発行元 株式会社ダイナミックオーディオ 〒101-0021 東京都千代田区外神田3-1-18 ダイナミックオーディオ5555 TEL 03-3253-5555 / FAX 03-3253-5556 H.A.L.担当 川又利明 |
2025年8月8日 No.1812 H.A.L.'s One point impression!! - Devialet Astra |
■ H.A.L.'s One point impression!! - Devialet Astra ■ -1- 新企画 H.A.L.'s SESSIONS 2025 Part.1 https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1798.html 上記にて速報したExpert ProからAstraへの進化として、従来の製品から外装面 だけでない最も大きな要素を上げるとすれば、次の二項目という事になります。 ■ADH-Analog Digital Hybridの進化 第2世代のADHとなり、D classアンプのエネルギー消費と熱管理を最適化。 Expert1000Proでは放熱を考慮して銅製ボトムプレートだったが、熱効率が 改善されたことでアルミ製に変更。 5kHz以上での歪み率が改善し再生周波数特性が80kHzまで伸びハイレゾ認証を取得。 A classアンプとD classアンプを結ぶコントロールボックスのアルゴリズムを改善。 ■OSの進化 オペレーティングシステムがDOS2からDOS3になり、従来のAirPlay、Roon Ready、 Spotify Connect、UPnPに加え、Tidal Connect、Google Castに対応。 また、従来はconfigurationのプログラムをSDカードでインストールするという 方式だったが、専用アプリからタブレット端末による設定変更が可能になり操作性が向上。 Devialet Astraを先ずは1台のステレオアンプとして試聴開始。 システム構成はいたってシンプル。 電源ケーブルはTransparentのXLPC2、スピーカーケーブルは Y'Acoustic System Ta.Qu.To-SPL/5.0m、もちろんスピーカーは HIRO Acoustic MODEL-CCCS 10AEという定番の組み合わせ。 しかし、今回はソースが今までと違う。DELAのリファレンスネット ワークスイッチ「S1」よりエイム電子NA2-020 RJ45/LANケーブルにて RoonサーバーによるQobuzとTIDALにてFLAC 96KHz/24bitのファイルを 使用するという事で、やっとと言うか遂にと言うかコンポーネントを 評価する場面でもストリーミング再生の音質を判断基準とすることに。 https://www.dela-audio.com/product/s1/ 以前にはCDトランスポートからアップコンバートしたデジタル信号を 入力してDevialetを試聴してきましたが、今回は後述する独自技術SAMを 積極的に試聴する事もあり、同時にiPadによるDevialet AstraとRoonの 同時コントロールという利便性を重視したもの。 選曲は最近ネットワークオーディオの試聴に多用している下記を使用。 1)溝口肇「the origin of HAJIME MIZOGUCHI」より「14.帰水空間」 https://www.sonymusicshop.jp/m/item/itemShw.php?site=S&ima=3355&cd=MHCL000010099 http://www.archcello.com/disc.html RoonサーバーによるQobuzとTIDALにてFLAC 96KHz/24bitのファイルを使用。 2)大貫妙子「ATTRACTION」より「1.Cosmic Moon」 https://www.universal-music.co.jp/onuki-taeko/products/upcy-7103/ RoonサーバーによるQobuzとTIDALにてFLAC 96KHz/24bitのファイルを使用。 3)マーラー交響曲第一番「巨人」第二楽章(Normal CD) この写真で録音の古い順に左上から[1]右へ[2][3]、下段の左から[4][5][6]となる。 この中から定番の選曲で小澤征爾/ボストン交響楽団の1987年録音[3]から第二楽章。 https://www.dynamicaudio.jp/s/20210519123606.jpg RoonサーバーによるQobuzとTIDALにてFLAC 44KHz/16bitのファイルを使用。 https://store.universal-music.co.jp/product/uccd4783/ そして、恒例の課題曲を聴き始めて感じ取ったのはDevialet独特の質感。 16年前に出会った初代モデルD-Premierから、7年前のExpert1000Proに至る 同社の最もコアな技術であるADHの魅力でした。 オーケストラにおける弦楽の音色と質感、ヴォーカルのしなやかな声質、 ホール録音の十分なサウンドステージとスタジオ録音での多彩な楽音の 高解像度という正に音像と音場感の両立が高次元で再生される素晴らしさ! それらの微細な信号を忠実に描き出すクラスAが滑らかな楽音の表情を捉え、 打楽器や撥弦楽器の発祥から空間に発散していくダイナミックな瞬発力を 支えるクラスDのエネルギー感と躍動感が調和し、洗練された迫力という 魅力がHIRO Acousticを通じて実感できる第一印象に、Devialetの音という 私の記憶が快感を伴って上書きされていく再生音には文句のつけようがない! 重量級アンプの物量投入によって屈強なスピーカーをねじ伏せるがごとくの マッチョな再生音も経験してきたが、プリアンプ手前のソースコンポーネント からのアナログ信号のシグナルパスと、プリアウトからのケーブルを通じて パワーアンプが受け取ったアナログ信号が出力端子に至るシグナルパスの 長さは各種のワイヤリングを通算すると何メートルになることやら。 もちろん、私の関心としてはアンプの内部配線だけでなく、コンポーネント間を つなぐハイエンドケーブルの存在意義を十分に理解し評価しているものですが、 Devialetの場合は内蔵するDACから出力されたアナログ信号がスピーカー出力 ターミナルに至るシグナルパスの長さは、たった5センチという驚異的な伝送 経路が音質に貢献している事実を再生音の純度として私は実感してしまいました。 https://www.devialet.com/ja-jp/about-us/our-technologies/ AstraによってもたらされたADHの進化を感動と納得のうちに確認した後に、 私が取り組んだのは二台を使用してAstra Dualでの試聴。この違いは大きい! 前作Expert1000Proの後継機種として評価するのであればDual Monoが基本。 