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H.A.L.担当 川又利明
    
2025年6月3日 No.1806
 H.A.L.'s One point impression!! - Devialet Astra 前編

新企画 H.A.L.'s SESSIONS 2025 Part.1
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1798.html

上記にて速報したExpert ProからAstraへの進化として、従来の製品から外装面
だけでない最も大きな要素を上げるとすれば、次の二項目という事になります。

■ADH-Analog Digital Hybridの進化

第2世代のADHとなり、D classアンプのエネルギー消費と熱管理を最適化。
Expert1000Proでは放熱を考慮して銅製ボトムプレートだったが、熱効率が
改善されたことでアルミ製に変更。

5kHz以上での歪み率が改善し再生周波数特性が80kHzまで伸びハイレゾ認証を取得。
A classアンプとD classアンプを結ぶコントロールボックスのアルゴリズムを改善。

■OSの進化

オペレーティングシステムがDOS2からDOS3になり、従来のAirPlay、Roon Ready、
Spotify Connect、UPnPに加え、Tidal Connect、Google Castに対応。
また、従来はconfigurationのプログラムをSDカードでインストールするという
方式だったが、専用アプリからタブレット端末による設定変更が可能になり操作性が向上。

Devialet Astraを先ずは1台のステレオアンプとして試聴開始。
システム構成はいたってシンプル。

電源ケーブルはTransparentのXLPC2、スピーカーケーブルは
Y'Acoustic System Ta.Qu.To-SPL/5.0m、もちろんスピーカーは
HIRO Acoustic MODEL-CCCS 10AEという定番の組み合わせ。

しかし、今回はソースが今までと違う。DELAのリファレンスネット
ワークスイッチ「S1」よりエイム電子NA2-020 RJ45/LANケーブルにて
RoonサーバーによるQobuzとTIDALにてFLAC 96KHz/24bitのファイルを
使用するという事で、やっとと言うか遂にと言うかコンポーネントを
評価する場面でもストリーミング再生の音質を判断基準とすることに。
https://www.dela-audio.com/product/s1/

以前にはCDトランスポートからアップコンバートしたデジタル信号を
入力してDevialetを試聴してきましたが、今回は後述する独自技術SAMを
積極的に試聴する事もあり、同時にiPadによるDevialet AstraとRoonの
同時コントロールという利便性を重視したもの。

選曲は最近ネットワークオーディオの試聴に多用している下記を使用。

1)溝口肇「the origin of HAJIME MIZOGUCHI」より「14.帰水空間」
https://www.sonymusicshop.jp/m/item/itemShw.php?site=S&ima=3355&cd=MHCL000010099
http://www.archcello.com/disc.html
RoonサーバーによるQobuzとTIDALにてFLAC 96KHz/24bitのファイルを使用。

2)大貫妙子「ATTRACTION」より「1.Cosmic Moon」
https://www.universal-music.co.jp/onuki-taeko/products/upcy-7103/
RoonサーバーによるQobuzとTIDALにてFLAC 96KHz/24bitのファイルを使用。

3)マーラー交響曲第一番「巨人」第二楽章(Normal CD)
この写真で録音の古い順に左上から[1]右へ[2][3]、下段の左から[4][5][6]となる。
この中から定番の選曲で小澤征爾/ボストン交響楽団の1987年録音[3]から第二楽章。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210519123606.jpg
RoonサーバーによるQobuzとTIDALにてFLAC 44KHz/16bitのファイルを使用。
https://store.universal-music.co.jp/product/uccd4783/

そして、恒例の課題曲を聴き始めて感じ取ったのはDevialet独特の質感。

16年前に出会った初代モデルD-Premierから、7年前のExpert1000Proに至る
同社の最もコアな技術であるADHの魅力でした。

オーケストラにおける弦楽の音色と質感、ヴォーカルのしなやかな声質、
ホール録音の十分なサウンドステージとスタジオ録音での多彩な楽音の
高解像度という正に音像と音場感の両立が高次元で再生される素晴らしさ!

