《HAL's Monitor Report》


No.0037 - 2000/10/27

仙台在住のpalcat 様

モニター対象製品:村田製作所 ES103

「実は困ったことになってしまいまして・・・」
「えっ!どうされたんですか?」
以上が初めて私と川又さんとの間に交わされた会話でした。

 川又さんから「ES103の用意が出来ましたので、本日メーカーから直接発送します」 とのメールをいただいた翌日、待望のES103が我が家に到着しました。
 早速開封すると金属製のケースに収められたES103が姿を現しました。ES103はアル ミの削り出しのボディーに木製のベースがねじ止めされており、ジェットエンジンを 思わせるホーンの奥に発音体が鈍く金色に輝いて見えました。

私が使用しているシステムは

Wadia     Wadia 21
McIntosh  C-40
McIntosh MC-500  (S5500 Low)
          MC-150  (S5500 High)
Pioneer   M90a    (ET703)
JBL  5235(チャンネルデバイダー)
JBL  S5500+TAD  ET703

でありまして、細かい調整等は後にして何はともあれ聴いてみようと、スーパーツイー ターとして使用しているET703と届いたばかりのES103を交換して聴いてみました。  元々S5500の高域不足を補うためにET703を追加していたので、ET703とES103を交換 すると急に高域不足になったように感じ、また、S5500との感度差が10dbもあり、評 価にあたってはS5500とのレベル調整が必要と感じたため、本格的な試聴は後回しに して、とりあえずES103のエージングを試みようと、C-40のプリ出力を(間にチャン デバ、コンデンサー等は挿入せずに)M90aへ入力し、他のアンプ類の電源をすべて落 として XLOの「Test&Burn-InCD」トラック9のBurn-In信号のリピート再生を行いまし た。レベルは通常のミュージック再生時(やや高め)のポジションでした。

その後です。事件が起きたのは・・・・・

 1時間ほどして閉め切った部屋のドアを開けてみると、部屋中にはゴムの溶けた様 な臭いが立ちこめ、M90aのプロテクションリレーの「パチン、パチン」という音がむ なしく響いていました。エージングをしていたはずのES103は、1台は後部のターミ ナル板および発音体周囲のエッジ部分が溶解し、他の1台外観上の異常は認められな いものの内部配線が断線している模様でした。発熱はすさまじく、配線を外そうとし て指に火傷を負ったほどでした。

と言うわけで、冒頭の川又さんとの会話に至るわけです。

「それでは破損したモニター品を買い取っていただきましょう」なんて言われるのか なー、こりゃ参ったなー・・・などどと思いながら恐る恐る電話すると、川又さんの 第一声は「ES103よりもpalcatさんのお使いの装置は大丈夫でしたか?モニターして いただいて、お使いの装置が壊れてしまっては大変なので、それが一番心配でし た。」 とのあたたかいお言葉でした。「全帯域を出力するBurn-In信号でも、通常の使用法 ではそのような現象は考えられません。メーカーには私から連絡しますので、palcat さんは壊れたES103をメーカーに送って下さい。これはメーカーにとって参考になる 事例として今後の開発の資料になるはずなので、原因究明してくれるはずです。」と 言うわけで、翌日村田製作所へ「Test&Burn-InCD」を添えてES103を発送しました。

「原因究明には約1週間程を要すると思われます。」と言う内容の丁寧なメールを村 田製作所のS氏からいただいた約1週間後、「原因がだいたいわかりました。アン プM90aとの関連があるようなので、確認と説明をかねて、お伺いしたいと思います。 訪問には、開発リーダーのN室長が参ります。」とのメールが届きました。
 エッ?村田製作所って京都だったよな。わざわざ京都から仙台まで?そこまでして もらっていいの?などと考えているうちに、村田製作所のN室長から「調査結果は訪 問したときにご説明致しますが、お借りしたCDによる再現実験からも、過大入力によ る熱破壊と推測されます。ボリュームの位置が「通常ミュージック再生レベル」でア ンプのフルパワーが印加される可能性としてアンプを含む寄生発振が考えられます。 M90aの入手が困難のため訪問時に寄生発振の有無を確認させてください。」とメール をいただき、ありがたく訪問していただくことにしました。

 訪問当日。N室長は「本来は測定器を持ってこれれば万全だったのですが、なにせ 飛行機で来たものですから・・」と鞄の中から調査報告書、再現実験報告書等の資料 とテスターおよび抵抗とコンデンサーで構成されたES103等価モデル(ES103にはメカ ニカルネットワーク以外にDC成分のカット用のコンデンサー及びインピーダンス整合 用の抵抗が内蔵されており、この等価モデルはES103からコイルと発音体(セラミッ ク呼吸球)を除いたもの。これをアンプに接続することにより実際にES103を接続し たときと同等の負荷状態を得ることができるらしい)を取り出されました。N室長は 「通常アンプには出力端子から前段に負帰還がかかっていますが、高い周波数帯では 位相のズレが大きくなり、組合せるスピーカーとのトータル位相ズレがあるレベルに 達すると、負帰還のはずが正帰還となり、まだアンプに十分なゲインがある場合発振 条件を満たし、寄生発振を引き起こすことが考えられます。通常は寄生発振止めのCR などがついているはずですが何らかの原因で機能していない場合、発振することが考 えられます。今日はそのときの状況を再現し、ES103をつなぐ前にこの等価モデルで 寄生発振が発生するか確かめてみましょう」と、等価モデルをM90aに接続し 「Test&Burn-InCD」のBurn-In信号の再生を行いました。驚いたことに、発音体が付 いていないこのモデルでもBurn-Inの信号音が聞こえるのです。N室長によれば、こ れは抵抗とコンデンサーがパワーアンプの信号を受けて振動し、その振動が音(鳴 き) として聞こえているとのことでした。

