発行元 株式会社ダイナミックオーディオ
〒101-0021 東京都千代田区外神田3-1-18
ダイナミックオーディオ5555
TEL 03-3253-5555 / FAX 03-3253-5556
H.A.L.担当 川又利明
    
2019年12月5日 No.1578
 H.A.L.'s One point impression!! - SPEC RPA-MG1の非常識

■非常識なスピーカーを見事に鳴らす非常識なアンプとは!?

美辞麗句を並べる雑誌の記事とは裏腹に私が冒頭で非常識を連発するには訳がある。

先ず最初に非常識なスピーカーとは何か、下記のシステム構成をご覧下さい。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20191127143216.pdf

それはY'Acoustic System Ta.Qu.To-Zeroの事なのですが、マーケティングを意識した
設計と製造法を無視しての妥協なき理想追求とはどういうことか下記にてご覧下さい。

H.A.L.'s Hidden Story!! - Y'Acoustic System Ta.Qu.To-Zero
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1496.html

上記の続きとして世界中のスピーカーメーカーでクロスオーバーネットワークに
こんなパーツを使っているところはありません。Hidden Storyの続きを下記にて
先ず紹介しておかなければと思います!
https://www.dynamicaudio.jp/s/20191019131148.pdf

その採算ど返しという非常識なスピーカーY'Acoustic System Ta.Qu.To-Zeroが
今までと全く違う音質で鳴り始めたという驚きと感動が私の意欲をかきたてたのでした。

そして、その非常識なアンプというのがSPEC RPA-MG1のことです!
https://www.spec-corp.co.jp/audio/RPA-MG1/index.html

では、何が私に非常識と言わせたのか!?

私はオーディオ業界に携わって大分長い年月を経験し、かつHi-End Audio Laboratoryを
標榜してきたなりの音質追求と研究をしてきました。

その歴史の中には当然、主観的な物言いも多分に含まれていますが、それらは
ここで検証してきたことによる自説であり再生音として証明できる項目です。

そんな私がSPEC RPA-MG1のどんなところに咬みついたのか!?

先ずはそこから述べていかなければならないでしょう。
下記の資料をご覧下さい。

SPEC RPA-MG1日本語版資料
https://www.dynamicaudio.jp/s/20191126171008.pdf

SPEC RPA-MG1000として海外向け英文資料
https://www.dynamicaudio.jp/s/20191126173137.pdf

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

このアンプを非常識と呼ぶからには反対に私なりの常識があり、今から26年も前から
下記の随筆にて述べてきたことの各項目と一致するのです。

第18話「黄金の口が語る美意識」特に『スパイク性ピンポイント症候群』に着目
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/oto/oto18.html

1970年代から80年代における国産コンポーネントのほとんどはラックに接地する
フットは丸く偏平なもので、スパイクを使用しているものはほとんどなかった。

しかし、当時既に海外製品ではスピーカーでもコンポーネントでもスパイクフットを
装備した製品が多数出回っていた。

上記の随筆で述べているようにメカニカル・グランディング(アース)という概念は
GOLDMUNDが発祥ではないかと考えている。

もちろん、メカニカル・グランディングという概念においては、先ずコンポーネント
そのものの筐体が高剛性・高質量でなければならず、その後にJEFF ROWLANDなどが
アルミニウムの塊から削り出したアンプのボディーを作り出すなど、手法は異なれど
ハイエンド志向のアンプでは剛性を高めることによる音質追求が常識化してきたのです。

視点を変えて考えてみます。ソースコンポーネントとスピーカーは変換器です。

テープデッキは磁気信号を電気信号に変換、FMチューナーは電波を電気信号に変換、
ピックアップカートリッジは機械的信号を電気信号に変換、CDプレーヤーは光信号を
電気信号に変換する。そして、スピーカーは電気信号を機械的動作として音波に変換。

このように信号形態が異なるものに変換するということは、物理的に変換前と後の
比較において設計者の求める理想という主観に依存していることになります。

つまりは磁気、電波、機械的運動、光などを電気信号に変換した際に、その波形や
エネルギーにおいて原信号と変換後の忠実度に関して、厳密に言えば誤差の確認と
いう分析がほぼ困難であるということ。スピーカーも同様なことが言えるかもしれません。

代表的な事例としてアナログプレーヤーでサスペンションによるフローティング機構が
あるかないかで音質的傾向は二分化出来たり、スピーカーではKiso Acousticのように
意識してエンクロージャーを楽器のように第二の音源として共鳴させるという手法もあり、
結果的にユーザーの好みとして選択されているので変換器がもつ個性は容認されています。