それらの微細な信号を忠実に描き出すクラスAが滑らかな楽音の表情を捉え、
打楽器や撥弦楽器の発祥から空間に発散していくダイナミックな瞬発力を
支えるクラスDのエネルギー感と躍動感が調和し、洗練された迫力という
魅力がHIRO Acousticを通じて実感できる第一印象に、Devialetの音という
私の記憶が快感を伴って上書きされていく再生音には文句のつけようがない!

重量級アンプの物量投入によって屈強なスピーカーをねじ伏せるがごとくの
マッチョな再生音も経験してきたが、プリアンプ手前のソースコンポーネント
からのアナログ信号のシグナルパスと、プリアウトからのケーブルを通じて
パワーアンプが受け取ったアナログ信号が出力端子に至るシグナルパスの
長さは各種のワイヤリングを通算すると何メートルになることやら。

もちろん、私の関心としてはアンプの内部配線だけでなく、コンポーネント間を
つなぐハイエンドケーブルの存在意義を十分に理解し評価しているものですが、
Devialetの場合は内蔵するDACから出力されたアナログ信号がスピーカー出力
ターミナルに至るシグナルパスの長さは、たった5センチという驚異的な伝送
経路が音質に貢献している事実を再生音の純度として私は実感してしまいました。
https://www.devialet.com/ja-jp/about-us/our-technologies/

AstraによってもたらされたADHの進化を感動と納得のうちに確認した後に、
私が取り組んだのは二台を使用してAstra Dualでの試聴。この違いは大きい!

前作Expert1000Proの後継機種として評価するのであればDual Monoが基本。

ただし、単純に二台でモノアンプとしたものではなく、スピーカーケーブルを
バイワイヤーとして一台のAstraでHIRO Acousticの低域と中高域に個別配線し、
モノバイアンプ駆動としている。これは大きなポイントなので追記しておきます。

これを聴かずして前には進めないという試聴課題に取り組む。
ただし、ここまでの試聴ではすべてSAMはオフとしている。

以前から私が追求している音質傾向の指標として、限りなく絞り込まれた音像と
広大に展開する音場感という、一台のステレオ再生で感じ取っていたAstraの
ADHによる大変に魅力的な質感を土台として音像と音場感の両方で確認していく。

Astra Dualに切り替えて先ず最初にチェックしたのは溝口肇の「14.帰水空間」
近年これほど端的にシステム構成の個性と特徴を判定できる課題曲として信頼
している選曲で聴き始めると、冒頭の左右センターという三点から響くドラムで
Dual Monoによる音像の引き締め効果と重厚な質感への変化が直ちに確認された!

その直後にセンター奥の中空に展開する高音パーカッションの輝きと分解能の
際立ちに、ADHの進化とDual Monoでの解像度の高まりを同時に直感し、これは
中途半端なセパレートアンプを既に凌駕していると驚きと納得が押し寄せてくる。

更に追い打ちをかけるように、私の耳と感性に一種の衝撃とも言える質感の変化を
音像と音場感の両面で訴えかけてきたのがチェロの記憶にないほどの美しさ!

1台のAstraによるステレオ再生でもチェロの音色と質感の創造的美意識が見事に
表現されていたのですが、それがDual Monoになってから音像の輪郭が鮮明化され、
センター奥に左右から絞り込まれた遠近法の消失点に凝縮した溝口肇のシルエットを
浮かび上がらせる変貌ぶりに「これだ!」という心中の叫びを無視できなかった!

音像が明確にされるという事は同時に響きという空間情報をも増大させるという
経験を重ねてきたものですが、チェロが放った余韻が微風にあおられて周辺に
拡散される描写力にため息をつき、Astra Dualの描くサウンドステージの広大な
スケール感を端から端まで見渡すには視線を左右に巡らせなければならなかった。

演奏が始まって二分ほどしか経っていないのに、低域から高域のすべての領域で
音像と音場感の両面で察知した変化は続くマリンバとピアノというソロパートの
演奏では既に予測できる方向性の変化が確認され、私の頭の中ではAstra Dualで
しか出せない音というフラッグがビシッと立てられていたのです!これはいい!

