GUEST & TALK

 

<オーディオマンにきいてみた 第二回 LUXMAN>



オーディオという道具が皆さんの手に届くまで、設計や生産はもちろん、輸入や販売など多くの人々が様々な形で関わっています。そんな人々が実際に日々どんな思いでオーディオと接しているのか、今回はオーディオ業界の良心、老舗国産メーカーLUXMANにお話を伺いました。

ゲスト:ラックスマン株式会社 執行役員副社長兼営業本部本部長 末吉達哉さん・開発本部本部長 長妻雅一さん・国内営業部課長 相田和喜さん

聞き手:ダイナミックオーディオ 企画室 佐藤 泰地 ・3F柴田 学也



柴田「お借りした【別冊ステレオサウンドの "LUXMANのすべて” 】読ませていただきました。そこにLUXMAN元会長の早川斉さんの直筆の書があったんですけど、あれってなんて書いてあるんですか?」

末吉さん「暴飲暴食暴慢の果て オーディオに生きる」

佐藤「わははははは!」

末吉さん「"人生はダイナミックレンジが大事だ!" なんてよく言っててね」

相田さん「豪快ですよね」

佐藤「ははは。やはりそういう人がいて今があるわけですねぇ。(ウチと似ているなぁ…)
さて、開発本部長の長妻さんに早速いきなり訊いてしまいますけど、今のLUXMANが考える "いい音" というのは言葉で当てはめるとしたらどんなものでしょうか?」

長妻さん「ええ。一応社内で定義しているんですよ」

佐藤「定義をしているんですか!」

 

LUXMANのいい音の定義

1:素直で自然な音質・誇張しない
2:自然な音場感
3:情報量の多い音
4:全帯域の一体感
5:長時間聴いていられる

長妻さん「他のメーカーさんも同じようなことをおっしゃると思うんですけれどもね。私どもの場合 < 1:素直で自然な音質 > というのが一番言い当ててるのかなと思います。店頭でのデモ効果というよりも、飽きのこない "普通に使える音" を狙おうということですね。誇張しない (クセがない) ということは、商売上よくないこともあるんですけど、永く使ってもらって、聴けば聴くほど心に入ってくるというような、その聴いている音楽の良さがじんわりと機械を通じて分かってくるようなことがいいんじゃないかと思ってるんですね」

佐藤「そうですよね。音楽を聴くための道具ですもんね。アンプのサウンドを聴くというのはある種の倒錯的な行為ですよね。だから、しっかり仕事をしながらもその存在感を主張しないアンプを目指されているのかな、という気がしますね」

長妻さん「たとえば演奏家がこの部分でこういう技をいれて、とか、こういう動きをやっている、とかいった、細かい部分が手に取るように分かってくることが、音楽を楽しむ要因になるんじゃないかと思ってますね」

佐藤「確かに。より演奏家の行いが見えるようになることで、その意志を感じることができるのが、高度なオーディオが存在するための本質的な意義ですよね。では、そういった状態を実現するためには技術的にはどんなことを施すんでしょうか?」

長妻さん「基本的には特性は良いほうがいいんですよ。ただ、特性を良くするために、どういう手を使ったか、というのはこれはすごく重要で、S/Nが良くなった、歪みが少なくなった、けれども聴いてみると情報量は少ないように感じられる、なんていうことは日常茶飯的によくある話なんですね」

柴田「あ〜分かる気がします」

長妻さん「で、その場合に "データ上良い方を選ぶ" というのは我々はしないようにしているんです。あくまでちゃんと人間の耳で音を聴きながら、ひとつひとつ回路の評価をしながら進めていきます」

 

柴田「音の評価は、皆さんでやるんですか?」

長妻さん「少人数ですね。でも僕らは民主主義で選ばないんです(笑)これは早川会長の頃から "みんなが良いというものを目指しても碌なものができない" と、ですからその時代その時代で音を引っ張っていく人をひとり決めて、その人を中心に方向性をつけているんですね」

佐藤「客観的に構成した回路を元に、最終的なジャッジメントは特定の主観を通して決めているということだと思うんですけど、そのリーダーが長妻さんというわけですね」

長妻さん「現在はそうです。前任は橋本洋一という人物がやっていたんですけど、彼が引退してから引き継ぎました」

柴田「いつ頃ですか?」

長妻さん「100%ぼくに移ったのは < L-590AX >」

柴田、佐藤「ああ〜なんかわかる〜(笑」

長妻さん「それ以前のオンタイは…」

佐藤「え?どういう字書くんですか?」

長妻さん「あ、音質対策を略して音対 (オンタイ) っていうんですけども、以前は機種のジャンルごとに分けてたんですよ。セパレートは橋本、プリメインは僕が、プレイヤーは一緒にといった感じで、その上で最終的には橋本が "これでいこう" というところで決めていたんですけれどもね」

佐藤「長妻さんからみて、橋本さんと長妻さんで音対のジャッジメントの基準の違いって存在しますか?」

長妻さん「うん。社内的にはですね、評価軸というのは割ときっちり決まっていて、その中で最も重要な要素として、音が "詰まっている" か "ゆるい" かっていう尺度で判断するんですね」

柴田・佐藤「ほおお〜〜〜」

長妻さん「ここは少し他のメーカーとは違うかもしれませんけどね、たとえばガツガツしていて歪みっぽいのが "詰まっている" 状態で、音がほぐれ過ぎて手応えが無くなってくるところが "ゆるい" んですね。その両極端をもった評価軸のセンター値、つまり詰まらず、緩まずを狙うんですけど、その中心がぼくと橋本だとほんのちょっと違うだけだと思います」