であるがゆえに、オーディオ製品として結果的な音質において評価し議論するしか
ないという事実があるでしょう。

しかし、オーディオシステムの中で唯一アンプだけが入出力ともに電気信号なのです!
従って入出力信号を電気的な測定器によって分析と評価が出来てしまうということです。

そこに設計者の主観的な趣向や意図によって、入出力波形に独自の変化をもたらしては
いけないという確固たる基準が存在すると考えられます。同時に波形観測だけでは
音質を語れないという事実も存在することを今の段階で認めておくことにします。

さて、話を戻します。そんな私がSPEC RPA-MG1のどんなところに咬みついたのか!?

SPECのwebサイトや日本語版資料にある次の項目です。

「アンプは楽器!?」という表現に関して私は否定的な考えです。

楽器のすべては振動する音源と共鳴する本体によって構成されており、音源とは
弦であり管であり打楽器そのものでしょう。そして、そのほとんどが共鳴する
木製か金属製のボディーを持っており、音源の振動は機械的な連係によって共鳴
するのではなく、音源が発した音波によって共鳴するものです。

空気の疎密波という音波によって共鳴し響きを作っているのが楽器なのです。
前例に上げたKiso Acousticなどは最たる成功例だと考えています。

ですが、アンプそのものが音圧によって響きを作るという概念は信じられません。

資料の一節に「音楽信号とともに振動し、美しい音色を奏でます」とありますが、
上記のように高剛性・高質量でありメカニカル・グランディングという思想で
音圧と機械振動という有害要素を排除しようとしてきたアンプの設計思想からは
全く逆行するものです。アンプは変換器ではないのですから。

「SPECの音楽的表現とは音色」という表現に関して私は否定的な考えです。

音色表現の主役は複雑な倍音を構成する微小信号。これは認めますが、そもそも
倍音とは変換器であるソースコンポーネントによって出力された信号の中に含まれて
いるものであり、それをアンプが演出的に作っているとしたら高忠実度に反します。

入力された信号に含まれる倍音成分をいかに忠実にスピーカーに届けるかという
論点であれば認められますが、その手段として上記の響きを作るという発想で
入力信号にないものを付加するという事として考えられるからです。

New Original product release - Y'Acoustic System Ta.Qu.To-SPL
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1564.html

上記より次の一節を引用します。

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

皆さんはスピーカーケーブルに何を求めるだろうか!?

オーディオの世界でHi-Fiとは、High Fidelity(高忠実度)の略語であり、再生
システム全体がもたらす変容に対し原音との対比において、高忠実度を例える
表現として昔から次のような格言が言い継がれてきました。

「何も足さず何も引かない」

これはスピーカーとコンポーネントの性能にも求められる項目でもありますが、
当然各種ケーブルにも同様な思想が求められてくるものです。しかし…

どんな音を原音とし、何を基準として「何も足さず何も引かない」と考えるのか。

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

変換器ではないアンプの役目として最優先されるのは「何も引かない」ということです。

それがHi-Fiコンポーネントとしてソースとスピーカーの両者に対してアンプが担う
最も重要な役目です。昔からアンプとはゲインのあるケーブルと言われる所以です。

その意味からも、私はアンプの部材としてウッドを使用するSPECの手段は
「何かを足している」という事でしか思えないのです。

それが楽音の響きだったとしたら録音信号にないものを付加しているということでしょう。

そもそも録音に含まれていない音に対してアンプが響きを追加してしまったら
原信号の歪曲であり、ホール録音であれば巨大空間での響きを助長し演出すると
いう行為がアンプで行われても判別しにくいだろうが、精密に制御されたスタジオ
録音の克明な楽音を曖昧にしてしまうと考えられ、フォーカスが甘くなり特定の
音色を乗せることになってしまうと私は経験上で考えざるを得ないのです。

ハードウエアとしての電子技術でSPEC RPA-MG1の英文資料に見られるようなPWM方式の
応用と、各項目の高性能部品を使用しているというこだわりは否定しませんが、
このアンプの根本的な設計思想に関してSPEC RPA-MG1は私の常識に当てはまらないのです!