 再現実験中にN室長からは、ES103の作動原理や開発にまつわる話、量産品ができ たはいいけれど、元々パーツメーカーである村田製作所は販路を持っていないため 「さてどうやって売込もうか」と苦労された話も伺いました。
 営業マンが某有名オーディオショップにES103を置いてもらおうと営業に訪れたと きは、「村田製作所?聞いたこと有りませんね」とあまり相手にしてもらえず、散々 待たされ「それではつないでみますか・・」とつないで音出ししたとたん、「これ置 いていってもらえますか!!」と言われたといった、エピソードなども伺いました。

 等価モデルやES103を用いた長時間にわたる再現実験にも係わらず、M90aの寄生発 振もES103の発熱も確認できませんでした。
 村田製作所における実験では、ES103の入力を段階的に増加し、最大許容入力50Wに 対し、約5倍の270Wの連続入力を印加したところ、内蔵抵抗の過熱により同様の熱溶 解が確認されたそうです。M90aの最大出力は300Wなのでフルパワーをかければ同症状 が出ることになります。しかし、フルパワーをかけるには「プリアンプのボリューム を最大にする」、「アンプが発振する」のどちらかしか考えられず、結局当時の状況 は再現できませんでした。
 しかし、今回訪問していただいたことで、ES103開発のトップに立つN室長の情熱 と人柄にふれることができ、また、わざわざ京都から仙台まで、原因調査結果の確認 と説明に足を運んでいただいた村田製作所のメーカーとしての姿勢に感謝と敬意の念 を感じないではいられませんでした。

 さてES103のレポートです。 すっかり前置きが長くなってしまいました。村田製 作所のN室長がお帰りになったあと、従来どおりET703をM90aに、S5500のドライバー をMC150に接続し、さらにMC150にパラレルでES103接続して試聴を行ったところ、 ET703とES103を単純に交換した時すぐに感じることが出来なかった、「音の輪郭がシ ャープになる」、「アタック音がより明瞭になる」などの効果を確認することが出来 ました。ビックバンド等ではあたかも楽器の数が増えたように感じるほどでした。
 村田製作所のN室長も「ES103 は呼吸球自体が伸縮して発音しているため、圧では なく振動で音を伝えており、他の製品と比較するとき、能率を持ち出されると不利な んです。でもES103は高域成分の音圧を補うのではなく、ES103の応答性の早さが、ダ イナミック型スピーカでは追従できない音の立ち上がり成分を補うんです」と言って いましたが、成程ES103は既存システムの高域を補うというよりは、音の立ち上がり や余韻、定位感等のいわゆるプレゼンス感を付加する効果が高いツイーターと言える ようです。
 このツイーターは聴く人により受け取り方が大分違うようで、100dbを超える高能 率のスピーカーと組み合わせても、ES103がうるさく(悪い意味ではなく)感じる人 もいるようですが、私なんかはメインスピーカーとのレベル調整を追い込んで聴いて みたいと感じました。(S5500のレベルを落として試聴したかったが、使用している チャンデバはLowが固定でHighだけが可変なので全体のレベルを落とせない)

 セラミックが呼吸運動をすることによって発音するこのツイーターは、磁気回路を 必要としないため非常に軽量で、太めのケーブルの使用には心細いのですが、近い内 にベースを高密度で重い素材にした製品を売り出すそうなので、太いケーブルが好き な人はそれを待つのが得策かと思います。
 また、年内にはスタンドアローンの2ウエイセラミックスピーカーを発売するそう です。このスピーカーはリラクゼーションの効果もあるらしく、京都や横浜の村田製 作所で試聴できるそうですから、近所にお住まいの方は聴いてみてはいかがですか?

 以上でハルズモニターのレポートを終わります。試聴レポートとしては不合格かも しれませんが、ES103をお借りして、それが溶けてしまってからの、村田製作所の対 応にいたく感激してしまったので、この様なレポートになってしまいました。
 決して村田製作所の回し者ではありませんので、誤解なさらないで下さい。
 そして、製品選択の参考になるような試聴レポートは、他のモニターの方が書いて 下さること期待します。

 最後に今回の件に対し原因究明に奔走していただいた村田製作所のみなさん、多忙 にも係わらず関係各位との調整をしていただいたダイナミックオーディオの川又店長 にお礼申し上げます。


HAL's Monitor Report