発行元 株式会社ダイナミックオーディオ 〒101-0021 東京都千代田区外神田3-1-18 ダイナミックオーディオ5555 TEL 03-3253-5555 / FAX 03-3253-5556 H.A.L.担当 川又利明 |
2025年7月20日 No.1810 H.A.L.'s One point impression!! - dCS Varese System |
■H.A.L.'s One point impression!! - dCS Varese System■ -1- 特報!遂にと言うか…やはりと言うかdCS VareseがH.A.L.'s SESSIONS 2025参戦! https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1799.html 私は天邪鬼というかひねくれ者という一面があり、人様が知らない音に感動すると 積極的にアピールしてしまいます。そんな歴史を振り返ってみればHIRO Acousticを 筆頭に多くの製品を取り上げ、H.A.L.での実演から購入頂いた皆様の満足感へと つながっていった実績が時を遡ってみれば多数のブランドに見られたものです。 しかし、聴く前に周囲の人々から、「あれは凄い音だ、魂げた音だ」と聞かされると 私は逆に引いてしまうたちなのです。そんな事が今回もあったのです。 思い出せばざっと30年前、当時の価格で2,000万円という途轍もないプライスタグの スピーカーが登場した事がありました。当時はインターネットは今のように普及して いませんでしたが、その評判たるや全ての雑誌と評論家が絶賛するという状況がありました。 そんな時代に飛び出した超高額商品に対して、こんな価格なのだから悪いはずがない という既成概念というものがあったのでしょうか、これほどの高額製品にアンチを唱え ようなものなら「お前は音が分かってない」と言われそうな雰囲気が充満していたのです。 前例のない高額品であり、高価であることが音質を保証するような風潮があった のだと思います。当時はハルズサークル配信を始める前でしたが、違う場所と環境で 三回聴きましたが、どうしても納得出来ず推薦のコメントは発しませんでした。 Varese Core (with Varese Interface) Varese Remote Control、ACTUSケーブル付 シルバー税別¥16,600,000. Varese Mono DAC D/A コンバーター(2台ペア価格) シルバー税別¥15,700,000. Varese Clock マスタークロック シルバー税別¥5,640,000. 以上システム合計 税別¥37,940,000. *注記として下記のモジュールも搭載しVivaldi Transport IIとの接続も行っています。 Varese Core用 I/Oモジュール (AES,SP/DIF,USB) シルバー税別¥1,710,000. 既報のようにネットワークオーディオとして本格的に当フロアーで採用したESOTERIC Grandioso N1T+D1XSE+G1Xが上記と同じ機能性を持っているわけですが、価格的には 税別870万円ということで決してお安くないものの、Vareseシステムが如何に高価で あろうかが分かります。それゆえに私は慎重に吟味しなければと考えていました。 そして昨日(6/16)、下記のようにdCS VareseがH.A.L.にセッティングされました。 https://www.dynamicaudio.jp/s/20250617173423.jpg まず最初に私が気にしたのがCDでの再生音。Vivaldi Transport IIに課題曲のディスクを ローディングして先ずは第一声を聴く。もちろん悪くない、でもいきなり感動レベルかと いうとそうでもない。昔からdCS Vivaldi Transportを使った経験から気になることがあった。 デジタル出力をDXD(352.8kHz/24bit PCM)、DSD、またはDSD×2のどれで送り出すかという選択。 それで先ずはDXD、次にDSD×2に切り替えてVareseシステムで聴いたのですが、これまた 過去に経験したPCMとDSDの個性が色濃く感じられる違いとなって直観されたのです。 なるほど、Vareseシステムとは入力信号のフォーマットに敏感に反応するものだな〜 と感じ入ったものですが、そんな第一印象がトリガーとなってVarese Coreの多機能な 側面に行き当たることになったのです。どういう意味かと言うと… VareseシステムはACTUS(Audio Control and Timing Unified System)と呼ばれる dCS独自のハードウェアとソフトウェアの組み合わせによって構成されていますが、 ハード面の特徴としてはACTUSケーブルを使用したセットアップということになり、 ソフト面ではGoogle Castに対応したdCS Moosaic ACTUSアプリケーションをタブレットや スマホにインストールすることで多機能リモコンとして操作することが出来ます。 このMoosaic ACTUSからVareseシステムの設定を開き、オーディオ>信号経路(シグナルパス)> >現在のプリセット>ソースと進めていくと次のような選択メニューが表示されます。 ■フィルター: [F1] [F2] [F3] [F4] [F5] [F6] ■変換: [PCM] [DSD] [DSD×2] [DSD×4] [DSD×8] ■マッパー: [M1] [M2] [M3] Varese Coreの内部でデコードする際に何と90種類の組み合わせが選択できる。 私の主観ですが、上記の中で最も変化量が大きいのがアップコンバートの選択となる変換です。 その次にフィルター、そしてマッパーという順番で耳で聴いた際の変化量が大きい。 そこで私は先ずマッパーを[M2]初期のdCS製品で採用されたリングDACを2.8MHzまたは 3.07MHzで駆動するポジションに固定し、フィルターは[F6]に固定し五種類の変換モードを 切り替えて比較しました。それで私が一番好ましいと選択したのが[PCM] 次に[PCM]を固定して六種類のフィルターを全て比較していきました。 これは先の変換で選択したものとの相性があるものなので、私の選択という事に なりますが[F6]との組み合わせがHIRO Acousticではふさわしく感じたので特定しました。 最後に上記二項目を固定して三種のマッパーを比較して、合計14種類を比較して [M2]が好ましく思われたので、以上の設定にて今後の試聴をしていこうと決定しました。 