後述するSPEC RPA-MG1の音質に関して、下記の引用を絶妙な対比として記しておく。

第18話「黄金の口が語る美意識」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/oto/oto18.html

引用開始(後述の際に必要となるポイントに★マークと.数字を付けている)

第三章『未知による誤解、経験による認識』より

「引き締まった低音」「繊細な切れ込み」「ワイドレンジで鋭敏な反応」「端正で涼しい響き」
「硬質な輪郭線」「精緻なディティール」「シャープなフォーカス」「無駄な膨らみは激しく
 削り落す傾向」「鋭く瞬発的に立ち上がる見事さ」五年前からのオーディオ誌をひもとくと
 ゴールドムンドを表現する言葉として、この様な表現が多用されている。

まだまだ書ききれないほどの紹介事例があるのだが、ニュアンスの共通点としては十分であり、
同様なベクトルを指し示す表現としてうまく言い当てていると思う。

そして、これらの言葉のニュアンスを対象比較するとこんな感じになるのではないだろうか。

★.1「鈍角よりも鋭角」「ソフトよりもハード」「ホットよりもクール」「曖昧よりも正確」
 「ルーズよりもタイト」「軟質より硬質」決して間違いではないのだが、この様な印象を
 もたれている方は多いと思う。

しかし、私はこれらの表現について一つの条件を付加した上で理解している。
D/Aコンバーターを含むアンプ等エレクトロニクス分野では、少なくともこれらの
形容で間違ってはいないと思う。

★.2 つまり電気信号が入力され、電気信号が出力される機器群ということだ。

それでは、ゴールドムンドというブランドの音は、これら片方の器の底をほじくり
返しただけの、一方に偏った傾向で終わってしまう味わいの薄いメーカーなのだろうか。

我々は前述のエレクトロニクス分野の機器群を聴いただけでゴールドムンドを理解した
つもりでいたのではないだろうか。

また、これらの個性はどんな目的のために生み出されたものなのか、ゴールドムンドと
同じ視点に立って考えたことがあっただろうか。

私は、これらの答えを昨年のアポローグとの出会いと、今年のCDトランスポート・
ミメーシス36との出会いの中で発見することが出来た。

この『音の細道』第四話「究極の音を知る価値」の中で述べたとおり、私は、
ゴールドムンドのアンプが有する傾向の延長線上で、アポローグとCDトランスポート・
ミメーシス36の音をイメージしていたことが誤りであったと考えている。

★.3 「ハードの中にソフトな一面があり」「正確さの中に許容されるべき曖昧さがあり」
「クールな中に硬質ばかりと思っていた表情に軟質な笑みがある」前述のニュアンスを
 こんな風に改めなくてはならないという気がしている。

電気信号を機械振動に変換するスピーカー、光信号を電気信号に変換するCDトランスポート。

いわゆるトランスデューサーといわれる機器を含めて、すべてゴールドムンドの思想で統一
して聴くことによって初めて体験出来る絶妙な質感のバランスが存在するものと実感された。

世の中でアンプだけ、スピーカーだけ、と特定ジャンルの製品群を製造して評価を得た
ブランドも数多くあるが、ハイエンドというステータスを大切に真の意味で自らの思想で
入り口から出口までを作り上げた例は少ない。

同社の統一システムを聴くことが出来た数少ない人間の一人として、ゴールドムンドの
正しい認知と理解を日本の愛好家諸氏にお伝えていく使命感を感じずにはいられないのである。

第四章『責任の領域』より抜粋

★.4 先に紹介したゴールドムンドで行われた二トンのコンクリートによる実験の話し
については、それを誘導したもう一つの質問があった。

「確かにメカニカルグランディングの効用はわかるのだが、メカニカルなアースを
 取る場合に、その相手となる置き台なり床はどう考えればいいのか。」

 私のフロアーに置いているラックは一台七〇キロの重量があるが、これで十分か。
 床は木のフローリングが良いのか、コンクリートが良いのか。機械的なアースを
 受けさせるものによって音が変わってしまうわけで、メカニカル・グランディングの
 効果を考える時、どこまでそれを追究していけば良いのか。」

                                引用終了

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

■非常識なSPEC RPA-MG1を聴くことによって新しい常識が生まれる!

