発行元 株式会社ダイナミックオーディオ
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ダイナミックオーディオ5555
TEL 03-3253-5555 / FAX 03-3253-5556
H.A.L.担当 川又利明
    
2023年11月1日 No.1744
 H.A.L.'s One point impression!! - B&W 805D4 Signature

このダイナミックオーディオ5555がオープンしたのは2001年8月1日のことでした。
その一か月後にニューヨークとワシントンで9.11の同時多発テロがおきました。

そんな歴史のランドマークとなる出来事にオーバーラップするように記憶に残るのが、
下記にて述べているB&W Signature800でした。

第四十九話「45×65に棲む鸚鵡貝」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/oto/oto49-01.html

このSignature800を当フロアーで試聴され、その年末に国内最速で導入された
お客様からの記念すべき投稿を改めて下記にて紹介致します。

国内初オーナーの声を拝聴(福井県S様より特別寄稿)
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/oto/oto50-05.html

それからS様は、その時代に評価されたスピーカーを今までに数機種入れ替えながら
オーディオを楽しまれてきたもので、上記の時代とはコンポーネントも様変わりして
近代化されてきました。

もう四年前になりますが東京出張の折には福井県出身の女将が差配する居酒屋に
お連れして楽しく酒を飲み交わしたこともあり、長らくのお付き合いに感謝して
いるものです。本当にありがとうございました。そして…

本日(6/27)17時に世界同時公開! B&W 801D4/805D4 Signatureを速報!
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1735.html

この配信を行ってから数日後の事…。

「お久しぶりです、川又さん
 Signatureと銘打たれると、敏感に反応してしまいます。
 といっても、今の私は805D4 Signature目当てなのですが…

 中略
 
 805D4 Signatureペア&スタンド付きでおいくらぐらいですか?
 とりあえず定価販売なのでしょうか?
 よろしくお願いします。」

とのメールを頂戴し即刻のお見積りから…

「川又さん
 特別なご配慮、本当にありがとうございます!

 中略

 805D4Signature是非ともお願いしたいと思っています。
 スピーカー本体:California Burl Gloss
 スピーカースタンド:ブラック
 以上、整いましたらご連絡ください。
 そんなに急ぎませんよ、川又さんはすごく速すぎるので…」

と、今回も国内初のご注文を頂いたものでした。

その当時はCalifornia Burl Gloss仕上げはメーカーの生産が遅れ納期がかかり、
当店の展示用として既に発注していたものを顧客優先ということで、国内初と
いうことで先行納品させて頂いたものでした。

下記はS様のブログから抜粋引用させて頂いた感想です。
https://audio.asablo.jp/blog/2023/08/


「B&W  805D4Signature 鳴らし始めから、予想外の鳴り方でとっても驚きました!
 設置して初発の感想は、とにかくSPから放射される情報量のすごいこと!!

 805D4Signatureの設置当初、情報量が凄すぎて空間が収束されていない感じでしたが、
 ものの1時間ほどで素直に広がる音楽空間が見えてきました。
 また、予想していたよりマイルドで鳴らしやすい感じです。

 過去のB&Wのイメージだと、特に鳴らし始めは薄目できつい感じ、中高域寄りの
 鳴り方なのかなと思っていましたが、805D4Signatureは、中高域の情報量が優勢で
 ありながらも、とってもバランスよく全帯域の情報を空間にまんべんなくふんだんに
 放射しています。

 あ〜、この感じ…。やっぱりB&W的な鳴り方です。
 かつて約20年前の「B&W Signature800」の鳴り方を想起します。」

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

さて、そんなお得意様との思い出から、ふと考えると上記の商談の時点では当然の
事ながら当フロアーで私はまだB&W 805D4Signatureを聴いていないことが気にかかる。

そこで輸入元が保有するデモ機のスケジュールが空いた頃で良いので、数週間ここで
じっくり試聴させて欲しいという要望をしていたところ、やっと実現したのでした。

先ずはH.A.L.レベルでの私のこだわりのセッティングというポイントからです。

先ずはスタンドです。S様も「スタンドについては、いろいろ選択肢があるようですが、
圧倒的に優位なものがないようなので純正にしました」とブログで述べていましたが、
私が選択したのはこれ。何を隠そうH.A.L.で純正採用しているこだわりものです。