さて、上記のようなシグナルパスの各項目が多数あるわけですが、Vareseシステムを 使用開始するにあたりMoosaic ACTUSのアプリにて各パラメーターをどのように組み合わせるのか、 そのガイドラインとなるものが取扱説明書にdCSによるプリセットとして記載されています。 1.[PCM]PCMを聴く場合にdCSのリスニングテストで好ましいとされた設定。 入力がPCMの場合/フィルター:[F3] 変換:[PCM] マッパー:[M3] 入力がDSDの場合/フィルター:[F5] マッパー:[M3] 2.[DSD]DSDを聴く場合にdCSのリスニングテストで好ましいとされた設定。 入力がPCMの場合/フィルター:[F3] 変換:[PCM] マッパー:[M1] 入力がDSDの場合/フィルター:[F5] マッパー:[M1] 3.[PCM to DSD]PCMをDSDに変換する場合にdCSのリスニングテストで好ましいとされた設定。 入力がPCMの場合/フィルター:[F3] 変換:[DSD] マッパー:[M1] 入力がDSDの場合/フィルター:[F1] マッパー:[M1] 4.[Measured/dCS測定]dCSのエンジニアが最高レベルの測定パフォーマンスと結論づけた設定。 入力がPCMの場合/フィルター:[F6] 変換:[PCM] マッパー:[M2] 入力がDSDの場合/フィルター:[F1] マッパー:[M2] 5.[Custom]上記の既成プリセットを変化させ調整したカスタムプリセットの設定。 以上のプリセットがACTUSのアプリに設定されているので、聴きながら各種プリセットを 聴き比べて好みの設定とすれば大きく外れることなく安心して使用開始出来るものです。 私が聴きながら選択したのは、いみじくも上記.[Measured/dCS測定]とになります。 ちなみに、上記の各種設定項目はVarese Interfaceのディスプレーにおいては メニューの選択から操作しないと表示されないものです。 CDのジャケット画像やトラックタイム、ボリュームなどの基本的な画像は再生を 始めれば初期画面として見られますが、それだけではどんな設定の音質なのかは 聴いている人には分からないというものなのです。 この過程において多数の設定における音質を確認しましたが、中には何だ!?と思える 音質もあり、この音ではダメだろうという組み合わせもありました。でも、そんな 取り組みによってVarese Coreが持っている可能性と能力の深みを感じたものです。 ですから、前述のような超高額製品に対する先入観と期待感の両方から絶賛した 人たちが上記のシグナルパスの設定においてどのような組み合わせで聴いたのか、 雑誌の記事やネットの投稿には書かれておらず、その人たちの経験値がどのような レベルの音質であったかも分からないので、人様の評判は気にしない事にしました。 疑り深い私は高額商品であるが故に慎重な分析と評価を行ってから発言すべきという 姿勢を大切にしなければと思っています。 さて、Varese Coreのシグナルパスの設定を時間をかけて吟味したところ、 やっと、と言うか遂に、と言うか、私が以前に聴いたことのない音がdCS Varese システムから出てきたという私レベルでの感動があったと報告致します! 恒例の課題曲にて感じ取った前例なき音の詳細は後日述べますが、その感動が 私を動かしたのは事実。もっと高次元の音があるのかという探求心が湧きおこり、 下記のRoonサーバーを輸入元にリクエストしたのです。 Taiko Audio Extreme Server 税別¥5,820,000. https://taiyoinc.jp/products/taikoaudio/extreme_server/index.html 試聴システムとしてはESOTERIC GrandiosoのアンプとHIRO Acousticですが、 今まではGrandioso N1T+D1XSEにオリオスペック製Roonサーバーというオール国産 製品によるものでしたが、そこに投入したdCS Vareseシステムにおける感動は 近年にないレベルのものでした。そして更にTaiko Audioの追加です! オリオスペックroon server/canarino for roon SP 1,210,000円(税込) https://www.oliospec.com/html/page29.html H.A.L.レベルでのネットワークオーディオの研究、久しぶりに熱くなってきました! -2- 2013年9月25日「H.A.L.'s One point impression!!-Aurender W20」 https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1069.html 上記より抜粋引用 ■私は既に10数年前から「ハイレゾ」を聴き続けてきたということです。 PCオーディオの黎明期から二年間ほどの間に、ここに持ち込まれ私が試聴した ものはすべて44.1KHz/16bitでした。 ところが、古くはdCS 900シリーズで972D/Dコンバーターを使ってアップサン プリングした音質から始まり、ESOTERIC P-0s+VUK-P0sではDual-AESで176KHzで 色々なD/Aコンバーターに信号を送り、近年ではsoulution 745のように内部で 384KHz/24bitにアップサンプリングした音質を当然のように聴き、Vivaldi TransportではCDディスク(PCMデータ)のDSD変換、DXD 24bit/352.8KHzへと アップサンプリングした再生音を当たり前のこととして私は聴き続けてきました。 そのような音質を標準としていた私にとって、いくら読み取りエラーがないからと 言って44.1KHz/16bitの音を聴かされても私には新鮮さも魅力も感じられなかった ということなのでしょう。 事実、普通のCDをリッピングしてみるとファイルとしては44.1KHz/16bitの データにしかならず、それをAurender W20で試聴した時にも過去の経験と同じ という評価にしかなりませんでした。やっぱりな〜というのが私の第一印象だったのです。 しかし、その続きがありました。Aurender W20の資料を見るとDual-AESデジタル 出力があるということで、ここにあるESOTERIC P-01やdCS Vivaldi DACに接続 出来るというポイントが私の興味を引き、当フロアーのソースコンポーネント につないで聴いてみたいという好奇心をかきたてたものでした。 