ただし、単純に二台でモノアンプとしたものではなく、スピーカーケーブルを バイワイヤーとして一台のAstraでHIRO Acousticの低域と中高域に個別配線し、 モノバイアンプ駆動としている。これは大きなポイントなので追記しておきます。 これを聴かずして前には進めないという試聴課題に取り組む。 ただし、ここまでの試聴ではすべてSAMはオフとしている。 以前から私が追求している音質傾向の指標として、限りなく絞り込まれた音像と 広大に展開する音場感という、一台のステレオ再生で感じ取っていたAstraの ADHによる大変に魅力的な質感を土台として音像と音場感の両方で確認していく。 Astra Dualに切り替えて先ず最初にチェックしたのは溝口肇の「14.帰水空間」 近年これほど端的にシステム構成の個性と特徴を判定できる課題曲として信頼 している選曲で聴き始めると、冒頭の左右センターという三点から響くドラムで Dual Monoによる音像の引き締め効果と重厚な質感への変化が直ちに確認された! その直後にセンター奥の中空に展開する高音パーカッションの輝きと分解能の 際立ちに、ADHの進化とDual Monoでの解像度の高まりを同時に直感し、これは 中途半端なセパレートアンプを既に凌駕していると驚きと納得が押し寄せてくる。 更に追い打ちをかけるように、私の耳と感性に一種の衝撃とも言える質感の変化を 音像と音場感の両面で訴えかけてきたのがチェロの記憶にないほどの美しさ! 1台のAstraによるステレオ再生でもチェロの音色と質感の創造的美意識が見事に 表現されていたのですが、それがDual Monoになってから音像の輪郭が鮮明化され、 センター奥に左右から絞り込まれた遠近法の消失点に凝縮した溝口肇のシルエットを 浮かび上がらせる変貌ぶりに「これだ!」という心中の叫びを無視できなかった! 音像が明確にされるという事は同時に響きという空間情報をも増大させるという 経験を重ねてきたものですが、チェロが放った余韻が微風にあおられて周辺に 拡散される描写力にため息をつき、Astra Dualの描くサウンドステージの広大な スケール感を端から端まで見渡すには視線を左右に巡らせなければならなかった。 演奏が始まって二分ほどしか経っていないのに、低域から高域のすべての領域で 音像と音場感の両面で察知した変化は続くマリンバとピアノというソロパートの 演奏では既に予測できる方向性の変化が確認され、私の頭の中ではAstra Dualで しか出せない音というフラッグがビシッと立てられていたのです!これはいい! 大貫妙子の「1.Cosmic Moon」でも前曲で感じ取った変化が再生時系列を追って 次々と立証されていくという、予想的中という感動を自我自賛の思いで確認していく。 楽器の種類によって聴き手の期待感、先入観を人それぞれに思い入れとして再生音への 好みの表現として発想することを私は否定する事はないのですが、この曲の冒頭に 収録されている大自然の中で響き渡る雷鳴というSEに関しては個人の好みを反映する ということは出来ないでしょう。 この雷鳴はIMAXシアターの巨大スクリーンを思わせるほど、私の視野におさまらない程の 広大な音場空間として、地平線が見えるほどの距離感を思わせる雷鳴のスケール感を HIRO Acousticの周辺に描き出すのですから堪りません!この空間サイズの拡大に驚く! 稲妻の閃光と落雷という衝撃音の連鎖から、ふと一瞬の静寂が戻ったところに軽妙な 雄鶏の鳴き声が飛び交い、シンセサイザーの人工的な重低音がセンターから湧き上がる。 この重低音が以前にはなかった肉厚で重々しい音色に変化しているのを見逃さない! そして、この曲で以前から注視している右チャンネルからのシェイカー、左側では 激しいアタックのスネアが炸裂する。シェイカーの中身の粒子が実態感を高め、 同時に巧妙にかけられたリバーブでスピーカー周辺に余韻を漂わせ、それは同時に 対極のスネアの打音にも解像度とテンションの高まりをもたらしており、切れ味が 鋭くなった打撃音の余韻を引き延ばすという情報量の拡大をここでも見せつける! この曲は歌声ではなくVoices:大貫妙子としてシンプルなワードを繰り返す。 Magnetic moon Lunar moon Electric moon Self-Existing moon Overtone moon Spectral moon Crystal moon Cosmic moon と囁くようなVoicesが中空に浮かび、 Moon Rise Moon Set 13th moonと続き、日本語の二行の歌詞が印象的に表れる。 その間は一貫して左右のシェイカーのリズムと弾力性のある重厚な低音が広大な 音場感を構成し、男性のVoicesが彩りを加え、短いパッセージのピアノが漂い、 スタジオ録音の醍醐味として管理された美しい響きを展開し壮大な空間を描く。 これらのVoicesがしっかりと輪郭を示し、それに呼応するようにセンターに表れる ギターの質感が堪らなく美しい。いや、洗練されたというべきか。 以前にも増して解像度の高い音像として描かれていく、Astra Dualにしてからの 相違点に当然私は気が付いていた。これはいい! マーラー交響曲第一番「巨人」第二楽章を聴き始めると、上記二曲だけではなく 他にも聴いていた曲での観察結果も含めて、今までの試聴で感じてきた変化要素が オーケストラの再生音では総合的な進化の方向性として予測される安心感があった。 冒頭の弦楽五部の合奏から右チャンネルのトランペットの響きまでもが予想通り。 進化したADHの貢献による弦楽器の質感の滑らかさ、響きの美しさは文句なしの素晴らしさ。 Dual Monoでの解像度の向上は木管楽器のソロパート、小粒なトライアングルの音色にも 輝きを与え存在感を磨き上げ、オーケストラ各パートの描写力を高めると同時に ボストンシンフォニーホールにおける空間再現性という情報量の拡大につなげている。 ステレオ一台としてのAstraに対して大きく飛躍したモノバイアンプ駆動の威力に、 私はこれこそ新世代のDevialetだと感動し納得してしまった!素晴らしいです! しかし、私の探求心と好奇心は更に欲深くDevialetにしか出せない音はないのか!? と歴代のDevialetを聴いてきた経験から次なる試聴課題に進んでいく事にした。 世界中どのアンプでも成しえなかったテクノロジーであり、Devialetの最大の特徴で あるSAM(Speaker Active Matching)に対する追求をしていくことにしたのです。 https://www.devialet.com/ja-jp/amplifiers/expert-pro/expert-pro-technologies/expert-pro-sam/ -2- さて、DevialetのSAMに関して私が初めて知ったのは下記の時代の事でした。 2014年7月5日「輸入元webサイト未公開のDEVIALETに関わる最新情報とは!!」 