近年最大の衝撃!! PAD DOMINUSの敗北!!
そして…Moebiusとは!??」

-*-*-*- 大 い な る 序 章 -*-*-*-
Moebius---メビウス [August Ferdinand Moebius]
(1790-1868) ドイツの天文学者・数学者。ガウスに天文学を学ぶ。
同次座標の概念の導入、図形の幾何学的親縁性の系統的研究、双対原理の考察
など、数学に多くの業績を残した。メビウスの帯で知られる。

「無限のパワーを引き出し、楽音の真実を無限大の可能性を持って描き、メビウスの帯のように表裏のない再生音をシステムに与え、 それはオーディオコンポーネントによる演奏と生演奏との境界を取り去るほどの存在!!」

この企画で開発されるのは超ハイエンドの電源ケーブルだけに限定された。その名は 『Moebius』 。価格未定で今年夏の発売予定だ。
 メーカー名はまだ公開できないが、完全なハルズサークルのみの限定発売ということでメーカーには了承を得ているものであり、これを輸入する代理店も自社のカタログ商品としてはラインアップしない。
ぜひ、No.0370を再読して頂きたいのだが、そこで述べているハルズサークル会員だけのオリジナル商品の夢が遂に海外の超一流メーカーとのタイアップとして実現したのである。
しかし、フルDOMINUSで固められたH.A.L.の音質基準のハードルは高い!!
まず私が納得できるものでなければ決して商品化はしないものであり、その品質の吟味こそが私の信用というものである。
 とうとう Moebius の試作第一号が一本だけ私の手元に届いた!!
その貴重な一本を私がどのように評価したか? 600時間以上のバーンインを経て、いよいよ本格的な試聴に取り組んだ私が受けたインプレッションとは!?

さて、いつものように試聴システムだが、たった一本しかないのでNautilusの複雑なシステムに入れるよりは、新たなリファレンスとして定着してきた下記のシステムで 印に Moebius を組み込むことにした。

Timelord Chronos(AC DOMINUS)

Word sync only→dcs BNC Digital Cable

dcs 992/2(AC DOMINUS)

Word sync only→dcs BNC Digital Cable

Esoteric P-0s(AC/DC DOMINUS & RK-P0 & MEI Z-BOARD & PAD T.I.P)

Digital DOMINUS PLASMA-SHIELDING

dcs 974(AC DOMINUS)

☆dcs Elgar plus 1394(AC DOMINUS)

Balance DOMINUS(1.0m) PLASMA-SHIELDING

Accustic Arts PREAMP I(AC DOMINUS)

Balance DOMINUS(7.0m) PLASMA-SHIELDING

Accustic Arts AMP II(AC DOMINUS)

DOMINUS Bi-Wire Speaker Cable(5.0m)PLASMA-SHIELDING

B&W Signature 800(With BRASS SHELL)

今回使用した曲は電源ケーブルの素性を探るチェックポイントから次の二枚で、 “DOMINUS” との
一対一の比較を行っていく。
  • “山下達郎”新アルバム「レアリティーズ」5トラック目「MISTY MAUVE」
  • チャイコフスキー:バレエ音楽《くるみ割り人形》op.71 全曲
      サンクトペテルブルク・キーロフ管弦楽団、合唱団 指揮: ワレリー・ゲルギエフ
      CD PHCP-11132

    1.P-0sが姿勢を正す Moebius の威厳!!
    上記のシステムチャートには述べていないがP-0sに使用しているDOMINUSはPLASMA-SHIELDING のものである。 この電源ケーブルを単純に差し替えての実験であるが、P-0sがワードシンクの位相同期を自らが最適化するために電源のオンオフごとに一分以上の待ち時間がかかってしまう。
     最初は“達郎”「MISTY MAUVE」をPLASMA-DOMINUSで二回、三回と聴きその曲のチェックポイントを頭の中に刷り込んでいく。私は決して曲の途中でシステムの一部を変更して比較するということはしない。
     さて、好奇心と期待の両方を胸に Moebius に差し替える。P-0sのワード シンクのインジケーターが点滅を繰り返すのもじれったい!! Elgar plus 1394のディスプレーが小さなカチッという音とともに“DSD” に切り替わった。プリアンプのボリュームはまったくそのままで再度 トラック5をリモコンで指定する…。