そして、Vivaldi DACにはAES1+2とAES3+4というDual-AESの2系統を同時に接続し、 リモコンで両者を切り替えて比較できるという点に着目しました。そうすることで、 Vivaldi TransportとAurender W20を簡単に比較試聴出来ます。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 再三述べてきたことですが、ネットワークオーディオとして最初に私が認めた ものはと言うと上記のAurender W20であったと思います。 この際に重要な要素がふたつあります。 一つはAurenderの音質というのは高性能なDACの性能と音質に依存するということ。 そして、もう一つはAurenderのストレージに記録されている音楽データファイルの ハイレゾスペックにも同様に依存しているという事です。 それらを認めた上で、私はネットワークオーディオ・トランスポートとして Aurenderを評価し推薦して多数の販売実績を作ってきたものでした。 ただし、この時代でのネットワークオーディオとは、あくまでもCDからのリッピングか ネットからのダウンロードによってNASに保管しているファイルの再生という方式でした。 そして、前述のNASに格納しているファイル再生に対して、下記に述べていたように 私は五年前からApplemusicによるストリーミング再生という方式にて、実に膨大な情報量と なる音楽の楽しみ方に目覚めたという経験から、ネットワークオーディオ・トランスポートに 対して出力するファイルはストレージにある固定化されたものではなく、インターネットを 通じて音楽データをダウンロードせずに、受信しながら同時に再生するストリーミング方式 こそが、これからの主流になるのではないかと考え、ESOTERIC Grandioso N1Tの導入を決意 したのでした。 シリアルナンバー10001のESOTERIC Grandioso N1Tを川又はどう料理するのか!? https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1790.html 更に上記で述べているようにGrandioso N1Tのセッティングに関してもこだわり、 同時にネットワークスイッチの重要性も当初から徹底しDELA「S1」を採用しました。 https://www.dela-audio.com/product/s1/ その後、DELAの他のネットワークスイッチ、更に他社のネットワークスイッチも試聴し、 更に「S1」に対するマスタークロックの影響も実験するなど、この段階で起こりえる 音質変化も研究したことも追記しておきます。 Grandioso N1Tを通じてH.A.L.レベルのネットワークオーディオ研究その.1 https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1793.html 上記ではGrandioso N1TとDELA S1に装備されたSFPポートによるOP-SFP/020とC1-D20-J (Direct Attach Cable)の音質をLANケーブルと比較することで確認し、ネットワーク オーディオ・トランスポートの直前にある各種インターフェースの違いにインパクトを 受けて次の検証へと進んでいく意義を確認したものでした。 Grandioso N1Tを通じてH.A.L.レベルのネットワークオーディオ研究その.2 https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1794.html そして、上記では課題としてハイエンドLANケーブルによる実に大きな変化を確認し、 その影響力はネットワークスイッチやネットワークにおけるアイソレーション製品、 更にはマスタークロックの採用などを上回るものという実感を得たという経緯があります。 また、今までは記事にしていませんが、Roonサーバーに関しても実験試聴を行いました。 これまでは当店4Fにあるオリオスペックroon server/canarino for roon SPから https://www.oliospec.com/html/page29.html 数十メートルのLANケーブルを伝って当フロアーに引き込まれ、光アイソレートTOPWINGの OPT ISOBOXを経由してDELA S1に接続されるという経路でRoonを使用していたものです。 https://topwing.jp/opt_iso_box.html それに対してオリオスペックcanarino for roon SPを新たに1台用意して、DELA S1の 直近にRoonサーバーを配置するという実験を行ったのですが、当店4Fにある同じ性能の Roonサーバーでありながら、至近距離で信号経路が短縮されただけで再生音の鮮度が 大きく変化するという驚きの体験がありました。 更にRoonをインストールしてあるノートPCにて同じ曲をストリーミング再生すると、 Roonサーバーの重要性がこれほど大きなものなのかと思われる情報量の減少があり、 ネットワークオーディオを構成する各要素に関して手が抜けない項目であると驚きと 感動と共に実感したという経験もありました。 そんな経験値を蓄えた上でのTaiko Audio Extreme Serverを使ってRoonによる再生音は、 後述するようにネットワークオーディオの他の要素を一定レベルまで引き上げたうえで 初めて語れるものではないかと思うのです。 ネットワークオーディオにおいての変化要素を急ピッチで学習してきたものですが、 それらの経験があってこそ語れるdCS Vareseシステムなのだと考えています。 -3- 聴く前に周囲の人々から「あれは凄い音だ、魂げた音だ」と聞かされると私は逆に引いて しまうたちなのです。と前述しましたが、Vareseシステムをどこかで聴いた方々は何と 比較して発言されたのか、どんなシステム構成とリスニング環境で体験されたのかという 事は述べられていないと思います。 そして、私がdCS Vareseシステムをどのように聴き評価したのかという分析の基礎、 土台としてESOTERIC Grandioso N1T+D1XSE+G1Xという4ニット構成のストリーマーと いう存在があり、更にHIRO Acousticというリファレンススピーカーによる音質評価で あることを元に、今回の試聴システムの全容を先ずは下記に紹介しておきたいと思います。 