No.0142 - 2003/9/17
東京都杉並区在住 I・S 様より
DUOの衝撃(アリ地獄への道)
I プロローグ
それはちょっとしたトラブルがきっかけでした。
最近は、仕事が忙しく週末にもゆっくりオーディオに没頭できない日々でした。この
週末には、何とか時間がとれたことから、「今日はゆっくり聴くぞ!」と気合いを入れた
矢先でした。日曜の朝、3枚目のCDをトランスポートのトレーに入れ、プレイボタン
を押したにもかかわらず、ウンともスンとも言いません。トレーからCDを出そうとして
も、「OPEN」という表示がディスプレイに虚しく灯るだけです。
「あちゃー、何というアンラッキー。厄年の厄が、トランスポートに来たか・・・・」
次の瞬間に私の頭に浮かんだのが、「川又さんにすがるしかない!」という思いでした。
ラップトップを取り出して、プチプチとメールを作成して修理対応をお願いしたところ、
メール送信わずか5分後に、川又さんから返事が来ました。「ご心配なく、直ぐにメーカ
ーに対応を指示しました」というありがたいお言葉が・・・。信頼できるショップに信
頼できるご担当者。ハイエンドオーディオには絶対欠かせないポイントと得心した瞬間
でした。
問題は、あっという間に解決し、大きな安心を得ることができ訳ですが、一度動かな
くなったトランスポートが動き出す程のマジックは、さすがの川又さんでも持ち合わせ
ていません。でも、その直後に送られてきたメールマガジンには、「試聴をされる場合に
は、ご予約を!」という記載が。
「そうだ! この充たされない気持ちを川又ルームでの試聴で充たそう!」
と思い至ったのです。
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II アバンギャルドとの出会
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実は、これには伏線がありました。
先日、仕事の合間を縫って川又ルーム
を訪問した際、そこには、アバンギャ
ルドの「TORIO+BASSHOR
N」が佇立しておりました。「川又さん、
ちょっと聴かせてもらえませんか」
とお願いしたところ、快く試聴させて
いただくことができたのです。初めて本
格的なホーンスピーカを聴いた私にと
って、どう表現したらいいのか。
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端的に言えば、コンサートホールで生のオーケストラを聴いたような印象でしたが、
ちょっと違和感のあるものでした。
オリジナルノーチラスの場合、スピーカーの後ろに限りなく深い音場が展開するのに
対して、TORIOの場合は、スピーカーの前に音場が張り出してきます。ただ、スピ
ーカーの間に巨大なBASSHORNが鎮座しているために、ちょっと音場が窮屈な感
じでした。たぶん、もっと巨大な部屋で、しかもスピーカーからの距離をもっと取れば
本領を発揮するのではないか・・と。
川又ルームの常連の方にはご説明するまでもないことですが、お節介にもちょっと解
説してみますと・・・・。
川又ルームは、60畳もあり、私が知っている限り、数あるオーディオショップの試
聴室では最大級だとおもいます。川又ルームは、この広大なスペースを緩やかに二つ区
切ってセッティングされております。入口の手前が「健研究所」のスペース、奥の方が、
川又さんの超ハイエンドスペースです。この奥のスペースに「TORIO+BASSH
ORN」が設置されております。奥のスペースは約40畳といったところでしょうか。
スピーカーから試聴ポイントまでの距離は5メートル弱だと思います。一般的なスピー
カーの場合、十分な余裕がある理想的な試聴スペースとなる訳ですが、「TORIO+B
ASSHORN」の場合、巨大なバスホーンが真ん中にデンと鎮座ましましているため
に、試聴位置に座っても見上げるような状況になります。たぶん、あと2~3メートル
下がれば、スピーカーの前に展開した音場が、無理なく広がるのかな・・・・などと不
遜にも思ってしまいました(川又さん、生意気言ってゴメンなさい)。
そんなこんなで、ちょっと横を見ると、「健研究所」のスペースにDUOがあるじゃな
いですか。「今度は、DUOを聴かせてもらおう」と心に誓って、あわただしく川又ルー
ムを後にしました。
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III DUOの衝撃
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「川又さん、突然のトランスポートの故障で、充たされな
い私の心を、川又ルームでの試聴で充たさせてもらえません
か? DUOを聴きたいですが・・」とメールをしたところ、
またまた瞬時に返事が来ました。「了解しました。お待ちし
ております」
CDラックから、愛聴盤を取り出し、中央線に飛び乗りま
した。
乗ること約20分。お茶の水で降りた私は、聖橋から秋葉
原に向かう坂を、期待と不安を胸に、心なしか急ぎ足で歩き、
川又ルームに直行。川又さんにご挨拶すると、「ご試聴です
ね。お待ちしておりました」と言われ、心の準備をする暇も
なく、私は、川又ルーム入口側の試聴スペースに招き入れら