https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1118.html この当時は伝聞情報でしかなく、その実態も知らず積極的に聴こう試そうという事は していなかったと思います。なぜならば、世界中に数えきれないほど存在している スピーカーをどうやって測定するのか? 古臭い概念しかない私はDevialetが自社で無響室を作り、そこにいちいちスピーカーを 運び込んでマイクロホンで測定するなど不可能であろうと、そしてデジタル技術に よってスピーカーをチューニングするという手段は意外に古くからあったのですが、 その成果としての音質には懐疑的であり期待はしていなかったというのが本音というものでした。 当時の輸入代理店もDevialetからの情報が乏しく、SAMとは一体どういうものなのか、 納得できる説明が得られない状態が続き、何例かのスピーカーで試したものの自信を もって推薦できる音質を確認できなかったものでした。 その後Devialetの正規の輸入代理店がない期間が続いていたのですが、以前同様に また私のもとに日本語を話すフランス人がやってきてDevialet Japanを設立するので 協力して欲しいという話になったのでした。 そして、2014年にHIRO Acousticが登場し、ダブルウーファーへと進化したModel-CCCSが 2016年に誕生し、2018年にExpert 1000Proが発表されるという時系列がありました。 HIRO Acousticが確固たるリファレンスの位置づけとして定着し、それに目を付けたのか 私がこだわったのかは忘れてしまいましたが、Devialet Japanの担当者がDevialetのSAMを HIRO Acousticで聴けるようにエンジニアを連れてきて測定しましょうかと声がかかったのです。 そもそもSAMに関する初期情報ではなかったものが、翌年になって完成された事が大きな 要因であり、下記の画像で紹介するSAM Labという測定ユニットが開発されたことで対象と なるスピーカーを設置場所で測定できるようになったことが画期的な進歩となったものです。 https://www.dynamicaudio.jp/s/20250728153834.jpg https://www.dynamicaudio.jp/s/20250728153846.jpg https://www.dynamicaudio.jp/s/20250728153859.jpg Measurement SAM / HIRO Acoustic Model-CCCS 下手な写真ですが一応の証拠としてSAM Labユニットを下記のようにセット。 https://www.dynamicaudio.jp/s/20250728132929.jpg 実際のHIRO Acousticに対してレーザードップラー振動計にて測定。 https://www.dynamicaudio.jp/s/20250728130947.jpg https://www.dynamicaudio.jp/s/20250728130928.jpg この時に当フロアーに来て実際の測定とチューニングを行ったエンジニアが下記の youtubeでSAMに関する詳細を説明している動画があるので是非ご覧頂ければと思います。 https://www.youtube.com/watch?v=AcLYb4sBhwQ&t=163s *youtubeの設定の歯車マークから字幕>自動翻訳>日本語にてご覧頂くと良いと思います。 この動画の最後では測定し調整したデータをSDカードに保存するというところで 終わりますが、以前のExpert ProシリーズではSAM Labで作成したプログラムをアンプ リアパネルのSDカードリーダーに挿入し再起動することでインストールするという方式 でしたが、AstraではDevialet専用アプリをスマホやタブレット端末にインストールする ことでSAMは勿論の事、多様なコントロールが出来るように進化しています。 SAM Labによる測定はレーザー光を使ったものという事を当時初めて知ることになり、 音響的環境に左右されないので無響室も不要であり、SAMの画期的な要素を次第に理解 出来るようになってきたものです。 この結果として世界中の名だたるスピーカーブランドと並んで、DevialetサイトのSAM 対応済みということで下記のようにHIRO Acousticがエントリーされました。 https://www.devialet.com/ja-jp/expert-pro-sam-ready-speakers/hiro_acoustics/cccs/ 先ず最初に対象となっているHIRO Acousticの再生周波数特性とインピーダンス特性を 下記メーカーサイトの下段にあるMODEL-CCCSのグラフでご覧頂ければと思います。 http://www.hiro-ac.jp/technical.html ここで注記として20Hz〜200Hzは近接測定によるデータ、200Hz〜20kHzはARTA(Audio Recording and Transfer Analyzer)による疑似無響室測定とありますが、SAMによって チューニングされる帯域は150Hz以下であり、他の帯域ではノータッチとなっている 事を大きな前提として述べておきます。グラフ横軸の150Hz以下にご注目下さい。 SAM Labによる測定からチューニングされて使用前・使用後という波形が上段にあります。 白い線が入力信号、赤い線が出力信号の波形ですが、ここで注目したいことは波形の 上下の振幅が使用後に一致したことは勿論なのですが、時間軸に対して左右にずれが あったものがぴたりと一致するという位相補正の効果が示されているということです。 次の使用前・使用後という周波数は-6dBという再生周波数特性の下限を示しています。 HIRO AcousticサイトのMODEL-CCCSのウーファーの再生音圧が50Hzからロールオフして 減衰していくのが観察出来ますが、-6dBでの周波数を見ると確かに32Hzとなっています。 SAMの使用後では再生限界が18Hzまでエクステンションされているという事ですが、 残念ながらメーカーサイトのグラフでは20Hzまでしか測定されていません。 -6dBのプロットをグラフの左端より更に拡張してイメージして頂ければウーファーの 再生限界の低域を示すグラフが如何に変化するか、それをズバリ示しているグラフを 私がDevialetから入手した特性グラフで下記のようにご覧頂くことが出来ます。 赤い線が使用前、黒い線がSAMによってチューニングされた低域特性となります。 Tuning HIRO Acoustic Model-CCCS https://www.dynamicaudio.jp/s/20250728133021.jpg 一番下にはプロテクションなしと表記されていますがSAM使用前のことです。 使用後には10mmと表記されていますが、簡単に言えばウーファー振動板の ビトンモーションにおいてリニアリティーが維持できる最大振幅を10ミリとして SAMで制御することで、スピーカーユニットの破損を防止し同時に歪率の制御も 行っているという事です。 