    「え〜、あのDOMINUSが…!」この時の私の心境には複雑なものがあった。

    イントロで叩き出されるドラムの重量感・テンションともに Moebius に換えた瞬間から変質していることに驚かされる。 AC DOMINUSを使用されている方々には常識ともなっている低域の充実感、他社のACケーブルに比較しても重量感があり、打撃音の展開は高速であり、低音リズム楽器のエコー感を余すところなく引き出してくれる。 そのAC DOMINUSに対する期待感と信頼感がこの瞬間にもろくも崩れ去ってしまった!!
     Moebius はドラムの音像として更にフォーカスを高めているので、ドラムの各パートの打撃音のエネルギー感をすくい集めたようにより小さな面積に集約している。 その結果、インパクトの瞬間に立ち上がる打音のスピード感が更に高速化して聴こえるので一瞬低域が軽くなったように感じられるのだが、逆にDOMINUSでのドラムがべたっと左右スピーカーの間に張り付いてしまったように感じさせる。
    それが Moebius ではリズムセクションをレリーフのように浮き彫りにするので立体感と躍動感が加味される。誤解なさらないで欲しいのはDOMINUSがダメなどとは決して思わないで頂きたい。
    ただただ Moebius が素晴らしいのである。

    そして、“達郎”のヴォーカルが入ってきた!! 同時に瞬間的な発見が!?

    “達郎”の歌っているポジションが奥に引っ込んだ!? いや違う!!
    ドラムと同様に広がっていたものが集約された、あるいはかき集めたと言うべきなのか、ヴォーカルのフォーカスが絶妙に絞り込まれたので口元がより小さくなっているのである。
    しかも、前述のような超強力なリズム・セクションの連打にマスクされることなく、Signature 800のセンターにすっくと立ち姿を見せているので、 シルエットがはっきりした分ヴォーカルのエコー感が適切な広がりを見せ口元との明確な差別化が実感される。
    これは間違いなくDOMINUS以上に解像度アップだ!!
    スタジオ録音でのフォーカスアップとエネルギー感の高まりが、同じボリュームによって感じられるとは驚きだ。さて、次なるチェックだ。

  • さて、「くるみ割り人形」だ。
    1トラック目の序曲、15トラック目の「お茶(中国の踊り)」、16トラック目の「トレパーク」をすべて二回リピートしてオーケストラにおけるチェックポイントをまずメモリーする。
    そして、再度 Moebius に差し替える…。またまたP-0sのクロック同期のための点滅が続く…。
    う〜ん、こういう時にはじれったい〜 ^_^;  カチッ…、うん、これで良し!!
    1トラック目の「序曲」…なんでしょう!! この弦楽器の質感は!? そしてホールエコーが増加!!
    おー!! このトライアングルの輝きはどうしたということだ!?
    15トラック目の「お茶(中国の踊り)」…ぎょっ!! ファゴットの余韻、コントラバスの余韻、低域が広がっていくスケールが違う!? フルートが鋭くなったのに聴きやすい!? え〜そんな。
    弦楽器のピッチカートの余韻が延びる延びる〜、これは驚きだった!!
     16トラック目の「トレパーク」…鮮烈な弦楽器のアルコ! それが潤いを感じさせるので、スリリングでありながら心地良い!! あっ、タンバリンが早い! ティンパニーのテンションが高まっているから引き締まった打音だ。爽快にして刺激なし!!
     オーディオ信号が一切経由しない電源ケーブルでなぜこのような変化が 起こるのか? 不思議なことであり常識ともなっている情報量の変化に、そしてこれまで万全だと思っていたAC DOMINUSの布陣にもろくも穴があいてしまったようなインパクトがあった。
    都合の良い解釈をすれば
    ・滑らかになって欲しい楽音はより滑らかに。
    ・鋭く立ち上がって欲しい楽音はより鮮烈な立ち上がりに。
    ・それらを取り巻く余韻感はより多くあって欲しい。
    これら三拍子か揃ってDOMINUSを上回る実態が、 Moebius によっていとも簡単に塗り替えられてしまった!! P-0sの潜在能力は更に奥深く、それを紐解く格好のACケーブルの登場だ!!