Kiso Acoustic PODIUM STAND ¥300,000 (税込み) / (2本1組)
https://www.kisoacoustic.co.jp/podium-stand

頑強な支柱と10.8kgという質量による徹底した無共振設計、細くてねじ込み式の
一般的なスパイクではなく人の親指ほどの太さがある削り出しで、ピン先のように
先端は細く鋭いものではなく、半球体で点接触させる重厚な作りとなっています。

PODIUMにセットアップして状態が下記です。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20231015130445.jpg

そのスタンドの下に上面が赤いフェルトとなっているベースは何かと言うとコレ!
このH-Boardはコンパクトではありますが質量は何と19Kgもあるのです。

「オリジナル商品第五弾!! HB-1のために作りました“H-Board”誕生!!」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/691.html
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/698.html

しかし、残念ながら現在では生産完了しており販売できない事から下記のシステム
リストには掲載しておりません。

そして、バイワイヤー対応スピーカーの音質を大きく支配するのがジャンパー
ケーブルということで、当然のことながら私は下記のコレを採用しました!
https://www.dynamicaudio.jp/s/20231015130503.jpg
https://www.dynamicaudio.jp/s/20231015130455.jpg

こんなごっつくて太いジャンパーケーブルとは何か!? ご存知の方も多いと思いますが、
Y'Acoustic System Ta.Qu.To-Jumper Cable Type2をもちろん採用しました!
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1683.html

セットアップした風景が下記になります。801D4Signatureと同じセンターポジションで
比較試聴出来るように配慮しました。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20231015130437.jpg

以上をもとにコーディネートした試聴システムを下記にてご紹介します。

H.A.L.'s Sound Recipe / B&W 805D4 Signature-inspection
system
https://www.dynamicaudio.jp/s/20231015155529.pdf

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

コンパクトな16センチ・ミッドバスユニットからなる2ウエイスピーカーということで、
私には期待と懸念の両方がありました。ただし、以下に述べる事は同じ小口径ウーファー
による2ウエイスピーカーであるKiso Acousticの場合には当てはまらない項目なので
誤解なきように追記しておきます。

その懸念という事なのですが、当然のことながら当フロアーのリファレンスとして
常設展示しているハイエンドスピーカーたちと比較して、どれほど低音が出るの
だろうかという一般論としての心配事ではありません。

私は常々バスレフ型スピーカーとはウーファーの背圧をリユースすることによって
低音を増強補強するものという事を述べてきましたが、805D4のバスレフポートは
実測では直径60mm×長さ235mmというパーツではあるのですが、805D4Signatureに
関してバスレフポートの存在が吉と出るか凶と出るかが気になっていました。

805D4Signatureは公開しているスペックにはクロスオーバー周波数は表記されて
いませんが、この口径のミッドバスユニットにして4KHzとなっている事を先ずは
述べておかなくてはならないと思います。

そして、800D4シリーズの他のスピーカーと違って唯一バスレフポートがフロントに
あるというポイントがあります。

以上の項目から805D4タイプのスピーカーにおいてバスレフポートの役割が上記の
ように純粋に低音を増強補強するものとしての機能性だけなのか、という視点を
私は試聴前から検討していたのでした。

さて、以上のような考察をしていた私は届いた805D4Signatureの開梱作業をして
いる時に面白い付属品があることに気が付きました。これは805D4のみの付属品です!

左がフォームリングで右がフォームプラグ
https://www.dynamicaudio.jp/s/20231021160717.jpg

軟らかいウレタン製の円筒形なのですが、私はこれを見た時に何に使うのかピンと
きて分かりました。バスレフポートに詰め込んで使うダンパーです。

今を去る事45年前のことでしょうか、アメリカmarantzが製造販売していたスピーカー
にも同じものが付属していた事を思い出しました。ダンプドバスレフのためのダンパーです!

