《HAL's Hearing Report》


No.0089 - 2002/4/14

大阪府吹田市在住 T・N様より

川又様

昨夕は突然の闖入にも関わらず長時間おつきあいいただきありがとう
ございました。

モノレールで空港に向かいながら、音の記憶を「反芻」し、自宅に帰って、
聴くだけヤボ、無駄、むなしくなることはわかりつつも、自分のシステムを
聴いてみて、自分の希望する方向がわかったように思いましたので報告します。

昨夕は、川又さんの「いきなりJEFFとGOLDMUNDを比較試聴したいと言われて
も無理がある。まあ今日は楽しんで帰って下さい」という言葉を意識しつつ、
試聴させていただきました。

胡桃割は、大学のオケと、ピアノの連弾と、両方で弾いた経験がありますので、
どちらが楽しかったか、「乗れたか」といえば、やはり、どんどん前に出てく
るという点と、なじみのあるオーディオの鳴り方で(といったら怒られそうで
すが)抵抗なく聴けたという点で、やはりシグニチュアでした。(心はノリノ
リで体が動いてしまいましたので)

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これからの試聴で重要視するテストCDとして、チャイコフスキーバレエ音楽
《くるみ割り人形》op.71 全曲 サンクトペテルブルク・キーロフ管弦楽団、
合唱団指揮: ワレリー・ゲルギエフ CD PHCP-11132 \3,059(\2,913)
録音:1998年 8月バーデン・バーデン[DIGITAL]を多用していくつもりです。
本文中の「胡桃割」とは、このディスクを意味するものです。(川又)
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ただ、聴き終わった時点で、もう一度聴きたい、と思ったのは、既にオリジ
ナルノーチラスの方でしたし、自宅で同じ部分を何度か聴いてその思いは
ますます強くなりました。

なんでそんな彼方から、と思うようなところから聴こえたトライアングルを
典型に、本当に広く、深いステージから、オーケストラ総譜を書きとれそう
なほどに個々にくっきりきこえる楽器の音を聴いて、レベルの上下というよ
りは、別次元、別パラダイムの世界に、すごい、と思いつつも、戸惑いを
感じたというのが正直なところです。

そして、聴き終わった直後は、曲が胡桃割ということもあったと思いますが、
「精巧なジオラマおもちゃ箱を覗いたみたい、生オケはこんな聴こえ方は
せんわな」、という違和感がありました。

それなのに、なぜ、もう一度聴きたいのがオリジナルノーチラスの方なのか、
を考えながら、自宅のシステムを聴くうちに、大学のオーケストラ部に入部
してはじめての「全奏」の日のことを思い出しました。

私はチェロの初心者として入部したので、弦楽器の中央の最後部で弾いてい
たのですが、それまでは、家のステレオで、「群、かたまり」としてしか
聴いていなかった、木管、金管、打楽器等の、色々な音色が、自分の背後の
あちこちから、キラキラと聴こえてくることの驚き、そして、同じフレーズ
をユニゾンで吹いていても、楽器と奏者に明確な個性があり、あるいはそれ
を競い合っていること(好き勝手が許される学生オケならではですが)が
伝わってくることに新鮮な感動を覚えたことを、なつかしく鮮やかに思い
出しました。

「精巧なジオラマおもちゃ箱」という違和感が、むしろ「いや、ああいう
聴こえ方しとった、ステージの上で後ろから聴こえてくるラベルやバルト
ークの管楽器や打楽器は、あんな風に聴こえてすごく面白かった」こと、
そして、「金管楽器や打楽器がガナリたてている時、木管が、そして
チェロの自分も、お客さんには届かないだろうなと思いつつも、自分たち
に与えられたメロディ、フレーズに思いを込めて弾いていたこと」を思い
だしました。

オリジナルノーチラスから聴こえてきた、バスクラ(だったと思うので
すが)やファゴットのなんとも言えない弱音の表情、複数の音が聴こえる
ユニゾン、シンバル奏者の色々な奏法、Tuttiでも聴こえてくる
木管奏者のブレスとフレージング・・・。