意外と知られていないことなのですが、ホールにおけるオーケストラを中心とした
クラシック音楽の作品ではスタジオでマスタリングする際にリバーブを施していると
いう事例が多い。

聴き手としては世界中の著名なホールの響きが録音に含まれているのだろう、
この余韻こそがあのホールの美しい響きなんだと思ってしまうのも無理はない。

しかし、現実的には商品として心地よく音楽が楽しめるように響きを追加するという
音質操作が頻繁に行われているという事実を先に述べておく。

その上で上記引用の★.1における言葉の表現からアンプの個性を分析するために
最初からホール録音という選曲が好ましいかどうかを考えてみた。

もしもアンプが響きを追加するという特徴を持っていた場合、前述のようにホール
エコーとして錯覚してしまい、それがアンプによる演出なのかどうか判断が難しい。

ホールという巨大空間で演奏された楽音に関して再生時に録音信号に含まれない
残響なりが響きとして付加されたとして、多くの人たちは好ましい響きとして
肯定的に感じ取ってしまうでしょう。

徹底したメカニカル・グランディングの効果として★.1の要素を考えた場合、
スタジオ録音でありながら巧妙な空間表現をスタジオで作り出したという選曲で
先ずはSPEC RPA-MG1の音質を分析していくことにした。

私の課題曲で克明な楽音で検証すべく、スタジオ録音の課題曲として外すことは
出来ない大貫妙子/ATTRACTION「四季」を聴き始めた。すると…
https://www.universal-music.co.jp/onuki-taeko/
https://www.universal-music.co.jp/onuki-taeko/products/upcy-7103/

この曲のイントロは小倉博和のギターと高水健司のウッドベースで始まりますが、
両者ともにスピーカーの軸上には定位していない。

ギターはセンターの左寄りの中間、ベースはセンターから右寄りの中間という位置で、
そもそも音源がない空間に定位する。

この両者のイントロは約10秒、11秒のカウンターと共にセンターでトライアングルが、
そして12秒から大貫妙子のヴォーカルが入ってくる。

「えっ! このギター違う、初めて聴く音色! ベースの響きが何でこう違うの!」

このたったの10秒間で私は衝撃を受けた! アコースティックギターの質感が今まで
聴いてきたものと全く違う! それは同時にウッドベースでも確認され、なぜだ!?
という原因探しに私の思考回路は占領されてしまった!

この曲は20年前の作品であり、私の試聴では何回使用してきたか数え切れないほど
多数のスピーカーとシステム構成で聴いてきたものです。

でも、今ここで聴いた質感をSPEC RPA-MG1がもたらしているとすると、私が今まで
聴いてきた音、追求してきた方向性とは★.1というベクトルだったんだ! 
と思わざるを得ないのです! いやいや、それが間違っていたという事ではない。
どちらが正しいという議論ではないのです。そもそも感触が違うのです!

高級ブランドのシルクのスカーフをイメージして下さい。色鮮やかなプリントが
施された光沢ある生地は結んでも巻き付けても、ほどこうとすると何の抵抗感も
なくするっとほぐれ、しわひとつ残さず元通りの艶やかさを保つ。

軽く握ってスカーフを引き抜こうとすると、わずかな摩擦も感じさせず音もなく、
するりと指の間をすり抜けてしまう肌で感じる極上の滑らかさにため息が出る。

しかし、極めて薄く織り上げられたシルクに暖かさはなく、地肌に触れた一瞬は
冷っとする感触が織り糸の細さ繊細さをイメージさせるでしょう。

そして、これが最も重要なことですが、ある物体をスカーフで包んだとしましょう。

ふんわり物にかけるというか乗せるだけでも、とがったもの丸みのあるものという
中身の輪郭がそのままに見て取れます。文字通り包んだとしたら薄い生地は包装紙の
ように中身の形状をはっきりと見せてくれます。これが★.1のイメージでしょうか。

ところが、SPEC RPA-MG1で聴く楽音の質感は違うのです! 例えれば今治タオルか!
http://www.imabaritoweljapan.jp/about/positioning.html

ループパイル織物のタオルもピンからキリまでありますが、高級タオルの代名詞と
しての今治タオルは説明の要はないでしょう。

触れた感触はこの上もなく柔らかく吸水性に優れさらっとしている。
その上に肌に触れてもひんやりせずに、そのままマフラーにしたくなるような
ぬくもりと微妙な温度感が実に心地いい!

きめ細かく織られたパイル地は柔軟性に富み、何かを包んでもしっくりと馴染み、
軽く握って引き抜いてもふんわりとした感触を指に残してすり抜けてきます。

しかし、微妙に空気をはらんだタオルを開いた手に乗せると指の先端という形は
きちんと見せてくれるのですが、軟らかで自然なドレープとして絶妙な曲線を描き、
中身の鋭さを隠してくれるという一種の包容力が備わっていると思うのです。

★.1という方向性とどう違うのか、私はSPECが目指したものを理解し説明するのに
多くの試聴を繰り返し、その音質が訴えてくるものをどんな言葉で表現するのかを
ずっと迷い悩んできましたが、やっとシルクのスカーフと今治タオルという比喩に
たどり着き、これだったら皆様にご理解頂けるのではないかと思い至りました!