H.A.L.'s Sound Recipe / dCS Varese System-inspection system https://www.dynamicaudio.jp/s/20250629183819.pdf ■使用した課題曲とフォーマット 1)溝口肇「the origin of HAJIME MIZOGUCHI」より「14.帰水空間」 https://www.sonymusicshop.jp/m/item/itemShw.php?site=S&ima=3355&cd=MHCL000010099 http://www.archcello.com/disc.html RoonサーバーによるQobuzとTIDALにてFLAC 96KHz/24bitのファイルを使用。 近年私の試聴には欠かせない存在となり、この曲に巡り合ったことは自分の仕事上で 大変大きな意義があったとありがたく思っているものです。 再三述べてきたように今では冒頭の左右センターから叩き出されるドラムの再生音から 多項目の分析が出来るようになり、スピーカーの個性は元よりアンプの能力もしかり、 ソースコンポーネントの実力しかりと、私にとって音のリトマス試験紙のように直ちに 音質判定出来る定番の課題曲となっています。 これで先ずVareseシステムを聴き始めた際の印象は鮮烈でした! 最初の左チャンネルの重厚なドラムはぐっと重量感を増し、一目でわかるグラマーな 打音となりHIRO Acousticのウーファー口径が一回り大きくなったように錯覚するほど 低域の質感にボリューム感を発揮するのですから驚きです。でもテンションは高い。 続く右チャンネルのドラムは打音の直後に音階が跳ね上がるようなサスティーンが 見られるのですが、それは倍音成分が正確に再現され、かつ打音のテンションが高度に 引き締まっているという事にも通じるのですが、この切れ味は見事であり左のドラムにも 共通して濃厚濃密な打音となり同時に音像サイズも最小限に絞り込まれているのが分かる。 続くセンターでの二連打は左右ウーファーの共同作業によるドラムということですが、 同様に重量感が加わりながらも引き締まった音像が見事であり、打楽器における Vareseシステムの高速反応が実感される素晴らしいものでした。 この段階で思い出されるのは前述のVarese Coreにおけるシグナルパスの各種項目の 比較をした時の事でした。結果的には[Measured/dCS測定]を私は選択したのですが、 それ以前に変換:[PCM]から[DSD][DSD×2]から更に[DSD×4][DSD×8]へと切り替えた時、 上記のドラムはテンションが緩み音像も幾分ふっくらとした変化をしていったのです。 この変化は他のフィルターとマッパーをどのようにしても取り戻せるものではなく、 中高域の楽音の滑らかさという方向性を支持する場合には秤にかけなくてはなりませんが、 私としては以降の試聴において[PCM]を採用すべきと思われた最大要因となりました。 でも、これには続きがあったのです。Taiko Audio Extreme Serverに換えた時でした。 上記の三種のドラムの打音に関して驚くほどの鮮度の向上があったからです。 音の鮮度という表現は私なりのものですが、ドラムの打音が立ち上がる際のスピード感、 直後に観察できる打音の中身というか音像の内部に含まれていた倍音成分が可視化できる 程に鮮明に認識出来るようになり、ずしっとした超低域成分が手応えとして感じられる、 そんな想定外の変化がRoonサーバーの変化によって表れてきたのですから驚きです。 このドラムにおける変化は続くキーボード、パーカッション、ベース、そしてチェロと 全ての楽音に引き継がれる音像サイズの絞り込みと音場感の拡大につながり、極めて 高品位な質感へとVareseシステムのパフォーマンスを発展させていったのです! 前述のように今まではオール国産というラインアップで同じ曲を数えきれないほど 聴いてきたものですが、その方向性とは異なるストリーミング再生の新たな局面を 発見したというものです。 これはどちらがいいという事ではなく、選択の問題であるという事としておきます。 2)大貫妙子「ATTRACTION」より「1.Cosmic Moon」 https://www.universal-music.co.jp/onuki-taeko/products/upcy-7103/ RoonサーバーによるQobuzとTIDALにてFLAC 96KHz/24bitのファイルを使用。 この曲はフランス人のOlivier Pryszlakによるアレンジの他にもサンプリングと プログラミングによって、実に多彩であり多様なSE(効果音)と楽音を創作している アーチストの支配力が光る選曲。 曲の冒頭は雷鳴と雨音から始まり、朝を告げる雄鶏の鳴き声をモチーフにした 演出から始まるファンタスティックな曲。 同じ低音という見方でも前曲のドラムとはまったく異なる雷鳴という、楽音として 音像が存在しない重低音が響き渡る導入部。これがまた凄いことに! 「これは何という事か!桁違いの音場感、こんなに耳で聴く視野が広がったのは初体験!」 スタジオ録音の克明な音像と音場感という評価ポイントには慣れているものの、 大自然の雷鳴というSEが広大無辺な広がりを見せる絶大な空間表現を私は初めて体験した。 楽音の解像度という点で微小な残響成分が再現されることで遠近感や奥行きを感じ、 余韻として感じられ空気中に漂う質量を持たない音波が空間表現に重要だと考えてきたが、 この雷鳴では更に重量感を増した低音が上空から襲い掛かって来るように降ってくる迫力! それがスピーカーの存在感をかき消して、はるか彼方まで広がっていく無限大の視野を、 稲妻の閃光に照らし出された瞬間に見える地平線まで続く景観として私の頭になかに 浮かび上がらせたのです! そんな描写力の絶大な変化はデジタル再生の究極的な到達点として、アナログ変換する DACの解像度の素晴らしさとして評価された。 そして、ドラムと違って音像を持たない楽音として左右スピーカーの中間に湧きおこる シンセサイザーの低音が、雷鳴の変化と同様に重量感が増し濃密な低域となって出現する。 次の瞬間、右チャンネルのスピーカーが発したシェイカーの質感が更に私を驚かせた! 更に左チャンネルからは鋭く叩かれるサンプリングによるスネアドラムが炸裂する! 