第三十一話「楽園で聴く音楽」





第一章『プロジェクト12』

 平成7年も残り少なくなり今日は12月24日、つい一昨日には今年最後の試聴会を
無事終わらせほっとしている所である。しかし、本当に今年も色々なものを聴いてきた
ものだ。私のように高級オーディオを販売することを職業としていて、新しく聴いた製
品の数を貯金として考えれば、私は間違いなく日本一のオーディオ億万長者と言えるの
ではないだろうか。先月のノーチラスを取り扱った試聴会では、準備のために総重量で
数百キロにも及ぶアンプやスピーカーを移動して大変な労力を要した。従って、今年最
後の試聴会では少し楽をさせてもらおう、というのが今回の思わぬ発見につながるきっ
かけとなったようだ。前回の随筆でもご紹介したスフィンツのプロジェクト8を中心に
して、同社のCDプレーヤーであるプロジェクト9(45万円)、大変小型なモノラル
のパワーアンププロジェクト12(60万円)と、同社フラッグシップモデルのプロジ
ェクト26(298万円)のラインアップで三機種のスピーカーを鳴らした。プリアン
プのプロジェクト8については前回の随筆でもご紹介をしているが、自社のパワーアン
プとのペアリングによる期待感が見事に裏付けられる結果となったのである。最初にア
メリカの某社のOFCケーブルによって、CDプレーヤー、プリ、パワー、スピーカー
のそれぞれを結線している状態から試聴を開始した。私は既にこの状態での再生音には
疑問を感じていた。一口に言ってフォーカシングがあまくピンボケの音なのだ。そして
、まずはCDとプリ間をシルテックのFTM−4Si(1m・21万円)に交換した。
ここで、オッと言う変化が発生する。たった1 のピンケーブルをシルテックに交換し
ただけなのに、CDプレーヤーの能力が1ランクアップしたような変化だ。次に、プリ
とパワー間を同じくシルテックの4−56S(3m・18万8千円)へと切り替えてみ
る。プリ・パワー間の変更は、今度は再生音の色彩感に変化をもたらした。明るく透明
感のある描写力が、同じアンプとは思えないようなピシッと像を結ぶ様子がおもしろい
ように観察されるのだ。ここで、スピーカーをソナースファベールのガルネリオマージ
ュに切り替えてみる。インターコネクトの変更をガルネリオマージュを下地にして認識
したところで、次はいよいよスピーカーケーブルをシルテックに交換する。使用したの
は同社のLS2−90(4mペア・34万4千円)で、この時使用していたパワーアン
プのプロジェクト12の一台分に相当する価格のものだ。しかし、この変化は大きい。
電源ケーブルを除く総てのケーブルがシルテックになったわけだが、前述のインターコ
ネクトの変化に加えて、今度は音場感にハッとする拡大が得られる。以前であればペア
で定価60万円のモノ・アンプであるプロジェクト12は、定価30万円の同社のプリ
であるプロジェクト2とペアリングされていたわけだが、この音を聴いてニコルマーケ
ティングの西村氏も認識を新たにされた様子であった。ちょうど大きさがチェロのアン
コール・モノパワーと同程度で、横幅25cm、高さ9cm、奥行き31cm、重量は
7kgという小柄なボディーから、ほとばしるような余韻がこれほど表現されようとは