柴田・佐藤「おぉ〜もッしろい!」

 

佐藤「外観に関してはどうでしょうか?」

柴田「音を出さなくても、見て楽しめる。【ラックスマンのすべて】には、"夕日が差し込んできたときの影の落とし方まで考えて作ってます" なんて書いてありましたけど、ツマミには常にこだわっていますよね。位置も形も」

長妻さん「たぶん業界で一番ツマミの種類が多いとメーカーだと思います。できれば共通化したいんですけどね(笑」

相田さん「一見全部同じなんですけどね、たとえば 509 と 590 でも違うんです。よく見たり、触ったりすると。ボリュームとセレクターでも質感を変えていたり、下の六個のコントロールノブもモデルによって素材を変えたりとか」

長妻さん「あの富士ノブ (コントロールノブ) は、あれなんか大型のボリュームと同じくらいコストかかってるんですよ」

柴田「そっか〜確かによく見たらすごい精度ですもんね。今後は心して触ろう」

末吉さん「509Xなんか工場のおばちゃんみんな嫌がってるから。組み立てに必要なトルクドライバーが4つもあるからね」

佐藤「取り付ける場所によってトルクを変えてるんですね!」

末吉さん「うん。だから "なんで一個にしてくれないのよ!" なんて怒ってるよ(笑」

佐藤「ははは。でも、そのおかげで誰かが今日も音楽で感動してますよ、きっと」

柴田「新製品開発やモデルチェンジの際の、営業と開発のパワーバランスはどんな感じになっていますか?マーケットの要請と作り手の技術的な要請と」

末吉さん「どっちのバランスもあるよね。それでよく喧嘩するんですよ(笑」

長妻さん「企画書には "音はこれこれこういう傾向を求む" なんて書いてあったりするんですけど、とはいえ言葉で言っても頭で思い描いている音は違いがあったりするので、意志の疎通を図ったりしますけどね。ただ、ぼくは "100%の迎合はしないよ" というのは常に言っているんですね。市場の求めるものとは全く別の存在っていうのには絶対しないですけど、でも "そこ以外にも素敵な世界があるよ" っていうのを見せたいんですよね」

末吉さん「 "売れ筋の音" っていうのはあるんだけどね、でもその通りにしないから(笑」

長妻さん「期待されるものって分かるじゃないですか、でもちょっと一捻りしたいんですよね。その半歩の距離感って難しいと思うんですけど、ずっと同じことを続けていても進歩がありませんから」

佐藤「そこでひとつ考えなければならないのは、ラックストーンという言葉だと思うんですけど」

長妻さん「はい。そうですね。ぼくもちょっと新しいことをやったりすると、"これはラックストーンじゃない" なんて2ちゃんねるで叩かれるんですね(笑」

佐藤「ははははは、でもあの言葉って実際には決まったものを示しているというよりは、それぞれの人の内側にしかない幽霊みたいなものに思えるんですけどね」

長妻さん「そうなんです。だから一年後に見ると同じ製品が "これがラックストーンだ" っていうことになってたりするんですよ。前社長の土井も "僕が一番わからないのはラックストーンだよ" なんて言ってましたけどね(笑」

柴田「でも、どのブランドにも "そのメーカーの音" という共通言語としてのイメージってありますけど、それらのなかでもラックストーンっていうのは最もポジティブな表現のひとつとして、みんな良いイメージを持っているんだろうな、と思いますけどね。半歩あゆみ寄ってくれているお陰かもしれないですね。歴史のあるブランドというのはその宿命を背負わなければならないとはいえ、神経を使うでしょうね〜」

 

佐藤「一捻りの部分で、長妻さんが導き出したい方向性、最高のオーディオ体験とは一体どんなものでしょうか?」

長妻さん「やはり音楽の理解が深まるということがぼくは一番だと思います」

末吉さん「よく演奏しているようなポーズで試聴してるもんね(笑」

柴田「はははは。やっぱりイメージですよね。鳴っているサウンドからどこまでイメージすることができるかが財産ですよね」

佐藤「全くその通りだね。オーディオ体験の充実は、その音楽が鳴っている時間のなかでどこまで想像することができるか、ということにかかってると思います」

長妻さん「同じ音を聴いても、それぞれの人のなかでイメージされるものって違うじゃないですか。だから、そのイメージを作るためのトリガーがどれだけ入っているか、というのがすごく大切なんですよね」

佐藤「トリガー(きっかけ)…いいですねぇ。様々な角度から眺めた時にも、それぞれつながりが見つけられるような仕掛け。ではそれを踏まえて今まで作ってきたもののなかで、最も自分の導きたい方向を体現してモデルはどれですか?」

長妻さん「あ〜それは色々と転機はあったわけですけど、今は < L-509X > だと思います。今まで超えられなかったものを超えたという感じはありますね」

佐藤「おお〜そのあたりを意識しながら、また聴き直したいですね」


【後記】
モノをつくる。良いモノをつくる。良いモノを作り続けるということは、やはりそう簡単なことではありません。それは、それぞれの人のそれぞれの価値観や事情がぶつかり合う "ダイナミックレンジ" のなかを足掻きながら生み出されるものだということを、今回のインタビューで改めて考えさせられました。これを読んだみなさんが次にLUXMANを使う時、そこに何か新しいものを発見してもらえたら嬉しいです。

 

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