異なる音色のパーカッションの質感は微細にして力強く、細かいシェイカーの粒々が 跳ね回る音、スネアドラムの細いスプリングが共鳴して長く尾を引く残響と、各々の 高音成分が鮮明に照らし出されて見える分解能の素晴らしさを直感し感動する! ここでも変換:[PCM]から[DSD][DSD×2]から更に[DSD×4][DSD×8]へと切り替える実験を してみたのですが、前曲のドラムでの変化とは違う傾向を見せ、低域の変化は打楽器の それとは違い音像の輪郭がどうなるかという見方よりも、シルエットを持たない低音の 雄大さという方向性において印象の良い変化を示す。これはいいですね〜! そして、連続する楽音の弦楽器やヴォーカルとは違い、高音階のパーカッションの質感、 スネアドラムの残響などは透明感の向上として刺激成分を排除した聴きやすさがいい! それが歌声ではなくVoices:大貫妙子としてシンプルなワードを繰り返すパートになると、 その口もとから漏れ出た声が気持ちよく空間に浮かび漂うという、あえて音像として 捉える必要のない音に対して、背景の空間に溶け込んでいく作用としてDSD変換の効力を 好意的に評価できるのが素晴らしい! ここでもRoonサーバーをTaiko Audioに切り替えた実験をしたのですが、上記のチェック ポイントの再生音に対して、全ての項目で二乗の音質的飛躍があったと確認された! それは中盤で挿入されるOlivier Pryszlakが弾くアコースティックギターの音色と質感、 更に浮遊感として追加したい残響の美しさという点でTaiko Audioの威力に圧倒された! Taiko AudioとVareseシステムの共演、そしてHIRO Acousticの美点が相乗効果をもたらす 「Cosmic Moon」の再生音は当分の間、私の脳裏に居座ってしまうだろうと予感された。 3)マーラー交響曲第一番「巨人」第二楽章(Normal CD) この写真で録音の古い順に左上から[1]右へ[2][3]、下段の左から[4][5][6]となる。 この中から定番の選曲で小澤征爾/ボストン交響楽団の1987年録音[3]から第二楽章。 https://www.dynamicaudio.jp/s/20210519123606.jpg RoonサーバーによるQobuzとTIDALにてFLAC 44KHz/16bitのファイルを使用。 https://store.universal-music.co.jp/product/uccd4783/ ディスク再生では上記リンクの再発売ではなくオリジナル盤Philips-422 329-2を使用。 参考リンク : https://qr.paps.jp/8KVJi この曲はQobuzでもFLAC 44KHz/16bitのファイルしかない。そのまま[Measured/dCS測定]の 設定で聴き始めたのですが、その状態でも私は明らかなdCSサウンドという個性を認めた。 それは冒頭の弦楽五部の合奏が始まった瞬間から、以前にも同社Vivaldiシステムで聴いた 独自の滑らかで芳醇な響きを持つ弦楽器の質感と、各パート内部に見られる多数の演奏者による 微妙に異なる音色のハーモニーを極めて自然にほぐしてくれる分解能の素晴らしさです。 ここでも変換:[PCM]から[DSD]への変化を確認する。うん!思った通りの方向性で変わる。 そこで思い立った実験。CD再生ではVivaldi Transport IIでも[DSD]に変換して出力できる。 つまりVarese Coreで[DSD]変換した音と、CDトランスポートで[DSD]変換した音を比べる。 これは面白かった、そして微妙な変化なのだが私にとって大変貴重な体験でもあった。 もちろん両者ともに素晴らしい再生音なのですが、微妙な違いではあるが私はCDの方が 好ましいと判断した。というのはVarese Coreでアップコンバートという仕事をさせずに ディスクトランスポートから[DSD]信号をDACに入力させた方が私の好みに合うということ。 オーケストラによるデータとディスクの違い、これには興味を引き新たな素材を用意しました。 ベルリオーズ:幻想交響曲/ラヴェル:ラ・ヴァルス [UHQCD] 指揮者:クラウス・マケラ 楽団:パリ管弦楽団 https://www.universal-music.co.jp/klaus-makela/products/uccd-45035/ RoonサーバーによるQobuzとTIDALにてFLAC 96KHz/24bitのファイルを使用。 この第5楽章:サバトの夜の夢の冒頭から5分程度を繰り返し聴く。 特に3分過ぎに一瞬の静寂から厳粛な鐘の響きがホールを埋めつくし、その後に続く 印象的なチューバのソロパートがフィルハーモニー・ド・パリの空間に反射する響きに フォーカスを当て、大空間で響く鐘と連続する低音のチューバという対照的な楽音で 何度も繰り返して聴くことになった。 このアルバムはDSDでは配信されていないので、先ずは96KHz/24bitでストリーミング再生。 Vivaldi Transport IIではDXD(352.8kHz/24bit)でPCM同士の比較。 次にVarese Coreで[DSD]変換、同様にVivaldi Transport IIでも[DSD]変換しての比較と 四種類のオーケストラを集中して比較したのです。 こんな物好きな比較試聴、しかもTaiko AudioとVareseシステムという贅沢な組み合わせ。 この四種類の再生音にランク付けするという意味があるのかと思われる素晴らしさなのですが、 私が恐れたのはVareseシステムをストリーマーとして評価するための条件が大変重要では ないかという事でした。 つまり、このストリーミング再生において、Taiko Audioを外したら、Siltech Double Crownという高価なLANケーブルを外したら、更にDELA S1を外したら、各種のアイソレーターが なかったら、今聴いてきたストリーミング再生の音質がどこまで後退するのか、グレード ダウンするのかという推測が頭をよぎったからです。 デジタル再生の最高峰を目指したVareseシステムの音質を評価するにあたり、その本質とは? ストリーマーとしてだけ評価することだけが、dCS開発陣が求めたこと望んだことなの だろうかという疑念です。 dCS(Data Conversion Systems)という社名にあるように、デジタルデータを変換するという 目的はどこのあるのか、変換することによる音質変化のバリエーションが多いという事がdCSの 取り柄なのか、私はVareseシステムだけにしか出せない音とは何かを考え始めたのです。 -4- さて、予定していた当フロアーでのdCS Vareseシステムの展示期間はあっという間と 思えるほどに経過してしまい、輸入元からの貸出し期限を二週間延長してもらい 目下のところ国内では一番Vareseシステムを長時間聴いたのではないかと思います。 