誰が予想出来た事だろうか。このプロジェクト12は、定格出力8Ωで145Wと設定
されておりAB級動作であるが、電源投入後三時間程度を経過して本体からの発熱量は
結構多い方ではないかと感じられた。詳細はわからないがA級動作の領域はかなり広く
設定しているようで、消費電力も600Wということからバイアス電流も贅沢に流され
ているようだ。私はハイエンド・オーディオを担当しているが、価格によっていくら以
上がハイエンドで、いくら以下はそうではないと価格による差別化はしていない。アメ
リカと同じように販売店のステータスとして認知されて、「あの店に置かれるものは、
ハイエンドという称号を与えるのにふさわしい。」という考え方に賛成である。つまり
、メーカー側とユーザー側からハイエンド・ショップとして認められた販売店が、それ
自身の責任において選定したものを自らの店頭でデモンストレーションする。その範疇
に採用されたものは、価格に関係なくハイエンドと認定されるという図式に賛意を表明
したい。これは、販売店にとっては逆説的に慎重を要する発想かもしれない。つまり、
置いている商品がいかに高価なものであっても、店頭における音質が低レベルであれば
ハイエンド・ショップとしての資格を失うことになるのだ。私は常々こんな例え話しを
お客様にしている。「今ここにおいてあるコンポーネントは皆一つの素材にしかすぎま
せん。有名なレストランでもよそと同じ素材である、肉、野菜、魚、などを仕入れて料
理を作り、お客様にお出しして味わって戴く〈味〉がその店の勝負どころとなるわけで
す。従って、コンポーネントという同じ素材も店によって音質〈味〉が変わってしまう
のですから、一つの店の試聴事例だけで製品の善し悪しを判断するのは早計かもしれま
せん。私はここで聴いて戴く音楽が、私の腕の見せどころであり、音質〈味〉の勝負ど
ころであると考えています。」そして、私はお客様が試聴する前には、殆どと言ってい
いほど商品の説明はしない。その理由として、「店員がお客様を説得しながら高価なコ
ンポーネントの選択を迫るというのはいかがなものでしょうか。お客様を説得するのは
コンポーネントそのものであって、私はただコンポーネントが本来あるべき音質で聴け
るようにコンディションを整えているだけなんですよ。ですから、まず聴いてみて下さ
い。それでお客様の気持ちの中に感動が起こらなかったら、それはコンポーネント自身
の責任であり私が何を言っても無駄になるだけです。」私のオーディオに対するセール
スの基本方針であり、日頃こんなスタンスで皆様に話しをしている。コンポーネントを
作り出すメーカーと、海外の製品を販売する輸入商社に対しても、これが一番公平で偏
見と主観を排除したユーザー本位の選択方法であると考えている。さて、話しを戻すと
、こんな取組み方をしている私に取っても、今回のスフィンツのラインアップの中で特
にペアで60万円のプロジェクト12についてはダークホース的な商品であり、大変な
説得力をもっているものとして評価した。つまり、こんな音質的自然競争力の原理を大
切にする私が、黙ってお聴かせしたい逸品として、また新たなコンポーネントが一つ加
わったという事なのである。

