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H.A.L.担当 川又利明
    
2022年5月10日 No.1703
 H.A.L.'s One point impression - dCS Vivaldi APEX DAC

New dCS Ring DAC APEX : A Closer Look
https://www.taiyoinc.jp/products/dcs/apex_news_20220303/index.html

dCS Ring DAC「APEX」販売開始
https://www.taiyoinc.jp/products/dcs/apex_news_20220311/index.html

H.A.L.'s Circle Review-No.4652-より抜粋

上記の新製品Vivaldi APEX DACは下記URLにて公開されているVivaldi DACに
置き換わるものであり、同一価格にて今後は新品として販売可能となりました。
http://taiyoinc.jp/products/dcs/vivaldi-dac/

このVivaldi APEX DACの実物は現在国内に1台だけ存在していますが、それを
3月22日(火)から25日(金)の日程にて当フロアーにて試聴可能となりました。

ただし、旧Vivaldi DACとの比較試聴ではないこと、Vivaldi Transportはないので
他社トランスポートでの試聴という事になります。

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そして、この試聴システムとして私が組み合わせたのは下記の内容でした。

H.A.L.'s Sound Recipe / dCS Vivaldi APEX DAC - inspection system
https://www.dynamicaudio.jp/s/20220322144757.pdf

Vivaldi APEX DACのメニューを操作すると内部温度が表示される。
セッティングした直後では24.5℃ということで直ちに本領発揮ということには
ならないのを承知の上で待ちきれず聴き始める。いい! すごくいい!

Grandioso P1Xのデジタル出力モードをDUAL 8としてアップコンバートしてみると、
以前からdCSで使用してきたDXDモードとして「16/352.8」とディスプレー表示され
Vivaldi APEX DACが同期する。聴くのであればこれだな〜とほくそ笑む。

しかし、これでいいのだろうか…、と過去の記憶が蘇る。

大分前の事ですがdCSのTransportとDACに対してESOTERICのマスタークロック
ジェネレーターをつなげてみると、オーディオ信号とは関係ないクロック信号の
発信源がdCSでないと不思議なことにESOTERICのカラーがにじみ出てくる。

逆にESOTERICのTransportとDACに対してdCSのマスタークロックジェネレーターを
つなげてみると、同様にESOTERICカラーが薄れdCSの色合いが表れてくる。

もっと極端な事を言えばdCSのシステムでESOTERICのMEXCELケーブルを使用すると、
もうそれだけでESOTERICの雰囲気が漂い始める…。

そんな経験をしてきた私からすれば、いつものGrandiosoシリーズの中に取りあえず
Vivaldi APEX DACを組み込んだだけという上記のシステム構成で何が解かるのか?

素晴らしい第一印象であるがゆえに、そこからVivaldi APEX DACの魅力という
ものを抽出することが可能なのだろうか、という疑いが脳裏をよぎる。

正直者はバカを見るとは昔から言われることだが、素晴らしい音質であるという
ことを認めつつ、この音の何パーセントがVivaldi APEX DACによるものなのかなど、
そんな曖昧な事は口が裂けても言えないのではないか…というのが私の信条でもある。

セットして二日目の今日、Vivaldi APEX DACのメニューを操作して内部温度を見ると36.2℃。
良い感じに温まってきたので本格的に聴き始めるか…、同時に本稿の書き出しで
今後の構成をどうしようかとキーボードに向かった時でした。

連休明けの3月22日は真冬に逆戻りして極寒の天候で雪が降る東京。そんな中で…

「店長、うちのサービスが使っているVivaldi Transportを持ってきました」

と、太陽インターナショナルの担当者がアポなしで突然の来訪。なんだと!
上記のように悩んでいた私の心境を見透かしたかのように何とも素晴らしいサプライズ!

前述の経験からもESOTERICのマスタークロックジェネレーターは使用せず、Vivaldi
APEX DACのクロックモードをマスターに切り替えて出力させ、それをVivaldi
Transportに入力して簡易的ではあるがdCSのみの個性を尊重するセットアップを行った。

dCS Vivaldi APEX DAC with Vivaldi Transport setup
https://www.dynamicaudio.jp/s/20220322153959.jpg

両者ともに少し浮き上がっているのはTa.Qu.To-Isolatorを使用しているからです!