上記の動画でSAM Labによる測定からチューニングの過程が説明されていましたが、 3:50あたりから解説しています。この点は私の解説でも後述します。 以上の事柄からSAMの主な働きというものは次の三項目となります。 ■ウーファーの低域再生限界を引き下げることで正確な低音再生を実現。 ■ウーファー動作に関して速度も補正可能として位相補正を実現。 ■ウーファーの最大振幅を制御することで破損を防止し同時に低歪化を実現。 SAMはスピーカーに送られる信号とウーファーの挙動をリアルタイムでを監視し、 毎秒192,000回補正することでスピーカーの音響出力がアンプへの入力と一致する ようにしているという事なのです。当フロアーでも展示しているB&W 801D4もSAMに よってチューニング出来るものであり、その結果も下記のように公開されています。 https://www.devialet.com/ja-jp/expert-pro-sam-ready-speakers/bw/801-D4/ 以上が既にDevialetサイトで公開している情報です。 これがExpert ProからAstraへと、どのように進化して行ったのか。 SAMの威力というものを試聴の上で実感した私は更に深掘りしていく事にします。 -3- 前章では公開済みの資料を元に説明しましたが、実は当フロアーでSAM Labにて HIRO Acousticを測定した際には今回初公開する多項目のデータがあったのです。 ここで私なりにSAMに対する解説を試みますが、入手できた資料と現地メーカーに 対する質疑応答だけでは皆様に直観的に説明することが難しいポイントもあり、 私の推測で述べている項目もあることを追記しておきます。 先ずインピーダンス特性に注目し、SAM Labによる測定結果を下記に示します。 HIRO Acoustic Model-CCCS / Impedance https://www.dynamicaudio.jp/s/20250728131350.jpg HIRO Acousticサイトでは公称インピーダンス4オームとしていますが、80-200Hzで 約2.5オームまで低下しているのに対して、28Hzから29Hzにかけて約20オームまで 急激に上昇しているという特性はSAM Labによる測定と一致しています。 これはスピーカーの最低共振周波数(f0)を示しており、ありていに言えば振動板が 最も大きく振幅できる周波数であり、低域の再生限界でもありf0以下は急激に音圧が 低下するという傾向があります。この特性が後述するSAMの特徴に関連してきます。 それでは一般的なスピーカーメーカーでは行っていない貴重でありユニークな測定 データがありますので下記をご覧下さい。 HIRO Acoustic Model-CCCS / Displacement https://www.dynamicaudio.jp/s/20250802135744.jpg このグラフの横軸は周波数ですが、前記のHIRO Acousticサイトのグラフのように 20Hzから20KHzという可聴帯域すべてではなく、10Hzから1KHzという帯域であることに ご注意頂きたいと思います。 一般的なスピーカーの再生周波数特性などは無響室で測定用マイクを使用した音響的な データという事になりますが、レーザー光による測定なので正確にサブソニック帯域 までグラフ化されています。一定の単位電圧を印加した際のウーファー振動板の変位 (振幅)であり、横軸は周波数で縦軸はmmで表示されていたものです。 スピーカーの構成部品として振動板とボイスコイルボビンという振動系の質量を支持する ダンパー、振動板周囲で低周波の回析を制御するエッジなど機械的コンプライアンスが 存在するもので、簡単に言えば柔軟性ある部品で支持されたウーファーの機械的な動作の 実態が見られるものです。 長らくオーディオの仕事に携わってきた私ですが、スピーカーの動作に関してレーザー光を 使っての測定で、このようなデータを見せられたのは初めての事です。 オーディオ分野でコンプライアンスという言葉は50年以上前から使われており、昔はフォノ ピックアップカートリッジの性能を示す1項目としてカタログにも表記されていました。 その事例は下記サイトにて上手に説明しているので参考として紹介しておきます。 https://www.ortofon.jp/analogtaizen/26 カートリッジの振動系ではダンパーゴムがコンプライアンスを決定する要素となっており、 その固さによってコンプライアンスの数値が上下します。 その数値が高いほどダンパーゴムは柔らかく針圧も軽くなり、私の記憶では針圧が1から 1.5g程度のMM型カートリッジはハイコンプライアンス型と呼ばれ、数値としては50から60と いうものがカタログ表記されていました。 その逆がOrtofon SPUシリーズに代表されるローコンプライアンス型で針圧は3から3.5g 程度のものであり、自重も30から35gと重量級で、コンプライアンスの数値は10以下でした。 コンプライアンスの対義語はスチフネス(剛性)ですが、数値が高いほど物体として変形 しにくいという性質を示すものであり、実はオーディオ分野では同じ機能性を有する 製品の中でコンプライアンスとスチフネスの両方の特性を高める技術が求められ、 ひとつの製品の構成部品の中で両者が共存しているというものなのです。 自動車のサスペンションなどは好例です。ゴム製のコンプライアンスブッシュを用いた 支持構造が典型例であり、ガタつきを防ぎつつ変位を許容することで、回転軸がまちまちな アーム同士の作用抵抗を減らし、かつ、操縦安定性や乗り心地を一定のレベルに保つ 役割を持つ事に類似しています。 つまりピックアップカートリッジではコンプライアンスを重視するダンパーゴムの存在と、 応力がかかっても決して変形してはいけないカンチレバーに対するスチフネスという対極です。 これはスピーカーにも当てはまるものであり、決して変形してはいけない振動板には 剛性が求められ、半面では振動系パーツを高いコンプライアンスで支持して敏感に ピストン運動させるためのダンパーという相反する性質のパーツが共存しているわけです。 そして、ここで注視しなければならないのが機械的コンプライアンスにも共振現象があり、 機械的コンプライアンスが大きいと共振周波数が低くなる傾向があるという事実です。 言い換えればスピーカーのダンパーの柔軟性が高く変形しやすい物質であれば、周波数が 低くなれば振幅も大きくなってくるという特性です。 ここで昔の縁日の屋台で売られていた、小さいゴム風船に水をいれゴム紐で吊るして パンパンと音をさせながら遊んだ懐かしいヨーヨーを思い出して下さい。 柔らかく伸縮性があるゴム紐ですが、ある周期でゆっくりと手を動かせば重みのある ゴム風船は上下して勢いよく弾みますが、細かく上下動させてもゴム風船は動かず一定の 位置のままという現象と同じく共振周波数によって物体の動きは左右されるという事なのです。 