第二章『エリージア(ELYSIA)の登場』

 さて、前章で述べたような経験をしながらスピーカーはガルネリオマージュのままで
、いよいよプロジェクト8に同社のフラッグシップパワーアンプであるプロジェクト2
6を接続することになった。プリ・パワー間のインターコネクトは、バランスタイプの
5−60S(2m・31万円)シルテックのバランスケーブルである。当然の事ながら
、この変化は大きかった。ガルネリオマージュ独特のクロスセッティングによって、後
方へと展開する音場が更に深みをもってスケールを拡大する。更に、実質12cm口径
ウーファーのガルネリオマージュとは思えないような低音の質感が、充実感と重量感を
伴って補足されることを追記しておきたい。さて、宴もたけなわという盛り上がりを見
せ始めたところで、いよいよもう一つの新製品の登場である。スイスのアンサンブル社
から到着したばかりという新作スピーカー「エリージア」である。1986年に設立さ
れたアンサンブル社については、ウルス・ワーグナー、アンネ・ワーグナー夫妻のご紹
介も含めて、『音の細道』第一九話の第二章『オーディオの血統』と、第三章『オーデ
ィオのサムシング・エルス』に詳細に書いているので是非読み返して頂きたい。アンサ
ンブルの最初の製品はPA−1というスピーカーであり、現在でも改良を受けて生産が
続けられている。このエリージアの原形となるリファレンスは、1990年に発売され
ている。当時はターミナルがスピコン仕様、バイワイヤリング仕様、シングルワイヤー
のノーマルと3種類あったことが思い出される。当時の定価が88万円であったことを
考えると、5年を経て現在の価格設定は無理のない事のように思える。そして、93年
にはプリマドンナ・ゴールドが登場し、同時期に開発されたユニットが搭載されてリフ
ァレンス・ゴールドとして再び脚光を浴びる事となる。この段階でクロスオーバー・ネ
ットワークも改良されシングルワイヤーリングに徹するという方針を打ち出している。
ネーミングの通りトゥイーターの芯材に繊維素材を用いたダイヤフラムには金色の特殊
な金属がコーティングされ、高域特性が32キロHzまで拡大された。翌年の94年に
はリファレンス・シルバーとして、リファレンス・ゴールドで開発されたノウハウにコ
スト的な魅力を付加して登場している。この段階では、コスト的な制約からバイワイヤ
リング仕様のネットワークとして、ウーファーのダイヤフラムとトゥイーターのフレー
ムに改良を施している。さて、95年に登場したエリージアはゴールドのネットワーク
を原形として新しく開発されたネットワークは、56のパーツからなり伝統的な6デシ
/オクターブ・フィルターと12デシ/オクターブ・フィルターとの長所を合わせ持っ
ている。更に高品位化したネットワークはシングルワイヤリング専用とし、トゥイータ
ーにはシルバーで採用されたフレームの改善を継続させ、更にウーファーのダイヤフラ
ムはシルバーと同系列でありながら、フレームをプレス材からダイキャスト製に変更す
るという進化の頂点を極めるといった内容となっている。その結果、クロスオーバー周
波数は従来の2・5キロHzから2・2キロHzへと引き下げられ、ウーファーの駆動
領域にゆとりをもたせる方向へとシフトさせているのである。インピーダンスは4Ω(
最小2・2Ω)として、出力音圧レベルは90デシベルまで高能率化させ、微小信号に
対する反応の良さを更に向上させている。ところで、発売後五年を経てデザインを同じ
くして進化してきたスピーカーをどう考えたら良いだろうか。「新製品ならば、それら
しくデザインも一新した方が新製品らしい。」「以前買ったモデルが、同じデザインで
音が良くなったということは面白くない。」多分こんな考えを持っている方もあると思
われる。しかし、スピーカー分野だけにかかわらず高級オーディオコンポーネントのマ
ニュファクチャラーという、感性と技術力を持ち合わせた人間の集団に向上心があった
としたら、そして彼らに時間を与えたならどういうことが起きるだろうか。当然、過去
よりは現在、現在よりは未来の音、という具合により良き再生音を求めての開発研究は
当然行われることだろう。いや、逆に探求心の旺盛でないメーカーや設計者は良いもの
を作り出さないであろう。従って、性能としての音質に進歩があったとしたら製品の内
容、内側に向かっての改善改良であると推察する事が出来る。ただし、外観のデザイン
面においては時代が変わろうとも、そのメーカーのセンスと自己主張の現われであり、
不変であるべきだというフィロソフィーがあっても何ら不自然ではない。むしろ、デザ
インの完成度が高ければ変更するに及ばないという自信の現われとして受け取りたいも
のだ。ナチズムが台頭してきた1940年代初頭にヒットラーの命を受けて、かのポル
シェ博士が作り出したフォルクスワーゲンのビートルが、当初のデザインを受け継いだ
ままに、確か?、1982年まで生産を続けていたという事実。また、同じくポルシェ
博士のブランド名になるポルシェカレラ911が、やはり30年近く経ってもデザイン
の本流を継承している事実。これらを見てもシンプルで優秀なるデザインは、工業製品
としての性能向上が内部に関して図られようとも不変であるという事例がいくらでもあ
るのだ。シンプル過ぎるほどに虚飾を嫌ったアンサンブルのスピーカーは、5年目の成
熟期を迎えても尚一層の輝きを放っていると、エリージアを聴きながら感じる事が出来
る。私は、デスクに向かって書き物仕事をしている時でも気持ちの良い音楽を聴いてい
たい。すると、その時に気に入っているスピーカーが、一日の最長演奏時間を記録する
事になる。エリージアは今日で一週間、BGMとして私の精神集中とリラクゼーション
に大変大きな貢献をしてくれた事になる。なぜ、こうもエリージアが手放せなくなって
しまったのだろうか。答えはこんな一言で済んでしまう。「エリージアの奏でる音楽は
瞬く間に空気に溶け込んでしまう。私が聴いていたいのは、正に空気の中から漂ってく
る音楽だからなだ。」

