《HAL's Monitor Report》


No.0114 - 2002/8/2

柏市在住 阿部 仁 様より


モニター対象製品

Jeff Rowland Design Group SynergyIIi
Connoisseur Definitions Connoisseur 4.0 Preamplifier(Metal Version)
             and
Cardas Golden Reference Interconnect (XLR)

現在の使用機器

 スピーカー			Thiel CS2.3BEM
 パワーアンプ			Ayre V-1x
 CDプレーヤー			Wadia 830
 スピーカーケーブル	        Wireworld Eclipse3
 電源ケーブル			Wireworld Electra3 Reference Power Cord
 ラック				SR Composites SRX-BX、SRX-1


「今度は妾探し」

V-1xの正妻に迎えようとしたK-1xを返却し、そのレポートを川又様に送る
メールの文中に書いたのが「他のプリも聴く必要あり」という内容。

正妻に満足できない私は、川又様のご支援の元に妾探しの旅に出ることになり
ました(あくまでもオーディオに限った話です)。

V-1xとの相性を考え、今回はその構造からK-1xと似た素性を持つことが予想
されるコニサー4.0を希望。また「音声間の拡大と安定感の向上」というプリ
への期待要素を考慮した上で川又様より推薦されたのがシナジー2i。

果たしてこの勝負、結末や如何に。

試聴CD 1枚目:Keith Jarrett/Still Live

Jeff Rowland Design Group SynergyIIi(以下シナジー2i)

設置場所やケーブルなど特に意識せず普通にポンと鳴らし始めたが、それ
だけでも聴感上のS/Nが抜群にいいことがハッキリ判る。

このノイズ感の徹底的な少なさは凄い。

また、キースジャレットの紡ぐピアノの余韻が散漫に広がることなく、涼しげ
に奥に抜けていく様が聴き取れる。ピアノの重量は若干軽くなるような気もす
るが、少なくともCDプレーヤーとパワーアンプを直結していた時よりは音場感
も安定感も確実に向上しているし、V-1xの涼しげな温度感もある程度保つので、
最初の出だしとしては非常に好印象だ。


Connoisseur Definitions Connoisseur 4.0 Preamplifier(以下コニサー4.0)

切り込んでくるような鋭い音像。けれどもナイフではなくメスのような切れ味と
言ったらいいのか、その音像を真に受けても耳も体も全く痛くない。自分の体に
ぶつかってくるのではなく、体をすり抜けていくような鋭さ。もしかしたら、
パッと聴いた感じは実体感が少し希薄に感じられてしまうかもしれないが、
個々の音像は眼前にありありと映る。

また、CDプレーヤーとパワーアンプ直結時と比較すると、楽器の一つひとつが
とても小さくなるにも関わらず距離は遠くなる訳ではなく、むしろ手前に位置
するようにも聴こえる。直結時の音場感とは、良し悪しは別としても全く次元
が異なる音場感。

単純に「広い狭い」という尺度では比較できない、自分にとっては経験した
ことのない音場感だ。その音場感を表すうまい言葉が出てこない。

シナジー2iとK-1xは同じ辞書の中からの語彙で比較できたが、コニサー4.0は
自分の辞書を変えなくてはならない程、表現を絞り出すのが難しい。

これは単に私のオーディオ経験が浅いせいだとは思うものの、今聴いている
この音場感、音像感を素直に表す言葉がなかなか見つからないのは少々悔しい。


試聴CD 2枚目:木住野佳子/Tenderness

シナジー2i

ピアノの一音一音をとても滑らかに紡いでいくあたりは、Jeff製品が持つ
共通の素性なのかもしれないが、やはりここでもV-1xの奥行き成分がその
まま紡ぎ込まれるところがいい。

音像の輪郭は直結時よりも多少滑らかになるし、温度も若干上昇するのは
当初私が目指していた方向とは異なるのかもしれないが、シナジー2iを
介した音はそのような微細な拒絶反応をすぐに氷解して、私の身体中に
スーッと染みわたる。自分の感覚のひだの間に音が浸透してくる。

