《ESOTERIC 論文コンクール応募作品 Vol.13》


No.0130 - 2002/2/8

California U.S.A.在住 T・H 様より

足を踏み入れてしまった未知なる世界

我が家にP-0s with VUK-P0がやってきたのは2002年も暮れていこうとい
う12月の終わり、クリスマスイブの日でした。

出先から帰ってきて留守電を見るとメッセージが。

配達業者からのメッセージでした。「荷物を配達したのですが不在でした。
取りに来るか、再配送の日を指定してください」。

待ちに待ったP-0sが遥々太平洋を越えてやってきたのです。

ここアメリカではクリスマスからウィンターホリディに突入します。

皆がお休みに入るし、僕自身色々と出かける予定が入っています。
というよりも何よりも一刻も早くP-0sを手元に置きたい、もう、これ
以上辛抱ならない状況です。

時計を見ると夕方の5時過ぎ。気が付くと電話をかけている自分がいま
した。「今から取りに行きます!、場所はどこですか!?」

【オーディオに目覚める】

僕の実家は電気屋ということもあり、幼少の頃からオーディオに親しん
でいました。父親がやはりオーディオ好きですし、その影響はあると思
います。

しかし、恵まれている環境かと言うとそうではありません。
家にあるものは全て、もう、お客様が要らなくなってしまった下取り品
ばかりです。

中学生の頃の僕は、友人達が流行のミニコンをお年玉を貯めて買ってい
くのを羨ましく見ていました。

僕は、親がコンポを買わせてくれなかったのです。
「立派な装置があるのに何故買わなくてはならないのか」と。

友人達と僕の装置の決定的な違いはレコードプレーヤでした。
彼らはマイコン制御・クオーツ制御、何と言ってもカッコいいし便利。

僕のと言ったら、ただのターンテーブル。自分で針を乗せなくてはいけ
ないし、演奏が終わったら自分で針を戻さなきゃならない。

スピーカーも見てくれが非常に悪い父親の自作。でも、今考えると友人
達よりもなかなかグレードのいい物を使っていたようですね。

スピーカも仮想同軸のトールボーイでしたし。
子供にはその良さは分からない。^^;

その頃、装置を換えたり(下取り品なので頻繁に変わりました)、スピ
ーカの置き場所や置き方を変えると音楽の表情がガラっと変わることを
知り、「音楽をもっと心地良く楽しみたい!」とオーディオの奥の深さ
に夢膨らむ希望を持ったのでした。

【CDとの出会い】

高校生になると、世の中にCDなるものが登場しました。夢の音楽メディ
アと騒がれ、欲しくて欲しくてしょうがありませ。

電気屋へ(ウチではない ^^;)行っては憧れのCDプレーヤに触れて、
ヘッドフォンで聴いては「なんと澄んだ音なのだろう」と感動していま
した。

そうして暫くすると丁度今のSACDのように廉価版が出てきました。
高校生でも手の届く価格でしたので早速購入しました。最新機器は下取
り品が出てこないということが幸いしました。

生まれて初めて自分で選んで自分で購入したオーディオ装置です。
当時の僕にはやはりCDの方が音が良いように感じられ、また当時の資金
力ではレコードなんて数枚しか所有していませんでしたから完璧にCD派
になりました。

【潜在意識】

何とかCDを心地良く鳴らしたい、その思いが強く、社会人になってから
は自分で自由に使えるお金ができたこともあり少しずつオーディオに投
資していきました。

今でもそうですが、昔から、CDプレーヤとアンプだけのシステムです。
そうしてその間も色んな試聴会に出かけては自分はオーディオに何を求
めているのかを模索しました。

その中で幾つか「超感動」の演奏がありました。自分の求めているもの
は「その演奏」なのです。
「その演奏」が強烈に僕の潜在意識の中に残っています。

【P-0s with VUK-P0との出会い】

P-0の存在は発表当時から憧れでしたが、自分とは縁の無い世界のもので
あることも事実です。

それに僕のシステムをみると、昔感動した音楽を奏でてくれたシステム
の中の1つに大分近い価格にまでなっているのです。

このシステムであの感動を再現できなければ、これ以上オーディオに投
資する意味も無いと思っていました。

しかしある日、ダイナミックオーディオの川又さんのメールにP-0s、
最後の50ロット販売のニュースがありました。

何故か心が揺さぶられました。

やはり人間、最後のものには弱いようです。フロントを変えれば、あの
感動の音に出会えるかもという淡い期待と、現有CDの300枚を後生大事
に再生するには今この最後のP-0sを手に入れなければ後悔するのでは
という思いが生まれました。

【悩みに悩んで】

しかし、悩みました。悩みのネタは尽きません。

まず1番は「果たして自分にP-0sを受け入れられるだけの器があるのだ
ろうか?」ということです。

P-0sを持つにはそれだけの度量が無ければ意味がありません。

一種の強迫観念です。P-0sを所有してしまうとその強迫観念が付きまと
い、音楽に没頭できなくなるのではないかとの不安です。

何度も自問自答しました。今のシステムのバランスを崩す必要があるの
か?P-0sを入手するとやはりそれに見合ったアンプ、スピーカーが欲し
くなるだろうし。

しかし川又さんの「一生モノですから」の言葉で気持ちがすぅ〜っと楽
になりました。

そうなのです、焦る必要は無いのです。

何10年かかってもいいから、自分の納得できる音楽を奏でられるように
なればいいのです。

次に悩んだのがP-70の存在です。本当に自分はP-0sを求めているの
だろうか?過去にP-0sの演奏聴いた限りは求めている音です。

しかしP-70でも十分満足できるのではないか?というkoとです。

しかし、どうあがいてもアメリカでP-70をちゃんと試聴できる環境は
なさそうですし、次に日本へ行く予定は2003年の3月過ぎです。

ここでも川又さんの言葉が意思を固めてくれました。

「3月過ぎにはもうP-0sは入手できないかもしれません。P-0sとP-70を
比べるとやはり全然違います」

次に悩むのは資金。

アメリカ在住のために日本のローンが組めません。幸い、コツコツと貯
めていた結婚資金が丁度P-0s代金分あります。彼女もいないのに結婚資
金も無いでしょう ^^;