第三章『オーディオにおける鶏と卵』

 1981年スイスのジュネーブに設立されたゴールドムンドはトーンアームを皮切り
に、83年にターンテーブル、87年にプリとパワーアンプ、90年にはDACのデジ
タル分野へと、製品ジャンルを拡大してきた。そして、それぞれの開発過程においては
ACパワーケーブルやデジタルケーブルをも開発し、遂には95年リニアル・インター
コネクトとスピーカーケーブル、そしてラックまでをも開発してコンポーネントの各分
野を自社の製品で徹底するという進化を見せてきた。アンサンブルも同様に86年にP
A−1というスピーカーを発売して以来、デジタルケーブル、インターコネクト、AC
パワーケーブル、トップコーンズやホット(ハニー)プレートといったセッティングの
環境まで含めて総合的な音質管理を製品ラインアップとして完成させている。つまり、
どちらかというとコンポーネントのハードウェア開発が先行して、ケーブルなどの周辺
機器に開発対象が拡大していったわけだ。それとまったく逆の経過をたどってきたのが
、シルテックから始まったスフィンツである。自分たちが作り上げたハードウェアはこ
んなケーブルで聴いて欲しい。逆に、自分たちが生み出したケーブルが本領を発揮する
には、こんなアンプが必要なんだ。と、まさにこだわりを追究する頑固さが製品作りに
反映されてきたのである。さて、前章で述べたエリージアの試聴においては、この両社
の考えが非常に高い次元で聴き分けることができて大変興味深かった。つまり、最初は
前述の通り総てのケーブルをシルテックにして、プロジェクト9のCDからプロジェク
ト8のプリへ、プリからプロジェクト26のパワーへ、そしてスピーカーケーブルもシ
ルテックとしてエリージアを聴き始めたのである。率直な感想をいえば「見事」「申し
分ない」と簡潔に結論づけることが出来るほど、まさにシルキートーンであった。実は
、この日の試聴会のテーマとして題した「シルキートーン」には、私なりにひねったこ
だわりがあった。シルテックのケーブルの個性を象徴するものとしてシルキー、シルテ
ックからシルキーへのゴロあわせとして、そして、トゥイーターの振動板の素材に絹(
正確にはシルクを芯材としたソフトドーム型の意味)が採用されているスピーカーを集
めたということである。ソナースファベールの2モデルは、同社のキャラクターと相ま
って充分に私の狙った音を聴かせてくれた。そして、企画意図でありながら予想以上の
マッチングを見せてくれたのがスフィンツのラインアップであった。極上の透明感がエ
リージアを音源と認知させることなく、音楽をスーッと周辺の空気に馴染ませ、空間に
演奏を溶け込ませていく様はコンデンサー型スピーカーを彷彿とさせる精細感を眼前に
展開してくれる。この、わずか横幅23cm、高さ35cm、奥行き21cm、そして
重量は9・5kgという小柄なボディーから信じられないような音場が湧き上がってく
るのだ。「この音を構成している一番の要素は何だろうか。」結論としては何が何パー
セントと割り切れるものではないが、多勢に無勢でシルテックとスフィンツの製品数の
方が圧倒的に多いではないか。つまり、シルテックとスフィンツの成果が集大成された
ものと見る方が妥当である。そこで私は、アンサンブル側の感性を少し注入して見る事
にして、アンサンブルのスピーカーケーブルであるホットラインに変更してみた。先程
のシルテックとはたいそう価格が違って、1mあたり1万円という価格のケーブルであ
る。「なるほど、なるほど−。」と唸ってしまった。シルテックが演じる舞台衣装には
、たおやかに揺れる薄手に織りあげた優雅な絹のなま生地のような、何の抵抗も示さず
に物の形に馴染んでしまい包み込んでしまうような柔軟性と軽やかさがある。そして、
ホットラインにすると、その衣装にごく微量の糊とプレスを施して張りを持たせるよう
な質感に変化するのだ。このホットラインは、初代リファレンスが開発された当時には
、既に存在していたものだが、近来の自社製スピーカーの高域特性の拡大に合わせて新
規開発されたと思われる新しいスピーカーケーブルがヴォイスフラックスである。価格
は同様に1mあたり1万円ということで、スタークァッド式の4芯構造には大きな変化
はない。太さ、価格、芯線構造に大差のないケーブルを何故アンサンブルは製品化した
のか。その答えが前述の同じラインアップの中で、スピーカーケーブルのみをホットラ
インからヴォイスフラックスに切り替えるという実験によって見事に見えてきた。すな
わち、前述のような糊とプレスを施して張りを持たせるホットラインに対して、絹のな
ま生地に施された糊を洗い流してプレスだけを残した質感を想像して戴ければ幸いであ
る。つまり、楽音の輪郭はあくまでも鮮明に捕らえながら、その楽器の存在に対してス
ピーカーが音源であることを悟らせないような配慮が一層深まったというところであろ
うか。もっと単純に例えれば、ホットラインはトゥイーターの高域特性を補う方向へバ
ランスをいざなう傾向があり、ヴォイスフラックスは逆にトゥイーターの能力を誇張し
ない方向への調整役として機能している様に見受けられたのである。私はワーグナーご
夫妻とパウエル・アコースティク社における製作者の感性が、これ程デリケートに自社
のスピーカーとケーブルに調和を図らせているという奥深さに再度、「なるほど、なる
ほど−。」と唸ってしまった。もちろん、シルテックとスフィンツも同様な相関図を描
いているのだが、世界的な視野で見ても、文字通り入り口から出口までを統一された感
性で仕上げていくハイエンド・マニュファクチャラーの技量として大変大きな評価を与
えたい。コンポーネントから始まってケーブルの世界へ、逆にケーブルから始まってコ
ンポーネントの世界へと、鶏と卵の例えではないが、二つのメーカーの感性が聴きとれ
た出来事として高次元の学習をさせて頂いた。