何故かというとVareseシステムでしか出せない音を探し求めていたからです。 今まではネットワークオーディオによるストリーミング再生という観点から、 いわゆるストリーマーという分類の製品として価値観を見出そうとしてきたのですが、 そのためには前述した多項目の要素がありました。 大変高価なTaiko Audio Extreme ServerというRoonサーバー、DELAのネットワーク スイッチ「S1」もしかり、想像以上に音質の支配力をもつSiltech Double Crown(S10)の LANケーブルもしかりということで、これらをGrandioso N1T+D1XSE+G1Xのシステムで 使用すると、ストリーマーとしての音質差を判定するのに悩むほどに甲乙つけがたい という思いがあるのです。誤解なきよう追記すれば両者ともに素晴らしいからです。 ネット環境と使用アイテムの影響力が及ばないところで、モノDACやマスタークロック ジェネレーター、そして高度な信号処理を行うVarese Coreを含めてシステム化した Vareseに関してストリーミング再生という分野だけでは本来の価値観が見出せない のではないかと悩み始めていたのです。 つまりは大変高価であるがゆえに、Vareseシステムの導入を検討しようという方々に 対して安定した音質、商品としてパッケージ化された性能と音質を保証するという 価値観を見出すために、音質変化をもたらすネット環境など外部要因から解放された 状態にてVareseでなければ出せない音を追求しなければならないのではと考えたのです。 その方法として悩んだ末にたどり着いたのが、オーソドックスではありますがCD再生でした! ネットワークオーディオに固執していたのでは価格なりのVareseシステムの真価を 見出せないのではないかと判断した私は最後の取り組みとしてCDを聴くことにしたのです。 純正品となるVarese CD/SACD Transportの日本価格は税別¥6,100,000.ミュンヘンの ハイエンドショーでは下記(出展:PHILE WEB)のように発表されましたが輸入時期は未定。 https://www.phileweb.com/news/audio/202505/26/26449.html 今回は同社のVivaldi Transport IIを使用してのCD再生ですが、以前の経験からデジタル出力を DXD(352.8kHz/24bit PCM)、DSD、またはDSD×2のどれで送り出すかは事前の試聴で選択済み。 弦楽器やヴォーカルなど響きを重視する連続する楽音ではDSDも魅力的なのですが、 今回Vareseシステムでの多数の試聴から私の好みはDXDが一番だったからです。 それはストリーミング再生によるPCMのハイレゾと比較するためにも有効であり、 またESOTERICのES-LINK5でも同じ352.8kHzへのアップコンバートであることからも、 DSDの質感では比較する際に適切ではないだろうという考えもあっての事でした。 もちろんVarese Coreにおけるシグナルパスの設定は[Measured/dCS測定]すなわち 入力がPCMなのでフィルター:[F6]変換:[PCM]マッパー:[M2] としています。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- dCS Vareseシステムだけにしか出せない音、そしてどなた様に聴いて頂いても違いが 分かって頂けるだろうという狙いを元に選曲したCDとはこれです。 ■Warren Bernhardt「Hands On」 https://web.archive.org/web/20080227101504/http://www.dmprecords.com/CD-457.htm このCDの詳細は下記リンクの関連サイトにてご覧下さい。 https://x.gd/hixUu 2022年、既に故人となっていますが私の大好きなアーチストの一人です。 https://www.warrenbernhardt.com/ 私にとってはお宝と言えるコレクションで日本でのリリースは1990年代になってからですが、 今となっては貴重なMade in USAというCDで、アメリカでリリースされた1987年直後には 輸入盤を入手しており仕事でも使っていたものです。 DMP utilizes high-end recording technology from Cello on two breakthrough recordings by Warren Bernhardt (Hands On, CD-457) このように当時Mark Levinsonが主宰していたハイエンドブランドCello特注品のケーブル、 マイクアンプ、ミキサー、ラインアンプ、更にイコライザーアンプAudio Paletteなどを 駆使してMitsubishi X-80 digital recorderによるダイレクトデジタルレコーディングと、 Tom Jungが創立したDMPの当時としては最新技術が発揮された意欲的な作品でした。 https://en.wikipedia.org/wiki/DMP_Digital_Music_Products Warren Bernhardtが演奏しているグランドピアノは全長2.7mもあるSteinway Model D4、 アメリカでは9FT Steinway Concert Grandと呼ばれているSteinwayの最高傑作。 それを狙ってセットされたマイクはBruel & Kjaer 4003 omni-directional condenser Microphonと繊細な録音にこだわるDMPの選択。 しかも、QobuzやTIDALでも配信されていないアルバムなのでCDしかありません。 ここ最近はストリーミング再生が多く、iPadで操作することに慣れてきた私ですが、 久しぶりにVivaldi Transport IIのリモコンを手にして最初の曲をスタートさせました。 HIRO Acousticのトゥイーター左右間隔は約3メートル、私からは約3.5メートルという トライアングルのセッティングで聴き始めた瞬間、その衝撃がやってきました! 1.Prelude,Op.28,No.20 And Variations(Written-By F.Chopin & Bernhardt) 私が試聴したCDとは異なるメンバーによる別バージョンですが参考のために記しておきます。 