があり、それを再生するウーファー(正確にはバスレフポート
を含む)の低域が強烈なフォルテにふさわしい演出効果としてサウンドステージを造形
していたのではないかと考えるようになりました。
それに対してColtrane Quintet SEが叩き出す打楽器の響きには上述のように4クリックの
ノブ(1)のポジションで述べてきた強力なブレーキ効果があり、録音信号の低音が
鳴り終わってからの余分な残響を引き延ばさずコントロールしているという事実が、
この課題曲の冒頭部であからさまに分かってしまったという事なのです!
言い換えれば、今まで演奏の迫力として感じていた低域とはスピーカーが作り出した
一種の虚像と言える個性であり、音量を上げて聴いた時にウーファーとバスレフポートが
送り出す脚色された録音信号にはない独特な低音に対して好感をもって聴いてきたのでは
ないかという疑心です。そして、その低音は中高域の再生音にも影響していたという事。
既に前章で確認した(1)のポジションのみで聴いてきたオーケストラですが、前二曲で
感じ始めていた違和感の正体は、今までのスピーカーではウーファーとバスレフポートが
音場感の再現性に大きな影響力を持っていたということです。
他のスピーカーではウーファーが音場感を作り出していたという確認が出来たと思います!
フォルテで大迫力のオーケストラの再生音とはスピーカーによって演出された低域が
ホールのスケール感を醸し出していたのでしょうが、Coltrane Quintet SEで聴くと
低音楽器のサイズ感は音量の大小に影響されず膨らまず一定であり、打楽器でも低弦
楽器でも大音量再生における音質として正確な時間軸で終息するという事実がホール録音
という大空間を忠実にマッピングするという離れ業として実現しているという事です!
次に言えることは(1)のポジションでは前述の正確な低音楽器のサイズ感の維持として、
それがもたらす重大な恩恵として中高域の再生音に対する変調歪の低減効果をもたらし、
オーケストラの多数の楽音に極めて重要な質感の純度向上という相乗効果を実現したと
いう事だと思います。
Coltrane Quintet SEで聴く大編成オーケストラの各パートの解像度の素晴らしさは
今となっては当然と言えるパフォーマンスを示し、今までの経験では音のつぶてと
なって飛んできた瞬発音に思わず怯んでしまう事もあったが、相当な音量でも
全くストレスを感じさせないクリアーさがあり爽快に聴き続けた。これは凄い!
締太鼓の爽快な打音がホールに響き渡る中で、津軽三味線の鋭い立ち上がりが
拍子木やびんさざらといった和楽器の切れ味と呼応して素晴らしい余韻が上空に
たなびく有様に、ただただ酔いしれ感動にひたる自分がいた。これは素晴らしい!
弦楽の美しさは当然のことながら、大太鼓や締太鼓など多数の打楽器、そして何より
津軽三味線の音像が膨らまず鮮明な輪郭をもって4ウェイのColtrane Quintet SEは
今までに体験したことのない変調歪の抑止力によって美音を奏でてくれるのです!
下記のyoutu.be動画でもMARTENが強調している-6dB/octのFirst orderクロス
オーバーネットワークによって、完璧に位相制御された中高域の高純度な再生音の
質感があいまって、描かれる音像サイズの引き締まり方に大きく貢献している。
https://youtu.be/s8iS9xuwpPg
Coltrane Quintet SEで構成されている4ウェイのうち、170Hzから1,000KHzを受け持つ
7インチ口径のミッドローユニットとトゥイーターの中心点の距離は僅か27センチ。
つまり10インチ2基のウーファーを除く3ウェイ構成のスピーカーが床上1メートルの
空中に存在していると例えることが出来る。
この3ウェイスピーカーの音源位置の集約と、位相制御のテクノロジーがなしえた
音像の鮮明さと素晴らしいフォーカスイメージの相乗効果に感動し納得させられた!
今まで多数のスピーカーで聴いてきた曲なのになぜ感動したのか?
Coltrane Quintet SEで聴くと低域の制御機能によってもたらされた低音楽器の
ブレーキ効果により、低域の音像が膨らまず正確なサイズ感となるためにステージ
との距離感が明確になり忠実な遠近感によってオーケストラ各パートの解像度が
高まるという事で、他のスピーカーでは聴けなかった臨場感が再現出来るという事。
合わせてColtrane Quintet SEの低域表現は他のスピーカーでは困難なホールの
空気感という空間再現性が素晴らしく、緻密な音場感によって演奏空間の透明度が
極めつけに高まることによる楽音の清浄効果が新鮮な魅力となっているという事実!
これらが何を意味するのか、瞬発的な打楽器や三味線の再生音で感じた事を確認するため、
通奏低音としてオルガンも聴いて比較することで説明できるのではと考えて次の選曲。
■Joseph Jongen:協奏交響曲 Op.81 / I. Allegro molto, moderato
Camille Saint-Saens:交響曲第3番ハ短調「オルガン付き」Op.78 / II. Poco adagio
ジャン・ヴィクトル・アルチュール・ギユー(オルガン)
ダラス交響楽団/エドゥアルド・マータ:指揮
https://ml.naxos.jp/work/365250
http://ml.naxos.jp/album/DOR-90200
余談ではありますが、このCDは1994年の輸入盤であり付属のライナーノーツでは
Joseph Jongenをオランダ語読みの「ヨセフ・ヨンゲン」と表記してあり、私は長らく
ヨンゲンと読んでいたのですが、英文字でネット検索すると「ジョゼフ・ジョンゲン」で
表記されることに気が付きました。読者に余分な時間を使わせて申し訳なく思いますが、
20年以上親しんできた読み方でヨセフ・ヨンゲンとして続けます。
ヨセフ・ヨンゲンの協奏交響曲 第一楽章の弦楽による導入部は大変印象的な音色。
これはダラス交響楽団の持ち味なのか、それとも指揮者やプロデューサーが好んだ音なのか、
私には楽団の素地なのかDorianレーベルによる録音サイドの演出なのかは分かりませんが、
眼前に展開する音場感の底辺にオルガンの通奏低音がしっかりと根をはったステージ上に
実にしなやかで美しい弦楽が空間を埋めつくす快感に思わずため息が出る!