40年以上前のmarantz900シリーズに特許バリ(Variable)Qという名で使われており、
これは70年代にJBLからmarantz USAに移籍し副社長になったエドモンド・メイ
(LE-8Tの開発などで有名)のチームによるものであると後日情報がありました。

順序は逆になりましたが、この付属品の存在を知ってから805D4の取り扱い説明書を
引っ張り出して日本語の66ページ目を見ると次のように書かれています。

「スピーカーに低音域のふくらみを低減させたい場合には、スピーカーのバスレフ
 ポートにフォームプラグを挿入してみてください。また少し低音域を減少させたい
 場合はフォームリングをバスレフポートに挿入して下さい」

多国言語の説明書として一冊にまとめられ、各言語で4ページずつの説明書となって
いますが、いささか不親切な書き方でフォームリングとフォームプラグとは何が
違うのか、という説明がないのですが穴あき状態の方がフォームリングです。

なるほどね〜、説明書では両者ともに低音の調整を目的とした付属品なのですが、
私も実物を扱ってみるまで知らなかったものであり、前述したフロントに位置する
バスレフポートの存在意義をB&Wがどのように考えているのか、その真意を探るのに
ちょうど良い実験材料が最初から付属していた事に私は驚き感心したのでした。

ここで再度述べておきますが、「引き絞られた音像と広大な音場感の両立」という
指標を当然のことながら今回も意識しているものです。

それは今から9年前に出会ったHIRO Acousticの存在によって決定的になったと言える
ことなのですが、このスピーカーの構造的な特徴をひとつ上げるとすればトゥイーターと
ウーファーの中心点の距離は約33センチほど、ここまで3ウエイの各ユニットが近接して
設置されていることが音像サイズの表現力に大きな貢献をしているということです。

他社のダブルウーファータイプのスピーカーは二個のウーファーを縦に並べているので、
下のウーファーの位置関係を考えれば上下に広がった低域の音像サイズとなる可能性が
高いものであり、床からの一次反射音も同様な音像拡大の傾向をもたらすものですが、
そのような傾向はD&M本社の試聴室では感じられなかったのでルームアコースティックの
特性によっては、ということで述べておくことにします。

そして、805D4Signatureのトゥイーターとバスレフポートの中心点の距離も約31センチ
ほどと音源位置の集約性があります。これは大きなメリットとして私は考えています。

この事実からして、私の推測ではフォームプラグでバスレフポートを塞いでしまったら
音像サイズは小さくなるのではないか、ということが一点。

次にフォームプラグを使用することで密閉型エンクロージャーの低域特性となり、
低域の質感に重量感、濃密感が向上するのではないか、ということが一点。

さらに4KHzまで受け持つミッドバスユニットの後方に放射される音波には、
かなり中高域の音波が含まれており、それらが短いポートから放射される状態において、
大振幅の低域信号を再生した際に高調波歪を発生し、いわば歪成分を含んだ音が
ポートから出てくる可能性が大きくなるので、フォームプラグでフタをしてしまえば
スピーカー全体の歪率も下がることになるのではないか、ということが一点。

同時にフォームプラグによってエンクロージャーの気密性が高まり密閉型の低域
特性になるということは、スピーカー内部の空気圧のバネ性によってミッドバス
ユニットのストロークが大きくなる音量の際にアコースティックサスペンションと
いう働きによって低域の歪率低減の効果も期待できるのではないか、ということが一点。

このように805D4Signatureの魅力と個性を分析するために私が懸念として前述した
項目を検証するには持って来いの付属品ではありませんか!先ずここからスタートです!

H.A.L.レベルの試聴と分析ということは組み合わせるコンポーネントが高価である
というだけではなく、オーディオ的着眼点が何処にあるかが重要なのです。

そのフォームリングとフォームプラグを実装すると下記のような状態になります。

(A)ノーマル
https://www.dynamicaudio.jp/s/20231021160741.jpg

(B)フォームリング使用時
https://www.dynamicaudio.jp/s/20231021160733.jpg

(C)フォームプラグ使用時
https://www.dynamicaudio.jp/s/20231021160725.jpg

私は次の課題曲を三曲選び、先ずは上記の(A)そしてフルダンピングした(C)を聴き、
次にハーフダンピングの(B)で比較し、再度(A)に戻り確認するという作業を12回も
繰り返して試聴しました。こんな物好きでめんどくさい比較試聴をするのは私だけ?