https://www.youtube.com/watch?v=ziQbdm9R_OI&list=PLWMEUDKlJ6Tl9JOVCtf677ZLas4KX3gWO&index=2 この曲の冒頭はフレデリック・ショパンのプレリュード作品28-20ハ短調。 前奏曲集24曲の中で冒頭にff(フォルテシモ)があるのは唯一第20番だけ。 Largo、4分の4拍子の強烈な和音がいきなり展開する! この時です… 「あ〜美しい、そして力強い!こんなピアノ聴いたことがあっただろうか!?」 驚きました!和音の凄まじいほどの迫力と分解能の両立は未体験のもの! 眼前で展開する高精細な解像度で提示される緻密な音像と壮大な音場感、正に空間を 埋めつくす和音の情報量は前例なき体験であり、dCSの開発陣がVareseシステムに 求めた音楽性というものを驚きと共に実感したのです!実に素晴らしい! これをどのように説明したものか悩んだものですが、皆様の頭の中にビジュアル イメージを浮かべて頂くのが良いかと、ネットからショパンのプレリュード作品 28-20の譜面を探してみました。下記のリンクで冒頭での和音のスコアーをご覧下さい。 https://www.dynamicaudio.jp/s/20250708130917.pdf 私は音楽家ではないので譜面は読めませんし、音楽記号や専門用語も分からないのですが、 皆様の頭の中で上記の譜面の画像を90度右回転させて五線譜を縦にしてみて下さい。 ピアノの録音では左チャンネル側に右手の高音階が定位しているものが多いのですが、 この録音では鍵盤の左右の並び方はピアニストの背中から見た配置であり、左手の 低音階の鍵盤は左側となり右チャンネルへ向けて音階が上がっていくという定位。 この譜面を90度右回転させると右側の音符が右手、左側が左手によって演奏される という構図になります。左右の指が弾く和音の位置関係としてイメージして下さい。 その次に皆様の頭の中で画像を修正して欲しいのですが、オタマジャクシの音符だけ 残して五線譜の線と音楽記号を消去して頂くと、ピアニストが弾く鍵盤の数だけ音符 の黒点が残るという感じです。 そして一小節の4拍子で四つの和音が弾かれていきますが、そこで一打の和音を示す 音符の連なりをひとくくりとしてペンで丸く線を引いて囲って頂き、一和音をひとつの 集合体として横長の丸の中に収めて頂くという画像をイメージして頂きたいのです。 その状態が今まで私が他のシステムで聴いてきた和音のイメージと言えます。 六指から七指で同時に弾かれる和音が一つの集合体として左右スピーカーの周辺に 湧きおこるのですが、ペンで引いた線に囲まれた内部で右手で弾かれた四音は 一塊になった音像として視覚的に捉えられ、左指の低音は低い周波数のため音像と いうよりは大きな面としてスピーカーの中間に広がっていくという状況です。 しかも、細いペンで囲まれた横長の丸い領域は残響成分を内側に留めるような 働きがあるのか、ソロピアノの楽音が拡散していく空間を囲い込み抑制するのか、 響きが空間に分布する範囲を僅かですが抑制しているような印象があったようです。 今までは何の違和感なく、このような録音なのだろうと長年聴き続けてきた演奏で あったわけですが、Vareseシステムで聴くと今までの記憶が根底から覆されました! 上記のように皆様の頭の中で修正して頂いた画像から丸い線の囲みを先ず消去。 次に五線譜と記号を再度戻して頂き縦にした譜面を復活させて欲しいのです。 最初の一小節を聴いた瞬間に右手が引く和音に秩序が回復し、四音の音符が 間違いなく五線譜の示す正確な音階という位置づけが定位感として確立され、 一打鍵一つずつの音像として見事に空間に提示される解像度の素晴らしさ! 響きが交差し空間で一体となる和音が思わず私に美しいと言わせた最大要因。 その際に四音の音符が独立した音像を示すようになっているのに驚く! 更に右手の一番内側にある音符の打鍵が際立ち、Steinway Model Dの内側で起こる 共鳴音が長く引き延ばされて空間に消えていく余韻が美しさを加速する!凄い! 注目すべきは左手が弾く最低音部の音符が示す極めて低い打鍵の一音が、ここまで 沈み込んだ重量感を持っているのかと驚く!この鮮明な低音が素晴らしい! そして、和音内部の観察で察知したVareseシステムの威力は分解能の物凄さだけでなく、 前述の丸く囲った線が消失したことにより、一定範囲内での響きの抑制というものから 解放された全音階での残響成分が空間に飛散していく音場感の素晴らしさが後を追う! 上記の譜面の画像から続く旋律へと演奏が進むにつれて、ゆったりとしたピアノの 一音ずつが空間を縫うように叩かれた弦の位置関係を自然に見せつけながら、 その打鍵からも微妙な共鳴音を克明に引き出し、秒針の刻みが響きの残量と同期して 余韻の滞空時間を未経験の長さとして実感できる広大な音場感として見せつける! Warren Bernhardtが奏でるショパンのPrelude,Op.28,No.20のパートは1分33秒。 これは間違いなくVareseシステムでしか聴けない音、今までに経験のない情報量を 突きつけられた私は身動きが取れず固まってしまった。 その驚きから解放されたのはPreludeの終焉から、つかの間の静寂をはさんで始まる変奏部、 Variationsへの展開でWarren Bernhardtが弾き始めた繊細で優雅な旋律からでした! 透き通るような音色のSteinwayをWarren Bernhardtの右手が細やかなタッチで奏で、 流れるような旋律がHIRO Acousticから繰り出されると、ブラシだけでドラムを演奏する Peter Erskineは明るいシンバルを左に、時折のアクセントを刻むハイハットを右に定位させ、 センターではタムのヘッドをしっとりとなぞるブラシのリズムが実に鮮明で美しい。 そして、Marc Johnsonのアコースティックベースが控えめにセンター奥から登場し、 その音像は決して膨らまず、左右スピーカーの中間に浮かぶスタンスでトリオを支える。 このVariationsパートは5分半に及び、Bernhardtの右手が紡ぎだす繊細かつスリリングな ハイトーンの連打がセンター右側の空間で展開し、その一打鍵ごとにクリスタルの響きを 思わせる極めて高い透明度の高音が鋭く立ち上がり、その余韻が空間に溶け込んでいくまでの 鮮明な響きの残照がHIRO Acoustic周辺に降り注ぐ!