これまでのオーケストラ録音でも高く評価してきた弦楽器の質感と音色の素晴らしさ。
ここでも前述の3ウェイスピーカーと例えた各ユニットの連携とクロスオーバーネット
ワークの緻密な設計が表れているという好例。この美しさには誰も文句は言えない!
そして、前述してきたノブ(1)のポジションで述べてきた強力なブレーキ効果が、
ここではオルガンの質感に絶妙な美技と言える連続する低音での脈動感を聴かせる!
スタジオ録音のドラムやベースという短時間の音、瞬発的な楽音というものでも
低音の音像と音色に大きな貢献をしている二次共振回路によるチューニング。
そんな瞬間的な時間軸における低音再生に関しては既に分析済みであったが、
バスレフポートの不要な共振音は連続する低音では楽音そのものの変質として
別の楽器のように膨張し、音色と質感を根底から変えてしまう事がある。
設計の悪いバスレフ型スピーカーで連続する低音を音量を上げて再生し、ポート開口部に
手をかざしてみると、空気が噴き出してくるのが分かってしまったり、録音信号以外の
低音が追加されたブーミーな低音として鳴り響いてしまうという経験もあったが、
バスレフポートからの排気が感じられた時点で既に相当歪んだ低音であるという事。
そんな再生音ではオルガンの響きが空間に充満してしまい、肝心なオーケストラの
主旋律を奏でる管弦楽器の音をマスキングしてしまう傾向があり、演出過多の臨場感が
演奏者の品格を台無しにしてしまう幼稚な再生音と言わざるを得なくなってしまう。
あくまでもオルガンはオーケストラ楽員の一員であり、一パートを受け持つ楽器の
一つとして自身のスケール感を誇張するような再生音であってはならないと思うのです。
進行するヨンゲンの協奏交響曲では繰り返す弦楽の主題が一段落し、オーボエの
響きがステージ奥から立ち上り、トランペットが爽快に右奥から響きはじめると、
オルガンは一挙に音階を下げて重低音を響かせ壮大な旋律をホールの大空間に
まき散らしながら、名手ジャン・ギユーの素早い運指と巧妙なペダルワークに
よって踊りだすかのように展開するオルガンはフィナーレに向けて勢いが増してくる。
その時にColtrane Quintet SEはしっかりとオルガンが奏するパイプの太さをイメージ
させる音階ごとの定位感を示し、ぐっと沈み込む重低音を空間に放つと同時に高音階の
細やかな旋律をステージ奥に並べるように展開させる見事な音のアートを創造する!
つづくサンサーンス交響曲第3番の第二楽章。静かなる雄大さを感じるオルガンの
通奏低音が冒頭からサウンドステージを構成するが、ここでもノブ(1)のポジションで
チューニングされた低域再生が秩序ある音場感を眼前に展開してく素晴らしさ!
それは前曲のオーケストラで感じ取ってきたウーファーの再生音が音場感の構成に
邪魔をしないこと、低域のチューニングによって中高域の質感が極めて正確に
再生されるという教訓を、なだらかな旋律をしっとりと奏でる弦楽五部の演奏を
確実にステージ上の実態感として視界の中に見事な定位感として私を唸らせた!
本章で聴いてきたオーケストラで他社にはないMARTENの特徴として、二次共振回路に
よる低域調整の恩恵が正確なサウンドステージの再現性に直結していると実感された。
オーケストラの各パートの定位感と遠近感による各楽音の精密な音像の集合体として
正確な音場感を造形するという事に対して、オルガンという明確な音像として定位感を
表現することが難しい楽音では、その連続する低音が大きなストロークとなる大音量
でのウーファーによる中高域への干渉が究極的な効果で抑制されたということ!
MARTENのスピーカーラインアップの中でもColtrane Quintetでなければ果たせなかった
パフォーマンスを感動のうちに確認し納得した私は、同時にCH Precision 10 Seriesと
Siltech Master & Triple Crown Seriesにザ・ベストという冠を授けたのでした!
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昔から「感動の大きさは文章量に比例する」と私は述べてきましたが、このスピーカーの
出現は私の職歴の上で正にザ・ベストと言える存在となったと結論しました。
最後にMARTENのwebサイトより下記の一節を紹介します。
■Philosophy Keeping it real.
When Leif started making speakers, he wanted to hear something that didn’t exist.
He wanted to hear music as it was in real life.
Sound in our natural environment isn’t coloured; Leif wanted to make a speaker
that accurately reproduced the truth and beauty of natural sound. That dream turned
a hobby in to a business.
It’s still a strong part of the Marten ethos and steers product design and development.
私も趣味が仕事になってしまった一人ですが、このスピーカーの真実を皆様に伝えていく事、
つまり設計者Leif Oloffsonの代弁者として、近い将来にMARTENの真実を日本のユーザーに
体験して頂けるよう取り組んでいく事をお約束して本稿を締めくくりたいと思います。
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