買えてしまうということは分かりました。そして最後に最大の難問、
DACをどうするか?が残ります。

【P-0sの伴侶】

それからはDAC選びの日々が始まりました。
使っているCDプレーヤ、LINNのIKEMIと同等以上のDACでなければせっか
くP-0sを手に入れても音楽を楽しめません。

それに、清水の舞台から飛び降りる思いでP-0sを購入するわけですから
DACに対する予算も限られてます。

将来買い替えをすることも考慮に入れると高い出費は無理です。
色々試聴しましたがIKEMIを超えるものになかなか出会えませんでした。

IKEMIの素晴らしさをつくづく実感させられた日々です。
ようやく白羽の矢を立てたのがMarkLevinsonのNo.360S。
中古で格安で入手です。
Digital CableにはとりあえずXLOのReference 2を$160で手に入れて
IKEMIとNo.360Sを繋いでP-0s受け入れのためにエージング開始です。

【P-0s納入】

受け入れ態勢を整え、ようやくP-0s with VUK-P0の発注です。
予約は入れてましたので発注と同時に発送していただけました。

毎日毎日運送業者のホームページで荷物のトラッキングです。
思いのほか早くロスに到着したところまでは良かったのですが、
そこから数日間進捗なし。

イライラが最高潮に達した頃に運送業者から電話が。
「今、関税の手続きやってるんだけど、CDトランスポートって一体
何者?」う〜ん、税関には「CDトランスポート」という品目が無い
らしい ^^;

ぎこちない英語で説明して無事関税手続き完了。
ちゃんと意味が通じたのか不明でしたが荷札にはしっかりと
「(Music) CD Player without DA Conveter」と書いてありました。

そして待ちに待った到着の日、クリスマスイブ。

いそいそと運送業者のオフィスまで取りに行き、屈強そうなお兄さん
に車に乗せてもらいました。

急いで家に戻り、P-0sを車から出そうとしたところ、、、持てない
、、、一人ではテコとも動きそうにない。

ましてはアパートの2階まで運べるとは思えない。
ほとほと困りました。しょうがなく未だ仕事中の同僚に応援を頼んだ
のでした。

【いよいよ音だし】

同僚と一緒にいよいよ音だし。
しかし内心では凄く期待に胸が膨らんでいるのに「未だ冷えてるし、
輸送ストレスも凄いからまともな音は出ないよ」と言いつつ音楽を再生。

興奮のあまり、何を再生したのかも覚えてないくらい、立て続けに再生
していきました。

しかし、自分で口で「まともな音は出ない」といいながら、本当にまと
もな音が出なくてちょっと目の前が真っ暗になりかけてしまいました。

しかし遥々太平洋を越えてやってきたP-0s、お疲れなんでしょう。

寒かっただろうし。ということで有無を言わさずシバきCD(システム
エンハンサー)をオートリピートです。^^;

【IKEMIを超える日】

数日が経ってようやく期待していた音楽が流れ始めました。

気持ちが良く脳味噌がトロけそうです。

しかし、まだまだ実力の20%くらいしか出してないようです。
試しにIKEMIに戻してみたところ、IKEMI、素晴らしいです。

音楽がノッてます。渋いところはとてもシブいです。

くらべてP-0sは、くっきりと綺麗に出して響きも素晴らしいのですが、
音楽として聴いてて楽しいのはIKEMIの方です。

アメリカのちゃちな作りのアパートのためルームアコースティックが
最悪なのが原因でしょう。

P-0sの方が音の芯があり、響きやエコーも美しい(ようだ)。
これを、劣悪なルームアコースティックが耐え切れずに、わんわんと
酷く増強しているようです。

「やはり僕にはIKEMIがベストなのか」
との思いが一瞬脳裏をよぎりましたが、ここは僕にとって仮の住まい、
日本に帰ってからしっかりと対策を採れば、もう本当に素晴らしい演
奏が聴けるという思いを強くしました。

そして、ようやくP-0s導入から1ヶ月あまり。

いつもの様に音楽を聴きながら脳味噌をとろけさせていたところ、
突然ふっと「おや何だ? IKEMIを超えたか?」という瞬間がやって
きました。

海を渡ったストレスはよっぽどだった様ですね。^^;

そして、これで音は落ち着いたと見切ってスピーカのセッティングを
触りました。今は、深く沈みこむような音場の中に、各楽器が密度の
ある音色を持って存在しています。

もう気持ちが良くて毎日、一日3〜4時間は音楽に浸る生活を送ってい
ます。

【システム】

CDトランスポータ: エソテリック P-0s with VUK-P0
D/Aコンバータ: マークレビンソン No.360S
パワーアンプ: 47研究所 Model4706 + Model4700-50 x 2
スピーカ: ウィルソンベネシュ ディスカバリー
ディジタルケーブル: XLO Reference2 4A
インターコネクト: キンバーセレクト KS-1020
スピーカーCable: P.A.D. Colossus Sig. bi-wire
ACケーブル(P-0s): ACデザイン ZERO
ACケーブル(Model4700): シナジスティックリサーチ
           Reference AC Master Coupler X ser. w/ AS




HAL's Hearing Report