そして、何ともタイムリーで嬉しい配慮から早速下記のシステム構成に変更する。

H.A.L.'s Sound Recipe / dCS Vivaldi APEX DAC - inspection system Vol.2
https://www.dynamicaudio.jp/s/20220322155550.pdf

先日の地震の影響で東京電力から電力供給が逼迫し節電を呼びかけるニュースを
見てはいるのだが、極寒の今日は空調を朝から暖房にしており次第に室内も温まって
きたのか、Vivaldi APEX DACの内部温度は46.4℃という状態になり準備万端となった。

東京電力には申し訳ないのだが、鳴らさないパワーアンプや他のコンポーネントの
電源はオフという事にして、聴かずにはいられないという心境にストップがかからない!

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従来からのVivaldi DACでデジタルフィルターの設定はF1と決めていた。
F2以降のポジションではどうも余韻感が減少するような気がしているからです。

そして、もう一つ。Vivaldi APEX DACのメニューでSETTINGSからMAPPERの選択が
MAP1からMAP3まで出来るのですが、担当者の話しによると内蔵DSPの演算速度の
選択という事でMAP1が一番高速動作しMAP2が従来レベル、MAP3がそれよりも遅い
処理速度になるという。

どうも私の頭ではついていけない理論の世界なので、これは聴いた方が早いという
ことで本格的な試聴の前にMAPPERモードの比較をすることにした。

ここでは聴き慣れた課題曲のみ短時間で比較することにした。
同時にオーケストラなど大編成での録音ではなく、極力楽器の数が少ないもので
楽音の質感と空間提示の違いに集中することにした選曲でもある。

■溝口肇「the origin of HAJIME MIZOGUCHI」より「1.世界の車窓から」
https://www.sonymusicshop.jp/m/item/itemShw.php?site=S&ima=3355&cd=MHCL000010099
http://www.archcello.com/disc.html

ハープの爪弾きから立ち上がる鋭さと余韻感、チェロが醸し出す響きの階層と
両者の残響が広がっていく響きのスケール感に注目し比較する。これはMAP1がいい!

■UNCOMPRESSED WORLD VOL.1 よりTRACK NO. 3 TWO TREES
http://accusticarts.de/audiophile/index_en.html
http://www.dynamicaudio.jp/file/100407/UncompressedWorldVol.1_booklet.pdf

サックスのパタパタという小さな機械音も正確に再現され、リバーブが広がっていく
空間の大きさをチェックし、ピアノのアタックの切れ味を比較しながら打鍵の粒立ち
と鮮明さを比較していくと、これもMAP1がいい!

さあ、若返ったようなVivaldiシリーズの第一印象の素晴らしさをこれで聴こう!

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短期間の滞在時間しかないVivaldiシリーズをどう聴くのか?

今回の試聴は他社比較ということで再生音の違いをチェックし描写するという
いつもの聴き方ではなく、進化したVivaldi APEX DACの魅力と個性を引き出すと
いう試みであるので、特定の再生音のここがこう違うという比較論では意味がない。

何故かというと、私が感じ取った音質の違いは当フロアーで実演できるという
絶対的な自信があるのだが、それが今回に限っては通用しない出来ないからだ。

私が注目した演奏パートのこことここを比較すれば個性が解かるという説得力は
Vivaldi APEX DACが常設展示となれば文章で語っても証明することができるのだが、
今回は一過性の展示であり試聴体験なので後日の実演が出来ない以上は私の感性を
どのように刺激してくれたかという正しくインプレッションのみでお伝えするしかない。

さあ、こんな場合の課題曲はどうするのか、選曲が悩ましく思えるところだが
意外と簡単に適切な録音がひらめいた。

私が反田恭平というピアニストを知ったのは2015年10月頃でした。
その年の7月にアルバム「リスト」でメジャー・デビューした当時まだ弱冠21歳。
長髪にメガネをかけた、すらりとして一見か弱そうに見えた青年が肉体改造して
第18回ショパン国際ピアノコンクールで第2位に入賞するとは思ってもいませんでした。
https://www.kyoheisorita.com/

その後、日本コロムビアから離れ自身の新レーベル「NOVA Record」を設立し
現在でも活躍中ということで今後に期待しているものです。
https://www.novarecord.jp/

そして、今回私が選曲したのは22歳当時の録音である下記のCDでした。

■Rhapsody on a Theme of Paganini Op.43 / パガニーニの主題による狂詩曲
反田恭平(ピアノ)、アンドレア・バッティストーニ(指揮)
RAI国立交響楽団 / 東京フィルハーモニー交響楽団
https://www.kyoheisorita.com/
https://www.kyoheisorita.com/album/rachmaninov/

この「パガニーニの主題による狂詩曲」は2015年9月に東京オペラシティーホール
でのライブ録音で東京フィルハーモニー交響楽団との共演。ライナーノーツには
演奏時間は記載されていませんがカウンターを見ると23:44でした。

課題曲としては長い演奏なのですが、特定の楽音の特定の再生音を各論として語り
比較するのではなく、全曲を通じて私が何を感じ何を思うのかという感性での取り組み。

これも序奏の8秒間でもう私はノックダウンさせられてしまいました!!