第四章『音楽の楽園』

 このエリージアの価格はペアで110万円である。この価格からすれば日本製にして
もアメリカ製にしても、もっと大きくて重たい見栄えのするスピーカーがたくさんある
。なぜ、アンサンブルは小型スピーカーの開発にこだわりを見せるのだろうか。こんな
疑問に答えるように、自社のフィロソフィーを彼ら自身が語る英文資料から推察するこ
とが出来る。「長年の間、アンサンブルは〈貧相なコンディションの部屋においても常
に非常に高品位なパフォーマンスを実現する〉との評価を得ています。私たちはこれを
大変誇りに思っています。これについては数々の公の場でのデモンストレーションや、
実際のユーザーの部屋でも同様な状況を数多く経験しています。秀逸な音楽はあらゆる
状態の部屋においても再現されるものです。その理由は様々ありますが、全ての要因は
1つの基本的な事実に基づいています。それは、高度なニュートラリティーを持つミュ
ージックシステムだけが、貧相な部屋のルームアコースティクを乗り越えられるチャン
スを与えられるということです。」そして、自社のケーブルに対しても同様な説明がな
されている。「コンポーネントのニュートラリティーのもう一つの効用は、他の高品位
なコンポに容易にマッチするという事です。この良い例がアンサンブルの各種ケーブル
です。多くのユーザーが認めている事であり、私達の製品すべてに同様な事が言えるの
です。」なるほど、と思った。確かに部屋のコンディションを疑問視したら、音楽を楽
しむ事を忘れてしまうかもしれない。そして、アンサンブルはこう締め括っている。「
基本的な考え方は簡単明瞭なものですが、それを実現するまでには高度な洗練された技
術が必要です。すなわち、コンポーネントに向けられる注意が少なければ少ないほど音
楽そのものが語り始めるのです。」この言葉は現在の私の感性の拠り所として、全く同
意見であり大きく拍手を贈りたい尊敬すべきフィロソフィーであると思う。人間が音楽
を聴くための道具として存在するオーディオと、数々のコンポーネントの究極的な目的
がここにあると感じた。元々技術者ではなく音楽愛好家としてブランドを設立されたワ
ーグナーご夫妻は、人間の感性を選択基準の根幹として真に音楽を愛好する人々には、
どの様なコンポーネントがふさわしいかを自らの製品を通して語りかけているのではな
いだろうか。何故かと言えば、当初のリファレンス、そしてリファレンス・ゴールドと
シルバー、という「標準に値する機器」というネーミングから、「楽園」を意味するエ
リージアというネーミングに大きく様変わりした事に、ご夫妻の願いが込められている
と思われてならない。世界中のコンポーネントを聴き分析し記憶する。その記憶のファ
イルから、お客様一人一人にフィットするものを探し出す事を仕事としている私が、エ
リージアを聴いていると、フ|ッと、幸福感に浸れる思いがする。モニター的緊張感を
要求するのではなく、楽園にいざなってくれるような安息の音楽を演奏する魔法の竪琴
。それがエリージアである。                       【完】


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