学生時代のわずか3年の間ではありましたが、オケの舞台の上で聴いた、
コンサート会場の観客席で味わうのとは全く異なる、あの異質な経験、
感動を、もう一度味わいたい、それが私がオーディオに求めているもの
ではないか、という気がしました。

そして、少々妙に思われたかもしれませんが、20世紀のオーケストラ
曲とならんで好きなのが、女性の歌曲である理由もわかったような気が
しました。

私は、ジェシーノーマンとグルヴェローヴァが大好きで、子供ができた
30代半ばまでは、来日の度にコンサートに行っていました。

そして、その度に圧倒されたのは、ジェシーノーマンの巨体から発せら
れるとてつもない声量や、グルヴェローヴァの超絶技巧ではなく、ジェ
シーノーマンがアンコールで自らピアノを弾きながら歌ったアメイジン
ググレースや、グルヴェローヴァが手振りを交えながら歌った(語った?)
こうもりのレチタティーヴォの、タイプは違いますが、ささやくような
声で歌うフレーズの喉の奥で鳴っているような声、というより音の
「ニュアンス、雰囲気」の豊かさでした。

2000人もの聴衆と一緒に、息をひそめて、その雰囲気と澄み切った空気
に酔いしれることの鳥肌がたつ凄さは、何ものにも代えがたい感動でした。

胡桃割の前に、歌曲を聴かせて頂いた際に感じたのも、そんな空気だった
ように思います。


オーディオ店に足を運ぶ時間がなかなかなく、ディスカバリー購入後、
8ヶ月にわたって、自分のオーディオと、ステレオサウンド等の情報だけ
をたよりに自分の求める音探し、それがイメージできず悶々としており
ましたが、昨日のわずか1時間あまりの試聴と、川又さんの示唆と、その
反芻によって、一挙に自分の求めるものが見えたような気になっています。

そのイメージが本当に自分の求めるイメージなのかどうか、思い返すうち
に勝手につくりあげた虚像に過ぎないのかどうか、是非近いうちに、もう
一度オリジナルノーチラスを、今度はCD持参で確かめさせていただける
ことを心から願っています。

ただ、一介のサラリーマンである私には、そして結構ディスカバリーが
気に入っている私にとって、また、冬のボーナスはCDプレイヤーの買い
換えに充当したい私にとっては、どんなに背伸びをしても、ゴルドムン
ドの27、28、JEFFのシナジー、モデル10が精一杯です。
(一方で、サラリーマンの第一のゴールである、役員になれるときがも
し来た場合の自分へのご褒美がはっきりしたことは、そして、その音も
デザインも素晴らしく個性的なスピーカーが、がんばれば手の届く価格
にあることがわかったことは、厳しい逆風下でも頑張ろうという大きな
はげみになりましたが)

今回新装なったHALをお訪ねして改めて感じましたが、小ネタに色々おつ
きあいいただいていることを少なからず申し訳なく思っています。
毒喰らわば・・の精神で今しばらくおつきあいいただければと思います。

よろしくお願いいたします。

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              (川又より一言)

T・N様、本当にありがとうございました。
確かに私のフロアーにはウン千万円のシステム、そして数百万円の単品
しか展示していないので、皆様のご要望にこのフロアーだけを使ってと
いうことでは万全の対応ができないことは百も承知しております。

しかし、このFour Fiveの各フロアーの構成を白紙から作り上げる過程に
おいて、そのようなケースに対応すべくH.A.L.2を階下に設けて個別試聴
に対応するように致しました。どうぞ皆様も価格レンジにとらわれず、
このH.A.L.をご利用いただければと思います。

そして、もっともありがたいお言葉が「それが私がオーディオに求めて
いるものではないか、という気がしました。」というように皆様の進む
べき方向性がここH.A.L.での体験から発見して頂けたという事実です。

啓蒙活動がハイエンドオーディオに関して最も重要であり、それを提示
できるだけのクォリティーを店頭での演奏に求め追究していくという
ことが私たちのショップ、いや全国のオーディオ店に求められている
ことだと思います。それを、どの程度の情熱で実現していくか、それが
皆様にとって価値のある店作りという指標になると思います。

どうぞ皆様、“良い店”を選んでください。<m(__)m>


HAL's Hearing Report