    2.dCS Elgar plus 1394は生まれ変わった!?
     システムの最上流に位置するトランスポートで Moebius によって引き起こされた驚きは他のコンポーネントではどうなのだろうか?
    次なる関心はD/Aコンバーターへと移っていく。ここのCD再生システムはElgar plusに加えてdcsの974と992/2、そしてクロノスと多くのユニット数があるのだが、 そのすべてに Moebius を使用することは出来ず、おのずとD/Aコンバーターへの使用で効用を探ることになった。
     さて、この場合の比較対象となるAC DOMINUSはLIQUID-SHIELDINGである。
    私のフロアーのすべてのDOMINUSがPLASMA-SHIELDING に置き換わったわけではなく混在しているのが実情だ。
    前回同様に“達郎”「MISTY MAUVE」をAC DOMINUSを使用したElgar plusでリピートさせた。
    この数日間で本当に何回聴いたことだろう。そして、 Moebius に差し替えるのだが、Elgar plusもコンピューターの再起動のように自己診断プログラムが搭載されているのでテスティングの時間がかかってしまいじれったいものだ。 小さなカチッという音とともに“DSD”に切り替わった。

    「ちょっと待てよ!! この変化はどうしたことだ!!」

    P-0sで体験したような低域のエネルギーをより小さな投影面積に凝縮して再現する現象は、予測済み折り込み済みであったが、 恐らくサンプリング音源だと思うのだがハイハットに似ている高音が先ほどに比べて何とも“透き通っている”ことか!? 気が付けばギターやパーカッションなどの他の楽音にも光が差し込んだようだ。 そして“達郎”のヴォーカル。

    「やっぱりそうだ!! “透き通っている”としか言いようがない!!」

    清流のせせらぎは細かい波が入り乱れて日の光を反射しきらめいて見えるが、それを両手で救い上げてみると鏡のような水面に自分の顔が映っているだけ…。
    せせらぎの水面レベルをバックの演奏と例えれば、 Moebius では救い上げた両手の中に“達郎”の口元があるように背景との距離感を感じさせ、 前後でのセパレーションを感じさせた上に純度の高まりを見せてくれる。イントロで感じた高域楽器の質感の変化がヴォーカルにおいても澄み渡る資質向上を見せてくれるとは…。
    これはP-0sでの比較では発見できなかった要素がD/Aコンバーターに使用した Moebius によって、これもいとも簡単に聴く人に中高域の“透き通るような”変化を感じさせてくれるのであった。

    再度Elgar plusの電源をAC DOMINUSに戻し「くるみ割り人形」だ。
    これほど何度も同じ曲を繰り返し聴いていると、あのシステム、このコンポーネント、あんなケーブルでという様々な体験によって、 その超ハイクラスな演奏体験の“上澄み”として、私の頭の中にはデフォルトとなるエッセンスのみが記憶されているものだ。
    これもリピートさせてから Moebius に差し替えてみる。Elgar plusが自己診断を進めていく過程がバーグラフで表示され、カチッと“DSD”オンとなった。さて、1トラック目の「序曲」の導入部が…!?