★.1で示した六つのキーワードを全て逆にすると誤解が生じるかもしれませんが、
下記の一節を引用することで歯止めをかけておきたいと思います。

『スパイク性ピンポイント症候群』より引用開始
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/oto/oto18.html

「響きの良い」という魅惑的な形容詞には「程好い」という但し書きが必要になる
ことを忘れてはならないと思う。

この「程好い」という言葉を具現化するならば、数多くのコンポーネントを聴いて
きた立場から一つの指標を提案することが出来る。それは入り口から出口までの
全てのコンポーネントに共通して、その構造と素材からの見方である。

その製品に設計者が与えた剛性が、その素材と構造から柔構造(高剛性と自他共に
認める製品群と対比しての表現で、他意はない)となっているものにはスパイクの
使用はあまりお勧め出来ない。(というよりも効果が薄いというべきだろうか)

例を挙げれば、ステューダーのCDプレーヤーやマッキントッシュのアンプ、
スピーカーではタンノイやボーズなどがそれに当たるかもしれない。

ゴールドムンドのミメーシス9に見られるように厚さ六ミリもある鉄板を溶接に
よって箱に仕上げているようなものは、どの様に判断すべきかはもうおわかりの事と思う。

                                引用終了

この程よいという考え方が重要なのです。確かに私はアンプのベースとボディーに
ウッドを使うという設計方針に対して自分の常識とは違うということを述べましたが、
SPECの木製フットの先端は丸みを帯びた一点接地、つまり緩やかなスパイク形状に
なっているというポイントを上記の「程好い」という発想に当てはめることができるのです。

そこで上記の★.3で述べていた反作用的解釈がSPEC RPA-MG1の特徴のひとつとして
シルクのスカーフと今治タオルの対比という比喩を補足してくれることになるのです!

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

なぜだ!?という原因探しに私の思考回路は占領されてしまった! とはギターと
ウッドベースによるイントロの10秒間だけではなく、その後に続くトライアングルの
質感、そしてヴォーカルとストリングスの登場によって更に加速していった!

「透き通る美しさ! このトライアングルの音色! なぜ暖かいの!?」

当たり前だが100%鋼鉄という金属製、それを金属製のトライアングルビーターで
打つのだが、この一音がTa.Qu.To-Zeroのダイヤモンドトゥイーターの威力もあってか、
極めつけの透明感で眼前の空気を清浄化するがごとくの純度で輝くのだが、そこに
今までには感じたことのない柔軟性を感じる響きであることに驚く! 本当か!

★.3 「ハードの中にソフトな一面があり」「正確さの中に許容されるべき曖昧さがあり」

これはGOLDMUNDのブランドで統一したシステムを聴いての印象であり、同社の
アンプだけを聴いた経験とは異なる解釈が生まれたという事でした。つまり…

★.2 つまり電気信号が入力され、電気信号が出力される機器群ということだ。

アンプの役目と性格を上記のように特定するという発想も26年前から述べていたこと。

その後、GOLDMUNDはスピーカーとコンポーネントだけにとどまらず、各種ケーブルや
アクセサリー、ラックまでをも自社で商品化して同社の思想をブランドとして統一
していったという歴史があります。

しかし、私が今ここで体験している音はSPEC RPA-MG1というパワーアンプのみに
よって実現したものであり、更に自社製のH-VC1000というボリュームコントロール
ユニットを使用することでプリアンプを使用せず、DACが出力したアナログ信号を
直接RPA-MG1の内部に送り込むという方法によって混じり気のない同社のポリシーを
音として表現しているのです!

さあ、スタートから12秒後、大貫妙子のヴォーカルが入ってくる。

「なに!? この歌声…、しっとりとしているのに鮮明な口元が見えるようだ!」

この声質には驚いた! 私の経験をもってしても過去に記憶がない質感なのです!
稚拙な比喩ではありますが、やはりシルクのスカーフと今治タオルか!

ヴォーカルの輪郭は殊更に鮮明なのに、その中から溢れてくる潤いと滑らかさ、
そして何よりも耳で感じる温度感というものを私は初めて経験した!