■マーラー交響曲第一番「巨人」小澤征爾/ボストン交響楽団
録音の古い順に写真左上から[1]右へ[2][3]、下段の左から[4][5][6]として
1987年録音の[3]から第二楽章を聴く。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210519123606.jpg

最初にオーケストラ、(A)で聴き始めると実に爽快な響きが多くの情報量として
飛び出してきたので、このサイズでここまで出るのかと先ずは納得。いいです!

次に(C)で聴くと弦楽五部、管楽器の音像などが縮小して理路整然とした管弦楽の
表現性が最初は良好に感じられた。ここです、最初は…良かったのに何か違和感が?

更に(B)で聴き直すとコントラバスの音像サイズが縮小し、低音楽器の輪郭が鮮明に
なりながら量感も維持する良い感じ。しかも管楽器の抜けも維持されているので
低域の量感のみコントロールしているという印象が好ましく思える。しかし…

再度(A)に戻して確認したのですが、これが一番いいのかも…と音像の変化以外の
オーケストラの美点を発揮させるための必然的要素が顔をのぞかせはじめる…。

確かに(C)で聴いた時には弦楽器も管楽器も、更には打楽器さえも音像の縮小という
傾向が感じられ一瞬好ましく思ったのですが、コンサートホールでの臨場感としては
減少傾向にあると思われました。

つまり805D4及び805D4Signatureのミッドバスユニットの背圧、つまり振動板の
裏側に放射している音波がバスレフポートを通じて排出される際に、中高域成分を
含みながらリユースされる低音とミックスされ、それらがホールエコーとして
音場感の広がりを感じさせる方がオーケストラの魅力を発揮しているのでは!?

その意味では(B)の質感も好感を持てるのですが、805D4クラスのサイズであれば
当フロアーの環境では低域の減少は不要であり、低音楽器の発する余韻成分が
豊かである方が小型スピーカーにとっては有意義であると判断したものです。

■Melody Gardot/Sunset in the Blue[SHM-CD]より1.If You Love Me
https://www.universal-music.co.jp/melody-gardot/products/uccm-1260/
https://www.universal-music.co.jp/melody-gardot/about/

次の課題曲はヴォーカルを聴こうと思い、その選曲に当たっては伴奏楽器に関して
リズムセクションが最小限であり、ストリングス主体の曲でヴォーカルの質感に
おいて三種類の違いを感じたかったというもの。オーケストラの比較要素の続きです。

(A)で聴き始めると上級機に勝るとも劣らないMelody Gardotの歌声の質感を先ず確認。
これはいいですね〜、実にしっとりと空間に浮かぶヴォーカルが心地良く展開します。

それにストリングスとフリューゲルホーンが空間に見事に展開し、ブラシでの
ドラムが爽やかにリズムを刻み、ウッドベースの量感は控えめですが他の楽器と
同じ高さに定位して見晴らしがいいのです!

さて(C)にしてみました。これは最初から分かりやすい変化です。

先ずストリングスの響きが拡散していく領域が狭くなり、リズムセクションの
音像が小型化するのが感じられ、同時にヴォーカルのマウスサイズも縮小します。

これは絞り込まれた音像を目指す私にとって良いことなのか?

4KHzまで受け持つミッドバスユニットの仕事としてヴォーカルを担う仕事は理解
しているのですが、Melody Gardotの声の質感に変化が表れている事にも気付く。

日本人の女性ヴォーカルは細身の音像でおちょぼ口と例えられる曲が多いのですが、
それはビジュアル的には首から上だけの画像と例えられるかもしれません。

ところが、Melody Gardotのヴォーカルはバストショットのように上半身すべてが
見られる構図であり、音程の低いところで喉元から発するバイブレーションとして
空気を伝わってくる波動感と言ったらオーバーですが、躍動感として聴き入って
しまう歌声が魅力であったのですが、それが惜しいことに薄らいでいるのです。