    「このヴァイオリンの質感が潤いを帯びて、しかもしなやかになっているのはどういうことか!? 」

    というのは、Elgar plusの上流に位置するP-0sは既にDOMINUSに戻ってしまっているので Moebius 効果はさほどでも…と予想していたのだが、 あちらを立てればこちらが立たずという一本しかない Moebius の貢献を冷静に分析しようと思えば思うほど、この時にElgar plusに表れた変化は私をつくづく納得させるものがあった。
    15トラック目の「お茶(中国の踊り)」でも同様な確認が管楽器の表現力によっても確認された。ファゴットの余韻が更に広がる!!フルートが吹き上げた余韻が右奥後方へとたなびいていく!!
    16トラック目の「トレパーク」鮮烈な弦楽器のアルコ! それは先ほどのP-0sでの Moebius 効果では輪郭の表現に強く引かれたのだが、ここでは弦楽器の質感そのものに魅了される。 力強いはずなのに繊細な気配りが感じられ、ヴァイオリンの一本ずつに存在感を上書きしている。
    そして、タンバリンとティンパニーなどのパーカッションにおいても先ほどのP-0sでの事例ではインパクトの瞬間のエネルギー感に引かれたものだが、 ここでは再度インパクトの際のわずかな刺激成分を裏漉ししたかのように更に“透き通っている”打音が快感を呼ぶ。
    Elgar plus 1394に Moebius が与えたものは、楽音の空気に対する浸透圧を高めたような透過性であったと、再び私はうなずいていた。

    3.Accustic Arts PREAMP I の潜在能力
    いよいよプリアンプ、というかやっとここまで来たという感じだ。
    たった一本のケーブルの吟味に何と時間がかかることだろうか!?文章にすると数行でも、実際にいちいち差し替えて、納得いかなければ何度でも聴き直すことを繰り返し、数日がかりの試聴である。
    救いなのは、Accustic ArtsのPREAMP Iは前述のP-0sやElgar plusのように電源のオンオフに際して待ち時間がほとんどないことだ。
    しかし、パワーアンプをそのたびにオンオフするという早足での行ったり来たりの繰り返しとなる。
     前回同様にまず“達郎”「MISTY MAUVE」をオールAC DOMINUSでリピートさせ、そして Moebius へ…。耳にタコを作りながらの試聴はここならではのものであろう。 そして、ここで始まったイントロから数瞬の間に、今までと違う変化が起こっていることに気が付いた。

    「これって、何? 今までの各論で指摘できる違いじゃないよ!?」

    強烈なリズムセクションからヴォーカルへ、パーカッションからギター、ホーンセクションまでが展開していく中で、これまでの二つのケースとは違った印象なのである。
    「まるで個々の楽音を細くて強靭な一本の糸で縫い上げているように、各楽器のエネルギー感が調和してきたのか!?」

    ここでの Moebius による変化を検証するには、選曲を変えるのが一番のようだ。早速「くるみ割り人形」だ。同じパターンでDOMINUSで聴いてから、直ちに Moebius へ…。
     1トラック目の「序曲」の弦楽器群での導入部…やっぱりそうだ!!
     トライアングルの印象…ふむふむ、納得。
     15トラック目の「お茶」では強烈な印象のフルート…おお!!
     そして、コントラバスのピッチカートでは…うなずきが重なり!!
     16トラック目の「トレパーク」では自分の推測が確信に変わった!!
    今までのトランスポートとD/Aコンバーターにおける Moebius 効果は各楽音の個別の変化にどうしても魅了されたのだが、パワーアンプを駆動する役目を担っているプリアンプでは、 いや正確に言えばAccustic Artsの場合にはということだが…。
     今まで述べてきた各パートの質的向上を下地にして、このプリアンプでは演奏全体のエネルギー感のバランスを巧妙に Moebius が再構成しているのである。
     1トラック目の「序曲」での後半では、弦楽器のアルコで重奏される高まりが想像以上にエネルギーを感じさせる。 また、15トラック目の「お茶」ではフルートがホール全域にエコー感を撒き散らすように強烈な主役の座を演じる。 そして「トレパーク」ではパーカッションに負けないくらいのストリングスが繰り返し押し寄せる波のようにうねりを感じさせる。
    しかし、Accustic Artsのプリアンプに Moebius を使用してみると、勢いあまって伸びた大樹の枝を熟練の技で剪定し、全体の形を整えるような職人技を Moebius は演じてくれるのである。
    解像度を充実させながら派手さを拭い取り、数十人の演奏者が描く全体像のシルエットを丁寧に整形していくのである。しかし、ここで大切なことは、情報量を押さえ込んでの整形ではないということだ。
    こんな微妙な仕事をやってのける“電源ケーブル”はお目にかかったことがない!!
     Moebius を指揮者に例えれば、ちょっと張り切りすぎた演奏者に対して、手のひらを下にして、そっと押さえ込むようなしぐさで演奏者の肩の力を解きほぐしているようである。うまい!! 玄人受けの妙技だ!!
     Accustic Arts PREAMP Iに Moebius が与えたものは、演奏全体に調和を与える音楽を知り尽くした技の豊富さのようだ。見事!!