ただし、スピーカーのダンパーの場合にはピストンモーションさせる方向性においてのみ 求められるコンプライアンスの高さであり、それ以外のベクトルでは変形してはなりません。 H.A.L.'s One point impression & Hidden Story - B&W 801D4 https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1685.html このダンパーに関して上記の第二章「Biomimetic Suspension」で求められる性能と特徴を 私なりに解説していますので、興味と時間のある方は一読をお勧めいたします。 さて、HIRO Acousticのクロスオーバー周波数は非公開となっていますが、私の経験から 350Hzから400Hzの中間に設定されているものと考えています。 再度Displacementのグラフを見て頂きたいたのですが、その帯域では微動だにしないものが 可聴帯域の下限である20Hz以下のサブソニック帯域では1ミリ前後の振幅で動いているという事実、 ウーファーユニットのみの機械的動作として良好な柔軟性あるパーツと密閉型エンクロージャーの 特徴が表れており、ピークディップのないリニアな特性が超低域まで確保されている事でSAMの 効果を正確に音質として反映できるものであることを述べておきます。 音楽信号のようにダイナミックな変動がある信号ではなく、一定電圧でも周波数によって 振幅が異なるというのは意外な事であり、ウーファーの性質をどのように解析するのかと いう着眼点は他社にないノウハウであると思います。Devialetいい仕事してますね〜! ここで上記youtubeの動画で使用されていた比較的小型のブックシェルフ型2ウェイス ピーカーの同じ測定結果を参考例として下記に紹介しておきます。 D1 / Displacement https://www.dynamicaudio.jp/s/20250802140111.jpg このようにバスレフポートの共振周波数とインピーダンス、ウーファーの最低共振周波数(f0) との相関関係から、一定電圧において振動板の挙動に大きな変化が見られるものです。 次に前記Displacementの特性と対照的なデータが振動板の速度を測定した下記のグラフです。 HIRO Acoustic Model-CCCS / Speed https://www.dynamicaudio.jp/s/20250802135754.jpg 上記の20Hz以下のサブソニック帯域では急激に振動速度が低下していることが分かります。 一定電圧ではストロークの幅は大きくなれど、そのスピードは反比例して遅くなり、 大振幅で起こる振動板のドップラー効果で歪率が上昇する原因にもなるものです。 そして、前述のインピーダンスが急上昇する最低共振周波数(f0)付近では他の周波数と 比べて振動板の速度は数倍と高速運動していることが分かり素晴らしい特性と言えます。 SAM Labによる測定で得られた振動板の運動スピードもSAMの補正対象なので、音圧だけ でなく位相制御に関しても重要な項目であり、マイクでの音響的測定では分析できない 要素がここにあるものです。前例同様に比較対象の参考として下記データを提示します。 D1 / Speed https://www.dynamicaudio.jp/s/20250802140120.jpg 更に同じスピーカーで反応する加速の変化も参考として下記に示します。 小口径ウーファーなので周波数が上がると加速度も上昇しますが、やはりバスレフポート の影響が振動板の加速を鈍らせているという傾向があります。 D1 / Acceleration(加速) https://www.dynamicaudio.jp/s/20250802140129.jpg ただし、SAMにはこのようなバスレフ型エンクロージャーの特性を補正する働きもあり、 その根拠となる測定データであるという事が重要なポイントです。 なお、以上のDisplacementとSpeedのグラフにおける縦軸の数値に関しては絶対値と しての共有はありません。SAMアルゴリズムが計算した電気的、機械的、音響的挙動から 数学的モデルが作成されたものであり絶対値としての定義づけはなく、スピーカーが 違うと縦軸のスケールも変化するので、数値レベルの高低によって特定の意味はなく 変位の傾向に意味があります。 最後にインピーダンス8オームのスピーカーに1Wを印加した場合の出力音圧周波数特性の データを提示します。SPLのグラフの縦軸は音圧を示すdBとなっています。 HIRO Acoustic Model-CCCS / SPL https://www.dynamicaudio.jp/s/20250802135804.jpg HIRO Acousticサイトのグラフはマイクによる測定ですが、こちらはSAM Labによる 理論値ではないかと推測しますが、極めてフラットレスポンスであり私が信頼する HIRO Acousticの完成度を裏付けてくれるデータであると思います。 ここで再度SAMでチューニングした下記の周波数特性と比較してみましょう。 Tuning HIRO Acoustic Model-CCCS https://www.dynamicaudio.jp/s/20250728133021.jpg HIRO Acousticサイトでは能率91dBとしていますが、両方ともに100Hzでは維持している 91dBがModel-CCCS/SPLのグラフでは20Hzで-10dBという減衰量(これは大変良い数値です)が SAM使用後では-3dBという素晴らしい低域特性を発揮するようになっています。 ただ、以上のデータが実際の再生音ではどのように評価されていくのか、ここがポイント! -4- さて、Devialet AstraはOSが進化してスマホやタブレット端末で詳細なコントロールが 出来るようになったと述べていましたが、最初は下記のボリューム調整の画面を紹介します。 https://www.dynamicaudio.jp/s/20250802153509.jpg この右上でバッテリーアイコンの下にある三本線が機能メニュー選択のアイコンとなり、 これをタップすると各種メニューが表示され、SAMの調整画面が開きます。 SAMのオンオフの下にSAM %の選択がスライドバーで出来るようになっており、前述して きたようにSAMの効果を確認するにあたり私は下記の三つのレベルで試聴する事にしました。 ここで注記しておきたいのはSAM 0%というのは低域拡張は行われず、位相補正と振幅制御 という二つの働きしかしないという設定であるという事。その後パーセントを高めていくと 低域拡張のレベルが大きくなっていくというSAMの機能を念頭において聴き始めました。 SAMはウーファーの150Hz以下をチューニングするという前提から、先ずはHIRO Acousticの 低域がどのように変化するのかを真っ先に知りたく恒例の選曲から聴き始めます。 