こんな美しいピアノだったのか!? その間にPeter Erskineはブラシだけのドラミングでセンター定位のタムを極めつけの テンションでヒットし、その瞬発力の鋭さにパシッという空気を切り裂くインパクトが 私の顔まで届いてくる静かな迫力が実に爽快で気持ちいい!これいいですね〜! 名演ほど短く感じるものですが、あえてアコースティックベースとクレジットされて いるMarc Johnsonのベースは細身の音像で奥ゆかしく定位し、中盤に与えられたソロ パートが始まると軽快ともいえるピッチカートで、あまり残響を残さずに開放弦の 重量感が床にこぼれ落ちない音像を中空にとどめる録音センスが好ましい。いいですね〜! 冒頭の和音における解像度の凄まじさはピアノのソロパートにも発揮され、エンディングに 向けて戻ってきたBernhardtが鋭く細かく弾き続ける高音のシングルトーンの繊細な響きを 前例なき素晴らしさで、私の眼前に広大な音場感という音の風景画を描いていく。 その右手の高速な運指が短いパッセージで高音の打鍵を響かせ、次第にテンポを緩め 一音の余韻を長く保持するようにスローダウンしていき、ドラムとベースが最終小節の 演奏を小音量で引き取ると、Bernhardtが踏み込んだペダルの意図をくみ、Steinwayが 残す長い余韻が彼方に消えていくまで見送っていた私の胸中で、Vareseシステムに スタンディングオベーションを送るもう一人の自分がいることに気が付く。凄いです! 9.Praise(Written-By Bernhardt) 8:37という長いピアノソロのBernhardtオリジナル曲。1986年10月ニューヨークの クリントンレコーディングスタジオAで収録されたアルバムの最後の一曲。 前曲のような画像の参考資料もないオリジナル曲なので、どのように演奏内容を 紹介しようかと思った矢先、ネットとは便利なもので音楽配信サイトのような 高音質ではありませんが、私が持っているCDの画像も見られるので参考のために 下記を紹介しておきます。 https://www.youtube.com/watch?v=HL5f0ozlCSg&list=PLWMEUDKlJ6Tl9JOVCtf677ZLas4KX3gWO&index=14 冒頭の主題が始まった時からSteinway独特の共鳴音を伴う華麗な旋律が展開するが、 この時点でVareseシステムの最大の特徴と考えられる情報量の物凄さを感じる! 右手の旋律に対して左手が繰り出す低音階のリズムが大変印象的で、全長2.7メートルを超える Steinway Model D4、別名9FT Steinway Concert Grandの重厚な低音の分解能が際立つ。 大編成のオーケストラで弦と菅の多数の楽器が演奏されれば、そのパートごとに音質的 特徴を見出そうとするだろうが、あくまでも大編成の中の一つの楽音という分析と考察 という事になり、そのパート内部の質感を掘り下げようとしても限界がある。 しかし、ピアノソロという録音では打鍵の一つずつに未知の音を発見することもあり、 再生装置の性能と魅力を捉えるのに好都合な一面があるのではと考えた。 録音センスがいいという事はもちろんだが、ピアニストの技量によって引き出されていく Steinwayの明るく鮮明で透明感ある音色が録音機材の特徴とも相まって、懐かしさを 感じるハイエンドブランドCelloのアンプで聴いた時の質感を思い出しながら聴いた。 スリリングな右手のタッチが一つずつ打鍵の存在を音像として空間に提示し、その残響が 空間に溶け込んでいく見事な余韻の造形がVareseシステムによって紡がれていく美点! ぐっと重みのある左手の低音階でのリズムパートは切れ味鋭く、低弦を叩くハンマーの インパクトによって響板の上で太い弦が共鳴音を伴って振動するビジュアルが目に浮かぶ ようにリアルな低音がHIRO Acousticから放たれる快感に思わずボリュームが上がる! HIRO Acousticの特徴である高速反応のウーファーから発せられる低音の打鍵の質感は、 バスレフポートによる位相がずれた低音とは異なり、ミッドレンジとの連携において 音域の広いピアノの質感を実に正確無比に再生していく。そこにVareseシステムがはまった! 印象的なスピード感あふれる低弦の打鍵から、右手の高音階に移行していく左右スピーカーの 中間で展開するピアノ全ての音階において実に鮮明かつ忠実な質感が連携する物凄さ! こんなスピーカーこそVareseシステムの素晴らしさを分析・評価するのに最適というもの。 正に一打鍵によって跳ねる、弾ける、そんな高速反応のピアノでありながら、その音色と 質感では聴き手の美意識をくすぐる素晴らしい響きの連鎖が空間に満ちていく醍醐味。 Vareseシステムがもたらしてくれたデジタル再生の頂点というものを、誰でも手軽に 楽しめるストリーミング再生という手段では提供できない選曲ではありますが、 外部要因の影響を受けずに確立できるCD再生においてこそ確認できたと納得しました! 長時間に渡るVareseシステム試聴の最後に選曲したピアノソロ。 そのタイトルがいみじくも“Praise”であったのは偶然ではなかったのです! -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 今後オーディオ業界に携わる人々がVareseシステムに関する仕事をした時、その価格に 対する権威を盾に美辞麗句を列挙すれば簡単に一仕事こなしたと言えるかもしれません。 ただ各種メディアの中で何らかの記事を書いた人たちは自ら述べた評論に対して、 それを実演し証明するという事までは仕事の範疇ではないとされているものです。 私は物書きのプロではありませんから原稿料も頂きませんし、その代わり締め切りと いうプレッシャーもなく原稿を書きますが、私が評価した音質を実演によって証明 出来るということが私の記述において最大の根拠となっているものです。 その意味では私のスタンスは明らかにユーザー側の立場であると言えます。 そして皆様のVareseシステムを聴きたいという要望に対応していくものです。 さて、今回も長文となってしまいましたが、VareseのコアテクノロジーであるACTUS ケーブルで連携するVarese Transportが完成し輸入された時、この選曲“Praise”で どんな音風景が見られるのでしょうか。 その感動を皆様に提供することはHi-End Audio Laboratoryの使命と考えています。 そして、Vareseシステムの価値観とは皆様の感動によってもたらされるものです。 それを感動できるレベルで実現できる拠点としてH.A.L.は立候補を宣言します! ご期待下さい! |