結果、シナジーの音は私にとってあまりに自然で違和感のないものになり、
以後のメモ取りがおぼつかなかったほどである。

また、暗いステージに一本だけスポットを当てたような光り具合、そこ
から生み出される高級感は、Model10の音の記憶を思い起こさせる。


コニサー4.0

やはり私にとっては異次元の音。鳴り出しから数分間は失語症になった。
この盤でも音像の小ささに驚愕した。本当に今までとは全く違う音像サイ
ズなので、どうしても自分サイズに合わせようとして音量を上げたくなる。

コニサー4.0は私に「試聴」という冷静さを失わせる。試聴なんかしてな
いで、とにかくもっと音量を上げろと私を煽ってくる。その煽られる感じ
が緊張感を伴うのである。

オカシイ話だが、私はこのときコニサー4.0が正直怖かった。



試聴CD 3枚目:Jacintha/Autumn Leaves(XRCD)

シナジー2i

10曲目のMoon Riverは奥行きも充分で、しかも直結時の透明感を損なわ
ないままに実在感を強めるバランスがいい。

また、直結時以上のS/Nの良さを感じさせる。間に介在させることによって
聴感上のS/Nが上がるのは、何らかの形でシナジー2iがフィルター的に働い
ていると思えるのだが、よく言えば直結時の音は素のままであり、悪く言え
ば以前はちょっとガサツだったのかもしれないとさえ思えてしまう。

直結時よりもボーカルの音像が小さくなる、その音像の小ささに全く違和
感がないのも、シナジー2iが直結時の暗騒音をとてもウェルバランスに濾過
してくれるおかげだとも思う。

緊張感というキーワードでも、モデル10とV-1xと単純に足して二で割った
というような単純なバランスではない。混血(V-1x+シナジー2i)の方が
Jeff純血(Model10)よりも緊張感、真面目さが保たれる点もいい。

優しさと緊張感のバランスが自分に合う。

ピアノの響きが逆サイドの壁に反響している。この響き具合を「メタリック」
と書けばネガティブだし「艶っぽい」と書くとポジティブになる。
試聴記の言葉は扱いに苦労するが、私はこの時点ではもう「艶っぽい」を使い
たい人になっている。これもシナジー2iが私をここまで魅了させたせいだ。


コニサー4.0

スーパードライなMoon River。響きや艶という脚色を一切排除した厳しい鳴り
方だ。直結時以上にストレートで、しかもグッサリとストライクゾーンに突き
刺さる。ボーカルの音像はホントに唇サイズまで縮まる。

コニサー4.0のジャシンタにも優しさを感じとることは可能だ。
しかし、シナジー2iで感じられる優しさが、中高域の余韻や艶というモデル10
にも共通した表現手法であるのに対し、コニサー4.0はあくまでも厳然とした
佇まいを保ちつつ、優しさを安売りせずにキラリと光らせる。

スマイル\0とはいかないまでも、優しさくらいもう少し安く売ってくれても
いいとも思うのだが。

このMoon Riverには、ボーカルのソロの途中でとなりのスタジオかどこかの
ピアノの音をマイクが拾ってしまっているのだが、コニサー4.0、シナジー2i、
K-1x、直結時の順でその音が聴き分けやすかったことを記しておく。


試聴CD 4枚目:Dino Saluzzi/Citi de la Musique

ちょっと珍しい盤かもしれない。現代版バンドネオン奏者。


シナジー2i

全体的に音がまとまり、綺麗になる。バンドネオンの鮮烈さは直結時よりは
若干後退するもの、バリや毛羽立ちを綺麗に取り除いてくれる気もする。

また、直結時では頼りなさげで余韻も乏しかったベースは力感を伴うように
なり、前後定位も以前はドライな故か前に出すぎな気がしていたのが、バン
ドネオンとベースが自然な立ち位置に落ち着く。直結時はそれぞれの楽器の
バランスが多少ちぐはぐだったが、シナジー2iのおかげて楽曲がキチッと
完成される感がある。