大手飲料メーカーで“のどごし”がいいというキャッチコピーがありますが、
“耳ごし”がいい! などと言ったらニュアンスは伝わるだろうか。

大貫妙子の歌声が耳に入ってくることによってもたらされる快感があるとは!

クリアーであるのに人肌のぬくもりを同時に感じるSPECの特徴とは何なんだ!
またもや原因探しに私の思考回路は占領されてしまった! 

そこでひらめいたのが上記の★.4というポイント。

「確かにメカニカルグランディングの効用はわかるのだが、メカニカルなアースを
 取る場合に、その相手となる置き台なり床はどう考えればいいのか。」

金属製スパイクを装備したコンポーネントでもスピーカーでも、そのスパイクが
打ち込まれる対象は何かという事。

私の経験ではスパイクを装備したスピーカーをフローリングの床に置く場合、
コンクリートや石の床に置く場合では同じスピーカーでも大きく音質は変わる。

同様にスパイクフットのあるアンプやプレーヤーをラックに収納する場合、
その棚板が木製なのか金属製なのかで、やはり大きく音質は変化してしまう。

という事はオーディオ製品そのものにスパイクでメカニカルグランディングを
施したとしても、設置方法によって音質傾向は大きく変動してしまうという事。

製品本体にメカニカルグランディング思想を貫いたとしても、結果的にスパイクを
受ける側の素材感・質感に依存しているという事なのです。

だからGOLDMUNDはラックまでも自社で設計してサウンドポリシーを全うした。
そして、私も当フロアーで使用するラックには大きなこだわりを持っているのです。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1466.html

さて、そこでSPECがやったことを再確認する。「SPECの木製フットの先端は丸みを
帯びた一点接地、つまり緩やかなスパイク形状になっている」これです!!

ここで私の経験談を少し…。スパイク装備のスピーカーをコンクリートや石の床に
直接に置く、つまりスパイクを直に床に対して使用した場合、ろくな音になりません。

キンキンしてハイ上がりで荒れた高域になり低域は伸びずに重心が上がった音になります。
パワーアンプ、プレーヤーなども同様です。それ自体にいくら重量があり、これだけ
重いのだから振動しないだろうと思ったら大間違いなのです。

そんな硬い床にスパイクでセットする際には木製のスパイク受けやベースを使用し、
金属製スパイクが直接床に接しないようにします。あるいは振動を熱に変換するような、
適度な柔軟性をもつ素材でもいいでしょう。

金属製スパイクと硬い床の相性は良くありません。つまり質量だけでは振動対策には
ならずアイソレーションしなければだめという事。そう、GOLDMUNDの研究開発の過程で
2トンのコンクリートのエピソードがありましたが、ズバリ同様な現象と対策なのです。

さあ、ここまで述べればSPECがやったことの真意が見えてくるのではないでしょうか。

「アンプは楽器!?」や「音楽信号とともに振動し、美しい音色を奏でます」の
ためにウッドスパイクを採用したのか!? いやいや、とんでもないです!

SPECが木製のベースシャーシとインシュレーターを採用した目的を、私は自分の
経験と課題曲を聴いて理解しました。

金属製パーツを使用せざるを得ない電源部、回路基板などアンプの主要な電気的
構成要素を設置する場所として、未熟なラックや不都合な置き場所からアイソ
レーションするという事なのです!

再度述べますが、製品本体にメカニカルグランディング思想を貫いたとしても、
結果的にスパイクを受ける側の質感に依存しているという事であれば、音質的に
依存せざるを得ない接地対象として選択されたウッドに固定してしまおうということ。

もちろん機械的振動を制御するためのアイソレーションの効果として、カエデや
メープル、ヒッコリー、スプルースなどの木材が完璧であるということではありません。

また、それらの木材が響きを作るなんてことは考えにくいのです。

変換器であるスピーカーであれば楽器として音波の響きを利用するという原理は
前述しましたが、アンプのベースシャーシとインシュレーターが受けた振動によって
音楽信号を美化するという理屈はどうしても納得できません。

さて、ここでもう一つGOLDMUNDのアンプの特徴をお知らせします。
同社のアンプ、またはコンポーネントにはアースの切り替えスイッチがあります。

選択としてはシャーシアースかグランドか、フローティングアースで接地なしか、
ということで、アンバランス伝送でメガ帯域までレンジを持つ同社製品は使用
環境によって発生するノイズの対策としてアースの切り替えをスイッチを設けたのです。