バスレフポートとヴォーカルの質感の因果関係が明かされる実験でした。

そして、(B)の状態にしてバスレフポートの通気性を良くしたみたら…。

スタジオ録音としてマスタリングでのリバーブでお化粧をした彼女の歌声は(C)で
薄らいでしまったライブ感を取り戻すのですが、まだ中途半端な印象はそのままです。

ベースの響きと音像は整っているのですが、もったいない感触は続いており、
やはり当フロアーのセッティングにおいては音場感の維持を優先するとイマイチ。

ここまでくると(A)に戻したいという欲求が芽生えてきたものか、確認のために(A)で
彼女のヴォーカルとバックの楽音を音像サイズと音場感という秤にかけると、何も
しないノーマル状態の方が805D4Signatureの魅力を感じやすいのではと納得する。

■溝口肇「the origin of HAJIME MIZOGUCHI」より「1.世界の車窓から」
https://www.sonymusicshop.jp/m/item/itemShw.php?site=S&ima=3355&cd=MHCL000010099
http://www.archcello.com/disc.html

最後の決め手になったのがハープとチェロのデュエットという選曲でした。
特にハープという撥弦楽器の演奏において、この曲での音階ではバスレフポートの
影響など考えられない高さにあるのではと考えていたからです。

先ず(A)で聴き始めるとトゥイーターの優秀さか、何とも弾けるハープの弦のリアルさが
小型スピーカーの周辺の空気中に余韻感の連鎖として展開し素晴らしいのです!

冒頭8秒間のハープだけのイントロが終わりチェロが入ってくると、意外に大きな
音像となって登場した事に驚き、私はこの曲に限って音量を下げ、また上げてと
ボリュームの大小によってチェロの音像サイズの変化も追確認したものでした。

さて、密閉型の特性となる(C)にしてみました。楽器の数が少ないという事は私の
注目点における変化量は逆に大きいと感じられる誰にでもわかる変貌ぶりです。

バスレフポートをふさいだわけですが、低域をリユースするためのバスレフなのだから、
ハープの高音階での再生音に変化などあるわけがない!という予想は瞬間的に覆りました!

確かにハープの一弦ずつの爪弾きという音像が縮小したと最初は感じたわけですが、
前述のように音量を上げ下げして、よくよく聴き込んでいくと弾かれた弦という
音像のサイズが変化したのではなく、弾かれた瞬間から中空に放射されていた余韻
成分が減少し響きの時間軸が短縮された変化であることに私は気が付き始めたのです。

その分析は同様にチェロの音像変化にも適用され、朗々としたアロコで弾かれる
チェロの響きが三割がた削り取られたように感じられ、ただし楽音の音色としては
大きな変化は見せないので分かりにくいのですが、演奏者の存在感として周辺に
漂わせていく微弱な響きの連鎖がプツリと途切れてしまったように思われるのです。

そして、(B)のセッティングに切り替えて上記で感じた変化を注視して聴きました。

ハープの余韻感に関しての開放感は戻りつつあり、少し(C)では緩くなってしまった
印象のあったテンションの張り詰め方も回復し、残響成分の存続性も認めるところです。

ただし、チェロの質感に関しては音階が下がったパートでの重厚感に物足りなさが
残っているように思われ、フォームリングは低域の量感を減じさせるものという
目的は使用環境によっての選択を間違えないようにと言う一種の啓示でもあった
のかと思われたものでした。これはこれで悪くはないのですが…。

そこで最後に(A)に戻したわけですが、私はほっと思わずため息をついてしまった
というのが単純な一言ですが、本心からの印象として結論付けておきたいと思います。

さて、最後に番外編としてのオマケとしての実験です。

■DIANA KRALL「LOVE SCENES」11.MY LOVE IS
https://www.universal-music.co.jp/diana-krall/products/uccv-9580/

前曲と同じく女性ヴォーカルとウッドベースというシンプルなデュオの録音です。

そして、このような小型スピーカーを使うであろう一般家庭での音量とは違い、
当フロアーのエアボリュームにおいて私が納得する音量で聴くのですから、普通の
家庭で鳴らす音量よりは相当大きなボリュームである事を最初に述べておきます。

