《HAL's Monitor Report》


No.0150 - 2002/12/27

東京都大田区在住  K・H 様より

モニター製品 ESOTERIC  P-70  D-70
                        dcs  Purcell1394  Delius1394 Elgar plus1394

この度は約2週間以上の長期間にわたり、Esoteric P70+D70 および dCS DA/DD
コンバータ各種を試聴させていだきました。川又さんには関係各所にいろいろ
ご調整いただきまして、本当にありがとうございました。

今回最新CDシステムの実力をまのあたりにでき、私の貴重な経験と今後のシス
テムアップの明確な指標とすることができました。

まずは私の現在のシステム構成を紹介させていただきます。

現有システム構成
CD: Victor XL-Z999EX
Pri: Connoisseur Line Amp 4.0
Power: Cello Encore Mono III
Speaker: Wilson Audio System 6 + SONY SS-TW100ED
Cables: MIT, S/A Lab, Ortofon, NBS etc

オーディオを趣味として約18年となります。私が育った街はかなり地方で、当時
街一番の電気屋で初めて耳にしたONKYOの銘機「Grand Scepter GS-1」との出会
いが私をこの世界に導きました。

金欠にもかかわらず、当時近所の本屋で一番高いオーディオ雑誌を片手に「一体
こんな高価な機器を買う人が世の中に果たしているのだろうか?」と思っていた
私が、今でこそこのような機器を所有しているのですから、私も随分成長!?
したものです。

とはいえ、オーディオが個人による音楽の再演奏だと思えるようになったのは
ほんのここ数年のこと。
そうした意味ではまだまだ修行中といったところなのです。

現有システムは依然発展途上であり、使いこなしを始めとして自分の望むオー
ディオ演奏にはまだまだ程遠いのですが、様々な場で同様のシステムを耳にする
たびに、最近次のような不満が湧き出してきたのです。

「楽器の生々しさや艶が音楽の中で自然体として伝わりにくい・・・」

例えば弦とフレームが協調したグランドピアノのカチッとした質感や、トップ
シンバルのコリッとした冷たいようでかつ力の宿った音色。望むべくはそうした
音楽がスピーカの存在を完全に消え去って欲しい(いつか聴いたHALの演奏は
そういった意味で非常に刺激になりました)。私は次第にそうのように思うよ
うになりました。

ルームアコースティックに機器セッティング、コード類にアクセサリーなど、
現有システムをある程度使いこなしては見たものの、今ひとつ大きく解決に
近づけないジレンマにいた中、今回HALのモニターのお話を思い出しました。

CDを変えてみたらどれ位の違いが出るのだろうか?そう思い立ったのもつか
の間、次の瞬間には早速川又さんにメールを出していました。

試聴機が到着した当日は期待に満ちたものでした。
けれど、いざ聴かんとプレイボタンを押したものの、はっきり言って効果は
いまいち。意気消沈。しかし、それから数日後に聴いたシステムの音は、まさ
に晴天の霹靂とも言える素晴らしいものでした。

1.P70(176.4kHz) + D70(WORD+RAM, CUSTOMモード)

現有CDとは明らかに違う再生!いやこれは既に独り歩きした「演奏」と言える。
プレイボタンを押すと空気がサッと入れ替わるのがわかる。これまでとは次元
の違う密度の音場がそこに演奏された。

俗っぽい言い方をすれば「リアルでナチュラル」としか言いようがない。
音楽全体の表現に屈託がなくなり、高音には伸びと同時に説得力のある力を
感じる。シンバルは天井まで突き抜けるかのごとくスカッと抜けきり気持ちが
よい。同時に低音域もいっきに重心が低くなったよう。大地に根をはったかの
ごとく、かつスピードもある。

普段は低域の制動力に欠けるCelloも今日は違う。ボリュームに自然と手がの
びる。音量はいつもの1.5倍くらいはあろうか。しかしうるささは皆無だ。

ステージには広さと言うよりむしろ濃い密度と奥行きがあり、ビビッドな音楽
がこれまでにない定位の音像として表出される。かつての不満は一体どこへ
行ってしまったのか!