大貫妙子の「1.Cosmic Moon」でも前曲で感じ取った変化が再生時系列を追って
次々と立証されていくという、予想的中という感動を自我自賛の思いで確認していく。

楽器の種類によって聴き手の期待感、先入観を人それぞれに思い入れとして再生音への
好みの表現として発想することを私は否定する事はないのですが、この曲の冒頭に
収録されている大自然の中で響き渡る雷鳴というSEに関しては個人の好みを反映する
ということは出来ないでしょう。

この雷鳴はIMAXシアターの巨大スクリーンを思わせるほど、私の視野におさまらない程の
広大な音場空間として、地平線が見えるほどの距離感を思わせる雷鳴のスケール感を
HIRO Acousticの周辺に描き出すのですから堪りません!この空間サイズの拡大に驚く!

稲妻の閃光と落雷という衝撃音の連鎖から、ふと一瞬の静寂が戻ったところに軽妙な
雄鶏の鳴き声が飛び交い、シンセサイザーの人工的な重低音がセンターから湧き上がる。
この重低音が以前にはなかった肉厚で重々しい音色に変化しているのを見逃さない!

そして、この曲で以前から注視している右チャンネルからのシェイカー、左側では
激しいアタックのスネアが炸裂する。シェイカーの中身の粒子が実態感を高め、
同時に巧妙にかけられたリバーブでスピーカー周辺に余韻を漂わせ、それは同時に
対極のスネアの打音にも解像度とテンションの高まりをもたらしており、切れ味が
鋭くなった打撃音の余韻を引き延ばすという情報量の拡大をここでも見せつける!

この曲は歌声ではなくVoices:大貫妙子としてシンプルなワードを繰り返す。

Magnetic moon  Lunar moon  Electric moon  Self-Existing moon  Overtone moon
Spectral moon  Crystal moon  Cosmic moon  と囁くようなVoicesが中空に浮かび、
Moon Rise  Moon Set  13th moonと続き、日本語の二行の歌詞が印象的に表れる。

その間は一貫して左右のシェイカーのリズムと弾力性のある重厚な低音が広大な
音場感を構成し、男性のVoicesが彩りを加え、短いパッセージのピアノが漂い、
スタジオ録音の醍醐味として管理された美しい響きを展開し壮大な空間を描く。

これらのVoicesがしっかりと輪郭を示し、それに呼応するようにセンターに表れる
ギターの質感が堪らなく美しい。いや、洗練されたというべきか。
以前にも増して解像度の高い音像として描かれていく、Astra Dualにしてからの
相違点に当然私は気が付いていた。これはいい!

マーラー交響曲第一番「巨人」第二楽章を聴き始めると、上記二曲だけではなく
他にも聴いていた曲での観察結果も含めて、今までの試聴で感じてきた変化要素が
オーケストラの再生音では総合的な進化の方向性として予測される安心感があった。

冒頭の弦楽五部の合奏から右チャンネルのトランペットの響きまでもが予想通り。
進化したADHの貢献による弦楽器の質感の滑らかさ、響きの美しさは文句なしの素晴らしさ。

Dual Monoでの解像度の向上は木管楽器のソロパート、小粒なトライアングルの音色にも
輝きを与え存在感を磨き上げ、オーケストラ各パートの描写力を高めると同時に
ボストンシンフォニーホールにおける空間再現性という情報量の拡大につなげている。

ステレオ一台としてのAstraに対して大きく飛躍したモノバイアンプ駆動の威力に、
私はこれこそ新世代のDevialetだと感動し納得してしまった!素晴らしいです!

しかし、私の探求心と好奇心は更に欲深くDevialetにしか出せない音はないのか!?
と歴代のDevialetを聴いてきた経験から次なる試聴課題に進んでいく事にした。

世界中どのアンプでも成しえなかったテクノロジーであり、Devialetの最大の特徴で
あるSAM(Speaker Active Matching)に対する追求をしていくことにしたのです。
https://www.devialet.com/ja-jp/amplifiers/expert-pro/expert-pro-technologies/expert-pro-sam/

                                  つづく


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