この音量に言及したのは2ウェイ小型スピーカーではミッドバスユニットは一般的な
3ウェイスピーカーのミッドレンジとウーファーの両方が受け持つ帯域を、
805D4の場合には16センチドライバー1個で再生するということで、大振幅の低域を
私が要求する音量で鳴らすということは大変大きなストロークになってしまうという事。

それは3ウェイスピーカーのウーファーにおけるバスレフポートの役目とは違い、
2ウエイスピーカーの場合にはミッドバスユニットの再生音において変調歪が大変
大きくなってしまうという事にもつながってきます。

ただし、そこはスピーカー設計者の腕の見せ所であり、入念なチューニングと
経験による技術力によって巧妙に設計された2ウエイスピーカーの全てに対して
否定的な見方をするものではありません。誤解なきように一言追記しておきます。

最初に(A)で聴き始めたのですが、ウッドベースの質感・音色ともに大変素晴らしい!

前述のようにトゥイーターとバスレフポートの中心点の距離が約31センチ程という
音源の集約性が多くの倍音を含むウッドベースの張り詰めたテンションと重量感を
見事に再現しており、それは同時に音像サイズが必要最小限に引き絞られていると
いう特徴が好感を持って実感されたものでした。

イントロからDIANA KRALLのフィンガースナップは心地良く弾け、トゥイーターの
優秀さがリバーブの拡散領域を広範囲に展開していく情報量として納得させられると、
センターに浮かんだヴォーカルの生々しさにSignatureと銘打たれた価値観が発揮
されるのだから堪らない!このヴォーカルいいですね〜!

たった16センチのミッドバスユニットが躍動する再生音を耳にすると、私が懸念
していた変調歪がどうこうという理屈など忘れさせてくれるサウンドに脱帽!

では(C)にしてみようか…、と期待と不安の両者が前述したチェックポイントの
項目に発想を戻し、さあ引き締まってくれるのかな〜とリモコンでスタートさせると…?

「あっ、だめです、このベース!ヴォーカルも鼻づまりだな〜、これはだめです!」

(B)のセッティングに切り替えても多少は良くなりましたが、これほど選曲によって
楽音の質感に起こる変化量の大きさに驚いてしまいました。

密閉型エンクロージャーでのアコースティックサスペンションという事例を前述
しましたが、ここで鳴らす音量でミッドバスユニットが担っている帯域で起こる
変化に関して、バスレフポートが機能している役割という事について再発見した
という思いがあります。

以上の事柄から、私が805D4Signatureをどのように評価すべきか、正しい鳴らし方
という事に関して再確認しなければと考えました。

そこで取り扱い説明書に書かれている一節を再度引用してみます。

「一般的に壁からスピーカーを遠ざけると低音域の量が少なくなります。
 スピーカーの後ろにスペースをつくることによって、音場の奥行き感を得る
 ことができます。逆に言えばスピーカーを壁に近づけることによって低音域の
 ボリュームを増やすことができます。(805 D4のみ)」

このように当フロアーの環境では上記のような一般家庭での使用状況とは違う
ものであり、バスレフポートに関する今回の実験は決して無駄ではなかったと
いう事が輸入元D&Mの担当者に問い合わせていた項目の回答を頂いたことにより
次第に解ってきたのです。

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

H.A.L.'s One point impression & Hidden Story - B&W 801D4
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1685.html

さて、私が805D4Signatureの試聴に取り組んでいるうちに、カタログには記載されて
いない項目で何点か確認したい項目が頭に浮かび始め、それを上記の記事でも紹介
している現D&M シニアサウンドマスターである澤田龍一氏(澤田さん)に問い合わせ
していた回答が届きました。

それを読んでいくと前述の実験試聴で私が感じ取った複数のポイントに関して、
技術的な背景を基に肯定されていったのです。

先ずは下記の「B&W歴代800シリーズトップモデル比較」を開いて頂ければと思います。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211030162111.pdf

この表の一番右キャビネットに関して、2016年の800D3シリーズからエンクロージャー
構造が大きく変化しました。Reverse Wrap方式の採用であり下記の解説となります。