1)溝口肇「the origin of HAJIME MIZOGUCHI」より「14.帰水空間」 https://www.sonymusicshop.jp/m/item/itemShw.php?site=S&ima=3355&cd=MHCL000010099 http://www.archcello.com/disc.html RoonサーバーによるQobuzとTIDALにてFLAC 96KHz/24bitのファイルを使用。 最初はSAMオフにて聴き直しADHの魅力を再確認する。冒頭のドラムからベースの導入、 チェロの質感と多彩なパーカッションの展開、そしてマリンバとピアノのソロパートと 鮮明かつ繊細な再生音を確認し、もうこれで十分ではないかという思いがあった。 しかし、次の画面のようにSAM 0%にした瞬間に私は前言撤回と頭の中で叫んでいた! https://www.dynamicaudio.jp/s/20250802153530.jpg 先ず冒頭のドラムが激変した! 低域拡張はしていないはずなのに重厚感が倍加し、 HIRO Acousticのウーファーにマスウエイトを追加したのではないかと耳を疑う程に 重々しい打音に感動する! しかも、それは重く沈み込む音色の左側ドラムだけでなく、跳ね上がるような サスティーンを見せる右ドラムも、センターの空間でコンパクトな音像を見せる 二連打のドラムも、全ての打音において濃厚かつ重厚な質感に圧倒される! 低音打楽器の波形において位相補正を行うという事が、これほどの威力を持つものなのか! 私がイメージしていた位相補正とはミッドレンジとの連携において楽音のつながりを シームレスで自然な感触にチューニングしていくものだったのですが、多くの倍音を 含むドラムの質感をこれほど大きく変化、いや!録音されていた元波形というものに 回帰させるという実態を初めてDevialet Astraによって知らされたという驚きです! それだけでなく位相補正の成果として音像の引き締め効果という新たな発見もある。 SAMオフに比べて三割ほど打音の投影面積が縮小されたような印象で、打撃の瞬間から 周辺に広がっていった残響が打音のエネルギー感を薄めていたのだろうか、そんな 響きの要素を音像内部にとどめて濃厚さを増した三種のドラムが実に爽快で素晴らしい! 打楽器における質感の変化は他の楽音にも同傾向の変化を連携させ、引き締まった ベースは濃密な音像となり、そんな変化のベクトルは予想したようにチェロの再生音に 今までなかった心地よい緊張感と言える質感による音像の縮小と芳醇な残響を醸し出す! 今まで数えきれないほどHIRO Acousticとハイエンドアンプたちで聴いてきたチェロとは違う! ADHのしなやかな質感はコンパクトな音像のシルエットの中に生き生きと展開し、 溝口肇が切り返す弓の動きを視覚的に感じるようなリアルさで、彼の周辺に余韻をはらむ 空間が新たに作り出されたような見事なサウンドステージをAstraによるSAMが造形する! 打楽器と弦楽器の両方で感じ取った変化はマリンバの鍵盤そのものを一個ずつ独立させ、 個々の鍵盤にマレットがヒットする瞬間を見事に捉えていく様子から、ウーファーが 受け持つ帯域でもマリンバの楽音に鮮明さを与えた位相補正の威力を実感する!いい! 続くピアノのソロパートでは既に変化の方向性は予測されていた! スタジオワークの巧妙なリバーブが施され、打鍵の瞬間から立ち上る残響がスピーカーの 上空に尾を引く流星のように消滅していくまで余韻を残していく描写力に舌を巻く! 3ウェイスピーカーのウーファーは想像上に中高域の成分を含んでいる。 バイワイヤー仕様のスピーカーでミッドハイレンジのスピーカーケーブルを外してみると、 ウーファーから歌声やピアノの旋律が曇った音ではあるが聞こえてくるものです。 グラフで見ればウーファーの出力音圧は周波数が高くなるにつれてロールオフしていく のは通常の事であれ、多くの楽音の足元にある基音の一部を担っているのは事実。 そんなウーファーの位相補正とはアンプから入力される波形と同一にすることが目的。 SAM Labによってレーザー光によって測定された各種データをDevialetの頭脳が編み出した アルゴリズムで処理すると、私が知り得なかった極めて正確な楽音として蘇った!これは凄い! 進化したAstraのOSによって、更にSAMによる低域拡張を行うべくSAM 50%からSAM 100%へと スライドさせ、私は執拗にチェックポイントをおさらいしていく事にした。すると… SAM 0%からSAM 50%、更にSAM 100%へと進めていく。あくまでもHIRO Acousticで私の耳と 感性で判断したという事になりますが、上記の感動をもたらしたSAM 0%が一番いい! 低域拡張した割にドラムの重量感はあまり変化しない。以前にも経験はありますが、 低域の再生限界が伸びると楽音の質感はゆったりと感じられる傾向があるのも事実。 でも、そんな経験がある私ですが、ドラムの音像が微妙に膨らみテンションが緩む。 そんな変化は他の楽音にも共通して表れ、ベースもチェロも同様、鍵盤楽器の質感も SAM 0%に比べて望まない緊張緩和という方向性の変化を私の好みとはしなかった。 私はSAMの低域拡張を否定したのではありません。もしかしたら、このドラムには 150Hz以下という超低域の成分があまり含まれていないのではと以前になかった見解を SAMによって導き出されたのかもしれない! あくまでもSAMパーセントに関する設定にて、聴く音楽によって選択があるという 最初の事例として報告しておきます。 これは逆に言えばSAMの位相補正の威力が素晴らしいという事です。 2)大貫妙子「ATTRACTION」より「1.Cosmic Moon」 https://www.universal-music.co.jp/onuki-taeko/products/upcy-7103/ RoonサーバーによるQobuzとTIDALにてFLAC 96KHz/24bitのファイルを使用。 これも最初はSAMオフで聴く。続けてSAM 0%で聴くと… 前曲のように位相補正によって変化する音像の縮小という変化のベクトルは冒頭の 雷鳴という自然界の壮大な低音の洪水に耳で感じる視野狭窄現象をもたらした。 残響がもたらすスケール感という醍醐味が欲しいところなのに、前述のような音像 引き締め作用は逆効果になってしまったのだろうか。 各種パーカッションの粒立ち、左チャンネルの強烈なスネアの打音と残響、 ギターのピッキングの弾け具合など瞬発的な楽音に関しては良い面もあるのですが、 この曲では壮大な音場感を優先したいという選択が脳裏をよぎる。 そこでSAM 50%へとスライドしてみると…!? https://www.dynamicaudio.jp/s/20250802153520.jpg 「お〜、これですよ、これ!この変化のベクトルは大歓迎です!」 