シナジー2iを介した方がサウンドステージが左右に広がるのも特筆。
ハンドクラップも定位感を上げるし、何よりもより自然に、らしく感じられ
ることがいい。


コニサー4.0

より鮮烈になるが、ちぐはぐさを助長する訳ではない。やはりここでも
痛くない鋭さがある。ディノサルーシのバンドネオンは、駄目なシステムの
場合は音量を上げるとすぐにバンドネオンが耳に刺さるようになるのだが、
コニサー4.0はボリュームをどこまで上げてもバンドネオンが痛くならない
ところが凄い。

中低域〜低域の力感、安定度はシナジー2iの方が上。コニサー4.0はその
帯域にはあまり興味がないのかもしれないが、少なくとも直結時の感触を
スポイルすることはない。


そろそろまとめ

シナジー2i

V-1xとModel10の比較試聴(No.0043を参照)で、Ayreの余韻感は奥に抜け
るがJeffは周囲に広がるというように、それぞれのメーカーが持つ音の
素性はある程度理解したつもりだった。

今回、川又様からシナジー2iをお借りできると連絡を受けたとき、私の
システムにシナジー2iを介すとV-1xの余韻感はニュートラルな方向に
中和されるだろうと勝手に想像していた。しかしながらシナジー2iは
余韻を無闇に拡散することなく、涼しげに奥に抜いていったのである。

これだけのことでも、正妻であるK-1x以上にシナジー2iがV-1xのこの
素性に変化を与えないことには、正直驚いた。

解像度の向上でもK-1xとシナジー2iでは表現手法が異なっていた。
K-1xとシナジー2iは双方とも解像度を上げるのだが、K-1xがスピー
カー中央付近よりも左右に離れていくところの解像度を上げることに
より音場感を拡大しているのに対し、シナジー2iは中高域の解像度を
全体的に上げることで、音場感の全体的な拡大、定位感の明確化が図ら
れるという違いがある。

そのため、K-1xのサウンドステージの左右が手前方向に広がるのに対し、
シナジー2iはサウンドステージの質量自体を大きくする。

その異なり方が、V-1xとModel10を比較したときと同様でないところが、
オーディオの面白いところ(また泥沼に陥るところ)でもあるのだが。

音場感を拡大していきながら、ホログラフィックというよりもう少し
実在感のある音像を屹立させたいという私の目下の課題(しかも微妙な
課題)に対しては、レアな組み合わせなのかもしれないが、シナジー2i
は今の私にとってベストマッチなのかもしれない。

私がV-1xに惚れている繊細な奥行き感をスポイルことなく、安定度、
密度を上げるということを、シナジー2iは確実に約束してくれる。

JeffもAyreも、プリとパワーの組み合わせでそのメーカーのバランス
を取っているはず。今回の様にプリ、パワーをぞれぞれ別のタイミン
グで試聴してみると、案外一つのメーカーでもプリとパワーで違う素性
を組み合わせているかもしれないということを考えさせられた。

また、それぞれのメーカーの素性を、プリとパワーで組み合わせると
いうことも自分の音創りの面では有効な手だてかもしれないという
ことも、貴重な経験となった。


コニサー4.0

何度も書いてきたとおり、コニサー4.0の特徴はその痛くない鋭さと、
どこまで音量を上げても肥大しない音像にある。ギリギリのところまで
ボリュームを上げてみても、すべての帯域に一貫して押し付けがましさ
というものが全くない。これは雑誌等ではよく使われる表現だが、一度
コニサー4.0を聴いてしまうと、なかなかおいそれとは使えなくなるはずだ。

また、コニサー4.0は、今まで経験してきた音との比較では容易に表現で
きない何かがある。とある雑誌で上級機種のコニサー3.0を聴いた評論家が
「評価は保留」と書いた意味が今はよく判る。百戦錬磨の評論家でさえ評価
を保留にしてしまうくらいのメーカーのアンプを、私が端的にスパッと
表現できる訳もない。

10年後もコニサーがアンプを創っていれば、また私が10年後も今以上に
オーディオに熱を燃やしていれば、そこでもう一度このメーカーのアンプ
には勝負を挑みたいと思う。

今の私には、コニサーはまだ早いのだろうか。


最後に

川又様、大場商事様、スキャンテック販売様にはこのような機会を
与えて頂きまして、本当に感謝しております。

私ばかりちょっと借りすぎですかね、やっぱり。



HAL's Monitor Report