「リバースラップ・キャビネット:800シリーズDiamondにとって、理想的な
 キャビネットの形を決定するにあたり、まさしく文字通り180度の転換をしました。

 背面が曲線で、正面がフラットなスピーカーとは決別し、正面とサイドが連続
 曲線を描き、ソリッドアルミニウムで一体化されているキャビネットを作ったのです。

 継ぎ目が減ったことにより、より高剛性で、振動を抑える構造になりました。
 また、正面が曲線を描いているため、ドライブユニット周囲のバッフルによる
 反射が減少しました。つまり、音の反射が改善され、キャビネット・リフレク
 ションが少なくなっています。」

外観上では大きな変化と言えますが内面的にはどうなのか?特に805D4クラスでは?

川又より…以前からB&WのエンクロージャーではMatrix bracingが特徴的でしたが、
805クラスだと内部構造としては同様な補強はなく、ひとつのキャビティ―として
空洞であるという理解で良いでしょうか? Webやカタログには805クラスのエンク
ロージャー構造の説明がないので念のためにお尋ねします。すると澤田さんから

「800seriesのキャビネットには、1987年のMatrix 801S2以降の全てにMatrix構造
 補強が使われています。

 ただ、初期は薄い板でたくさんの小部屋に仕切っていましたが、近年になるに
 従って厚く強い板を使い部屋数を減らす方向に変わってきています。

 これはキャビネット外殻の強度が上がってきたことと、内部の気流のスムース
 さを狙ったものです。

 805D4のエンクロージャーの補強は厚い合板を縦1枚、横2枚で6部屋分割のMatrix構造です」

川又より…周波数レスポンス42Hz-28kHz(±3dB)となっていますが、バスレフポートの
共振周波数は何ヘルツでしょうか?801D4が27Hzだったので805D4では50Hzくらいですか?

「バスレフポートの共振周波数f0cは43Hzです。ちなみにフォームプラグを装着すると
 密閉型として動作し最低共振周波数f0は62Hzです。

 フォームリングを装着するとバスレフと密閉の中間的な動作となり、共振周波数
 f0cは39Hzに下がりf02は71Hzですが、バスレフポートの開口面積も小さくなりますので、
 低音補強効果も半減します」

また、クロスオーバー周波数は4KHzかと思いますが、ミッドバスのハイカット、
トゥイーターのローカットフィルターのスロープ特性は両方ともに-6dB/octで
良いのでしょうか、それともトゥイーターのみ-18dB/octでしょうか?

「クロスオーバーはウーファー側はコイルのみで-6dB/oct、トゥイーター側もコンデンサー
  のみで-6dB/octです。これは2005年以降、全てのB&Wの2wayスピーカーが採用しています。
  それ以前は原則ウーファー側-12dB/oct、トゥイーター側-18dB/octでした」

なるほど…、再度「B&W歴代800シリーズトップモデル比較」の右から二番目で
クロスオーバーネットワークに関する項目を見ると、801D4などの3ウェイでは
トゥイーターのローカットは同じく-6dB/octなのですが、ミッドレンジのハイ
カットは-12dB/octでした。

つまり、805D4のミッドバスユニットのハイカットが-6dB/octということは3ウェイの
場合に比べて高域方向に対するフィルターは緩やかであるということですね!

そして、澤田さんからはツメの一言が…

「805 seriesは下位の700 seriesや600 seriesの2wayのようなリアバスレフ方式ではなく、
 前面バスレフとして積極的に使う方式なので原則フォームプラグは使用しません。

 後方の壁に近接あるいは、部屋のコーナーに押し込むようなセッティングで、
 どうしても低音が過剰な場合の調整用です」

最後に「原則フォームプラグは使用しません」とのコメントを頂きましたが、
これを最初から知らされていれば私は前述の実験はしなかったかもしれません。

しかし、私は逆にフォームプラグを使っての試聴で多くの事を学び、同時に
805D4Signatureの特徴と魅力をより多く実感出来たものと考えており、事前に
想像していた下記の項目に明確な解答が得られたものと考えています。

■フォームプラグでバスレフポートを塞いでしまったら音像サイズは小さくなる?