前曲とは同じスタジオ録音でも音像と音場感のどちらを優先すべきかという聴き手の 選択がSAMによってもたらされた好例です。 雷鳴と共に眼前のスピーカー周辺に広がっていた無数の雨音がSAM 0%ではセンター 付近の限られた領域に収束してしまうような印象があり、音像の縮小が逆効果に なってしまったような変化。それは同時に雷鳴が響き渡る空間にも同じ傾向を与えた。 それらのSEが構成する広大な音場感が戻ってきたというのがSAM 50%での感触。 そして、上記のSEによる分析と同様に、この曲を支える低音としてセンターから 湧きおこるシンセサイザーの重量感あふれる低音には音像という輪郭をもった 音源のあり方よりも、左右スピーカーの真ん中の空間に一定の面積をもって響く 連続音という存在感であるということ。 前曲のドラムとは同じ低音でも打音の中心点をズームアップするような傾向ではなく、 むしろズームアウトして湧きおこるという言葉にふさわしい量感を優先したい低音と いう選択で、低域を拡張したSAM 50%の変化を歓迎したい。これはいい! 右スピーカーからのシェイカーの粒立ち、左スピーカーから叩き出されるスネアの 強烈なアタックと長い残響、そんな瞬発的な打楽器の質感には変化はないようで、 SAMの低域拡張は低音を重たくする変化というよりは量感の増大として感じていた。 それは、更にSAM 100%にした時の低域の増量で確認された。 https://www.dynamicaudio.jp/s/20250802153501.jpg そう、低音の音色として濃厚で重厚な低音へという変化より、量感として低音の総量が ぐっと多くなったのだが、このバランスはいかがなものかと、この曲ではSAM 50%が 私の好みと結論した。 もしかすると、今までは気づかなかったが、この録音では150Hz以下の超低域成分は あまり含まれていないという事かもしれず、SAMの効果で新な発見となるかもしれない。 スタジオ録音でSAMの効果を検証してきたが、低域拡張という機能に関してSAMの パーセントの選択によって打楽器や音像重視という楽音に対する好みの選択、 更に連続する低域信号に対してのパーセントの選択で以前にない分析結果となり、 録音内容によって個人の好みが分かれるであろうと考えられる。 また、それはスピーカーによってもSAMの効果は異なる反応を見せるものであり、 私の耳と感性、そしてHIRO Acousticというスピーカーを特定しての検証であると いうことを追記しておかなければならないと思う。 これはスタジオ録音では多数のマイクを使用したマルチチャンネル録音によって、 収録された多数の楽音をミキシングして組み立てるという方法の音楽制作の特徴が 再生音に表れるものであり、それら個々の楽音の中で150Hz以下の超低域成分が どの程度含まれていたのかという確認がSAMの低域拡張という機能によって私も 知らなかった現実として新たに提示されてきたものと考えられる。 では、多数の楽器が同一空間で演奏したものを録音したホール録音、つまりは オーケストラの再生音ではどうなっていくのか、私の関心は次のステップに進む。 3)マーラー交響曲第一番「巨人」第二楽章(Normal CD) この写真で録音の古い順に左上から[1]右へ[2][3]、下段の左から[4][5][6]となる。 この中から定番の選曲で小澤征爾/ボストン交響楽団の1987年録音[3]から第二楽章。 https://www.dynamicaudio.jp/s/20210519123606.jpg RoonサーバーによるQobuzとTIDALにてFLAC 44KHz/16bitのファイルを使用。 https://store.universal-music.co.jp/product/uccd4783/ ここでも最初はSAMオフにて聴き直しADHの魅力を再確認する。実に美しい! 冒頭の弦楽五部の合奏では各パート内部の多数の奏者の音色が個別に描かれる解像度の 素晴らしさと、そこから発した音がホールエコーによって響きの連鎖をもって空間に 展開していく実に流麗な弦楽が素晴らしいハーモニーとなりAstraの魅力を引き立てる! さあ、SAM 0%で聴くと… 「お〜、コントラバスにスポットライトが当たったような存在感の変化は何だ!」 今までは確かに聴こえはするが、ヴァイオリンとビオラに比べれば距離感を感じる 低弦であったとSAMが教えてくれる。主題の旋律の一番下の音階を朗々と奏でていた コントラバスの音量が大きくなったように感じる。でも低域拡張はしていないのに! この変化はトーンコントロールやイコライザーによる低音増量というものではない。 量的変化ではなく質的変化、言い換えれば距離感が近くなったというべき変化だ! グランカッサや低いチューニングのティンパニーなどの低音打楽器にも同傾向の 変化が表れており、ステージ奥で今までライティングが届かなかった場所にいる 演奏者たちに程よい光が当たるようになった印象。くっきりした低音が現れた! これは早くSAM 50%を聴きたいとiPadを操作して聴き直すと… 「あっ、これはもしかしたら弦楽五部すべての楽音にSAMの効果が及ぶのか!」 低域拡張を始めた時からヴァイオリンの音色と質感に微妙な変化が感じられる。 一言でいえば滑らかな音色、ほぐれた質感と、私好みの方向性ではないか! つまりはウーファーもヴァイオリンの楽音の一部を再生しているという事なのか! そしてSAMによる位相補正の効用は前述のドラムや雷鳴という低音と同様に、 コントラバスの質感はもちろん、何とヴァイオリンの質感にも威力を発揮していた! 更に強調しておきたいのは低域拡張によって起こったコントラバスや低音打楽器の 変化にこそ、SAM 50%がもたらしたのは低音の増量ではなく、オーケストラという 大編成楽団における演奏空間の共有として聴き手が見上げるステージの臨場感を ここまで高め変化させたという実感なのです!この感動はSAM 100%の予測となった! このマーラー交響曲第一番「巨人」第二楽章では、コントラバスからチェロを含む 低音弦楽器のあり様は、あくまでも主題の旋律を支えるパートであり、その存在感は スピーカーの個性によって違ってくるのは当然として、今まで多数のスピーカーと システムで聴いてきた私が想定するバランス感覚で言えば実にSAM 100%は素晴らしい! 低域拡張と位相補正、更に振幅制御というSAMの三要素がオーケストラに対しては フル稼働してこそ聴いて楽しく美しく、更に興奮を招く音としてSAM 100%がいい! 二台のDevialet AstraによるDUAL MONOでバイアンプ駆動という最高度なシステムで 独自技術SAMによるパフォーマンスを体験していくうちに、その試聴経験から私は SAMの働きとはどういうことなのか、耳と感性で感じ取ったことを-2-と-3-の各章で 述べた技術的な解釈として頭の中で関連付けて次のように整理し結論付けてみました。 *他社スピーカーでも下記の測定法による特性グラフを見てみたい…と私の独り言(笑) HIRO Acoustic Model-CCCS / SPL https://www.dynamicaudio.jp/s/20250802135804.jpg マイクによる音響的な測定できなく、レーザー光による測定でHIRO Acousticの 出力音圧周波数特性は100以上でフラットな特性であり、SAMによる各種補正の効果が 極めて正確に表現されるであろうという土台を示すグラフ。 Tuning HIRO Acoustic Model-CCCS https://www.dynamicaudio.jp/s/20250728133021.jpg SAMの機能として低域拡張を示すグラフでは低域の再生限界を-6dBで18Hzまで可能とし、 HIRO Acousticのリニアな低域特性において自然なワイドレンジ化を実現している。 しかし、私が思うに低域の量感を増加する事だけが重要ではなく、再生音の質感を より正確に再現するためには位相補正こそ重要であるということ。 それを下記の測定結果より推測することが出来る。 HIRO Acoustic Model-CCCS / Displacement https://www.dynamicaudio.jp/s/20250802135744.jpg 同じ電圧でもウーファー振動板の反応は最大1.2ミリの振幅のずれを発生するが、 SAMによってストロークの均一化を計りスピーカーのコンプライアンスという特性を コントロールするという他社にない視点とテクノロジーが素晴らしい。 HIRO Acoustic Model-CCCS / Speed https://www.dynamicaudio.jp/s/20250802135754.jpg ウーファー振動板の振幅を制御すると共に、入力波形と同一動作をさせるためには 振動板の反応速度が再生周波数によって違ってくる傾向を解消しなければならず、 上記グラフに見られる30Hz以上の帯域において振動板の動作を加速させるという 働きをSAMは実現している。 SAMでいうところの位相補正とは他社スピーカーでのリニアフェーズという技術で、 複数のスピーカーユニット間の位相を制御するという意味も含めて、ウーファーの 入力波形と同一の出力波形を実現することが真の目的であると推測する。 よって、私が試聴してきた再生音に関してSAM 0%からSAM 100%までの音質変化が 説明できるものではないかと考えています。 そんな考察を実際の再生音として誰が聴いても分かって頂ける選曲を発見しました。 想像以上の感動、Devialet AstraとSAMの真骨頂がここにあると示せる最後の選曲はこれ! 4)ベルリオーズ:幻想交響曲/ラヴェル:ラ・ヴァルス [UHQCD] 指揮者:クラウス・マケラ 楽団:パリ管弦楽団 https://www.universal-music.co.jp/klaus-makela/products/uccd-45035/ RoonサーバーによるQobuzとTIDALにてFLAC 96KHz/24bitのファイルを使用。 当フロアーにはベルリオーズ:幻想交響曲のCDコレクションが他にも数枚あるが、 この録音を聴いてからは色褪せた存在となってしまった。 最初はSAMオフで、この幻想交響曲/第5楽章:サバトの夜の夢を繰り返し聴く。 そして、SAM 0%からSAM 50%へ進め、やはりSAM 100%がいいと確信して感想を述べると…。 冒頭の鋭いアルコによるヴァイオリンと右側のコントラバスの短いパッセージから、 私はSAM 100%の威力を感じ取っていた。 それは超低域成分の音波がフィルハーモニー・ド・パリというコンサートホールの 大空間を暗示する残響のスケール感を醸し出していたから。 低弦楽器そのものの音よりもホールの壁や天井から跳ね返ってくる低音の響きを HIRO Acousticのウーファーは克明に描き出し、空間サイズを聴き手に伝える妙技。 これがSAM 100%で引き出されていく興奮が静かに始まっていた。 短く鋭い管楽器、瞬発的な打楽器、主題を迎える前の各パートが繰り広げる音場感は、 前記の低域周波数によるホールの臨場感を高め、それらがきりりと引き締まった音像で ありながらSAMオフとの格差を時間経過と共に実感していく感動。これ素晴らしいです! 2:50過ぎに一瞬の静寂から二音階の三連打で厳粛な鐘の響きがホールを埋めつくし、 次第に音量を下げながら鐘が遠ざかっていくと、3:17あたりから大変印象的なチューバの ソロパートが始まった。ここが聴きどころと私の耳が緊張していくのが分かる! 驚いたのは、このチューバの質感と音色の描写力での変化。バリバリとした感触で響く チューバの残響は、前述のホール空間で跳ね返ってくる余韻の反復を忠実に再現し、 低域成分が楽音と音場感の両方に作用していることで位相補正の威力が再確認される! 4分を経過するとチューバが奏でる旋律に同期するようにコントラバスが寄り添ってくる。 それに他の弦楽が加わり怒涛の展開が一分後に待っているという静かな期待感を提示する。 弓を弦に叩きつけるように弾けるように演奏するコントラバスの強烈なパートがきた! この迫力ある演奏を必死に観察する私の耳には、SAM 100%による楽音の再現性の変化が、 ぐいんぐいんと周囲を震わせるコントラバスの摩擦感として察知され、Astraのコンパクト かつ優雅なボディーから繰り出されている音という事実に快感と違和感を同時に感じる! 注意しないと見逃してしまうグランカッサを軽くなでるように叩く微量の低音が、 SAM 100%にすると鮮明に浮き上がってくる情報量の拡大は低域拡張の成果として自然に 受け止めてしまう私は厚かましいのだろうかと、内心で苦笑いしながら最終楽章の フィナーレに向かいつつ、今まで見たことのない音風景を感動しつつ眺めていた。 2024年秋に録音された本CDは楽音の音像を極めて鮮明に描き、響きが見事な空間情報を提示し、 特に管楽器と打楽器の放つ余韻が聴き手の想像力と美意識を激しく刺激する優秀な録音と 評価していますが、SAMによって私は前例のない再生音を体験出来た事を最後の報告とします。 ハイエンドオーディオに送られる賛辞は物量と価格に比例するものだとは考えていません。 その製品に個性と魅力があるかどうかが問題です。では個性とはどいう事か!? スペックと価格の競争ではなく、他の製品では出せない音を持っているかどうかです。 私はDevialet Astraを十分に聴き込んだ結果として、以前からあったSAMという独自 テクノロジーの本質を学習し、Astraにしか出せない音を確認できたと考えています。 最後にパリ管のCDで感動した所縁もありますが、もし…、ミシュランがオーディオの ガイドブックを作ったら、間違いなくDevialet Astraには五つ星をつけるだろうと断言し、 Devialet Astraを味わってみたいという皆様からのコンタクトをお待ちするものです! https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/appoint.html |