《HAL's Monitor Report》


No.0055 - 2001/02/15

神奈川県綾瀬市在住 Hos 様

モニター対象製品:
PAD
AQUEOUS(SPK) 1.5m
MIZUNOSEI(SPK) 3.0m
MIZUNOSEI(RCA) 1.0m
AC-PROTEUS 1.0m
AC-ISTARU 0.75m

 Purist Audio Design(PAD)のケーブルは、液体ジャケットに代表される不思議なテクノロジーと、雑誌などでの高い評判から、誰もが一度は使ってみたいケーブルではないでしょうか?
 そして、下世話な話ですがその価格も注目を集めるのに一役買っていると思います。気にはなるけど、あまりに高価。そんな悩みを解消してくれたのが、H.A.L.の自宅試聴でした。

 さて、アップグレードの戦略を練るのは、様々な趣味に共通する楽しみでしょう。
 オーディオの世界でも一点豪華主義、入り口重視、出口重視……といろいろな考え方がありますが、堅実に攻めるならばまずはボトルネックを解消することだと思います。私のシステムはこのようなものでした。

Speaker Dynaudio Audience80
Amprifier GOLDMUND Mimesis SRI2
CD-Player TEAC VRDS-25x
Speaker cable CARDAS Crosslink 2s
Interconnect cable ACROTECH 6N-A2300
AC cable CARDAS Crosslink 2s および 古河電工 supremo を利用して自作
Concent-Box CSE H-66CL
 この頃、Internetを通じて知り合った方からインターコネクトケーブル WireWorld SilverEclips/III をお借りして試聴しましたが、納得のいく音が得られませんでした。インターコネクトに上質のものを使ったにも関わらず、向上が得られなかった原因。システムの中で見劣りするのは……ACケーブルとスピーカケーブル。私はそう判断しました。ケーブルなどのアクセサリを購入する時に、抵抗なく財布から出せる金額は何となく決まってはいないでしょうか? うちのケーブルの長さは、取り回しの都合からインターコネクトケーブルが1m以内に対して、スピーカケーブルは3mを必要でした。私は“何となく”に任せて購入していたために、スピーカケーブルに割いていた予算がメータ当たりでインターコネクトケーブルの1/3になっていました。

 などと理屈をつけてしまったら、もう止まらないのが私です。さっそく川又さんへメールを送りました。このネックを解消する試みには、以前から気になっていたPADは欠かせないと考えました。
 折角の機会ですので、スピーカケーブルとACケーブルに加えて、インターコネクトケーブルと、すべてPADで構成できるようにお願いしました。浮かれた私は自分の財布を省みずにMAXIMASをリクエストをしましたが、見積に目が覚めてMIZUNOSEIに落ち着けたなんて笑い話もありました。ACケーブルにはPROTEUSをお借りしました。

●試聴曲

 あらかじめ試聴曲を紹介したいと思います。恐らくは、ここのモニター記事には滅多に出てこないものだと思います。ご参考にならないかも知れませんが、ご容赦ください。すべて女性ボーカルになります。

 『Love One's Home』複数の女性によるボーカル集です。この中から、川澄綾子の『Dream it ―あなたにめぐり会いたい―』『星の夢・月の涙』『Love in Heafven』を主に聴きました。注目したポイントは、ずばり彼女の声です。歌唱というよりも、単純に人の声としてのリアリティを求めました。

 『雨』(中司雅美)より『それぞれの未来へ』。ボーカルとギターのみのシンプルな曲です。音場も、ストゥールに腰掛けて弾き語りをしているようなシンプルなものなので定位が掴みやすいです。

 『天空歌集』(谷山浩子)。試聴曲の中では、唯一メジャーな歌手ではないでしょうか。それでも、この人を聴いていると言うと大部分の人に「懐かしい」と言われてしまいます。現在も順調に活動されていますよ。

 『FLY AWAY』(野田順子)より『children's sky』『Let's Drive』。『children's sky』はボーカルとピアノのみのシンプルな曲です。ライブ録音ではないと思いますが、人気のないライブハウスの雰囲気を出しています。『Let's Drive』はいわゆるJ-POPな曲だと思います。

 『サクラサク』(林原めぐみ)猛烈なスピードで疾走する曲です。シンセを多用したこの曲は、切れ込みが重要です。アンプをMimesis SRI2に換える前は酷い音で鳴っていました。また、非常にノイジーな曲なので、美麗な雰囲気に置き換えようとするケーブルでは鳴らせないと思います。

 このように、ジャズやクラッシクはほとんど聴きません。オーディオ的には音が悪いと評価されることの多いJ-POPのさらにマイナーなものばかりです。
 若干の卑下を含めて、PADが必要なのか? などと考えていましたが、結論としては「PADはJ-POPでも素晴らしい!」のひと言でした。

