《BRASS SHELLレポート》


No.0105 - 2002/9/4

長野県上伊那郡 Y・K様より

私の座っているソファーの前方約2mに等身大のジェシー・ノーマンが
すっと立っている、そんな感覚でHAL7階・川又ルームでの初めての
音楽体験は始まった。

もっとも本物のジェシー・ノーマンは100Kgを越す体格だから、
ふたまわりくらいコンパクトになっている。自分のシステムで同じ曲を
聴くと、ビックマウスとまでは言わないもののどうしても音像が大きく
なり気になっていた。

でも、今は違う。まさに人間の唇から音楽が発せられている。

そして、その発音の明瞭なこと。自分の聞き取り能力が向上したかの
ような錯覚を覚える。曲の最後で、伴奏のピアノの音が静かに消えて
行くが、ペダルからそっと足を離すその瞬間まで余韻が漂う。

自宅で同じ曲を聴き直してみた。確かに意識して聴けば同じ様子が分かる。

しかし、HALでは何も意識することなくそれが自然に聴き取れた。


当日、私はかなり緊張していた。
これから出向くのはあの川又ルームである。

オーディオ歴は長いものの自分の耳にさして自信があるわけではない。
自分から試聴をお願いしたにもかかわらず、逃げ出したいような気持ちを
どこかで感じながら5555・7階のドアをくぐった。

川又さんはコンピュータに向かい仕事中だった。用件を告げると仕事の手を
休め、「気楽に聴いていってください。」と言いながら試聴室の一番奥、
オリジナル・ノーチラスの前の席に案内してくれた。

いつものクセで、少し前のめりに腰を掛けた。自宅では椅子がやや高いため、
トゥイータに耳の高さを合わせるためにいつもそう座るのだ。

「背もたれにもたれてリラックスして聴いてください。その位置でベストな
ように調整してありますから。」

川又さんが穏やかに声を掛けてくれた。
言われるままに体重を後ろに移していく。
その時、今までにない経験をした。

まるでカメラのオート・フォーカスが合うかのように音のピントが合って
いくのだ。確かに雑誌で「位相」ということを読んだことはある。

しかし自宅では、少し頭を動かしたくらいでは音の変化を感じることはない。
自分の耳に自信を持てない理由の一端はこの辺にあるのだが、今日は違った。

はっきりわかった!

川又さんはP0sとマランツSC−7S1のリモコンの操作法を教えて
くれると、仕事の戻られた。自宅から持参したCDを次々と聴いた。

前述の「おもいでの夏〜ジェシー・ノーマンmeetsミッシュル・ルグラン」
(PHCP11193)がその最初だった。

どのCDを聴いても驚きの連続。弦楽器再生の誉め言葉に「松ヤニの飛び散る
ような・・・」という表現が使われるが、今ここで鳴っている音が正にそれ。

この音に比べたら今までの「松ヤニの飛び散るような音」って何なのかと感じ
てしまうほどだ。自宅で聴いていつも不満に感じるのはティンパニーの打撃音。

生演奏では立ち上がりの良い低音がかっちりした輪郭を持って聞こえるのに、
自宅のシステムではどうしても音がぼやけ不明瞭になってしまう。

試聴にはサン=サーンスの「交響曲第3番ハ短調 オルガン付」(小林研一郎
指揮・チェコ・フィルハイモニー/PCCLー00363)を持参した。

最終楽章でパイプオルガンの奏でる重低音の中、ティンパニーが連打される。

「すごい!!」としか表現できない。

地の底からわき上がるような低音が身体全体を包み込む。爽快!!

私はこの日、「秘密兵器」を一枚持参していた。そのCDとは、つい数日前
サイトウキネンファスティバルの室内楽演奏会で聴いたバッハの「2つのヴァイ
オリンのための協奏曲ニ短調」。
もちろん演奏者は異なるが・・・。

今まで何回も自宅でこの曲を聴いていたが「良い曲」以上のものではなかった。
しかし、生演奏を聴いて認識が変わった。「とても面白い!」他の弦楽器の伴奏
に支えられ、2台のヴァイオリンが時には主旋律をまた時には副旋律を交互にひ
いていく。

聴いていてスリリングでさえあった。自宅の帰ってからもう一度このCDを聴い
てみた。やはり面白くはない。理由がわかった。

2台のヴァイオリンの定位が今ひとつ不明瞭なのと音色のわずかな違いを描き
分けられないので、2台のヴァイオリンの息を飲むようなやりとりが感じられ
ないのだ。

すでに何枚ものCDを聴いてきたので、このCDが「秘密兵器」足り得ないこと
はわかっていた。

しかし、実際に演奏が始まると正に演奏会で聴いたあの楽しさが再現された。

2台のヴァイオリンが中央やや左側に少し間隔を置いて定位する。
音色の違いがはっきり聴き取れる。幸せな気分に浸った。

こうして聴かせて頂いた音を文章で表現すると、伝えたいことの10分の
1も書き表せない。
もどかしさだけが残る。
やはり自分自身で確かめるのが一番だ。

最後に、このような素晴らしい機会を与えてくださった川又店長に、心から
お礼申し上げます。



HAL's Hearing Report