アースに関して電子回路をグランドから切り離すフローティングアースという設定。
アンプ独自でグランドに依存しない回路基板の設計における工夫でもあります。

私は冒頭ではメカニカルグランディングに対するSPECの方法論に異議を唱えましたが、
SPECの木製ベースシャーシとフローティングアースという手法には機械的な接地先、
電気的な接地先という違いはあれど思想的には共通項があるのではと考えています。
一言で言えば“他者依存しないメカニカルフローティング”という事でしょうか。

20年前から多用してきた大貫妙子の課題曲を聴き、今まで経験のないヴォーカルを
聴きながら、SPEC RPA-MG1がもたらした新たな可能性に思わず感嘆の唸り声がもれてしまった! 
これはいい!

でも、SPECの人たちは上述したような開発意図を持っていたかどうかは不明ですが(笑)

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

以前にも述べていましたが、実はこの曲ではヴォーカルが入ってきた時には深い
リバーブがかけられていて、センター定位の口元から左右の空間に広大な音場感を
展開して進行していくのですが、CDトランスポートのカウンターが01:02になった時、
「風が立てば 心寒く 陽だまりの冬」というフレーズが終わった時、篠原ストリングスの
弦楽器が入ってくる瞬間にヴォーカルのリバーブがふっと消えるのです。

背後に展開するストリングスの残響とヴォーカルのリバーブが重複しないように
というミキシングエンジニアの操作なのでしょうが、この大貫妙子の背景の響きが
回り舞台の風景が一瞬にして変わってしまうがごとくに豹変する有様が実に鮮明に
分かってしまうのです!

SPECの木製フットの先端は丸みを帯びた一点接地、つまり緩やかなスパイク形状と
いうアイデア、実は…、Ta.Qu.To-Zeroのスパイクにも同様な設計が施されていたのです!

H.A.L.'s Hidden Story!! - Y' Acoustic System Ta.Qu.To-Zero
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1496.html

上記の中で次の一節をご覧下さい。

■Ta.Qu.To-Zeroの健脚におけるこだわりというHidden Storyとは!?

簡単に説明するためTa.Qu.To-Zeroのスパイクのパーツを削り出した画像がこれ。
http://www.dynamicaudio.jp/file/20180910-sp01.jpg
http://www.dynamicaudio.jp/file/20180910-sp02.jpg
http://www.dynamicaudio.jp/file/20180910-sp03.jpg

これらをベース部に組み込んだ際の図解がこれです。
http://www.dynamicaudio.jp/file/20180910-sp04.jpg

私は硬い床に金属スパイクの相性は良くないと前述しましたが、多くのスピーカーの
スパイクは先端を鋭くした金属製でした。この材質と形状が硬い床に突き刺さると
上記のような共振を伴う悪影響をもたらすのです。その経験をTa.Qu.To-Zeroにも
生かしているということなのです!

つまり、このようなスパイクとしての機能性を持ちながら半円球状のデザインに
することで、スピーカー本体の振動が鋭いスパイクの先端から硬い床によって反射
されてくるという現象を防止しているわけです。

SPECがこれらの経験と分析によってアンプのインシュレーター=スパイクを設計
したかどうかは知りませんが、結果として録音情報に含まれるリバーブの増減と
いうことを正確に再現しているという実態で私は結果オーライとしました!

大貫妙子の楽曲では多数に参加しているピアニストがFebian Reza Paneですが、
この曲でもすこぶるつきの美しい響きをもつピアノが録音されています。

あくまでも伴奏という位置付けでのピアノで自己主張は強くありませんが、
イントロのギターとベース同様に左右スピーカーの中間にぽっかりと浮かぶ鍵盤が
イメージされ、しっとりとした旋律を奏でるピアノの粒立ちと余韻感に、私は
SPEC RPA-MG1はやってくれたな〜という安心感を持ちました。

ヴォーカルの背景となるリバーブに関して、その在り方を克明に描写してくれる
SPEC RPA-MG1であるからこそ、このピアノの響きが作り出した空間表現があると
納得してしまったのです。とにかくきれいです美しいのです! 素晴らしいです!

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

そして、最終部で歌詞が終わろうという時に二つの小さな楽器が活躍します。

以前にも述べていましたが、センターに表れる鈴が最初のひとつです。
鈴といっても下記のようなハンドベルと呼ぶ多数の鈴がついた楽器のことです。
http://www.kikutani.co.jp/itemlist/5263

スタジオで作られた素晴らしい音場感を展開する空間表現性能という魅力がSPEC 
RPA-MG1に備わっているという実感に加えて、前述したように楽音の質感、音色までも
他のアンプと違うレベルで聴かせるという一例がこの瞬間に分かります!