れたのです。
そこには、濃紺色のホーンを持ったDUOがごく自然な形で
設置されております。スピーカーの間隔は、芯々で2.5メ
ートル程度。これをドライブするのは、発売されたばかりの
CDトランスポートを含むオルフェウスのフルセット。メイ
ンアンプは、もちろんモノアンプ。今月発売のステレオサウ
ンドにもインプレッションが出ていますが、極め付きのハイ
スピードアンプです。これで、超高能率(104dB)の
「DUO」をドライブするとどんなことになるのか。
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はやる気持ちを抑えつつ、愛聴盤のバッハ、イタリアン
コンチェルト(グレングールド)をトレイに。1959年
の録音で、コロンビアの極初期のステレオ録音ですが、最
近のDSDリマスタリングの効果もあって、鮮度感は抜群。
DUOからは、全く抵抗を感じさせることなく、音が迸り
ます。グールドのピアノは、ちょっと堅い響きが特徴です
が、堅い中にも何とも言えない音の艶があります。この艶
が聴けるかどうかがポイントですが、DUOからは、迸る
音の中に艶を聴き取ることができ、なんとも言えない感じ
です。「ピアノのボディーの響き(胴鳴き)がちょっと足
りないかな・・・」とも思いましたが、川又さんのお話に
よれば、サブウーファーのクロスオーバーの調整を詰めて
いけば、解決可能とのことでした。
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川又さんの「ボーカルの熱さはすごいですよ」というお勧めもあって、ピアノの次は、
マリアカラスのアリアです。サンサーンスのサムソンとデリラから「目覚むる春」。19
60年代初頭の録音ですが、EMIのアートリマスターの効果もあって、カラスの力あ
ふれる声が素晴らしいだけではなく、伴奏オケの広がりと奥行きも最高です。去年の暮
れから今年の前半までは、このCDに入れ込んで、毎日と言っても言い過ぎではないほ
ど聴き込んでいました。この名唱の熱さをDUOがどのように再現するか。これがポイ
ントです。
アバンギャルドの特徴(ホーンスピーカーの特徴?))は、音場がスピーカーの前に張
り出すところにあります。この特徴が、ボーカルの魅力を倍加させるということを初め
て思い知りました。
カラスがオーケストラの前に実体感をもって立ち上がります。ホーンスピーカーの場
合、スピーカーの音がダイレクトにリスナーに到達する割合が他の形式のスピーカーに
比べて遙かに高いという特徴を有しております(川又さんからの受け売りです)。アバン
ギャルドのカタログによれば、通常のスピーカーの直接音の割合が45%程度であり、
残りの55%が壁、床、天井からの反射音となるのに対して、アバンギャルドの場合は、
実に85%が直接音として、リスナーに到達するということです。このために、熱唱す
るカラスが私の目の前に立っていると感じる程の音像の実体感をもたらすのでしょう。
我が家の音場型スピーカー(米国ハイエンドメーカー製)の場合、少し奥まったステー
ジの上にこぢんまりとしたカラスが立っている訳ですが、DUOの場合、本当に目の前
に、等身大のカラスが立っているのです。
カラスが自分の目の前に立って、「サムソンとデリラ」のアリアを熱唱しているという
シチュエーションを想像してみてください。「これはやばいことになったな・・・・」と
いうのが偽らざる心境でした。
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IV エピローグ
「これはやばいこととなったな・・・」
これまでのテーマは、音場の再現でした。スピーカーの後ろに
広がる音場の中に、揺るぎなく定位する実体感ある音像。これを
実現するためには、どうすれば良いか。いつもこのテーマをもっ
てこれまでのオーディオ生活を送ってきたのです(それほど長い
ものではありませんが・・・)。音場を求めれば必然的に音像は小
さくなる。音場の中のミニチュア的に定位する音像の再現。これ
が私のテーマでした。
今日の偶然の試聴が、このテーマを考え直すきっかけとなりま
した。熱い音像がどれほど心を揺さぶるものか。まず音場ありき
ではなく、音像があってこその音場ではないか。大げさに言えば、
これまでのオーディオライフを考え直させる程の衝撃でした。
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我が家のリスニングルームにDUOを迎え入れることができるか。DUOがダメなら
UNOではどうか・・・。中央線で帰宅の途についた私の頭の中では、アリ地獄に落ち
ていく虫もかくあらんかと思うほど、ぐるぐるとした思考のループが繰り返されていた
のです。
私は、以前、「試聴=ローン残高の増加」と書いたレポートを川又さんにお送りしまし
たが、今度は「試聴=アリ地獄への道」と書かせていただきます。
川又様。今日は、突然の試聴のお願いを快く受け止めていただき本当にありがとうご
ざいました。これから暫く、アリ地獄の如き思考のループを楽しみたいと思います。
結果がどうなるにせよ・・・?以上
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