    4.パワーアンプにおける過激な変化!?
    B&W Signature 800のウーファーは最小インピーダンスが何と2.4オームまで落ち込む特性を持っており、Accustic ArtsのAMP II は2オームでは650W/chの出力を可能としている。
    オーディオシステムにおいて、ただ大音量が出るということに驚いていては仕方がない。 ハイパワーの本当に意味は、どんなボリュームでも楽音の質感が変化しないようにドライブすることなのである。
    さて、一本だけの Moebius を使用しての数日間に及ぶ第一段階の検証もいよいよパワーアンプにまでたどりついた。私の集中力の限界も、ある意味ではほっとしている本心を傍らに、好奇心は尽きない。 さあ、今回も“達郎”「MISTY MAUVE」から始めるが、今までよりあえてボリュームをいささか上げての試聴をすることにした。
     イントロの強烈なドラム、リズム楽器の脈動が私が座っているソファーにまでエネルギーを伝えてくるほどの音量だ。そして、ヴォーカル。 ここまででも何もストレスはなく、大音量での再生で再現性にこれまでのフルDOMINUSに何ら疑いはなかった…!?? いままでは…。
     ここのパワーアンプ用の電源コンセントには30Aの回線で4系統、PAD CRYO-L2を16個ほど使って電源を供給している。この壁から直接に接続したDOMINUSをAMP IIから引き抜き、 なるべく時間をあけないようにと、すかさず Moebius に差し替える。さあ、同じボリュームで再スタート。

    「あれ!? 静かに聴こえるのはなぜ??」

    強烈にたたみかけるように打ち鳴らされるドラムが同じ音量なのに姿勢を正して気を付けをしたようだ。この瞬間を確認するために再度DOMINUSに戻す!!

    「やはりそうだ!!」

    DOMINUSでは、「ズシン!!ドシン!!」と響いていたのだが、一見重量感が素晴らしいと思っていた低域表現に実は見えない“混濁”が隠されていたのである。
    再度 Moebius に戻すと…「ズン!!ドン!!」と質感が変化するのがわかる。
    瞬間的に2.4オームまで低下するインピーダンスのS800のウーファー、それを4個ハイパワーで駆動するように私がプリアンプに命じている。 その結果、AMP II は瞬間的には650Wから800Wを出力することになり、それを電源に要求するのである。 そして、電源コンセントが同一条件であっても、そこから電源を導き入れるケーブルによって変化が生ずる。
    ウーファーの挙動を時間軸に沿って考えていくと、ある瞬間には800W近くに及ぶパワーを得て強烈なインパクトを叩き出すのだが、録音信号において大きな信号がなくなった瞬間には、 今度はウーファーの動きを瞬時に停止させなければならない。それにも実はパワーアシストが必要なのである。 Moebius は平然とそれを成し遂げているのだ!!
     この曲は最後までサンプリングと思われるリズムセクションが強力に演奏され続けるのだが、 パワーアンプに提供された Moebius の恩恵はそのパワーアンプの設計者の技量を余すところなく引き出しているのである。 そして、それはウーファーのコントロールだけにとどまらずパーカッションのように瞬間的なもの、ヴォーカルのように連続するものの両者に対して、 アタックの鮮烈さと中高域を滑らかに聴かせるという相反するベクトルでの潜在能力を引き出してしまうのである。