鈴の個数が増えたのか? ハンドベルだけにリバーブをかけたのか?
そんなシンプルな疑問が浮かんでくるような清涼感ある音色に驚きを隠せません!

次は右側奥に定位するクラベスです。このクラベスの音も私の記憶と違うのです!
http://www.kikutani.co.jp/?post_type=itemlist&s=%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%99%E3%82%B9

このシンプルな打音はスピーカーとシステム構成によって千変万化の違いを見せるのです。
シンプルな楽音だからこそ、特にスピーカーとアンプによって大きく変化するのが分かりやすい。

前例にもありますが、先ずは余韻感が大変美しい響きの延長として感じられますが、
クラベスの音にもリバーブが施されています。そのリバーブ・エフェクターの音作りの
質感そのものが顕著に表れてきます。

ちょっぴりノイジーとも聞こえるシィーンという残響が聴こえてくるアンプもありますが、
SPEC RPA-MG1とTa.Qu.To-Zeroでは純粋に木製楽器なんだという音を中空に定位させるのです。

そして、その解像度も十分でスムーズに減衰しながら消滅までの時間軸をストップ
ウォッチで測れるほどに長く尾を引きながら空気に溶け込んでいくのですから堪りません!
これは美しい!

本当なクラベスの音色に木の香り、木の響きという質感が実に見事に表れるのです!

これが木製シャーシベースを使ったというSPEC RPA-MG1の特徴なんだと言われたら
私は全く反論することは出来ません。それほど説得力のあるクラベスでした!

ちなみに、この大貫妙子の「四季」をSPEC RPA-MG1で何度聴いたことか!

スタジオ録音でありながら楽音の質感と空間表現に優れた選曲ではありますが、
私はSPEC RPA-MG1に対する着目点でPWM方式のクラスDアンプだからという論点に
あまり興味はありません。

というか、雑誌記事の多くがPWM方式にアナログ的要素があるとして書かれている
のを見受けるのですが、上記のような着眼点で私はSPEC RPA-MG1の音質を評価しました。

そして、仮にSPEC RPA-MG1が一般的なアナログ素子を使った増幅回路であったとしても、
今まで述べてきたアンプの構成要素に木製パーツを多用したとしたら同じ傾向と特徴を
持つであろうということを高い確率で推測することができる自信があります。

最初の選曲ではありますが、この一曲にはギターとウッドベースから始まり、
各種のパーカッション、弦楽器とピアノそしてヴォーカルと私が分析に必要とする
楽音すべてが大変高品位に収録されています。

その多彩な楽音によってSPEC RPA-MG1の特質を早い段階で分析・評価できたことは
大いなる時間の節約になりました。

以上の解説によって述べてきたことは当フロアーで実演し証明することが出来ます。
そして、その特徴はあらゆる音楽に対しても共通項の音質として感じ取ることが
出来るのです。

このように私が楽しんでしまった多くの曲に関して同様な分析を文章化することは
感想の繰り返しになってしまうでしょうし、節約したつもりの時間が無駄になってしまう。

私が今回の解説に使用した選曲は一曲だけですが、当然この他多くの曲を聴いています。
これ以降はSPEC RPA-MG1で私は音楽そのものを楽しんでいたということでしょう!

大貫妙子の「四季」では私が分析に必要とする楽器が全て含まれていると述べましたが、
それらの印象とまったく同じ特徴が他の選曲においても確認できたことは言うまでもありません。

今までに何度も言ってきたことですが、私が音質評価した実態は全て当フロアーで
実演・証明できるものであり、それは雑誌や評論家の記事やネットなど各種メディアでの
評価とは違う信頼性を得ているものと考えています。ここに根拠となる現実があるからです!

私は正直に申し上げてSPECのアンプというものをRPA-MG1によって初めて体験しました。
そして、今回述べてきた私の分析に関して同社の下位モデル全てに共通する要素が
あるという事も言えると思います。

最後に、私が26年前に書いた『未知による誤解、経験による認識』という一節を
結びの言葉として記しておきます。

H.A.L.で聴くSPECの音によって皆様の常識が変わることでしょう!

川又利明
担当:川又利明
TEL 03-3253-5555 FAX 03-3253-5556
kawamata@dynamicaudio.jp

お店の場所はココです。お気軽に遊びに来てください!


戻る