最初はそのように感じられたものの、よくよく聴いてみると残響成分が減じられ
スケール感が縮小する傾向となってしまい予想とは違った結果となりました。

■フォームプラグを使用すると密閉型の低域特性となり、低域の質感に重量感、
 濃密感が向上するのではないか?

これは逆に使用しない方が明らかに低域の重量感は好ましいことが低音楽器と
ヴォーカルの両方で確認出来ました。

■大振幅の低域信号を再生した際に高調波歪を発生し、歪成分を含んだ音がポート
 から出てくる可能性が大きくなるので、フォームプラグでフタをしてしまえば
 スピーカー全体の歪率も下がることになるのではないか?

この歪率の低下は聴感上では議論するほどの変化は感じられず、上記の変化の方が
音楽性には大きな影響力を持っていたことが分かりました。

■フォームプラグによって密閉型の低域特性になるということは、スピーカー内部の
 空気圧のバネ性によってミッドバスユニットのストロークが大きくなる音量の際に
 アコースティックサスペンションという働きによって低域の歪率低減の効果も
 期待できるのではないか?

前述のように当フロアーにて私が求めた音量でも、アコースティックサスペンションの
効果と言えるような事はなく、逆に低音楽器の質感の変化量が曲によって大変大きい事が
確認され、ここの環境ではフォームプラグを使用しない再生音に805D4Signatureの
魅力を発見することが出来ました。

私が思うに805D4Signatureはフロントバスレフ方式によって低域の増強補強を行うと
いう事だけでなく、バスレフポートの通気性によってミッドバスユニットを高速反応
させるというトランジェント特性に重きを置いた音作りをしているものと考えました。

その証拠にクロスオーバー周波数が4KHzでミッドバスのハイカットフィルターが
-6dB/octという事は、オクターブ上の8KHzで-12dBという減衰特性となるわけで、
中高域の楽音の成分を相当含んでいる事になり、それがポートから放射される事で
ミッドバスユニットの直接音に加算されることによってライブ感を高める効果を
もたらしているものと考えられました。実験してみて良かったと思っています。

以上を澤田さんに報告すると、やはりと思う下記のコメントを頂きましたので
最後に紹介しておきたいと思います。

「B&Wの2wayのwoofer(B&Wは中音域まで受け持たせるのでmid-wooferと称しています)
 に使われているコンティニュアム・コーンは、3wayのwooferに使われている非常に
 強固なエアロフォイルコーンと違い、とてもしなやかです。

 従って、フォームプラグを装着して密閉型にすると、低音再生時にコーンの背圧が
 高くなり、しなやかにたわむことでで再生する中音域が息苦しい音になります。

 バスレフは低音補強のみでなくエア抜きとしてコーンの背圧を逃がしているのです。

 フォームリングでは密閉型とバスレフ型の中間的な動作をさせるのですが、
 パイプダクトの一部にドーナツ形状のものを差し込むことで気流に乱れができ、
 空気の出入りに際してわずかながらエアーノイズが発生します。

 気流の流れをスムースにするゴルフボールテクノロジーが台無しになります。

 そのためバスレフ効果を制限するのには効果的ですが、フロントバスレフの場合は
 エアーノイズが中音域を曇らすので、お勧めできません。

 700seriesや600seriesの ようにダクトが後ろの場合は、エアーノイズの影響は
 ほとんどありません。」

なるほど…、私が実験した各項目での考察は、やはり無駄ではなかったのですね!

理屈と現実は違う事、予想と実態は違う事が分かりましたが、音楽性の品位において
805D4Signatureは求めるユーザーの使い方によって大変大きな素晴らしい伸びしろが
あるという事を結論として述べておきたいと思います!

B&W 805D4 Signature、改めて皆様に推薦致します!

★当フロアーに常設展示はしておりませんが、私のこだわりのセッティングで
 試聴したいという方は下記より予約頂けましたら対応致します。
 https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/appoint.html

川又利明
担当:川又利明
TEL 03-3253-5555 FAX 03-3253-5556
kawamata@dynamicaudio.jp

お店の場所はココです。お気軽に遊びに来てください!


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