●MIZUNOSEI

 貸出が決まってから数日と間を空けずにケーブル達は届きました。スピーカケーブルとインターコネクトをMIZUNOSEIへ、CDプレイヤのACケーブルをPROTEUSに交換しました。試聴は、メーカ推奨のエージング時間を過ぎてから行います。ちなみに、交換した直後は今までよりもやや明るく繊細な印象がありました。

 変化は一聴して解かりました。まずは響きの美しさです。高弦は軽やかで、ピアノはコロコロと鳴ります。女性ボーカルはやや広がり気味に聞こえますが、それ以外の魅力は増しています。ドラムは、音の塊のような迫力はありませんがしっかりと自己主張しています。全体として繊細さを感じさせるようになりました。私は、ここ暫くゴリっとした音に実在感を感じ求めてきましたが、PADのチャーミングな音にウキウキさせられました。

 PADの音は情報量が多く、音楽のニュアンスが豊かです。中域がやや厚く、ちょっと聴くとボーカルが埋もれているようでしたが、それも曲の中のボーカルというパートを適切に再現しているようです。同時期にAC Design WTC-3/IIを試聴しました。
 こちらも情報量は多いのですが、一音一音ごとの実在的なディテールに集中しているのに比べ、PADはその情報の多くが音と音との連携、弦の爪弾きの違い、音楽としての魅力を高める方向に集まっています。
 もちろん、どちらが優れていると決められるものではありませんが、私はPADを選択しました。

 川澄綾子は、ボーカルがやや太くなり安定感が増しました。しかし、不安定さも個性のうちと考えるとやや彼女らしくなくなったとも言えます。ボーカルに共通の傾向として、目の前で人が話しているのではなく、やや離れたステージで歌っている雰囲気が増します。

 『雨』のアコースティック・ギターは、低音はより柔らかく、高い音は明るく艶を帯びて、一本のギターの中でも表情に幅が出ました。しかし、以前のゴリゴリとした音も好みであり、悩ましいところです。

 谷山浩子さんの持ち味のひとつが“幻想的”であることに異存を挟む人はいないと思います。PADの傾向はそれととても相性が良く、美しいイメージがどんどん広がります。

 CDPのACケーブルに自作品(CARDAS使用)を使っていた時は、『children's sky』のピアノのハンマーが弦を撃つ音がガツンと響いてとても生々しい音がしていました。PROTEUSに替えると、ピアノ本体の響きが美しく、運指の溜めが解かるほど繊細な音がするようになりました。どちらが正しいか私には解かりませんでしたが、どちらも気持ちの良い音です。

 さらに数日経つと、いっそう機嫌良く鳴るようになりました。あらゆる音が繊細で耳触り良く、表面がビロードのようです。いっぽうで『サクラサク』のような騒々しい曲も、徐々に元気良く鳴らすようになりました。

●AQUEOUSへ

 すっかりPADの音に魅了された私は早速購入の連絡を……せずに、もうひとつ上のシリーズ AQUEOUS(スピーカ)の試聴をお願いしてしまいました。
 すぐに届けられたケーブルをじっくりとエージングしてから聴くと、欲深かった自分を誉めてしまうほど素晴らしい音でした。

 繋げてエージングを進めていたAQUEOUSからMIZUNOSEIに戻した所、一瞬情報量が減ったように感じました。しかしMIZUNOSEIのほうが歯切れ良く、中域にメリハリがありって元気です。ボーカルをメインに聴くならば、敢えてMIZUNOSEIを選ぶのも良いかと思いました。却ってAQUEOUSのほうが、細かい音、例えば『children's sky』の演奏前には、床の軋みや、衣擦れの音が入っていますが、これらが聞こえ辛くなっています。
 しかし、さすが上級機種、レンジはこちらのほうが広いです。特に低音は質・量ともに十分です。比較するとMIZUNOSEIは量だけのように感じ、曲全体の力感が損なわれているようにも聞こえます。『Let's Drive』では大きな差を感じました。

●まとめ

 MIZUNOSEIは十分にPADの魅力を顕わしていると思います。
 しかし、AQUEOUSは低域は深く、上級クラスの力を明かに示してくれました。私のシステムにおいては、スピーカケーブルをAQUEOUSに替えることで音域がぐっと広がり、CDPのACケーブルをPROTEUSへ替えることで全体の情報量が増すという結果が得られました。残念ながらインターコネクトケーブルによる効果はあまり感じられませんでしたが、これは今後の楽しみとして取っておくことにしましょう。まずは最も効果の大きかったスピーカケーブルの置き換えに着手することにしました。

 最後になりましたが、このような素晴らしい機会を万人に開いている川又さんに感謝の意を捧げたいと思います。
ありがとうございました。


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