反田恭平がデビューアルバムで演奏に使用したニューヨーク・スタインウェイ
モデルCD75を、このオーケストラとの共演でも使用したのではと思う程の独特な
音色と質感なのですが、その和音の鮮明さと切れ味の素晴らしいテンションと、
まさに演奏者の技量を示す正確な高速演奏の素晴らしいピアノがHIRO Acousticの
向こう上面の空間にポン!と浮かび上がるのですから驚きました!

この主役の座は左右スピーカーのセンターにピアノだけの演奏空間として設けられ、
その左右と奥行き方向にオーケストラの各パートがきっちりと定位感を持って並び、
特に私が感心したのが東京フィルハーモニー交響楽団の弦楽の素晴らしさでした。

指揮者の薫陶が音に表れているのか、力強く透明性が高く、それでいて滑らかに
五部が協調する弦楽合奏のパートは録音の素晴らしさも同時に示しています。

東京フィルハーモニー交響楽団の弦楽五部がこれほどまで滑らかで素直な質感で、
冒頭から以前の記憶にないオーケストラの描写力にぐっと引き付けられてしまいました。

反田恭平のピアノにはハイライトが当てられたように、打音の瞬間から明るさと
エネルギー感が変化していることが印象的です。Vivaldi APEX DACによって
ピアノの質感と響きの情報量が増加するなど信じられない人も多いと思いますが、
きちんと反応しているのが誇らしく思いました。

スネアーの軽快な楽音は以前よりも鮮明であり、細かい打音の連続から発生した
余韻がステージを漂って消えていく時間がこんなにも長かったのかと驚き、そして
グランカッサの重量感と迫力が切れ味良く響き渡る快感に心躍る思いで聴き惚れる!

私が好きな展開は13.Variation VIII. Tempo Iにおける反田恭平の鮮烈な演奏と、
それに素晴らしい同期を見せるオーケストラの各パートにもハイライトが当たり、
今まで見えなかったラッピングを取り払ったような鮮やかさが鳥肌ものの感動を呼ぶ!

RAI国立交響楽団が演奏したイタリアのホールの響きとは明らかに違う余韻感であり、
日本らしいという表現を歓迎したいホールエコーがオーケストラを優雅に包み込んでいます!

スネアの弾ける打音は実に切れ味良く、高速で操られるスティックの残像が響きの
イメージにも一致して鮮明なリズムを空間に飛ばし、時折のグランカッサの鮮烈な
打音の消滅がVivaldi APEX DACの素晴らしい情報量として明らかに確認できます!!

コントラバスのピッチカートのように響きと余韻が両立して欲しい演奏、大太鼓が
強烈な打音を叩き出す一瞬のエネルギー感の放出、相反するような低音処理に関して
この両者の貢献度が素晴らしいということをHIRO Acousticを通じて堂々と表現して
くれる爽快感がたまらない魅力なのです!!

特に私が好きな展開は13トラックの第8変奏における反田恭平の鮮烈な演奏と、
それに素晴らしい同期を見せるオーケストラの迫力が素晴らしい空間表現を示し、
スピード感と躍動感が一気に駆け抜ける演奏に興奮してしまいました!!

そして、23トラックでの第18変奏では対照的にメローでゆったりした旋律が打鍵の
あとにも空間に響きを漂わせ、流れるような弦楽器との旋律の交差に魅了されます!!

前述の一節で実に美しい弦が先取点を上げた!と私は思わず書いてしまいましたが、
23:44の課題曲を聴き終えて、減点要素は何も見つかりませんでした。
というよりも、聴けば聴くほど私は加点してばかりいます!

dCS Vivaldiシリーズというソースコンポーネント、Y'Acoustic SystemのTa.Qu.To
-CableとTa.Qu.To-Isolatorによる音像と音場感のコントロール、そして何よりも
HIRO Acousticという公明正大な評価基準という有機的な連携プレーが録音データ
という電気信号に命を吹き込んだ音楽の造形に感動したのでした!

このdCS Vivaldi APEX DACを取り上げたハルズサークル会員限定企画実施中!
この機会に是非ご入会下さい!
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/circle.html

川又利明
担当:川又利明
TEL 03-3253-5555 FAX 03-3253-5556
kawamata@dynamicaudio.jp

お店の場所はココです。お気軽に遊びに来てください!


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