    ここでの Moebius による今までの試聴を通して、このパワーアンプでの貢献の仕方に私は大変都合の良い表現を思いついた。
    それを最後に述べることにして、選曲を変えるて「くるみ割り人形」にスイッチ!!
    1トラック目の「序曲」でも直ちに直感できた。これまでの幾通りかのテストの中で最も質感の変化が弦楽器群に表れたかもしれない!!
    洗濯が終わったワイシャツにアイロンを滑らせる時に、アイロンが通過したあとにきっちりプレスされた布地を見て満足感を覚えるように、 ここでも Moebius はオーケストラ全体にスチームで潤いを与えつつ見事に手触りの良い滑らかかな質感を提供していく。
    特筆されのは、ちょっと大き目のボリュームにした状態そのままで、ホールエコーがより鮮明に Moebius によって照らし出されて見えてくるということである。
    前述のウーファーのコントロールと同様に中高域のドライバーも意外なくらいにパワーを消費し、その多くは微小な信号である余韻感を再現するために、 言い換えれば大きな信号に適切なブレーキをかけて減速させ、余韻という惰性で車を滑らせていくことに似ているかもしれない。パワーとは制動感とも言い換えられるのだ。
     次の15トラック目の「お茶」で、同様なことがたった一本のフルートの再現性でも確認できる。これまでの中で最も聴きやすく、しかも余韻を豊富に撒き散らすフルートが聴けたのである。 パワーアンプに使用した Moebius が演奏者の感性をここまで引き出したということは何を意味するのだろうか!?
     16トラック目の「トレパーク」では、“達郎”「MISTY MAUVE」で感じた低域のコントロールと、中高域の制動にも電源ケーブルが果たす役割が克明に聴き取れるものがあった。
    まず第一に聴きやすく刺激がない。ストリングスのアルコとパーカッションがひとつのホールに自然に共生していけるという顕著な事例を目の当たりにする。
    Accustic ArtsのAMP II に Moebius が与えたものは無限のエネルギーを供給するという Moebius の開発意図であり、楽音にしなやかさと力感という相反する二面性の更なる追求の結果であった!!

    これまでの四箇所に対する Moebius のインストールで最も印象に残ったのは最後のパワーアンプへの使用であった。
     トランスポートP-0sでは楽音の輪郭表現に Moebius 効果が色濃くあり、D/AコンバーターのElgar plusでは輪郭の内部である質感に変化があり、 PREAMP I では新たな音楽監督が就任したがごとくのバランス感覚の向上が感じ取れた。
    そして、もちろんすべてに Moebius を使用して聴きたいものだが、一本だけしかない Moebius を使うとすればどこか!? その回答が最後のパワーアンプでの試聴によって発見されたのである。
     不思議なことに、フルDOMINUSの中に一本だけという今回のテストでは、パワーアンプに行き着くまでに体験した各要素を応分に分け与え、 スピーカーの直前に位置するコンポーネントに Moebius を使用することが最も効果的であったと思われた。
    あちらを立てればこちらが立たず…という状況であるが、たった一本でも Moebius の効用は私の判定においても十分な価値観でコンポーネントの潜在能力を引き出すことが証明された。
     タイトルの通りDOMINUSの敗北ではあるが、これは更に未来に続く可能性を秘めており、私の知る限り地球上で最も優れたACケーブルが登場したと断言し今回のレポートを締めくくる。

    私がDOMINUSを上回ったという所感を製造元メーカーの社長に伝えたところ大変に喜んでくださり、
    私だけのオリジナル商品という性格を重視して更なるアップグレードを施した第二段階のサンプルを私が要求する本数で送って下さるということになった。
    ちなみに私がお願いした本数は8本。これで、すべてのコンポーネントにおいてDOMINUS対Moebiusという妥協なき検証が出来るものである。

    最後の審判の日は近い!!