音楽にググッと吸い寄せられるように引き込まれては、ハッと我に返った。

試聴のことなどつい忘れてしまった。これには正直言って驚いた。

これが一体型CDとの違いと言ってしまえば、それはあまりにも大きすぎる。

P70+D70との蜜月の日々も2週間、dCSの試聴機が送られてきた。

dCSと比較することでよりD70の個性がより明確になった。

2.P70(176.4kHz) + Delius1394

D70と比較して一聴して重心の軽さを感じた。バランスが違うのだろうか。
そのぶんウッドベースが締まって腰高に聴こえる。
しかし何かの違和感を感じる。

なんともD70では聴こえなかった音が聴こえるのだ!しかもそれは決して感覚的
に嫌な音ではない。非常にリアルで説得力のある音なのだ。

もう1度D70に切り替えたみた。いや確かにD70でも聴こえている。それでは
あの説得力は一体何だったのだろうか。それに何だろう、この楽しさは。

音楽全体に「今まさにそこで演っている」といったプレゼンスとパッションが
感じられるのだ。音像の表現方法もD70とはかなり違うよう。

どちらかと言うとホットで厚みのあるD70に対して、Deliusのそれはもっと
すっきりしている。音像のまわりに余計なものがない(=音離れがよい)
ためか、ステージ全体が見渡しがよく、音にスピードが感じられるのだ。

またボーカルの質感表現にも大きな違いがある。D70の声は女性でも男性に
聴こえると言えばちょっと大げさだが、そう感じるほど力強さと伸びがある。

ボーカルに深さを感じるのだ。一方のDeliusの声は一見華奢に感じられる。
だが聴き込むほどに私にはそれがより自然に感じられた。肉声感に気味が
悪いくらいな自然さがあるのだ。これには惚れてしまった。

次はこの構成にPurcellを加え、DeliusでDSD変換してみた。CDのアップ
サンプリングが音質向上に有利なことは既に知られたことだが、実際音楽
がどのように変化するのかを確認してみたかったのだ。

変化は想像以上のものであった。

3.P70(88.2kHz) + Purcell1394(DSD) + Delius1394

音楽がとにかく速い!ステージの温度感は一瞬下がったように感じた。
いやステージに何かエアーのようなものが充満しているようにも感じる。
これは生のライブの感覚と同じだ。

それはディスクにより冷たくもあり、熱くもあるのが面白い。
ステージは見通しが抜群によく(これをベールが剥がれたとでも言うのか)、
加えて楽器の実体感が半端ではない。

これに比べると1,2の演奏は何かもたついて聴こえる。奏者の指先の微妙な
ニュアンス、楽器から放たれる響きやノイズまでもが実に生々しい。

トランジェントもすばらしい。直接音と間接音がくっきり分かれていると
でも言えるだろうか。間接音がステージに満ち足りた緊張感をありありと
伝える。目を閉じると数メートル先の楽器には、触ればまるで手が届きそう
でもある。リアルだ。

スピーカーの存在はここでまったく気にならなくなった。
と言うより、音楽の説得力が大きすぎスピーカーの存在を消してしまうのだ。


今回の試聴で得られたものは非常に興味深かった。総括すると、まず1つ目
はEsotericとdCSのDAコンバータの違いであり、それは価格ではなくそれぞれ
が魅力的で個性的な音楽演奏の違いとして表れたのが大変印象的だった。

語弊を恐れずあえて言うならば、体育会系のEsotericに対して、知性で迫る
dCSと言ったところか。その中でもEsotericのコストパフォーマンスと音質
の両立は、改めてすばらしいと言うほかはない。

そしてもう1点は、DSDアップサンプリング時の音楽の質感変化の大きさで
あった。これは予めある程度は予想してはいたものの、実際の変化は想像
以上であり、いったん耳にすると後には戻れないほど麻薬的な魅力がある
のは確か。

しかもこれはまだ序の口にすぎない。これにさらにシステムのクロック精度
を上げていくと、一体どういうことになるのか。今考えただけでも恐ろしい。

しかし、自分にとってこの方向性は確信に満ちたものだった。暗闇の中で
得た一筋の光明のごとく、すでに引き返すことのできない道にあるようだ。

そうした意味では、むしろ晴れ晴れしい感じがする。今後もオーディオが
さらに楽しくなりそうだ。非常に充実した試聴体験であった。

PS. 今回の試聴ではdCSのElgarもお借りしたにもかかわらず、私事でじっく
り試聴する時間がとれず、敢えて中途半端な感想を割愛することとしました。
ご了解ください。

また、最後になりましたが、改めまして川又さんには本当にお世話になり
ました。突然のお願いにもかかわらず即快諾の上、しかも臨機応変のご対応、
大変恐縮いたしました。

こういった心憎いご配慮が我々ユーザの心を掴むのですね。
ありがとうございました。



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